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柳沢聡子『ママのオムライス』①(3話完結)

柳沢聡子『ママのオムライス』①(3話完結)


町の小さな洋食店リヨン。
妻がなくなり、吉岡隆は、ホテルリッツのシェフという地位にいながら、
職を辞し、妻の意思を継ぐべく、町の洋食店「リヨン」を再開した。
娘のソムリエ絵里奈の2人でやっている。
客が来ず苦しい時代があったが、
柳澤聡子が、グルメ雑誌にリヨンのことを書いてから、
店は連日満員になった。
ハンバーグ、エビフライとメニューは平易な物だったが、
ひとたび口に入れれば、とびきりにおいしい。
昼は、町の人が来る。
夜は、遠くからもグルメの集まる店となった。

木曜日、早めに店じまいをしたとき、娘の絵梨香は言った。
「お父さん、『レストラン・シャトレ』というお店ができたらしいの。
 シェフは25歳で、小柄で、すごく可愛い男性らしいの。行ってみない。近くよ。」
「あはは。可愛い男性は余分だろう。レストランは味だ。」

時刻は、8時半を過ぎていた。

二人は、シャトレに来た。
思ったよりずっと小さな店だった。
「いらっしゃいませ。」とソムリエが来て、窓側の席に案内した。
きびきびしたソムリエの態度1つを見ても、きちんとした店に思われた。

シェフ小林は、厨房の出口から、隆親娘を見て、
『わあ、これは、たいへんだ。』と思った。

二人は、メニューを見ていた。
「わあ、お父さん。これおもしろい。『今風オムライス』と『懐かしいオムライス』
ですって。」
「懐かしい・・とは、トッピングがケチャップだったりするのかな。」
隆は笑った。
途中で、料理を取り替えることにして、
「今風オムライス」と「懐かしいオムライス」を頼んだ。

オムライスの注文が来たとき、小林はさらに緊張した。
「シェフ、力はいってますよ。」と加藤。
「ばれちゃう?一世一代がんばって作るんだ。」小林は言った。

やがて、料理がきた。
「今風」は、チャーハンの上に、半熟のふかふかの玉子、
 デミグラスソース。青い葉っぱ。
シェフ隆は、一口食べた。

「う~ん、上手い。100点満点だな。玉子料理は一番むすかしいからな。
 若いと聞いたが、たいしたシェフだ。」

隆が、ふと絵里奈を見ると、絵里奈は、1口を呑みこんで、涙を流していた。
「絵里奈、どうした。どうかしたのか。」隆は聞いた。
「お父さん。これ、お母さんのオムライス。」絵里奈は言った。
「まさか。ちょっと食べていいか。」
隆は、一口取って、口に運んだ。
「ああ、これは。」と隆志も目を潤ませた。
「お母さんのは、チャーハンの中に、みじん切りにしたニンジンが入っている。」

「少しでも、若い人にニンジンを食べて欲しいからよ。
ママさんはそうおっしゃっていました。」
小林シェフが横に来ていた。

「シェフの小林です。どうぞよろしく。」
「リヨンの隆です。」
「リヨンの絵里奈です。」

「あの、妻のメニューがどうしてここにあるのか、訳を教えてくださいませんか。」
隆は、言った。
「はい。私は、母を知らずに育ち、3人の弟と父のために、料理が当番でした。
 私は、中学生でした。
 そして、お休みの日には必ず、遠い道を歩いて、
まだ、奥様がやってらっしゃったころのリヨンへいきました。
私は、母を知りませんので、リヨンのママさんを、心で母のように慕っていました。
注文するお料理は、オムライスばっかりでした。
オムライスは、とても面倒なので、普通家庭では食べられません。
私は、いつもカウンターに座って、ママさんのお料理を見ていました。
「どうして、みじん切りのニンジンを入れるんですか。」と聞いたとき、
ママさんは、さっきのようにおっしゃいました。

ママさんの人気は、私だけではなくて、地方から働きに来ている若い人も、
みんな、ママさんが好きでした。
私は、高校にいかず、すぐコック見習いになりました。

その内ママさんが他界されるという大きな悲しみがありました。
私は、地面を何度も叩いて泣きました。
その時、心に固く誓いました。
もし、シェフになれたら、必ずママさんのお料理を1つ置こうって。
ニンジンのみじん切りの入った、チャーハン。
裏表焼いた玉子。ケチャップの垂れ、グリンピース2個。
それが、「懐かしいオムライス」です。
けっこう人気があるんですよ。
「懐かしいオムライス」をメニューに置いている限り、
私の心に、ママさんは生きているんです。」

小林は、目をにじませていた。
シェフの隆と絵里奈は、ハンカチを目に当てて泣いていた。
隆は言った。
「小林さん。ありがとうございます。
 まさか、妻のオムライスを置いてくださっているなんて。
 妻が今も生きていると思っていてくださる方が、いてくださるなんて。」
絵梨香。
「お母さんは死んでも、お母さんのお料理は生きている。
 お父さん。内にもおこうよ。『懐かしいオムライス』。」
隆。
「小林さん、真似をしても、いいですか。」
小林。
「もちろんですよ。それこそ、本家本元じゃありませんか。」
小林は、にっこりした。



九時を過ぎ、隆志と絵里奈は、空を見ながら歩いていた。
「なんだなあ。母さんのレストランこそ、町にとけ込んだレストランだったんだなあ。」
「お父さんだって、値段を上げてないから、立派な町のレストラン。」
「小林さんに会えてよかったな。」
「小林さんの中学時代と母さんを思って、胸がじんとする。」
「俺もだ。」
二人の心に、目をくりくりしながら、
ママの料理を見ている小林の姿が思われた。

(第2話につづきます。)


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プロフィール

ラック

Author:ラック
上は若いときの写真です。ISなので、体は、かなり女子に近く発育しました。でも、胸はぺったんこです。戸籍は男子。性自認も男子、そして女装子です。アメリカの大学で2年女として過ごしました。私の最も幸せな2年でした。そのときの自叙伝を書いています。また、創作女装小説を書いています。毎日ネタが浮かばず、四苦八苦しています。ほぼ、毎日更新しています。
どうぞ、お出でください。

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