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合気和円流・中川靖子⑤「剣術、難関レスリング」

長いお話し、お許しくださいませ。あと3話で終わりの予定です。
読んでくださるとうれしいです。
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合気和円流・中川靖子⑤「剣術、難関レスリング」


次は、剣道だった。
初めて、武器を持った敵と戦う。
アナ「武器を持てば、3段強くなると聞きましたが。」
高木「棒術と薙刀も、怖いですね。
   合気流は、近衛兵として、もともと刀を持った人を抑えるのが、
   はじまりですから、剣には、比較的慣れています。」

「はじめ!」の合図。

すると、剣の宇藤清大は、右高くに剣を垂直にあげた。

高木「まあ、これは、薩摩の『チェスト―』ですね。
   『薩摩示現流一刀の構え』初太刀で、相手の武器共々、
   切り裂く剣です。初太刀にすべてをかけています。
幕末の動乱のとき、最も恐れられた剣術です。
怖いですね。初太刀を交せなかったら、お終いです。」
アナ「なんだか、怖くなってきました。」
高木「私もです。」

チェストーの宇藤は、木刀を掲げながら、動かなかった。
靖子も自然体で立ち、動かなかった。
その内、宇藤は、「チェストー!」と気合を入れて、向かってきた。
ものすごい気迫のこもった剣が、靖子に向かってくる。
『肉を切らせて、骨を断つ。』靖子は、心でそう唱えた。

剣が右斜め上から、襲ってきた。
靖子は、剣に合わせ、体を斜めにして、交わした。
宇藤の木刀の先が、畳の上を打った。
靖子は、木刀をねじり取り、そこから、宇藤を一投げした。
宇藤は、しばし、大の字になっていた。
起き上がった宇藤は、笑顔でいた。
「いやあ、恐れ入ったなあ。私の初太刀が交わされたのは、何年振りだろう。
 私の完璧な負けです。」
「いえいえ、怖くて、震えていたんですよ。」
「またまた。」と小谷は言って、にこにこと席に戻って行った。
靖子の上着の左右を合わせる紐が、切れていた。

その頃、観客は気が付いて来た。
「負けた人が、にこにこして帰って行く。」
「ほんと、不思議ね。」

アナ「交せましたね。」
高木「靖子さんの胸の紐が切れています。
   それほど、紙一重に交していたんですね。」
アナ「大きく交してはいけないんですか。」
高木「大きく交すと、自分のバランスを崩してしまいます。
   そして、相手に軌道修正をさせてしまいます。」
アナ「なるほど。」

雪之介「雲竜さん。かなり満足しておられるでしょう。
    和円流も合気流も同じ。試合の後、にこにこになる。
    ある意味、勝つことよりも、大切です。」
雲竜「この試合が、靖子を成長させておりますね。
   異種格闘技ならではです。これは、病みつきになりますな。」
二人は、あはは・・と笑った。

次の対戦は、女子レスリングだった。
そこで、畳の上に直径9メートルのマットが敷かれた。
ルールは、観客も競技者もわかりやすいように、
フリースタイル(体のどこを攻めてもいい)とフォール。
これは、両肩がマットに1秒間つけば、負けというもの。
細かいルールは、無しになった。円のマットから出ても、多少はよしとする。

高木ユキ「ミミの一番苦手と思う、レスリングよ。」
ミミ「極芯の人みたいに強そうじゃないけど、
   格技の筋肉とまるで違う筋肉をしてる。」
ユキ「ミミなら、どうする。」
ミミ「まずは、徹底的に投げられてみるしかない。」

選手の大蔵典子は、靖子とは同じ女同士。
男子選手が、すでに何人も負けている。
ここで、女子が勝てば、レスリングの強さがより理解される。
いい試合をしたいと思っていた。

そして、相手は、柔道着であることを第1に思っていた。
襟をつかみやすい。そこから、投げを打つ。
典子は、それが、決まり手だと思っていた。

「はじめ!」の声。
聞こえたが早いか、典子は、靖子の股の間と肩に手をかけ、
高く持ち上げて、靖子をマットに叩き付けた。
うおおおおおおと観客が声を上げた。
体に土を付けたことのない靖子が、初めて投げられた。

典子は、続けざまに、靖子を、持ち上げ、マットに4回叩き付けた。

アナ「高木さん、心配ではありませんか。」
高木「私の6年生で10段をとった超天才の妹が、
   レスリングの人とだけはやりたくないと言っていました。」
アナ「ええ?じゃあ、負けちゃうんですか?今まで勝ち抜いてきたのに。
高木「勝敗は、兵家の常ではありませんか。」
アナ「そんなあ。」

「マットは、思ったより痛くない。」と靖子は思った。

靖子は、投げに投げられていた。
だが、必ず足裏から落ちて受け身とする。
ビーンと典子が両足のタックルに来た。
それは、かろうじて、交わした。
典子は、次第に、靖子の柔道着を利用するようになった。
襟をつかみ、それを引いて、靖子を転がした。
袖をとって、背負い投げを打った。
マットのクッションと受け身を使い、
靖子のダメージは、見た目ほどでは、なかったのだ。

そのとき、典子に、本能的感受性が働いた。
これほど投げて優勢であるのに、蟻地獄に落ちるような恐怖を感じる。
『この人は、このくらいでは終わらない。
 何か怖い物を持っている。』

心配そうに、アナがそわそわしている。
高木「靖子は、合気流の技で勝ちたいだけなんです。
   レスリングの技は、合気流と正反対です。
   だから、合気流の技を出せるまで耐えているんです。」
アナ「そうも思えませんが。」

典子は、靖子の襟をつかみ、何度も靖子を投げた。
しかし、靖子は打たれ強く、いくら投げても起きて来る。
レスリングのハードな練習は、並のものではなかった。
だが、靖子は、それ以上のハードな練習をして来た人だと思った。
典子は、レスリングにない『襟』を使うことで、
レスリング本来の攻撃を少しずつ崩してしまっていた。
典子は、最後の決めのつもりで、靖子の左右の襟を重ね、
両の拳を、上下にして絞るように、靖子の襟に両手を食い込ませた。
そこで、気が付いた。どう投げていいかわからない。
互いの拳が邪魔で、左右に投げられない。
押せば、相手は下がるだけ。
両手でできるのは、柔道の巴投げくらいだ。
両手で握ったのは失敗だったか・・。
もう、こんなに強く拳を食い込ませている。
典子がそう思ったとき、初めて、靖子が動いた。
靖子は、脚を開いて、右肩を低くし、左肩を右肩に被せるように、
少しずつ体を曲げて行った。

典子は、焦燥の色を見せた。
そのときの典子は、靖子の襟を絞めているというより、
靖子の襟にしがみついているのだった。
観客の誰もが思った。『手を離せばいいのに。』
典子だってわかっていた。
しかし、どうしても、握った手を離せない。
なぜ、なぜ、なぜと思いながら、
靖子の体が、典子にかぶさるようになり、典子の両肩は、とうとうマットについた。
1秒後、典子の手は、靖子の襟から簡単に離れた。
靖子は、体のねじりだけで、典子を倒した。

「どうして、握った手を離せなかったの。」典子は聞いた。
「襟を離すと、あなたはマットに背中から落ちてしまう。」
 沈んじゃいけないので、あなたは、余計にあたしの襟に強くしがみつく。
 こうなったら、もう襟を離すことができないでしょう。」
「最後、簡単に離れたのは、なぜ。」
「もう、フォール(両肩を着く)したから、安心して、手を離すことができた。」
「はじめ、あれほどあたしに投げられたのは、なぜ。」
「合気の技では、レスリングには勝てないと思ったの。
 だから、あなたの技を、合気の技に近づけた。」
「あなたの襟を利用したとき、あたしは、合気の技に近づいてしまった。」
「両手で相手の襟を絞めるなんて、レスリングでは、絶対しないし、できない。」
なるほどと、典子は納得した。
最後まで、自分流を崩してはいけなかった。

典子は、靖子と握手をした。
「大切なことを教わった気がします。」と、典子。
「あたしも。レスリングは恐いと思っていた通りでした。」
二人は、にっこりして別れた。

最後、靖子さんの襟から手を離せなかったのは、
   なぜですか。」
啓子「うまく説明できず申し訳ないのですが、
   背広姿のお父さんが、正座していたとします。
   子供が来て、お父さんのネクタイをギューっと握りました。
   子供は、お父さんを捕えた気持ちです。
   でも、お父さんが腰を少しあげました。
   ネクタイはピーンと張ります。
   このとき、子供は、ネクタイから手を放すでしょうか。」
アナ「いいえ。もう少し持っていると思います。」
啓子「背の高いお父さんが、立ち上がりました。子供の体が、宙ぶらりんです。
   子供は、ネクタイを放すでしょうか。」
アナ「落ちるのが恐くて、放しません。」
啓子「はじめ子供は、お父さんを捕まえたつもりが、
   今度は、ネクタイにしがみついていますね。」
アナ「ああ、わかった。典子さんは、途中から靖子さんにしがみついていたのですね。
   だから、手を放せなかった。」
啓子「正確ではありませんが、そんなことだと思ってください。」
アナ「だから、靖子さんは、典子さんが両手で襟をつかむまで、
   ひたすら、投げられていたんですね。」
啓子「言い換えれば、レスリングには勝てないと思ったので、
   典子さんが、合気の技を使うまで、待っていたんです。」

(残すは、『最難関、棒術と薙刀』です。)


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プロフィール

ラック

Author:ラック
上は若いときの写真です。ISなので、体は、かなり女子に近く発育しました。でも、胸はぺったんこです。戸籍は男子。性自認も男子、そして女装子です。アメリカの大学で2年女として過ごしました。私の最も幸せな2年でした。そのときの自叙伝を書いています。また、創作女装小説を書いています。毎日ネタが浮かばず、四苦八苦しています。ほぼ、毎日更新しています。
どうぞ、お出でください。

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