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IS 看護師 江崎裕美⑥「弘美はアイドル」

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<第6話>「裕美はアイドル!」


初勤務より5日が経った。
裕美が男の子であることに驚いたみんなは、
裕美がT大卒であることを忘れていた。
だが、みんなは、だんだんそれを思い出していた。

裕美は仕事が驚くほど速い。
裕美のPCを打つ速さが、断トツに速い。
だから、裕美は、仕事が終わると、まだの人の仕事を手伝う。
PC操作のわからない人がいると、裕美は呼ばれて、すぐに教えに行く。

裕美は、外科病棟の全入院患者の名前を覚えていて、
どこの手術をしたか、全て把握している。
外科病棟と言っても、外科の手術だけで入院してはいない。
内科の疾病を抱えながら、外科手術が優先であるために、
外科に入院している患者もいる。
裕美は、そこまで、全部把握していた。

ナース達は、担当以外の患者の病室に行くとき、
裕美に少し聞く。
「あの915の小杉さん、骨折の他に何かあったかしら。」
「はい。結核の疑いで、強いお薬を呑んでいますから、
 その副作用があると思います。」と裕美。
「どんな副作用?」
「えーと、視野が暗くなるとか、震えが来るとか、食欲が落ちます。
 だから、そんなところをお聞きになるといいと思います。」
裕美は、にっこりと笑う。
「ありがとう。」とナースはうれしそうに、裕美の頬にチューをした。

新しいナースが来たとき、患者は、自分の病状を知っていてほしいものだ。
そこを、ずばり、
「視野の方は、いかがですか。まだ景色が暗く見えますか?」とか、
「食欲の方は、いかがですか。」など、聞かれることはうれしいことだ。
これらは、患者日誌を見れば、だいたいわかるが、
毎日それをチェックするのは容易ではない。
その点、裕美は、患者の最新状態を知っているのだ。

そんな裕美に対して、嫉妬の目で見る人は、この病棟にはいない。
「裕美のような優秀な子がいて、ラッキー!」とみんな思っているのだ。
それは、1つに裕美の性格の好さもあった。

そんなある日。
みんなが、裕美の希少価値をはっきりと思う出来事があった。
自転車とぶつかり、大怪我をして、救急車で運ばれてきた男性がいた。
手術の後、入院となり、外科病棟の病室に来た。
頭や、腕、脚に包帯を巻かれた30歳くらいの患者だった。
東洋系の外国人なのだ。
困ったことに、彼が誰だか、特定するものがない。
衝突のとき、バッグが飛ばされたようなのだ。
彼は、しきりに何かを言っていた。
一生懸命、何かを伝えようとしていた。

担当の医師佐伯浩司や看護師の上原洋子、篠田沙月は、困っていた。
患者は、大事なことを言おうとしているのかも知れない。
佐伯は、困り果て、ナースステーションに来た。
「誰か、あの人の言葉が分かる人いませんか。」
ええ?とナース達は言って、その病室に押し掛けた。
「英語なら、なんとかわかるのに。」
「あたし、ハングル語なら、入門だけどわかるけど。
 何語なんだろう。」
そのとき、後ろから声がした。
「あのー、あのー、私、わかります。」
みんな声の主を見た。それは、江崎裕美だった。
裕美は、前に出てきた。
「この方は、ベトナムの方です。
 誰か、ベトナム語が分かる人いませんか、とくり返されていました。」
裕美は、患者に、ぺらぺらと話した。
すると患者は、裕美を見て、嬉しそうに安堵の色を顔に浮かべた。
患者は、裕美に、いくつかのことを話した。
裕美は、うなずいた。
「この方は、ユン・グーという方で、
 腎不全の妹さんに、腎臓移植のドナーとして来られたそうです。
 あさってが、その手術の予定日だそうです。
 今朝、日本に来て、妹さんに会いに来られたそうです。
 でも、この事故で、手術に間に合わないかと、それを心配されています。」

佐伯主治医は、
「妹さんの病院を聞いて。」と言った。
裕美は、話した。
ユンさんの言葉に、裕美はにっこりした。
「この麻布の森病院ですって。
 多分、11階の腎内科・透析病棟だと思います。」
わあ~とみんなは歓声を上げた。

高坂美由紀外科部長は、佐伯医師に聞いた。
「佐伯先生。この怪我で、あさっての腎移植できますか。」
佐伯は言った。
「深い傷は負ってませんので、大丈夫ですよ。
 移植手術は、1時間ほどで終わりますから。
 ドナーの負担は、少ないです。」
「わあ~よかった。」とナース達は、拍手をした。

裕美は、それらのことを、ほぼ同時通訳で、ユンに伝えていた。
ユンは、安心して、目を潤ませた。

みんなが、去った後、ユンと裕美でこんなことを話した。
ユン「私は、ここが麻布の森病院とは知らなかったのです。
   救急車で運ばれましたから。
   知っていれば、妹を呼んで通訳してもらうところでした。
   でも、あなたがいてくれました。
   どうやって、ベトナム語を学ばれたのですか。」
裕美「高校のとき、フォンというベトナムからの留学生がいました。
   私達は、大の仲良しになり、彼女から、ベトナム語を習いました。」
ユン「そうですか。あなたのベトナム語は、限りなくネイティブに近い。
   素晴らしいです。」
裕美「それは、フォンから、耳で聞いて覚えましたから。」
ユン「そうですか。このベッドで、腎移植のことを思ってパニックになっていたとき、
   あなたの美しいベトナム語を耳にしました。
   どんなに嬉しかったことでしょう。」
裕美「お役に立てて、うれしいです。これから、手術が終わるまで、
   私は、ユンさんのおそばにいると思います。」
ユン「そうですか。心強いです。」
裕美は、にっこりと、ユンを見つめ、うなずいた。

その頃、ナースステーションは、大騒ぎだった。
「やっぱり、江崎さんは、ただ者じゃないわ。
 ああ、今日ステキだったわ。」
「そう、江崎さんのベトナム語聞いたとき、感激して震えちゃったわ。」
「江崎さん、T大出だって、覚えてる?」
「あ、そうっか。だから、ベトナム語もできるのね。
 きっと英語はもちろんのこと、ドイツ語も、フランス語もできそう。」
「ああ、可愛いし、この外科病棟のアイドルだわ。」
「ファンクラブ、作ろうかしら。」
「それは、大袈裟でしょう。」
「そうね。」
あははははとみんなは大笑いをした。

そこへ、裕美が戻ってきた。
みんなは、一瞬黙ってしまったが、せーので、大拍手をした。
「な、なんの拍手ですか。」と裕美は言った。
「江崎さんが、この外科病棟のアイドルって決まったのよ。」
「え、そんな恥ずかしいです。」と裕美は言った。
何人かが、裕美の頬にキスをした。
多くの人が、裕美が男子であることを忘れていた。

ユンのバッグは、届けがあり、警察を通じで戻って来た。
ユンと妹との移植手術は、成功した。
ユンは、その2日後に退院した。
ユンにとって、裕美は忘れ得ぬ人となった。


■次回予告■

次回は、ちょっとえっちなものを書く予定です。


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Author:ラック
上は若いときの写真です。ISなので、体は、かなり女子に近く発育しました。でも、胸はぺったんこです。戸籍は男子。性自認も男子、そして女装子です。アメリカの大学で2年女として過ごしました。私の最も幸せな2年でした。そのときの自叙伝を書いています。また、創作女装小説を書いています。毎日ネタが浮かばず、四苦八苦しています。ほぼ、毎日更新しています。
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