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スーパー洋子・桜台高校②「3人・絶体絶命」最終回

長らく再投稿をして来ました。
この作品が終わったら、新作の小品を1つ投稿したいと思います。
読んでくださると、うれしいです。

============================

スーパー洋子 桜台高校〔完結編〕

「夏子さん、あたしの答えがあっているのかどうか、早く言ってください。
 HRの時間以内に、あたしを追い出すと、後ろで木下さんと加藤さんに話していたわ。
 あと、3分よ。」
洋子は優しく言った。

夏子は、口を開くことができなかった。
クラスのみんなは、息を潜めて、成り行きを見ていた。

3分の間、夏子はだまったままだった。
夏子にとっては、地獄のような時間であった。

「夏子さん、時間が来たわ。あ、でも、1時間目は、あたしの英語だから、伸びてもいいか。」
と洋子は言った。

とうとう、夏子は言った。
「問題を写し間違えました。」
「そんなことは、どうでもいいの。
 写し間違えだろが、なんだろうが、
 あなたが、私に解かせたのは、その紙の問題なの。
 あなたが、家庭学習で何をしようと、今は何の関係もありません。
 わかる?

 私は、あなたが私に渡した問題を一応解いたんです。
 私が解いたら、その答えが正しいか間違いか、答えるのが、
 あなたの義務です。これには、私の母の命がかかっているのよ。
 お遊びのつもりだったの?友達2人の退学もかかっているのよ。
 さあ、○なの×なの?言いなさい!」
洋子は、最後の言葉だけ、凄みを聞かせて言った。

木下朱実と加藤ユカは、生きた心地がしていなかった。
万事休すであることが目に見えていた。
今まで自分達がやって来たのは、答えだけを覚え、
難問を先生達に突きつけてきたからだ。
夏子も同じ。答しか知らないことを、2人はよくわかっていた。

夏子はじっとだまっていた。やがて、じんわりと涙ぐんだ。
やっとのことで、
「すいません、わかりません。」夏子は涙をためて、うつむいて言った。
「あなた、さっき自分で解いて、説明もできると言ったわ。みんな聞いていたわよね。」
「はーい、聞きました。」と残り全員が大きな声で言った。

「それは、コピーの方の数式です。」夏子は言った。
「『コピー』?今そう言いましたか?
 さっきあなたは、自分で考えてワープロで打ったと言いましたよ。
 ねえ、みんな。大村さんは、そう言いましたよね。」洋子は聞いた。
「はーい、そう言いました。」みんながにこにこと答えた。

夏子は、絶体絶命であった。
木村朱里と加藤ユカは、すでに、机の上で泣き顔になっていた。

「じゃあ、100歩譲りましょう。コーピーの数式でいいです。
 こっちなら、家庭学習して、自分で解を得たのですね。」洋子は言った。
「はい。」夏子は力なく言った。
「ほんとですね。もう言い直しは聞きませんよ!」
「はい。ほんとうです。」夏子は震える声で言った。

「では、聞きます。あなたは、オクスフォード大学のラッセル博士の『疑問』を、
 どう克服したのですか。」洋子は言った。
思わぬ質問に夏子は、はっとした顔をして、当惑した。
「意味がわかりません。」 
夏子には、他に言葉がなかった。

「お父様から、聞かなかったのですか。」
洋子は、そう言って、教卓から立ち、ゆっくり歩きながら言った。
「夏子さんが、昨夜家庭学習した問題は、
 これまで、何十年と解決不可能とされてきた数式です。
 それを、先月、T大の大村啓介教授が、
 ロンドンの学会で、問題を解き得たかも知れないと、発表されたものです。
 あなたのお父様は、世界の数学者に、その検証を願いました。

 そのとき、5人の博士から、疑問が提出され、
 教授は、そのうちの4つに答えましたが、
 ラッセル教授の疑問に対し、どうしても答えられず、
 今、そのことに日夜没頭されていることと思います。
 夏子さんのいう、X2-ABという解は、まだ、認められていないのです。
 だから、夏子さんに聞いているのです。あなたのお父様でさえ解き得ていないものを、
 どう克服して解き得たのか。その方法を一番聞きたいのは、
 あなたのお父様でしょうね。

 お父様が解き得ていないものを、あなたは、一夜にして、解いたと言う。
 これは、自分が、お父様より天才だということです。
 あなたは、お父様の顔に、泥を塗るつもりですが。娘の方が上だと。
 さらには、この私なら解けると、『期待して持ってきた』とはっきり言いましたね。
 それは、お父様を、一介の英語教師である私以下の数学者だと言うに等しい。
 お父様は、20年以上をかけて考えていらした。それを、この私が、この場で解けると
 期待して持ってきた。
 これが、お父様をどれだけ侮辱する行為であるか、あなたにはわかりますか!」
洋子は、ここだけは、すごい迫力で言い放った。
幼児語を使っていた洋子とは、まるで別人だった。

「何とか言いなさい!」洋子は怒鳴った。
「はい、わかります。」と夏子はとっさに言った。
「何がわかったの!」
「父を侮辱したことです。」夏子は言った。

夏子は、洋子の言葉に、縮み上がった。
そして、洋子の圧倒的な知識の前に、身がすくみ、体中が震えた。
こと数学に関して、生まれて初めて味わう敗北の念であった。
まるで、自分はアリのようなもので、
そのアリが、巨大なライオンに向かっているような思いでいた。
そして、心の底から後悔していた。
自分には、退学の覚悟など、露ほどもなかったのだ。
それが、今、思ってもみない現実になりつつあることを認識し、怯えおののいていた。

「さあ、ラッセル博士の疑問です。」洋子は畳み込んだ。
「説明できません。」夏子は言った。
「また、いい直しをするのですか!今さっき、自分でやったと言ったばかりでしょう!」
洋子は、教卓を叩いて、夏子に迫った。

夏子は、身を震わせ、血の気を失っていた。
「すみません。嘘をつきました。父の数式の展開をコーピーして、
 答えだけ覚えていました。
 内容は、まったく理解していません。」夏子は、わっと泣き出した。

「あなたは、こうやって、今まで5人もの先生を辞めさせてきたのですね。
 自分が解けもしない問題を、答えだけ覚えて、先生に解かせた。どうなの!」
「はい、そうです。」夏子は泣きながら言った。
「木下さん、加藤さん、立ちなさい。あなたがたも、同じですか。」
2人は立って、その通りだと言った。

「では、夏子さん。あなたの負けでいいのかしら。」
「はい。」
「では、席に戻りなさい。」洋子は言った。

「木村さん。加藤さん。座りなさい。異存はないですね。」
「は、はい。」
二人は、泣きながら、うなずいた。
二人とも、洋子の迫力に、恐れおののいていた。

「では、私は、これから、3人の退学の意向を理事長、校長に伝えてきます。
 3人は、帰りの支度をして、呼ばれるまで、教室で待っていなさい。
 やがて、3人は、校長室に呼ばれます。
 校長にはっきり退学の意志を伝え、そこで退学願いを書きます。
 夜、3人の保護者の立会いの元で、正式に退学が決まります。
 3人は、親には謝罪させないと、私と約束しました。
 その約束は、守ってもらいます。だから、3人の退学は、決定も同然です。
 私は、その手続きがありますから、これで失礼します。」
洋子は教室を後にした。

夏子は、机につっぷして、泣くばかりだった。
あとの2人も、約束上、夏子を攻めることもできず、ただ泣くばかりだった。

クラスのみんなは、3人に対して冷たかった。

一人が、たまりかねて、自分の靴を夏子に投げた。それは頭にあたった。
投げた生徒は泣きながら言った。
「なによ、なんなのよ。泣けばいいと思ってるの?
 4月からあたし達は、あんた達のおかげで、
 ろくに授業をうけられなかった。

 あたしたちが、どれだけ迷惑だと思っていたかわかってるの。
 私達の6ヶ月の授業をどうしてくれるのよ。
 どう取り返してくれるのよ。
 私の好きだった先生を2人も辞めさせて、
 どうも思っているのよ。ふざけんじゃないわよ。
 自分達が負けて、終わりなの。
 退学したって、私達の失った月日はもどってこないのよ。
 それをどうしてくれるのよ。
 もう、絶対学校へ来るな。あんた達の顔も見たくないのよ。」

また、別の一人が泣きながら言った。
「そうよ、あんた達は、学年のトップ3で、いいかもしれないけど、
 あたしなんかは、先生の授業を必死で聞いて、
 それで、家に帰ってまた復習をして、やっとなのよ。
 その授業が、あんたたちのおかげで、
 今までろくに聞けなかった。もうT大へ行けない。死ぬまで恨んでやる。
 この学校を、早く出て行け!」

3人目の生徒が言った。
「あんた達を止められなかった私達もいけなかったのかも知れない。
 でも、あんた達は、学年のトップ3。
 その3人が組まれたら、あたしなんか恐くて何も言えないのよ。
 みんなもそうだったと思う。
 あたしは、T大に入るのが夢で、小学校のときから、必死でやってきた。
 みんなが遊んでいるとき、遊びたい気持ちを我慢して、全部勉強して来た。

 夢があるから、我慢して来た。
 それが、あんた達の授業妨害で、ほとんど勉強ができなかった。
 もう遅いのよ。今からじゃ、T大に受かりっこない。
 あたしは、家が貧しいから、浪人なんてさせてくれない。
 あんた達は、私の夢を奪った。」
その生徒は、号泣した。

クラス中の生徒が、靴やカバンを手当たり次第、3人に投げた。
そして、クラスのみんなは、悔し涙に泣き始めた。

3人は、ただ、頭をかばって、机の上で泣くばかりだった。
3人は、まさか、自分達が、これほどまでみんなに憎まれているとは、
思っていなかったのだった。
先生降ろしという劇を、痛快なものとして、
みんなが一緒に楽しんでいるものと思って来た。

授業妨害も、退屈な授業を中断させることで、
みんなは喜んでいると思って来た。
そんな自分達は、みんなの英雄だと思い、得意満面でいたのである。
今、みんなの言葉を聞いて、自分達の大きな思い違に気づいた。
そして、自分達の罪の大きさをやっと認識し、
それが、身に沁みてわかったのだった。

*   *    *

洋子は、教室を出て、校長と理事長、副校長に、ことの一切を話した。
理事長は2代目で若く29歳だった。
温かな人格者であると同時に、大変な手腕の持ち主だった。

理事長は言った。
「辞めてもらおうよ。2クラスしかない3年生が、
 あの3人のために、1クラスがめちゃめちゃだ。
 Aクラスにいい生徒を集めてるんだからね。
 そっくりT大に行ってもらわないと困る。

 各教科の先生も大変な迷惑をしている。
 いままで、何人の優秀な先生を辞めさせたと思ってるんだ。
 その罪の大きさも、わからせた方がいい。
 下手をすれば、来年の受験に、T大合格者ゼロ人になる。
 そうなったら、桜台のランクはガタ落ちだからね。

 早い所手を打とう。
 なあに、親が大学教授だろうがなんだろうが、娘がそんなワルでは、
 いさせるわけにはいかないよ。
 いいチャンスだ。倉田先生はよくやってくれた。」

校長は、
「理事長がそうおっしゃるなら、異存はありません。
 ただ、両親と娘共に、謝罪をされたらどうしますか。」と言った。
理事長は、
「それは、そのときの親の態度、娘の態度によるね。
 本気で心の底から反省しているなら、許す場合もあるかもね。」と言った。

このような、話になった。

3人は、荷物をまとめて、校長室に来るように放送があった。

3人は、校長室に来た。
そこで、校長はまず3人に退学希望の用紙に記入させ、提出させた。
「君達の退学希望は、受理されました。明日からこの学校へこなくてもいいです。
 なお、今日の6時から保護者への説明をしますから、君達も来なさい。
 その場で、君達からはっきり退学の意向を述べなさい。」
校長はそう言った。
校長は、3人に、なんの弁明の余地も与えなかった。

3人は、どこかの段階で自分達は許されるのではないかと、願っていた。
しかし、退学が現実となり、真っ青な顔をしてうつむいた。
親にも弁明させないと、先生に言い切った。
退学は、決まった。
3人は、そのまま家に帰された。


帰宅への道で、夏子は考えていた。
もともと先生を辞めさせる目的でやったのだから、弁解の余地もない。
これまで3人で、5人もの先生を辞めさせた。
クラスの授業でも、先生の上げ足をとり、
授業を中断させたことは、数知れない。
クラスのみんなに、とりかえしのつかない悪いことをしてしまった。

みんなが、怒り、恨むのはあたりまえだ。
学校は義務教育ではない。退学はある。
私立校は、営利を考える。
自分のような行為をする生徒は、学校にとって、はなはだ迷惑だ。
夏子は、自業自得だと思い、同時に絶望した。
なんであんなことをして来たのだろうと、
それが、悔やまれてならなかった。


父啓介は在宅で、夏子は、家に帰って両親に事情をすべて話した。
父啓介は、
「じゃあ、しょうがないな。父さんは、お前の卒業式の姿を見たかったが、あきらめるか。」
そう言った。
母信子は言った。
「夏子は、罪を償わないといけないわね。
 退学したって、なんの償いにもならないのよ。
 学校をお辞めになった先生方は、仕事を失い、苦しい生活をされていると思うわ。
 それを、どう償いますか。
 クラスのみんなの大切な授業を妨害した罪も大きい。
 みんなが、志望の大学へ行けなくなり、みんなの夢をつぶすかも知れない。

 過ぎた6ヶ月の授業は、帰って来ないわ。
 自分のした罪を本気になって考えなさい。そして、償う方法をね。
 あなたの罪は一生消えませんからね。
 母さんは、あなたをもう大学に行かせません。大検など受けさせません。
 明日から、外に出て働いてもらいます。この家にだけは住まわせてあげます。
 働いたお金で、償いをしなさい。」

夏子はうなだれたまま、一言も返せなかった。



「ところで、その先生は、夏子の書き間違えた式を見て即座に、答えたのか。」
父啓介は、言った。
「うん、そう。」
「X5と夏子が間違えた問題をか。」
「そう。」
「その先生の解を見せてくれ。」
夏子がそれを見せると、父啓介は、深く考え込んでしまった。

「なんという。全くの驚きだ。」
「そんなにすごいの。先生10秒くらいで解いたよ。」
「まさか…。」
「そんなに?」
「ああ、普通なら、解法の式が、80を越えるだろう。
 この先生は、4式で終わっている。しかも、正しそうだ。これは数学者の勘だがね。」
「父さんなら解ける?」と夏子。
「馬鹿を言え。X4で20年かかったんだぞ。死ぬまでがんばっても解けないよ。」

「じゃあ、なんで先生が解けたの?」
「だから、驚嘆に値するんだ。父さんは是非その先生にお会いして、お話を伺いたい。」
「じゃあ、あたしが正しく写していたら、あの先生解いたかなあ。」
「お前が渡した間違いの問題の方が、1000倍むずかしい。それが、答えだ。」
「じゃあ、写し間違えなくても、私の負けだったんだ。」
「ラッセル博士の疑問もご存知だったんだろう。世の中には、我々の想像を絶するすごい天才が5万といるんだよ。ただ残念なことに、それらの人は学者とはかぎらないんだ。」
啓介はそう言った。
「中学生みたいな、可愛い先生よ。」
と夏子。
「見かけは関係なかろう。」
と父は言った。



大村夏子、木下朱実、加藤ユカの3人と、
その両親6名が校長室に集まった。

娘の退学希望の説明を聞いて、どの親も、娘の退学は当然だと言った。
そして、深々と陳謝した。
過去、5人の担任を追い出し、他の教科の先生の上げ肢をとり、クラスに迷惑をかけたこと。
また、そのやり方が、普通の教師なら絶対解けない問題を、質問と偽り、解かせた巧妙さに、悪意を見出し、娘の退学希望にあっさりと同意した。

3人は、親が反論をしてくれると思い、最後の望みをかけていただけに、親のあまりにも簡単な同意に、絶望の色を隠せなかった。

大村も木下も、加藤も、学園生活にまだまだ大きな未練があった。
運動会や、学園祭も楽しみにしていた。卒業記念会もやりたかった。
何よりも、卒業式に出たかった。
また、他校への転学もありえるが、一人成績のいい自分達は、
きっと浮き上がり、いじめられると思った。
今のような、同学力の生徒と共に、勉強することはもう叶わない。

話がまとまり、最後の最後のときだった。
夏子の胸に、こらえきれない学校への思慕が募り、
どうしても我慢ができず、涙が泉のようにあふれてきた。

夏子は、座っているソファーを後ろにやり、
床に正座し、手をついた。
そして、涙ながらに訴えた。
「お願いです。私をこの学校に置いてください。
 お願いします。心の底から後悔し、反省しました。
 自分のしたことが、どれだけの罪であったかもわかりました。
 辞めてしまわれた先生方を訪ねて謝ります。
 クラスのみんなにも謝ります。

 私は、少し成績がよいことで、うぬぼれて増長していました。
 でも、倉田先生のように、私なんかが遥かに及ばない
 天才的な人が、星の数ほどいることがわかりました。
 それに、くらべれば、自分がいかに小さなものかがわかりました。
 これからは、もっと謙虚に、素直に、先生方の言うことをきき、
 決してクラスに迷惑をかけないようにします。

 そして、クラスのために働きます。
 クラスのみんなに、役に立つことなら何でもします。
 学校のために、尽くします。どんな仕事でもします。
 トイレ掃除も、私が一人でずっとやります。
 だから、この学校に通わせてください。

 倉田先生に、謝ったりしないと約束しましたが、
 私は、この学校が好きです。みんなに迷惑をかけた分、
 やり直しがしたいです。
 このままでは、償いもできません。
 私にチャンスをください。どうか、お願いします。」
そう言って、夏子はわあーと泣き出し、床に伏した。

すると、木下、加藤の二人も来て、
夏子の隣に手をついて、泣きながら、
必死であやまった。

理事長は、校長や洋子と目で対談した。
そして、しばらく考え、やがて、うなずいた。

「もういいよ。3人ともソファにもどりなさい。」と理事長が優しく言った。

3人は、それでも、まだ床にいた。

理事長は言った。
「学校は教育の場でありますし、生徒を裁くところではありません。
 慢心することは、誰にも一度はあるでしょうし、私とて人のことは言えません。
 また、罪にしても、誰もが何らかの罪を背負っていることと思います。
 間違ったら、反省し正すことが大事かと思います。
 取り返しのつかないこともありますが、それは、未来に対し尽くせばよいと考えます。
 3人の反省の言葉を聞いて、真心と見ました。
 よってこの「退学願い」を学校は受理しません。」

理事長は、校長や、親達の顔を見て、
「じゃあ、こういうことにしませんか。」
と言って、3枚の退学願いを破り捨てた。
親達が、一同立ち上がって、理事長と校長と洋子に深く礼をし、感謝の言葉を述べた。
父親たちも母親たちも、みんな涙を浮かべていた。

床でうつむいている3人に、洋子は、
「退学は、取り消しよ。」と言った。
「え?ほんとですか。ありがとうございます。」
と3人は言った。
「先生、ごめんなさい。これからちゃんとやります。」
と3人は、洋子にしがみついて、再び泣き始めた。

「まずは、クラスのみんなに、どう尽くすかにかかっているわね。
 みんなが許してくれるまで、時間がかかると思うけど、
 3人でがんばれば、少しずつ、わかってくれるでしょう。」
洋子は言った。
「はい。トイレ掃除を毎日やります。
 教室に早く来て、教室をぴかぴかにします。
 みんなが、許してくれたら、勉強のヘルパーになります。
 自分の受験など、後回しにして、みんなのために尽くします。
 がんばります。なんでもします。」
と3人は言った。



皆は、笑顔で散り散りになっていった。

洋子のところへ、夏子と父の大村啓介と母が来た。
「倉田先生、もう、ほんとにこの度は。」と啓介。
「まあ、教授。お会いでき光栄ですわ。」と洋子。
4人は、靴箱に向かい歩きながら、
「ところで、倉田先生は、私の今回の解法をどうご覧になりますか。」と教授。
「それなんですが、オクスフォード大学のラッセル博士は、
 教授の、第8式の3項目のXは、ファジーじゃないか、
 だから、最終式は、ただ確率を表すに過ぎないと、疑問を提出されていますよね。」
「はい、それなんです。頭の痛い疑問です。」と教授。
洋子は言った。
「しかし、私は、もう一つ第7式の6項目のXにもファジーの可能性を感じるんです。
 そこで、ファジーな二つのXが互いに干渉し合うことによって、クリアとなり、
 教授の最終式は、『確率』ではなく、『確定』と断言できるのではないかと思うんです。」
教授の顔に、ぱっと花が咲いた。
「『干渉』ですか!おお、あああ、そうかあ、おおお、いけますな。おおおおお。」と教授は歓喜して、
娘を抱いて、くるくる回った。
「いやあ、これは、ありがたい。感謝感激です。
 もう、一体倉田先生は、どんな方なのか、まさに奇跡です。
 私、家に飛んで帰って、倉田先生の今のご意見をすぐに検証したいと思います。
 夏子、倉田先生は、父さんの救いの女神になるかもしれないよ。
 では、いずれ、ゆっくりと。私、すぐにやりたがりなもんですから。」
と、教授は急ぎ足になった。
「先生、ありがとうございました。」と夏子に笑顔が戻っていた。いい顔をしていた。
夏子の母が、「お世話になりました。私、数学はゼロですの。」と笑いながら歩を進めた。



洋子が、理事長や校長に絶賛されたのは、もちろんのこと。

洋次はふと首をかしげた。
これで、使命は終わり。
自分が、またトイレに入って洋次になったら、
いったい誰が、自分の代わりに、ここにいるのだろうと。
(この疑問は、スーパー洋子は、複数いるのだということが、
 後日明らかになります。)


<おわり>

■次回予告■

新作が書けずに、苦労して来ました。
次回は、新作の小品を投稿します。
典型的ハッピーエンドの、
小さな恋の物語です。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

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ラック

Author:ラック
上は若いときの写真です。ISなので、体は、かなり女子に近く発育しました。でも、胸はぺったんこです。戸籍は男子。性自認も男子、そして女装子です。アメリカの大学で2年女として過ごしました。私の最も幸せな2年でした。そのときの自叙伝を書いています。また、創作女装小説を書いています。毎日ネタが浮かばず、四苦八苦しています。ほぼ、毎日更新しています。
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