スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

倉田洋二の物語④「敬子のラビット」

洋二は、どの部にも属していなかった。
授業が終われば、フリーである。

あるうららかな日、洋二は授業を終えて、
のんびりと西門に向かって、まっすぐな道を、歩いていた。
ワンピース、スニーカー、リュックのスタイル。
髪を左右にゴムで結んでいる。前髪あり。

今は、使っていないグランドで、クラスの女子たちが、
サッカーの真似ごとをしていた。
その中に、洋二が好きでたまらない片桐敬子がいた。

そのうち、こぼれ球が、洋二に向かって転がってきた。
「倉田くーん、お願ーい。」
と女子たちは、叫んだ。
片桐さんのいるところで、かっこよく捕って、キックでボールを返したかった。
「洋二くん、とれるかな。」
「さあ、どうかな?」
という女子達の悪気のない言葉が聞こえた。

しかし、洋二は、転がって来たなんでもないボールを、
トンネルしてしまったのだ。
急いで、ボールを手で拾って、キックで返そうとした。
そのキックも失敗。
自分の真横に飛んでしまい、あわてて、手で取りに行った。
そして、手でボールを投げたが、それが全然飛ばない。
ぽとぽととゴロになって、やっと彼女たちのところへいった。

「ありがとう。」
と彼女たちは言いながら、くすっと笑っていた。

「はあ~。」と洋二は、ため息が出た。
男子なら、誰でも捕れるボール。誰でもキックで返せる。
体育科だというのに。
片桐さんが見ているというのに。
五郎は、落ち込み、歩いて行った。

そのとき、内なる声がした。
『洋二、落ち込むなって。
 いざというときは、あたしが出てくるから。』そう言う。
『あ、君は、あのときの。どうやったら出てきてくれるの?』
『「ここは、絶対」と思ったとき、あたしは、出てくるから。』
『絶対じゃなきゃだめなの。ふつうにじゃ。』
『来るよ。「洋子、出てきて!」って心で言えばいつでも来るよ。』

「ふ~ん。」と洋二は、うれしくなった。
でも、むやみに洋子を呼んではいけないんだろうなと、同時に思った。

歩いていくと、そのうち、空手部の部室の前に来た。
地面に刺した丸太の棒の上部に縄を巻いたものへ、回し蹴りをやっている。
やっているのは、同じクラスの坂田健吾。
坂田は、性格のやさしいいい奴だ。
和同流。白帯だが、段位をもらうことを拒否していて、
実際は、3段の腕前らしかった。
変わった奴だ。

「おう、洋二。来いよ」と坂田が声をかける。
「なあに?」と洋二はそばに行った。
「剣道の笹塚や柔道の近藤はいいよな、お前とやれて。
 空手は授業にないから、お前とやれない。」
「あれは、全部まぐれだよ。」
「何を言うか。俺の目は、節穴じゃないぜ。
 お前のスピードをちゃんと見たのは俺くらいだ。
 そうだ。『初回打ち』をやろう。」

 それは、空手の構えをして、互いに手の甲を密着する。
 その手の甲で、先に相手の額を打った方が勝ち。

それを聞いて、洋二の心の中で、
『あたしにやらせろ!』と洋子がさわいだ。
『いいよ。』と洋二は、洋子に言った。

「安心しろ。俺は、寸止めをする。
 洋二は好きに当てていいぞ。」と坂田は言った。

二人は、体をほぼ横にして、腰を落とし、
手の甲を合わせた。

呼吸を合わせ、にらみ合う。
瞬発力と速さの勝負だ。

坂田が、一歩踏み出した。手の甲が来た。
だが、ややスローモーションに見える。
洋二は、手の指でOKマークを作り、坂田のおでこに、デコピンをした。

横で見ていたものには、一瞬の出来事である。

「洋二、嘘だろ。あの一瞬に指を作って、デコピンかよ。」
坂田は、おでこを擦りながら、
「いやあ、参った。すげーや。笹塚や近藤が負けたはずだよ。」
と言って、坂田はうれしそうに、洋二の肩をぽんぽんと叩いた。

洋二は、さっきの女子のサッカーボールの醜態が、
帳消しになる気がして、うれしかった。



洋二の片桐敬子への想いは、日に日に強くなるばかりだった。
片桐敬子は、背が170cm近くあり、洋二よりも10cm高かった。
クラス1の美人で、マドンナ。
陸上部で、短距離の選手だ。
100m11秒台の記録を持っていた。

クラスの皆は、朝から、ジャージ姿が普通だったが、
敬子だけは、ワンピースや、ブラウスにつり紐のあるスカートを着ていた。
髪は、洋二と同じ、肩までのボブヘアーだった。
そして、前髪の端をカラーのヘアピンで留めていて、
それが、とても愛らしかった。
おしとやかで、動作仕草がとても女らしく、一見か弱い女の子に見える。

ところが、部活になると、短パンにランニング。
100mを走る姿は、豪快そのもので、まさにビューティフルだった。
洋二は、そんな敬子を、心から素敵だと思っていた。

洋二は、授業の帰りに、よく陸上のグランドを見ていた。
陸上部は、球技と違い、一人一人が自分のメニューに従って練習を行う。
だから、みんな一人だ。
敬子も一人で、いつもメニューをこなしていた。
何か孤独と戦っているようで、見ていて励まされる思いがした。
洋二も、自分の特異体質に、一人孤独感に襲われることがあった。
だから、陸上の練習を見るのが好きだった。



片桐敬子は、そのころスランプに苦しんでいた。
高校3年のとき出した、自己ベストの11.8秒を出せない。
記録は下がる一方で、今、11秒台も出せなくなっている。
何がいけないのかわからなかった。
先生たちは、コーチをしてくれるわけではない。
先輩とは、種目が違って、教えてくれない。
敬子は、孤独な戦いにもがいていた。

グランドの敬子を見ていて、洋二はふと思いついた。
「洋子、出てきて。」
「はいはい。」
洋子の声だ。
「洋子、走るの速い。」
「速いよ。」
「あそこにいる、片桐さんより速く走れる?」
「もちろん。」
「あのさ、選手が走るとき、
 横で少し速く走ってあげるとやりやすいって聞いたことあるんだけど。」
「ラビットのこと?」
「あ、そうそう。ぼく片桐さんのラビットになってあげたいんだけど、
 そのとき、洋子出てきてくれる。」
「OK。お安いご用だよ。」
「片桐さんの欠点わかる?」
「もちろん、1度見ればわかる。」
「じゃあ、その欠点を補うような、ラビットやってくれる?」
「諒解!」
洋子は、そう言った。

翌日の放課後、
洋二は、運動着に着替えた。
上は、白いTシャツ。下は、紺のジャージ。
TシャツをINにした。
(胸のふくらみが目立つのだが。)
洋二は、脚が長い。

洋二は、100mコースにいる敬子のところへ行った。
「片桐さん。差し出がましいんだけど、
 ラビットがいたら、走りやすい?」
片桐は、きょとんとした。

「あ、倉田君。うん。あたしのペースを知っているラビットなら、絶対ありがたい。」
「ぼく、君のラビットになれるかも知れない。
 よかったら、やらせてくれない。」
「ほんと?でも、あたし速いし、陸上部でも、ラビットしてくれる人いないのに。」
「ぼくを試してみて。ぼく、毎日片桐さんが走っているの見ていたから、
 片桐さんのペースも欠点もがわかる。」
「わあ、欠点まで?じゃあ、やってくださる?
 男子が、倉田君、ときどきすごいって言ってた。」
「みんな、まぐれだよ。」洋二は行った。

「じゃあ、何本もやれないから、みんなに頼んで、計時してもらう。」
敬子は、そう言って、1年生の部員を呼んだ。
「敬子以外に、敬子より速い人がいるの?」と部員のA子が言った。
「うん、倉田君。女の子に見えるけど、男の子なの。」敬子は言った。
「ああ、知ってる。笹塚と近藤に勝った女の子みたいな子。もう有名よ。」
とB子は言った。

片桐は半信半疑だった。
しかし、ラビットをやってくれるという洋二を断ったら、
洋二が、傷つくと思った。



コースに立った。
「向かい風、0.2m/秒。昨日の片桐さんの記録は、無風で12秒0。
 今日、11秒7で走れたら、最高記録だよ。」
洋二はそう言った。
「うん、11秒7だね。自己ベストは、11秒8だから、7で走れたらうれしい。」
敬子は洋二の言葉に、内心びっくりしながら聞いた。
(見ていただけで、タイムがわかるなんて。)
洋二は言った。
「それから、片桐さん。いつも手を握って走っているけど、平手で走ってみてくれない。」
「うん、意味があるのね。」
「大きな意味があるんだ。」洋二は言った。

A子による「用意。」の声がかかった。
敬子は、金具があるので、クラウチング。
洋二は金具がないので、スタンディング。

バーン!ピストルが鳴った。

洋二は、敬子より体半分速くでた。
敬子は驚いた。
(スタンディングなのに。スパイクも履いていないのに。)
走りながら、さらに敬子は驚いていた。
洋二が、自分の前方2m前をきっちり走っていく。
完全に敬子のペースがわかっている。
洋二の後さえ付いていけばいい。そんな気がした。

30mラインを過ぎた。
洋二は若干失速した。
(倉田君疲れたかな、と敬子は思った。)
「ももを2センチ高く。飛ぶように走れ!
 速く走ろうと思うな!」そう洋二が鋭く言う。
敬子はそれに従った。
ああ、走るのが楽、敬子は思った。

50mを超えた。
敬子は、不思議な感覚にとらわれていた。
前を行く洋二に、自分が吸いついていく感じがした。
若干のオーバーペースだ。
だが、体が洋二に付いていく。

残り70m。
「かかとを付けるな!吐く息を止めるな!」洋二の声。

デッド・ポイントと呼ばれる、一番苦しいところ。
洋二の言葉が、敬子に喝を入れた。

80m地点。
洋二のペースがさらに上がった。
しかし、敬子の脚と腕が、洋二にぐんぐん付いていく。

残り10m。
「フィニッシュをするな!そのまま突き切れ!」
猛烈に洋二が加速する。
敬子の体が付いていく。
ゴール!

「やった!」と洋二は思った。11秒5のスピードで走った。
敬子が、それに付いて来た。いいタイムが出たはず。

時計を見ていた部員のB子は、
「わあ~!」と飛び上がった。
「11秒5!すごい、敬子!」と言った。
「ほんと!」と敬子は時計を見た。
「ほんとだ!自己ベスト、0.3も超えた。わあ~!」
と言って、敬子は洋二を抱きしめた。

「ありがとう!倉田君。」と敬子は、再び洋二をきつく抱きしめた。
洋二は、大好きな敬子に抱きしめられて、天にも昇る気持ちだった。

部員のA子が駆け付けてきて、いっしょに喜んだ。

「ラビットの効果ってこんなにすごいのかしら。」とA子は言った。

敬子は言った。
「ね、ラビット効果だけじゃないでしょう。種明かしをして。」

洋二は、言った。
「う~ん、全体に片桐さんは、肩に力が入りすぎてたから、
 手を平手にして、30mから50mの間を、
 トップスピードを利用して、流すようにしたの。
 その力の温存が、ラビットに付いていけた理由。
 70mの苦しい地点で、フォームが崩れるから、
 かかとを地面につけないことと、
 そこで、息を止めないことをアドバイスしたの。」

「そうかあ、そうだったんだ。
 あたし、まだまだ欠点があるでしょう。」と敬子。
 
「うん。いくつかあるよ。片桐さんの記録は、まだ、0.3秒伸びると思ってる。」
「じゃあ、これる日は、来てくださらない。あたしの最高のコーチって気がする。」
「いいよ。」と洋二は、にこっと笑った。

「でも、倉田君。どうして、陸上部に入ってくれないの。」とA子が言った。
「そうよ。敬子のラビットができるなんて、信じられない。」とB子。
「男子だって、1年生は、あたしより速い人いないのに。」と敬子は言った。
洋二は、にっこりして、
「ぼく、早く家に帰るの好きだから。」
と言って、
「明日また来ていい?」と聞いた。
「うん、うれしい。お願い。」と敬子は言った。
「じゃあ。」と言って、洋二は、照れながら走って行った。

残った3人の内、A子が言った。
「倉田君、毎日グランド見てたよ。
 女の子だと思って気にしなかったけど、
 きっと敬子ばかり見ていたんだよ。
 だから、敬子のことがわかってた。」
「もしかしたら倉田君、敬子のことを…。」とB子。

「今は、そんなこと考えないの!
 私は今、倉田君の親切に感謝する心でいっぱいなの。」
敬子は、少し赤らめながら、そう言った。


つづく
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

ラック

Author:ラック
上は若いときの写真です。ISなので、体は、かなり女子に近く発育しました。でも、胸はぺったんこです。戸籍は男子。性自認も男子、そして女装子です。アメリカの大学で2年女として過ごしました。私の最も幸せな2年でした。そのときの自叙伝を書いています。また、創作女装小説を書いています。毎日ネタが浮かばず、四苦八苦しています。ほぼ、毎日更新しています。
どうぞ、お出でください。

リンク
最新記事
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブロとも一覧

自己女性化愛好症

御中根 蕗菜 です

女装子動画 Japanese crossdresser porn

enma’s blog

瞳のセルフヌード

毎日が日曜日

女装子&ニューハーフのペニクリ&アナルマンコ

MadameM【秘密の手帳】

川*´v`*川し

復讐の芽 ***藤林長門守***

橙の電車
最新コメント
カテゴリ
月別アーカイブ
検索フォーム
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。