痴漢に間違えられた光男(後編)

ことは、光男がケータイの動画を思い出せばいいことなのでした。
それが、なかなか思い出さなかったのです。
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痴漢に間違えられた光男(後編)


係り員の安田は、人が好さそうで可愛い顔をした梅原光男が、痴漢男だとは、
長年の勘で、どうしても思えなかったのである。

安田は、もう一度、芳江に念を押した。
「もし、間違いだったっとき、あなたは、名誉棄損罪で、学生さんに、
 慰謝料を払えますか。
 家族が崩壊するような事態を招くなら、1000万、2000万の話ですよ。」

「そんな事態はありえません。考えられないことは考えません。」
「はっきり、言ってくださらないと困ります。」
「わかりました。いくらでも、払います。借金をしてでも払います。」

係り員の安田は、一息ついた。
「それなら、警察に3人でいきましょう。
 谷中さんは、幸いエナメルではないが、光沢が少しあるスカートを履いてらっしゃる。
 指紋が取れるかもしれません。
 また、学生さんは、その男に手首を握られたのなら、
 学生さんの手首に、その痴漢の指紋がついているでしょう。
 手を洗わないようにしてください。
 この二つで、学生さんが痴漢かどうかはっきりするでしょう。

 そして、お2人に言っておきます。
 ここでの話と警察での事情聴取は、違います。
 憶測でのことなら「~と思います。」と言ってください。
 はっきり見たり、聞いたりしたことなら、断定的に言ってもいいです。
 谷中さん、いいですか。」
「いいです。」
「あなたは、痴漢者の手と梅原光男さんの手が、
 同一人物のものだったと言いましたが、どうやってそれを知り得たのですか。
 警察は、そう聞いてきますよ。谷中さん、練習です、答えてください。」
安田の語調が厳しくなった。
谷中芳江は、安田にそう聞かれて、初めて、ほとんど思い込みで
ものをしゃべって来たことに気が付いた。
痴漢者の手を見たわけでもない。痴漢者さえ、恐くて見られなかった。
手を捕まえてみると、若くて可愛い感じの学生で、内心驚いたのだった。

「それは・・。」と、芳江はうつむいた。
「それは、この学生さんが、あたしのお尻を触ったのは、確実だからです。
 あたしのお尻を触る手をつかまえたのですから。」
「それは、梅原さんも認めています。
 梅原さんは、別に痴漢男がいると言っているのです。
 私が、あなたに聞きたいのは、10分間の内、あなたが、首を曲げて、
 この梅原さんがお尻を触っているのを直接見たとか、
 あなたの右にいた梅原さんに対し、あなたの左側には、だれもいなかったとか、
 真後ろにも、誰もいなかったとか、
 あなたが、実際に見て、根拠となることを聞いているのです。」

「左には、サラリーマン風な人がいましたが、あたしより後ろに立っていて、
 よく見えませんでした。後ろに人がいたかどうかは、わかりません。
 痴漢されている最中は、そのことで頭がいっぱいで、
 そんなこと冷静に見ることができませんでした。」
「左の人ではなく、いたかもしれない後ろの人でもなく、
 痴漢は、この学生さんだと決定付ける根拠があるなら、言ってください。
 捕まえた手が学生さんだったは、もうなしですよ。」

「どうして、私ばかりに、そう強くおっしゃるのですか。私は被害者ですよ。」
と芳江は反撃した。

「被害者が、恐ろしい加害者になることがあるからです。
 あなたは、憶測でしかないことを、事実のように話すからです。
 そして、言っていることが、矛盾だらけだからです。
 それに、比べて、梅原さんの言っていることは、きちんと筋が通っているのです。」

安田「梅原さん。痴漢を捕まえるとき、何か声を発しましたか。」
光男「はい。『こら、待て!』と言いました。
安田「谷中さん。『こら、待て!』という声を聞きましたか?」
芳江「はい、聞きました。」
安田「それは、この梅原さんの声でしたか?」
芳江「よくわかりません。」
安田「梅原さん。『こら、待て』とそのときのように言ってみてください。」
=光男、「こら、待て」という。=
芳江「間違えありません。今の声でした。」
安田「最後にあなたのお尻を、指をなすりつけるように触ったのは、
   『こら、待て』の前ですか。後ですか。
芳江「『こら、待て』が聞こえたすぐ後で触られました。
    1秒ほど後です。」
安田「梅原さんが10分間の痴漢者だとしましょう。
    すると『こら、待て』は、梅原さんの一人芝居だとなります。
    梅原さんは、こら待て、と言って、その後、再び谷中さんのお尻を、
    触りに戻ったことになります。変だとは思いませんか。」
(芳江は、考えていた。)
芳江「とても変です。自分で『こら、待て』と言ったなら、
   自分が犯人ではないというカムフラージュです。
   痴漢を追いかける振りをして、一刻も早く、走って車内を出たはずです。
   それを戻って来て、また、あたしのお尻を触るなんて、ありえません。
   周りの人から見ても、完全に変です。」

安田「梅原さんの始めの説明なら、おかしくないと思いませんか。」
芳江「梅原さんは、犯人を『こら、待て』と言って捕まえた。
    犯人は逃れようとする。そして、逃れ、去り際に、梅原さんの手を、
    あたしのお尻に撫でつけ、罪を学生さんに被せ、逃げて行った。
    あたしが、学生さんを捕まえたので、学生さんは、もう追いかけられなかった。
    これなら、とても自然です。」
安田「この1点で、梅原さんは、痴漢男ではないと決めてもいいと思いますか。」
(芳江は口を閉ざし、うつむいて考えていた。やがて、答えた。)
芳江「梅原さんは、痴漢男ではありません。痴漢男を捕まえてくれようとした人です。」

芳江は、固まり、空気の抜けたような様子で、そう言った。

「あのう。」と光男は、声をかけた。
「なんですか。」と安田。
「ぼくは、もっとも大切なものを忘れていました。
 急に痴漢扱いされ、気が動転していましたから。
 ぼくは、痴漢男を捕まえようと思って、その証拠になるよう、
 スマホの動画で撮っていたんです。
 これを早く思い出せば、一気に解決だったのに。
 すいませんでした。」
「ほんとですか。」と安田は、明るい顔をした。

3人で、動画を見た。
半袖の光男に対し、痴漢男は、Yシャツのスーツ。
お尻を触っているところから、男の横顔。
そして、女性のスカートと上に来ているブラウス。
それは、今着ている芳江の服装と一致している。
すべてが、一目瞭然だった。
光男の無罪は、火を見るより明らかっだった。

「ああ、これで、完全解決です。
 もう、警察に行く必要もありません。」と嬉しそうに安田が言った。

芳江は、顔に手をあてた。
「すみませんでした。ごめんなさい。ごめんなさい。」
とくり返し、泣き出してしまった。

「ごめんなさい。あなたを犯罪者にするところでした。
 大勢の人の前で、痴漢呼ばわりしました。
 自分が絶対正しいと思い込んでいました。
 私のために、犯人を捕まえようとしてくださった方を、
 犯人にしてしまうところでした。
 あなたを退学にしてしまうところでした。
 あなたが、働いていたら、あなたの家庭を壊してしまうところでした。
 あなたを自殺に追い込んだかもしれません。
 慰謝料をいくらでも払いますといいましたが、
 貯金は、300万円しかありません。
 あとは借金をしてでも、1000万円、お支払いします。
 すいませんでした。ごめんなさい。
 あなたに、どう償えばいいのか、わかりません。」
 芳江は、両手で顔を覆って号泣した。

「よかった。痴漢の多くは、証拠不十分で、犯人を裁くことができません。
 反対に、冤罪によって、一家が崩壊してしまうこともあります。
 今回の光男さんのように、動画に撮ってあることなど、
 めったにあることではありません。
 今回の映像は、谷中さんの顔は写っていないし、コピーさせていただいていいですか。
 同じ男は、2度、3度とくり返しますから。」
「はい。もちろんです。」

光男は、芳江に言った。
「ぼくとしては、わかっていただければ、それでいいんです。
 むしろ、あの痴漢を取り逃がしたことが、残念でなりません。
 そのことを謝りたいくらいです。
 お金なんて、一銭もいりません。
 ぼくは、まだ、何も損害を被っていません。
 間違いから生じる悲劇もあるのでしょうが、
 今回は、間違いが晴れて、よかったと思います。

 安田さん。ぼくは、この方に何も要求しません。
 分かってくだされば、それで十分です。」

安田も芳江に言った。
「谷中さん。まだ、梅原さんに損失が発生していませんから、
 慰謝料など、考える必要はありません。
 今、あなたが、謝ったことで十分でしょう。」

芳江は、やっとハンカチをとって、光男を見た。
「許してくださって、ありがとうございます。
 それならば、せめて、昼食でも、ご馳走させてください。」
そう言った。
「はい。お腹がすいていました。」
芳江は、やっとかすかに笑った。
安田にお礼を言って、退室した。

イタリア風のレストランへ行った。
よく見ると、光男は、大変可愛い男性だと、芳江は思った。
光男も、芳江が大変な美人だと気が付いた。

電話番号と住所を交換した。

光男は思った。
痴漢に間違えられたことは、災難だったが、
こんなに綺麗な女性とお近づきになれた。
今日は、結局、ラッキーな日だったのかな。


<おわり>


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プロフィール

ラック

Author:ラック
上は若いときの写真です。ISなので、体は、かなり女子に近く発育しました。でも、胸はぺったんこです。戸籍は男子。性自認も男子、そして女装子です。アメリカの大学で2年女として過ごしました。私の最も幸せな2年でした。そのときの自叙伝を書いています。また、創作女装小説を書いています。毎日ネタが浮かばず、四苦八苦しています。ほぼ、毎日更新しています。
どうぞ、お出でください。

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