合気和円流・中川靖子⑦「いよいよ、薙刀、強いのか?」最終回

最後の戦いは、「薙刀」です。
「薙刀、最強とは、本当でしょうか。そして靖子は、勝てるのでしょうか。
これで、最終回です。長い物語を読んでくださり、ありがとうございました。
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合気和円流・中川靖子⑦「いよいよ、薙刀、強いのか?」最終回


最後、薙刀を残すのみとなった。
5分の休憩である。
靖子は、雲竜のところへいって、水筒の冷茶をもらった。
「薙刀の人には、負けても仕方ないぞ。」雲竜が言った。
「これから戦うのに、水を差すようなこと言うんですか。」
「水を差しても、差さんでも、次の人には逆立ちしても勝てん。」
「そんなにすごい人なの。」
「背は、148cm。体重42kg。52歳。女性。
 ところが、いったん薙刀を持てば、怖いのなんの。
 薙刀全日本選手権20年連続優勝だ。」
「わあ、怖いなあ。」
「負けてもやむなしと言われた方が、気が楽だろう。」
「そうね。絶対勝てより、まし。」

審判が出てきた。
「本日最終戦。薙刀、藤村早苗。」
早苗が出てきた。
会場が、拍手と共に、わああと言った。
今までの選手より、数段小柄であり、年配であったから少し安心したのだ。
「和円合気流。中川靖子。」
靖子が出ていくと、大きな拍手が起こった。

アナ「あの方はどんな方ですか。」
高木「この選手の順番を考えた方に、脱帽です。
   靖子さんが負ける人を、最後にもってきました。
   途中なら、そこから、靖子さんは出られなくなりますから。」
アナ「では、強い方なんですか。」
高木「強いなんてもんじゃありません。雲竜先生ともう一人の『神』です。
   その神が、武器の中で最も優れていると言われる薙刀を持っておられる。
   これ以上の恐怖は、ありません。」
アナ「怖いですね。
   でも、靖子さんは、これで、全員と試合ができる訳ですね。」
高木「はい。そうです。この8番勝負の最後に藤村さんとできるなんて、
   なんだか感動的です。」

競技用薙刀の棒の部分は、約1m、カーブしている剣先は、
反ったしなやかな棒でできている。これが、やく50cm。
ここは、本来剣であるので、握ったりはできない。
真剣では、ここが刃になる。棒との境目に小さな束がある。
剣の部分で面や胴、小手を取る。それだけで怖いのに、
棒の部分で、脚を払われる。
剣道、棒術の技を、薙刀1つで、賄える。
普通、選手は、剣道並みの防具を付けるが、
この8番勝負では、今までの対戦通り、防具を使わない。

会場で、パンフを呼んだ人が騒ぎ出した。
「薙刀の藤村さんて、とんでもない人だよ。
 剣道9段、棒術8段、薙刀10段。
 薙刀全日本選手権20年連続優勝。
 薙刀の「神様」と呼ばれている。」
「ひえ~。」と周りは、腰を抜かしそうだった。

藤村早苗と対峙した靖子は、それだけで倒されそうになった。
『使いたくなかったけど、お祖父ちゃんから大会向けに教わった、
 特別奥義を使おう。』
靖子は、「竜眼飛翔」(りゅうがんひしょう)と3度唱えた。
すると、ぱあっと視界が開け、
藤村に気を取られ過ぎて、周りが見えなくなっていた自分に気が付いた。
「水流鉄火」に相当する技だ。動体視力が2倍になり、体が半分の重みになり、
移動が自由自在になる。

藤村は、靖子を見て、「あら?」と嬉しそうな顔をした。

「はじめ!」の声がかかった。

藤村が、「面!」と言って突いて来た。
競技なら、首を横に曲げて防具で受ければいいが、真剣が前提である。
後ろに下がれば、2段突きが来る。だが、『全てが見える。』
靖子は、ただ一つの逃げ場所、半回転して、面を避け、
藤村の真横に、1歩肘をつき、藤村の戻る棒を、両手でつかんだ。
それを見て藤村は、また、ちらとうれし気な笑みを浮かべた。

藤村は、靖子に握られている棒を、トンと地に差し、
棒高跳びのように、後ろに飛んだ。
その華麗な技に、会場は大喜びで拍手した。
靖子も、拍手したい気持だった。

両者は振り出しに戻った。
藤村は、同じく面を取りに来て、そのとき右から足払いの棒をくり出していた。
靖子には見える。
右に避ければ、相手の思うつぼ、
左に避け、相手の棒が空を払ってくるときに、藤村の腕を取って、投げを打った。
藤村は、宙に体を浮かせた。
観客は、わああああああと叫んだ。靖子への声援である。

攻撃は、連続に打たねばならない。
藤村の体が宙にあるうちに、腕固めを取りたかった。
だが藤村は、薙刀を差し込み、腕固めを許さなかった。

アナ「藤村さんの突きが見えません。すごいですね。」
高木「それを、見切っている靖子を私は誉めたいです。
   見切って、次の攻撃を考えている。
   藤村さん、きっと喜んでいますね。」
アナ「そうなんですか。」
高木「達人にとって、自分を危うくする技がくるのは、喜びだと思います。」

再び、薙刀と合気流は振り出しに戻った。
だが、そのときの靖子は、ある武神の魂が宿ったかのようだった。

藤村の「面!」が来たとき、剣先とすれ違うように、
靖子は、藤村の肩を取りに前に出た。
見えぬほどの藤村の「面!」とすれ違うなど、あり得ないことである。
靖子は、「竜眼飛翔」のお蔭だと思った。
肩の肩甲骨を指で押さえられると、腕に力が入らなくなる。
藤村は、当然、それを知っている。

藤村は、肩に掛けている靖子の腕を、薙刀を縦にして、
ブルンと1回転した。と同時に、棒で靖子をなぎ倒しに来る。
靖子には、見えていた。
やってくる棒を、両手でつかみ、投げを打った。
藤村は、回転の方向に投げられて、宙を飛んだ。
藤村が、宙にあるうちに、靖子は、薙刀を奪い、
藤村が、くるっと前転の受け身を取っておき上がったところを、
靖子は、奪った薙刀の剣先を藤村の首に当てた。
剣先は、木でも刃のある剣と見なす。
背を取られたら終わりである。

会場に、すごい歓声が上がった。

「参りました。」と藤村は、言った。
観客は、総立ちになって、拍手の嵐だ。

両者、向かい合って開始線に立った。
「中川靖子!」と審判が言った。
お辞儀をした後、靖子は、藤村の元へ飛んで行って正座をした。
「これは、実は、私の勝ちではありません。
 この大会の前に、祖父雲竜が教えてくれた「竜眼飛翔」という奥義です。
 この言葉を3回唱えると、動体視力が2倍になり、体の重みが半分になります。
 水流鉄火のように、死に物狂いで得た奥義ではないのです。
 だから、「竜眼飛翔」は、私の技とは言えません。」
靖子はそう言って、頭を下げた。
藤村は、やさし気に靖子の肩に手をやった。
「あなたは、素晴らしかったわ。
まちがいなく、あなたの勝です。『竜眼飛翔』なんて、雲竜さんが、その場で、
思いついた言葉ですよ。技ではありません。
私を前にして、強い人でも、怖いと思い委縮してしまいます。
そうなると、半分も力を発揮できません。
だから、雲竜さんは、あなたに『おまじない』をくれたのです。
小さい子にアメを上げて、『さあ、百人力のアメだよ。がんばれ。』
すると、小さい子は、アメの力を信じて、がんばることができる。

さっき私と戦った靖子さんが、委縮することなく戦えるように、
「竜眼飛翔」は、アメだったのです。
そして、あなたは、強かった。あれが、あなたの本領です。
そして、私は、30年振りに負けました。あなたにね。」藤村はにっこりと言った。
「本当ですか?」
と言って、靖子は藤村を見て、雲竜を見た。
雲竜は、ピースを出していた。
そして、雲竜は、藤村に頭を下げた。

「ありがとうございました。」と靖子は、藤村に、再度頭を下げて、
雲竜の元へ行った。
「おまじないだって、藤村さんが教えてくださった。」
「靖子は免許皆伝だろう。
 免許皆伝とは、全ての技を体得したということだ。
 もう、それ以上などないのだよ。」雲竜は言った。
靖子は、雲竜の首に抱き付いた。
「うれしい。おじいちゃん、ありがとう。
 お蔭で、藤村さんに勝てた。」
「強かったぞ。今日は、お祝いじゃな。」雲竜は言った。
隣で、雪之介が、うれしそうにうなずいていた。

競技場は、各賞が、渡されていた。

アナ「高木さん。合気和円流の優勝ですが、
   合気和円流が、一番強い格技だと考えていいのでしょうか。」
高木「そんなことは、ありません。
   1つの格技の中で、誰が強いかというのはあると思います。
   しかし、今日のような異種格闘技では、いくつかの偶然と、
   幸運なひらめきなどが、勝敗を決めます。
   ですから、今日は、どの格技が優勝しても不思議はありませんでした。」
アナ「なるほど、そうですね。では、名解説、ありがとうございまし。」
高木「ここに座らせていただき、ありがとうございました。」

薙刀との場面で、視聴率は40%を超えた。
調整卓にて。
チーフディレ「よかったなあ。こんな充実した異種格闘技は初めてだ。」
サブ「出場の方々が、みなさんできた方で、温かい大会になりましたね。」
チーフ「今日解説の高木啓子さん。よかったと思わないか。」
サブ「思いました。お父さんのネクタイを子供がつかむ例え。最高でした。」
チーフ「最後もな、『どの人が優勝しても。不思議はなかった。』と言ってくれた。」
サブ「そうです。その通りなんでしょうね。」
チーフ「今日は、大入り袋だな。」
サブ「飲めますね。」
二人は笑った。

靖子の家族。ご馳走の前で、
母郁恵「もう、今日は、寿命が縮んだわ。おじいちゃん、もう引き受けないでね。」
父武史「靖子は、どうだ?またやりたいかい?」
靖子「今は、2度と嫌だって思ってる。でも、時間がたったら、わからないわ。」
雲竜「それでこそ、わしの弟子じゃ。いくらでも、せい。」
靖子「あの薙刀の藤村さんね、『これで、30年ぶりに負けたわ。』っておっしゃったの。
   30年前に、藤村さんを破ったのは、だれかしら。お祖父ちゃん、知ってる?」
雲竜「知っておるとも。自慢になるから黙っておったが、わしじゃ。」
一同「ひえ~。」
雲竜「彼女が19歳のときだ。わしの道場まで、道着姿で、薙刀を持って、
   やって来た。
   『私を投げて下さい』という。
   いい目をしておった。
   「もう、敵がおらんようになったのじゃな。」と聞いた。
   「違います。強くなれません。」と彼女は言う。
   わしは、彼女と試合い、瞬時に彼女を投げた。
   彼女は、うれしそうにしてな、それから、7回ほど投げた。
   そのとき彼女は、膝を付いて言う。
   『三重からきました。一言ご教授を。』という。
   そこで、わしは、『相手と気を一にすれば、怖いものなしじゃ。』
   と教えた。彼女は、長い間悩んで来たのだろう。
即座に、その意味を理解した。
それから、彼女の無敗の日々が始まった。」
靖子「わあ、そういう方だったのですね。
   藤村さんは、私がいい技を出したとき、いつも笑顔を向けてくれました。」
美奈「30年前に、お祖父ちゃんに負けて、30年後、お姉ちゃんに負けたのね。」
父武史「何か、運命を感じるな。いい話だね。」
雲竜「というわけで、靖子はまた異種格闘技をしなさい。」
母郁恵「おじいちゃん、すぐはだめよ。あたし達身が持たない。」
靖子「あたしもだめ。気が持たない。」
雲竜「そうか。身も気ももたないか。それでは、無理じゃの。」
あはははは・・と、みんなは笑った。

(因みに、出場者の順番を考えたのは、雲竜である。)

<おわり>

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プロフィール

ラック

Author:ラック
上は若いときの写真です。ISなので、体は、かなり女子に近く発育しました。でも、胸はぺったんこです。戸籍は男子。性自認も男子、そして女装子です。アメリカの大学で2年女として過ごしました。私の最も幸せな2年でした。そのときの自叙伝を書いています。また、創作女装小説を書いています。毎日ネタが浮かばず、四苦八苦しています。ほぼ、毎日更新しています。
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