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江戸町遊び人・油川京之介④「彩芽に仔細あり」

油川京之介をまた、始めようと思います。
今度こそ、完結編まで書きたいです。
間が空きましたが、読んでくださるとうれしいです。
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江戸町遊び人・油川京之介④「彩芽に仔細あり」

 
4人のゴロツキをやっつけてから、二人は足早に帰路についていた。
「ねえ、京之介は、ものすごく強いのね。知らなかった。」
と彩芽は言った。
「それほどでもないよ。彩芽こそ、あの首浪人のお皿を打ったじゃない。
 あの浪人は、道場なら、4、5段の強さだよ。
 彩芽、相当剣道やったんだね。」
「うん、剣道やったのは、ほんと。
 でも、京之介の方が、ずっとずっと強い。
 お店に帰ったら、二人で剣道やろう。裏庭で練習できるの。」
「うん。いいよ。」
二人は、そんなことを話していた。

そして、もう野次馬は、後ろに遠くなったと思い、安心していると、
前に、編み笠の武士が立っていた。
並々ならぬ気配を発している。
彩芽もそれを感知したのか、歩を止め、ごくりと喉を鳴らした。
強い。
このお侍は、とてつもなく強いと京之介は感じた。

「4人を倒すのを見ておった。見事なる剣。
 しかし、私の剣を交わせるかな?」と編み笠の武士は言う。

武士は、左にさしている刀に右手を置いて、やや身を沈めていた。
サヤは、峰打ちの向きだ。殺気はない。
居合か?
京之介は思った。
彩芽を遠ざけた。

武士が「エィ。」と横一文字に剣をなぐった。
閃光が走るほどの速さだ。
だが、京之介の方が早かった。
京之介は、すでに、武士の右の肩のところに、身を移していた。
つまり、武士が、横一文字に切り終わったとき、武士の腕の後ろに京之介がいるのである。

京之介は、やってきた武士の手首を受け止め、90度ひねり、刀を落としめ、
武士のひじを山形に曲げ、ひじを向うに押し、手首を引き付けた。
これで、「腕固め」の完成。武士は、びくとも動けない。

「参りました。」と武士が言ったので、京之介は、手を離した。

「見事な。こんな受け方がありますか。考えもしなかった。」
武士は、そう言って地面に両膝をついて、編み笠を取った。
「あなたが、4人のゴロツキをあっという間に倒したのを見て、
 私は、足早にここにきて、あなたを待っていました。
 一手浴びせて、あなたがどう動くか知りたかったのです。
失礼の段、何卒、お許しあれ。」
武士は、そう言って、地面に手をついた。

「私は、桶川町・千葉道場の千葉重三郎と申すものです。
 できますれば、あなた様のお名前と道場をお聞きしたい。」武士はそう言った。
京之介は、女装をしているので、名乗るわけにはいかず、
「名は、仔細があって申せませぬが、神保町の大川合気流道場のものです。」
そう言った。
「そうですか。大川道場には、あなたようにお強い方が、ゴロゴロいるのですか。」
「それは、わかりませんが、私は、道場で誉められたことがありません。」
「あはは、ご冗談を。今日は、自分の未熟を知りました。ありがとうございました。
 道場主の、雪之丸様、桔梗様によろしくお伝えくだされ。」
武士は、そう言って、立って一礼して、編み笠をかぶり去って行った。

彩芽が来た。
「ね。千葉重三郎って、千葉道場の塾頭じゃない。一番強い人。」
「うん、多分ね。」
「わあ、京之介、すごーい!」と彩芽は大はしゃぎだった。


茶屋に帰ると、彩芽は、婆様に、京之介のことを興奮気味に話した。
「まあ、京之介さんは、そんなに強いのかい。」
婆様はうれしそうに言った。
「だから、婆様、あたしの髪をまっすぐに下ろして、
 あたしの剣道着を出して。」
「まあ、忙しい子やなあ。」と婆様は、顔をほころばせた。

彩芽は、せっかく結った島田の髪をまっすぐに下ろして、
肩の上あたりで結んだ。
彩芽は、コメカミの髪を頬のあたりで切って房にして垂らしていたので、
それが、乙女らしくて可愛かった。

京之介も、髪を戻してもらい、後ろできっちり1本に結び、
いつもの白い道着に着替えた。
彩芽も、白い道着だ。

裏庭は、地面が土だった。
二人共草鞋を履き、裏庭に行った。
婆様も、縁側で見ていた。
「ね、あたし、稽古相手がいないから、こんなことやってるの。」
彩芽は、竹刀を持ち、5本の薪を宙に投げ上げた。
そして、落ちてくる薪を5本とも、見事竹刀で打ち当てた。
婆様が、にっこりしていた。
「わあ、彩芽すごい。ふつうできないよ。」と京之介は言った。
「京之介なら、軽くできそう。やって見せて。」彩芽は言った。

「目隠しして、できると思うよ。」京之介は言った。
「うそ!ほんと?」と彩芽は飛び上がり、婆様の手拭いを借り、
京之介に渡した。
目を隠した京之介は、竹刀を持ち、5本の薪を上に投げ上げた。
そして、落ちてくる薪を、すべて、打ち当てた。

「わあ~、すごい。どうして?どうしてそんなことができるの?」
と、彩芽が興奮気味に言った。
「あたしも、不思議です。なんで、わかるんですか。」婆様も言った。
「う~ん。練習した訳じゃないですが、なんか、わかるんです。」
と、京之介は、頭を掻きながら、婆様に言った。

「大川合気流は、無手が本流なのね。
 彩芽、私に思い切り打ち込んできて。」
京之介は、そう言って、自分の竹刀を脇に置いた。

京之介になら、手加減はいらない、
彩芽は、上段に構え、思い切り京之介の「面」を打ちに行った。
すると、京之介は、紙一重に彩芽の竹刀をよけ、
半身になって、竹刀の横にいる。
「わあ、すごい。」と彩芽は、感激し、
何本も面を取りにいった。
しかし、どうしても京之介が避けるのが早い。
「これが、最後。思い切り打ってきて。」京之介が言う。
彩芽は、全力で、打ち込んだ。
すると、京之介は、避けた後、ぱっと彩芽の竹刀を奪った。
「わあ、京之介は、やっぱり強いんだ。あたし、うれしい。」
彩芽は、そういって、京之介に抱き付いた。
お婆様も、感心して、何度もうなずいていた。

その日、婆様から、夕の膳を食べて行ってほしいと言われ、
京之介は、彩芽の部屋の上座に座っていた。
待っていると、彩芽は、島田の髪に戻り、艶やかな着物に着替え、
京之介の膳を持ってきた。
そして、一度控え、その後、婆様と二人でやって来た。

二人は、並び、正座をして、三つ指をついて、京之介に頭を下げた。
何か、改まった風である。
何事かと京之介が、見ていると、婆様が、話し始めた。

「京之介様に、私達の仔細をお話しいたします。
どうぞ、お聞きくださいませ。
 私達は、京都の武家・木下の家のものどす。
 彩芽が、3歳のとき、父新八郎が、御前試合にて、命を落としました。
 試合では、寸止めか、決め技で試合は終わるはずですが、
 相手の武士は、恨みでもあったのか、
 判定が下った後も、新八郎を木刀で殴り続け、
 それが元で、新八郎は、3日後に息を引き取りました。
 相手の武士は、菅原清右ヱ門という侍で、松下藩に属し、
 今、江戸で3大道場の一つ、松下道場に通っています。

 我が家は、新八郎の死後、母光代は、病気で他界し、
 この婆と彩芽だけが残りました。
 父の敵討ちをと、彩芽には、剣道を10年間習わせました。
 彩芽は才能が有り、5、6段の腕前であるようでしたが、
 年齢制限で、3段以上はいただけませんでした。

 私達は、彩芽の父、新八郎の敵討ちをと意を決しましたが、
 仇討は、御法度であり、通行手形など、もらえませんでした。
 しかし、無念を忘れることができず、菅原清右ヱ門を追って、
 この江戸へ向かいました。
 それが、途中、運好く旅芸人の一座に入れてもらい、彩芽は女子の姿で、
 踊りや三味線を習いながら、この江戸まで、やってくることができました。
 彩芽は、生まれた時から、心が女でしたから、
 女になることを嫌がりませんでした。

 敵・清右ヱ門は、男色の趣味があると知り、
 清右ヱ門が来るかもしれないと思い、貴重品を売ったお金で、
 陰間茶屋を営み、待ち受る日々でした。

 私達は、敵討ち禁制の今、菅原清右ヱ門の命を狙おうとは思っていません。
 ただ、御前試合で、不当に息子新八郎を叩きのめした清右ヱ門に、
 せめて、『面』の1つでも、打ち込みたいと思っている次第です。」

隣で、彩芽は、涙を流していた。

そうだったのか・・とうなずきながら、京之介は聞いていた。
彩芽が、5、6段の腕前であることは、
首侍の頭の皿を叩いたときに、思っていた。

「仇の菅原清右ヱ門は、知っています。
 確か、松下道場の3番手です。
荒々しい剣を使う男です。
 千葉道場と並び、名門の松下道場の3番手は、恐ろしく強いでしょう。」
京之介は言った。

「はい、彩芽だけでは、無理だと思います。
 そこで、京之介様の腕を拝見しました今、
 京之介様に、助太刀をお願いできないかと、
 こうして、お願いに上がっています。
 なにとぞ、助太刀の件、お引き受けくださいますようお願い申し上げます。」
婆様と彩芽は頭を下げた。

「私など、菅原清右ヱ門には、到底及ばないと思いますが、
 助太刀は、お引き受けします。」京之介はあっさりと言った。

「本当!」と彩芽は京之介を見た。

「うん。これは、彩芽にまだ、相談していないことだけど。」
と言って、京之介は、彩芽を見た。
「婆様。私は、彩芽と夫婦(めおと)になりたいんです。
 だから、妻となる人のためなら、何でもします。」と京之介。

「そ、それは本心ですか?」と婆様。
「京之介、本当?」と彩芽。
「うん。本心。」と京之介。
「だって、あたしは男なのに。
 それに、京之介は、天下の油屋の御曹司なのに。」彩芽。
「この世で、私のような者を理解してくれるの、彩芽しかいない。
 女の姿をした彩芽が、好きでたまらない。
 彩芽と一生寄り添っていけたら、どんなにいいかって、ずっと思って来た。」

「京之介。本気?本気だったら、あたし、うれしい。」
彩芽は、そう言ってポロポロと涙を流した。
「婆様、お許しをいただけますか。」と京之介。

「お許しも何も、まあ、うれしい。仇討が成ったときより嬉しおます。」
と、婆様も泣き出した。

「願いが叶うよう、作戦を三人で考えましょう。」
京之介は、にっこりと言った。

その後、三人で膳を囲み、楽しい夕餉が過ぎていった。


(「油川家へ結婚の許しを求める」につづく)


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プロフィール

ラック

Author:ラック
上は若いときの写真です。ISなので、体は、かなり女子に近く発育しました。でも、胸はぺったんこです。戸籍は男子。性自認も男子、そして女装子です。アメリカの大学で2年女として過ごしました。私の最も幸せな2年でした。そのときの自叙伝を書いています。また、創作女装小説を書いています。毎日ネタが浮かばず、四苦八苦しています。ほぼ、毎日更新しています。
どうぞ、お出でください。

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