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「剛と遥・現代とりかえばや」②「新たな出発」後編 最終回

「剛と遥・現代とりかえばや」②「新たな出発」後編
最終回


<遥、剛は、姿を優先した名を書きます。>

芳江は、二人をテーブルに座らせ、
「4歳のあのときからね。剛が急に男らしくなって、
 遥が、女らしくなった。
 お母さんも、お父さんも、すっかりだまされたわ。
 あの日から、今学校で4年生になるまで、
6年間もだまされた。
 ああ、どうしましょう。」
と芳江は、頭をかかえた。
「お母さん、さっきの血はなあに?」剛は聞いた。
「生理っていって、女の子が大人になった印。
 これから、月に1回は、今日みたいな出血があるの。」
「お母さんもあるの?」
「あるわ。やっかいなものよ。」
芳江はその場では、それ以上言わなかった。
夫の高志が帰ってくるまで待とうと思った。
夫の高志は、少なくとも自分より理性的な人だ。

父の高志が帰ってきて、夕食になった。
母は、剛に、
「剛から言いなさい。」と言った。
剛は、もじもじしていたが、勇気を出して言った。
「お父さん。ぼくが遥で、遥が剛なの。」
「え?」と父は言った。
「ぼく達4歳のとき、二人の服を取り替えて、
 男みたいなぼくが剛になって、女みたいな剛が遥になった の。
それで、ずうっと今まできたの。」
「うそだろ!」と父。
「ほんと。ぼく今日生理があって、お母さんにばれたの。」
「ええ?じゃあ、4年生の今までか。」
「うん。」剛と遥は、同時に返事をした。
「ごめんなさい。」と二人で言った。

「そうだったのか…。」
と、高志は思ったほど取り乱さなかった。
「お父さん、なんか言ってください。
 学校になんて言ったらいいんですか?
 今頃、剛が遥かで、遥が剛だったなんて。」
と、芳江は泣きそうになって言った。
「芳江の気持ちはよくわかる。でも、今いちばん大事なのは、二人のことだ。
 剛は、自分のことを男の子だと思っているんだな?オチンチンがなくても。」

「うん、思ってる。今更女の子になれない。」
「遥は、自分が女の子だと思ってるんだな。オチンチンが あっても」
「うん。自分が男の子なんて、あたし死にたくなる。」
遥は言った。
「そうか、二人共、性別違和なのかあ…。
 明日、お父さんは、会社休むから、みんなで、クリニック へ行こう。」
高志は言った。

「あなた、それどういうこと。性別違和ってなに?」
と、芳江が言った。
「うん。自分の性別に違和感をもっている子、または、その状態かな。
 明日クリニックで診てもらって、身体に異常がなければ、
 二人は、性同一性障害となり、障害だから、治療が必要に なる。
 これは、大変な障害だからね。
 芳江、もしさ、明日になって、自分の手が男の手になっていた らどう思う?」
「それは、ショックです。」
「手だけでショックだろう。二人は、体全部なんだよ。体の中もそうなんだ。
 遥は、心は女の子だけど、体は男の子だ。ほっておけば、声変わりがして、 髭が生えてくる。男の体になっていく。
 剛は、心は男の子だけど、体が女の子だから、オッパイが 大きくなり、お尻が大きくなる。
 耐えられないだろう。
 だから、早いほどいいんだ。4年生という成長期前に気がついたことを、 幸運と思った方がいい。」

「そんな。あたしは、一度に受け入れられません。」と芳江は泣き出した。
「当然だと思うよ。いっぺんには無理だよ。
 俺だってそうだ。今、遥が女の体で、剛が男の体だった ら、どれだけいいかと思う。
 しかし、そうじゃないんだ。
 受け入れるしかないんだよ。」

「あたし、男の体になるのいやだ。そうなったら死んじゃ う。」
遥がそういって泣き出した。
「俺だって、いやだよ。オッパイなんか出てきたら、外に行 けないよ。」
剛もそう言って泣き出した。
「だから、それを少しでも食い止めるために、クリニックに 行くんだ。」
高志は言った。



ちょうど次の日にクリニックの予約がとれ、
剛と遥は、学校を休んだ。
親子4人でクリニックに行った。

初めに通された部屋にいたのは、大柄で、無精ひげをはやした、40歳くらいの高井という先生だった。
精神科の先生ということだったが、少しとぼけたところがあって、
信用していいのか、悪いのか、謎のような先生だった。
ただ、瞳がとてもやさしそうだった。
剛と遥は、先生が気に入った。

父の高志は、2歳くらいの様子から、4歳で二人が入れ替わり、
4年生のいままでずっと親も気がつかなかった経緯を話した。

「なるほど。」と高井は、言って二人を見た。
「君達は、4歳から10歳まで、6年間、うまくやったな、 このやろ。」
と二人の脇の下をつつく真似をした。
剛と遥は、逃げるマネをしながら笑った。
高志と芳江は、苦笑した。

「じゃあ、これから、外科的な診察と、心理的な各種のテス トをしますので、
 2時間ほどかかります。外で、ぶらぶら なさっていてください。」
と高井は、高志と芳江に言った。

「あなた、どう思います、あの先生。」
と、クリニックを出るなり、芳江が言った。
「なんだ、気に入らないの。」と高志。
「そうじゃないけど、どこか、ふざけているみたいで。」
「俺はそうは思わなかったけど。深刻な診察を受けに来たん だ。
 そんな子供たちにリラックスさせてくれたんだと思う よ。」と高志は言った。

2時間がたった。
診察室に入ると、剛と遥は、もう終わっていた。
高井は、おもむろに言った。
「こう言った障害を受け止めるとき、
 ポジティブに受け止めるか、
 ネガティブに受け止めるかには、
 大きな違いがあります。
 お見受けしたところ、お母様は、やや心配性で、
 ネガティブでいらっしゃる。」

高井は、そう言って、芳江に目を向け続けた。
「しかし、それは、いたしかたないことです。
 母親は、守る立場にいますから。
 少し用心深くなって当然です。
 だが、それを乗り越え、
 前向きにお考えいただきたいのです。
 親の姿勢は、子供に影響します。」
「はい。」と芳江は言った。

「では、診断を申し上げます。
 遺伝子、染色体レベルの検査は、もう少しかかりますが、
 お二人は、外科的にも、内科的にも、極めて健康です。
 しかし、精神的には、遥さんは、女の子であり、剛くん は、男の子です。
 つまり、お二人は、99%、性同一性障害と診断できます。
 正式には、もう1名の精神科医の診断がいりますが、
 恐らく、同じ結果だと思います。
 と言いますのも、お二人は、4才から10才まで、異性としての社会生活をすでにしてきています。
 そこで、違和を感じて来な かったことが、大きな実証です。
 お二人は、今の心の性に確信をもっています。疑いようがありません。」

高井は、剛と遥に言った。
「剛君の心は、男の子、遥さんの心は女の子だと、今、ご両親に言ったんだよ。」

家族は、その後、ホルモン投与や、生涯に渡るケアについて、大よその話を聞いた。

芳江は、
「あの、学校にはどうすればいいでしょうか。」と聞いた。
「なるほど。」と高井は、お茶目な顔をして、手を打った。
「何もしなくても、いいわけですね、ははは。」と笑った。そして、
「いや、そうでもない。えー、学校には言ってください。
 私立中学に行く場合、本人でないとまずいですから、そう してください。
 しかし、私の出す性同一性障害の診断書があれば、
 扱いは、剛くんは男の子、遥さんは女の子となりますか ら、
 小学校では、今までと、なんの変わりもありません 。
 
問題は、中学からどうするかですが、一般の学校は制服があります。これは、ハードルが高いでしょう。
  しかし、私立校の中には、LGBTといいますか、
  そういったお子さんに、大変理解のある学校があります。
  例えば、制服は男女好きな方を着てよい。私服も可。
  そういう学校には、そういったお子さんが集まって来ます ので、
  仲間が大勢いて、居心地は、とてもいいと思いま す。
  2、3そんな学校のパンフレットがありますから、
  学園祭などに行ってみることを、お勧めします。」

最後に、遥が、手を挙げた。
「あの、あたしは、将来子供を産めないんですよね。」

遥の言葉を聞いて、みんなは、しーんとなって、遥を見つめた。
芳江も高志も、思わず目を潤ませた。

高井は、優しげな眼差しを遥に向けた。
「残念だけど、産めないね。
 もし、あなたが、自分は女の子という心を捨てて、
 男として生きることにして、将来女性と結婚すれば、
 その奥さんはあなたと奥さんの子供を産めるでしょう。
 それ以外は、できないね。残念ながら、あなたは男性の体を持っている。
 ホルモンを打っても打たなくても、無理なんだよ。」

それを聞いた遥は、うつむいて、
持っていたハンカチを目に当てて、泣き出した。
母の芳江は、そんな遥を見て、同じくハンカチを目に当てて泣き出した。

そのとき、剛が言った。
「遥、泣くな。悲しいのはわかるけどさ。
 障害がある人は、みんな何か我慢するんだからさ。
 俺達は、大変な障害だってお父さん言ってたろ。なんか あってあたり前だろ。」

高井が、カーテンの後ろの看護師さんに、
「吉井さん、呼んで。」と言った。

やがて、一人の看護師が来た。
「ちょっと励ましてあげて。」と高井は吉井という看護師にいった。
とても綺麗な人だった。
吉井は、遥の前にしゃがんだ。
「遥ちゃん、私は、吉井邦子といいます。
 私も遥ちゃんと同じ。男の子として生まれたの。」

遥は、え?という顔をして、邦子を見た。
「私もあなたと同じ、性同一性障害。
 でも、今は、男の人と結婚して、幸せに暮らしているよ。
生まれは女の子だった男性ですけどね。
子供は産めないけど、幸せにはなれる。
 だから、遥ちゃんもきっと幸せになれると思うよ。」
「お姉さん、今、幸せ?」と遥は聞いた。
「うん、とても幸せだよ。」
遥は、かすかに笑った。
邦子は、にっこり笑って、遥の両手を握り、
先生に会釈をして、中に入っていった。

遥は、泣き止んだ。

芳江は、看護師の邦子を見たことも安心だったが、
剛が言った言葉が、胸に響いていた。
『障害のある人は、みんな何か我慢するんだからさ。』
その通りだと思った。
親だって何かを我慢するべきだ。
そして、自分には、そんな立派なことが言える息子と、
可愛い娘がいるのではないかと思った。
二人の男女が入れ替わっただけで、二人いることには変わりはない。
そう思うと、胸の中の霧が晴れてくるのだった。

診察は終わった。

外に出たとき、芳江は、バッグをもったまま背伸びをした。
そして、言った。
「さあ、新しい剛と遥の誕生だわ。みんなで、パフェでも食べにいきましょう。」
「わあーい。」と二人は飛び上がった。
『曇りのち晴れ。』
高志はそう心で言って、
「俺は、山盛りのイチゴ・パフェがいいな。」
「俺、チョコレート・パフェ。」剛。
「あたしも、イチゴ・パフェ。」遥。
「あたしは、剛と同じ、チョコレート。」芳江。

明るい声が、病院前にこだましていた。


<おわり>


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プロフィール

ラック

Author:ラック
上は若いときの写真です。ISなので、体は、かなり女子に近く発育しました。でも、胸はぺったんこです。戸籍は男子。性自認も男子、そして女装子です。アメリカの大学で2年女として過ごしました。私の最も幸せな2年でした。そのときの自叙伝を書いています。また、創作女装小説を書いています。毎日ネタが浮かばず、四苦八苦しています。ほぼ、毎日更新しています。
どうぞ、お出でください。

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