合気和円流・中川靖子⑦「いよいよ、薙刀、強いのか?」最終回

最後の戦いは、「薙刀」です。
「薙刀、最強とは、本当でしょうか。そして靖子は、勝てるのでしょうか。
これで、最終回です。長い物語を読んでくださり、ありがとうございました。
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合気和円流・中川靖子⑦「いよいよ、薙刀、強いのか?」最終回


最後、薙刀を残すのみとなった。
5分の休憩である。
靖子は、雲竜のところへいって、水筒の冷茶をもらった。
「薙刀の人には、負けても仕方ないぞ。」雲竜が言った。
「これから戦うのに、水を差すようなこと言うんですか。」
「水を差しても、差さんでも、次の人には逆立ちしても勝てん。」
「そんなにすごい人なの。」
「背は、148cm。体重42kg。52歳。女性。
 ところが、いったん薙刀を持てば、怖いのなんの。
 薙刀全日本選手権20年連続優勝だ。」
「わあ、怖いなあ。」
「負けてもやむなしと言われた方が、気が楽だろう。」
「そうね。絶対勝てより、まし。」

審判が出てきた。
「本日最終戦。薙刀、藤村早苗。」
早苗が出てきた。
会場が、拍手と共に、わああと言った。
今までの選手より、数段小柄であり、年配であったから少し安心したのだ。
「和円合気流。中川靖子。」
靖子が出ていくと、大きな拍手が起こった。

アナ「あの方はどんな方ですか。」
高木「この選手の順番を考えた方に、脱帽です。
   靖子さんが負ける人を、最後にもってきました。
   途中なら、そこから、靖子さんは出られなくなりますから。」
アナ「では、強い方なんですか。」
高木「強いなんてもんじゃありません。雲竜先生ともう一人の『神』です。
   その神が、武器の中で最も優れていると言われる薙刀を持っておられる。
   これ以上の恐怖は、ありません。」
アナ「怖いですね。
   でも、靖子さんは、これで、全員と試合ができる訳ですね。」
高木「はい。そうです。この8番勝負の最後に藤村さんとできるなんて、
   なんだか感動的です。」

競技用薙刀の棒の部分は、約1m、カーブしている剣先は、
反ったしなやかな棒でできている。これが、やく50cm。
ここは、本来剣であるので、握ったりはできない。
真剣では、ここが刃になる。棒との境目に小さな束がある。
剣の部分で面や胴、小手を取る。それだけで怖いのに、
棒の部分で、脚を払われる。
剣道、棒術の技を、薙刀1つで、賄える。
普通、選手は、剣道並みの防具を付けるが、
この8番勝負では、今までの対戦通り、防具を使わない。

会場で、パンフを呼んだ人が騒ぎ出した。
「薙刀の藤村さんて、とんでもない人だよ。
 剣道9段、棒術8段、薙刀10段。
 薙刀全日本選手権20年連続優勝。
 薙刀の「神様」と呼ばれている。」
「ひえ~。」と周りは、腰を抜かしそうだった。

藤村早苗と対峙した靖子は、それだけで倒されそうになった。
『使いたくなかったけど、お祖父ちゃんから大会向けに教わった、
 特別奥義を使おう。』
靖子は、「竜眼飛翔」(りゅうがんひしょう)と3度唱えた。
すると、ぱあっと視界が開け、
藤村に気を取られ過ぎて、周りが見えなくなっていた自分に気が付いた。
「水流鉄火」に相当する技だ。動体視力が2倍になり、体が半分の重みになり、
移動が自由自在になる。

藤村は、靖子を見て、「あら?」と嬉しそうな顔をした。

「はじめ!」の声がかかった。

藤村が、「面!」と言って突いて来た。
競技なら、首を横に曲げて防具で受ければいいが、真剣が前提である。
後ろに下がれば、2段突きが来る。だが、『全てが見える。』
靖子は、ただ一つの逃げ場所、半回転して、面を避け、
藤村の真横に、1歩肘をつき、藤村の戻る棒を、両手でつかんだ。
それを見て藤村は、また、ちらとうれし気な笑みを浮かべた。

藤村は、靖子に握られている棒を、トンと地に差し、
棒高跳びのように、後ろに飛んだ。
その華麗な技に、会場は大喜びで拍手した。
靖子も、拍手したい気持だった。

両者は振り出しに戻った。
藤村は、同じく面を取りに来て、そのとき右から足払いの棒をくり出していた。
靖子には見える。
右に避ければ、相手の思うつぼ、
左に避け、相手の棒が空を払ってくるときに、藤村の腕を取って、投げを打った。
藤村は、宙に体を浮かせた。
観客は、わああああああと叫んだ。靖子への声援である。

攻撃は、連続に打たねばならない。
藤村の体が宙にあるうちに、腕固めを取りたかった。
だが藤村は、薙刀を差し込み、腕固めを許さなかった。

アナ「藤村さんの突きが見えません。すごいですね。」
高木「それを、見切っている靖子を私は誉めたいです。
   見切って、次の攻撃を考えている。
   藤村さん、きっと喜んでいますね。」
アナ「そうなんですか。」
高木「達人にとって、自分を危うくする技がくるのは、喜びだと思います。」

再び、薙刀と合気流は振り出しに戻った。
だが、そのときの靖子は、ある武神の魂が宿ったかのようだった。

藤村の「面!」が来たとき、剣先とすれ違うように、
靖子は、藤村の肩を取りに前に出た。
見えぬほどの藤村の「面!」とすれ違うなど、あり得ないことである。
靖子は、「竜眼飛翔」のお蔭だと思った。
肩の肩甲骨を指で押さえられると、腕に力が入らなくなる。
藤村は、当然、それを知っている。

藤村は、肩に掛けている靖子の腕を、薙刀を縦にして、
ブルンと1回転した。と同時に、棒で靖子をなぎ倒しに来る。
靖子には、見えていた。
やってくる棒を、両手でつかみ、投げを打った。
藤村は、回転の方向に投げられて、宙を飛んだ。
藤村が、宙にあるうちに、靖子は、薙刀を奪い、
藤村が、くるっと前転の受け身を取っておき上がったところを、
靖子は、奪った薙刀の剣先を藤村の首に当てた。
剣先は、木でも刃のある剣と見なす。
背を取られたら終わりである。

会場に、すごい歓声が上がった。

「参りました。」と藤村は、言った。
観客は、総立ちになって、拍手の嵐だ。

両者、向かい合って開始線に立った。
「中川靖子!」と審判が言った。
お辞儀をした後、靖子は、藤村の元へ飛んで行って正座をした。
「これは、実は、私の勝ちではありません。
 この大会の前に、祖父雲竜が教えてくれた「竜眼飛翔」という奥義です。
 この言葉を3回唱えると、動体視力が2倍になり、体の重みが半分になります。
 水流鉄火のように、死に物狂いで得た奥義ではないのです。
 だから、「竜眼飛翔」は、私の技とは言えません。」
靖子はそう言って、頭を下げた。
藤村は、やさし気に靖子の肩に手をやった。
「あなたは、素晴らしかったわ。
まちがいなく、あなたの勝です。『竜眼飛翔』なんて、雲竜さんが、その場で、
思いついた言葉ですよ。技ではありません。
私を前にして、強い人でも、怖いと思い委縮してしまいます。
そうなると、半分も力を発揮できません。
だから、雲竜さんは、あなたに『おまじない』をくれたのです。
小さい子にアメを上げて、『さあ、百人力のアメだよ。がんばれ。』
すると、小さい子は、アメの力を信じて、がんばることができる。

さっき私と戦った靖子さんが、委縮することなく戦えるように、
「竜眼飛翔」は、アメだったのです。
そして、あなたは、強かった。あれが、あなたの本領です。
そして、私は、30年振りに負けました。あなたにね。」藤村はにっこりと言った。
「本当ですか?」
と言って、靖子は藤村を見て、雲竜を見た。
雲竜は、ピースを出していた。
そして、雲竜は、藤村に頭を下げた。

「ありがとうございました。」と靖子は、藤村に、再度頭を下げて、
雲竜の元へ行った。
「おまじないだって、藤村さんが教えてくださった。」
「靖子は免許皆伝だろう。
 免許皆伝とは、全ての技を体得したということだ。
 もう、それ以上などないのだよ。」雲竜は言った。
靖子は、雲竜の首に抱き付いた。
「うれしい。おじいちゃん、ありがとう。
 お蔭で、藤村さんに勝てた。」
「強かったぞ。今日は、お祝いじゃな。」雲竜は言った。
隣で、雪之介が、うれしそうにうなずいていた。

競技場は、各賞が、渡されていた。

アナ「高木さん。合気和円流の優勝ですが、
   合気和円流が、一番強い格技だと考えていいのでしょうか。」
高木「そんなことは、ありません。
   1つの格技の中で、誰が強いかというのはあると思います。
   しかし、今日のような異種格闘技では、いくつかの偶然と、
   幸運なひらめきなどが、勝敗を決めます。
   ですから、今日は、どの格技が優勝しても不思議はありませんでした。」
アナ「なるほど、そうですね。では、名解説、ありがとうございまし。」
高木「ここに座らせていただき、ありがとうございました。」

薙刀との場面で、視聴率は40%を超えた。
調整卓にて。
チーフディレ「よかったなあ。こんな充実した異種格闘技は初めてだ。」
サブ「出場の方々が、みなさんできた方で、温かい大会になりましたね。」
チーフ「今日解説の高木啓子さん。よかったと思わないか。」
サブ「思いました。お父さんのネクタイを子供がつかむ例え。最高でした。」
チーフ「最後もな、『どの人が優勝しても。不思議はなかった。』と言ってくれた。」
サブ「そうです。その通りなんでしょうね。」
チーフ「今日は、大入り袋だな。」
サブ「飲めますね。」
二人は笑った。

靖子の家族。ご馳走の前で、
母郁恵「もう、今日は、寿命が縮んだわ。おじいちゃん、もう引き受けないでね。」
父武史「靖子は、どうだ?またやりたいかい?」
靖子「今は、2度と嫌だって思ってる。でも、時間がたったら、わからないわ。」
雲竜「それでこそ、わしの弟子じゃ。いくらでも、せい。」
靖子「あの薙刀の藤村さんね、『これで、30年ぶりに負けたわ。』っておっしゃったの。
   30年前に、藤村さんを破ったのは、だれかしら。お祖父ちゃん、知ってる?」
雲竜「知っておるとも。自慢になるから黙っておったが、わしじゃ。」
一同「ひえ~。」
雲竜「彼女が19歳のときだ。わしの道場まで、道着姿で、薙刀を持って、
   やって来た。
   『私を投げて下さい』という。
   いい目をしておった。
   「もう、敵がおらんようになったのじゃな。」と聞いた。
   「違います。強くなれません。」と彼女は言う。
   わしは、彼女と試合い、瞬時に彼女を投げた。
   彼女は、うれしそうにしてな、それから、7回ほど投げた。
   そのとき彼女は、膝を付いて言う。
   『三重からきました。一言ご教授を。』という。
   そこで、わしは、『相手と気を一にすれば、怖いものなしじゃ。』
   と教えた。彼女は、長い間悩んで来たのだろう。
即座に、その意味を理解した。
それから、彼女の無敗の日々が始まった。」
靖子「わあ、そういう方だったのですね。
   藤村さんは、私がいい技を出したとき、いつも笑顔を向けてくれました。」
美奈「30年前に、お祖父ちゃんに負けて、30年後、お姉ちゃんに負けたのね。」
父武史「何か、運命を感じるな。いい話だね。」
雲竜「というわけで、靖子はまた異種格闘技をしなさい。」
母郁恵「おじいちゃん、すぐはだめよ。あたし達身が持たない。」
靖子「あたしもだめ。気が持たない。」
雲竜「そうか。身も気ももたないか。それでは、無理じゃの。」
あはははは・・と、みんなは笑った。

(因みに、出場者の順番を考えたのは、雲竜である。)

<おわり>

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合気和円流・中川靖子9段⑥「棒術・強し!」

最後まで、一気に書こうと思いましたが、
8ページを超えてしまいましたので、棒術と薙刀を分けました。
棒術は、少し短めです。
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合気和円流・中川靖子9段⑥「棒術・強し!」


丸いマットが取り払われ、畳も取り払われた。
棒術の江波真一が、棒を持って立った。
坊主で、白い上着。下は黒の袴。
小柄で可愛い顔をしているが、運動神経の塊のように、精悍な雰囲気を漂わせている。
宝蔵院棒術、上から3番目の高段者である。
そして、靖子も棒を持って現れた。
武器を持った靖子を初めて見る。観客は、大喜びだった。

「わあ、かっこいい。靖子さんは、棒術もできるんだ。」と近藤美咲。
「7段から、棒術を習うの。その前に他で棒術を習うの。
 靖子さんは、あくまで合気としての棒術。かなり違うよ。」と松村紀子。

江波真一は、観客サービスとばかりに、
棒を左右にプロペラのように回し、体の周りに棒を絡め、
くるくると棒を回して見せた。
靖子も同じように、棒をプロペラのように回し、
体の周りに棒を巻き付けて、棒を両手で持ち、構えの姿を決めた。
終わりが近づき、靖子も、観客サービスをしたのだろうか。

観客は、大喜びで拍手喝采であった。
棒術で次は薙刀を残すばかりである。
選手の順番は誰が考えたのか。
よく考えてあると、靖子は思った。

二人の棒には、白く丸いクッションが付けられていなかった。
この場合、寸止めの約束であるが、そうはいかないかも知れないと、靖子は思った。

「はじめ!」の合図。

「さあこい。」と江波は言った。
江波は、腰を落とし、棒を槍のように前後に向けた。
一方靖子は、棒を両手で水平に構えた。
「どうだ!」と言いながら、江波は、棒の先で突いて来た。
靖子は、交し、棒の右半分で、江波の首の後ろを押した。
江波が反射的に体を反らせば、棒の左半分で、江波の喉に入れて押す。
うまく行けば、江波は後ろにのけ反る。その喉を押して投げが決まる。
だが、江波は首を押されたまま、棒を横にして、前に転がった。
攻撃は、相手が動いているときに、くり出す。

江波が、前転して、起き上がろうとするとき、アゴが上がる。
靖子は、それを待って、江波が起き上がるときを見た。
江波が、アゴをあげて起きてきた。
アゴを払えば、相手は、エビぞり。
靖子の棒が、江波のアゴに向かった。
そのとき、江波は、自分の棒を縦にして、靖子のアゴ投げを防いだ。

「ああ、怖いなあ。これが合気の棒術か。」
江波は、しゃべりながら戦う。
「さあ、俺は立ったぞ。新たな攻撃だ。」
江波は、立つが早いか、床に棒を垂直に立てて、
棒高跳びのように、空中から、攻めて来た。
あそこから、蹴りに来る。
靖子はとっさに、江波の棒の付け根を、棒で払った。
江波は、棒を倒されたが、うつ伏せに着地し、棒を持ち直し、
びーんと靖子に向かい、棒で突いてきた。
靖子は、棒を立てて、江波の棒を払った。

「これでもダメか。強いな。」
「あなたこそ。」靖子はつられて声を発した。

それから、江波は、棒をプロペラにして、連打を放ち、
あらゆる技を繰り出してきた。
靖子は、棒を当て、交すのがやっとだった。
次第に、後ろに押されている。

江波は、棒を正規に構え、少し息を整えていた。
靖子は、どうすれば勝てるか、見当がつかなかった。
江波をにらんで、棒を横に構えていたが、
何を思ってか、自らの棒を、後ろに転がし、棒を捨てた。

「何か、ひらめいたな。怖いなあ。」と江波は言った。
両者は4mほど離れている。
江波から攻めて来た。
棒の先が靖子に伸びて来る。靖子も全力で向かった。
「えい!」と江波が、とどめの一突きとばかり、靖子の胸の真ん中を突いて来た。
「あ。」と会場の方々から悲鳴が上がった。棒が靖子の胸を貫通したかと思ったのだ。
靖子は、棒が胸を突く紙一重前に、体を右に傾け、棒に脇の下を突かせた。
そして、江波の両肩に両手を置いた。
靖子は、江波の肩をつかむ手に力を入れていった。
江波は力なく言った。
「・・強いな。」
江波は、棒をぶらんとさせた。

「俺の渾身の突きに、向かってくるのか。まいったなあ。」
「合気の棒術では、勝てなかった。」と靖子。
「無手で勝てれば、十分だよ。」
江波は、棒を離し、床に落とした。
そして、膝を折り、うれしそうに「参った。」と、頭を下げた。

会場は、うおおおおおおおおおおおと叫び、拍手を送った。

アナ「江波さんは、どうして棒を離したのですか。」
高木「肩甲骨に、腕の力を無くするツボがあるんです。
   そこを靖子さんに押されて、腕に力が入らなくなりました。」
アナ「それより、最後の激突はすごかったですね。
   横から見ると棒が靖子さんを突き抜けたように見えました。」
高木「普通、渾身の突きに向かっていけません。大変な勇気です。」

靖子は江波に手を出して、江波を起こした。
「俺は、これから無手の人も相手に稽古をする。」
「江波さんが『強いなあ』と何回も言ってくださったでしょう。
 あれ、けっこう励みになりました。」
「そうか。俺の悪い癖だと、みんなに叱られてる。」
「いい癖ですよ。」
靖子は、にっこりした。江波は涼やかに笑った。

(次は、「いよいよ最後、薙刀、強いのか。」です。)


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合気和円流・中川靖子⑤「剣術、難関レスリング」

長いお話し、お許しくださいませ。あと3話で終わりの予定です。
読んでくださるとうれしいです。
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合気和円流・中川靖子⑤「剣術、難関レスリング」


次は、剣道だった。
初めて、武器を持った敵と戦う。
アナ「武器を持てば、3段強くなると聞きましたが。」
高木「棒術と薙刀も、怖いですね。
   合気流は、近衛兵として、もともと刀を持った人を抑えるのが、
   はじまりですから、剣には、比較的慣れています。」

「はじめ!」の合図。

すると、剣の宇藤清大は、右高くに剣を垂直にあげた。

高木「まあ、これは、薩摩の『チェスト―』ですね。
   『薩摩示現流一刀の構え』初太刀で、相手の武器共々、
   切り裂く剣です。初太刀にすべてをかけています。
幕末の動乱のとき、最も恐れられた剣術です。
怖いですね。初太刀を交せなかったら、お終いです。」
アナ「なんだか、怖くなってきました。」
高木「私もです。」

チェストーの宇藤は、木刀を掲げながら、動かなかった。
靖子も自然体で立ち、動かなかった。
その内、宇藤は、「チェストー!」と気合を入れて、向かってきた。
ものすごい気迫のこもった剣が、靖子に向かってくる。
『肉を切らせて、骨を断つ。』靖子は、心でそう唱えた。

剣が右斜め上から、襲ってきた。
靖子は、剣に合わせ、体を斜めにして、交わした。
宇藤の木刀の先が、畳の上を打った。
靖子は、木刀をねじり取り、そこから、宇藤を一投げした。
宇藤は、しばし、大の字になっていた。
起き上がった宇藤は、笑顔でいた。
「いやあ、恐れ入ったなあ。私の初太刀が交わされたのは、何年振りだろう。
 私の完璧な負けです。」
「いえいえ、怖くて、震えていたんですよ。」
「またまた。」と小谷は言って、にこにこと席に戻って行った。
靖子の上着の左右を合わせる紐が、切れていた。

その頃、観客は気が付いて来た。
「負けた人が、にこにこして帰って行く。」
「ほんと、不思議ね。」

アナ「交せましたね。」
高木「靖子さんの胸の紐が切れています。
   それほど、紙一重に交していたんですね。」
アナ「大きく交してはいけないんですか。」
高木「大きく交すと、自分のバランスを崩してしまいます。
   そして、相手に軌道修正をさせてしまいます。」
アナ「なるほど。」

雪之介「雲竜さん。かなり満足しておられるでしょう。
    和円流も合気流も同じ。試合の後、にこにこになる。
    ある意味、勝つことよりも、大切です。」
雲竜「この試合が、靖子を成長させておりますね。
   異種格闘技ならではです。これは、病みつきになりますな。」
二人は、あはは・・と笑った。

次の対戦は、女子レスリングだった。
そこで、畳の上に直径9メートルのマットが敷かれた。
ルールは、観客も競技者もわかりやすいように、
フリースタイル(体のどこを攻めてもいい)とフォール。
これは、両肩がマットに1秒間つけば、負けというもの。
細かいルールは、無しになった。円のマットから出ても、多少はよしとする。

高木ユキ「ミミの一番苦手と思う、レスリングよ。」
ミミ「極芯の人みたいに強そうじゃないけど、
   格技の筋肉とまるで違う筋肉をしてる。」
ユキ「ミミなら、どうする。」
ミミ「まずは、徹底的に投げられてみるしかない。」

選手の大蔵典子は、靖子とは同じ女同士。
男子選手が、すでに何人も負けている。
ここで、女子が勝てば、レスリングの強さがより理解される。
いい試合をしたいと思っていた。

そして、相手は、柔道着であることを第1に思っていた。
襟をつかみやすい。そこから、投げを打つ。
典子は、それが、決まり手だと思っていた。

「はじめ!」の声。
聞こえたが早いか、典子は、靖子の股の間と肩に手をかけ、
高く持ち上げて、靖子をマットに叩き付けた。
うおおおおおおと観客が声を上げた。
体に土を付けたことのない靖子が、初めて投げられた。

典子は、続けざまに、靖子を、持ち上げ、マットに4回叩き付けた。

アナ「高木さん、心配ではありませんか。」
高木「私の6年生で10段をとった超天才の妹が、
   レスリングの人とだけはやりたくないと言っていました。」
アナ「ええ?じゃあ、負けちゃうんですか?今まで勝ち抜いてきたのに。
高木「勝敗は、兵家の常ではありませんか。」
アナ「そんなあ。」

「マットは、思ったより痛くない。」と靖子は思った。

靖子は、投げに投げられていた。
だが、必ず足裏から落ちて受け身とする。
ビーンと典子が両足のタックルに来た。
それは、かろうじて、交わした。
典子は、次第に、靖子の柔道着を利用するようになった。
襟をつかみ、それを引いて、靖子を転がした。
袖をとって、背負い投げを打った。
マットのクッションと受け身を使い、
靖子のダメージは、見た目ほどでは、なかったのだ。

そのとき、典子に、本能的感受性が働いた。
これほど投げて優勢であるのに、蟻地獄に落ちるような恐怖を感じる。
『この人は、このくらいでは終わらない。
 何か怖い物を持っている。』

心配そうに、アナがそわそわしている。
高木「靖子は、合気流の技で勝ちたいだけなんです。
   レスリングの技は、合気流と正反対です。
   だから、合気流の技を出せるまで耐えているんです。」
アナ「そうも思えませんが。」

典子は、靖子の襟をつかみ、何度も靖子を投げた。
しかし、靖子は打たれ強く、いくら投げても起きて来る。
レスリングのハードな練習は、並のものではなかった。
だが、靖子は、それ以上のハードな練習をして来た人だと思った。
典子は、レスリングにない『襟』を使うことで、
レスリング本来の攻撃を少しずつ崩してしまっていた。
典子は、最後の決めのつもりで、靖子の左右の襟を重ね、
両の拳を、上下にして絞るように、靖子の襟に両手を食い込ませた。
そこで、気が付いた。どう投げていいかわからない。
互いの拳が邪魔で、左右に投げられない。
押せば、相手は下がるだけ。
両手でできるのは、柔道の巴投げくらいだ。
両手で握ったのは失敗だったか・・。
もう、こんなに強く拳を食い込ませている。
典子がそう思ったとき、初めて、靖子が動いた。
靖子は、脚を開いて、右肩を低くし、左肩を右肩に被せるように、
少しずつ体を曲げて行った。

典子は、焦燥の色を見せた。
そのときの典子は、靖子の襟を絞めているというより、
靖子の襟にしがみついているのだった。
観客の誰もが思った。『手を離せばいいのに。』
典子だってわかっていた。
しかし、どうしても、握った手を離せない。
なぜ、なぜ、なぜと思いながら、
靖子の体が、典子にかぶさるようになり、典子の両肩は、とうとうマットについた。
1秒後、典子の手は、靖子の襟から簡単に離れた。
靖子は、体のねじりだけで、典子を倒した。

「どうして、握った手を離せなかったの。」典子は聞いた。
「襟を離すと、あなたはマットに背中から落ちてしまう。」
 沈んじゃいけないので、あなたは、余計にあたしの襟に強くしがみつく。
 こうなったら、もう襟を離すことができないでしょう。」
「最後、簡単に離れたのは、なぜ。」
「もう、フォール(両肩を着く)したから、安心して、手を離すことができた。」
「はじめ、あれほどあたしに投げられたのは、なぜ。」
「合気の技では、レスリングには勝てないと思ったの。
 だから、あなたの技を、合気の技に近づけた。」
「あなたの襟を利用したとき、あたしは、合気の技に近づいてしまった。」
「両手で相手の襟を絞めるなんて、レスリングでは、絶対しないし、できない。」
なるほどと、典子は納得した。
最後まで、自分流を崩してはいけなかった。

典子は、靖子と握手をした。
「大切なことを教わった気がします。」と、典子。
「あたしも。レスリングは恐いと思っていた通りでした。」
二人は、にっこりして別れた。

最後、靖子さんの襟から手を離せなかったのは、
   なぜですか。」
啓子「うまく説明できず申し訳ないのですが、
   背広姿のお父さんが、正座していたとします。
   子供が来て、お父さんのネクタイをギューっと握りました。
   子供は、お父さんを捕えた気持ちです。
   でも、お父さんが腰を少しあげました。
   ネクタイはピーンと張ります。
   このとき、子供は、ネクタイから手を放すでしょうか。」
アナ「いいえ。もう少し持っていると思います。」
啓子「背の高いお父さんが、立ち上がりました。子供の体が、宙ぶらりんです。
   子供は、ネクタイを放すでしょうか。」
アナ「落ちるのが恐くて、放しません。」
啓子「はじめ子供は、お父さんを捕まえたつもりが、
   今度は、ネクタイにしがみついていますね。」
アナ「ああ、わかった。典子さんは、途中から靖子さんにしがみついていたのですね。
   だから、手を放せなかった。」
啓子「正確ではありませんが、そんなことだと思ってください。」
アナ「だから、靖子さんは、典子さんが両手で襟をつかむまで、
   ひたすら、投げられていたんですね。」
啓子「言い換えれば、レスリングには勝てないと思ったので、
   典子さんが、合気の技を使うまで、待っていたんです。」

(残すは、『最難関、棒術と薙刀』です。)


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プロフィール

ラック

Author:ラック
上は若いときの写真です。ISなので、体は、かなり女子に近く発育しました。でも、胸はぺったんこです。戸籍は男子。性自認も男子、そして女装子です。アメリカの大学で2年女として過ごしました。私の最も幸せな2年でした。そのときの自叙伝を書いています。また、創作女装小説を書いています。毎日ネタが浮かばず、四苦八苦しています。ほぼ、毎日更新しています。
どうぞ、お出でください。

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