<介護日誌> 第6日 「3つの人形」

<介護日誌> 第6日「3つの人形」


兄は、医学関係に詳しい人です。
母の要介護認定は、「1」でした。
1というのは、介護の必要が、一番要らないというランクです。
1相当の介護は、週に2回、ヘルパーさんが、お風呂に入れてくれることです。
1では、特別養護施設に入れる可能性は、極めて低くなります。

「俺は、母さんは、最低3だと見てる。
 それが、一見愛想がいいし、弁も立つし、
 余ほどの調査員でない限り、母さんの重篤さは、見抜いてくれない。」
兄は、そう言って、要介護の認定の見直しを要求してきました。
それが、やっと実現して、10日程前、調査員が来ました。

28歳くらいの、女性のぱりっとした調査員がやってきました。
黒のスーツ。下はスラックスでした。
髪を後ろで1本に束ねた人でした。

母に付き添って、兄弟みんなが揃いました。
(前回は、姉夫妻だけが付き添ったのです。)
調査員は、質問項目に沿って、パリパリと質問していきます。

調査員は、各質問について、3段階の評価をするそうです。
「できる」1点。「ときどきできる」2点、「できない」3点。
しかし、人間のすることです。
2点にするか、3点にするか、迷うことがたくさんあります。
そこで、一言、家族が、情報提供をすることが、大事なんだと、
兄は言います。

ある質問で、調査員が、言いました。
「その人の顔を見て、お話ができますか?」
「はい。」と母は言って、彼女の顔を見ました。
調査員は、質問票のその項目のどれかに〇を付けたようでした。
そこで、兄が、すかさず言いました。
「顔は見ますが、視野が極めて狭いと思われます。
 詳しく調べてくださいませんか。」

調査員は、そうですかと言って、右耳のところに赤鉛筆を立てました。
「今、何色の鉛筆が見えますか?」
母は、素直なので、調査員の目だけを見ていました。
「わかりません。」と母はいいました。

「もっと詳しく調べてください。」と兄が言いました。
すると、調査員は、ご自分の右目のところに赤鉛筆を立てました。
「何色の鉛筆が見えますか?」
「わかりません。」と母。
調査員は、鉛筆を左目の前に移しました。
同じ質問。
「赤鉛筆です。」母は、やっと答えました。そして、
「赤鉛筆のとなりで、たくさんの線香花火がパチパチ燃えています。」
と、言いました。
「私の顔がどのように見えていますか。」
「私の右目は、あなたの半分のお顔を見ています。
 私の左目は、線香花火が見えます。
 あなたの、お顔の半分は、線香花火です。」母は言いました。

そのとき、調査員は、しばらく考え、いくつかの項目に付けた○に斜線を引き、
〇を書き直しました。

それからも、質問は、続きましたが、
母は、突然、質問と何の脈絡もなく、言いました。
「私の右のポケットあたりには、3つの人形がいます。」
「それは、どんな人形ですか?」
調査員は、現行の質問を棚に上げ、聞きました。
「神様です。私をいつも守ってくれています。」
「いつもいて、見えるのですか。」
「はい、いつもいてくれて、はっきりと見えます。」

母は、その後も質問には答えていましたが、
再び、脈絡もなく、3つの人形の話をしました。
こうして、4回も3つの人形の話をしました。

調査員は、すでに付けてあった○に大幅に斜線を入れ、書き直しました。

面談は終わり、調査員は、帰って行きました。

「今日で、やっと母さんの本当の姿を診てもらえたな。」と兄が言いました。
「幻覚があるって、重篤なの。」
「ああ、極めて重大。
そして、母さんは、あるものに囚われ始めるとコミュニケーションが成り立たなくなる。
3つの人形に囚われて、その後は、質問に答えられなかった。
これを、家族が、調査員さんに言ったんじゃだめなんだ。
調査員さんの目の前で、母さんがその様子を見せないとダメなんだ。
今日は、やっとそれを分かってもらえた気がする。」

「兄さん、よく『視野』のこと言ったね。『するどい!』と思ったよ。」
「ああ、あれな。」
と、兄はにこりとして、あるプリントを見せてくれました。
「兄さん!これ、今日の質問票じゃない。」
と私は、驚きました。
兄は、その質問票の随所に、「視野」とか「囚われ」などと、
メモ書きがしてありました。

「どうして、こんなプリントを持ってるの!」と私。
「あれ?知らなかったのか?俺、認定調査員養成の講師をやってたんだぜ。
部分項目についてだけだけどな。」
「えっー?!」と一同で驚きました。



その日のことを思い出し、
夕食のときに母に聞きました。

「母さん、いつか、『3つの神様が右ポケットにいる。』って言ったの覚えてる?」
「覚えてるよ。」
「今も、いるの?」
「今は、いないよ。」
「いつ、いなくなったの?」
「Jちゃんが来てくれたときからだよ。」
私は、思わず、顔をほころばせました。

3つの人形とは、
きっと、母が産んだ3人の子供だったのだろうと思いました。
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非公開コメント

切ないような、温かいような、微笑ましいような…キュンとして涙が出ました。

お母さまはラックさんと一緒にいて、とても安らぎ、幸せなんだろうなぁと思います。

素敵なお母さまですね。

No title

まみさん。

3つの人形が、母の3人の子供だと思ったとき、
私も、うれしいような、切ないような気がしました。
子供がそばにいてあげられなかったので、
母の願から発せられた幻覚だったのです。
我ながら、少し泣けてしまいました。
プロフィール

ラック

Author:ラック
上は若いときの写真です。ISなので、体は、かなり女子に近く発育しました。でも、胸はぺったんこです。戸籍は男子。性自認も男子、そして女装子です。アメリカの大学で2年女として過ごしました。私の最も幸せな2年でした。そのときの自叙伝を書いています。また、創作女装小説を書いています。毎日ネタが浮かばず、四苦八苦しています。ほぼ、毎日更新しています。
どうぞ、お出でください。

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