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倉田洋之助物語②「棒術の宝蔵院」<第一部・完>

今回で<第1部>終了にしたいと思います。
いい切れ目がなく、終わりまで、一気に投稿いたします。
長くなっています。お暇なときにでも、
読んでくださるとうれしいです。<第一部 終了>
======================================    

竹林がうっそうとしたところに、棒術の宝蔵院がある。
なかなか立派な寺であり、棒術では日本一である。
そこへ入る竹林の空いたところに、猫の額のような畑がある。
畑に、一人頬かぶりをした老人がいる。
ムサシは、若干緊張していた。武者震いというところか。
洋之助は、ムサシより先に、畑の横を歩いて行き、
頬かむりの老人に、にっこり会釈をして、通り過ぎていった。
ムサシもその後を歩いたが、老人と思っていたその人物が、
恐ろしいほどの眼光を放ちこちらをにらんだ。
「わあっ!」とムサシは後ろへ、5mほど飛んだ。
ムサシは、その人物に、到底かなわぬと思い平服した。
「何か、私が失礼をしましたのでしょうか。
 それなら、非礼をお詫びいたします。」
老人はムサシに近づいて、さとした。
「あなたは、自分の殺気に驚いて、後ろに飛んだのじゃよ。
 あなたの殺気が、わしに跳ね返り、それが、あなたを襲ったのじゃ。」
「では、自滅をしたのですね。」
「ああ、自滅さえ出来ぬものが、あの寺に大勢おる。
 つまり、私の返した殺気すら、分からぬ輩だ。
 あなたは、殺気を感ずるだけ、彼らより強い。
 しかし、アイツらごときに、今のような大量の殺気はいらぬ。
 必要なだけ出すのじゃ。」
「ありがとうございます。前にいます友人の洋之助は、見事に殺気を使い分けます。」
「いかにも。彼は、殺気においては達人の域です。
 私が、試しに、細く小さく飛ばしてみた殺気を、彼は、さっとかわしました。」

「洋之助は、殺気の達人なそうな。うらやましい。
 俺も、何か1つでよい、達人と呼ばれたい。」
ムサシは、洋之助に追いついて、そういった。
『ムサシは、嫉妬というものを知らない。実に好人物。』
洋之助はそう思い、うれしく思った。

宝蔵院に近づくと、荒々しい音が聞こえた。
皆、武者修行に来ている浪人だ。
壁の木の長椅子に、順番を守り座っている。
挑戦者は、皆1発で終わり。壁に身の半分を突き出されている者もいる。
葉柄(ようへい)という大柄な院生が息まいて、「次!」と呼ぶ。
次はすぐにやられる。
ムサシの横で洋之助が何かしている。
ムサシの木刀の先にクッションを巻いている。
「なんだ?」
「相手も、棒の先にクッションをつけているからな。」と洋之助。

やがて、「次!」とムサシが呼ばれた。
大柄のムサシに対し、はじめて巨漢の葉柄が小さく見える。
ムサシが構えると、
「なんだそれは。われらには、クッションなどいらぬぞ。」と葉柄は威張っている。
「いや、五部と五部でいきたい。」とムサシ。
「よし、来い!」と葉柄が言ったとき、ムサシは、すでに宙に浮いていた。
そして、「エイ!」。上段から一発、葉柄に打ち降ろした。
葉柄は、白目を向いて、大の字に倒れた。
クッションがなければ、死んでいた。

「さ、もっと強い奴のところへ行くぞ。」
洋之助がムサシの袖をとって、逃げるように外に出た。
竹林を抜け、奥の院の前の少し開けたところがある。
洋之助は、竹林を過ぎたとき、身をムサシに向け、ミゾオチに一発、
強烈なパンチをいれた。
ムサシの巨体が、その1発で沈んだ。
洋之助は、春面と言う先ほどの和尚と、
華月という和尚が近くに来ていることに気が付いていた。

時は4時を過ぎていた。
奥の院の寺の入り口に、
器用にも武器であるカシの棒を垂直に立て、その棒の上を草鞋で挟み、
そこに胡坐をかいている者がいる。
棒1本の上にいる。
背は、160cmほど、顔は可愛い、丸坊主。
名は殷春(いんしゅん)、とても強そうに見えないが、宝蔵院で負け知らずで来て、
天才を欲しいままにして来た僧である。

洋之助は、竹林の出口から、殷春の曲芸にも等しい物を見ていた。
殷春ももちろん洋之助に気が付いている。

洋之助は、殷春の前の広場にゆっくりと出ていった。
そして、ビューンと握りこぶし大の石を、殷春の棒の付け根に投げた。
殷春は、とっさに、棒を挟んだまま、宙にジャンプし、
棒を立て直して、着地した。
まるで神業であるが、洋之助は、第2投目を、殷春の棒と体が宙にあるうちに、
殷春のミゾオチに入れていた。
急所ミゾオチに石を投げられ、普通なら、痛みでうずくまってしまうが、
さすが、殷春、その痛みを微塵も顔に出さなかった。

洋之助は、言った。
「殷春。神聖なる己が武器に、胡坐をかいて座るとは、何事ぞ。
 そんなことだから、俺の第1投で、お前は棒ごと宙に浮かねばならなかった。
 宙に浮けば終わり、右にも左にも行けぬ。
 無防備となって、俺の2投目をミゾオチに喰らうことになった。
 殷春。お前は、弱いな。」
「弱いか強いか、試してみるか。」殷春はそういって、棒から降りた。
「お前の武器は?」と殷春。
「お前と俺で1本棒があればいい。それと、石。」
「こう言うことか!」
殷春の棒がビューンと伸びて来た。
棒を両手で持つ殷春に対し、洋之助は、片手で棒を受け止めた。
両手の殷春、片手の洋之助、両者は、1本の棒をねじり合った。
腕力でも誰にも負けたことのない殷春が、片手の洋之助の棒をねじり返せない。
『こんなことが、あってなるものか。
 この状態は、すでに俺の負けを意味する。
 ヤツが、空いた手に石を持ち投げれば、そこで俺は終わりだ。
 殷春ともあろう俺が、こんなに簡単に負けてしまうのか。
 なんの棒術も使わぬまま、負けるのか。』

「そうだよ。」殷春の心の声が分かるかのように洋之助は言った。
「殷春が、両足を地について、棒を体の横に立てていれば、
 ミゾオチの石など、ぽんと棒で返して終わりだ。
 殷春の両手が、俺の片手に負けているのは、ミゾオチの石のためだ。
 普通ならもんどりうって痛がる所を、我慢している。
 それに、ほとんどの力を使っているのさ。
 今、脚さえも、使えない。跳躍もできまい。」

「なぜ、俺を殺さない。左手で石をなげれば一発だ。」
「殷春に殺気がまったくないからだ。オイラの殺気もゼロのはずだ。」
「どういうことだ。」
「殺気のない者同士、棒を振るのを何という。」
「チャンバラか。」
「殷春は、チャンバラの相手が欲しい。つまり、殷春は一人淋しくてたまらない。」
殷春は、力尽きて棒を離し、洋之助の前に手を突いた。
洋之助は、その前に正座した。

「俺は、宝蔵院の連中に追い出されたんだ。
 あいつらは、俺に嫉妬した。」殷春。
「みんなの気持ちが、今も同じとは限らないよ。
 殷春を失って、深く反省しているかも知れない。」
「俺も、いけなかった。強いことを鼻にかけ、生意気だった。
 これからは、いろんな技を、みんなに惜しみなく伝えたかったのに。」

春面は華月と共に、涙ながらに来た。
「殷春、宝蔵院に戻る気になったのか。」と春面。
「和尚様。自分のような人間でも、友の役に立てるかも知れないと思いました。
 私は、生意気でした。嫌われてあたりまえです。それを、人のせいにしていました。
 こんな私をずっと見守ってくださっていることを、知っていました。
 いつも感謝していました。ありがとうございました。」
「うんうん。」と春面はうなずいた。

 そのとき、おおおおおと声をあげて、宝蔵院の連中がやってきた。
 大男の葉柄を先頭に、みんなは、殷春に両手を付いた。
「華月さまから、殷春が戻ってくるかもしれぬと聞いて、迎えに来た。
 殷春、許してくれ。俺は殷春に嫉妬し、仲間を作ってお前を追い出した。
 卑怯だった。最低だった。
 殷春がいなくなってみて、俺らは、殷春がどれだけ大切な仲間だったか気が付いた。
 何度後悔したかわからぬ。皆も同じ気持ちだ。
 殷春のいない宝蔵院は、宝蔵院ではない。」
葉柄と仲間は、顔中涙だらけにして言った。

殷春は、膝を地について、葉柄の手を両手に取った。
殷春も泣いていた。
「淋しかったのだ。皆から離れて一人、淋しくてたまらなかったのだ。
 悪いのは、すべて俺だ。俺は、自分が強いと思って、いい気なり、
 強さを鼻にかけていた。嫌われて当たり前だった。
 俺は、自分だけが強くなればいいという考えを捨てた。
 仲間みんなで強くなる方が、どれだけの喜びか、それがわかった。
 俺にできることは何でもする。また、俺を迎えてくれるか?」
「あたりまえだ。」
葉柄は言った。
皆は、おおーと声を上げた。

殷春の荷物をもって、皆は、宝蔵院に帰って行った。
華月もそれについていった。

春面は、にこにこしている洋之助のところにやってきた。
「あなたという方は、なんという。
 あなたは、彼らの喜ぶ姿を心に描いて、ここに来てくださった。」
「いえ、運がよかっただけです。」
「洋之助殿とおっしゃいましたね。もしや、倉田洋之助殿では。」
「はい、そうです。」
「なんと、では、鷺の院を卒業された。」
「あ、はい。やっと院の名前を思い出しました。」
「800年に一人の卒業生。只一人の免許皆伝。
 殷春へのご対応、うなずけます。」
「そんな、そんな。わたしは、あそこに伸びていますムサシが、
 人を殺さぬよう、ついて回るのを、当面の目標にしています。」
「そうですか。ムサシ殿も幸運な。」
「では。」

洋之助は、ムサシの気を戻し、
「ムサシ、引き分けだ。また来よう。次の殷春殿は、今日の比ではないぞ。」
そう言って、ムサシを肩に背負い、和尚に礼をしていった。
春面は、洋之助を、惚れ惚れと見送っていた。


<第一部>完

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プロフィール

ラック

Author:ラック
上は若いときの写真です。ISなので、体は、かなり女子に近く発育しました。でも、胸はぺったんこです。戸籍は男子。性自認も男子、そして女装子です。アメリカの大学で2年女として過ごしました。私の最も幸せな2年でした。そのときの自叙伝を書いています。また、創作女装小説を書いています。毎日ネタが浮かばず、四苦八苦しています。ほぼ、毎日更新しています。
どうぞ、お出でください。

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