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春果を包むやさしいクラス③「春果女の子デビュー」最終回

最数回なので、少し長くなりました。読んでくださるとうれしいです。

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翌日。
授業をまつ5分間のこと。
春果を囲む3人の男達が、大きい声で話しをしていて、
それが、下ネタになって来てしまった。
一人が、あわてて、「春果が聞いてるぞ!」とジェスチャーをして、
話を止めさそうとした。
一人が、そうか、という顔をして、わざとらしく、
「そういえば、今日は夕方雨になるらしいぞ。」
とまったく脈絡のない健全なことを言った。
春果は、そのごまかし方が、全く見え見えで、おかしく、
「ふ。」と噴いた。
それから、我慢できなくて、
「うふふふ、あはははは。」と大笑いをした。
みんなが、春果を見た。
みんなにとって、春果が笑ったのを見るのは、初めてだった。
春果は、そのとき、なぜか笑いが止まらなくて、
顔に手を当てて笑ったり、
机に腕を置いて、それに顔を伏せて笑ったりしていた。

やっと、春果が笑った。
クラスのみんなは、うれしかった。
何人かの男子は、春果の笑う顔が可愛くて、胸にぐっときてしまったりしていた。

春果は、机に置いた腕に顔を伏して笑ううち、その笑いを終えた。
そして、しばらく動かなかった。
春果は、ハンカチを取り出して、それを目に当て、今度は泣き出した。

みんなは、心配した。
周りの男子が、何か悪いことを言ったかと、あわてた。
「春果、俺達、なんか、悪いこと言ったか?」
と誰かが言った。
春果は首を横に振った。
春果は、ハンカチをとり、涙の目で言った。
「あたし、学校で、笑ったの、4年ぶりなの。
 ずっと、ずっといじめられてきたから。
 でも、このクラスの人はみんなすごく優しくて、
 あたし、毎日毎日、心の傷が治っていったの。
 そして、今、やっと笑えるようになった。
 みなさん、ありがとう。」
春果がそう言って、またハンカチを目に当てた。
女子の大勢が泣いていた。



その日、春果は、職員室へ、担任の山崎忠男を訪ねた。
山崎は、30歳の国語の先生だった。
春果は、女の子デビューをしようと思う気持ちを山崎に伝えた。
「大丈夫だと思うよ。あのクラスは、特別に理解のある子がそろってる。」
山崎はそう言った。

春果は、クリニックに相談するために、明日は休むと言った。
「じゃあ、明日、君のいないときに、みんなに君の説明をしておこう。」
と山崎は言った。
「よろしくお願いします。」
と春果は、言って、礼をして、職員室を後にした。

翌日、クラスの生徒たちは、担任山崎から、
性同一性障害の説明を聞いた。
「先生、それ、めちゃくちゃ大変なことじゃないですか。」
とある生徒が言った。
「そう、大変な障害だよ。みんな、朝起きたら、
 自分とは性の違う体になっていたらと考えると、それがわかるよね。」
と山崎は言った。
「春果さんは、今までずっとそれに耐えてきたんだ。
 おまけに、みんなにいじめられても来た。
 これ、2倍つらいことですよね。」
とある女子が言った。
「じゃあ、このクラスは3年間変わらないわけだから、
 3年間は、大丈夫だよ。俺達、今日理解したから。」
と別の生徒。
山崎が、
「特別なことはいらないよ。女の子として、普通に接してくれればいい。」
と言った。
「明日は、春果ちゃんの女の子デビューを祝って、
 1時間目は、お祝いをしよう。
 先生、いいですよね。一時間目、先生の授業だから。」
と誰かが言った。
「うん、かまわないよ。」と山崎は答えた。

春果は、クリニックで、主治医に女の子デビューをすると言った。
「今度のクラスは、いいみたいだね。」と先生。
「はい、みんないい人です。めったにないクラスだと思います。」
春果はそう答えた。

春果は、その日、美容院へ行って、
女らしいステキなショート・ヘアーにしてもらった。

翌日の朝。
春果は、夏服の女子の制服を着た。
白いブラウスに、チェックのスカート。ややミニ。
胸に、大きなリボン。

「春果は、初めて女の子になって、学校へ行くんだなあ。」
と父の健二が感慨深げに言った。
「うん、今度のクラスは、絶対大丈夫。」と春果は言った。
母の佳子は、学校へ付いて行くことになっていた。

学校へ、30分早く行くと、担任の山崎が、すでに靴箱のところで待っていた。
そのまま、山崎といっしょに校長室へ行った。
校長が、
「春果さんという名は、女性名でもあるし、名前を変える必要はありませんな。」
と言った。
「はい。女の子のような名前をつけてしまって、失敗だったかなと思いましたが、
 今になって、かえってよかったと思っています。」
そう母の佳子は言った。

そのうち、クラスの女子が一人、
「山崎先生、OKです。」と言いに来た。
「じゃあ、クラスに行きましょうか。」と山崎は言った。

佳子と3人で、教室に向かった。
教室への階段を上がったとき、
さっきの女生徒が、廊下に出ていて、
春果たちの姿を見ると、急いで教室に入った。

山崎が教室を開けた。
その後に春果が入ると、すごい声援と拍手があり、
頭の上から、紙吹雪が落ちてきた。
正面をみると、窓の端から端までの、大きな横断幕があり、
そこに、
『春果さん。女の子デビュー、おめでとう!』
と書かれてあった。

母の佳子は、中に入らず、廊下から見ていた。

春果は、感激して、泣いてしまいそうだった。

司会の女子が一人いて、
「これから、春果さんの女の子デビューのお祝いをします。
 では、江藤さん、お祝いの言葉をお願いします。」

江藤亜紀というクラスで一番しっかりした女子が立った。
春果は、山崎といっしょに、教壇の前に立っていた。

江藤亜紀は、紙を見ながら、お祝いの言葉を読み始めた。
「立原春果さん、女の子デビューおめでとうございます。
 私達は、昨日、山崎先生から、あなたのことを聞きました。
 春果さんが、生まれて今まで、どんな辛い思いをしてきたか、
 私達は、理解しました。
 春果さんの身になって考えてみて、私は、涙が止まりませんでした。
 女子のほとんどが泣いていました。

 春果さんは、ご自分の体のことだけでも辛い思いがあると思います。
 でも、クラスのみんなのことは安心してください。
 このクラスには、あなたを辛くするようなことをいう人はいません。
 もしいたら、私が、ハイキックをして、懲らしめます。
 (クラスちょっと笑い。)
 このことでは、完全に安心してください。

 心の性が女の子なら、その人は、女の子です。
 私達は、それを完全に理解しています。
 これから、春果さんに特別やさしくするというのではありません。
 ふつうに、自然に、同じクラスの仲間として接します。
 私達は、それを誓います。

 昨日、私達は、男子に人気投票をさせました。
 好きな女の子は誰か?
 小さな紙に無記名で、好きな女の子の名前を書かせました。

 その結果、私が、5票で2位でした。
 何を間違ったか、坂田晴美くんに2票入っていました。
 (クラス、かなり笑い。晴美自慢げに笑顔を振りまく。)

 そして、1位に輝いたのは、12票とった立原春果さんでした。
 春果さんは、モテます。(クラス笑い。)
 これから、女の子として、絶対の自信をもってくださいね。

 なお、横断幕は、昨日私達が、必死で作ったものです。
 これが、私達の春果さんに対するお祝いの気持ちです。

 春果さんの女の子デビュー、おめでとうございます。
 これで、お祝いの言葉を終わります。
  
                 江藤亜紀。」
大きな拍手が起こった。

春果は、涙ながらに聞いた。
心から、感激した。

廊下で、母の佳子は、ずっとハンカチを目に当てていた。

司会が、
「春果さん、お言葉がありますか。」
と言った。

春果は、目にハンカチを当てていた。
やがて、そのハンカチをとり、みんなの方を見た。

「みなさん、ありがとうございます。
 あたしは、学校で、こんな風に祝ってもらったこともないし、
 あんなに温かいお祝いの言葉をいただいたのも、初めてです。
 そして、あたしのために作ってくださった横断幕を、
 あたしは、一生忘れません。

 前、クラスで、大笑いをしてしまって、そのときも言いましたが、
 あたしは、小学校の3年生頃から、学校で泣くことはあっても、
 笑うことはありませんでした。
 自分は、このまま一生笑わない子になるのかなあと思っていました。
 それが、このクラスに来て、1ヶ月もたたないのに、
 笑えるようになりました。

 このクラスのある人が、私に言ってくれました。
 「このクラスは、春果への、神様の贈り物だよ。」って。
 私は、心からそう思いました。
 今まで、たくさん悲しいことがありましたが、
 私は、この神様の贈り物の中で、元気で、明るく、
 よく笑う女の子になれたらうれしいです。

 みなさん、本当にありがとうございます。
 女の子としての春果をよろしくお願いします。」
そう言って、春果は頭を下げた。
みんなから、すごい拍手が起こった。

会は、それから、司会が変わって、
いろいろゲームを始めた。

山崎は、教室を出て、母の佳子に、
「後は、子供達のお楽しみ会ですから。」
と佳子を、玄関まで誘った。
佳子は、泣きはらしていた。
「いいクラスですね。
 わたし、代表の方の言葉を聞いて、
 涙が出てなりませんでした。
 本当に、神様の贈り物だと思います。」
佳子はそう言った。

「そうなんです。あれだけ優しい子がそろったクラスも珍しいです。
 1クラスだから、3年間同じメンバーです。
 春果さんは、これまでの心の痛手から、きっと回復なさると思います。」
「はい。ありがたいことです。」

階段を下りるまで、クラスからは楽しげな笑い声が聞こえていた。

生徒の靴箱に、明るい光が差し込んでいた。
佳子は、学校がこんなに明るいところだと初めて思った。
きちんとそろって並んでいる靴の一つ一つを、
佳子は、幸せな気持ちで眺めた。


<おわり>

※次回は、「斉藤梨花GID17歳」です。




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非公開コメント

1. いいお話でした!

周囲が優しく受け入れる話、ラックさんの話はいつもとても感動的です。

私も読んでいて目が少しうるるとします。

もう次の話もできているんですね。
ラックさんの創作力は本当に尽きることがありませんね。
きっとご自身の小さいころからの体験が、とても充実した豊富な方なのですね。

2. Re:いいお話でした!

>みすりんさん

コメントありがとうございます。
この話は、途中から、ダメかなあ、人気ないだろうなあ…と思いながら、書いていました。
しかし、みすりんさん始め、温かなコメントをいただけて、やっぱり最後まで書こうと思いました。
ありがとうございました。

次の話の予告を書きましたが、第1話しか書いてなくて、大丈夫かな…と自分で思っています。

3. ラックさん

満たされました。何処かでこれからこういうことが本当になるのだと思います。これはラックの想いでもあるし、多くのGIDや女装子さんの満たされなかった願いでもあるのかな(*^^*)ラックさんに叶えてもらえて良かった。

4. 無題

さんが抜けちゃった、ごめんなさい。

5. Re:無題

>ルーティ=ネイさん

コメントありがとうございます。
世の中が、みんなこのクラスの生徒達のようになるといいですよね。
そうはならず、辛い思いをしている人が、今ほとんどなのではないでしょうか。
せめて、小説でとの思いで書きました。
ルーティ=ネイさんが分かってくださり、とてもうれしいです。

6. 無題

現実の学校ゎ、いじめ、いやがらせ、無視、授業妨害、男女差別、暴力。。。いろいろある。

そんな中、こんな素敵なクラスがあったら、みんな仲良く暮らすことができるのにね。
理想郷ですぅ。

7. Re:無題

>junさん

コメントありがとうございます。

叶わぬ夢と知りながら、願いと思いで書きました。こんなクラス、どこかにないかなあ。

私は、小、中は、教室が固定化してるのが、1つに、いけないと思っています。
大学みたいに、広ーいキャンパスで、教室が決まっていなければ、悪ーい気持ちが、空に抜けていく気がします。
これも、夢ですね。
プロフィール

ラック

Author:ラック
上は若いときの写真です。ISなので、体は、かなり女子に近く発育しました。でも、胸はぺったんこです。戸籍は男子。性自認も男子、そして女装子です。アメリカの大学で2年女として過ごしました。私の最も幸せな2年でした。そのときの自叙伝を書いています。また、創作女装小説を書いています。毎日ネタが浮かばず、四苦八苦しています。ほぼ、毎日更新しています。
どうぞ、お出でください。

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