良夫と礼子のスワップ②「礼子が今までとちがう」

当局からのお達しで、このブログは、消去されるかも知れないという状況です。
今、その事態に備えて、引越しを考えています。
もし、引越しをするなら、次のブログのタイトルは、「新・女装小説&自叙伝」にします。
もし、このブログが消えていましたら、新しいタイトルで検索して来てくださるとうれしいです。引越し後、このブログを残せるなら、このブログでやって行きます。

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<ここからは、礼子を良夫、良夫を礼子と記述します。>

礼子は、自分の部屋に入って感激した。
広い。ピアノがある。
驚くことに、部屋の一角が、菊模様のガラス張りの浴室になっていて、
強力な除湿ファンがある。
衣装ダンスを開いて、さらに感激。
ステキなお嬢様服がぎっちり並んでいる。

『早速、着替えよう。』
そう思って制服を脱ごうとした。
『あ、礼子の下着姿が見えてしまう。
 見ていいのかな。どうしよう。』
そう思いながら、制服を脱いだ。
鏡で、全身を映してみた。
見事なプロポーションだ。
脚が長くて、くびれたウエスト、
Cカップの胸。
これなら、何を着ても似合いそうだ。
さすが、自分が憧れた女の子だけのことがあると思った。

礼子は、明るいベージュのワンピースを着た。
靴箱の中から、茶のパンプスの部屋履きを履いた。
ああ、女の子の服を着ている。
礼子の姿で。
ああ、感激。ああ、うれしい。
礼子は何度も鏡を見た。

だが、ふと思った。
良夫は、どうなっているのだろう。
良夫はいるのだろうか。
いるとしたら、誰が良夫になっているのだろう。
自分が、礼子になっているなら、ひょっとして、礼子が自分になっているのか。
だったら、最悪だ。
礼子は、きっと何にもできない。
礼子も辛いだろうし、家族はもっと困る。
弟の五郎、健太がお腹をすかして、泣いている光景が心に浮かんだ。

礼子は、遠藤のところへ行き、夕食の7時には絶対帰ってくる、と言って、
家を出た。



良夫(=礼子)は、必死に帰ってきた。
洗濯物。ベランダのものを取り込んだ。
これを、仕分けるのだ。
兄弟の名前は浮かぶ。由紀、五郎、健太。
由紀は女の子だからわかる。
五郎と健太の区別がわからない。
サイズを比べて、どうにか仕分けをした。
自分なりに畳んだ。

次は、料理だ。
自分がやらないと、夕食にならない。
みんな、お腹をすかしている。
夕食は、7時だ。
洗濯物に手間取って、あと30分しかない。
なんとか作らなくては。
ああ、でも、できない。
お料理なんて、家庭科の授業で、ご飯と味噌汁を作っただけた。
他には、何を作ったらいいの?
良夫は、泣きたくなって来ていた。

せめて、妹の由紀が、いてくれたら。
でも、自分の当番でないので、友達と遊んでいるんだ。
良夫は、お腹をすかして帰ってくる母や、
夕食の時間を待って、おやつを我慢している弟たちのことを思った。

良夫は泣きたくなった。
実際、涙が止まらなくなった。
自分の体が、良夫になっただけでショックなのに、
そのショックに浸る間もなく家の仕事に追いまくられている。

良夫の姿をしている礼子は、女の子座りをして、キッチンで泣いていた。

そのとき、ピンポンとチャイムが鳴った。
「どなたですか?」と聞くと、
「あたし、礼子。良夫くん、開けて。」と声がした。
『あたしになった子だ。』と急いで玄関扉を開けた。
入ってきたのは、礼子だった。

「良夫くん、夕食つくれないでしょう。」と礼子になった子は言う。
「うん、作れなくって、泣いていたの。あなた、だれ?」
礼子は言った。
「ぼく、良夫だよ。助けにきたんだよ。」
「ね。待って、どうしてこんなことになってるの。
 良夫君、あなたが、あたしになってるのね。
 ねえ、あたしの体を返して!あたしの家を返して!」
と良夫は、礼子の服を鷲づかみにして、ゆすった。

「原因は分からない。
 返して欲しいのは、ぼくの方だよ。
 一体、どうしてくれるんだよ。
 君のような、何にもできない子がきて、
 ぼくの家はどうなっちゃうと思ってるんだ。

 もうすぐ7時だというのに、何にも出来てないじゃないか。
 弟達を、お腹がすいたって、泣かすつもりか。
 自分の体を返してほしいなんて、
 ちゃんと、自分のやるべきことやってから言えよ。」

学校とはまるで違う礼子(=良夫)の厳しい言葉だった。
そうだ、これは、お互い様なんだ。
この礼子は、あたしと同じに困っているんだ。
良夫はそう思った。

「頼むから、兄弟や母さんの前で、女言葉なんか使わないでくれよ。
 ぼくは、君の代わりを苦労して努めてるんだからな。
 わかった?!」
「うん、わかった。」良夫は礼子の強い言い方に負け、少し素直になった。

「今日は、時間がないから、ショーガ焼きにするよ。
 明日とあさっては、妹の当番だから、君は遊ばないで、
 しっかり由紀のすること見ているんだよ。いいかい?
 ちゃんと、メモにも書くんだよ。」
「うん。わかった。」

礼子(良夫)はものすごい速さで、フライパンを使い、
20分で、ショウガ焼きとキャベツのせん切りを作った。

「じゃあ、ぼくは、君の家の食事をとるから、
 あとは、自分でやるんだよ。」
「うん、わかった。ありがとう。」
良夫はそう言った。
自分が、礼子(=良夫)に「ありがとう。」と言うなんて思ってもみないことだった。



電車に一駅乗って、
そこから、走って、やっと7時に間に合った。

ダイニングは、よくお金持ちの家にあるような、ビクトリア調の長いテーブルだった。
父が、ずっと遠くの対面に座り、その左に母、父から遠くの対面に、礼子が座った。

父の修三は、人柄もよく人格者であった。
母は、やさしく、礼子とはまるで違った性格の持ち主だった。
二人とも、礼子のわがままと、きつさを、いつも苦々しく思っていた。
だが、どうしても、礼子に強く意見することができなかった。

料理は、お手伝いの百合と里美が作る。
百合が、料理の専門家であった。

厳かなダイニングに、静かな音楽がかかっている。

3人が座っているところに、料理が運ばれた。
礼子(良夫)は、料理に興味があったので、
すばらしい料理に目を輝かせていた。

そのうち、里美が、ワインを修三と早苗につぎ、
礼子には、ブドウ・ジュースをつごうと持ってきた。

そのとき、里美の手が震え出した。震えは、ますますひどくなって、
グラスにカチャカチャとビンが当たり、
とうとうグラスを倒して、ジュースが礼子の服に大量にかかってしまった。
いつもの礼子なら、
「何やってるのよ!」とヒステリックな言葉が返ってくる。

父・修三は、礼子のそのヒステリックな声を聞きたくなかった。
そこで、先手をうって、里美を叱った。
「どうしたのだね。しっかりしたまえ。」
と言った。
「申し訳ありません。」
と里美は、唇を震わせて、体を硬直させていた。
百合は、心配して里美の両肩に手をかけた。

礼子は、里美の緊張は、自分(今までの礼子)の責任だと感じた。
たかが、ノートの買い忘れで、里美のあの狼狽振りだった。
そこで、言った。
「お父様。どうか遠藤さんを叱らないでください。
 もとはと言えば、あたしが悪いんです。
 遠藤さんが、失敗をするたび、あたしが、きつく叱ったものですから、
 遠藤さんは、あたしに対して、過度に緊張するようになってしまったんです。
 だから、これは、あたしの罪です。
 遠藤さん。ごめんなさい。これからは、言葉に気をつけます。
 今着替えてきます。服は、洗濯物の中に入れておきます。」

そう言って、礼子は、退室した。
礼子は、あたらしい服に着替え、
ジュースをかぶったドレスをタライの水に浸し、
少量の洗濯液を入れ、
少し押し洗いをした。

父の雄三は、礼子の言葉に、少なからず喜んだ。
「早苗、聞いたか。礼子の言葉。」とうれしそうに妻に言った。
「ええ、やさしい言葉でした。いままでの礼子じゃないみたい。」
「何か、いいことがあったのかな。」
「あれが、続くといいですわね。」
と二人で笑った。

里美も感激していた。
隣の百合と目で話しあった。
「感激しちゃった。」
「うん、あたしも。」
こんな会話だった。

食事が終わり、洗濯場に言った里美は、再び感激した。
さっきのドレスが、ちゃんと水を張ったタライに入れられ、
押し洗いをし、洗濯液が入れられている。
しみが、残らないように。
「ああ、お嬢様。」
と里美は、今まで大の苦手だった礼子を、どんどん好きになっていく自分を感じた。


つづく

■次回予告■

良夫になった礼子は、いじめていた良夫が礼子になったことで、
復讐に脅えます。しかし、良夫は、そんな礼子を逆に救います。

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新作・良太と礼子のスワップ①「礼子最悪のスワップ」

新作を書きました。二人の男女がスワップするお話です。
エチな場面を入れたかったのですが、当局からメールがあり、これ以上違反をするとブログを消去することもあると、ご注意がありました。そこで、エチなしの物語です。
読んでくださると、うれしいです。

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―― 二人の男女の高校生が、スワップ(入れ替わる)する物語です。――

<その時刻より、24時間前>

大川良夫は、高校2年。
クラスのマドンナ・五十嵐礼子が好きだった。
だが、その礼子は、とんでもなく性格の悪い女生徒だった。
4人の女子といっしょにグループを組み、
いろいろと嫌がらせをしていた。
その1番のターゲットが、大川良夫だった。

良夫は、背が162cm。
小太り。顔にたくさんニキビがあり、
目鼻立ちは、決してよいとは言えなかった。
女子からみれば、クラスでもっともモテない男子であった。

その良夫は、女の子の服が着たいという願望を持っていた。
自分には、どんな女の子服も似合わないだろうなと思っていた。
そんな意味で、五十嵐礼子は、憧れてやまない女子だった。

礼子と女子4人は、良夫の机の横を通るとき、
まるで、汚らわしいものでもあるかのように、
体を離して通る。
良夫は、そのボスである、礼子をもっとも憎むべきなのに、
恋愛の情とは悲しいもので、何をされても、礼子が好きなのだった。
とくに礼子のハーフがかった透き通るような肌と顔立ちと、
色の淡いストレートな長い髪が好きだった。

あるとき、礼子と4人は、良夫に靴箱に、いたずらのメモ書きを入れた。
『今度、遊園地にでも行きませんか。
 今日、校門で4時に待っています。 礼子。 』

こんなメモを、良夫の外靴の中に入れた。
下校のとき、良夫はそれを見て、
これは絶対ウソだと思った。
自分をからかう罠である。
だが、本当だといけないので、良夫は、
4時少し前に、校門から少し離れた松の木の陰から見ていた。

4時になった。
そのとき、良夫は、近くの体育館の角で、
良夫が来るかどうか、偵察している礼子と4人を見つけた。
『やっぱり、そうか。ぼくが来て、校門で待っていたら、
 からかうつもりだ。』

「ばかめ。冗談を鵜呑みにしやがって。
 自分が、礼子に釣り合う人間か考えてみろ。」
とでも言うのだろうか。

良夫は、悲しい思いをして、裏門から帰った。

良夫は、母一人、子供4人の家族で、
郵便局に勤めている母が帰ってくるまでの家事を、
良夫と中3の妹の由紀と2日交代でする。
その日と次の日は、良夫の当番だった。

良夫は家に帰るなり、洗濯物を取り込み、
それを、仕分けして、たたむ。
そして、母と由紀と自分のブラウス、Yシャツにアイロンをかける。

それから、料理に移る。
良夫は料理が大の得意だった。
両手を使って、2つの中華鍋を振りながら、
瞬く間に、料理を作ってしまう。
今日は、酢豚だった。

6時半に、母の敏子が帰ってくる。
由紀の下に五郎と健太、全部で5人家族である。

「おいしそうな匂いねえ。今日は何?」と敏子が言った。
「酢豚だよ。パイナップルなしでね。」と良夫。
「その方が好き。」と敏子はにっこりした。

みんなで、賑やかに食べる。
この時間が、一番幸せだ。

お皿洗いは、当番の良夫がやる。
その後、風呂掃除をして、湯を張り、
みんながいつでも入れるようにする。
バスタオルを5枚畳んで、出口に置く。
この時刻が、大体8半時で、
次の日の母のお弁当と、自分のお弁当の下ごしらえをする。

みんなが出した洗濯物を、洗濯機に入れ、全自動のスイッチを押す。
それが、大体9時。
10時に寝る五郎と健太のために、
お布団で、絵本の読み聞かせをしてやる。
自分の時間は、結局1時間半程しかない。
貴重な時間、勉強することがほとんどだ。



五十嵐礼子は、良夫が校門に来なかったことに腹を立てながら、
家に帰った。
大きな和風の邸宅である。お手伝いさんが、2人いる。

礼子が帰ると、一人の20歳くらいのお手伝いがくる。
「お嬢様、お帰りなさいませ。」
「遠藤、大学ノート買っといてくれた。」と礼子。
遠藤里美は、口に手を当てて、青い顔をした。
「すみません。忘れていました。」
「何よ!これで、2日連続じゃない。」
「今すぐ、買ってきます。」
「もういいわよ!」
とプリプリして、礼子は階段を上り自分の部屋に入って行った。

遠藤里美が泣きそうになっているところへ、
5歳年上のもう一人のお手伝いの、竹中百合が来た。
「気にすることないわよ。
 いくら、お金持ちのお嬢様でも、
 あの性格じゃあね。」
とあざ笑うように、百合は言った。

そばのインターフォンがピンポンとなった。
百合が近づくと、
「あたしが、帰ったら、すぐ冷たい飲み物でしょう。
 何やってるのよ!」
ときつい礼子の声がした。

百合は里美に顔を向け、
「あの性格じゃあね。」
と二人でくすりとした。

<約24時間後、スワップ1分前>

礼子は、いらいらしていた。
良夫へのメモのいたずらに失敗し、
今日、5人で良夫に問い詰めると、
良夫は、
「そんなメモ見なかった。」の一点張りだった。
思い出すだにいまいましいと思っていた。

<スワップ!>

礼子は、手提げカバンが、リュックになっていることを不思議に思った。
はっと、自分の帰る道がちがうことに気づいた。
ふと、道路のショーウインドウを見て、
ヒーーーーッ!と悲鳴を上げた。
大川良夫になっている。
なぜ?
ありえない。
美しい礼子じゃない。
胸を触った。ふくらみがない。
股間にはっきり男のものがある。
うそーーーーーー!と礼子は、道路に、へばりついてしまった。

礼子は思った。
これは、きっとバチが当たったんだ。
お嬢様だから、マドンナだからと、わがまま放題、意地悪放題をしてきた。
だから、クラスで最悪の男子・大川良夫にされた。
お嬢様の座、マドンナの座を失ったからには、
もう、わがままは許されない。
意地悪は許されない。

涙が出て来る。

はっと、礼子は、思い出した。
「早く帰って、洗濯物だ!料理だ!」
礼子は、良夫の家に飛んで帰った。

良太の最低限の記憶が残っているのだった。
しかし、十分な記憶ではなかった。



良太は、リュックをしょって、我が家に向かっていた。
そのリュックが手提げになったことに、驚いた。
自分の体に異変が起きていることを感じた。
近くの店のウインドウをのぞいた。
礼子!五十嵐礼子になってる。
うそおおおおおおおおおお、と叫んだ。

じゃあ、礼子は今どうしているのか。
礼子の家に帰ってみればわかる。
良夫は、帰る途中、コンビニで、ノートを買った。
ついでに、そこで、板チョコレートを2枚買った。

礼子の邸宅に着いた。大きい家だ。
礼子の記憶の一部が、残っている。
ここに礼子がすでにいるのだろうか。
いなければ、自分が礼子になったのだ。
それなら、うれしい。憧れの礼子だ。
多分、一生なんてことはないだろう。
たった、1日でもいい、礼子になれたらうれしい。
良夫はそう思った。

良夫は、玄関を入って行った。
「お帰りなさいませ。」とお手伝いの遠藤に言われた。
遠藤は、礼子の顔を見るなり、ひーーーと声を上げた。
良夫は、一瞬、礼子が2人になって驚いているのかと思った。
「遠藤さん、どうして、どうしたの?」と良夫は聞いた。
もう一人のお手伝いの竹中百合が来た。
百合は、礼子になった良夫を見て、びっくりしない。

「あの、ノートをまた買い忘れました。お嬢様。ごめんなさい。」
と遠藤里美は、床に、頭をすりつけて謝ろうとする。
(なんだ、そうだったんだ。)
「遠藤さん、心配しないで。
 遠藤さん、忘れんぼさんだから、あたし、自分で買ってきたの。
 1冊無駄にならなくてよかった。」
と礼子(以後、礼子)は女言葉を上手に使った。
「そ、それは、ありがとうございます。」と遠藤は言った。
「あたし、ノート1冊のことで、あんなにキリキリして、
 自分が恥ずかしい。
 あの、お詫びのしるしに、これ買ってきたんです。どうぞ。」

礼子は、2枚の板チョコレートを、遠藤に渡した。
「じゃあ。」とにっこりして、部屋へ向かった。
階段を上がる前に、
「あの、自分の飲み物くらい、自分で用意しますから。」
そう言って、2階に上がって行った。

お手伝いの百合と里美は、ぽかんと眺めながら、
「あれでこそ、お嬢様の姿よね。」百合。
「やさしかった。おまけにチョコレート。」里美。
「お嬢様に、何かあったのかしら。」百合。
「あのままのお嬢様が、続いて欲しい。」里美。
二人は言い合った。


つづく

■次回予告■

良太になった礼子は、良太の家で、何もできない自分に嘆きます。
礼子になった良太は、やさしいお嬢様として振る舞い、皆を驚かせます。

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ケーキ屋さんの由紀夫③「すべては、よい方向へ」最終回

この第5話と第6話で完結です。
長いお話しを読んでくださって、ありがとうございます。
次回は、がんばって新作を投稿しようと思います。
読んでくださるとうれしいです。

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第5話 「おかしな男の子登場」

午後6時、店のシャッターを閉めた。
隆志と由紀夫と裕美は、仕事場に座り込んでしまった。
「ああ、これ、うれしい疲れっていうんだなあ。」と隆志は言った。
「あたし、やっていて、うれしくてたまりませんでした。」と裕美が言った。
「行列ができたなんて、初めてだもん、うれしかったなあ。
 あたし、天国の母さんに見てもらいたかった。」と由紀夫が言った。
「ご覧になってるわよ。きっと。」裕美がいった。
「英理子ー!見てるか。みんなで元気にやってるぞー!」と隆志は叫んだ。

やがて、由紀夫が今日の売り上げを数えた。
「わあおー。」と言った。
「とうさん、裕美、先月の10日分の売り上げ、今日一日だけでいったよ。」
と由紀夫が言った。
わあーと二人が拍手をした。
「これ、なんだな。明日は、今日の半分のお客さんが来てくれるとして、由紀子一人じゃ無理だな。」
「うん、無理。」と由紀夫。
「じゃあ、この分だと、給料を払えるから、裕美ちゃん、できたら、毎日きてくれないかな?」
隆志は裕美にそう言った。

すると、裕美は、目にうるうると涙をためて、そのうち泣き出してしまった。
「どうしたの、裕美?」と由紀夫は裕美の肩を抱いた。
「あたし、あたし、ニートで、このままずっと世間に役立たずの子になるのかと思っていたから、
 お店の役に立ってるのかと思って、うれしい。こんなこと考えもしなかったから…。」
裕美は泣きながらそう言った。

「今、裕美がいなかったら、この店やっていけないよ。」由紀夫が言った。
「そうだよ。裕美ちゃんが来てから、この店流行りだしたんだよ。
 言わば、お店の天使みたいなもんだよ。」と隆志は言った。
それを聞いて、裕美はもっと泣きだした。
「うれしい、あたし、うれしい…。」
そう、くり返しながら。

*    *    *

「類は友を呼ぶ」とは、由紀夫があのとき言った言葉だった。
店は、順調に売り上げを伸ばし、毎日シャッターが開くのを待つ客が10人くらいいた。
車の駐車場も、近所の広いところに、10台分借りた。
ただ一つ、ケーキは売れるものの、パテシエの隆志の負担が限界に来ていた。

11月の半ば、シャッターを閉め、裕美がごミ袋をだしているとき、
一人の男の子がやってきた。
外は、もう暗かった。
「あの、お姉さん、この店の人でしょう。」と男の子は言う。
ジーンズにジャンパー、そして、ボストンバッグを提げている。
背は、163cmの裕美と同じくらいだった。
遠くからやって来た子…と裕美は見た。

「ええ、そうよ。」と裕美は言った。
「この店はさ、男でも女として働かせてくれるって聞いたんだけど。」
「え、どこでそんなこと聞いたの。」
「掲示板の2チャンネル。」
「あ、そう。ありえるわね。」と裕美は言った。
「おれ、ここで働きたいんだけど。」
「じゃあ、あなたは、男の子だけど、女の子として、店員をしたいの?」と裕美は聞いた。
見ると、ちょっと女の子っぽい可愛いところがある。
「ちがう。反対。おれ、女。で、ケーキ作りたい。どんな辛いことでもする。
 家出てきたから、もう帰れない。」
「そう、じゃあ、いっしょに中入って。」
裕美はその子を中に入れた。

「マスター、由紀子、変わった子が来たの。会ってあげて。」と裕美は叫んだ。
「夕食まだか聞いて。」と由紀夫が顔を出した。
「まだだって!あたしも食べさせて!」裕美は叫んだ。



裕美は、その子が来たので、みんなと夕食を取ることにした。

テーブルに4人が座った。今日は、す豚だった。

その子は、立って、神崎祐(ゆう)ですと頭を下げた。
「で、祐君は、女の子で、男としてケーキ作りたいんだね。ケーキは女でも作れるから、
 お店の中で男として接して欲しいってことかな。」と隆志は聞いた。
「あ、そうです。このお店は、そういうの気にしないお店だって調べました。」と祐。
「あの、ネットの2チャンネルってとこで、なんでもわかっちゃうんです。」と裕美は言った。

「祐君は、やる気はありそうだ。ちょうど、今手が足りなくて、困ってたし。でもなあ…。」
と隆志は、言葉をにごした。
「俺、経験ないけど、根性あります。男になること家で認めてくれなかったから、
 俺、ボストン下げて出てきちゃったし、もう行くところないんです。」と祐は言った。
「祐君、今住んでるところは?」と由紀夫は聞いた。
「公園で寝てました。だから、俺、におってるかもしれない。」と祐はくんくんと自分の匂いをかいだ。
「大丈夫、大丈夫。」と由紀夫は、にっこりと言った。
「このす豚、おいしいなあ。」と祐は言った。
「あたしが作ったの。」と由紀夫。
「うまいだろ。コイツ、料理うまいんだ。」と隆志。
裕美はどうなるかと、じっと見ていた。
祐に妙な好感をもって、内心応援していた。

隆志は言った。
「君が、女でも男として扱ってくれるという理由で、ここに来たなら、理由として足りない。
 君が、ここが自分を磨くのに一番だと思ったという理由ならわかる。君をやとってもいい。」
「すいません。俺、初めの理由で来ました。でも、今、こんな風に、おいしいお料理を、見ず知らずの俺に食べさせてくれて、こんなに温かくしれくれたこと、今までなかったから、いいところだなって、俺…。」
そう言うと祐は、涙をぽろぽろこぼして、それを腕で何回も拭いた。
祐は続けた。
「俺、死に物狂いで働きます。しろと言われたことは、なんでもします。
 倒れるまででも、働きます。
 ほんとは、俺、昨日来て、モンブランを買って食べたんです。
 俺の、最後のお金でした。そのケーキがおいしくて、俺もこんなおいしいケーキが作れるようになりたいって、思いました。どうか、俺を弟子にしてください。お願いします。」
祐は、立って泣きながら礼をした。

「よし、わかった。祐君、君を雇おう。」と隆志は言った。
「ほんとですか!ありがとうございます。」と祐は頭を下げた。
わあ~と、裕美が拍手した。
「あれ?裕美がなんで拍手するの。」と由紀夫がからかった。
「そ、それは、初めに会ったのあたしだから。」と裕美は少し赤くなった。

それから、しばらく、和やかに団欒した。
そのうち祐が、
「ここは、男でも、女の子として働いてる店って聞いたんですけど、あれ、ウソですね。」と言った。
隆志が、
「祐君。ここにいる4人の中で、生物学上、女子であるのは、君だけだ。
 だから、気をつけたまえ。」と言った。
「えー!」と祐は叫んだ。「じゃあ、裕美さんも由紀子さんも、生物学上、男子ですか!」
「そうよ。女は祐君だけ。危ない所へきたのよ。」と由紀夫。
「裕美さんだけは、女性でしょう。」と祐。
「『だけは』とは、なに?『だけは』とは。」と由紀夫はいたずらな目で見た。
「いや、その、初めに会った人だから。」と祐は赤くなった。
「そう言ってくれるとうれしい。でも、生物学上、男なの。」と裕美。
「ええ?じゃあ、俺、すごい所へ来ちゃったんすね。」と祐が言ったので、
みんなで笑った。


つづく


第6話「天からの宝物」最終回

祐は、更衣室にしか使ってない母の6畳を箪笥で半分にしきって、
そこに住み込みで働くことになった。

祐は、働き者だった。そして、気が利いた。
隆志が取って欲しいものを、素早く察して、「これですか。」と渡す。
そして、店が終わってからも、習ったことを気が済むまで練習した。
裕美は、一度家に帰って夕食を済ませた後、
毎晩、お結びを作って、自転車で店にやって来た。
「はい、これ。」と裕美はお結びを渡す。
「いつもありがとう。」と祐は、まるで眩しい人を見るように、裕美を見る。
裕美は、毎日のように、祐の練習のそばにいた。
そして、ときどき自分のパソコンを持ってきて、何かやっていた。

由紀夫は、そんな二人を微笑ましく見ていた。

「ああ、あれが、青春なのね。」などと嬉しそうに、つぶやいた。

由紀夫の夜は忙しい。
お店の制服と、父と祐の作業着を毎日必ず洗い、
アイロンをかける。
同じ制服は2日着ないので、なかなか大変だ。
クリーニングに出せばいいが、例え100円でも節約した。

それから、由紀夫は、今日の売り上げ等をパソコンに入力する。
どのケーキがどのくらい売れているか、1日のどの時間に売れているか、
季節によって、どのケーキが売れているかなど、
すべて、一瞬にしてわかるように、関数を組んで、システムを作った。

裕美は裕美で、素晴らしいことをやった。
ニートのときに研究した腕で、「シャロン」のホームページを作った。

ある朝、裕美は喜喜としてやってきて、
「ね、ね、見てください。」と言って、店のパソコンに、「シャロン」と入力して検索した。
美しいホームページが現れた。
店の売り物のモンブランとイチゴタルトが、説明入りで入っていた。
それから、商品のカタログ。
店の地図、アクセス、必要なことがみんな書かれてあった。
「おお、すごい!」
と三人はいった。
「あたし、これ、クリスマスに向けて、パソコン上で予約注文できるようにしたいんです。
 そうすれば、お客さんは、わざわざ行くより、パソコンで注文できるシャロンにしよう…なんてことになりません?」
「おうおう。裕美ちゃんは、だてにニートやってたんじゃないんだなあ。」
と隆志は大喜びだった。
「裕美、これ大大大殊勲よ。でかした裕美!」と由紀夫が誉めちぎった。
裕美は飛び上がって喜んでいた。
「裕美ちゃん、スゲー。俺、勉強できない分、腕磨かなきゃ。」
と祐は、作業着をこすった。

*    *    *

それから10年。

「シャロン2号店」を出すことになり、1人前になった祐がマスターになった。
そして、お店に裕美が移った。
独立採算制であったが、新商品は互いに共有することになっている。

インターネットでの注文を受け付け、宅配で届けるシステムも確立した。
ケーキを型崩れせず冷蔵便で運べる箱を、由紀夫が考案した。

それから、それから、祐と裕美が婚約をした。

祐と裕美が婚約の承諾を得るため裕美の家に行った。
裕美の両親は、祐のことを良く知っていたが、祐が女性だとは知らなかった。
婚約承諾の席で、祐が実は女性だと知った両親は、
「じゃあ、二人は子供を産めるかもしれない。」と気が付いた。
「そのために、あたし達、ホルモンを我慢して来たの。」裕美は言った。
「ほんとに子供ができたら、いいわねえ。」と母は言った。
「裕美、祐さんを大事にしろ。」と父は言った。



それから、また1年半。

産婦人科病院の2階には、あわただしく人が動き回っていた。
今、祐が分娩室に入ったところだ。
隆志、由紀夫、裕美の父忠志、母千鶴子、そして、祐の両親の剛三と美也子が実家から駆けつけた。
「あ、どうもお父さん、お母さん、遠い所から。今、分娩室に入ったんですよ。」と裕美は、祐の両親に言った。
「あたしが、妻なのに、代わってあげられなくて。」と裕美は言った。
「いいんですよ。腕白だったあの子のお腹が大きくなるなんて、
 未だに信じられません。」と祐の母は言った。

そのうち、待ちに待った、産声が聞こえた。
「もしや、もしや、もしや。」と由紀夫は胸で手を組んだ。
看護婦さんが分娩室から出てきて、
「おめでとうございます。立派な男の子ですよ。」と言った。

「うわあ、ばんざーい。」とみんなで歓声を上げた。
騒がしい一団であった。

やがて、白い粉をはたかれた赤ちゃんが、看護婦さんに抱かれて、やって来た。
裕美は、涙を流していた。
「少し抱いてもいいですか。」と裕美。
「どうぞ。」
そう言って渡された赤ちゃんを、裕美は震える手で抱いた。
みんなで、回りを囲んで赤ちゃんを見た。
「可愛いね。」
「そうだねえ。」
祐の両親も、顔を満面にほころばしていた。

「じゃあ、もういいいですか。」と言って、看護婦さんが、赤ちゃんを抱いて行った。
「裕美、よかったね。」と裕美のお母さんがハンカチを目に当てて言った。
「よかった。こんなことになってくれるなんて。」とお父さんは目頭を押えた。
裕美は、感激にハンカチで目を押えたままだった。
隆志と由紀夫がくると、両親は、
「何もかも、お二人のおかげです。夢のようです。」と言った。
祐の両親も、同じことを言い、頭を下げた。

そのうち、ベッドに乗った祐が出てきた。
祐は、Vサインを出していた。
「裕美、やったぜ!楽勝!みなさん、ありがとうございました。」
と大きな声で言った。
「まあ、元気だこと。」と祐のお母さんが言ったので、みんなで笑った。



帰り路、由紀夫は隆志に言った。
「あの二人、当分、どっちがママになるかで、もめそうじゃない?」
「そうそう、俺も思ってた。もめるよな。見に行きたいよ。」
「見に行こうね。」
と二人でくすくすと笑った。

外は、気持ちのよい秋風が吹いていた。



<おわり>



■次回予告■

次回は、新作を投稿したいと思います。
クラスで一番モテない男子生徒と
クラス1番のマドンナが、スワップする
お話です。

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ケーキ屋さんの由紀夫②「由紀夫の説得」

今日も、2話連続で投稿します。
少し長くなりますが、読んでくださるとうれしいです。

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第3話 「由紀夫の説得」

由紀夫は話し始めた。

「私は、この十月に母をなくし、
 これまで、ケーキ店を見ていた母の代わりをすると、
 死の床で、母に約束しました。
 そこで、学校を辞め、女性の姿をして、店員をはじめました。

 これは、少しも辛いことではありませんでした。
 なぜなら、私は子供のときから、女の子になりたいという願望を
 持っていたからなんです。仕事のつらさもよりも、
 女として仕事ができるという喜びのほうが、勝っていました。

 私は、今、17歳ですが、女の子になりたいという気持ちは、
 物心ついたときからもっていて、今でも、ずっと変わりません。
 おそらく、一生変わらないと思います。
 私は大人になったら、男の心に変わるのかなと思っていました。
 でも、少しも変わりませんでした。

 そこで、裕美さんのことですが、類は友を呼ぶというのでしょうか、
 裕美さんは、私と同じタイプの人だと思いました。
 いえ、私より強い女性への願望をもった人だと、思いました。

 私は、将来どうなるかということを、あまり考えないようにしています。
 今を精一杯どう生きていくのかが、大切かと考えています。
 裕美さんは、ご自分の部屋に閉じこもっておられます。
 それなら、まず、外に出て、体を動かすことが、今の目標だと思います。

 その裕美さんが、
 やっと、父と私の店でなら働けそうだとおっしゃっているのです。
 裕美さんの将来が、どんなに困難でも、
 それは、裕美さんが乗り越えていくべきものだと思います。
 裕美さんが女装をして働くことに、世間体もあると思います。
 でも、それは一つ先のことではないでしょうか。
 それより、一歩部屋から出て、働くことが、
 今の最優先ではないかと思うのです。」

由紀夫は、そこまで、一気に話した。

そのとき、裕美の母千鶴子が、
「あなたは、もしかしたら、小、中学、高校ともご一緒だった、大杉由紀夫さんではありませんか。」
と言った。
千鶴子が話し始めたことを、驚きの顔で忠雄は見つめた。
「はい。そうです。」由紀夫は答えた。
「千鶴子、それが、どうかするの?」と夫忠雄が行った。
「あなた、聞いて。当時の小学校、中学にいた保護者で、
 大杉由紀夫さんを知らない人はいません。
 今度の高校の生徒さんでも、
 大杉由紀夫さんを知らない生徒はいないと思います。
 由紀夫さんは、類まれな生徒と言われていました。
 由紀夫さんのいるクラスは、それだけで、
 明るくなり、いじめられる子なんかいなくなると。
 それほどのお子さんということでした。

 人柄のよさと、優しさと、素晴らしい企画力と実行力をもった優れた方です。
 その由紀夫さんと並んでお仕事ができるなんて、
 裕美にとって、なんて幸運なことでしょう。
 きっと生きていくための大きな影響を受けると思います。
 裕美の女装が世間に知れることなど、
 それに比べれば、小さなことだと思います。」
普段、口を挟まない千鶴子の言葉は、夫忠雄に大きな影響を与えた。

忠雄は、何か考えながら、ある一つのことを振り切ったようだった。
「わかりました。家内がここまで言うことはめったにないことなのです。
 由紀夫さんが目の前にいらっしゃることに、
 よほど感激したのでしょう。
 また、先ほどのご説明の、理路整然としたおっしゃりよう、
 只の方とは思えません。
 人生の教えとはいいません。
 女になりたいと思っている裕美のよき友達になってくださるだけでいいのです。
 実は、親の私達には、裕美をどうすることもできず、
 行き詰まり、悩み抜いておりました。
 こちらこそ、お願いいたします。
 お父さん、どうかふつつかなものですが、
 よろしくお願いいたします。」

忠雄は立って頭をさげた。
みんなで立って、頭を下げあった。
由紀夫は一言言った。
「あの、ご兄弟はいらっしゃらないと聞きました。
 店で女子としてはたらくなら、どうかお家でも、女の子として、
 生活させてくださらないでしょうか。」

忠雄は、妻と目を合わせ、
「わかりました。今日から我が家は、娘がいることにします。」
「ほんと!」と裕美が、目を大きく開いた。
千鶴子は、
「お父さんと、話していたことでもあったの。
 今日で、踏ん切りがついたわ。」と言った。
「うれしい、お父さん、お母さん、ありがとう!」
と裕美は、父母に抱き付いていった。



「よかったなあ。」と隆志は帰り路で言った。
「うん。すごくうれしい。」由紀夫は言った。
「それにしても、由紀子、見事だったぞ。
 あれだけ、よくすらすら言えたものだ。」と父。
「だって、ほんとのこと言ったまでだもん。」
「いやー、俺は、ものすごい息子をもったもんだ。」
「娘でしょ。」と由紀夫につねられ、あははははっと二人で笑った。


つづく


第4話「ヒット商品誕生」

「おはようございます。」
裕美が入ってきた。
髪型から、服装から、メイクまで、何からなになで、女の子になってきた。
メイクで、かなりな美人になっていた。

「わあ~。裕美。一気に女の子じゃない。」と由紀夫は言った。
「由紀子のおかげ。24時間女の子でいられるようになったの。」
やってきた隆志は、
「おお、どこの可愛い子かと思った。美人だなあ。」と言った。
「えへ。」と裕美は挨拶して、制服に着替えた。

そのとき、由紀夫は、紙にいろいろ図を描いていた。
「なんだ、それ?」と隆志が、由紀夫に聞いた。
裕美も覗きにきた。
「あたらしいモンブランを考えてたの。
 モンブランって、中が見えないじゃない?
 だから、買う人は、中にどれだけクリームが入っているかわからない。
 だから、カットケーキのモンブランを考えてるの。
 もちろん中にたっぷりクリームを入れて、それをみせるの。」由紀夫は言った。
「なるほど、それ、いい発想だ。
 じゃあ、フル・ケーキのときの形を、半球型にしよう。」と隆志。
「そうっか。それなら、中も見えるし、トップのにゅるにゅるもたっぷり乗る。
 父さん、やったー。」と由紀夫は喜んだ。

隆志は早速、試作をしてきた。
「どうだ、これなら、中のカスタードも栗も見えるし、
 トップは、甘いぐにゅぐにゅもたっぷりだ。
 栗は、小さくして、カスタードの中に混ぜる。でも、見える。」

みんなで食べてみた。
「おいしーい。」と裕美が行った。
「カステラが少ししかない。たっぷりサービスだね。」と由紀夫。
「よし。これを、家の売り物にしよう。由紀夫、アイデア賞だ。
 今日、もうちょっと工夫して、明日は、『今日のケーキ』にしよう。」

このモンブランは、売れた。
「今日のケーキ」の日のケーキの2倍売れた。

「もう、家でこのモンブランの取り合いになってるんですよ。
 だから、4つ全部モンブランを買って行きます。」
とうれしいことを言ってくれる人もいた。

それから、モンブランは、店の人気商品になった。

ある日、また、由紀夫は紙に絵を描いて考えていた。
「今度は、何考えてるの。」と裕美が言う。
父も来た。
「今度はなんだ。」
「うーん。タルトは、切ったり食べるとき、タルトが割れちゃうじゃない?
 だから、簡単に割れるタルトを考えてるの。」と由紀夫は言った。
「でも、タルトは硬いからいいんじゃない。
 固いままで、割れやすいってこと?」と裕美。
「うん、そうなの。」と由紀夫。
「なるほど、割れやすいタルトか。」と隆志。

「よし。鋳造屋さんにたのんで、タルトの型を作ってもらおう。
 型にひだを作ってもらって、タルトを詰め込む。
 すると、凸の型のところは薄くなるだろ。
 そこから綺麗に割れる。
 底は、放射状のひだにする。これで底も割れる。」と隆志は言った。
「父さんすごい。鋳造屋さんなんて知ってるの?」由紀夫は言った。
「ああ、ベーゴマを未だに作ってる友達がいる。彼に頼んで見る。
 フルケーキ用の大きいのと、小ケーキ用のを4つ作ってもらう。」

隆志は、その日のうちに、粘土の型見本を作った。
そして、1週間後に鉄の型が出来上がった。
隆志はさっそく試作した。

「どうだ、できたぞ。」と隆志は持ってきた。
問題は、ナイフではなくフォークで割れるかだ。
由紀夫は、そうっとフォークを入れた。すると、タルトの薄いとことに、
すうっとフォークが入った。底も綺麗に割れる。
由紀夫は、フォークの上のタルトケーキをすっとフォークの上に持ち上げて、
みんなに見せた。
わあ~、と隆志と裕美は拍手した。
「どうだ、簡単にわれたか。」と隆志。
「うん、フォークがすっと入った。」と由紀夫。
「あたしもやらせて。」と裕美がやってみた。
「あ、割れる。きれいに割れるわ。」と言った。
隆志もやって上手くいった。
三人でバンザイをした。
「これは、すごい。モンブランは、他でもあるかもしれない。
 だが、これは、ぜったい日本にここだけにしかない。」と隆志は言った。
「明日の『今日のケーキ』にしよう。」と由紀夫は言った。

裕美は、携帯のグルメサイトのケーキの分野に宣伝をした。
また、情報グループの地区別のところに、「シャロンのケーキ」を宣伝投稿した。
中の見えるモンブランと、フォークで割れるタルトケーキを強調した。

由紀夫と裕美で宣伝のポスターを書き、
当日表に出すのと、店内の宣伝用を貼った。

発売当日、由紀夫は、店の前に出て、デモンストレーションをした。
すると、ビックリするほどの人がきた。
裕美のケータイへの宣伝も効をそうしたようだ。

その日、たくさん用意したモンブランとイチゴタルトは、行列ができ、
裕美と由紀夫はてんてこ舞いに動いた。
売り上げがどうなるか、後で見るのが楽しみだった。


つづく(次回は、「おかしな男の子登場」です。)


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再投稿・ケーキ屋さんの由紀夫①「すばらしい子」

新しい作品を、書けませんでしたので、過去のお気に入りを再投稿します。
このお話は、とてもポジティブに書けているように思います。
全6話を、2話ずつ3回に分けて投稿します。
読んでくださるとうれしいです。

===========================

「ケーキ屋さんの由紀夫」

第1話「すばらしい子」

町外れに、小さな「シャロン」というケーキ屋さんがあった。
大杉隆志がケーキをつくり、妻の英理子が、店の一切をやっていた。
地の利があまり良くなく、お店には、たまにお客が入るていどだった。
だから、家の暮らしは、やっとやっとだった。

二人には、由紀夫という子供がいた。
その由紀夫は、母英理子が学校へ行くたびに、「素晴らしい子」ですと言われていた。
1年生のときにいわれ、2年でもいわれ、3年生の新担任にも言われた。

担任は若い男の先生だった。
英理子は、思いきって聞いてみた。
「あのう、1年生のころから、素晴らしいと誉めてくださったのですが、
 家にいるときはそうも思えないんです。
 学校で、一体どのようにすばらしいと言っていただけるのでしょうか。」

担任は、少し宙を見て、言葉を選んでいるようだった。
「そうですね。学習成績や運動能力は文句なしで、それだけではないのです。
 一口に言えば、由紀夫くんが一人いれば、クラスが明るく平和になるのです。
 明るく、ユーモアがあって、素晴らしい判断力と、意志の力をもっていて、考えも深いです。
 そして、やさしくて、クラスで孤立している子がいると、すぐに誘って、
 みんなの中に入れてしまいます。

 学級では、1番の人気者ですし、学年中に知れています。
 担任として、もし、クラスのなかに由紀夫君がいると、みんな大喜びします。」
「家では、ほんとに、普通の子なんですよ。
 それより、あの子は、女の子に見えますでしょ。
 そのことで、いじめられたりしないかと、心配しています。」

すると先生は笑った。
「確かに、女の子にみえますが、由紀夫君の力量はそれを遥かに越えています。
 そんな由紀夫君をいじめる子なんて、学年中探しても一人もいませんよ。
 由紀夫君は、どんな困難も乗り越えていける子ですよ。」

母の英理子は、安心して家に帰った。
さっそく夫の隆志に行った。
「へーえ、あいつ、それほどのものなの?
 家では、ぜんぜん普通の子っだけどな。女の子にみえる以外は。」
「そのことでも聞いたの。いじめられませんかって。
 そしたら、先生笑ってらした。由紀夫の力量は、それを遥かに上回っているって。」
「ふーん。親の目なんて、いい加減だな。」
「あの子は、笑顔が特別に可愛いわ。」
「俺もそう思う。」
と言って、二人は笑った。

そこへ、女の子みたいな男の子が帰ってきた。
目が大きく、とても可愛い顔をしている。髪の毛を肩まで伸ばしていた。
「遊びにいってっくる。夕飯までには、帰るからね。」
とランドセルをほおり投げて外へ出て言った。

「あの子がねえ。」と英理子は行った。
「ほんとな。」と隆志が言った。



由紀夫は高校2年になった。
お店は、なんとか貧しいながらやってこれた。
そこに、大きな不幸がやってきた。
母の英理子ががんになり、わずか3ヶ月で他界した。
死のベッドで、英理子は、由紀夫の手を取った。
「父さんをお願い。由紀夫、あなたがいれば母さんは安心。お願い。」
「母さん。わかった。ぼくがんばる。がんばるから、安心して。」
英理子は、由紀夫の手をにぎったまま、息を引き取った。
「母さん。」「英理子。」と泣きはらす二人を残して、英理子は永眠した。

葬儀に5日ほどかかった。
明後日から店を空けるという朝。
「父さん、これにサインして。」と由紀夫が書類をだした。
それは、高校の退学届けだった。
「由紀夫これ…。」と隆志は由紀夫を見た。
「ぼく、明日から、母さんの仕事をする。だから。」
「いいのか。」と隆志は言った。
「勉強はいつでもできるでしょう。でも、このお店は、待ったなしだもの。」
由紀夫はいった。
隆志は、意志の固い由紀夫のことを知っている。
隆志は何も言わずにサインをした。

「父さん。明日からぼく、女の子になる。小さいころからなりたかったの。
 それで、店に出て母さんの代わりをする。母さんのお店の服があるし、だいじょうぶだよ。」
「そうだなあ。店員は女の子の方がいい。由紀夫それでいいのか。」
「うん。だから、父さん。今からぼくを、由紀子って呼んで。家でも女の子でいたいから。」
「わかった。由紀夫、いや、由紀子の言うことは、父さんはなんでも聞くよ。」

「じゃあ、父さん。今日美容院に行って、女の子の髪型にしてもらうね。
 それから、遠くからケーキを買い来る人もいるから、
 あたし、ドライアイスをサービスにいれるといいと思うんだ。」
「うん、それはいい。親切だな。でも、ドライアイスはどこで手に入る?」
「あたし、もう手配してあるの。明日の朝届くと思う。
 父さんは、ケーキ作りに専念して。経理もあたしがやるから。」
「うん。わかった。」
隆志は、由紀夫が家庭で見せなかった、「力量」というのに一つ触れた気がした。

次の日から、髪を女の子風にした由紀夫は、薄く化粧をして、
母のユニホームを着て、頭にスカーフをかぶった。
ユニホームはえんじ色。それに、白いエプロン。頭のかぶりものはエンジ色。
だれが見ても、可愛い女の子だった。

由紀夫は、小さい黒板に、ドライアイスのサービスがあることを書いて、
表に立てかけた。イラストが上手な由紀夫の字は、洒落ていて、楽しいものだった。

若い由紀夫の笑顔は100万ドルだった。
小さい子には、アメを上げた。
お客の家までの時間を聞いて、ドライアイスを入れた。

次に、由紀夫は、それぞれのケーキの説明書を作った。
各ケーキの味わい方、何からできているかを、絵入りで説明したものを、ケーキの箱に入れた。

そして、「今日のケーキ」として、あるケーキを少し多めに作り、1割引きで売った。
また、5枚集めれば、1割引きというカードを作り、それを渡した。

そのうち、前は閑散としていた店は、
いつも客がいる店に変わっていった。




第2話「やってきた裕美」

「父さん、今月も2割り増しだったよ。」と由紀夫は言った。
「ほんとか。2ヶ月連続で、4割4部の伸びじゃないか。」
「そうだね。」と由紀夫は可愛い笑顔を見せた。

隆志は、由紀夫のすばらしさを改めて思い知った。
妻を失い、悲しみに一時やる気の失せていた隆志だったが、
由紀夫の前向きな姿勢と、アイデアに、
希望と、やる気が、湧いてくるのを感じた。
由紀夫は、すばらしい子だ。どんな困難も乗り越えていく子だと言った先生たちの言葉を思い出した。



10月になり、お店は安定して来た。
遠いとところから、車でやってくる客も増えた。

ある日、店が6時に終わって、由紀夫がごみ出しに店の角にきたとき、
「大杉くん。」との声があった。
由紀夫は、一瞬、女の子を思い浮かべた。
振り向くと、ジーンズを履いて、草色のサマーセーター、
ストレートの髪を、肩まで垂らしる子がいた。

顔立ちが可愛い。
「あの、君、女の子?」と由紀夫は聞いた。
「ううん、男。大杉君は、ぼくのこと知らないと思う。
 でも、ぼくは、君のこと良く知ってる。」
「なんか、あたしに、話があるのね。
 じゃあ、これから夕飯作るから、手伝ってくれる。
 そして、父さんといっしょに3人で食べよう。」
「いいの?初対面なのに?」
「君が悪い人に見えないもの。いいよ。」
由紀夫に言われ、その子は、ケータイをかけ、家に夕食がいらないことを告げた。

由紀夫は、その子を家に入れた。
そして、母の部屋に行き、楽なワンピースに着替えた。
そして、その子にも、ワンピースを渡した。
「これ着た方が、君に似合うよ。」とその子ににこりとして言った。
その子は、一瞬ためらった。だが、由紀夫が何もかも理解してくれている気がした。
「ありがとう。うれしい。」
「お名前教えて。」
「裕美。川田裕美。」
「裕美かあ。いいな。女の子にも使えるじゃない。
 あ、あたしは、由紀子。ニックネームだけど。
 今から裕美は、女の子になるのよ。自分のことは、『あたし』って呼ぶの。」
「ええ、いいわ。あたし自分のこと、あたしって呼ぶ方が呼びやすい。」
裕美はなめらかな女言葉で言った。
『ははん、裕美は心も女の子かな。』と由紀夫は思った。

キッチンのテーブルで、3人で焼肉定食を食べた。
「由紀子の料理はおいしいなあ。」と隆志は言った。
「全部、母さんに教わったものよ。」と由紀夫。
「それは、わかっているけど、一味違う。毎回夕食が楽しみだよ。」
「ほんとに、おいしい。」と裕美も言った。
「おっと、そちらの彼女は?」と隆志は言った。
「裕美といいます。」
「由紀子の友達?」
「あたしからの一方的な友達です。」と裕美は言った。
「高校生?」
「高校やめて、ニートしてます。」

「そうなんだ。今の学校は、行きにくいところだからな。勉強より、友達関係が大変だ。」
「そうなんです。それに、あたし男だから。」と裕美は言った。
「え?」と隆志は、ご飯を噴出しそうになった。
「男の子だったの。由紀子より、ずっと女らしいよ。そうだったのかあ。」
「中学のときから高校でも、ずっといじめられていました。」
「無理もない。裕美ちゃんだっけ。それで、学校いけなくなったんだね。」
「はい。」
「裕美ちゃん自身、女の子になりたいって思ってるの?」
「はい。生まれたときから。」 

「じゃあ、さあ、家でじっとしてるのは、体によくないから、うちで、少しバイトしない?
 もちろん、女の子として、由紀子のとなりでね。1日3時間くらい。
 週何日でもいい。由紀子、今うちアルバイト雇える余裕ある?」
「フルタイムは無理。時給800円として、一日3時間。週3日なら払える。」と由紀夫。

「なら、どう?おじさん、裕美ちゃんは、少し外へ出た方がいいと思うんだ。」
「うれしいです。やらせてください。問題は、両親だけです。」と裕美。
「ご両親、むずかしい人?」と隆志。
「簡単じゃないかもしれない。あたしが、女みたいなこと恥ずかしいと思ってるみたい。」
「今日、あたしといっしょに行こう。あたしから、裕美のご両親に話す。」と由紀夫は言った。
「俺も、行った方がいいんじゃないか。」と隆志。
「うん。大人がいると、重みが出るし、父さんも来て。」由紀夫は言った。



裕美の家は、「シャロン」の店から歩いて20分くらいの、
サラリーマン家庭のようだった。
時刻は、8時を過ぎていた。
裕美は、男の服に着替え、初め一人で家に入って行った。
そして、一人で事情を話し、お店の人が来てくれていることを話した。
お父さんの忠雄は、冷静な人だった。母の千鶴子は、お父さん任せな人だった。

由紀夫と隆志は、裕美に呼ばれ中に入った。
ダイニングのテーブルに忠雄と千鶴子がすわり、
面と向かって、真ん中に由紀夫、両脇に裕美と隆志が座った。

裕美の父忠雄がいった。
「ニートで何もしないでいる裕美が、アルバイトをするということには賛成なのです。
 ただ、女性の姿をして、女店員として働くということに、抵抗があります。」

「お気持ち、十分にわかります。」と由紀夫は言い、
「あの、お父様がたに、私は、女子と映っていますでしょうか。」と言った。
「はい、可愛いお嬢さんと拝見しています。」と忠雄。
「私は、男子です。」
「え?」と裕美の両親は、目を見張った。


つづく(次回は、「両親への説得」です。

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思うこといろいろ

「思うこといろいろ」

私は、朝食をとると一番に、パソコンをのぞきます。
そして、ブログのアクセス数を見ます。
アクセスが伸びていると、一日いい気分ですが、
アクセスが、がくんと落ちていると、一日凹みます。
今、書いているものが、面白くないのだろうと思います。
で、どうしようかと悩みます。

そんなことで、「新スーパー洋子」は、ガクンとアクセスが下がり、
1日でやめ、そして、「万能ナビゲーター」を書きました。

「新スーパー洋子」は、完全なフィクションですが、
大阪の高校で起きた、ある事件がモデルであることは、
読んでくださった方は、お気づきかと思います。

暴力的指導に対し、私は憤怒やるかたなきを得て、
一気に、長いお話を書いてしまいました。
本当は、相撲部、男子バレー部も書いたのですが、
しつこすぎると思って、割愛しました。

そして、一度は引っ込めたお話を、どうしても発表したくて、
「万能ナビ」の後にセットにしてくっつけました。
1日に2つ。長いです。
これがいけなかったのかもしれません。
アクセス数が、どんどん落ちてしまいました。
でも、アクセスが落ちても、自分で書きたかったものは、書きたかったのです。

一度落ちたアクセス数は、なかなか回復しません。
そんなものなんですね。
だから、私は、ゼロ・スタートのつもりで、また書いていこうと思っています。

再投稿するために、昔の作品を読んでみたのですが、
(自分で言うのもなんですが、)けっこうよく書けてるなと思いました。
毎回アイデアがよく出たものだと感心しました。
今は、ネタ・アイデアがでなくて、困っています。
でも、考えていれば、いつかはアイデアが出ます。
考えることをやめますと、もうそれっきりなんです。

ときどき、思います。1銭にもならないことに、
頭を悩ませ、ときに苦しみながら、どうしてやっているんだろうと。
馬鹿みたいだなあと。
でも、できるときに、できることをやっておくのが、
今の私の場合、よいような気がします。

「人気ブログランキング」と「日本ブログ村ランキング」は、励みになります。
たくさんの方に、1票をいただきたいのは、山々ですが、
やはり、記事がよかったら「1票」、ダメなら、「無し」としていただくのが
私のために、いいことかな思います。

私が、ブログを始めたとき、5人の方が、初めて、アクセスをくださって、感激しました。
その初心を忘れず、少しでも、ましな記事を書いて行きたいと思います。
これからも、よろしくお願いいたします。

ラック


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万能ナビゲーター⑥「一生女の子になるドリンク」最終回

今日で、最終回です。
今まで、「新スーパー洋子」と2本立てでやってきましたが、
両方、今日で最終回になりました。
2本立ては、やっぱり、少し疲れますね。
次作のめどはついていないのですが、何か書けたらいいなあと思っています。
ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。

==========================

完全な女の子になって過ごす時間は最高の気分だった。
うれしくてたまらなかった。

だが、少しがっかりすることもあった。
昼休み、隆志を見た。
別な女の子と、手をつないで歩いていた。
今なら、あたしも本物なのになっと、努はつぶやいた。
でも、まあいっかと思った。
基本的に好きなのは、女の子だし。



瑠奈とマンションに帰ってきた。
瑠奈は、努を後ろから抱きしめて、
「ああ、この胸、本物なんだよね。」と言った。
「うん。けっこう重いよ。」と努は言った。

二人は、下着だけになって、毛布にもぐった。
「本物の女の子でいるって、どんな気分?」と瑠奈が聞いた。
「うん、安心、ばれない、堂々としていられる、そんな気分かな。」
「なるほどね。」
「瑠奈は、女装子でいるのと、本物の女の子でいるのと、どっちがいい?」

「そりゃ、本物の女の子よ。」と瑠奈は言った。
「そうなんだ。」
「努はちがうの?」
「あたしは、はっきりとは言えない。」努は言った。

「瑠奈は、本物の女の子になったら、男の子に恋をする?」と努は聞いた。
「それはね。でも、あたしは、女になっても、努のような可愛い男の子に恋すると思う。
 そして、夜は、二人でレズビアン・ラブするんだ。」
「それが、瑠奈の理想?」
「多分。」

二人は、口付けをした。
そして、抱き合い、努ははじめて、女の体をあいぶされる喜びを知った。
そして、男女のセックスというものを知った。



服を着て、瑠奈と二人で、夕食を作り、おいしくいただいた。
夜は、8時を過ぎていた。

紅茶を飲みながら、ソファーのコーヒーテーブルに向き合った。

「瑠奈に大事なお話があるんだ。」と努は言った。
「何?」と瑠奈は心配そうな顔をした。
「悲しいことじゃないから。」と努は言った。

「昨日、あたし、不思議なマーケット行って、
 1日だけ女の子になれるドリンク買ったのね。
 それを、売ってくれたおばあちゃん、
 なんと、あたし達が、地図を探してあげた、あのおばあちゃんだったの。
 魔法使いなんだって言ってた。
 そこで、あたしは、もう1本ドリンクを買ったの。
 それが、これ。」
努は、バッグから、少し大きめのドリンクを出して、
小テーブルに置いた。

「これを飲んで効き目があるの、あたしとあのときのお友達、
 つまり瑠奈だけなんだって。
 これね、飲むと一生女の子になれるドリンクなんだって。」
「え?ほんと?」
と瑠奈が目を見開いた。

「1日女の子になれるドリンクが本物だったから、
 これも、本物だと思う。
 これを飲むと女の子になって、そのとき過去の自分の男の子だった記憶が、
 全部女の子に塗り替えられて、家族も女の子を育ててきたって思うんだって。
 だから、すごくうまくできてるの。
 そして、もちろん、自分が男の子だったっていう記憶もなくしてしまう。
 当然、女装子だったっていう記憶もなくしちゃう。

 あたし、このドリンクを、自分が飲めるかなって、ずっと考えてきたの。
 昨日、瑠奈とセックスしてとき、あたし、もう1秒でも男でいるの嫌だって思ったの。
 でも、いざとなると飲めないの。
 今日一日女の子になって幸せだったけど、一生女の子でいる自信がないの。

 だから、これ、もしよかったら、瑠奈に飲んで欲しいの。
 瑠奈がもし、ずっと女装子の方がよくて、いらないって思っても、
 あたしは、飲まないと思う。」

「努。これは、努が手に入れたドリンクでしょ。
 努が飲むのが、本当だと思うけど。」

「さっき、ベッドで聞いたとき、瑠奈は軽く答えただけだと思うの。
 だから、今、ちゃんと考えて、瑠奈が女装子でいるより、
 本物の女の子になりたいって思っていたら、飲んで。
 瑠奈は、女装子でいるのと、本物の女の子になるのと、どっちがいい?
 正直な気持ちを教えて?」

瑠奈は、じっと考えていた。
やがて、一筋涙を流した。そして、泣き出した。
「あたしは、本物の女の子になりたい。
 ずっとずっとなりたかった。
 女装子として、女の子に見られるようになったけど、
 それでも、たくさん悲しいことがあった。
 女の子へのジャラシーと劣等感をずっと抱いて来たの。
 それは、辛いものだった。

 劣等感は、一生どうしようもないものと思ってた。
 女装子で十分、女装子で十分満足だって、ずっと自分に言い聞かせてきた。
 でも、本物の女の子になれるなら、こんなに幸せなことはないの。
 努、この大切なものを、本当にあたしが飲んでいいの?
 努は後悔しないの?」

「後悔しないよ。瑠奈が飲んでくれるなら。」

「あたし、女装子だったってことも忘れてしまうなら、
 努のことも忘れるんじゃないかな。
 お互い女装子であったからこそ、努を愛せたのじゃないかな。
 努を忘れちゃうなんてやだ。それだけは、いや。」

「覚えててくれるかも知れないよ。
 もし、忘れてしまっても、また出会えるかもしれない。
 そんなこと飲んでみなければ分からないじゃない。
 飲んでみなければ、何も生まれないよ。」

瑠奈は、しばらく考えていて、やっとうなずいた。
「ありがとう、努。ドリンクは、ここに置いていってくれる。
 今日一晩、もう一度考えて、決めるね。
 でも、努の気持ちは絶対大切にする。」

「うん。」努は言った。

努は、男の姿に戻り、女物の一式を瑠奈に返して、
瑠奈のマンションを出た。
少し歩いたときに、涙が後から後から出てきた。
おそらく、瑠奈は、自分のところに返ってこないと思った。
淋しさが込み上げてきて、胸をうずめた。
でも、瑠奈が幸せになってくれるなら、それでいいと、
何度も何度も自分に言い聞かせた。



翌日の朝、
「お兄ちゃん、今日は女の子じゃなくなってる。」
と美沙が言った。
「ほんと、よかった。昨日はどうしようかと思ったわ。」と母の美佐江が言った。
「ね、1日だけだって言ったでしょう。」と努は言った。

「いってきまーす!」と元気よく家を出た。
だが、心に浮かぶのは、瑠奈のことばかりだった。

瑠奈とは、女装子同士だからこそ出会え、愛し合うことができた。
瑠奈が、自分が女装子であることを忘れたら、二人をつなぐものがない。
潔くあきらめろ。
うん。そうだ。

努は、再び元気を出して大学に向かった。

2時間目の終わった昼休み。
大学の広い食堂で、努は、玉子丼を食べていた。
瑠奈も食べていたなあと、思い出した。
ああ、いけない、いけない、思い出してはだめ。
再び言い聞かせていた。

「あのう。」という声が聞こえた。
「はい。」
と見上げると、瑠奈だ。
瑠奈は、努を見て、
「わっ。可愛い。」
と、くすっと笑った。
(ぼくのことは、やっぱり覚えてないようだ。)

(ああ、瑠奈、完全な女の子になってる。
 すごく可愛い、すごく綺麗だよ。よかった。よかったね。)
努は、涙が出そうだった。

「となりに座ってもいいですか?」
「あ、もちろん。」
瑠奈も玉子丼を持っていた。
「瑠奈といいます。」
「ぼく、努です。」
瑠奈が、努を見る目が、にこにこしている。

「あの、どうしてぼくのところに?」
瑠奈はうふんと笑った。
「これです。」
と瑠奈は、両耳から万能ナビゲーターを取り外して見せた。
「あ、それ。」と努は叫んだ。
「あたしのバッグに入っていたの。」
(あ、そうか!)
「うん。それで?」努は聞いた。

「何かのドリンクを飲む前に、
 あたしは紙に、ナビに聞くべきことを書いて、
 その紙で、ナビを包んでおいたようなんです。
 朝、それを発見したの。
 このナビがなんなのか、なぜか知っていました。」

「それで、なんて入力したの?」

瑠奈は、にっこりしながら、紙を見せた。

『あたしの生涯の伴侶。
   彼のところへ連れて行って。』

二人はこぼれるような笑顔で見つめ合った。

「じゃあ、じゃあ、ぼく達結ばれるの?」
「はい。」と瑠奈は満面の笑顔で言った。
「バンザーイ!」と努は、椅子から立ち上がった。

二人から、温かな幸せオーラーが立ち上り、
食堂中の人がにこにこと眺めた。



<おわり>


■次回は、未定です。■

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

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新スーパー洋子・緑川高校⑥「対サッカー部」最終回

1回くり上げて、今日のサッカー部との戦いをもって最終回にします。
毎回長い文を書いてしまい、うんざりされたこともあったかと思います。
最後まで、お付き合いくださり、ありがとうございました。
私の気は、すみました。
次回からは、2本立ての投稿はしませんし、できません(笑)。

========================

洋子は、朝出るとき、仏壇の兄健二に手を合わせた。
「お兄ちゃん。とうとう今日サッカー部とやるよ。
 絶対、勝つからね。応援してね。」
心で、そう言った。

バレー部以後、洋子は、4つの運動部を活動停止にし、
今日の男子サッカー部が最後だった。
サッカー部は、10年連続全国1位を保ってきたという名門だ。
レギュラーには、天才的な選手が、ずらりとそろっていた。
部員は、2軍を入れて100人は超えている。

学校の生徒達は、いくら洋子でも、
サッカー部にだけは、歯が立たないと思っていた。
あの広いグランドで、どうやって11人と戦うのか。
想像もできなかった。

その日の放課後、
サッカーコートの近くに多くの生徒が集まっていた。
いつもの応援の生徒達。
洋子によって解散になった部の部員。
そればかりか、他の運動部も、練習を一時休み、
サッカーゴールに集まっていた。
先生達も、大勢来ていた。
洋子の友達が、サッカー部をつぶすと触れ回ったからである。

サッカー部は、すでに練習に入り、
顧問の権堂辰夫の見張る中、練習に励んでいた。

洋子は、権堂の顔を見て、怒りで握りこぶしに力が入った。
『あいつが、兄ちゃんに40発のビンタをして、兄ちゃんは自殺した。』
だが、ここは、平静を装わなくてはならない。

洋子は、権堂の1mほど隣に立った。
「あああ、こんな練習じゃ、世界に行けないな。
 せいぜい1位になっても国内どまりか。」
と、権堂に聞こえる声で言った。

権堂は、その声を逃さず聞いた。
「おい。我が部への侮辱は、許さんぞ。」
洋子にそう言った。
「侮辱じゃありませんよ。真実を言ったまでです。」
洋子は、グランドを見ながら言った。

「おい。捨て置きならん。もう一度言ってみろ。」
と権堂は、こめかみに青筋を立てた。

「弱いと言ってるんです。練習の仕方も、ただ「根性」じゃダメだと言ってるんです。
 こんなチーム、あたし一人で、11人相手にゴールできます。
 そう、言ってるんです。」
洋子は言った。

権堂はかんかんに怒った。
「侮辱は許さん。なら、やってみろ。
 お前一人で、ゴールを決められるものなら決めてみろ。
 言っておくが、我がチームは、過去10年全国ナンバー1だからな。
 お前ができなかったら、どうする。土下座して謝るか。」

「学校をやめます。その代わり、もし私がゴールできたら、
 権堂先生は、学校をお辞めになってください。サーカー部は解散でいいですか。」
と洋子は言った。

「ああ、よかろう。お前がゴールできたらな。
 後で、吠え面かくなよ。」
権堂はそう言って、鼻で笑い、集合の笛を拭いた。

100名の部員全員が来た。
「皆に告ぐ。ここにいる誰だか知らん1匹が、
 我がサッカー部を侮辱した。
 こともあろうに、自分一人で、お前ら11人相手に、ゴールを決めるという。
 決められなかったときは、学校を辞めるそうだ。
 その代わり、ゴールを決められたときは、
 俺は、学校を辞め、サッカー部は解散だ。
 お前らに、自信がなければ、この1匹に頭を下げて、
 なかったことにしてもらうがいい。
 どうする。やるか。」

サッカー部員達はゲラゲラと笑った。
「先生、10年連続全国1を何だと思ってるんすか。」
「この女、気でも狂ってるんじゃないすか?」
と口々に言った。

「いや。本気だと思います。」とキャプテンの西崎は前に出てきた。
「俺は、やめます。先生、この人をよく1匹などと呼べますね。」
西崎は言った。

「サッカー部を侮辱するものなら、1匹だろう。」
「自殺した、倉田健二の妹ですよ。
 先生、葬式のときにいた家族の顔くらい覚えていてもいいんじゃないですか。
 先生は特に覚えているべきです。
 サッカー部のために誰よりもがんばり、
 そして自殺した健二の家族を、よく1匹と呼べますね。」

西崎の一言で、今までにやにやしていた部員の顔から笑いが消えた。
とくに同学年だった3年は、青い顔をした。

「健二の復讐に来ているんですよ。命がけだと思います。
 いくら俺達が全国1でも、命がけの1人に、勝てるかどうか、わかりません。
 俺は降ります。この倉田さんに謝って、試合を抜けさしてもらいます。」

そのとき、権堂は西崎の胸倉をつかみ、
「このお、お前それでも、キャプテンか!」
と言って、西崎を殴り飛ばした。
ビンタではなく、殴ったのだ。

そのとき、サッカーコートには、1000人近くの生徒が見に来ていた。
「オーイ、先生がキャプテンを殴ったぞ。」
「あれが、倉田健二を死なせたんだ。」
「何にも、反省がないじゃないか。」
「今、暴力をしっかり見たぞ。」
「西崎は、別に殴られるようなこと言ってないぞ。」
と事情を知るものは、大声で言っていた。

サッカー部員達は、1000人が集まっていることに全く気が付かなかった。

「おい、倉田。健二の妹だろうが容赦はせんぞ。
 時間を決める。何分欲しい。もっともこっちにボールを取られたら終わりだぞ。」
権堂は言った。

「5秒です。5秒以内に1点入れたら、私の勝ちです。
 私にゴールエリアからキックさせてください。」と洋子は言った。
「何を?5秒だと。そこまで、我が部を愚弄するか!」
権堂の怒りは心頭に発した。

その5秒という言葉が1000人に伝わった。
すごい騒ぎとなった。

今まで、洋子と戦って解散になった部の部員達は、
洋子の人間離れした強さが身に沁みていた。
だが、まだ戦ったことのないサッカー部には、想像することもできなかった。

サッカー部員達は、何かトリックでもあるのではないかと思った。
しかし、トリックがあっても、一人でできることは知れている。
いったい何を考えているのか。
皆、一抹の不安を胸に抱いた。

「では、健二の妹だということで、こっちもレギュラーを出してやろう。
 西崎の変わりに、近藤。全員位置につけ。」

権堂の合図で、11人が位置に付いた。

観客の1000人は、5秒で洋子がどう攻撃するのか、
期待に胸を膨らませていた。

サッカーの服装の11人に対し、洋子は、制服だ。

洋子は、ゴールエリアの真ん中にボールを置き、
その後ろ、7mほどの位置に立った。

いよいよだ。
『お兄ちゃん。絶対勝つからね。応援してね。』
洋子は、涙を浮かべ、それを制服の袖でぬぐった。

笛が鳴った。

洋子は、ボールへ向って猛然とダッシュした。
そして、遥か彼方のゴールに向かって、ものすごいキックを放った。
11人は、はっと思った。
今まで見たこともないような弾丸ボールが唸りをあげて、
コートの真ん中、地面より10m程のところを突き切っていく。

それより驚いたことは、
そのボールと同じ速さで、洋子が走って行くことだ。
ボールは、ヘディングでは届かない高さだ。
みんな、洋子をストップさせようと試みたが、
洋子は、立ちはだかる選手の頭の上を軽々と飛び越えていく。
数々の天才選手達も、全くなすすべがなかった。

弾丸ボールは、ゴール近く来て、
ゴールより、5mほど高い位置を飛んで来ていた。
このままでは、ゴールアウトは明らかだ。
洋子が敗れるのか?
皆そう思った。

バックの3人は、明らかなアウトボールと見て、壁を作らずにいた。
しかし、ワンテンポ早く、ゴールエリア近くにたどり着いた洋子は、
ボールに振り向き、
ゴールを背に、お腹を空に向けて、すごいジャンプを見せた。

そして、やって来たボールを、右足裏で、ポンと上に上げ、
空の高いところから、右足を振り下ろす勢いで、豪快な左足がボールを捕らえ、
強烈なオーバーヘッド・シュートを放った。
「まさか!」と誰もが思った。
ボールは、ゴールキーパーの頬をかすめ、
ゴール地面に叩き込まれた。

ゴールキーパー浅井も、天才と言われる一人だったが、
ボールの桁違いな迫力に圧倒され、微動だにできなかった。
4秒だった。

うわあ~と、1000人は、総立ちになり、すごい歓声を上げた。
「すげえ、ほんとにゴールだ。」
「5秒もかかってないぞ。」
「あの名キーパーの浅井が、動けなかった。」

11人の選手は、呆然と、まるで奇跡を見るような面持ちでいた。
そのとき、皆の胸を占めていたのは、
負けた悔しさよりも、洋子のプレーに対する感動だった。



レギュラーの11人と部員約100人は、権堂の前に集まった。
皆、完璧な敗北に、部の解散を覚悟していた。

副部長の長島が、代表して言った。
「先生。今までお世話になりました。
 11人に対し、1人でも勝てることが分かりました。
 きっと死んでいった健二の魂が、この倉田さんに味方したのだと思います。
 健二の死に対して、
 俺達はいつかはサッカー部をやめなければならないと思っていました。
 それが、今だとわかりました。
 これで、俺達は解散します。
 ありがとうございました。」
皆は、礼をして、去ろうとした。

「待て、待ってくれ。」
と権堂は叫んだ。
そして、洋子に向かい、両手をついた。
「君の兄さんを死に至らしめたのは、俺だ。
 全部俺が悪かったことなんだ。
 それを、全国1の名を汚すまいと、学校ぐるみで、
 俺の罪を隠し、サッカー部を温存させたのだ。

 俺は、これから、校長と共に、警察に行く。
 そして、すべてを話す。
 教育委員会の隠蔽も話す。
 もちろん、この学校を去る。

 だから、お願いだ。
 この連中にサッカーをやらせてやってほしい。
 彼らには何も罪もないんだ。
 すべては、俺なんだ。
 お願いだ。彼らだけは許してやってくれ。」

権堂は、地面にひれ伏して、頭を下げた。

副キャプテン長島が、言った。
「先生。俺達は、無罪ではないですよ。
 先生が健二を40発なぐったのをみんな見ていました。
 校長先生と権堂先生から、口止めをされましたよね。
 俺は、サッカーがやりたいのと、
 先生が怖かったから、口止めに従いました。
 今、深く後悔しています。

 1年生は、罪がないでしょう。
 だが、2年、3年は、みんな見ていたことです。
 それを、黙っていた俺達は、みんな有罪です。

 今まで、自分にウソをついてやってきました。
 でも、もう限界です。サッカーをやれません。
 全国より、健二の死の方が、俺にとって重いです。

 先生は、『男に二言はない。』といつもおっしゃっていたでしょう。
 今さら、倉田さんに、俺達への許しを乞うなんて、みっともないですよ。
 部員だけは許すなんて、初めの約束にありましたか。
 失礼します。」

そういって、サッカー部は、西崎を残し、全員コートから出て行った。
その顛末を1000人が見ていた。

「じゃあ、権堂先生は、校長先生と、警察に行ってください。」
洋子は、権堂にそう言い、1000人に大声で言った。
「みなさん。見ていてくれて、ありがとう。
 全部聞いてくれましたか?」

「おお、全部聞いた。証人になるぞー!」
と声がした。
「そのときは、よろしく。ありがとーう。」
洋子は、手を振った。

観客も行ってしまった。

洋子は、人が去ったグランドに、たたずんでいた。
『お兄ちゃん、みんなの言ったこと聞いてた?みんな、いい人だね。
 後は、新しいサッカー部が復活するようにがんばる。見ていてね。』

「倉田さん。」と残っていたキャプテンの西崎が言った。
洋子は西崎を見た。
「君のやってきたことは、全部意義があったと思うよ。
 それが、健二の願いでもあったと思う。
 ビンタやしごきでまとめて行く部活の時代は、
 もう終わりにしないといけない。俺も思っている。

 君は、一度そういう部の体質を全部壊した。
 君は新しく、いろんな部を始めようとしていると聞いた。
 そのときは、どうか一人でやろうとしないで、
 先生方や、俺達3年や2年生に協力を求めて欲しい。

 一度壊れて、みんな何か反省したし、大切なものがわかったと思う。
 今度こそ、この学校が変わると思う。
 そのとき、健二の死がやっと浮かばれる。
 天国で笑ってる健二の顔が、見られると思う。」

「はい。新サッカー部。西崎さんも協力してくれますか。」
「もちろんだとも。」

二人は誰もいないグランドを見た。
夕日が落ちて、グランドを赤く染めていた。


<おわり>

■最後に■

・洋子の願った、新しい部は実現した。ある日、体育館に9つの机が並び、
「新柔道部」「新バスケットボール部」・・・と解散した部が新しくなって、
 各机に名が表示されていた。
 みんなは、新規に入部希望の列に並び、名を書いた。

・元顧問の先生達は、辞表を受理されず、技術指導だけを行うコーチとして残った。
 経営は、あくまで生徒主体で行われることになった。

・部としては、学校の決まりで、顧問が必要であったが、洋子の担任の工藤が、
 「暴力指導を無くす会」を組織していて、そのメンバーが、各部の顧問になった。
 主に女性であった。生徒の自主であっても、大切なことは顧問の許可がいる。
 それは、守られなければならなかった。

・サッカー部顧問・権堂と校長、理事長、教育委員会の代表は、警察に出頭した。
 判決により、権堂は、40発のビンタと健二の自殺との関連はあるとされたが、
 遺書があっても、直接の原因になったとの確たるものではなく、無罪とされた。
 むしろ、学校の運動部における暴力的体質に責任があるとされた。
 また、事実を隠蔽した学校と、またそれを黙認した教育委員会は、許されないとし、
 自殺した倉田健二の家庭に、多額の慰謝料と賠償を支払うように命じられた。

・あたらしい部が発足して、部員達は、生き生きと部活動を始めた。
 顧問の言いなりになっていたときの、数倍楽しかった。
 校庭や、体育館で、暴力を見ることはなくなった。
 元顧問は、人が変わったように、1年生にやさしく技術指導をしていた。

・新しい部は、大会で、さらによい成績を残した。
 そして、自分達でやっていけるという自信をつけた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

洋子は、グランドや体育館を見て、兄健二に部活動の姿を見せたかった。
サッカー部の西崎が来たとき、
「お兄ちゃん、みんなのこと見てるかなあ。」と言った。
「見てる、見てる、空全部が、健二だよ。毎日笑ってるよ。」
西崎は、にっこりして、走って行った。

「そうか、お兄ちゃんは、空の全部なんだ。」
洋子は、空を仰いだ。
雲一つない、快晴の空だった。





◆長いお話を、最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


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万能ナビゲーター⑤「努・一日女の子体験」

先の分からぬまま、書いてきましたが、次回、最終回です。
書けば、何とかなるものですね。読んでくださるとうれしいです。

============================

『午後9時15分までに、押入れに入ってください。』
そうか、異次元にいけるのは、時刻が決まっているんだ。
前回は、偶然、その時刻に押入れに入ったんだ。

ナビの通りにして、フスマをあけると、あの異次元マーケットにでた。
今回は、前よりもっと多くの人だかりで、売り買いの言葉が飛び交っている。

人並みをかき分けるように、ナビに従って進んだ。
すると、あるおばあちゃんが、手招きをする。
「あなたの欲しいものは、ここだよ。」と言う。
努は、おばあちゃんの前にしゃがんだ。
そして、気がついた。

「あ、あのときのおばあちゃん!」
それは、道を教えて、息子さんの家に案内した、あのおばあちゃんだった。
「あのときは、ありがとう。」
とおばあちゃんは、言った。
「おばあちゃん、どうしてこんなマーケットで売ってるの?」と聞いた。
「あたしは、ほんとは、魔法使いなのさ。」
とおばあちゃんは言って、ウインクをした。

「あなたは、女の子になれる薬を探しているんだろ?」
「はい。そうです。そんな薬あるんですか。」
「薬じゃないけど、あるよ。」
おばあちゃんは、そう言って、2本のドリンクを見せた。
「小さい方のドリンクを飲めば、1日女の子になれる。」
「大きい方は?」と努は聞いた。

「大きい方を飲めば、一生女の子でいられる。
 でもね。大きい方を飲めば、
 過去の男の子としての記憶が、全部女の子の記憶に置き換えられる。
 つまり、自分が男の子だったことを忘れる。
 家族もあなたへの男の子として育てた記憶が塗り替えられる。
 女の子を育ててきたと思うようになる。
 そうしないと、いろいろ不都合でしょう。」
「なるほど。うまく出来てますね。」と努は言った。

「友達に上げてもいいの?」努は聞いた。
「親切にしてくれたあなたへの、世界に1つのドリンクなのよ。
 でも、もう一人お友達がいましたね。
 あの子になら、上げられますよ。」
「いくらですか。」
「あなたのポケットのお金全部。」
努は、ポケットを探った。
「1000円しかありません。」
「じゃあ、1000円よ。」とおばあちゃんは言った。
そして、
「ドリンクは、よく考えて飲むのよ。一生のことですからね。
 もう、同じ物は、どの異次元に行ってもありませんからね。」
とおばあちゃんは言った。
「はい。わかりました。」

努は、うれしくて、ナビに従って、急いで家に帰った。

また、押入れに着いた。
努は、小テーブルの上に、2つのドリンクを置いた。
大きいドリンクは、大切な自分のバッグに入れた。
小さいドリンクを前にして、
いつ飲もうかと心臓をドキドキさせた。

やっぱり、待てなかった。
それに、効き目を確かめたかった。
努は、小さなドリンクを飲んだ。
1分ほど目をつぶっていた。

ドキドキしながら、手を胸に当てた。
ああ、ある。柔らかなふくらみがある。
急いで、下半身に手を当てた。
ない。
ジーンズのお尻がパンパンになっている。
ヒップが広くなったのだ。

努は、恐る恐る鏡を見た。
女装のときと、少しずつちがう。
かなり女顔だった努は、完璧な女の子の顔になっている。
どことなくすこしずつ違うだけなのに、
誰がどう見ても女の子の顔だった。

立って、姿見の前で裸になった。
ウエストが高い位置に出来て、くびれていて、カッコイイ。
脚に脂肪がついて、むっちりしている。

男子としての長髪は、女の子のステキなショートカットのヘアスタイルになっている。

「ああ、うれしい。完全な女の子。ドリンクは本当だ。」
女物の服はないけれど、どの男物を着ても、女の子に見える。

男物のパジャマを着て見た。胸が飛び出ていて、肩がせまく、
女の子が、大きめのパジャマを着ている感じだ。

努は、うれしくてお布団を敷いて、そこにもぐった。
そして、体中をなでた。
やわらかい。これが女の子というものなのだ。

努は、ある行為を試してみた。
『ああ、すごい。女の子って、こうなんだ。
 ああ、耐えられない。声が出そう。ああ…。』

努はうれしくて、3回もしてしまった。

努は、瑠奈に、メールを送った。
『1日女の子になれる不思議なドリンクを飲んだの。
 いま、ぼくの体女の子。
 大学で女の子で過ごしたいから、
 あした、女の子の一式貸して。持ってきてくれる?』
すぐメールが来た。
『それ、すごい。明日努に会うのが楽しみ。』

努は、興奮のうちに眠りについた。



朝起きて、努は、家族の存在に気がついた。
どうしよう。女の子になっていることがバレてしまう。

努は、胸のふくらみを隠すために、
小さくなったきつきつのランニングシャツを2枚着た。
その上に、だぶだぶのストライプのYシャツを着た。
ヒップを隠すために、一番ぶかぶかのズボンを履いた。

ウエストの細さは、Yシャツが隠してくれる。

顔はどうかな。あんまり違わないかも知れない。

朝のキッチンへ、努は恐る恐る言った。
高1の妹・美沙がいる。父・雄二と母・美佐江。

努は、そっと席に着いた。
妹の美沙が、なんとなく自分を見ている。
そして、首をかしげている。
「お兄ちゃん。お兄ちゃんは、普段女の子みたいだけど、
 今日は、女の子にしか見えない。変だなあ。」
と、美沙は言った。

「そ、そう?いつもといっしょだけど。」
努は言って気がついた。声が、普段より女の子声だ。
「あ、声も可愛い。どうして?」と美沙。
「ちょっと、低い声が出ないだけ。明日には、治るから。」

母の美佐江も言った。
「ほんとだ。今朝の努、女の子に見えるわ。」
「うん、そうか?いつも女の子に見えるだろう。」
と父の雄三だけが、おおざっぱだ。

「今日のお兄ちゃん、100人が見て、100人が女の子だと間違えるよ。」と美沙。
「いつもは、かろうじて男の子にみえるのにねえ。」と母の美佐江。
「今日だけだと思うから。」
と努は言い張った。

朝は、かろうじて、それだけで済んだ。

外に出てしまえば、どう見られたっていい。
努は、逃げるように、家を出た。
「ああ、やばかったなあ。」と息をついた。

大学のイチョウの木の下で、瑠奈にあった。
瑠奈は、女装で来ていた。
「わあ、努。その格好で、完璧女の子。すごい。
 近寄ると、女の子の好香がする。女の子オーラも大発散。
 やっぱり本物は、違うのね。」
と瑠奈は言った。
「女の子の服、持ってきてくれた?」
「うん。着替えに行こう。」
二人は、車椅子用のトイレに行った。

瑠奈が持って着てくれたのは、ピンクと白のチェックのワンピース。
下着一式。サンダル。肩に斜めにかける白い小さなバッグ。
そして、白いメッシュのハット。
それを着てみると、完璧に可愛い女の子が出来上がった。

「うわあ、可愛い。」と瑠奈が抱き着いて来た。
「でも、一日だけなの。今日の夜10時まで。」努は言った。
「OK。授業終わったら、すぐあたしの部屋行こう。
 努も試してみたいでしょう?」
「あれ?」
「そう、あれ。」
と二人でにっこりした。


つづく

■次回予告■

最終回です。
努は瑠奈に重大な話をもちかけます。
さあ、それは、何でしょう。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

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新スーパー洋子・緑川高校⑤「男子バスケットボール部」の巻

同じパターンのお話を毎回書いていて、申し訳ありません。
次は、いよいよサッカー部、そして、最終回のつもりです。
最後までお付き合いくださると、うれしいです。

===========================

3日ほど観察に来たが、毎回3人ほどが、
顧問の先生にビンタを食らっている。
ここもそうかと洋子と3人はうんざりとした。
1年生をみると、5人ほどが、体育館の壁に正座をさせられている。
しかも、体育倉庫の運動棒を横に並べ、
その上での正座だ。

「ここもひどいね。」と冴子は言った。
「見ただけで、痛そうだよ。」と和也と恵美は言った。

顧問の遠藤が、そばに来たとき、
洋子は、聞こえるように言った。
「あんなこん棒の上に正座させたって、強くならないのに。
 ビンタくれても、やる気なくすだけよ。
 恐怖でうまくなったりしないよ。
 だから、プレイが、萎縮してるのよ。
 こんな選手なら、あたし一人で、勝てちゃうな。」

横にいた顧問の遠藤が、顔色を変えた。
「おい。お前の名と、クラスを言え。」
「1年B組 倉田洋子です。」
「さっき、自分一人で、我が部員5人に勝てると抜かしたな。」
「はっきり言いました。」
「休憩がてらやってやってもいいぞ。」

「どうせなら、レギュラー出してください。
 あとから、あれは2軍だったなんていい訳聞きたくないですから。」
「おのれえ。では、レギュラーを出してやろう。
 ただし、我々は、全国2位の実力だ。それを承知の上か。」
「はい。世界にはいけないことを知っています。」

遠藤は、その言葉で、激怒した。
「お前が負けたらどうする。」
「学校を辞めます。」
「わかった。我がチームが負けたら、俺が学校をやめよう。
 あいつらがいいと言ったら、部も解散してやろう。」

冴子たちは、ひそひそと話していた。
「剣道とバスケはちがうよ。」
「うん。人数が一人なんて、どうする気だろう。」

顧問の遠藤は、集合をかけた。
「ああ、ここにいる1年女子が、わが部を侮辱した。
 正座やビンタでは、上達はしないそうだ。
 そして、なんと、5人相手に自分一人で勝てるという。」
部員達は、ざわざわし、笑い声が広がった。
「しかもだ。レギュラー5人を出して欲しいという。
 そして、負けたら、自分は学校を辞めるそうだ。
 それに対し、俺は、負けたら、俺が学校を辞めると言った。
 そして、部も解散してやると言いたいが、
 これは、お前達の同意がなければならない。
 どうだ、負けたら、部が解散になってもよいと思うもの手を上げろ。」
ほとんどの部員が、笑いながら「オー!」と手を上げた。

一人挙げないのがいた。
部長の山口五郎だ。
「なんだ、山口。何が言いたい。」
山口は立った。
「当然我々は、勝つでしょう。
 しかし、自分は、その倉田さんの言葉に一部賛成です。
 先生のビンタや、運動棒の上の正座は、あまり意味がないと思います。
 そんなのがなくても、俺達気合が入ります。
 とくに、ビンタからは、屈辱しか生まれません。
 もらってみれば、わかります。」
「何お。」と遠藤は、山口の胸倉をつかんで、強烈なビンタを食らわせた。

「そのビンタが、なんの意味もないと言ってるんですよ。」
洋子は言った。
そのとき、いつもの50人と、練習のなくなった剣道部、柔道部の80人ほどが、
キャラリーに入ってきた。
「なんだ、お前達は。」遠藤は、怒鳴った。
「応援です。それと、勝負の証人です。」とだれかが叫んだ。
「ふんっ。男バスの強さをとくと見て行け。」と遠藤は言った。

「試合時間は何分だ。」遠藤は荒々しく言った。
「20分。」
「よし、レギュラーは入れ。腰抜けの山口の変わりに、太田。」

洋子は、制服姿だった。
レギュラーは位置に着いたが、構えもせず、でれんと立っているだけだった。
全く話にならないという体(てい)だった。
全員身長が185cmは超えている。190cmを超える選手は、森井と2人いる。

レギュラーの5人は言っていた。
「ほとんど、ノーマークだ。200点はとらないと恥だぞ。」
「楽勝だ。あの女にシュートはさせない。0点に抑える。」
「当然だ。すべて、速攻でいき、女の度肝を抜いてやる。」
「まかせろ。」
と5人のレギュラーは言っていた。

ジャンプボールとなった。
洋子に対し、部でもっとも背の高い198cmの森井が立った。

笛が鳴った。
ボールが上がる。
次の一瞬、レギュラーの5人は、度肝を抜かれた。
ジャンプボールを、洋子が、高々とジャンプし、マイボールにしたからだ。
198cmの森井に対して、信じられないことだった。

洋子は、ボールを取った位置でドリブルを始めた。
選手が、すごい勢いで、洋子のボールを盗みにきた。
洋子は、さっとかわした。
かわされた選手は、「え?」と思った。
洋子の動きが見えなかった。

洋子は、ここから始動した。
すごい速さのドリブルで敵陣に進んだ。

体勢を低く構え、右手左手体の前後自在にドリブルをしていた。
ボールなど少しも見ていない。
そして、猛烈な速さで、レギュラーたちの間を風のように抜けていく。
レギュラー達は、全く洋子についていけない。

3枚で阻止しようとすると、洋子は身を180度翻し、手を変え、
別の場所に飛んでいく。
レギュラーの5人は腕を広げ、必死で洋子を捕まえようとするが、
抜けるとときの洋子が見えないのだ。
速い。床を突くボールが見えない。
常に、洋子の手の中にあるように見える。

背の高い森井がガードするが、森井は、左右どちらを抜かれたのかわからなかった。

観客100名以上は、洋子のドリブルに魅了されていた。

5人は、目標200点などと言ったことが、たまらなくはずかしく思えていた。
ボールに触りもできないでいる。

選手達は焦った。
速攻をしたいが、ボールをとれない。
どうしても、何をしてもつかまらないのだ。
ボールを手に入れない限り得点はない。
5人の焦りは募った。

ポイントは、まだ、0対0。
ボールを触らずに点が入るわけはない。

時間は10分を過ぎた。
ボールは、洋子が持っているので、コートの外に出ない。
つまり笛が鳴らない。
完全な休息なしである。
しかも、自分達は、必死で洋子を追っている。
全力疾走を10分続けているようなものだ。
それに、洋子のフェイントに、左右前後に脚の筋肉を使う。
これが、きつい。
太ももは、すでに、ぱんぱんに腫れている。

滝のように汗をかいていた。
それなのに、洋子は、汗一つかいていない。
それが、5人に大きなプレッシャーを与えていた。
5対1で追っている。5の方が絶対の有利なのに、
自分達は、ぜーぜーと息を荒くしている。

「すごいな。」
「ああ、あんなドリブルワークみたことがない。」
観客の中でそんな声がした。

こんな試合はやったことがないと、レギュラーは思っていた。
試合では、必ず、ファウルがあったり、
ボールを外に出たりし、笛が鳴る。
それが、貴重な休息時間となっているのだ。
その休息時間が全くないのである。
ボールが来ないからと休んでいる暇はない。
休んでいるところに、必ず洋子は、すごいスピードで迫ってくる。

それにしても、洋子はなぜシュートを打たない?
洋子を0点に押さえるつもりだった。
今、自分達は、その反対のことをされている。
洋子は、レギュラーを屈辱の0点に押さえる気だ。
そして、1本シュートを決めて勝つつもりだ。
なんてことだ。それに、今頃気がつくなんて。

もし、洋子がシュートを打っていたら、何点取られただろう。
思うだけでも恐ろしかった。

これでも、俺達は、全国2位なのか。
こんな情けない俺達が全国2位でいいのか。
5人は、同様に、自分に問いかけていた。

ある部員は、たまらずに、反則覚悟の体当たりを試みた。
洋子は、ボールと共に、高々とジャンプして、選手の頭上を超えて行った。

時間は、15分を過ぎようとしていた。

時間が17分を過ぎたとき、5人は完全にバテていた。
意識が朦朧としてくる。
脚が限りなく重い。
ただ、気力だけで動いていた。
こんな動きで、自分達がボールを奪える訳がない。
時間は、あと2分。2分もある。
それが、絶望的な長さに思えた。
とうとう1人が倒れた。
やがて、2人目、3人目が倒れた。
あと30秒というところで、残り二人が倒れた。

時間は、あと10秒。
洋子は、フリースローラインまでドリブルし、ボールを構えた。
リングを見た。
あと2秒というときに、高々とボールをスローした。
ボールは、綺麗にネットを抜けた。

20分がたち、笛が鳴った。

2対0。洋子の勝ちである。

5人は、大の字になったまま動けなかった。

「洋子がこんな勝ち方をするとは、思わなかったな。」
「これこそ、かんぷ無きままに、叩きのめされたという感じだな。」
「選手にとって、これ以上屈辱的な負け方はないよ。」
ギャラリーでそんな声がしていた。

顧問の遠藤も、これほど無残な負けを見たのは初めてだった。
しかも、たった一人の女子にやられた。
完全な敗北である。

5人が這うようにして集まったとき、遠藤は、洋子に言った。
「お前の勝ちだ。
 我がチームが、これほど惨めに負けたのを見たことがない。
 俺一人が学校を辞めるだけでよかったものを、
 俺が下手に、皆を集めて怒らせてしまった。そのため、
 このバスケット部まで解散にしてしまった。

 倉田。お前が、ここに来た目的はなんだ。」

洋子は、言った。
「ビンタや無駄な暴力を、部活からなくすためです。
 遠藤先生は、正当な意見を言った山口さんにビンタをしました。
 公的な場で、聞いてみましょうか。遠藤先生のビンタは正当であったか。
 いかがですか。」

遠藤はうつむいていた。
「あのビンタは、するべきでなかったと思っている。」

「先生はご存知でしょうか。私は、サッカー部で40発のビンタをうけ、
 その夜に自殺をした、倉田健二の妹です。」と洋子は言った。

それを聞いて、遠藤の顔色が変わった。
そして、3年生全員の顔色が変わった。
「私は葬式に見えた遠藤先生のお顔を覚えていました。
 しかし、遠藤先生は、健二の家族の顔など、覚える意味などなかったのでしょうね。
 遺族の顔を覚えていてくださったのは、山口さんだけだったと思いました。」

「そうか、そうだったのか。だから、それほどに、ビンタや体罰を憎んでいたのか。」
遠藤は言った。

「兄の事件で、学校は少しでも反省し、暴力的な指導を自粛していると期待してきました。
 それが、全然です。現に私の目の前で、山口さんがビンタを受けました。
 部員に意見を聞いたのは先生です。
 それなのに、意見を言った山口さんにビンタをしました。

 その意見が間違っていたからではなく、先生が気に入らない意見だったからです。
 それなら、部員に意見など始めから求めなければいいのです。
 これでは、部員は、先生に何も言えません。
 学校は、サッカー部の40発のビンタを隠蔽しました。
 遠藤先生も、事実をご存知だったのでは、ありませんか。」

「ああ、知っていた。」
遠藤は部員の前で、嘘はつけなかった。

遠藤は、膝を折り、両手をついて、部員の方を向いた。
「すまん。この通りだ。俺は、顧問も学校も辞める。
 倉田をうらんでくれるな。
 おれは、倉田の兄さんを死なせた40発のビンタを見たんだ。
 なのに、止めようとしなかった。
 そして、学校から口止めをされ、保身ために、口止めに従った。
 そのビンタが原因で、倉田の兄さんが自殺をしたのは、俺にとっては明白だ。
 それなのに、俺は、何の反省もなく、暴力的な指導をして来た。
 ある先生の40発のビンタを知っていて、黙っていた罪もある。
 悪いのは、すべて俺だ。申しわけない。すまなかった。」

そして、洋子に向かって言った。
「口止めに従った俺は、罪びとであり、もはや生徒を教える資格はない。
 君の兄さんの死は、学校が招いたものだ。
 学校が責任をとり、君のご家庭に、多額の賠償と慰謝をしなければならない。
 私は、これから、その意見を校長にすることで、君の家族への侘びとしたい。
 すまなかった。この通りだ。」
遠藤は、洋子に深々と頭を下げ、そして、去って行った。

ギャラリーの観客は、遠藤の言葉をしっかり聞いた。

呆然としている部員に、洋子は言った。
「みなさん、今のバスケットボール部は、解散ですが、
 やがて、新バスケットボール部ができる予定です。
 それは、暴力的な指導がない部です。
 その部が出来るまで、もう少し私に時間をくださいますか。
 そして、新しいバスケットボール部ができたら、また来てくださいますか。」

「ほんと?」と山口が言った。
「はい。山口さんもそのときは、是非力を貸してください。」
「ああ、もちろんだ。みんな、よかったな。」と山口が言った。
「ああ、よかった。」とみんなはうれしそうに声を上げた。

洋子は、見物の約100人に、
「みなさん、ありがとー!」と手を振った。
「よかったな。すごかったよ。」
そんな言葉を残して、みんなは去って行った。

外へのドアを出ると、冴子、和也、恵美の3人が待っていた。
「お疲れさん。今日私達で、お疲れの洋子にアイスクリームおごるからね。」
と冴子は言った。和也も恵美も笑っている。
洋子は、それが、とてもうれしく思った。

すべてをビデオカメラに撮っている人物の影は、
今日も、あった。


つづく

■次回予告■

次は、いよいよサッカー部です。
兄のかたきと思っている顧問のいる部です。
洋子は、万感の思いで戦います。

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万能ナビゲーター④「キャンパスでの女装体験」

今回も、2本立て投稿です。この記事の下に「新スーパー洋子」があります。
両方読んでくださると幸せですが、どちらかでも読んでくださるとうれしいです。

=============================

朝になり、目が覚めると、下着姿のまま、瑠奈と抱き合っていた。
かつらをはずし、メイクを落としてある。
瑠奈の生脚がなまめかしかった。
そして、自分の脚も。
「ああ、男に戻るの悲しい。」と思った。
瑠奈が、目をぱちんと開け、
「じゃあ、女装したまま、大学行こう。」と言う。
「そんな勇気ないけど。」と努は言った。
しかし、瑠奈に励まされた。

努は、やわらかい水色のワンピースに、白いカーデガン。
瑠奈は、ひらひらの白いミニスカートに、
ピンクのブラウス、その上に花柄のチュニックを来ていた。
ウィッグは、昨日と同じもの。
二人とも、軽いメイクをした。

「絶対大丈夫。女の子にしかみえない。」
と瑠奈が言った。
鏡を見て、努は、自分でもそう思った。

電車とバスに乗り、大学に来た。
ときどき見られた。
「あたし達が、可愛いからって思うことにするの。」と瑠奈は言う。
「うん、そうね。」と努は言った。
努の心は、100%女の子になっていた。

昼休み、食堂で、瑠奈と落ち合った。
瑠奈と対面で、玉子丼を食べていた。
「努、食べ方も女の子になってるね。」と瑠奈が言う。
「ほんと?あたし、心の中100%女の子になってる。どうしよう。」
「それで、いいじゃない。」と瑠奈は言った。

そうするうち、2人の男子学生が来た。
一人は、瑠奈の隣。もう一人は、努のとなりに座った。
瑠奈のとなりは、プレイボーイ系。
努のとなりは、美形だが、おとなし目だった。
「俺は、昌司。」と瑠奈の隣の学生が言った。
「ね、今日一日だけ、大学内をデートしない。」と昌司が言う。
「いいわよ、あたしは瑠奈。」と瑠奈は軽くOKした。
「ああ、ぼくは、隆志。ぼくたちも、いい?」
と隆志は、やっとの思いで言っているようだった。
「あ、うん。あたしは、ルミ。」と努は、思いついた女の子名前を言った。

努は、ドキドキしていた。
いざ、男子から女の子と思われ、誘われてみると、
自分に対する女の子気分は、数倍に高まった。

食事を終え、瑠奈のカップルと分かれた。

努は、隆志と校舎裏の道を歩いた。
しばらくだまっていたが、やがて、隆志は言った。
「俺、実は、女の子と話したことなんて、ぜんぜんなくて、
 ルミを楽しませてあげられない。ごめんね。」
努は、まじめそうな隆志に対して、自分を女の子と思わせていることに、
罪悪感を感じていた。
「あの、隆志。怒らないで聞いて。
 あたし、人をだますの居心地悪いから言うね。
 あたし、女じゃないの。男なの。女装しているだけ。」
努は言った。

「うそ。」と隆志。
「ほんと。だから、男同士だと思って、気楽にしゃべって。」
「完全に女の子に見えるよ。声だって、可愛いし。」
「女の子だと思って、女の子扱いしてくれると、うれしいけど。」
「ああ、俺、急にリラックス。でも、ルミを女の子だと思うね。」
「ええ、そうして。」

二人は、ベンチに座った。
小道には、だれもいなかった。
「あ、あのさ。」と努は言って、
「あたし男だけど、KISSなんかしたいと思う?」と聞いた。
「うん、思う。女の子だと思ってるから。」

「そうなんだ。あたし、今自分がわからないの。
 あたしも、隆志とKISSしたいと思うんだけど、
 それは、男の子とKISSして、自分が女の子になった気分を味わいたいだけなのか、
 それとも、隆志を好きになったから、KISSしたいのか、分からないの。
 あたし、何言ってるか、わかる?」

「うん。分かる。」
「女の子の気分を味わうためのKISSじゃ、隆志に失礼でしょう。」
「でも、男は、可愛い女の子なら、だれかれかまわずKISSしたいって気持ちもってるよ。」
「そ、そうよね。あたし、男だからわかる。」
「いろいろ考えないで、KISSしてみない?」
「あ、うん。そうね。」

隆志の顔が迫ってきた。
努は、目を閉じた。
隆志のくちびるを感じた。瑠奈のやわらかい唇とはちがう。
隆志が、そのうち、努を抱き、強く抱きしめて、深いKISSをしてきた。
隆志の広い胸に抱きしめられて、努は、自分がか弱い女の子になった気分がして、
たまらなく幸せを感じた。
男の子とのKISSもステキ。
努は思った。

唇を離して、隆志は聞いた。
「どうだった。」
「すごく、よかった。女の子になった気分満点だった。
 隆志は。」
「完全に興奮した。ルミの体やわらかいし、唇もやわらかい。
 実は、初めてのKISSなんだ。
 女の子とのKISSが、こんなにステキだとは思わなかった。」
「そういってくれると、うれしい。
 あたしの胸にせ物なの。ごめんね。」
「ううん。そこまで考えてないから。」

それから、授業時間以外、1日隆志といた。
メールアドレスも交換した。

5時に、瑠奈と落ち合うイチョウの木のところで、さよならをした。
留美が来た。
「どうだった?」と瑠奈がいう。
「女装子だって、正直に言った。」
「そうなんだ。彼、嫌な顔した?」
「しなかった。」
「キ・スくらいした?」
「うん。」
「どうだった?」
「感激した。」
瑠奈は、にっこり笑った。
「努、危ないな。女の子への道、まっしぐらかも。」
「うん。それが、心配でたまらない。」
努は、そう言った。



瑠奈のマンションで、男に戻った。
ウィッグをとるのが、悲しかった。
瑠奈にお礼を言って、我が家に帰った。

家族で、夕食の団欒をしているとき、
努は、心の声が女の子になっているの気づき、困った。
ともすると、「あたし」と自分を呼んでしまいそうだった。

自分の部屋に行って、パソコンの小テーブルに向かった。
気がつくと、女の子座りをしている。
風呂からあがったとき、バスタオルを、つい女の子巻きしそうになった。
ああ、危ない。

努は、自室の畳の上で大の字になり、考えていた。
ああ、自分がわからない。
このまま、どうなってしまうのだろう。
そのとき、はっと大事な物を思い出した。
万能ナビゲーター。
努は、飛び起きた。

努は、両耳に入れた。
そして、たずねた。
「1日女の子になれるお薬か飲み物は、どこにあるの?」
すると、ナビが始まった。
『え?あるの?ほんと?』
努の胸は躍った。


つづく

■次回予告■

女の子になる薬か飲み物を、売ってくれたのは、
意外な人物。薬の効き目は、さて、どうなのでしょう。

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新スーパー洋子・緑川高校④「柔道部の巻」

「柔道部の巻」

洋子と3人が、皆に告げず、こっそり柔道部に来たとき、
一人の部員が、先生に徹底的に投げられている。
その部員は、ほとんど無抵抗だ。

洋子は、そっと1年生の部員に聞いた。
「投げられているのは、誰ですか?」
「主将の加藤真一先輩。」
「なぜ?」
「先生に意見したんだ。
 先生の暴力的な指導が続けば、我々も剣道部のように廃部になると。」
「じゃあ、あたしにも、責任があるわ。」

洋子は、大きな声で、「まってください!」と声をかけた。
顧問の城山は、投げの手をとめて、洋子を見た。
城山は、洋子のそばにきて、
「ははん。お前だな。剣道部をつぶした女は。」
「はい。加藤先輩は、先生に投げられて、極限に来ています。
 これ以上やると、筋肉が破壊され、使い物にならなくなります。
 私に少しの責任があるなら、
 加藤先輩の代わりに、私を投げてください。」

「いいだろう。お前を投げてやろう。」
「私は部員ではありません。だから私は戦いますが。」
「いいだろう。時間は?」
「参ったをするまでです。または、気絶をするまで。1本勝負ではありません。」
「負けた方はどうなる?」
「私は、学校を辞めます。」
「よし、俺が負けたら、顧問も学校もやめてやろう。
 柔道部も解散でもよい。
 お前ら、いいか!」と部員に声をかけた。
「決まった。柔道部も解散してやろう。
 ただし、俺が初めに『まいった』をしたならな。
 いいか。柔道は、剣道のようにまぐれではいかんぞ。」
城山はニヤリとした。

洋子は、Tシャツと新しい柔道着を部員から借りた。

加藤は、やっと城山のしごきから免れた。
加藤は、心で、洋子を応援していた。
城山の暴力的なやりかたに、洋子を内心応援しているものは、一人や二人ではなかった。

城山と洋子は見合った。
小柄な洋子は、城山の半分しか背がないように見えた。

「初め!」の合図がかかった。
ここからは、審判なしのデスマッチだ。

城山が、少し出て、洋子の襟をつかんだ。
そのとたん、城山は、高く宙に舞い、1本背負いを食らった。
洋子は、城山が宙にあるときから、懇親の力で、城山を畳にたたきつけた。
「おおおおお。」と部員は、声を出した。

「ううっ。」と城山は、痛みに顔をしかめた。
城山は、1本背負いで、これほど激しく畳にたたきつけられたことはなかった。
城山が背中を抑えて、やっとの思いで立ってくると、また背負い投げ。
城山は、同じ場所を、強烈に畳にぶつけた。

「すごい。先生は、日本代表だぞ。」
「ああ、信じられない光景だ。」
部員は話していた。

城山は、ぶるると首を振り、信じがたい目を洋子に向けた。
『なんだ、この女は?技が見えん。』城山は心で言った。

城山は、1本背負いを嫌い、低く入って来た。
洋子はそれ以上低くなり、豪快な巴投げを打った。
城山の巨体が、宙に3m浮かび、後方5mは飛んだ。

この時点で、すでに城山に疲れとダメージの限界が見えた。
城山は、悪夢を見ている気がした。
『こいつなら、剣道場破りをしたこともうなづける。』

城山は、巴のダメージを今度は、立ちの姿勢で向かって行った。
洋子は、ここで基本技、出足払いを打った。
相手の足が出て、畳につくときその足を払う。
相手が、それで重心を崩したところに、投げをうつ。

「見事だな。」
「ああ、タイミングが絶妙だ。」
部員は言っていた。

城山は見事にかかり、よろけたところを、
洋子に、両手で、もろに畳に打ち付けられた。
城山はかろうじて立った。そこをすかさず、1本背負い。
この出足払いと1本背負いのセットを3本やられた。

城山は、息をぜいぜいと荒くついていた。
対して、洋子は、息一つ乱してない。
城山は、投げられたときに休むことができなかった。
それは、今さっき、主将加藤に1秒の休みも与えず、投げ続けたからだ。

城山が、気を取り直し、果敢に洋子に向かって行ったとき、
洋子から、信じられない大技がでた。
山嵐だ。見事に決まった。
「おおおおお。」と部員達は声を上げた。
限られた人間しかできないと言われる、幻の大技であり、
1度受けたら、普通の柔道家では、起きあがれないという。

「すげ!見たか!」
「見た、生まれて初めて見た!」
1、2年生は興奮した。

山嵐をまともに受けた打撃は、1本背負いの比ではない。
城山は、必死で、うつぶせになった。
『世の中に、こんな強い女がいるのか。オリンピックにもいない。』
城山は、深く後悔した。
自分が学校を辞めるといったこと。柔道部を解散すると言ったこと。
自分の絶対の勝利を疑わず、自分の辞職も、柔道部の解散も、露ほども考えていなかった。
だが、その事態が、もう目の前に見えていた。

城山は、寝技に持ち込み、休憩したかった。
だか、洋子の技は、起きたと同時にやってくる。
あまりにも綺麗な技で、寝技の隙もない。
柔道着も乱さず、直す時間も与えない。

投げられたとき、意味もなくこうして動かないのは、約束違反だ。

やっとの思いでたった時、洋子の大外刈がきた。
これを食らうときつい。
また、倒れる。
起きると、また、大外刈。
それを、何本も食らった。

厳しい学生時代の柔道部でのしごきでも、これほどやられたことはない。
城山は、ほとんど限界に来ていた。
あのとき、洋子は言った。
『動けなくなった選手に刺激を与えると、筋肉がだめになる。』と。

その言葉を聞かず、俺は怒りにまかせ、加藤を投げ続けるつもりだった。
洋子が、代わるといったから、やめたまでだ。
さもなくば、俺は、最優秀な部員を再起不能にするところだった。

洋子は、俺が身動きがとれなくなっても、せめて来るだろう。
加藤がやられる様を見て、怒りに燃えているはずだ。
そして、俺の筋肉は、ずたずたに壊れる。
もう選手生命はない。

まさか、この小さな女が、これ程に強いとは思わなかった。
剣道部がやられたことを、肝に銘ずるべきだった。

考えている城山に、また、1本背負いがかかった。
伸びている加藤を、持ち上げ投げようとした俺は、
動けなくても「まいった。」をする資格はない。
あの場で、加藤は、顧問の俺に対し「まいった。」を言えなかったからだ。

その後、1本洋子になげられた城山は、そのまま動けなくなった。
『これ以上やられると、俺の柔道生命は終わる。』

「先生。先生を持ち上げて投げていいですか。
 先生は、柔道ができなくなりますが。」
洋子は言った。
「俺に、『まいった。』を言う資格はない。
 なぜなら、この状態から、加藤を投げようとしたからだ。」城山は言った。

そのとき、加藤が、駆けつけ、そばに座った。
「先生。『まいった。』をしてください。
 俺のことはいいです。俺は、倉田さんの止めで、助かったんですから。
 先生は、日本を代表して世界で戦う使命があります。
 俺にしたことなんか、忘れてください。」
加藤は、そう言って、涙を頬に流した。

加藤の言葉が、城山の心の奥まで届いた。
城山は、思わず目に涙を溜めた。
「加藤、すまなかった。そして、ありがとう。
 俺は、間違っていた。一から出なおそうと思う。」
城山は、そう言って、洋子に、「まいった。」をした。

二人の言葉を、部員全員が聞いた。
泣いている部員も多くいた。
部員が数人来て、城山の体を、道場の正面に運んだ。

洋子は、道場の開始線にもどり、礼をして、柔道部の看板を取った。
そして、しーんとして正座している部員に言った。
「この看板は、新柔道部として、近々お返しします。
 それは、暴力指導のない、新しい柔道部です。
 それまで、もう、少しだけ、あたしに時間をくださいますか。
 柔道着は、洗ってお返しします。
 では、失礼します。」
洋子は、制服の入った紙袋を持って、
涙ぐんでいる冴子、和也、恵美といっしょに去って行った。

「そうか、あの子のしていることが、はっきりわかった。
 この学校の、暴力指導を排除し、
 俺達だけで運営できる部を作ることなんだ。
 俺達は、互いに励まし合える部に、絶対しような。」
加藤が言った。
みんなが、「おう!」と言った。

「あの子は、一人で戦っているんだ。
 あたらしい柔道部ができるまで、せめて、応援しようよ。」
「ああ。そうだな。」
とみんなは、言った。

外で、恵美は行った。
「城山先生は、今日で変わったと思う。
 学校辞めなくてもいいんじゃないかな。」
「今日、最後泣いちゃったよ。」と和也。
「あたしも、明日からの先生、ちがうと思う。」と冴子は言った。
洋子は言った。
「あたし、始めから、どの先生も辞めて欲しいなんて思ってないの。
 お辞めにならなくて済むように、実はある先生と相談中なんだ。」
「え!ほんと?誰先生なの?」と3人は言った。
「あたし達に一番近い先生。」と洋子。
「じゃあ、担任の工藤先生?」と和也。
「内緒よ。工藤先生ってものすごく頼もしい先生なの。
 今日も、道場のギャラリーで、ことの一部始終をムービーに撮ってらした。」
「わあー、気がつかなかった。」
とみんなは、声を上げた。


つづく

■次回予告■

次は、男子バスケットボール部です。
今までの格技とちがい、洋子はどう戦うでしょうか。

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万能ナビゲーター③「努・初の女装」

今、「新スーパー洋子」と「万能ナビゲーター」を2本立てで、投稿しています。
「新スーパー洋子」は、「万能ナビゲーター」の下にあります。
「万能ナビゲーター」の方は、あれに引っかかるかもしれません。
どうか、無事に1日持ちますように。読んでくださると、うれしいです。

============================

瑠奈のワンルームマンションに入ると、
そこは、典型的な女の子の部屋だった。
オシャレな下着が干してあったり、可愛い服が吊るされている。
「わあ、いいなあ。」と努は言った。

紅茶を1杯飲んだ後、早くシャワーを浴びてきてと瑠奈が言う。
「出るときは、タオルを女の子巻きしてくるのよ。」と瑠奈。
「あ、それ興奮しちゃう。」と努。

お湯の音が止んで、努は、女の子巻きして出てきた。
瑠奈は、努をドレッサーのストールに座らせて、
いろいろ点検した。
「ヒゲは、ほとんど産毛なのね。」
瑠奈は、産毛にクリームを塗って、剃刀を入れた。

「すねの毛は、ちょっとしかない。」
瑠奈は、包装用のガムテープを持ってきて、
わずかなすねの毛に貼り、ピーとはがした。
それを3回やって、綺麗に毛を抜いた。
「はい、手を頭の後ろにあげて。」と瑠奈。
瑠奈はさっきのガムテープで、片腕上下、左右の脇に貼ってぴりー。
合計4回ぴりーをやった。

努が触ってみると、全く脇の毛がなくなっていた。
触ると気持ちいい。
瑠奈は、テープを使ったところに、
女性ホルモンがたっぷり含有されたクリームを深く刷り込んだ。
「努の毛なら、これで、1ヶ月は生えないわよ。」と瑠奈は言った。
「ほんとすごい。」と努。

ぴりーのダメージが引くまで、あたしシャワー浴びて来るね。
瑠奈はそう言って、しばらくするとタオルの女巻きで出てきた。
なんだか、ものすごく色っぽかった。

瑠奈は、努に地厚なベージュのショーツを渡した。
努が履くとき、瑠奈が女の子に見える履き方を教えた。
「わあ、すごい、前が出っ張ってない。」と努は感動した。

「どっちがいい?メイクを見ないで、終わった時『これが、ぼく?』って感動するのと、
お勉強に、メイクの過程を全部みるのと。」瑠奈は言う。
「これが、ぼく?がいい。」と努は言った。
「OK。」
と言って、瑠奈は努を背に鏡に向かせ、手早くメイクをしていった。
「眉、細くしちゃうよ。」
「うん。」
眉を細くしただけで、早、努の顔は、女の子に見えた。

ベースクリーム3種。パウダーの後、刷毛で落とし、
アイメイク。アイライン。つけ睫。上下。
アイシャドウ。ピンク系。
努の顔は見る見る変わっていった。
つけ睫の後、すでに、「これがぼく?」状態だった。
チーク、そして、ピンクのリップ。グロス。
顔は出来上がり。
瑠奈は、努が可愛くて、感激していた。

かつらの前にブラをつけて、スリップをかぶる。
もう一度すわって、ウィッグ。ロングで、耳までストレート。
耳から下が、ゆるいカールになっている。前髪ストレート。
ピンで、おでこを少し出す。
顔のできあがり。

「努を、ケーキ屋さんの店員にするね。」
瑠奈はいい、ピンクのパリッとした半袖のワンピースを努に着させ。
胸あてのある白いエプロン。頭に可愛い頭飾りを乗せた。
白い膝までのストッキング。
そして、白い作業用サンダル。

「はい、いいわ。超可愛い店員さんの出来上がり。」
と瑠奈の声に、努は鏡を見た。
一瞬誰かと思った。
可愛い女の子。自分だ。うそー!こんなに女の子になるなんて。
「可愛い。めちゃめちゃ可愛い。これが自分だなんて。うれしい。
 多分だけど、誰が見ても女の子に見える。ああ…。」
努は、瑠奈に抱きついた。
「ありがとう、瑠奈。」
「努、ほんとに可愛い。もう、たまらない。」
と瑠奈は言った。

あそこがうずいていたが、ショーツであそこが、股の下に回されて、
前に出て来ないですんでいる。

瑠奈は、ものすごく手早く、またたくまにメイクを終えた。
下着を着けて、努と同じケーキ屋さんの店員さん。
ワンピースの色は淡いブルーにした。
靴下を履いて、靴を履き、
最後に、ゆるいカールのセミロングのウィッグをかぶった。
前髪にてんとう虫のついたピンで、額をのぞかせる。
頭かざり。
出来上がり。

「可愛い。」と努は瑠奈を見て、胸が震えた。
二人でならんで、鏡に映した。
「努、脚めちゃ長いんだね。」
「そうお。」と努。
「あたし、背が低い割りに脚長いの。
 努は、あたしより2cm背が高いだけなのに、すねの長さが長くてステキ。
 だから、女の子並みのハイウエストになってる。」

「瑠奈。ぼく、雲に浮いてる気分。」
「こんな可愛い店員さんは『ぼく』じゃないでしょう?」
「あたし。鏡見てると、あたしって言いやすい。」
「ああ、ナビのいうとおり、努は、『可愛い可愛い女装子さん』だわ。」
「瑠奈が最初の、『可愛い可愛い女装子さん』だよ。」

「努は、初めてだから、今から最低20分は、鏡を見ている方がいいわ。
 その間、あたしは、夕食を作るね。」
「あ、ありがとう。だったら、家に食事いらないってメールするね。」
「まって、友達の家に泊まるっていって。」
「うん。」
努は、メールを入れた。
そして、心いくまで、鏡を見た。
鏡を見るだけで、心の底まで、女の子になっていくようだった。

しばらくの時間が経った。

瑠奈が後ろに来ていた。
瑠奈は、努の首に手を回し、
「心の底まで、女の子になった?」と聞く。
「うん。自分が女の子にしか見えない。」
「立って、にゃんにゃんしよ。」と瑠奈。

二人は立って、向かい合い、お互いの体を撫で回した。
すると、どんどん気分が盛り上がっていく。
お互いを抱きしめたくなってくる。
「ああ、瑠奈、ぼく、我慢できない。」
二人で抱き合って、KISSをした。
ああ、神様…っと思った。

「ソファアーに行こう。」と瑠奈が言う。
ソファーに並ぶと、正面に鏡があった。
うれしい。二人がみえる。
二人はまるで、不思議の国のアリスのようだった。

「これから、努の心を女の子にするわ。」と瑠奈が言う。
「どうするの?」
「ショーツをぬいで。」
「恥ずかしい。あそこ、大きくしてる。」
「スカートがふわふわだから、わからないわ。」
努は、ショーツをとった。
スカートの中で、アレがフリーになっている。
瑠奈が、スカートの中に手を入れてきた。
さわった。
「努。『いやん』っていうの。」
瑠奈の手があそこをさわる。
「いやん。」と努は言った。
「2回いうの。」
といって、瑠奈はなでる。
「ああ、いやん、いやん、ああ。」
努は、陶酔の表情を浮かべた。

「あたしは、女の子、って言うの。」
「あたしは、女の子。」
「うんと、うんと、女の子。」
「うんとうんと女の子。」
「あたしのこと、お姉様って呼ぶの。」
「ああ、お姉様。」
努は、瑠奈のあいぶで、どんどん高みに行っていた。
もう、今にも到達してしまいそうだった。

「努。もっともっと女の子の言葉を言うの。」
「うん。お姉様。あたし、あたし、ああ、ああん。」
「なんなの、言って?」
「気持ちがいいの。ああ、お姉様、いやん、だめ、いやあああ。」
「もっと、聞かせて。」
「やん、やん、お姉様、あたし気が狂いそう、いやん、だめ、もうだめ、ああ…。」

瑠奈は、さっと努のスカートをめくって、
努の熱い部分を口に含んだ。

「あああん、いやん、いやん、いやああああん。」
努は、ビクンとして、留美の口の中へ、あるものを放出した。

『ああ、身も心も女の子になれた。もう、女の子になりきれる。』
努は思った。
女の子になる恥ずかしさの垣根を超えた。

「努。もう、女の子になれるでしょ。」と瑠奈が言う。
「ええ。お姉様。もう、恥ずかしくない。あたし、女の子になれるわ。」
もともと女声の努の声は、今、トーンが少し上がり、完全な女の子の声になっていた。
努は、「お姉様。」と言って瑠奈の腕を抱いた。
「やあ~ん、失敗。努がお姉様なの。」と留美は言った。



二人で、夕食を取りながら、ガールズトークをした。
努は、もう完璧に女言葉だった。
「ほら、努!」と瑠奈は、ジャガイモの皮を投げた。
「いやん、やだ。何?」と女の子のイヤイヤ動作をして身を避けた。
「努、合格。今の完璧に女の子だったわ。」瑠奈は言った。
「わーい、やったー!」と努は女の子風にガッツポーズをした。

その夜、瑠奈と努は、下着姿になって、
ベッドの毛布の中で、女の子の声を連発しながら、熱い長い時間を過ごした。
努の心の中の「女の子」は、一気に花開らいた。
努は、女の子への坂を、まっしぐらに転がっていくような気がした。
もう、男でいるのは、1秒でもイヤ。
体の中の何もかも女の子でありたい。
そんな願望に呑まれていくのだった。


つづく

■次回予告■

努の心は、どんどん女性化していきます。
努は、何をするでしょう。
(実は、次回の展開に迷っています。)

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新スーパー洋子・緑川学園③「剣道部の巻」

「剣道部の巻」

「じゃあ、やってみろ。お前が勝ったら、剣道部の看板をやろう。
 剣道部は当然解散でよい。俺は、学校を辞めてやる。
 そのかわり、お前が負けたら、剣道部を侮辱した罪で、学校をやめろ。」
「いいです。では、一番強い人と、1本勝負でどうですか。」
洋子は、言った。

このとき、観客達が入ってきた。
その数50人は超えていた。
「お前らはなんだ。」と顧問の大沢は言った。

「ああ、言わば応援と、証人です。」と誰かが言った。
「ふん、いいだろう。この女が負けた証人になれ。」

「女、名を聞こう。」と大沢が行った。
「1年B組 倉田洋子です。」と洋子は言った。

大沢は、部員達に言った。
「そういうことだ。剣道部代表が負けたら、お前達は、ここでもう剣道をやれない。
 それで、いいか。」

「いいです。俺達にはむかおうなんて、頭狂ってますよ。」
「たまには、こんなお楽しみがあってもいいですよ。」
1年生から3年生まで、口々にそういった。

しかし、その中で、一人だけが、口を閉ざし、額に汗を流していた。
立原豊、3年、剣道部の主将である。
天才剣士とよばれ、1年生のときから、先輩にも負けたことがない。
小柄で、背が158cmである。
この豊だけが、洋子に言い知れぬ怖さを感じていた。

顧問は、部員を道場の隅に正座させた。
「強い部員を出す必要もないが、女は、負けたら学校を辞めると言っている。
 その覚悟に応えて、こちらも主将を出そう。立原、いいか。」

立原は、最前列にいた。そして、立った。
「すいませんが、自分は、その倉田さんに勝てません。
 勝てる気が全くしません。辞退させてください。
 彼女は、とてつもなく強いです。
 こんな試合やめてください。やれば、剣道部はなくなります。
 お願いです。やめてください。お願いします。」
そう必死で言ったのだった。

全員信じられないとの顔を主将に向けた。
全日本高校チャンピオンのあの立原が…。
顧問の大沢は火のように怒った。
「立原、貴様!それが、主将の言うことか!」
とすごいビンタを往復2発食らわせた。

「ああ、やった。見た。」と観客が言った。
「別に悪いこと言ってないじゃないですか。どうしてビンタなんですか?」
「これじゃ、意見も言えないじゃないですか。」
観客が口々に言った。

洋子は、言った。
「何かというとすぐビンタ。
 自分の腹立ちを人へのビンタで晴らしているだけでしょう。
 あたし負けませんからね。どうせなら先生とやりたい。
 先生がいちばん強いんでしょう。」

洋子の言葉に、
「何い!」と大沢は、洋子をにらんだ。
「俺を、日本代表と知っての言葉か。」
「日本の何の代表ですか。日本ビンタの会の代表ですか。」
(観客が笑った。部員の一部も、笑いそうになったのをこらえた。)
「何おう…。あがれぃ!」大沢の怒りは頂点に達した。

洋子は1段高い剣道場に上がり、靴下を脱いだ。

50人の観客は、固唾を飲んで見ていた。
「おい、完璧に先生怒らせちゃったよ。」
「やべえ。倉田がいくら強いからってさあ。無理だよ。」
観客は、真っ青になっていた。
一方40人からいる部員は、立原以外、にやにやしていた。

「防具は?」と大沢。
「いりません。」と洋子。
「何を?」と大沢はいい、
「では、俺もいらん。」と言って自らも胴をとった。

3年生の3人が、審判に立った。
二人は、礼をして、正眼に構えた。

大沢は、この生意気極まりない女の喉に「突き」を食らわすつもりだった。
体は怒りに燃え、女が何を食らおうと、それは、女の自業自得と思っていた。
剣の道は、その逆であらねばならなかった。
怒りに燃えたときほど、自分を静めねばならなかった。

見合う時間が、8秒、9秒、とたち10秒となったとき、
大沢が足を出した。
目にも止まらぬ足裁きで、竹刀の先が、洋子の喉に伸びた。
「突き。」と大沢は叫んだ。

その声と重なるように洋子の「突き。」の声がして、
洋子の竹刀は、大沢の竹刀をわずかに払い、剣先が大沢の喉に伸びた。
両者同時の「突き」に見えた。

主審が「突き。」と洋子に手を上げた。
副審2名も同じ判定をした。

判定をするまでもなく、
大沢は、大の字になって、完全に気絶していた。
洋子は、しゃがみ、竹刀を納めて礼をした。

観客50人は、「おおおお。」と唸った。
その後、なぜかしーんとしていた。
あまりにもすごい試合を見て圧倒されていた。

正座していた中の3年生の一人が、洋子に言った。
「お互い防具のない同士、『突き』は、ひどいのじゃないか。」

「何をいうんだ。」と主将の立原が立ち上がった。
「倉田さんは、先生が面でくるなら面で、コテでくるならコテで受けるつもりだったんだ。
 先に『突き』で行ったのは先生の方なんだよ。
 まだ1年生の女子で、剣道の腕も確かめない相手に、防具なしの状態で、
 『突き』を最初に出すなんて、みんなどう思う。
 しかも、先生は全日本代表の現役だ。その先生の『突き』に手加減はなかった。
 言っておくが、倉田さんが、手加減をしてくれたんだ。
 さもなくば、先生は死んでいたよ。

審判をしていた江口も言った。
「先に『突き』へいったのは、先生だ。
 倉田さんは、それを見て後から、『突き』に行った。
 後から『突き』に行って、倉田さんの方が早かったんだよ。
 彼女が幸い強かったからよかったが、
 口だけのはったりの女の子なら、先生は、その子を殺していたよ。
 先生に手加減はなかった。そんなことするのは大人じゃない。
 先生でもない。剣道は、『道』だろう。先生には『道』のかけらもない。」
江口は、言いながら、悔し涙を流した。

「剣道の天才と言われる立原が、あんなに止めたのに、俺達は信じなかった。
 立原の方が俺達より数段、相手を見る目があるのに、俺達は、立原を信じなかった。
 先生のせいだけじゃない。俺達みんなが、増長していたんだよ。」
副将の杉原が言った。

部員はシーンとなった。

「じゃあ、あたしは、これで。」
洋子は、そう言って、剣道部の看板をはずした。そして、言った。
「この看板は、いずれお返しします。そのときは恐らく『新・剣道部』として。
 顧問なしの部です。みなさんで、暴力のない部にしてください。
 それまで、私に、もう少し時間をください。」

洋子は、50人と去って行った。
 


部員達は、大きく安心して、防具をまとめて、道場に礼をして去って行った。
顧問の大沢を介抱するものはいなかった。

大沢は、一人道場で大の字になっていた。

洋子の手加減で、大沢は、本当は部員達が話しているときに、
意識が戻っていたのだった。

「部員達の言うとおりだ。まだ力を知らない相手に、
 いくら生意気だろうが、突きを出すなど、俺はまるで殺人鬼だった。
 まして、自分は、日本代表の実力で、倉田に対し、手加減もしなかった。
 手加減をしてくれたのは、逆に倉田の方だった。
 さもなくば、俺は死んでいた。
 倉田の方が、遥かに剣道の道の先を行っている。
 俺は、長年剣道をやってきて、剣の道の何も学んでいない。
 恥ずかしいことだ。人を指導する資格など、到底ない。」

大沢は、部員の信頼を完全に失ったことを思った。
1年の女子に負けたからではない。先に『突き』を放ったからだ。
天才と謳われる立原の言葉を信じて、したがうべきだった。
自分が信頼される前に、自分は部員を少しも信頼していなかった。
おまけに、皆の前で、立原に往復ビンタを振るうとは。
立原、すまなかった…。

大沢は、己の情けなさに、男泣きに泣いた。

しばらくして、大沢は、起き上がった。
「先生、もう大丈夫ですか。」と声がした。
見ると、そばに主将の立原豊が、正座をしていた。
「俺を心配して、そばにいてくれたのか。」
「はい。」」
大沢は、うれしかった。
「ありがとう。俺は、いろいろ考えてみる。
 自分は、間違っていたと思う。」
大沢は、そう言った。
「いつか、剣道部に、戻ってきてください。」立原は言った。
「俺が心を入れ替えたとき、また来るよ。」
大沢と立原は、にっこりと笑顔を交わした。


つづく


■次回予告■

次回は柔道部です。
退学をかけて戦う洋子の相手はだれでしょうか。
いっしょに見に来る観客は、増えるばかりです。

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万能ナビゲーター②「瑠奈との出会い」

「新スーパー洋子」ですが、6話まで書いていて、がんばって書いた作品なので、少しもったいなく、この「万能ナビゲーター」とセットで投稿して行くことにしました。「新スーパー洋子」は、この「万能ナビゲーター」の下にあります。
2つとも読んでくださると幸せですが、どちらかお好みの方を読んでくださると、うれしいです。
※「万能ナビゲーター」ですが、予告内容と少しずれてしまいました。お詫びいたします。

==============================

努は、立ったまま緊張していた。
どう言って声をかけよう。

やがて、その子が、にこっと笑った。
その笑顔に救われた。
「座っていい?」と努は聞いた。
「対面だと、あとの人座れないから、ぼくの隣にすわらない?」とその子は言う。
(ああ、気配りのできる子なんだなあ、と思った。)

「ああ、ぼく努。」と言った。
「ぼくは、瑠奈。女の子みたいな名前でしょう。」
「ステキな名だよ。女の子にも使える名前って、うらやましい。」

努は、何もかも素直に言うことにした。
「ぼくは、大学で一番『可愛い男の子』に会いたいって、
やってきたの。(あえて、「女装子」とは言わなかった。)」

「願っただけで、会えるの。」
「うん。これ。」努は、瑠奈にナビゲーターを見せた。
「こっちの方に、探したいものを頼めば、こっちの耳からナビが聞こえてくる。
 それで、君を探したの。」
「ぼくのこと、なんて入力したの?」と瑠奈は楽しそうな顔をして聞く。
「ああ、正直にいっても怒らない?」
「うん、怒らない。約束。」
「大学内で、可愛い可愛い女装子さんって。」
それを聞いて瑠奈は、顔を赤くした。
「うん。ぼく、女装子だよ。君も?」
「うん。でも、まだ一度も願いがかなってないけど。」

「それ、ぼくも少し試していい?」と瑠奈は言った。
「あ、いいよ。」
瑠奈は、ナビを耳にはめ、
「お醤油はどこにあるの。」と聞いた。
「あなたの右斜めにあります。」とフォンからの声が、努にも聞こえた。

「わあ、すごい。」と瑠奈は大喜びして、
「もう一ついい?」と努に聞いた。
「うん。」
瑠奈は、ちらりといたずらな目を、努に向けて、
「この大学の中で、可愛い可愛い女装子のいるところを教えてください。」
と言った。
「あなたの左となりです。」とナビは言った。
その声は努にも聞こえて、努はドキッとして真っ赤になった。
瑠奈は、努を見て、「わあ。可愛い。」と努の首に抱きついてきた。
「努は、声も女の子だよ。」と瑠奈は言った。
「それを言うなら、瑠奈こそ女の子の声だよ。」と努は言った。

「ぼ、ぼく、女装したら、可愛くなれるってことかな。」と努は言った。
「そう思うよ。君、可愛いもん。女の子になったら、もっと可愛いよ。」
「ぼく、家族といっしょだから、女装できなくて。」
「じゃあ、ぼくのマンションにおいでよ。ワンルームだけど。」
「いいの。」
「うん。」瑠奈は言った。

二人で、待ち会う場所と時刻を決めて、分かれた。

瑠奈は少し変わった子だった。
5時に正門前の大きなイチョウの木で待ち合わせた。
努は先に着いて待っていた。
すると、向こうからリュックを背負った瑠奈が走ってくる。
そして、「つとむー。」と叫びながら努に飛びついた。

バス停までの道、瑠奈は努の腕を抱いて、
「ね、こんな風に二人べったり歩いたら、ぼく達どう見られるんだろう。」
瑠奈は、べったりを続けながらいった。
「男女のカップルに見えてると思う。
 瑠奈、その格好で女の子に見えるから。」努は言った。
「努だって、髪長めだし、女の子に見えるかもよ。」と瑠奈。
「じゃあ、女同士?レズビアン?」と努。
「そう見えてたら、うれしいな。」と瑠奈。
「ぼくも、ほんの少しうれしい。」と努。

「努は、ノンアダルト?」と瑠奈が聞く。
「どういう意味。」と努。
「エチなことするのが、アダルト。
 女装だけでいいっていうのが、ノンアダルト。」瑠奈が言う。
「ぼく典型的アダルト。」と努。
「あたしも、同じ。」と瑠奈。

瑠奈はどうも大学を出ると、女の子モードになるようだった。
言葉もそうだし、仕草、動作、表情が、女の子なのだ。

電車の中で、ぺらぺら話していたが、
きっと周りの人は、瑠奈を女の子だと思っていたに違いない。



電車を2駅乗って、瑠奈のマンションに向かった。
途中、何か探しているおばあさんに出会った。
大切なものらしく、おばあさんはおろおろしていた。

「おばあさん、何か失くされたのですか。」
と二人で聞いた。
「はい、福島から息子一家を訪ねてきたのですが、
 住所や地図、電話番号をメモした紙を失くしたんです。
 さっき見ているときに、風に飛ばされてしまいました。
 うっかりしました。」
とおばあさんは言った。

「努、ほら、ナビ。」と瑠奈が行った。
「あ、そうだね。」
努は、ファスナー付きの胸ポケットから万能ナビを出して、耳に入れた。
「おばあちゃんの紙は、どこにありますか?」と聞いた。
早速ナビが教えてくれた。
『向かいの端から3番目の茂みの中です。』
やったと二人で言って、茂みの中を探した。
「あった!」瑠奈が見つけた。
「やったー!」と努は飛び跳ねた。

「ああ、そうです。これです。ありがとうございます。」
とおばあちゃんは、感激していた。

「おばあちゃん、あたし達で、息子さんの家までお送りします。」と瑠奈が言い、
「紙を見せてくださいますか。」と努が言った。

努は、息子さんの名前だけナビに入力した。
それだけで、ナビが始まった。

歩きながら、
「まあ、お嬢さん方、ご親切に。」とおばあちゃんが言った。
(ああ、ぼくも女の子に見られた。)
と努は思い、自分のことを、「あたし」と呼ばざるを得なくなった。

「お二人とも、可愛い方だわ。中学生、いえ、高校生さんですか。」とおばあちゃん。
努と瑠奈は、顔を見合わせ、
「はい、高校生です。」と努が言った。

二人は、声が女の子なので、しゃべれば、ほとんど女の子に思われるのだった。

いろんなお話をおばあちゃんとしながら、息子さんの家に着いた。
息子さん家族一同に迎えられ、お礼を言われて、二人はさよならをした。

「努、たくさん『あたし』って言ったね。」と瑠奈。
「うん。あたしって言うたび、興奮しちゃった。」
「いいことよ。ほら!」と瑠奈が変なものを努の前ににゅーっと出した。
「わあ!」と努は、それを払った。
「努は、まだまだね。『いや~ん。』って言って、あたしの背中に隠れなくちゃ。」
「それ言えたら、ぼく、もっと興奮しちゃう。ほら!」と努も変なものを瑠奈に出した。
「やん!」と瑠奈は、黄色い声を上げて、努の背中に隠れた。
「いいなあ、瑠奈は女の子で。早く、瑠奈みたいになりたい。」
「なれるわよ。あたしが、努の心を女の子にしてあげるから。」
と瑠奈が甘い声で言った。
「なんか、たまらない。」と努のある場所はうずくのだった。

つづく

■次回予告■

瑠奈のマンションで、努は、初めての女装をして感激します。
そして、女の心が目覚めてしまいます。

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新スーパー洋子・緑川高校②「2年のボスと一騎打ち」

<ここまでのあらすじ>

サッカー部顧問の体罰で自殺をしたと思われる兄のいた緑川高校に、
洋子は、編入します。そして、不良を一掃するため、2年のボス高木信也に、
一騎打ちを挑みます。

============================

クラスの連中がこの面白い対決を、見ずにほうって置くわけがなかった。
みんな、洋子の本当の強さを見たかった。
こっそりと、40名、ほとんどが見に行った。

洋子が立っていた。
やがて、1年のボス達が、洋子の横にならんだ。
みんな、ふてくされて、しゃがんだり、うんこ座りをしている。
女2名。男7名。顔に、不良ですと顔に書いてあるようだった。

やがて、子分を4人連れた高木信也が来た。
制服の上着を羽織っている。
(馬鹿な。服を羽織っちゃ、パンチ出せないでしょうが。)
と洋子は思った。

「2年のボスさん。あたし不良嫌いだから、
 あんたとタイマンやって、1年の不良にワルやめさせたい。
 あたしとやるわよね。」
洋子は、言った。

高木は、背が180cmほどあり、空手をやっていそうな体つきだった。
Yシャツをはだけていて、恐ろしく隆々とした筋肉が見えた。
格闘には、相当な自信を持っていそうだ。

「ああ。」と高木は、めんどくさそうに言った。

(やべえな。あんな、チビの女が勝てるわきゃない。)
(自殺行為だな。)
そんな声が、1年のボス達から聞こえた。

高木は始終にやにやして、言葉を無駄に発しなかった。

「あたしが勝ったら、あんたに不良やめてもらうよ。
 悪いこと一切やめて、まじめに勉強する。」洋子が言った。

高木はさもめんどくさそうに、
「ああ。お前が勝ったらな。」と言った。

「誰か、『はじめ』の合図してよ。」と洋子の言葉に、
子分の一人が前に出た。

洋子は、1年のボス9人をビビらすには、派手に行こうと考えていた。

洋子は、わざと空手の構えをとった。
高木は、ポケットに手を突っ込んでいる。
いくらやられても、ハエが留まるほどだろう…との表情だ。

子分が、「はじめ!」と言ったとたん、
洋子の拳が、高木の胸の真ん中にものすごい速さで届いた。
洋子の1発で、高木は、10mも後方に飛んだ。
飛ばされながら、高木は、手をポケットに入れていたことを後悔した。

高木は、気絶しピクリとも動かなかった。
洋子は、そのまま5mほど高くジャンプして、
高木の腹の上に、ドスンと乗り、高木の頬を2、3発ビンタした。

高木はそのビンタで、我に返った。
そして、洋子を見る目は、さっきとまるで違っていた。
高木は、これほど強い相手と、喧嘩を、未だかつてやったことがなかった。
「第2回戦をするかい?」と洋子は聞いた。
高木は恐怖の色を浮かべ、首を横に振った。
「じゃあ、あたしの勝ちと認めるのね。」
「ああ。」
「不良やめるね。」
「やめる。約束だ。」
「他の不良達にも、不良止めるよう、あんたから言える。」
「そうする。」
「最後に1つ。今度喧嘩するときは、手はポケットから出したほうがいいよ。」
「ああ、そうする。」
そう言って、高木は、もう一度気絶した。


高木の子分達は、まるで夢でも見ているように、高木と洋子を見ていた。

洋子は、高木の子分を集めた。
「あんた達からも、2年生のワルは、もう不良やめるように言って?
 ワルを少しでもすると、高木のようになるからと、皆に伝えて。
 もう一人のボスの斉藤隆は、あたしがやって、今、病院だから。できる?」
「はい。できます。」
と子分達は、きびきびと言った。

1年のボス達は、縮みあがって、棒のようになっていた。
洋子は、立っている1年のボス達にいった。
「今後ワルをやめて、まじめに勉強をすること。
 授業妨害は一切認めない。
 クラスのほかのワルは、あんた達が、抑えること。
 あたしの言うことにさからったら、あたしはいつでも相手になるから。
 わかった?」

「はい!」と9人は言った。
みんな、こんな強い人物を、未だ見たことがなかった。

見ていたクラスメイトは、
「すげー。」
「1発だったよ。」
「10mは飛んだよ。」
などと言いながら、戻って行った。

「ああよかった。」と、清水和也と浅田恵美が来た。
「倉田さんは、すごい強いんだね。」と和也が言った。
「これで、1年も2年も全体が、よくなるといいね。」と恵美が言った。
「うん。不良嫌いだから。」と洋子は言って笑った。

洋子は、リーダー冴子に聞いた。
「3年生はどうなってるの?不良を見かけないけど。」
「3年は、部活がすべてだから、顧問の先生が怖くてワルをしない。
 でも、その先生たちがめちゃ怖くて、殴ったり、ビンタしたり、ひどい。
 この学校は、オリンピック日本代表級の先生ばかりだから、
 全員怖い。洋子、先生までやるの?かなり厳しいよ。」
冴子は、そう言った。

「ありがと。今度は、運動部見に行くから。」と洋子。
「ぼく、ついて行ってもいい?」と和也は言った。
「あたしも、ついていく。」と恵美。
「あたしも。あたし、だんだん洋子のファンになってきちゃった。」と冴子。
「うん。いいよ。だけど、危険だからうまくやってね。」
と洋子は言った。



洋子は、和也、恵美、冴子の4人で、
3日間、いろいろな運動部を見に行った。
「ねえ、どこが一番ひどいと思った?」と洋子は聞いた。
「サッカー部。ひどすぎる。」と恵美が言った。
「みんなも?」
「うん、ダントツにひどい。」と3人は言った。

3人の意見を聞いた。
皆一致して、次に、剣道部、相撲部、柔道部、男子バスケットボール部、
男子バレーボール部が、最悪にひどいと言った。

「サッカー部は、最後にしたいんだ。
 明日、剣道部に看板もらいに行く。」洋子は言った。
「ほんと?立原豊って、天才がいるよ。可愛い顔してて、ぼくの背くらい。
 負けたことがない。顧問の先生は、もっと強いけどね。」
和也が言った。
「あたし、もっと強いから、安心して。」
洋子は、和也、恵美、冴子に笑顔を見せた。



「剣道部の巻」

洋子は、その日、兄の体育の授業で使った竹刀を学校へ持って行った。

洋子は冴子、和也、恵美と、体育館2階の剣道場を調べに行ったとき、
必ずと言っていいほど、数本の竹刀を並べた上に、
1年生と思える部員が、正座をさせられていた。
「あんな正座をさせて、なんになるの!」と
4人で、怒りを覚えた。

放課後、竹刀を持って、行こうとすると、みんなが寄ってくる。
「倉田、剣道部やるんだろ?」
「あそこは強いぞ。」
「立原豊は、高校チャンピオンの天才だ。」
「顧問の大沢先生は、世界選手権現役だからな。」
とみんなが言った。

「あたって砕けろ。死にもの狂いでやる。」
と洋子がいったので、
「よーし。」と皆が言い、各クラスに言って回る生徒もいた。
部活のない学年中の生徒がついてきた。
その中に、冴子、和也と恵美が、
洋子のそばにぴったりいた。

初め、洋子だけが剣道場に入った。
道場では、またもや竹刀の上に正座させられている部員がいる。
洋子は、聞こえよがしに、
「竹刀の上に正座しても、強くはならないわよ。
 あれで、強くなるなら、あたし、毎日正座するわ。
 あんなことやってるから、強くならないのよ。」
と大声で言った。

外で聞いている付き添いたちは、
「うわあ。洋子の挑発、すげえ。」
「これ、絶対、果し合いになるよ。」
「やべえ。」
などと言っていた。

和也たちは、洋子がどうなるかと、心臓をドキドキさせていた。

もちろん、部員が洋子の言葉を聞いた。
「なんだ、お前、剣道部を侮辱する気か。」
一人のたくましい3年生と思われる部員が言った。
同じく、洋子の声を聞いた数人が、洋子のところへやってきた。
「お前、なんのつもりだ。」
一人が言った。
「毎回竹刀の上に正座させてるような部は、弱いに決まってる。
 道場破りに来たのよ。」
と自分の竹刀を見せた。その言葉に、「何を!」と一人が殴ろうとし、それを他の部員らが抑えた。

「なんだ、何を騒いでおる。」
と背が185cmはありそうな大人がきた。
顧問の大沢武男だ。

部員達は、洋子の言葉をすべて伝えた。
本来なら、いきりたっている部員の怒りを治めるのが顧問というものだ。
しかし、話を聞いて、顧問の大沢が、誰よりも怒りを爆発させた。

「じゃあ、やってみろ。お前が勝ったら、剣道部の看板をやろう。
 剣道部は当然解散でよい。俺は、学校を辞めてやる。
 そのかわり、お前が負けたら、剣道部を侮辱した罪で、学校をやめろ。」
「いいです。では、一番強い人と、1本勝負でどうですか。」
洋子は、言った。


つづく

■次回予告■

剣道の天才立原豊は、どうでるのか。
洋子は、最強の顧問と戦うのか。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

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万能ナビゲーター①「努、ナビゲーターと出会う」

<お詫び>
新スーパー洋子を投稿し始めたばかりですが、内容が、少し暗く、
暴力的な場面も多いことから、連載をストップすることにしました。
ここにお詫びいたします。

代わりに、明るいテーマの、お話を投稿することにしました。
女装場面もたくさんあります。楽しく読んでくだされば、うれしいです。

==============================

神崎努は、大学1年生。
だが、見かけは大学生にとても見えない。
女の子のような可愛い顔立ちで、体格も華奢、
ともすると、中学生に見られることがあった。

努は、科学マニアで、不思議なものを求めて、日夜研究に励んでいた。
努には、もう一つ好きなものがある。
それは、「好き」というには、ふさわしくない。
趣味の部類だ。
努は、「女装」がしたかった。
科学と女装。これが、努のすべてであった。

ある晩思った。
自分は、ドラえもんのように、押入れに入ったことがない。
「おしいれの冒険」という絵本を子供のころ読んだ。
あのわくわくした気持ちは忘れていない。
自分はなぜ一度も押入れの中を探検しないできたのかと、
自分自身にあきれた。

努は、4畳半の和室を自分の部屋として親からもらっていた。
和室で押入れがある。
早速ためしてみようと、押入れのフスマをあけた。
布団を半分出した。
そして、押入れに入ってみたのだ。
フスマを閉めると暗くて何も見えない。
自分が宇宙空間にいるようにさえ思え、わくわくとした。

大学生にもなって、自分は馬鹿なことをしているなとふと思って、
フスマを開けた。そして、肝をつぶした、
というより感動した。
そこは、自分の部屋ではない。
未来と過去がいっしょくたになったような、異次元空間だ。
広大な青空マーケットのようで、
売り買いの人々で、大変な賑わいだ。

努は、嬉々として押入れから飛び降りた。
ガラクタのようなものから、
見たことのないような未来のおもちゃもある。

「君、君の欲しいのはこれだよ。」
と、ムシロの上にいる白髪の老人が、小さなものを差し出す。
もちろんはったりだろう。
「ぼくの欲しいのがそれなの?」と努は一応話に乗った。
「ああ、君の時代の耳なし猫が持っていそうなものだ。」
「何?」
「万能ナビゲーター」と老人は、耳無し猫の声を真似して言った。
努は、思わず「あはははは。」と笑った。

老人が見せたのは、コードのないイアフォンのようなものである。
「これはな、両耳に入れて、右耳のフォンに探したいものを告げると、
 左耳のフォンから、どう行けば見つかるか教えてくれる…というものだ。」
「ふーん。」と努は言い、
「いくら?」と聞いた。

「君のポケットに入っているお金全部だ。」
努は、ポケットを探った。
30円しかない。
「30円しかないよ。」と言うと、
「それでいい。」と老人は言う。そして、
「悪用したり金儲けに使ったりすると、
 その瞬間に壊れるようになっているからな。」と言った。
「うん、わかった。」努は言った。

努は、万能ナビゲーターを買った。
両耳にはめた。
早くもとの世界にもどって試したいと思った。
そのとき、努は気がついた。
重大な確認をしなかった。帰り道がわからない。
努は、真っ青になった。

すると、先ほどの老人が叫んだ。
「君、なんのために、ナビゲーターを買ったのかね。」
「あ、そうか。ナビゲーターに聞けばいいんだ。
 おじさん、ありがとう。」
と言って、努は胸をなで下ろした。

早速、「元の世界への帰り方を教えて。」と右耳に言った。
すると左耳から、可愛い女の子の声で、案内が聞こえた。
ああ、面白いと、努は、うきうきした。

可愛い女の子のいう通りに歩いていくと、
一人用のエレベーターに来た。
「これに乗ってください。」と案内がいう。
努は乗った。
こんなところ、一人では絶対わからなかったと思った。

エレベーターは、ひゅるひゅると下がっていき、
真っ暗な地下に入り、やがて止まり扉が開いた。
降りてみると、そこは、努の部屋の押入れであった。

すべては夢だったのではないだろうかと、努は、
急いで両耳を触ってみた。
すると、ちゃんとナビゲーターがあるではないか。

「この前失くしたプラモの部品どこ?」と聞いた。
「机の後ろの、たまった埃の中にあります。」と教えてくれた。
そこを見ると、ちゃんと部品があった。
努は、興奮して、バンザーイと両手を挙げた。

ずっと耳につけていると疲れるので、
努は、箱型のオルゴールの中にしまった。

その夜、努は布団の中で、ナビゲーターの使い方を、あれやこれや考えた。
なんとか、女装の夢を叶えたい。
だが、ナビゲートでは、無理だろうと思った。
女の子の下着を買いたかったが、洋服店の場所は、すでに知っている。
ナビゲーターは、必要ない。
問題は自分に買う勇気がないことだ。

努は、考えを巡らせながら、眠りに陥った。



朝、月曜日だ。
布団から起きたとたん、
努にアイデアが沸いた。
自分が女装するのは、後に置いておこう。
可愛い女装子に会わせてもらおうと考えた。

大学は、5月の若葉が美しい。
努は、2時間目を追え、校舎の外に出た。
ちょうど、昼時だ。
さあ、ナビゲーターに聞いてみよう。
わくわくした。

「可愛い可愛い女装子に会わせて。」
すると、
「範囲を指定してください。」
とナビの女の子が言う。
なるほどと、努は思った。
世界の果てにいるかも知れない。
努の大学は、3万人学生のいるマンモス大学だった。

「この大学の中で。」と努は言った。
女の子のナビが始まった。
わあ、ほんとに連れて行ってくれるの?
努は、わくわくドキドキしながら、歩いて行った。
やがて、大学の生協食堂に入った。
広い食堂だ。
ナビの女の子は、やがて、努をあるテーブルまで連れて行った。

そこに、努より小柄な学生が、玉子丼を食べている。
下はチノパンを履いて、上は、Tシャツの上にオレンジのタンクトップの重ね着。
髪は、ぼさぼさ。
熱心に玉子丼を食べている。

「この子なの?」とナビに聞いた。
「私の能力外の質問です。」とナビはいう。
そうか、聞き方が悪いなと、努は思った。
「可愛い可愛い女装子は、どこ?」と聞いた。
「目の前です。」とナビは言った。

『この子かあ。』と努は、その学生が小柄なので、「子」と心で呼んだ。

努は、なかなか話しかけられないで立っていた。
その内、その子は、努を見上げた。
努は、その子の顔を見た。
可愛い。
この子も、女装趣味があるんだ。
心の底からうれしさが湧き、
努の胸は、キュンとつぶれそうだった。


つづく

■次回予告■

二人は、もちろん友達になります。
その子の女装姿をみて、努は大感激します。

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新スーパー洋子・緑川高校①「まずは、不良を一掃」

新スーパー洋子を書いて行きたいと思います。
今度は、少し内容がシリアスですので、
洋子のキャラが少し違います。高校1年。ちょっと背が高く、
美人で、いつも落ち着いています。女装が、ほとんど出ませんが、
最後まで、お付き合いくださると、うれしいです。

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「新スーパー洋子・緑川学園」

「お兄ちゃんを自殺に導いたのは、この学校か。」
校門の前で、洋子は、学校全体を見た。
知らず、握り拳に力が入った。

緑川高等学校。スポーツ学校だ。

倉田洋子の兄・健二は、サッカー部の顧問に40発のビンタを受け、
その日の夜、マンションの5階から、身を投げて死んだ。
日記を見ると、顧問から、キャプテンとしての責任を押し付けられ、
毎日のようにビンタを受けていたようだった。

学校側は、徹底した口止めをして、40発のビンタを否定した。
運動部の生徒達には、言えば、明日からの部活ができなくなると脅した。
文科系の職員には、40発のビンタを見た者はいない。
体育系の職員には、2人見たものがいたが、2つ返事で口止めを約束した。
40発のビンタと自殺の因果関係が立証されないと、
学校からの慰謝料もなく賠償も支払われない。



ぱっと見た感じ、校舎だけは、新しくきれいだ。
しかし、廊下の壁に落書きがある。
消しても消してもきりがないのだろう。
乱暴な顧問の教師のほか、不良もいる。
この環境の中で、兄・健二は死んだ。

転校生は、まず校長室に行くのだろうと思った。
その廊下を、ちゃんと左側通行で歩いていた。
『どうも、入り口を間違えたようだ。校長室が遠い。』
洋子はそう思っていた。

やがて、向こうから、不良らしき五人の男子が来る。
横にいる1年生は、壁に背を寄せ、直立不動。きちんとした礼をしている。
先頭を切って、ポケットに手を入れてくるのが、ボスのようだ。
背が高い。

グループは、ボスを真ん中に、廊下を横に広がって歩いている。
左側を歩いている洋子に近づくと、
ボスが、すうっと洋子の方によって来て、にやりとした。

「おまえ。」とボスが言う。
「なんですか。」と洋子。
「礼儀を知らんな。1年は、先輩がきたらどうするんだっけ?」
「そんなの知りません。廊下は、左側通行。
 あなたが、こっち側にくるのが、間違いです。」

ボスは、まだニヤリをやめず、洋子の胸倉をつかんだ。
「あたし、強いですよ。」と洋子は言った。
「かかって来てもいいぜ。これで、規則を思い出せ。」
そう言って、洋子の左の頬を思い切りビンタした。
洋子は平気な顔をしている。
「思い出したか。」とボス。
「最初から知りません。」
「じゃあ、もう1発か。」
そう言ってボスが、右手を上げて、もう一度ビンタした、そのとき、
洋子の左足は、ボスの男の急所を蹴り上げ、
うっと前のめりになったボスのあごを、洋子の右足が蹴り上げた。
ボスは、バタンと後頭部から、仰向けに倒れ気絶した。

目を凝らしていても見えないような洋子の早業に、
後ろにいた4人は、全く何が起きたか分からなかった。
「どうした。隆。何で倒れたんだ。」
と口々に言っていたので、洋子は、
「119番を早く呼ばないと、まずいと思います?」
と言って、左側通行の邪魔になっているボスの横を通り、
校長室に歩いて行った。

「おい、待て。お前何かやったか。」と一人が洋子の肩に手をかけた。
「まさか。ボスはあたしにやられるほど弱いんですか。」
洋子の言葉に、子分は引き下がって行った。

校長室に入った。
第一印象を聞かれたので、
「ひどいです。これでは、自殺する生徒が出ても不思議はありません。
 最近、自殺した生徒がいますよね。」
洋子は、ずばりきいた。
「ああ、いることはいる。」校長は、洋子から目をそらせて言った。
「『いることはいる。』とは、どうなのですか。意味がわかりません。」
「わかった。いる。」
校長は、下を向いて言った。
「原因は、顧問の先生の40発のビンタですよね。」
「いや、それは、はっきりしていない。原因不明だ。」
「そうですか。では、私が、自分で原因を突き止めます。
 苦しく、辛い戦いになると思いますが、がんばります。」
と洋子は言った。
 
洋子は、やがて、工藤直也という30歳くらいの細身の担任に連れられて、
教室に向かった。
途中、救急車のサイレンが聞こえた。
あの不良達のボスへだろうと思った。

「倉田、さっきの校長との話を聞いていた。
 力に限りはあるが、正義のために、微力でも尽くそうという先生は大勢いる。
 また、正義を求めている生徒は、もっと大勢いる。
 どうか、たった一人で戦おうなどと思わず、我々の力も頼ってくれ。」
洋子は、担任工藤のその言葉に誠意を感じた。
「はい。先生のおっしゃることわかりました。」
そう答えた。

1年B組に入った。
担任工藤に名前を紹介され、
一言と言われ、洋子は言った。
「私は、不良と運動部の威張った先輩と、暴力的な顧問の先生が大嫌いです。」
そう言った。
もちろん、挑発だった。

1時間目は、工藤の数学だった。
それが終わり、五分休みになると、早速来た。女子だ。
不良じみたリーダーっぽいのが、4人の子分をつれている。
後ろの席にいる洋子のところに、リーダーは、にやにやとやってきた。
「あんた達、あたしの嫌いな不良だね。」と洋子は言った。
リーダーは、蛇がからむような声で、
「そうよ。」と言った。

「あたし、強いよ。後悔すると思うけど。」と洋子は言った。
「そう、強いの、いいわあ。不良は、こういうことするのよ。」
女リーダーは、子分から、鋭利なハサミを受け取った。
「例えばさ、女の命の髪を切ったりするの。」
そう言って、洋子の前髪の一部を4cmほど切った。
子分と一緒にげらげらと笑った。

「あたし、強いって言ったのに。」
と洋子は言った。
「どうぞ、どうぞ。」とリーダーは、ニヤニヤしながら言う。

リーダーのその言葉を聞くが早いか、
洋子は、ハサミを取り上げ、
目にも止まらぬ速さで、廊下側の壁に投げた。

ハサミはぐさりとその身の半分以上刺さった。

リーダーと子分は真っ青になった。
そして、そうっと洋子から離れようとした。
「リーダー、髪。」と子分の一人が言った。
リーダーは、髪を触ってみた。
すると、前髪の一部が、ちょうど洋子を切ったように切られている。
そればかりか、4人の子分も、みんな切られていた。

いつの間に?と思ったとき、体の力が抜けて、5人は、床にぺたんと座ってしまった。
「リーダー、あたしの言うこと聞く?」と洋子は言った。
「はい。」とリーダーは答えた。
「これから、ワルを止めること。
 まじめに、ちゃんといい姿勢で授業を聞き、人の邪魔をしないこと。
 ワルをしている奴を見たら、止めさせ、されている子を助けること。
 いい?守れる?」
「はい。守ります。」
リーダー冴子は、そのとき、洋子にいい知れぬ怖さを感じていた。
4人の髪を切って、投げるところまで、何も見えなかった。
洋子は、恐ろしく強い。そして、恐ろしく怖い。

今度自分が何かワルをしたら、あのハサミが自分のところに確実に飛んでくると思った。
「子分達もいい?」
「はい。」と子分達も答えた。
「じゃあ、いいわよ。あ、あのハサミぬいといてね。」洋子は言った。

深く突き刺さったハサミは、なかなか抜けなかった。
リーダー達は、4人がかりで抜きながら、
洋子の恐ろしさを、再度身に沁みて思っていた。

クラスには、男子にも不良がかったのがいたが、
あのハサミを見てびびってしまい、
リーダー冴子のとおり、ワルをやめた。

これで、1年B組は、授業態度満点のクラスになった。
ほんとうにまじめに勉強がしたかった生徒には、洋子が救いの神に思えた。



昼食が終わり、20分の休みなった。
洋子は、先ほどのリーダー(吉田冴子)を呼んだ。
「あたしのことを、チクるとしたらだれ?」
「2年のボス、斉藤隆です。」
「あいつは、あたしが朝やつけて、今、病院だよ。」

「ええ?」と冴子は、驚きビビッた。
斉藤隆は、空手3段だ。

「じゃあ、あいつのライバル、高木信也です。」
「あたしに丁寧語はやめて。1年どうしなんだから。」
「うん。わかった。」
「高木信也をやっつけたら、1年全員まじめになる?」
「1年の各クラスのボスを集めて、高木信也がやられるところ見せれば、
 言うこと聞くと思う。」
「じゃあ、冴子は、高木信也にチクりにいって、
 同時に、1年のボスに、うまく言って、
 高木と1年のボス達を体育館裏に集めてくれる。」
「うん、わかった。」

リーダーの冴子が飛んで行った後、
小柄で、可愛い顔をした男子が来た。
「倉田さん。ぼく、清水和也。ありがとう。
 ぼく、女みたいだから、男子に嫌がらせされてトイレにいけなかったんだ。
 さっき行ったら、だれも嫌がらせをしなかった。
 うれしかった。倉田さんのおかげ。ありがとう。」
もう一人賢そうな女の子が来た。
「倉田さん、ありがとう。あたし、浅田恵美。
 まじめに勉強したかったけど、今まで、無理だった。
 でも、今は静かになって、勉強ができる。すごくうれしい。」

「そう。そういうの聞くとうれしい。」
洋子は、和也と恵美ににっこり笑った。

そろそろ体育館裏に行く時間だ。
洋子は、腰を上げた。


つづく

■次回予告■

2年のボス、高木信也との戦いです。
そして、剣道部へ道場破りをしにいきます。

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2つの恋の物語③「みんなが結ばれる」最終回

今日で最終回です。こういう小品を前から書きたいと思っていました。
自分としては、満足に思っています。読んでくださるとうれしいです。

============================

昼前の二人と、昼後の二人は、まるでちがっていた。
二人で、カムアウトするまでどんなに悩んだか。
今になっては、笑い話みたいに話した。

乗り物にも乗ったが、二人で話している方が楽しかった。
家事の苦労なんかも話した。
料理の話なんかも、楽しくて花が咲いた。
「じゃあ、もしかすると、涼には、お父さんがいないの?」
「うん。俺が小さい時、病気で死んじゃった。」
「あたしは、お母さんがいないの。
 涼と同じ。あたしが小さい時死んじゃった。」

「ね。彩花のお父さんと、俺の母さんと、恋人どうしにならないかな。」
と涼は言った。
「そうね。あたしたちGID同士が出会えたんだもの、奇跡ってあるものね。」
「彩花のお父さん、何歳?」
「42歳。」
「俺の母さんは、38歳。」
「お似合いね。」
「母さん38歳だけど、若く見えて美人だよ。」
「家の父さんは、背は中くらい。カッコイイっていうより、やさしいよ。」

「ね、今度、二人を会わせる計画立てよう。」
「うん。ダメ元よね。何が起きるかわからないもの。」
二人は、手をがっちり握って、ガッツポーズをした。

二人は、1つ計画を練った。



二人は、お互いがGIDだったことを親に知らせたくて、
早めに解散した。

彩花は、駅を出ると、働いている花屋によって、
佳子と五郎に、デートのことを話した。
「まあ、そんなことがあるの。彩花ちゃん、よかったね。
 きっと運命の女神が微笑んでくれたのよ。」
と佳子は言って、彩花を抱き締めてくれた。

彩花の父孝雄は言った。
「え?それドラマみたいじゃない。」
「うん、奇跡だと思ってる。夢にも思わなかった。」

涼の家でも、同じ会話があった。
「そんな夢みたいなことが、あるのね。」と衿子。
「うん。お互いGIDだってわかってから、話がはずんじゃって、
 乗り物なんか、ほとんど乗らなかった。」
「そうよねえ。涼の苦労を全部わかってくれる女の子だもんね。」
「それに、俺、劣等感を感じないで友達でいられる。」
涼は言った。



二人は、計画を実行した。
まずは、涼から。
「お母さん。次の金曜日、彩花とお父さん、夕食に招待していい?
 彩花は、お母さんがいないの。お父さんと二人暮らし。
 彩花のお父さんは、俺やお母さんに会いたいだろうし、
 お母さんだって、彩花やお父さんに会いたいでしょう。」
「うん。いいわね。金曜日なら、少し早く帰れる。」

こうして、金曜日の夕食会は、成立した。
彩花と涼のマンションは、近かった。
時間は、6時にした。
親二人は、仕事が終わって一目さんに帰ってきた。

彩花は、花屋さんを早退し、
料理を、涼と二人で作った。
アルコールの好みもわかっている。
用意ができたとき、彩花はいったん家に帰った。

6時にピンポーンと鳴った。
涼は飛んで行った。
衿子も玄関に来た。
彩花は、涼のお母さんをはじめてみた。
『わあ~、美人。』と思った。
涼も、彩花のお父さんを見て、『やさしそう。』と思った。

会は盛り上がった。
お互い、親一人、子一人で生活してきた苦労話などし、
たくさん共通点があって、いくらでも、話したいことがあった。

途中、涼が彩花に、「部屋を見においでよ。」と誘った。
彩花は「うん。」と言い、テーブルは大人だけになった。

涼の部屋で、
「どう?二人、気が合ってるかな?」と涼が言った。
「うん、父さん、かなりうれしそうだったよ。」
「母さんも、あんなに生き生きしてるの初めて見た。」

夕食会をお開きにしたのは、10時だった。
4時間もお話をした。
これは、大成功だったことを意味した。

その1週間後に、今度は、彩花の家で夕食会をもった。
このときも、10時まで話し、終わるのが惜しい思いでさよならをした。

それから、3日後のこと。
「彩花。俺、今日ちょっと会いたい人がいるから、
 夕食、俺の分いいから。ピザでも解凍して焼いて食べてよ。」
と孝雄がいう。
孝雄が、夜、家で食べなかったことなど、今までめったになかった。

「うん。安心して。あたし、楽にしてるから。」と彩花は言った。

その日の仕事が終わると、彩花は、涼にすぐメールを送った。
『父さん、今日遅いって言ってるんだけど、
 そちらはどう?』
涼から。
『家の母さんも遅くなるから、夕食はいらないって。』
『もしかして、もしかしてだね。』と彩花。
『かなり、もしかしてだよ。うひひ。』と涼から。
『今日、家に来ない?いっしょにピザ食べよう。』
『やったー!すぐ行く。』



孝雄が、彩花に、「父さんは、今夜遅いから、夕食いらないよ。」という日が、
週に1回になり、それが、週に2回になった。
その度に、彩花は、涼にメールを打つ。
すると、涼のお母さんも、遅くなるのだった。

二人で、これは間違いないという結論に達した。
彩花の家にピザを食べに来ている涼は、
「もう間違いないね。」と言った。
「うん。」と彩花は、うれしそうに応えた。

二人は、ソファーに移ってならんだ。
彩花は、
「二人はデートしている。大人のデート。お酒飲んでる。ステキだな。」と言った。
「きっとそうだね。」と涼は言った。
「こんなにうまく行くとは思わなかったね。」と彩花は言った。
「ほんと、絵に書いたようにうまくいったね。」と涼。

涼は、彩花を見て、まじめな顔をした。
「俺たちも、このくらいしても、よくない?」
彩花は、その意味がわかった。
「うん。」そう言って、目を閉じた。
唇に、涼の唇を感じた。

「やった。ファーストキス。」と彩花は言った。
「俺も、ファーストキス。」と涼は言って笑った。
二人は、まだ若く、セッ・クスまでは、考えなかった。



それから、3週間ほどたった日。
「彩花、今日俺と彩花と、涼君とお母さんの4人で、ちょっといいレストランで、
 ごいっしょしようということになったんだ。
 もちろん行くだろ。」
と彩花の父は言った。
「わあ、ちょっといいレストランなの。うれしい。」
と彩花は言った。

そこはホテルの展望階のレストランだった。
彩花は、めいっぱいおしゃれをしていった。

涼とお母さんはもう来ていた。
お母さんは、セミフォーマルな服を着ていて、
すばらしく綺麗だった。

涼とお母さんは面と向かっていたので、
涼のとなりに彩花が、衿子の隣に孝雄が座った。

彩花も涼も、何かあるねと期待していた。

食事を頼み、前菜も着て、乾杯の時が来た。

乾杯の前に、彩花の父孝雄が言った。
「えーと、涼君、彩花に承諾をもらわなくちゃいけないんだけど、
 俺は、隣にいる涼君のお母さんと、結婚したいと思ってる。
 涼君と彩花が、いいって言ってくれたら、決定なんだ。
 二人とも、いいかな?」

彩花と涼は顔を見合わせ、笑った。
涼が言った。
「いいも悪いも、彩花と俺で、そうなるように、
 作戦立ててきたことなんだよ。今ぼくは、やったー!って言う気持ち。
 彩花もそうだよね。」
「うん。それを、願ってたの。涼君のお母さんすごく素敵だし、
 家族になれたら、うれしいなあって、ずっと思ってたの。」
「よって、俺達は、承諾します。」と涼が言った。

「ありがとう。」と涼の母と、彩花の父は、うれしそうに言った。
そして、みんなで、乾杯した。

料理を食べながら、涼のお母さんが言った。
「それでね。あたしは、今のお仕事を在宅でやることにしたの。
 そうしたら、ある程度家事ができるから、二人には時間ができると思うの。
 そこで、提案なんだけど、彩花ちゃんは、高校に行ったらどうかと思うの。
 涼のいっている学校は、LGBTIの生徒にすごく理解のある学校で、
 クラスの4分の1くらいの子は、そういう子なんだって。
 彩花ちゃんは、中学のとき勉強ができたって聞いてるし、どうかしら。」

「そんな学校あるの?」と彩花は涼に聞いた。
「うん。おれのクラスは、GIDの生徒が3人もいる。
 彩花は、中学で辛い思いしたと思うけど、
 俺の学校来たら、考え変わるよ。大学みたいに広いし、
 意地悪な奴なんか、一人もいない。絶対いいよ。」

「うん。わかった。一度見学に行ってみようかな。」と彩花。
「うん。絶対気に入るよ。」と涼。

「でもさ。お父さん達結婚したら、涼とあたし兄弟になるのよね。
 兄弟で結婚できるの?」と彩花。
「ほんとだ。どうなんだろう。」と涼が言った。

「そんなこと、どうにでもなるから、心配しないでいいよ。
 まだ、先のことだろう。」
と孝雄が言った。

孝雄が言った。
「衿子さんと俺が結婚したら、今度は、4LDKの広いマンションに移ろうと思うんだ。」
「わあ、すごい。」と涼と彩花は言った。

その後、楽しい団欒が始まった。
彩花は、父と二人だけの暮らしが、一気に4人の賑やかな暮らしになることを思い、
それが、うれしくてならなかった。

「ほら、綺麗な夜景見なくちゃ。」と涼が言った。
「ほんとに綺麗。全部ダイアモンドに見えるね。」と彩花はいった。
「今日は、特別にそう見えるね。」と孝雄はいった。
「本当に。」と衿子は言った。

本当にそれは、ダイアモンドのようだった。
父と母の婚約。
彩花と涼はテーブルの下で、顔を見合わせ、
小さな声で、「やったね!」と、親指を出した。


<おわり>

■次回予告■

スーパー洋子を書くつもりです。
ちょっとシリアスなので、
今までの洋子とイメージがちがいます。
読んでくださると、うれしいです。

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2つの恋の物語②「勇気をふるってのカムアウト」

この小品を読んでくださりありがとうございます。
次回が、もう最終回です。
最後までお付き合いくださると、うれしいです。

============================

彩花は、父の孝雄に何でも話す。
夕食を食べながら、
「お父さん。デートに誘われちゃった。」と彩花。
「例の男の子にか?」
「うん。明日、遊園地。朝9時に駅で待ち合わせ。
 だから、明日一日、お父さん一人でやって。」
「OKだ。やったな。カッコイイ男の子か。」
「うん。そうとういい線だと思うよ。」

「そうか。わかってくれる子だといいな。」
「うん。ダメ元。」
「そう。気楽にカムアウト。それで、行け。」
「うん。」
「あ、名前は?」
「涼くん。」
「いい、名前だな。」
「うん。」

「お母さん。明日デートだ。」と涼。
「もう、実行したの?やるじゃない。」
「口では言えないからさ、メモ渡した。」
「そういう手があったか。で、OKもらったんだ。」
「うん。さそってくれて、うれしいって。」
「わあ~、やったね。なんて名前の子?」
「彩花。」
「まあ、すてき。」
「ああ、カムアウト辛いなあ。
 これだけは、メモじゃダメだしな。」
「メールでもだめよ。」
「わかってる。絶対口で言う。」

ベッドの中で、彩花は考えていた。
カムアウトは辛い。
カムアウトしたら、それっきりになるかも知れない。
1回延ばそうかな。
そうすれば、もう一回会える。
ああ、だめだめ。
そんなことしたら、ずるずる絶対言えなくなる。

彩花は、カムアウトの言葉をいろいろ考えていた。
『実は、あたし、生まれたときは、男の子だったんだ。』
『実は、あたし、性同一性障害なの。』
この言葉では、ピンと来ないかもしれない。

ああ、初デートっていうだけで、緊張するのに、
カムアウトもあるから、もう身が持たない。
それに、明日何着て行こう。
ちょっとくらいメイクしていった方がいいかな。
お店ではすっぴんだから、それでいいかな?
ああ、考えなくちゃいけないことが多すぎる。
彩花は、眠れない夜を過ごしていた。



朝食は、いつも母が作ってくれる。
「涼、顔に、眠れませんでしたって書いてあるわよ。」
母の衿子は言う。
「だって、初デートだってだけで緊張するのにさ、
 それに、カムアウトもあるんだぜ。
 超プレッシャーだよ。」

「じゃあ、行くのやめれば。
 それだけプレッシャーあっても、会いたいんでしょ。
 若いっていいわね。そのエネルギー。」
「からかわないでよ。髪型も決めないといけないし。」
「あら、涼は、ナチュラルがいいわよ。」
「多少、いじくらないと。」

彩花は、鏡の前で、丸1時間着て行くものに迷った。
寝不足とで、朝、すでに参っていた。
「女の子は、大変だなあ。」と父が言う。
「もう、疲れちゃった。お父さん、決めて。」
「よし。じゃあ、黄色と白のワンピース。
 髪は、普通にとかして、飾りの着いたピンで、前髪から額を少しのぞかせる。
 バッグは、肩からななめにかける白い小さめなもの。
 靴は、白いサンダル。これで、決まり。」
「うん。それ悪くない。それでいく。」
そう言って、彩花は、やっと朝食のテーブルについた。



彩花が駅に着くと、涼はすでに待っていた。
「涼君、寝不足?」彩花は聞いた。
「だって、彩花ちゃんと初デートだよ。眠れなかったよ。」
「実は、あたしも。でも、涼君にあったら、目がさめた。」
「俺も。今、すごく元気。」

「あ、今日は、メイクしてるんだ。すごく可愛い。」と涼。
(あ、気がついてくれた。)
「ありがとう。慣れてないから、へたくそなの。」
「そんなことないよ。」
涼は、さわやかな笑顔をみせた。

遊園地は、怖い乗り物系の多いところだった。
二人で、いろいろ怖いものにのった。
そのたび、彩花は、「キャー。」と叫び、涼につかまった。
涼は、それが、うれしくてたまらなかった。

涼は、カムアウトは、昼を食べながらする、と固く心に決めていた。
1回、カムアウトを伸ばせば、もう一度会えるのに。
こんなに可愛い彩花を失うことは、悲しかった。
しかし、一度決めたことだ。
絶対話す。涼は、心に誓いを立てた。

やがて、その決意の時がきた。
丸テーブルで、ハンバーガーを食べていた。
涼のプレッシャーは最高潮に達して、
話している彩花の言葉を半分しか聞いていなかった気がした。

『よし、カムアウトだ。』
「彩花(もう、『さん』なしで呼んでいた)さ、LGBTIって知ってる。」
彩花は、なぜ突然に涼からそんな言葉と思いドキンとした。
ひょっとして、自分のGIDがばれているのかと思った。
だから、自分がカムアウトしやすいように、
涼は、やんわり、話を振ってくれているのかとも思った。

「知ってるよ。」と彩花はドキドキしながら言った。
涼は、彩花の言葉がうれしかった。
そう言うことに無知ではない。
「俺ね、初めてのデートのとき、
 はっきり言うのがフェアーだと思うから言うね。」
「うん。」彩花の胸は高鳴っていた。

「俺、そのLGBTIの一つなんだ。」
「え?(涼のことなの?)」と彩花は驚いた。
なんの障害もなさそうな、さわやかな涼に、何があるのだろうか。
「当ててみて。」と涼は言った。
『Lのはずない。Gのはずは、もっとない。Bはありえる。
 でも、あるとしたらTかI。』
彩花は、戸惑っていた。
「Iの人はめったにいないから、Tなの?」
彩花はそっと聞いた。

涼は、彩花を見つめて言った。
「俺、生まれたときは、女の子だったんだ。」
「ほんと?」
彩花は大きなショックを受けた。
それは、悲しいショックではない。言わば、うれしいショックだった。

「涼。あたしも、初めてのデートのときに、打ち明けようと思っていたの。
 あたしもTなの。生まれたときは、男の子だった。」
「ほんと!」涼は瞳を大きく開いた。
「じゃあ、彩花は、俺の気持ちわかってくれる。」
「うん。あたし涼の悩みや辛さが、そのままわかる。」
「俺を、嫌いになったりしない?」
「逆よ。涼もGIDだと知って、あたしうれしい。
 あたし、劣等感なしで、涼とお友達になれる。」
「俺も同じ気持ち。俺、劣等感なしで、彩花と友達になれる。
 バンザーイ!」と涼は、椅子から立ち上がって、喜びを空に向けた。

『これは、奇跡。神様が二人を合わせてくれた。』
彩花は、そう思った。


つづく

■次回予告■

2つの恋の、もう一つは?
語るまでもありませんね。
次回、最終回です。

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新作・2つの恋の物語①「はじめてのデートの誘い」

新作を書きました。2つの恋の物語です。
ブランクの後で、調子が出なかったのですが、
がんばって書きました。読んでくださるとうれしいです。
第3話で終了です。

===========================

「2つの恋の物語」

江口彩花は、街の花屋さんで働く16歳の看板娘だった。
いつもバンダナのスカーフをしている。
背は、160cm、セミショートの髪をボブにしていて、
可愛いので、いかにも花屋さんにぴったりだった。

中学を出て、すぐ働く子は、やや少数派である。
彩花は、中学で、勉強がトップクラスによかったのに、
もう学校は嫌だった。
学校で、辛い目にたくさんあった。

店は、40歳代の主人岩井五郎が、毎朝花を仕入れにいき、
2歳年下のお上さんの佳子が、会計をしている。
そして、彩花が、店番をしている。

6月の末になって、彩花は店で2ヵ月半、
やっと、花を上手に束ねて、客に渡せるようになってきた。

彩花は、男の子として生まれたが、自分の性を嫌い、
中学校時代は、家にいるときは、すべて、女の子の格好をし、暮らしてきた。
彩花は、父の理解を得て、ジェンダークリニックに行き、
中1のときから、ホルモン治療を行って来た。
彩花に母は、いなかった。

もともとの女性的な外見も手伝い、
彩花を見て、男の子と見る人はいなかった。
店の岩井夫妻は、子供がいなく、
彩花を自分達の娘のように可愛がった。
彩花は、夫妻にだけは、GIDを打ち明けていた。

「彩花ちゃん、また彼よ。」と店の佳子が、少し含みのある笑顔でいった。
「いらっしゃいませ。」と彩花がいうと、
高校生の制服を着たその男の子は、
「花を200円くらいでいいんです。お願いします。」
と言った。
これは、彼の決まり文句だった。

「はい。かしこまりました。」と彩花はいい、
値段の安めな花を組み合わせ、形よく生けて、セロファンに包んで渡す。
「これで、よろしいですか。」と聞く。
「ああ、はい。すごくいいです。」
そう言って男の子は、200円を渡し去って行く。

「彩花ちゃん、あの男の子、ジャニーズ系でかっこいいわね。
 花を買いに来てるっていうより、彩花ちゃんに会いにきてるのよ。」
と佳子は言う。
「佳子さん、そんなあ。あたし、『彼』ができる体じゃないから。」
「そんなことないわよ。自分をそんな卑下しちゃだめ。
 人の好き嫌いなんて、いろいろなんだから。初めからあきらめちゃだめよ。」
佳子は、美人で、実際の年寄り若く見える。
しかし、言うことは、はっきりしていて、彩花は、人生の先輩だと思っている。
「あたしを理解してくれる男の子なんて、この世にいるのかな。」
彩花は言った。
「きっと、いるわよ。その彼を見つけるためにも、決していじけてはだめよ。」
佳子はそう言った。

5時に店を終えて、彩花は、3LDKのマンションに帰り、
それから、家事の一切をする。
洗濯物を取りいれ、畳み、それから、夕食の用意をする。
彩花は、料理が上手だった。
父の、孝雄は、いつも正確に7時半に帰ってくる。
役所の建築の仕事で、忙しいが、最低7時には役所を出るようにしている。
孝雄が帰ったときには、キッチンのテーブルに、いつも温かい料理が並んでいる。

「彩花が料理上手で、俺は、本当に幸せだよ。母さんも料理上手だったからね。」
「母さんから教わったのも、ずいぶんあるのよ。
 でも、私も研究してるの。」
「うん。わかるよ。」
父がうまいうまいと食べる。

彩花は、毎日花を買いに来る男の子のことを、父に話してみた。
「それは、彩花に惚れてるな。」孝雄は言った。
「お店の佳子さんは、いじけちゃダメだっていうの。」
「俺もそう思う。だって、友達だって思えばいいじゃないか。
 セッ・クスまで行かなけりゃ、なんの問題もないんだし。」
「好きになっちゃって、自分のこと打ち明けるのが、恐い。」

「彩花のその気持ちは、ようくわかる。
 だったら、初デートのときに言っちゃうといいよ。
 そういうのがダメな子はもう誘ってこない。
 気にしないって子は、また誘ってくれる。
 まだ、彩花の気持ちが深まっていないときなら、
 もう、来なくっても、別にいいだろう。」

「そうっか。初めに言っちゃえばいいんだ。
 お父さん。たまに、いいこというね。」
「しょっちゅうだろう。」と父と二人で笑った。



涼は、母衿子との二人暮らしだ。
8時に涼の母衿子は帰ってくる。
マンションの扉を開けるなり、靴箱の上を見て、
「また、違った花。こんなことできる男の子、めったにいないわ。」
と衿子は言った。
衿子は、工業デザインをしている。
「元の女の子が残ってるんじゃないかな。」と涼は言った。
「女の子だって、できないわよ。」

テーブルには、すでにお料理が並んでいた。
すべて涼が作ったものだ。
「毎日、ごめんね。でも、涼のお料理おいしいから、
 あたし、ほんとうに幸せ。」
食べながら、涼はぽつんと言った。
「俺さ、花を毎日買ってるのに、理由があるんだ。」
「なあに。花売り娘さんが好きだとか。」と母。
「何でわかるの?そのとおり。お店の女の子に、もうかなり参ってる。
 だけど、俺、何じゃない。それなのに、女の子好きになっていいのかなって。」

「女の子好きになれるように、男の子になったんでしょう。
 どんどんアタックに決まっているじゃない。」
「そう簡単にはいかないよ。俺には、男の一番大事なものがない。
 これ、すごい劣等感なんだからね。」

涼は、彩花と同じ、性同一性障害だった。
彩花と同じく、中1から、ホルモン療法を受けている。

「そうね。涼の気持ちは、よくわかるわ。
 でも、そういう時はさ、初デートのとき、真っ先にその子にカムアウトするのよ。
 二人の気持ちが深まってからじゃ、ますます言えなくなっちゃう。」
「実は、もう気持ち深まってるんだけど。
 ろくに話もしてないけど、あの子絶対いい子なんだ。」

「そう。じゃあ、早いとこ、遊園地にでも誘ったら。
 何もしなければ、何も発展しないわよ。」
衿子は、ビールを飲みながら言った。
「あのお店、日曜が休みだから、がんばって声掛けてみようかな。」
涼は、言った。



土曜日になった。
涼は、彩花に声をかける勇気がどうしても出なかった。
そこで、メモに書いて渡すことにした。
『あすの日曜日、よかったら遊園地でデートしない?
 俺の名前は、神崎涼。』
メモの下に、メールアドレスを書いた。

土曜の2時ごろ、涼は、いつものように200円分の花を買い、
おつりをもらうときに、4つに折ったメモを渡した。
そして、逃げるように、店を出た。

彩花は、メモを見て、胸がドキンとした。
彩花だって、涼のことが好きだったのだ。
その気持ちを今まで、胸の中に押し込んできた。

佳子は、彩花の様子に気が付いて、
後ろからやってきて、すっとメモを取った。
すばやく見て、
「彩花ちゃん、やったね。」と佳子は言う。
「あたし、どうしよう。」と彩花は言った。
「この前言ったでしょ。行動しなくちゃ、何も始まらない。」
佳子は、彩花の肩をポンとたたいた。

彩花は、お店の中で、メールを打った。
『さそってくれて、ありがとう。
 うれしかった。行きます。
 明日9時に、△△駅で待ってます。
       江口彩花(あやか)』

涼がメールを見て、「やったー!」と言っているのが目に見えるようだった。

その通り、涼は家に着いたばかりのとき、メールを見て、
「やったー!」と飛び上がった。
すぐ返事を出した。
『うれしい!やったね!
 今日、眠れるかな?
 時間と場所OKです。 涼 』


つづく

■次回予告■

涼は、勇気を出してカムアウトします。
それを聞いた彩花は・・・・・。

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スーパー洋子・桜台高校②「3人・絶体絶命」最終回

長らく再投稿をして来ました。
この作品が終わったら、新作の小品を1つ投稿したいと思います。
読んでくださると、うれしいです。

============================

スーパー洋子 桜台高校〔完結編〕

「夏子さん、あたしの答えがあっているのかどうか、早く言ってください。
 HRの時間以内に、あたしを追い出すと、後ろで木下さんと加藤さんに話していたわ。
 あと、3分よ。」
洋子は優しく言った。

夏子は、口を開くことができなかった。
クラスのみんなは、息を潜めて、成り行きを見ていた。

3分の間、夏子はだまったままだった。
夏子にとっては、地獄のような時間であった。

「夏子さん、時間が来たわ。あ、でも、1時間目は、あたしの英語だから、伸びてもいいか。」
と洋子は言った。

とうとう、夏子は言った。
「問題を写し間違えました。」
「そんなことは、どうでもいいの。
 写し間違えだろが、なんだろうが、
 あなたが、私に解かせたのは、その紙の問題なの。
 あなたが、家庭学習で何をしようと、今は何の関係もありません。
 わかる?

 私は、あなたが私に渡した問題を一応解いたんです。
 私が解いたら、その答えが正しいか間違いか、答えるのが、
 あなたの義務です。これには、私の母の命がかかっているのよ。
 お遊びのつもりだったの?友達2人の退学もかかっているのよ。
 さあ、○なの×なの?言いなさい!」
洋子は、最後の言葉だけ、凄みを聞かせて言った。

木下朱実と加藤ユカは、生きた心地がしていなかった。
万事休すであることが目に見えていた。
今まで自分達がやって来たのは、答えだけを覚え、
難問を先生達に突きつけてきたからだ。
夏子も同じ。答しか知らないことを、2人はよくわかっていた。

夏子はじっとだまっていた。やがて、じんわりと涙ぐんだ。
やっとのことで、
「すいません、わかりません。」夏子は涙をためて、うつむいて言った。
「あなた、さっき自分で解いて、説明もできると言ったわ。みんな聞いていたわよね。」
「はーい、聞きました。」と残り全員が大きな声で言った。

「それは、コピーの方の数式です。」夏子は言った。
「『コピー』?今そう言いましたか?
 さっきあなたは、自分で考えてワープロで打ったと言いましたよ。
 ねえ、みんな。大村さんは、そう言いましたよね。」洋子は聞いた。
「はーい、そう言いました。」みんながにこにこと答えた。

夏子は、絶体絶命であった。
木村朱里と加藤ユカは、すでに、机の上で泣き顔になっていた。

「じゃあ、100歩譲りましょう。コーピーの数式でいいです。
 こっちなら、家庭学習して、自分で解を得たのですね。」洋子は言った。
「はい。」夏子は力なく言った。
「ほんとですね。もう言い直しは聞きませんよ!」
「はい。ほんとうです。」夏子は震える声で言った。

「では、聞きます。あなたは、オクスフォード大学のラッセル博士の『疑問』を、
 どう克服したのですか。」洋子は言った。
思わぬ質問に夏子は、はっとした顔をして、当惑した。
「意味がわかりません。」 
夏子には、他に言葉がなかった。

「お父様から、聞かなかったのですか。」
洋子は、そう言って、教卓から立ち、ゆっくり歩きながら言った。
「夏子さんが、昨夜家庭学習した問題は、
 これまで、何十年と解決不可能とされてきた数式です。
 それを、先月、T大の大村啓介教授が、
 ロンドンの学会で、問題を解き得たかも知れないと、発表されたものです。
 あなたのお父様は、世界の数学者に、その検証を願いました。

 そのとき、5人の博士から、疑問が提出され、
 教授は、そのうちの4つに答えましたが、
 ラッセル教授の疑問に対し、どうしても答えられず、
 今、そのことに日夜没頭されていることと思います。
 夏子さんのいう、X2-ABという解は、まだ、認められていないのです。
 だから、夏子さんに聞いているのです。あなたのお父様でさえ解き得ていないものを、
 どう克服して解き得たのか。その方法を一番聞きたいのは、
 あなたのお父様でしょうね。

 お父様が解き得ていないものを、あなたは、一夜にして、解いたと言う。
 これは、自分が、お父様より天才だということです。
 あなたは、お父様の顔に、泥を塗るつもりですが。娘の方が上だと。
 さらには、この私なら解けると、『期待して持ってきた』とはっきり言いましたね。
 それは、お父様を、一介の英語教師である私以下の数学者だと言うに等しい。
 お父様は、20年以上をかけて考えていらした。それを、この私が、この場で解けると
 期待して持ってきた。
 これが、お父様をどれだけ侮辱する行為であるか、あなたにはわかりますか!」
洋子は、ここだけは、すごい迫力で言い放った。
幼児語を使っていた洋子とは、まるで別人だった。

「何とか言いなさい!」洋子は怒鳴った。
「はい、わかります。」と夏子はとっさに言った。
「何がわかったの!」
「父を侮辱したことです。」夏子は言った。

夏子は、洋子の言葉に、縮み上がった。
そして、洋子の圧倒的な知識の前に、身がすくみ、体中が震えた。
こと数学に関して、生まれて初めて味わう敗北の念であった。
まるで、自分はアリのようなもので、
そのアリが、巨大なライオンに向かっているような思いでいた。
そして、心の底から後悔していた。
自分には、退学の覚悟など、露ほどもなかったのだ。
それが、今、思ってもみない現実になりつつあることを認識し、怯えおののいていた。

「さあ、ラッセル博士の疑問です。」洋子は畳み込んだ。
「説明できません。」夏子は言った。
「また、いい直しをするのですか!今さっき、自分でやったと言ったばかりでしょう!」
洋子は、教卓を叩いて、夏子に迫った。

夏子は、身を震わせ、血の気を失っていた。
「すみません。嘘をつきました。父の数式の展開をコーピーして、
 答えだけ覚えていました。
 内容は、まったく理解していません。」夏子は、わっと泣き出した。

「あなたは、こうやって、今まで5人もの先生を辞めさせてきたのですね。
 自分が解けもしない問題を、答えだけ覚えて、先生に解かせた。どうなの!」
「はい、そうです。」夏子は泣きながら言った。
「木下さん、加藤さん、立ちなさい。あなたがたも、同じですか。」
2人は立って、その通りだと言った。

「では、夏子さん。あなたの負けでいいのかしら。」
「はい。」
「では、席に戻りなさい。」洋子は言った。

「木村さん。加藤さん。座りなさい。異存はないですね。」
「は、はい。」
二人は、泣きながら、うなずいた。
二人とも、洋子の迫力に、恐れおののいていた。

「では、私は、これから、3人の退学の意向を理事長、校長に伝えてきます。
 3人は、帰りの支度をして、呼ばれるまで、教室で待っていなさい。
 やがて、3人は、校長室に呼ばれます。
 校長にはっきり退学の意志を伝え、そこで退学願いを書きます。
 夜、3人の保護者の立会いの元で、正式に退学が決まります。
 3人は、親には謝罪させないと、私と約束しました。
 その約束は、守ってもらいます。だから、3人の退学は、決定も同然です。
 私は、その手続きがありますから、これで失礼します。」
洋子は教室を後にした。

夏子は、机につっぷして、泣くばかりだった。
あとの2人も、約束上、夏子を攻めることもできず、ただ泣くばかりだった。

クラスのみんなは、3人に対して冷たかった。

一人が、たまりかねて、自分の靴を夏子に投げた。それは頭にあたった。
投げた生徒は泣きながら言った。
「なによ、なんなのよ。泣けばいいと思ってるの?
 4月からあたし達は、あんた達のおかげで、
 ろくに授業をうけられなかった。

 あたしたちが、どれだけ迷惑だと思っていたかわかってるの。
 私達の6ヶ月の授業をどうしてくれるのよ。
 どう取り返してくれるのよ。
 私の好きだった先生を2人も辞めさせて、
 どうも思っているのよ。ふざけんじゃないわよ。
 自分達が負けて、終わりなの。
 退学したって、私達の失った月日はもどってこないのよ。
 それをどうしてくれるのよ。
 もう、絶対学校へ来るな。あんた達の顔も見たくないのよ。」

また、別の一人が泣きながら言った。
「そうよ、あんた達は、学年のトップ3で、いいかもしれないけど、
 あたしなんかは、先生の授業を必死で聞いて、
 それで、家に帰ってまた復習をして、やっとなのよ。
 その授業が、あんたたちのおかげで、
 今までろくに聞けなかった。もうT大へ行けない。死ぬまで恨んでやる。
 この学校を、早く出て行け!」

3人目の生徒が言った。
「あんた達を止められなかった私達もいけなかったのかも知れない。
 でも、あんた達は、学年のトップ3。
 その3人が組まれたら、あたしなんか恐くて何も言えないのよ。
 みんなもそうだったと思う。
 あたしは、T大に入るのが夢で、小学校のときから、必死でやってきた。
 みんなが遊んでいるとき、遊びたい気持ちを我慢して、全部勉強して来た。

 夢があるから、我慢して来た。
 それが、あんた達の授業妨害で、ほとんど勉強ができなかった。
 もう遅いのよ。今からじゃ、T大に受かりっこない。
 あたしは、家が貧しいから、浪人なんてさせてくれない。
 あんた達は、私の夢を奪った。」
その生徒は、号泣した。

クラス中の生徒が、靴やカバンを手当たり次第、3人に投げた。
そして、クラスのみんなは、悔し涙に泣き始めた。

3人は、ただ、頭をかばって、机の上で泣くばかりだった。
3人は、まさか、自分達が、これほどまでみんなに憎まれているとは、
思っていなかったのだった。
先生降ろしという劇を、痛快なものとして、
みんなが一緒に楽しんでいるものと思って来た。

授業妨害も、退屈な授業を中断させることで、
みんなは喜んでいると思って来た。
そんな自分達は、みんなの英雄だと思い、得意満面でいたのである。
今、みんなの言葉を聞いて、自分達の大きな思い違に気づいた。
そして、自分達の罪の大きさをやっと認識し、
それが、身に沁みてわかったのだった。

*   *    *

洋子は、教室を出て、校長と理事長、副校長に、ことの一切を話した。
理事長は2代目で若く29歳だった。
温かな人格者であると同時に、大変な手腕の持ち主だった。

理事長は言った。
「辞めてもらおうよ。2クラスしかない3年生が、
 あの3人のために、1クラスがめちゃめちゃだ。
 Aクラスにいい生徒を集めてるんだからね。
 そっくりT大に行ってもらわないと困る。

 各教科の先生も大変な迷惑をしている。
 いままで、何人の優秀な先生を辞めさせたと思ってるんだ。
 その罪の大きさも、わからせた方がいい。
 下手をすれば、来年の受験に、T大合格者ゼロ人になる。
 そうなったら、桜台のランクはガタ落ちだからね。

 早い所手を打とう。
 なあに、親が大学教授だろうがなんだろうが、娘がそんなワルでは、
 いさせるわけにはいかないよ。
 いいチャンスだ。倉田先生はよくやってくれた。」

校長は、
「理事長がそうおっしゃるなら、異存はありません。
 ただ、両親と娘共に、謝罪をされたらどうしますか。」と言った。
理事長は、
「それは、そのときの親の態度、娘の態度によるね。
 本気で心の底から反省しているなら、許す場合もあるかもね。」と言った。

このような、話になった。

3人は、荷物をまとめて、校長室に来るように放送があった。

3人は、校長室に来た。
そこで、校長はまず3人に退学希望の用紙に記入させ、提出させた。
「君達の退学希望は、受理されました。明日からこの学校へこなくてもいいです。
 なお、今日の6時から保護者への説明をしますから、君達も来なさい。
 その場で、君達からはっきり退学の意向を述べなさい。」
校長はそう言った。
校長は、3人に、なんの弁明の余地も与えなかった。

3人は、どこかの段階で自分達は許されるのではないかと、願っていた。
しかし、退学が現実となり、真っ青な顔をしてうつむいた。
親にも弁明させないと、先生に言い切った。
退学は、決まった。
3人は、そのまま家に帰された。


帰宅への道で、夏子は考えていた。
もともと先生を辞めさせる目的でやったのだから、弁解の余地もない。
これまで3人で、5人もの先生を辞めさせた。
クラスの授業でも、先生の上げ足をとり、
授業を中断させたことは、数知れない。
クラスのみんなに、とりかえしのつかない悪いことをしてしまった。

みんなが、怒り、恨むのはあたりまえだ。
学校は義務教育ではない。退学はある。
私立校は、営利を考える。
自分のような行為をする生徒は、学校にとって、はなはだ迷惑だ。
夏子は、自業自得だと思い、同時に絶望した。
なんであんなことをして来たのだろうと、
それが、悔やまれてならなかった。


父啓介は在宅で、夏子は、家に帰って両親に事情をすべて話した。
父啓介は、
「じゃあ、しょうがないな。父さんは、お前の卒業式の姿を見たかったが、あきらめるか。」
そう言った。
母信子は言った。
「夏子は、罪を償わないといけないわね。
 退学したって、なんの償いにもならないのよ。
 学校をお辞めになった先生方は、仕事を失い、苦しい生活をされていると思うわ。
 それを、どう償いますか。
 クラスのみんなの大切な授業を妨害した罪も大きい。
 みんなが、志望の大学へ行けなくなり、みんなの夢をつぶすかも知れない。

 過ぎた6ヶ月の授業は、帰って来ないわ。
 自分のした罪を本気になって考えなさい。そして、償う方法をね。
 あなたの罪は一生消えませんからね。
 母さんは、あなたをもう大学に行かせません。大検など受けさせません。
 明日から、外に出て働いてもらいます。この家にだけは住まわせてあげます。
 働いたお金で、償いをしなさい。」

夏子はうなだれたまま、一言も返せなかった。



「ところで、その先生は、夏子の書き間違えた式を見て即座に、答えたのか。」
父啓介は、言った。
「うん、そう。」
「X5と夏子が間違えた問題をか。」
「そう。」
「その先生の解を見せてくれ。」
夏子がそれを見せると、父啓介は、深く考え込んでしまった。

「なんという。全くの驚きだ。」
「そんなにすごいの。先生10秒くらいで解いたよ。」
「まさか…。」
「そんなに?」
「ああ、普通なら、解法の式が、80を越えるだろう。
 この先生は、4式で終わっている。しかも、正しそうだ。これは数学者の勘だがね。」
「父さんなら解ける?」と夏子。
「馬鹿を言え。X4で20年かかったんだぞ。死ぬまでがんばっても解けないよ。」

「じゃあ、なんで先生が解けたの?」
「だから、驚嘆に値するんだ。父さんは是非その先生にお会いして、お話を伺いたい。」
「じゃあ、あたしが正しく写していたら、あの先生解いたかなあ。」
「お前が渡した間違いの問題の方が、1000倍むずかしい。それが、答えだ。」
「じゃあ、写し間違えなくても、私の負けだったんだ。」
「ラッセル博士の疑問もご存知だったんだろう。世の中には、我々の想像を絶するすごい天才が5万といるんだよ。ただ残念なことに、それらの人は学者とはかぎらないんだ。」
啓介はそう言った。
「中学生みたいな、可愛い先生よ。」
と夏子。
「見かけは関係なかろう。」
と父は言った。



大村夏子、木下朱実、加藤ユカの3人と、
その両親6名が校長室に集まった。

娘の退学希望の説明を聞いて、どの親も、娘の退学は当然だと言った。
そして、深々と陳謝した。
過去、5人の担任を追い出し、他の教科の先生の上げ肢をとり、クラスに迷惑をかけたこと。
また、そのやり方が、普通の教師なら絶対解けない問題を、質問と偽り、解かせた巧妙さに、悪意を見出し、娘の退学希望にあっさりと同意した。

3人は、親が反論をしてくれると思い、最後の望みをかけていただけに、親のあまりにも簡単な同意に、絶望の色を隠せなかった。

大村も木下も、加藤も、学園生活にまだまだ大きな未練があった。
運動会や、学園祭も楽しみにしていた。卒業記念会もやりたかった。
何よりも、卒業式に出たかった。
また、他校への転学もありえるが、一人成績のいい自分達は、
きっと浮き上がり、いじめられると思った。
今のような、同学力の生徒と共に、勉強することはもう叶わない。

話がまとまり、最後の最後のときだった。
夏子の胸に、こらえきれない学校への思慕が募り、
どうしても我慢ができず、涙が泉のようにあふれてきた。

夏子は、座っているソファーを後ろにやり、
床に正座し、手をついた。
そして、涙ながらに訴えた。
「お願いです。私をこの学校に置いてください。
 お願いします。心の底から後悔し、反省しました。
 自分のしたことが、どれだけの罪であったかもわかりました。
 辞めてしまわれた先生方を訪ねて謝ります。
 クラスのみんなにも謝ります。

 私は、少し成績がよいことで、うぬぼれて増長していました。
 でも、倉田先生のように、私なんかが遥かに及ばない
 天才的な人が、星の数ほどいることがわかりました。
 それに、くらべれば、自分がいかに小さなものかがわかりました。
 これからは、もっと謙虚に、素直に、先生方の言うことをきき、
 決してクラスに迷惑をかけないようにします。

 そして、クラスのために働きます。
 クラスのみんなに、役に立つことなら何でもします。
 学校のために、尽くします。どんな仕事でもします。
 トイレ掃除も、私が一人でずっとやります。
 だから、この学校に通わせてください。

 倉田先生に、謝ったりしないと約束しましたが、
 私は、この学校が好きです。みんなに迷惑をかけた分、
 やり直しがしたいです。
 このままでは、償いもできません。
 私にチャンスをください。どうか、お願いします。」
そう言って、夏子はわあーと泣き出し、床に伏した。

すると、木下、加藤の二人も来て、
夏子の隣に手をついて、泣きながら、
必死であやまった。

理事長は、校長や洋子と目で対談した。
そして、しばらく考え、やがて、うなずいた。

「もういいよ。3人ともソファにもどりなさい。」と理事長が優しく言った。

3人は、それでも、まだ床にいた。

理事長は言った。
「学校は教育の場でありますし、生徒を裁くところではありません。
 慢心することは、誰にも一度はあるでしょうし、私とて人のことは言えません。
 また、罪にしても、誰もが何らかの罪を背負っていることと思います。
 間違ったら、反省し正すことが大事かと思います。
 取り返しのつかないこともありますが、それは、未来に対し尽くせばよいと考えます。
 3人の反省の言葉を聞いて、真心と見ました。
 よってこの「退学願い」を学校は受理しません。」

理事長は、校長や、親達の顔を見て、
「じゃあ、こういうことにしませんか。」
と言って、3枚の退学願いを破り捨てた。
親達が、一同立ち上がって、理事長と校長と洋子に深く礼をし、感謝の言葉を述べた。
父親たちも母親たちも、みんな涙を浮かべていた。

床でうつむいている3人に、洋子は、
「退学は、取り消しよ。」と言った。
「え?ほんとですか。ありがとうございます。」
と3人は言った。
「先生、ごめんなさい。これからちゃんとやります。」
と3人は、洋子にしがみついて、再び泣き始めた。

「まずは、クラスのみんなに、どう尽くすかにかかっているわね。
 みんなが許してくれるまで、時間がかかると思うけど、
 3人でがんばれば、少しずつ、わかってくれるでしょう。」
洋子は言った。
「はい。トイレ掃除を毎日やります。
 教室に早く来て、教室をぴかぴかにします。
 みんなが、許してくれたら、勉強のヘルパーになります。
 自分の受験など、後回しにして、みんなのために尽くします。
 がんばります。なんでもします。」
と3人は言った。



皆は、笑顔で散り散りになっていった。

洋子のところへ、夏子と父の大村啓介と母が来た。
「倉田先生、もう、ほんとにこの度は。」と啓介。
「まあ、教授。お会いでき光栄ですわ。」と洋子。
4人は、靴箱に向かい歩きながら、
「ところで、倉田先生は、私の今回の解法をどうご覧になりますか。」と教授。
「それなんですが、オクスフォード大学のラッセル博士は、
 教授の、第8式の3項目のXは、ファジーじゃないか、
 だから、最終式は、ただ確率を表すに過ぎないと、疑問を提出されていますよね。」
「はい、それなんです。頭の痛い疑問です。」と教授。
洋子は言った。
「しかし、私は、もう一つ第7式の6項目のXにもファジーの可能性を感じるんです。
 そこで、ファジーな二つのXが互いに干渉し合うことによって、クリアとなり、
 教授の最終式は、『確率』ではなく、『確定』と断言できるのではないかと思うんです。」
教授の顔に、ぱっと花が咲いた。
「『干渉』ですか!おお、あああ、そうかあ、おおお、いけますな。おおおおお。」と教授は歓喜して、
娘を抱いて、くるくる回った。
「いやあ、これは、ありがたい。感謝感激です。
 もう、一体倉田先生は、どんな方なのか、まさに奇跡です。
 私、家に飛んで帰って、倉田先生の今のご意見をすぐに検証したいと思います。
 夏子、倉田先生は、父さんの救いの女神になるかもしれないよ。
 では、いずれ、ゆっくりと。私、すぐにやりたがりなもんですから。」
と、教授は急ぎ足になった。
「先生、ありがとうございました。」と夏子に笑顔が戻っていた。いい顔をしていた。
夏子の母が、「お世話になりました。私、数学はゼロですの。」と笑いながら歩を進めた。



洋子が、理事長や校長に絶賛されたのは、もちろんのこと。

洋次はふと首をかしげた。
これで、使命は終わり。
自分が、またトイレに入って洋次になったら、
いったい誰が、自分の代わりに、ここにいるのだろうと。
(この疑問は、スーパー洋子は、複数いるのだということが、
 後日明らかになります。)


<おわり>

■次回予告■

新作が書けずに、苦労して来ました。
次回は、新作の小品を投稿します。
典型的ハッピーエンドの、
小さな恋の物語です。

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スーパー洋子・桜台高校①「3人の困った女子生徒」

今回も新作ができず、スーパー洋子の、私のお気に入りを再投稿します。
全4話ですので、2話ずつ合体して、2回に分けて投稿します。
一度お読みになったものかと思いますが、再び読んでくださるとうれしいです。

===========================

<第1話>

いつものように、上司近藤百合子にさんざん説教をされ、
洋次は、参っていた。
お腹の調子が悪い。
朝一番からこうだ。いやだなあと思いトイレに立った。
この頃、トイレに行くのも、楽じゃない。

さあがんばろうと、トイレのドアを開けると、ここは出版社ではない。
自分の格好を、鏡に映してみると、
紺のジャンパースカートに、紺のボレロ。
「うわ~、これ女子高生の卒業式の服みたいじゃない。」
 髪も乙女チックな頬までのストレート。前髪あり。
 これでは、益々、女子高生だ。背も低い。」
洋子になった洋次は、がっくりきて、
下唇を出して、ふーと前髪に息をかけ、前髪の一部を飛ばした。

ちゃんと、スーパー洋子になってくれてるのかな、
と洋次は心配になった。

トイレから出ると、女子高生達がいる。
ここは学校か。
そばにきた、女の子に聞いてみた。
「ねえ。ここ、なんていう学校?」
「はい、桜台高校です。」
まさかと、洋次は思った。
あの天下の女子高の名門、桜台高校か。
1学年80人しかいないのに、毎年T大に40人近く入るという恐ろしい学校だ。
中には、すごい子がいるだろうなあと思った。
天才的な子もいるかも知れない。

洋子(以下、洋子)がそんなことを考えていると、
「あ、倉田先生。校長との打ち合わせお願いします。」と事務の人に言われた。
えええ?自分は、先生なの??。
この名門校の?それは、いやよ、と洋子は思った。
だったら、もうちょっと大人びたスーツかなんか着ていたい。

校長室に入ると、頭の半分はげた校長にソファーを勧められた。
「えー、倉田先生に半年の契約で担任をお願いしたいのは、
 3年生のA組なのですが、B組より1ランク優秀な生徒のクラスです。
 しかし、大変問題のあるクラスでしてねえ。
 お恥ずかしい話、我が高校の正規の職員に担任の持ち手がなく、
 仕方なく、外部からの講師の先生に担任を受け持っていただいて来ました。
 ところが、この半年、みな1ヶ月ともたず、辞めていかれました。
 中には、即日お辞めになった先生もいます。」
校長は汗を拭き拭き話していた。

「しかし、桜台高校と言えば、天下の名門ではないでしょうか。
 何が問題なのでしょう。」
と、洋子は聞いた。
「それが、学年で成績トップ3の3人組がおりまして、
 その3人が、担任降ろしをするんですなあ。
 先生に難問をつき付け、困らせる。
 こんな問題が解けない先生は、教師の資格はない、
 などと先生を非難し、追い出してしまうんですよ。
 高慢ちきで、生意気極まりないヤツラでして。
 あ、申し訳ない。教師たるもの、言葉が過ぎました。

 それで、倉田先生には、それを覚悟の上で臨んでいただきたいのです。
 決して、生徒の挑発に乗ることなく、
 上手く身を守っていただきたい。
 そんな事情で、先生には、時間給6000円という、
 高額をお支払いしている次第です。」
「トップ3の3人ですか。この桜台で。
 それは、大変なことです。天才だと困りますけど…。
 わ、私みたいな小娘につとまるんですかあ?」
と洋子は、中学生みたいな口調で言った。

「面談で、引き受けてくださったのは、倉田先生お一人なんです。」
「あ、あたし、面談なんかしてたんですかあ?」と洋子。
「はい。引き受けてくださると。ただ、3人の生徒のことは、初耳かと…。」
「初耳ですとも!」
校長は小さくなった。
あらまあ~と洋子は思い、前髪をふーと吹き飛ばした。

しかし、洋子は悟った。自分が変身するのには、必ず使命がある。
その3人をどうにかせよというのが、その使命かと思った。
「はい、わかりました。若輩者ですが、やらせていただきます。」
洋子は言った。
「ああ、ありがたい。1日でも長くお続け願いたい。」校長は言った。
「1日でもですかあ?」とまた洋子は中学生のようないい方をした。
「いや、今のは、より長くという意味でして…。」
校長は、また汗を拭いた。
「はあ~?はい。」と洋子は言った。

洋子は職員室の先生に紹介され、挨拶をした。
先生達は、洋子の若さに驚いたようだった。
「だいじょうぶかな。」
「新米のほやほやにみえるし。」
「1日でも、もってくれたらいいな。」
そんなささやきが、洋子の耳に聞こえた。
(洋子は、耳もスーパーである。)

そして、3年A組の出席簿を持って、教室に行こうとした。
「倉田先生、気をつけてください。」
「無事を祈ります。」
「生徒のペースに乗ってはだめですよ。」
と何人かの男の先生に言われた。
「はい。」「はい。」「はあ。」
と洋子は答えた。

はあ~、これはめんどくさそうだなあ…と洋子は思った。

洋子は教室に入った。
教室は静かで、みんな、受験用の問題集など出して勉強している。
「なんだ、おとなしいじゃないの。」と思った。
しかし、後ろに三人だけ、立って話をしている。
その話が、洋子には聞こえた。
「うわあ、見てアイツ。まるで中学生じゃない。」
「あれじゃあ、あたし達にやられて、1日ね。」
「朝のホームルームだけで、終わりよ。」
三人は、にやにやして、洋子を見た。

洋子の姿を見て、かすかにざわざわとしたが、すぐに止んだ。
ほとんどの生徒が勉強に夢中だ。
担任が来たのに、勉強をやめようとしない。
3人は、席に戻ろうともしない。
「私は、倉田洋子です。本日よりこのクラスの担任です。どうぞよろしくね。」
と洋子は言った。
「出席をとります。名前を呼ばれたら、手を上げて、『はい!』と言ってね。
 手が挙がらない子は、欠席としますよー。いいでちゅかあ。」
洋子は、生徒がこちらを向かないので、幼稚園児に話しかけるように言った。

ほとんどの生徒が洋子の言葉を聞いていない。
洋子は、むかっと来たので、40人の名を、すごい速さで呼んだ。
(おー、やっぱ、スーパー洋子になってる。と安心した。)
たまたま洋子の言葉をしっかり聞いていた生徒、12人が何とか手を上げ、はい、と言った。
「今日の出席12名。欠席28名。あらあら。
 はい、朝のHR、これで終わりでちゅよ。時間がくるまで、自由にちてね。
 私は、28名の家庭に、確認の電話をしにいきまちゅからね。
 28人か。うんざりでちゅう。」
そう言って、教室を出ようとした。

すると、5人位が、手を上げた。そのうち、一人が言った。
「先生、あたし手を上げませんでした。だけど、います。出席にしてください。」
洋子は言った。
「だめでちゅ。あなたは、私が説明をしているとき、T大の入試問題の世界史の問題を解いていたじゃありませんか。
 朝は、出席をとるのでちょう。どうして、返事をしなかったのでちゅ?」
「すいません。自分の勉強をしていました。」とその生徒。
「だったら、学校なんか来ないで、家で勉強すればいいでちゅ。」
と洋子。さらに、
「私は、一生懸命私の目を見て聞いていて、なおかつ私の言う速さについて来れない子なら、
 ゆっくりとその子に対してだけお名前を言います。
 あなたは、そういう子でちゅか。」
「ちがいます。」その子は言葉なく座った。

別の生徒が立ち上がった。
「先生は、どうしてそんな赤ちゃんに話すような話し方するんですか。
 私達バカにされているみたいです。」
洋子は答えた。
「みなさんが、幼稚園児並みのマナーしか知らないからです。
 担任の先生が来て、何か話をするときは、最低先生に顔を向けて聞くべきです。
 小学校1年生でもできますよ。
 人の顔を見ないで話を聞く。失礼なのは、あなた方でちゅ。
 28人に電話をします。そのときに聞いてみますね。
 ご家庭で、そういうマナーを学んでいないのですかと。
 天下の桜台の生徒も、地に落ちたものでちゅね。」

そう言って、洋子が教室を出ようとすると、欠席扱いのほとんどが、洋次に詰め寄ってきた。
「先生。お願いします。家庭連絡だけはやめてください。これから、ちゃんとやります。」
と一人が言う。
「どうちて?」
と洋子はとぼけて言った。
「家で、叱られます。」
「だって、私の話を聞いてなかったんでしょう。家で叱られて当然でちゅよ?
 はい、私を通して。28件も電話があるのよ。私の身にもなってよ。」
洋子は言った。

「先生、あやまります。明日からちゃんと先生の顔を見て、お話を聞きます。
 だから、今日だけは許してください。」
生徒達がそこまで、言った。
「全員ですか。ふてくされている人は、手を上げなちゃい。」
すると、3人手を上げた。

「あらまあ。いるの。全員じゃなきゃ、だめでちゅ。」
洋子は全員を、座席に返した。
不思議なことに、その3人を非難する生徒がいない。
3人さえ、謝れば、自分達は助かるのに。

言わば、この3人は、クラスのボス的存在なのかと、洋次は見た。

大村夏子、木下朱実、加藤ユカ。
写真入の生徒カードを見ておいたので、洋子は全員の名を知っていた。
『ははあ、この3人か…。』洋子は思った。

「大村さん、なぜ、ふてくされてるの?」
洋子は優しく聞いた。
「先生の資格がない人に、先生ヅラされるのが、嫌だからです。」
と大村は、横を見ながら言った。
『早速来たか。』と洋子は思った。

『挑発してるつもりなのかもしれないけどね。』
と洋子は、心でにんまりとした。
「じゃあ、木下朱里さん、加藤ユカさんも、同じ考えなの。」
二人は、「はーい。」とふてくされたいい方をした。

洋子は、また幼稚園児にでも相手をするように、にこにこして言った。

「じゃあ、大村さん、どうすれば、私に教師の資格があるかどうかわかるのでちゅ?」
と洋子は聞いた。
「私の持ってきた問題を解いてください。」
と大村は言う。
「科目は?」
「数学の問題です。」
「いやーね、私の専門は英語よ。でも、まあ、なんでもいいか。」
と洋子は言った。

洋子は、まだまだにっこりして言った。


<第2話>

大村が、問題を持ってきた。
それを、見せようとしたので、洋子は、

「ちょっと待って。あなたは、その問題の答えを完全に理解しているのね。」
洋子の言葉に、
「はい。」と大村夏子は言った。

「これは、私を辞めさせるためのものなの?
 それとも、私がその問題を解ける教師であることを期待してのものなの?」
「期待してのものです。」と大村は言った。
「じゃあ、私が解けるかも知れない問題なのね。」洋子は聞いた。
「私が解けました。それが答えです。」大村は言った。

「じゃあ、あなたの期待はずれだったら、私はこの学校を辞めるのね。
 大村夏子さん。そういうことなの?」
「そうです。でも、先生がお解きになれば、問題はありません。」
と大村夏子は言った。
『上手いこと言うなあ。』と洋子は、変に感心した。

「これは、場合によって、私にとって仕事を失うという大変なことなのです。
 私は、病気の母をかかえているのね。私の収入がないと、母は病院にも行けず死んじゃうの。
 わかってくれる?
 だから、私は、これからそれだけの覚悟で、大村さんの挑戦を受けようとしています。
 天下の桜台女子高校、成績ナンバー1の大村さんのね。
 いやだけどさ。できれば、逃げ出したいわよ。
 あたしって、お馬鹿だから、挑発に見事に乗ってるわけ。
 だから、大村さんも、それだけの覚悟をしてね。」
洋子は、言った。
「どういうことですか。」大村夏子は言った。

「大村さん。私があなたの問題を解いたら、この学校を辞めてください。
 退学願いを出してね。受理されなくても、学校に来なければいいの。
 あなたと私、勝った方が学校にいられます。
 イーブン・イーブンでないと、不公平でちゅ。」
洋子の言葉に、クラスは、一瞬ざわざわとなった。

大村夏子は、先生が解けないという絶対の自信があった。

夏子は、数学の天才児と小学校のときから言われてきた。
小学生のとき、高校の微分積分などの数学を終了し、
中学を経て高校生となり、T大学の数学科の内容をほぼ理解していた。
数学に関しては、絶対的な自信を持っていた。
その夏子が、先生に突きつける問題に関し、絶対を期した。

夏子の父は、T大の数学教授だった。
その問題は、父が最近やっと解きえた数式であるのだ。
世界ではじめて、夏子の父が解いたかもしれないと学会で発表した。
それを、英語教師がとけるはずもない。
ただ、式の説明をしろと言われると、まずい。
さすがの夏子でも、世界の数学のレベルには達していない。
父の数式は、夏子でさえ、チンプンカンプンである。

自分は、答えを知っているだけで、途中の展開など全くわからない。
だが、かまうもんか。
こんな中学生みたいな教師が答に到達できるはずがない。
必ず途中でギブ・アップだ。
多分、数式を見たとたんお手上げだろう。
だから、説明の必要はない。
朝から、早口で出席をとり、ふざけた幼児語を使う。
夏子はそれも気に入らないでいた。

「あたし、辞めます。先生が解けたら、きっぱり辞めます。」夏子は言った。
「あたしも、夏子の問題を先生が解いたら、一緒に辞めます。」木下朱実が言った。
「あたしもです。一緒にやめます。」加藤ユカが言った。

「ほんとに、いいの?
 あたしが、問題解いたらさ、後から、よくあるのよ。
 夏子さんのせいにしてね、
『夏子、先生じゃ絶対解けないって言ったじゃない。』
『どうしてくれんのよ。』なんてさ。」
洋子は言った。
「そんなことしません。」木下と加藤はきっぱり言い切った。
「ほんとね。人のせいには、しっこなしよ。」
「くどいです。」と木下と加藤は言った。

洋子はさらに言った。
「親がどれだけ謝って来ても、
 校長がどれだけ帳消しにしてくれても、
 私が解けたら、3人は自分の意志で必ず退学しますね。
 後で謝ったり親頼みで謝って来るなんてマネしませんね。
 私は、母の命をかけているんですからね。」

「後で謝ったりしません。親にも謝らせません。」と3人は胸を張った。

「ここをやめたら、あなた達を受け入れる学校なんてないわ。
 桜台で先生いびりをして退学した子を、どの高校が受け入れますか。
 もし、受け入れてくれる学校があっても、
 あなた達は、苦労するわよ。あなた達とは、ぜんぜんタイプの違う子達がいる。
 いじめられるかも知れない。
 あなた達は、中学卒業という学歴になって大学にはいけないわ。
 あ、でも、大検って方法があるか。司法試験という手もあるわ。
 あれは、学歴を問わないから。じゃあ、いいかもね。」
洋子は軽く言った。

「わかっています。覚悟の上です。」夏子は言った。
「木下さん、加藤さんは?」洋子は聞いた。
「何度も言わせないでください。」二人は言った。

「おーい、クラスのみんな聞いたあ?」と洋子はみんなに聞いた。
「はい、聞きました。」とみんなは、言った。
やはり、クラスのみんなは、本心ではこの3人を嫌っている、というより恨んでいる。
洋子はそうにらんだ。

クラスのみんなは、このおもしろい対決に、内職をするものは誰もいなかった。
洋子の余裕に、何かを期待していた。

「では、見せてちょうだい。」
洋子は言った。
夏子は、教卓の洋子のところへ来て、紙を渡した。
洋子は、問題を見て、露骨に、「げっ!」と言う顔をした。
夏子は、にやりとした。
クラスのみんなは、一瞬失望の色を見せた。

数式は、夏子の手書きのものだった。

洋子は、ふーと前髪を吹き上げた。
「なんとまあ。ここまで、やらせるの?」
などと言いながら、洋子は、鉛筆を走らせたのだった。
夏子は、「まさか。」と思った。一瞬、不安が胸をよぎった。

10秒も経たなかった。

「はい、できまちたよ。」
と洋子は、にっこり夏子に見せた。
夏子は、その答えを見て、にんまりとした。

「先生、答えが違っています。」と夏子。
「あってるわよ。」と洋子。
「違っています。」と夏子。
「あなたに、それがわかるの?わかったら大変でちゅ。」と洋子。
「昨日自分で考えてワープロで打ったものがあります。」夏子は言った。
「じゃあ、見ちぇて。」と洋次は、再び幼児語になった。
夏子は、用紙を持ってきた。
ワープロで打ったなんていうのは、とんでもないウソで、
ある雑誌の1ページをそっくりコピーしたものだった。

「わかったわ。で、あなたが私にくれた問題の答えを言ってください。」洋子はやさしく言った。
「X2-ABです。そこに書いてありませんか。」と夏子は誇らしげに言った。
「これには、そう書いてあるわ。
 私が言っているのは、あなたが、私にくれた問題の答えを聞いているのでちゅ。」
洋子は言った。
一瞬、夏子は、きょとんとした。

「問題の数式が違うのだから、同じ答えになるはずがないでちゅ。」洋子は言った。
夏子はまだわからなかった。
「2つの問題をよく比べてご覧なちゃい。」
洋子は言った。

夏子は、不安にかられ、問題を見比べた。
そして、自分の問題の写し間違いに気が付いた。
17番目の文字は、X4であるのに、自分は、X5としていた。
夏子は、真っ青になった。


<第3話につづく>

■次回予告■

夏子、絶体絶命です。

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スーパー洋子②〔完結編〕「神崎屈服」

再投稿 スーパー洋子②〔完結編〕「神崎屈服」

少し計算間違いで、これは、5話の構成でした。
そこで、残り3話を一気に投稿します。
大変長くなります。最後までお付き合いくださるとうれしいです。

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次の日、洋子は、少し早めに学校に来て、校門のところで、金子美優を待った。

美優が陰の女ボスであることを、洋子は確信していた。
かなり待った。そのうち、とうとう美優がやって来た。
美優が校門まで来たとき、洋子は、さっと美優の肩に腕を掛け、
「おはよう。」と言った。

美優は、汚らわしいものでも見るような、すごい嫌悪の顔を洋子に向けた。
洋子の腕を払おうとしたが、洋子の腕はびくともしない。
美優は、『ふざけんな!』と言おうとしたが、
はじめの『ふ』を言おうとしたとき、
洋子の手が、素早く、美優の口に当てられ、美優は何も言えなくなった。
「あたしに何か言ってはダメ。五島みたいにぼこぼこにされるよ。」
洋子はにっこりして言った。
洋子の手を、美優はどうしてもはずせなかった。
強力な力だった。

洋子は、美優の口から手をはずし、
いろんなことを、一方的に話した。
そして、美優が何か言おうとすると、即座に手でふさぎ言わせない。
奴隷であった洋子だが、美優は、そんな洋子に恐怖すら感じ始めていた。

1時間目が終わった。
洋子は、誰よりも早く美優のところへ行き、
「ね、トイレにいっしょにいこう。」
と誘った。
朝のことがあるので、美優は恐くて逆らえず、
もじもじしていたが、やがて、自分から立った。
クラスの生徒には、信じられない光景だった。
全員が注目していた。
洋子は、美優と手をつないだまま、歩いていく。

そして、トイレに入ったとき、
洋子は、美優の両肩に手を掛けて、
ぐっと抱き寄せ、口・づけをした。

洋子の未来社会では、相手へのせっ・く・すの快感を高めるため、
脳の中に、そのようなソフトが搭載されている。
洋子は、美優に対してそれを使った。
口・づけで感じる性・的・快・感を10倍にして与えた。
美優は、3秒洋子に口・づけをされただけで、
体をふるわせて、絶頂に達した。

そして、美優は、その場に崩れようとした。
洋子は、美優を抱きかかえ、
「美優、ごめん。あたし、美優のこと好きだから、我慢できなかった。」
とみんなに聞こえるように言った。
トイレにいた女生徒は、まるで、奇跡でも見るように、二人を見つめた。
美優が、陰のボスであることは、誰でも知っている。
そのボスが、今まで奴隷だった洋子に口・づけをされて、トイレの床に崩れようとした。



それを見た女生徒によって、うわさが広がり、
学校中の生徒に広まるのに、1時間とかからなかった。
美優の子分たちは、言い合った。
「まさか、あの美優が、あの奴隷に口・づけされて、その場に崩れてしまうなんて。」
「ウソに決まってる。ありえない。」
「でも、ほんとらしいよ。大勢見てる。」
「あの奴隷にトイレに誘われて、美優抵抗しなかったよ。」
「正直言って、あたし、あの洋子が恐い。前とはちがう。」
「まあ、様子見てみようよ。美優に考えがあるのかも知れない。」

美優に考えなど何もなかった。
じっさい洋子にイかされたのだった。

20分休みになった。
洋子は、また真先に美優のところへ行き、
「一緒に遊ぼう。」と言った。
美優は、素直に席を立ち付いてきた。
美優を、体育館裏へ誘った。
洋子が口をふさがなくても、美優は何も言わなかった。
ただ、期待に体をふるわせていた。
また、あの快・感をもう一度と美優は、洋子にすがる思いだったのだ。

体育館裏には、雨に朽ちて、ぼろぼろになったベンチが1つある。
もちろん、大勢の生徒が二人の後をつけ、体育館の角で見ていた。

洋子は、美優と並んで、ベンチに座った。
「洋子、もう一回キ・スして。」美優がせがんできた。
洋子は、パワーを10倍にして口・づけをした。
美優は、快・感に、座ったまま体を激しく振動させた。
美優は、ひとたまりもなかった。

体育館の角で見ていた生徒たちは、まざまざと見た。
到達したあと、美優は洋子に抱きついた。
「もう一回。もう一回して。」
と懇願する。
「あたしに話しかけるとやばいよ。」洋子は言った。
「あたしはいいの。特別なの。」
「どうして、美優だけ特別なの?それを言わないと、もう口・づけしないよ。」
「言う、言う、だから口・づけして。」

洋子は、1秒だけ口・づけをした。
「もっと。中途半端は、がまんできない。」と美優は洋子にすがり胸に頬を寄せた。
「じゃあ、言って。どうして、あなただけあたしにしゃべれるの。」洋子は聞いた。
「実は、あたしがボスなの。だから平気なの。」
美優は、何を勘違いしてか、誇らしげに言った。

『賢いかと思ったが、なんという考えなしだ。白状している相手が誰なのかわかっているのか。』
洋子はあきれ返った。

洋子はまた、少しだけ口・づけをして、途中でやめた。
「あ……ん、だめ、やめないで。」美優は洋子の首に腕を回して来た。
「バックに男がいるでしょう?教えて。」洋子は言った。
「3年D組の、神崎透、美形でスポーツ万能。
 サッカー部1番のストライカー。
 健全なふりしてるけど、この学校のボス。でも、ステキなんだ。」
美優は無邪気にぺらぺらと言った。

「美優。今白状したこと、誰に言ったのかわかってるの?」洋子は言った。
美優は、ようやく自分の愚かさに気づき、はっと口を手でふさいで、真っ青になった。
しゃべったことが知られたら、神崎に何をされるかわからない…。
そんな美優を残して、洋子はベンチを立った。



洋子と美優の大スクープが、学年だけではなく、全校中の生徒に伝わった。
当然、3年D組の神埼透にも伝わった。
取り巻き連中の中で、
「なにお?あの奴隷の洋子に美優が全部しゃべったあ?
 信じられねえ。じゃあ、俺が出なくちゃならんのか?」
神崎は、そう言った。
しかし、神埼が出る必要はなかった。

表向き健全な高校生を演じている神埼は、
昼休み、ゴール前で、友達とサッカーの遊びをしていた。
そこへ洋子がやってきた。
「へたくそ!」と洋子は、神崎に言った。
回りの3年生は、信じられない言葉を聞いたと、洋子を見た。
『神崎を誰だと思っているんだ…。やべえ、この子どうなるかわかんない。』
多分、皆そう思っていた。

「お前、倉田洋子か。」神崎は、にやにやしながら言った。
「そうよ。美優からさんざんいじめられたわよ。」
「へたくそと言ったな。おもしれえ。
 PK戦5対5をやろうぜ。3点先取はなしだ。5回全部やる。
 俺のシュートを1本でも止めたら誉めてやるぜ。」
神崎は言った。

「じゃあ、あたしが先にキーパーってこと?」
「ああ、止めてみな。」と神埼はにやにや笑いを止めない。

気配を察して、校庭で遊んでいた生徒がだんだん見物に来た。
校舎内の生徒も窓から眺めている。
マンマス校で、1200人はいた。
もちろんその中に、美優や子分達もいた。

洋子は、ゴールの中央に立って、自然体でいた。
神崎は、ボールを置いた。
『手始めに、軽く脅かせてやるか。そのうち、恐怖で声も出ないようにしてやる。』
そんなつもりで、ある程度速いボールを洋子の顔一つ分横を通るように放った。
それでも、すごいスピードのボールだった。

だか、洋子には、それが、スローモーション映像のように見えている。
ボールを片手でキャッチして、そのまま人差し指の上でコマのように回した。
校庭に、すごいどよめきが起こった。

「ハエが止まるようなボール蹴ってんじゃないわよ。
 真面目にやんなよ、真面目に。みんな見てんじゃないのよ。
 あたしは、あんたが言った1回を突破したからね。」
洋子はそう言った。


<第4話>「神崎透 屈服」

神崎は焦った。コイツがあの奴隷の洋子なのか。
偶然あのボールを捕るのはまだわかる。
しかし、キャッチした手で、そのままボールを指の上に回すとはなんだ。
しかも、片手で。

神崎は、2回目は、渾身のボールを蹴る覚悟でいた。
自分の渾身のボールは、全国レベルだ。
指を折るか、腕を折るか。女だろうがかまうことはない。
神崎はそう思った。

神崎は助走をつけた。
そして、脚を鞭のようにしならせ、ゴールの左上のコーナーに、
全力のボールを放った。そして、地面に手をつき、地面を見た。
やった!会心のシュートだと思った。
「オーーーというすごい歓声があがった。」
その歓声は、自分へのものだと神崎は思った。

神崎はシュートが入ったものと思い込み、ゴールを見た。
そして、我が目を疑った。
コーナーに狙ったはずのボールを、洋子がキャッチし、ゴールの中央で、
ボールを指に回しながら、自分を見ている。

「まさか…。」神崎はつぶやいた。

「神崎!あたしが女だと思って、手加減なんかすんじゃねーよ。
 本気出せ、本気。」洋子が言っている。

さっきのが会心のシュートだった。
あれ以上のシュートは打てない。
神崎の背筋に恐怖が走った。

残るは一つしかない。
ゴールにしようと思ってコーナーをねらった。
当然、ボールのスピードは落ちる。
直球だ。こうなったら、捕られてもよし、女の顔にめがけて直球を放つ。
例え受けても、後ろへ飛ばされる。
そして、女を崩す。

下手をすれば、女の顔はぐしゃぐしゃになる。
女に対し、顔面をねらうのは最低だ。
自分の人気や名声は地に落ちる。
しかし、これしかない。
神崎は腹をくくった。
1200人を前に俺が負ける訳にはいかない。

神崎は、助走を多くとり、猛烈に球に向かってダッシュした。
蹴った。
唸るようにボールが、洋子の顔面めがけてまっしぐらに飛んで行った。

おおおおおおおーーーーーと歓声が上がった。
洋子は、なんと片手を顔の前に出し、びくともせず、ボールをキャッチしていた。
神崎は愕然とした。人間業とは思えなかった。
耐え難い恐怖が体を突き抜けた。

神崎は、その後2シュート、全力でシュートしたが、
どれも軽々と洋子に捕られ、結局1ポイントも取れずに攻撃は終わった。

「次は、あたしのシュートだね。」
洋子はそう言った。
神崎は、その言葉を、恐怖の塊となって聞いた。



神崎はゴール前に立った。
恐怖で膝がぶるぶると震える。
あれだけのキープを見せた洋子だ。どれだけのシュートをするか、想像がつく。
1200人もの生徒に見られている。
しかし、神崎は、自分の恥を考える余裕などとっくに失せていた。
ただ、助かりたいという一心だった。

「行くよ、神崎。」
洋子は言った。
そして、洋子は、助走もなく、ほんの膝下で蹴った。
それなのに、目にも止まらないボールが飛んで行った。
気が付けば、神崎の右頬をかすめてボールはゴールを抜けた。
だれも、ボールが見えなかった。
ただ、ゴールネットが揺れ、ボールがゴール内にあることだけがわかった。
神崎は、その場に凍りついたように、1cmも動けなかった。

1200人の生徒は、もはやしゃべることも忘れて、二人を見ていた。
この時点で、何人かの先生が、何事かと見に来た。
そして、先生達は、サッカーでは学校ナンバー1の神崎に、
女子生徒がシュートを挑んでいると見た。
これなら、おもしろい。
全校生徒が集まるのも当然。
問題なし。むしろ微笑ましいと思い、職員室に戻ってしまった。
先生の誰一人も洋子のシュートを見ていなかったことが、神崎の不運であった。

二回目。
洋子は、助走をつけるために数歩下がった。
神崎は、さらなる恐怖に落とされた。
洋子は蹴った。
ボールは、大きくゴール右上の空高く飛んでいった。
「おお、助かった。」と神崎は思った。
しかし、ボールは急に大きくカーブして、
高い空から神崎の顔面に弾丸のような迫力で飛んできた。
恐い。
神崎は、思わず両手で頭を覆い、その場にしゃがんでしまった。
ボールは、ゴールポストにあたり、中に入った。

これは悪夢か。一刻も早くこの場から逃げ出したい。
神崎は体の震えを隠せなかった。

あと3シュートもあった。
絶望的な回数だ。
次に、洋子は、かなり後ろへ下がった。

洋子が助走をつける。
『止めてくれ。』
神崎は恐怖のどん底に突き落とされていた。

洋子は、「おおおおおお。」とすごい声を発しながらボールへ向かった。
神埼には、洋子の姿が、5倍にも10倍にも大きく見えた。
恐い。耐えられない。俺は殺される!
神崎は、まだボールが来もしないのに、
頭を腕で覆って、目をつぶり、地面に亀のようにつっぷしてしまった。
洋子は、ボールの前で止まり、軽いゴロを神崎のすぐ横に転がした。
ボールは、ラインを少し越えたところで止まった。
幼稚園児でも取れるボールだった。

校庭中が静まりかえっていた。

洋子は神崎のところへ歩いて行った。
「神崎。あと2シュートあるけど、やるかい?」洋子は言った。
神崎は正座をして、震えながら両手を土につけた。
すでに神崎は失禁していた。

「いい、もういい、許してくれ。お前にやったことは、全部謝る。許してくれ。」
そう言って、額を土にこすりつけた。

「おい、美優!子分!何してんだ!」洋子は一喝した。
美優と子分等は、必死に飛んできて、美優は、神崎に並んで正座し、額を土につけた。
子分5人は、その後ろに正座して、神埼と同じように土下座をした。

洋子は言った。
「美優、神崎。子分。許してやりたいけどさ。お前ら、あたしからいくら巻き挙げた?」
「大体20万円です。」美優は言った。
「分け前を言ってごらん。」と洋子。
「俺が10万。美優が8万。あとの2万は子分等にやりました。」神崎が言った。

「悪いけど、あんた達がしたことは、まず、恐喝なのね。そして、傷害罪。
 そして、もっと重いことをした。
 子分5人が、体育館倉庫に、私を連れて行った。そこで、あたしに目隠しをした。
 子分5人は私を押え、神崎は、あることを私にしたね。
 美優が、うれしがって笑ってた。あれは、美優の声だった。」
洋子は、一筋涙を流していた。

「おい、神崎。何とか言え!」洋子は怒鳴った。
「その通りです。子分に押えさせ、やりました。」神崎が泣きはじめた。
「子分の手引きをしたのは、美優だな。」
「はい、あたしが子分にやらせました。」美優は、ぼろぼろに泣いていた。
「あたしは、その次の日、自殺したんだよ。助けられて死ねなかったけどね。
 あれが、どのくらい重い罪か知ってるかい。

 女の子によっては、ショックで一生廃人になる。
 自殺する子もいる。私みたいにね。
 だから、人を殺すのと似たような重い罪なんだ。お前ら7人、共犯だよ。
 わかるかい。」
洋子は悲しげに言った。

「はい、今分かりました。すいませんでした。」7人は言った。
子分達は、そんな認識もなかったのか、罪の重さを知らされ、号泣を始めた。

「あたしには、もう謝らなくてもいいよ。
 警察に行って、刑に服しなさい。」
洋子は、言った。


〔事態の収拾〕

洋子は言った。
「これから、警察に行って、自首しなさい。
 ま、その前に校長に話して、親に言うことになるかな。
 さあ、校長室へ行きなさい。
 あたしは、もう警察に届けてあるから、
 ぼやぼやしてると、警察の方から先に来るよ。」
 
7人は、校長室に飛んで行った。
群集はざわざわと話しながら、拡散し始めた。

洋子は、しばらくたたずみ、袖で涙を拭いた。

群集の中から一人走って来る。
「五島君。」洋子は言った。
彼は涙で、顔をぐしゃぐしゃにしていた。
五島は、洋子の肩に両手をあて、
「よかった。よかった。よかった。」
とうつむきながらくり返した。

洋子は肩にある五島の手を降ろし、両手でにぎった。
「五島君。あたし、おととい失った記憶がもどったんだ。
 私が死のうと思ってた夜、五島君、あたしに電話くれた。
 電話の向こうで、五島君が泣いてるのがわかった。
 五島君は言った。『何にもできなくてごめん。でも、君の味方だ。』って。」

洋子の目から涙がいっぱいあふれて来た。
「あたしね、ビルの5階から飛び降りるつもりだった。
 でも、五島君の電話のおかげで、3階から飛び降りたの。
 五島君の声を聞いて、心のどこかで、生きたいと思ったんだと思う。

 それで、助かったの。だから、五島君は、あたしの命の恩人だよ。
 どうも、ありがとう。」
「お、俺はそんな。でも、俺のあんな電話でも、意味があったってこと?」
「大ありだよ。誰も、メールすらしてくれなかったんだもの。
 五島君の生の声は、胸に届いた。うれしかった。」
五島と洋子は、互いに少し微笑み、涙を拭いた。



教室にもどると、洋子に校長室への呼び出しがかかった。
洋子が呼ばれ立ち合った。
校長室には、副校長、教務主任、生活指導主任で担任の藤崎の4人がいた。
神崎と美優は、洋子がノートに書いていたことをほぼ正直に伝えた。
余程、洋子が恐かったのだろう。
洋子は、B5のノートの内容をすべて暗記していた。
それでなくても、失った記憶がすべて戻っていた。

校長は洋子に、この件は学校内で、内内に済ませたいがどうか、と言ってきた。
それを聞いた、担任であり生活指導の藤崎は怒り狂い、机を叩いて立ち上がった。
「校長!何をおっしゃてるんですか。
 この7人がやったのは、強姦ですよ。内容的には、殺人に近い重罪だ。
 恐喝もし、傷害もし、さらにその数倍も罪の思い強姦罪ですよ。
 おそらくですが、主犯の2人は少年院送り、または、自立支援施設行きです。
 あとの5人も共犯ですから、似たような処分だ。
 内内に済ませるレベルを遥かに越えているでしょう。」

「藤崎君、わかった。わかった。君の言う通りだ。内内にすますなんて、とんでもないことだった。」
校長は、あわてて発言を撤回した。

聞いていた神埼と美優は、少年院送りと聞いて震え上がった。
神崎は、度胸の座ったワルなんかではなかった。
たまたま運動と勉強ができ、親が金持ちだということで、
親分格にのし上がった気の小さい男だった。

美優は、それをそっくり小者にしたようなお嬢様であった。
それが、「少年院送り」と聞き、自分の行く末を思って、神崎は子供のように泣き始めた。
その横で、美優はうずくまるようにして泣いた。
子分の5人は号泣の果て、あまりのショックで、茫然自失となっていた。

洋子は、すぐに警察に行かないと、警察の方から、今にも学校に来る。
自首して少しでも刑を軽くしたいなら、急ぐべきだと言った。

藤崎も言った。
「校長、学校にパトカーが5台きたら、マスコミも来ますよ。
 7人がどれだけ悪くとも、パトカーで連行されるところを全校生徒に見せるつもりですか。
 教育委員会にお伺いを立ててる時間はないですからね。」

校長は、まさに、教育委員会へお伺いを立てようと思っていたのだった。

学校長は、あわてた。手分けをして、保護者を呼んだ。
警察に連行されるかもしれないと聞いて、保護者達は血相を変えて、学校に駆けつけた。
校長は、保護者に話をすべて聞かせた。

神崎の父親は、怒り狂い、持っていた鞄で泣きながら、息子を何度も叩いた。
美優の母親は、美優の頬を何度も叩き泣きわめいた。
子分5人の母親も泣き崩れていた。
そして、保護者達は、
洋子と母の美佐江に、床に手をついて何度も謝った。
しかし、母美佐江も洋子も到底許せるものではなかった。

その後、警察まで、関係の先生と7人は、歩いて行った。
自首をするのに、タクシーでえらそうに行くわけにはいかない。
洋子と母美佐子だけはタクシーが手配された。



警察からの帰り道、洋子は、母と二人だけで、手をつなぎ、歩いて帰ることにした。
美佐子が言った。
「ほんとに警察に届けたの。」
「昨日ね。洋子のノートに証拠物件と上申書をつけて届けた。
 洋子はね、強姦されたとき、帰ってきて、そのショーツをビニールに入れて、
 大切にもっていたの。DNA鑑定で、神崎の有罪を立証できる。
 それにね、ATMで引き出したときの明細も、洋子は、
 全部ノートに貼ってあったの。日付と日記の内容が合うでしょう。
 そういう物的証拠があったから、警察もわかってくれた。
 洋子は、ただ弱い子であったんじゃない。
 洋子は、自分で考えて、戦う準備をちゃんとしてたの。
 賢くて、強い子だよ。」
洋子は言った。

「そうだったの。母さんの方が、ずっと弱虫だったね。
 洋子が、されたことの記憶を失っていて、耐え難いことを
 思い出さなければ、それでいいと思ってたの。」美佐子は言った。

「母さん。あたしは、被害にあったことを恥ずかしいなんて思ってない。
 罪であり、恥であるのは、加害のヤツラでしょう。
 あたしは、これからも、胸を張って生きていけるよ。」洋子は言った。

美佐子は涙を流した。
「洋子。今の洋子は、洋子だけじゃないね。」母は言った。
「うん、そう。でも、洋子は全部ここにいるよ。」
と洋子は、胸を叩いた。
「わかったわ。洋子に不思議な力が備わったんだね。」
「うん。でも、一応解決したから、その力はなくなっちゃうかもしれない。
 でも、洋子は、起こったことを全部見た。
 だから、学校に行けなかった洋子は、もういないよ。
 明るくて、元気な洋子になる。」
洋子は言った。
「そうなの。きっと父さんが味方してくれたんだね。」
「うん。きっとそうだよ。だから、もしピンチになったら、
 いつでも、スーパー洋子にしてくれる。」
洋子は笑顔を見せた。

「ほら、夕日が綺麗だよ。」美佐子は言った。
「ほんとだ。」
二人は立ち止まり、夕日を見て、また歩きだした。
「そうだ母さん。あたし、彼ができたかもよ。」
「え、もう?早いわね。」
「あたしの命の恩人。」
「ええ?どういうこと?」

二人の会話が、遠く空にこだましていた。





■次回予告■

新作がなかなかできません。
また、何か、再投稿すると思います。
読んでくださると、うれしいです。

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再投稿・スーパー洋子①「アタシをいじめるのは誰だ!」

「アクセス不可」になり、15:40 に再投稿しました。

再投稿します。これは、スーパー洋子の第2話にあたる、
2番目に古いものです。私にとって思い出の作品です。
全4話からなりますが、合体し、2回に分けて投稿します。
読んでくださると、うれしいです。

==========================

「アタシをいじめるのは誰だ!」

洋次は、温かい家族のいる家に帰って来た。
洋次の父は5年前に他界した。
上に弘子、下に美佐、玲の2人の妹がいた。

「ただいま!」と声をかけて入った。
「どうしたの?ちょっと元気ないわ。」
と母の美佐江が言う。
「うん、ちょっといろいろあってね。」
「いやなこと?」
「いや、いいこと。いいこともけっこう疲れるんだよ。」
食卓は、もう出来かかっていた。
「食事の前に、風呂入っていいかな。」と洋次は言った。
「早くね。」と母。

洋次は、風呂の前に、トイレに入った。
お腹の調子が少し変だった。
トイレから出て、風呂場の着替え場に来て、ドキンとした。
「あ、また、女になってる。」
こんな家庭のトイレでも変身してしまうのか。
しかし、この変身は何か意味がある。そう思った。

自分を見ると、すでにパジャマに着替えている。
ピンクに赤いハートがたくさん描かれたパジャマ。
純女物。
そして、手に着替えの下着を持っていた。
待てよ、これから裸になるのか?
いいのかな?洋子の女の体見ちゃって。
いけない気がする。
できるだけ見ないで入ろう。

洋次は、上を見ながら、パジャマを脱ぎ、
ブラをはずし、
ショー・ツを脱いで、中に入った。
体を見ないようにして、体を洗い、湯船に入った。
ちょっと肢が見えた。長い綺麗な脚だ。
そうだ、顔くらい見ておかなくちゃ。
湯船から体を伸ばして鏡を見た。
高校生くらいになっている。

出版者での洋子と違う。
美人だ。スタイルもよさそうだ。             
ああ、肩までの髪をぬらしてしまってる。
あがったら、肩にタオルを置かなくちゃ。

体にバスタオルを巻いて外に出た。
胸の膨らみでバスタオルが下に落ちない。
(男でそっとやってみたときは、落ちた。)
ああ、感激。
超ミニのように見えるバスタオル・ワンピースから、
色っぽい長い脚が出ている。
洋次は、思わず興・奮してしまった。
ああ、これ、身が持つかなあ…と洋次は思った。
会社で洋子になったときは、
こんなエッ・チなこと思いもしなかったのに。

洋次は、下着とパジャマを着て、食卓に付いた。
みんな、そろっていた。

洋子は、会社で大手柄を立てたので、
「今日はどうだった?」
と誰かに聞いて欲しかった。
しかし、誰も聞いてくれない。
『なんか変だぞ。』と洋次は思った。

しかし、なんとなく明るい会話が続いて、食べ終わり、
食器を片付けた。
母の美佐子が、食器洗いをしようとしたので、
「母さん、あたしがやる。」
と洋次から、自然と洋子の声が出た。
母は一瞬とまどったようだ。
いつもの洋子はそんなことやらないのだろうか。
『しかし、この洋子はやるんだ。』洋次はそう思って食器を洗った。

洗いものが終わって自分の部屋に入った。
「うわあ~。」と洋次は思った。
典型的な女の子部屋。
流行りの女の子のグループ歌手のポスターはいいけれど、
あのアジアの青年のポスターを見て、あれあれと思った。
全然興味なし。
はずすと、洋子が怒るだろうな、と思った。
まあいいか。

時刻は9時。
明日の勉強をしなければ。
そう思い、だんだん洋次は気が付いてきた。
自分は、会社員ではない。
高校生だ。
机に教科書やノートが並んでいる。
かばんを見るとからっぽ。
机に携帯がある。
可愛いストラップがたくさん付いている。
やっぱり女の子なんだなあと思った。

ああ、疲れた。今日はもう寝るかと、ベッドに横になった。
布団を被って、明かりを消した。



すがすがしい11月の朝だ。
洋子ぱっと起きて、朝の体操をした。
髪を、左右ゴムでまとめた。
セーラー服を着た。
(高校でもセーラーなのかと思った。)
携帯で曜日を確かめ、時間割をそろえる。
朝食に下に下りて行く。

「おはよう!」と元気よくみんなに挨拶をした。
すると、みんなが、驚いたように自分を見る。
「洋子、お前…。」と母が用意の手を止めた。
「みんな、どうしたの。」洋子は聞いた。
「だって、おねえちゃん、学校行くの?」と末の玲が行った。
「行くと変なの?」洋子は言った。
「いいよ、いいよ、なんでもない。ね、みんな、なんでもないよね。」
姉の弘子がそう言うと、みんなは、うんうん、なんでもないと作り笑顔で言った。

母が、小さな声で姉の弘子に言った。
「弘子、どうしよう。お弁当足りない。」
「あたし、どうにでもなるから、回して。」弘子は言った。

『そうか…。そんだったんだ…。』
洋次は悟った。
『洋子は、不登校の子だ。だから、自分は今洋子になっている。なるほど。』
理由がなければ、変身はしない。
何があるのかは知らない。
洋次は、洋子のために立ち上がろうと決意した。
昨日までの自分とはちがう。
きっと敵がいる。そいつらをやっつける。
洋次に闘志がむらむらと沸きあがった。

======================第1話はここまで==

母から、お弁当をもらい、それをかばんに入れて、
洋子は元気よく学校へ向かった。
体に闘志がみなぎっている。

しかし、不思議だ。
洋子の心に、嫌なことをされた記憶がない。
記憶があれば、洋次はわかるはずだ。
よほどのことをされたのだ。だから、その間の記憶を失った。
可哀相に洋子、一体誰に何をされたのだ。



一本松を曲がると、広い田園地帯に出る。
そこを通る一本のアスファルト道路を突ききれば、学校がある。
道は、500mくらいか。
洋子は無性に走りたくなって、カバンを小脇に抱えた。
そして、ええええええい・・・と気合を入れて走った。
速い。信じられないくらい速い。
景色がどんどん後ろに流れ、やがて景色が線状に見えた。
はあ~、と息をつくと学校の前に来ていた。
500mを一息だ。すごい。多分、10秒足らずで走ってきた。

「おはよう!」
「おはよう!」
と洋子は、会う生徒、男女関係なしに挨拶をした。
みんな、何かとまどっている。
挨拶を返す生徒が一人もいない。
「おう、近藤、おはよう!」
と同じクラスの近藤に、男の子のように肩をぽんと叩いて、挨拶した。
「おーい。松井、しけた面してんじゃねーよ。おはよう!」
洋子は言った。
だれも、返事すらしない。とくに女子は完全にしかとだ。
『女子にボスがいる。その裏に男のボスがいる。』
洋子はそうにらんだ。
『こりゃー楽しみだ。まず、男子からいびってみよう。』

洋子は、前を歩いている秀才で眼鏡の五島に後ろから、ニードロップをかけた。
「五島、おはよう。何とか言え!」
洋子は言った。
「だれだ?まさか倉田か?」ニードロップをかけられたまま五島は言った。
「そうよ。返事返したのは、あんただけだ。他の連中はどうしったってのよ。」
「君と話すとボコボコにされる。だが、倉田。学校来れるようになったのか。」
「そうだよ。」
「そうか、よかったなあ。」
五島の言葉に心がこもっていて、洋子は感じ入り、ニードロップの手を緩めた。
「ごめん。これ以上話すとやられる。」
五島は、洋子の腕を振りほどき、走っていった。

昇降口に入り、靴箱を見ると、すでに自分の靴がない。
洋子は、靴を脱ぎ、それを手に持って、ソックスのまま校舎に入って行った。
そして、2年B組に入った。
自分の席がわからない。

仕方なく、洋子は担任が来るまで、後ろの黒板にもたれ、待った。

担任の藤崎は、体育会系。洋子を見るとうれしそうな顔をして、
「倉田。来たか。よし。」と言った。
「先生、あたしの机がありません。」
と洋子は言った。
「そこの開いている席だ。」
洋子は、教室に入ったときに、一目で、すべての机椅子をチェックしていた。
「先生。その机にひどい落書きがあります。彫刻刀で「死ね」と彫った字もあります。
 椅子も同じです。先生は、あたしがどうせ来ないと思って放って置いたんですか。」
担任の藤崎は、あわてて机と椅子を調べに来た。

「倉田、すまん。これは俺の怠慢だ。許してくれ。点検を怠った。
 倉田がいつ来てもいいようにするべきだったのにな。
 勇気出して学校来て、こんな机が待ってるようじゃ、たまらんよな。」

藤崎はひどく反省し、急いで2、3人の生徒を連れて、新しい机と椅子を持ってきた。
洋子は藤崎に悪い感情を抱かなかった。



その日の2時間目の20分休みの後、五島がぼこぼこに殴られて、教室に来た。
洋子は飛んで行った。
「五島。あたしとしゃべったからか。そうだな。そうなんだな。許せん。」
洋子は、クラスにいた女子を一人ずつにらんだ。
目をそむける人間があやしい。
5人、ぶーたれて、横を向いていた。コイツらが子分か。

同時に、さも自然に何事もなかったようにしているのが一人。
多分、コイツが女ボスだと思った。
金子美優。美貌で頭もいいヤツだ。
しかし、洋子は、いじめられた記憶を喪失している。

アタックしようか、蜘蛛のように網を張って待っていようかと思った。

すると、昼食の時間、母が作ってくれた弁当を食べていると、子分達が自らやって来た。
(わかりやすいヤツラだ。自分達からのこのこと。)洋子は思った。
「洋子、よかったね、学校来れて。」とA。
「あたしたちが、また楽しい学校生活にしてあげるね。」B。
「それが、ずっとつづくといいね。」C。
その間、DとEが、洋子の後ろに回り、洋子の椅子を引こうとしている。
机ごと、弁当をひっくり返す気だ。

洋子は、母からの大事なご飯だったが、10粒だけ無駄にさせてもらった。
洋子は、目にも止まらない速さで、ご飯を一粒ずつ、5人の鼻の奥深くまで、
爪ではじき飛ばした。
5人は、はっとしたが、何があったかわからず、クシャミを始めた。
何度でもクシャミが出てくる。もう、止まらない。
保健室に逃げ出して行った。

(まあ、このくらいで、いいか。)
そう思って、洋子は、それ以上は何もせず、その日は家に帰った。



夕食が、何事もなく、明るい話題に包まれて終わった。
洋子は、今日も食器を洗い、自分の部屋に行った。
洋子は探した。
何か日記のようなものがあるはずである。
案の定あった。
サイドの引き出しの一番下に、B5サイズの日記があった。
そこには、いじめられた内容が、面々と綴られていた。
日付、時間、した奴の名前が、正確に記入されていた。

洋子は、いじめの果てに、強姦されていた。
そして、その夜にマンションの3階から飛び降りて自殺を図った。
未遂に終わったが、そのときにいじめられた記憶を失った。
ノートの最後には、死のうとする前の、家族への言葉が一人ずつに
綴られていた。

洋子はさめざめと泣いた。
同時に、失った記憶が戻ってきた。
心は怒りに狂った。
金子美優の名前はなかった。
アイツは、陰に隠れて絶対出てこない。
さあ、どうやって、白状させるか。
洋子は、怒りに燃える胸を沈めながら、思案に暮れて眠りに堕ちた。



次の日、子分の5人は嫌がらせには来なかった。
おまけに、洋子と目を合わさないように、こそこそとしていた。
その日、洋子は学校では、何もせず、帰宅して、警察への「上申書」を仕上げた。
それがないと、警察はなかなか動かない。
洋子は、その上申書と、洋子のノートと、もう一つ見つけた洋子の強力な証拠物件をもって、警察に行った。その証拠物件とは、洋子が犯された後にも履いたショーツだった。
それは、ビニールに入れて、机の奥に隠されていた。

刑事に会い、洋子に起こった事の全てを、話した。
刑事は、そのショーツがあれば、DNA鑑定で、犯人を特定でき、早い段階で逮捕状を出せるだろうと言った。
刑事は、もう一つ、
「どうして、もっと早く警察にこなかったの。」と聞いた。
「自殺をしたときに、恐かった期間の記憶を失っていました。」と洋子は言った。
刑事は納得した。



次の日、洋子は、少し早めに学校に来て、校門のところで、金子美優を待った。


つづく(次回は、「洋子、美優を落とす」です。)

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再投稿・スーパー洋子第2作目①「私をいじめるのは誰だ」

再投稿します。これは、スーパー洋子の第2作目にあたる、
古いものです。私にとって思い出の作品です。
全4話からなりますが、合体し、2回に分けて投稿します。
長いのですが、読んでくださると、うれしいです。

==========================

「アタシをいじめるのは誰だ!」

洋次は、温かい家族のいる家に帰って来た。
洋次の父は5年前に他界した。
上に弘子、下に美佐、玲の2人の妹がいた。

「ただいま!」と声をかけて入った。
「どうしたの?ちょっと元気ないわ。」
と母の美佐江が言う。
「うん、ちょっといろいろあってね。」
「いやなこと?」
「いや、いいこと。いいこともけっこう疲れるんだよ。」
食卓は、もう出来かかっていた。
「食事の前に、風呂入っていいかな。」と洋次は言った。
「早くね。」と母。

洋次は、風呂の前に、トイレに入った。
お腹の調子が少し変だった。
トイレから出て、風呂場の着替え場に来て、ドキンとした。
「あ、また、女になってる。」
こんな家庭のトイレでも変身してしまうのか。
しかし、この変身は何か意味がある。そう思った。

自分を見ると、すでにパジャマに着替えている。
ピンクに赤いハートがたくさん描かれたパジャマ。
純女物。
そして、手に着替えの下着を持っていた。
待てよ、これから裸になるのか?
いいのかな?洋子の女の体見ちゃって。
いけない気がする。
できるだけ見ないで入ろう。

洋次は、上を見ながら、パジャマを脱ぎ、
ブラをはずし、
ショー・ツを脱いで、中に入った。
体を見ないようにして、体を洗い、湯船に入った。
ちょっと肢が見えた。長い綺麗な脚だ。
そうだ、顔くらい見ておかなくちゃ。
湯船から体を伸ばして鏡を見た。
高校生くらいになっている。
可愛い。スタイルもよさそうだ。             
けっこういい女だ。うれしいな。
ああ、肩までの髪をぬらしてしまってる。
あがったら、肩にタオルを置かなくちゃ。

体にバスタオルを巻いて外に出た。
胸の膨らみでバスタオルが下に落ちない。
(男でそっとやってみたときは、落ちた。)
ああ、感激。
超ミニのように見えるバスタオル・ワンピースから、
色っぽい長い脚が出ている。
洋次は、思わず興・奮してしまった。
あ、そうか。女の子が興・奮すると、
あそこが、大きくなるわけではない。
代わりに、じゅわんとある液体が分泌されるのだ。
ああ、これ、身が持つかなあ…と洋次は思った。
会社で洋子になったときは、
こんなエッ・チなこと思いもしなかったのに。

洋次はその「じゅわん」をタオルで拭き、
下着とパジャマを着て、食卓に付いた。
みんな、そろっていた。

洋子は、会社で大手柄を立てたので、
「今日はどうだった?」
と誰かに聞いて欲しかった。
しかし、誰も聞いてくれない。
『なんか変だぞ。』と洋次は思った。

しかし、なんとなく明るい会話が続いて、食べ終わり、
食器を片付けた。
母の美佐子が、食器洗いをしようとしたので、
「母さん、あたしがやる。」
と洋次から、自然と洋子の声が出た。
母は一瞬とまどったようだ。
いつもの洋子はそんなことやらないのだろうか。
『しかし、この洋子はやるんだ。』洋次はそう思って食器を洗った。

洗いものが終わって自分の部屋に入った。
「うわあ~。」と洋次は思った。
典型的な女の子部屋。
流行りの女の子のグループ歌手のポスターはいいけれど、
あのアジアの青年のポスターを見て、あれあれと思った。
全然興味なし。
はずすと、洋子が怒るだろうな、と思った。
まあいいか。

時刻は9時。
明日の勉強をしなければ。
そう思い、だんだん洋次は気が付いてきた。
自分は、会社員ではない。
高校生だ。
机に教科書やノートが並んでいる。
かばんを見るとからっぽ。
机に携帯がある。
可愛いストラップがたくさん付いている。
やっぱり女の子なんだなあと思った。

ああ、疲れた。今日はもう寝るかと、ベッドに横になった。
布団を被って、明かりを消した。

はたと思った。
体は女の子なのに、意識は洋次で男だ。
会社では、意識も女の洋子になっていた。
これは、神様のくれた意識の時間的ズレだろうか。
洋子の意識が、まだ完全にやって来ていない。
『今、洋子を触るのは自由だ。』
そう気が付くと、洋次は眠れなくなった。

洋次は、とうとう布団を脇に置いた。
ちょっとだけ、洋子ごめん。
そう心で言って、洋次は胸に手を当てた。
柔らかいお饅頭のようなち・ぶさ。
ああ、いいなあ…そっともんでみた。
『ああ…。』という可愛い声を洋次は心の中に聞いた。
洋子の声だ。
洋子、いいんだね。洋子も気持ちいいんだね。
洋次はそう心に言って、胸を大胆にもみ始めた。
『あ…、い・や・~ん、あ・ア、いや・ア・ア。』
洋子が気持ちがいいと言っている。
洋次は胸のトップをもんでみた。
『あ………。』と声。
洋次の下・半身が、じゅわ、じゅわっとぬれてきたみたいだ。
洋次は、先・端をくり・くりともみ、ときどき爪を立てた。
『あ…、あ…、いい、あ……ん。』と洋子の声が激しくなっていく。

洋次はとうとうたまらなくなり、下半・身に手を伸ばした。
そこは、驚くほどうる・んでいた。
中指を、そっとあて、次第にこす・るようにしていった。
「あ、ア、あ、ア、あ。」と洋子があえぐ。
たまらない快・感が洋次にも襲ってくる。
ああ、すごい、女の子ってすごい。
洋次は、我を忘れた。
激しく指をうごかし、体をふる・わせ、
もっと激しくうごかした。
信じられないくらいのかい・感に包まれ、
「あ………あ。」と心の声をあげながら、
洋次と洋子は一体となって、陶・酔の高みまで上昇した。



すがすがしい11月の朝だ。
洋子ぱっと起きて、朝の体操をした。
髪を、左右ゴムでまとめた。
セーラー服を着た。
(高校でもセーラーなのかと思った。)
携帯で曜日を確かめ、時間割をそろえる。
朝食に下に下りて行く。

「おはよう!」と元気よくみんなに挨拶をした。
すると、みんなが、驚いたように自分を見る。
「洋子、お前…。」と母が用意の手を止めた。
「みんな、どうしたの。」洋子は聞いた。
「だって、おねえちゃん、学校行くの?」と末の玲が行った。
「行くと変なの?」洋子は言った。
「いいよ、いいよ、なんでもない。ね、みんな、なんでもないよね。」
姉の弘子がそう言うと、みんなは、うんうん、なんでもないと作り笑顔で言った。

母が、小さな声で姉の弘子に言った。
「弘子、どうしよう。お弁当足りない。」
「あたし、どうにでもなるから、回して。」弘子は言った。

『そうか…。そんだったんだ…。』
洋次は悟った。
『洋子は、不登校の子だ。だから、自分は今洋子になっている。なるほど。』
理由がなければ、変身はしない。
何があるのかは知らない。
洋次は、洋子のために立ち上がろうと決意した。
昨日までの自分とはちがう。
きっと敵がいる。そいつらをやっつける。
洋次に闘志がむらむらと沸きあがった。

======================第1話はここまで==

母から、お弁当をもらい、それをかばんに入れて、
洋子は元気よく学校へ向かった。
体に闘志がみなぎっている。

しかし、不思議だ。
洋子の心に、嫌なことをされた記憶がない。
記憶があれば、洋次はわかるはずだ。
よほどのことをされたのだ。だから、その間の記憶を失った。
可哀相に洋子、一体誰に何をされたのだ。



一本松を曲がると、広い田園地帯に出る。
そこを通る一本のアスファルト道路を突ききれば、学校がある。
道は、500mくらいか。
洋子は無性に走りたくなって、カバンを小脇に抱えた。
そして、ええええええい・・・と気合を入れて走った。
速い。信じられないくらい速い。
景色がどんどん後ろに流れ、やがて景色が線状に見えた。
はあ~、と息をつくと学校の前に来ていた。
500mを一息だ。すごい。多分、10秒足らずで走ってきた。

「おはよう!」
「おはよう!」
と洋子は、会う生徒、男女関係なしに挨拶をした。
みんな、何かとまどっている。
挨拶を返す生徒が一人もいない。
「おう、近藤、おはよう!」
と同じクラスの近藤に、男の子のように肩をぽんと叩いて、挨拶した。
「おーい。松井、しけた面してんじゃねーよ。おはよう!」
洋子は言った。
だれも、返事すらしない。とくに女子は完全にしかとだ。
『女子にボスがいる。その裏に男のボスがいる。』
洋子はそうにらんだ。
『こりゃー楽しみだ。まず、男子からいびってみよう。』

洋子は、前を歩いている秀才で眼鏡の五島に後ろから、ニードロップをかけた。
「五島、おはよう。何とか言え!」
洋子は言った。
「だれだ?まさか倉田か?」ニードロップをかけられたまま五島は言った。
「そうよ。返事返したのは、あんただけだ。他の連中はどうしったってのよ。」
「君と話すとボコボコにされる。だが、倉田。学校来れるようになったのか。」
「そうだよ。」
「そうか、よかったなあ。」
五島の言葉に心がこもっていて、洋子は感じ入り、ニードロップの手を緩めた。
「ごめん。これ以上話すとやられる。」
五島は、洋子の腕を振りほどき、走っていった。

昇降口に入り、靴箱を見ると、すでに自分の靴がない。
洋子は、靴を脱ぎ、それを手に持って、ソックスのまま校舎に入って行った。
そして、2年B組に入った。
自分の席がわからない。

仕方なく、洋子は担任が来るまで、後ろの黒板にもたれ、待った。

担任の藤崎は、体育会系。洋子を見るとうれしそうな顔をして、
「倉田。来たか。よし。」と言った。
「先生、あたしの机がありません。」
と洋子は言った。
「そこの開いている席だ。」
洋子は、教室に入ったときに、一目で、すべての机椅子をチェックしていた。
「先生。その机にひどい落書きがあります。彫刻刀で「死ね」と彫った字もあります。
 椅子も同じです。先生は、あたしがどうせ来ないと思って放って置いたんですか。」
担任の藤崎は、あわてて机と椅子を調べに来た。

「倉田、すまん。これは俺の怠慢だ。許してくれ。点検を怠った。
 倉田がいつ来てもいいようにするべきだったのにな。
 勇気出して学校来て、こんな机が待ってるようじゃ、たまらんよな。」

藤崎はひどく反省し、急いで2、3人の生徒を連れて、新しい机と椅子を持ってきた。
洋子は藤崎に悪い感情を抱かなかった。



その日の2時間目の20分休みの後、五島がぼこぼこに殴られて、教室に来た。
洋子は飛んで行った。
「五島。あたしとしゃべったからか。そうだな。そうなんだな。許せん。」
洋子は、クラスにいた女子を一人ずつにらんだ。
目をそむける人間があやしい。
5人、ぶーたれて、横を向いていた。コイツらが子分か。

同時に、さも自然に何事もなかったようにしているのが一人。
多分、コイツが女ボスだと思った。
金子美優。美貌で頭もいいヤツだ。
しかし、洋子は、いじめられた記憶を喪失している。

アタックしようか、蜘蛛のように網を張って待っていようかと思った。

すると、昼食の時間、母が作ってくれた弁当を食べていると、子分達が自らやって来た。
(わかりやすいヤツラだ。自分達からのこのこと。)洋子は思った。
「洋子、よかったね、学校来れて。」とA。
「あたしたちが、また楽しい学校生活にしてあげるね。」B。
「それが、ずっとつづくといいね。」C。
その間、DとEが、洋子の後ろに回り、洋子の椅子を引こうとしている。
机ごと、弁当をひっくり返す気だ。

洋子は、母からの大事なご飯だったが、10粒だけ無駄にさせてもらった。
洋子は、目にも止まらない速さで、ご飯を一粒ずつ、5人の鼻の奥深くまで、
爪ではじき飛ばした。
5人は、はっとしたが、何があったかわからず、クシャミを始めた。
何度でもクシャミが出てくる。もう、止まらない。
保健室に逃げ出して行った。

(まあ、このくらいで、いいか。)
そう思って、洋子は、それ以上は何もせず、その日は家に帰った。



夕食が、何事もなく、明るい話題に包まれて終わった。
洋子は、今日も食器を洗い、自分の部屋に行った。
洋子は探した。
何か日記のようなものがあるはずである。
案の定あった。
サイドの引き出しの一番下に、B5サイズの日記があった。
そこには、いじめられた内容が、面々と綴られていた。
日付、時間、した奴の名前が、正確に記入されていた。

洋子は、いじめの果てに、強姦されていた。
そして、その夜にマンションの3階から飛び降りて自殺を図った。
未遂に終わったが、そのときにいじめられた記憶を失った。
ノートの最後には、死のうとする前の、家族への言葉が一人ずつに
綴られていた。

洋子はさめざめと泣いた。
同時に、失った記憶が戻ってきた。
心は怒りに狂った。
金子美優の名前はなかった。
アイツは、陰に隠れて絶対出てこない。
さあ、どうやって、白状させるか。
洋子は、怒りに燃える胸を沈めながら、思案に暮れて眠りに堕ちた。



次の日、子分の5人は嫌がらせには来なかった。
おまけに、洋子と目を合わさないように、こそこそとしていた。
その日、洋子は学校では、何もせず、帰宅して、警察への「上申書」を仕上げた。
それがないと、警察はなかなか動かない。
洋子は、その上申書と、洋子のノートと、もう一つ見つけた洋子の強力な証拠物件をもって、警察に行った。その証拠物件とは、洋子が犯された後にも履いたショーツだった。
それは、ビニールに入れて、机の奥に隠されていた。

刑事に会い、洋子に起こった事の全てを、話した。
刑事は、そのショーツがあれば、DNA鑑定で、犯人を特定でき、早い段階で逮捕状を出せるだろうと言った。
刑事は、もう一つ、
「どうして、もっと早く警察にこなかったの。」と聞いた。
「自殺をしたときに、恐かった期間の記憶を失っていました。」と洋子は言った。
刑事は納得した。



次の日、洋子は、少し早めに学校に来て、校門のところで、金子美優を待った。


つづく(次回は、後編・完結編です。)

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受験生・大村亮太④「全国高校生クイズ大会」最終回

今回は、短めに終わります。一度書いたことのある「全国高校クイズ大会です」。
全部は書けませんので、最終の5点問題だけ書きます。
読んでくださると、うれしいです。

==============================

7月の22日。
夏休みに入ったばかりの日。
亮太は、「全国高校生クイズ大会」の学校代表に選ばれ、
出場することになった。

こういうのは、大勢で見たほうがいいと言うことで、
亮太の大村家に人が集まった。
まず、加奈が来た。
そして、加奈のつながりで、一昨年出場のミユとリリがきた。
ミユは、T大の医学部、リリは、T大の数学科だった。

亮太が1年生のとき、ミユとリリは3年で家族中で応援した。
そのときの二人が、来てくれたことで、
千佳は、大興奮した。
そして、思いもしない超大物、
加奈の友達であるオーロラが来た。

オーロラがきたとき、一同歓声をあげた。
千佳は、オーロラの美しさに、のぼせ上がってしまっていた。
こうして、一見、全員女性に見えたが、
生まれたときから女性なのは、たった2人だった。

「こんなに大勢で見られるなんて、うれしいわあ。」
と、母の兼子は、賑やかなのが大好きであり幸せそうだった。

お菓子を出したり、飲み物を出したりは、
オーロラと加奈が一手に引き受けた。
千佳が気を使って手伝いに来たが、
「いいから。妹なんだから、応援して。」と加奈は言った。

亮太は、終始落ち着いていて、みんなで見直してしまった。
ひときわ小柄で、ちょこんと座っていたが、天下の開明の代表だった。

クイズは、休憩のあと、最終に入り、
たった3問の5点問題に入った。
最初の1問は、灘川高校が答えた。
ここで、灘川に8点のリードを許してしまった。

残り2つの5点問題を2つとも正解しないといけない。
「わあ、厳しい。一人だとプレッシャーすごいのよね。」と加奈が言った。
「ほんと、よくやってられるなって感じね。」とリリが言った。

5点問題の2問目。

『最近、解放問題でよく聞かれる「LGBTI」とは、何?』

問題を聞いたとき、兼子と千佳以外は、みんな「もらったー!!」
と歓声を上げた。
「これ答えないと、女装子と認めない!」と加奈が言った。

各校、首をかしげている中、やがて、亮太から赤丸があがった。
「はい、開明高校!」と司会者。
亮太は、
「レズビアン、ゲイ、バイ・セクシュアル、トランス・ジェンダー、
 そして、インター・セクシュアルです。」

「よーし!」と司会者の前に、兼子の家は盛り上がった。

司会者が、
「最後のIが、むずかしいだろうとしての5点問題でした。
 Iがなかったら言えたという学校、手を上げて。」
4校から手があがった。

「開明さん、知っていましたか。どうして知っていたんですか。」
と司会者。
亮太は、
「ISのことですよね。漫画17巻全部読みましたし、また、テレビドラマも見ました。
 インター・セクシュアルのことは、多くの方に、
 その理解が広まって欲しいと思っています。」
と言った。

「うん。そう、亮太君、よく言った。」とミユが喜んでいた。

司会。
「いよいよ最終問題です。
 開明さんが答えれば、3点差を超え、優勝。
 だれも、答えられなければ、灘川の優勝。
 なぜか、毎年、この冷や冷やするパターンとなります。
 いつものことですが、最終問題は、正解者が出ることを考えておりません。
 できないに決まっているが、できたらものすごい、という問題です。
 因みに、スタッフ一同全滅でした。
 では、問題は、文学の問題です。どうぞ。

アナ『世の人は、世界の7不思議、世界の3大悲劇などと、何大なになにと
  言ってみることが好きなようです。
  では、問題です。文学上の「世界の3大奇人」とは、だれでしょう。3人答えなさい。」

「まいった。知らない。」とミユが言った。
「わあ~、これ出されてたら、優勝できなかった。」とリリ。
「あたし、全然。お母さん、知ってる?」と千佳。
「全然よ。聞いたこともないわ。」と兼子。
「ねえ、誰か知ってる?」と千佳が聞く。
加奈とオーロラは、キッチンにいて、顔を見合わせ、にっこりしていた。
その他は、しーん。

「お兄ちゃん、知ってるわけない。こんなの誰も知らない。」
と千佳が嘆いたとき、
テレビ画面の亮太に赤丸が上がった。
「うそ、知ってるの?」とみんなが身を乗り出した。

「はい、開明さん。正解なら逆転優勝です!」と司会者。

亮太は、はっきりした声で、
「シェークスピア・『ハムレット』のハムレット。
 (うん、そう、とオーロラと加奈は小さな声でガッツポーズを取った。)
 セルバンテス『ドン・キホーテ』のドン・キホーテ。
 (うん。あと一つ。とオーロラと加奈。)
 もう一つは、

(もう、みんなの心臓は、張り裂けそうだった。)

 もう一つは、
 ドストエフスキー「白痴」のムイシュキン公爵です。」

「やった!」とオーロラと加奈が司会者より早く叫んで、抱き合った。

「正解!開明優勝。不敗伝説は続きます!」
と司会者が叫んだ。

応援団が全校総立ちになった。
紙ふぶきが降りてきた。

司会者が、
「えー、3大奇人にいろいろな説がありますが、
 この3人が、一番一般的であるらしく、それを正解としました。」

司会者が、亮太のところに来た。
「ハムレットとドンキホーテは、分かりそうですが、
 ムイシュキン公爵を、なぜ知っていたんですか。驚きました。」
亮太は、
「はい。文庫本の「白痴」のあとがきに、
 それが、書かれていたと思います。」
と言った。

「うわーー!」と亮太の家は盛り上がった。
「やったね!」千佳と兼子が抱き合った。
「それにしても、亮太君、すごい。
 過去の優勝者、全滅だったのに。」とミユが言った。
「オーロラさんと加奈さん、知ってたみたい。」とリリが言った。
「亮太さんと同じ。文庫本のあとがきに書かれていたの。」とオーロラは言った。
「加奈さんもそう?」とリリ。
「うん。同じ。」と加奈は言った。
「じゃあ、お兄ちゃん、それ読んでたのかなあ。」と千佳は感心した。

「お母さん、今年は1人で、日本1ですよ。ほんとにすごいです。」とミユが言った。
「うれしいです。まだ、胸が収まらない。」と兼子。

加奈は、思った。
『亮子は、お医者さんになる。そして、小説も書ける人。
 やっと、才能を見つけた。』

もうすぐ亮太が帰ってきて、亮太の家では、
今までで、一番賑やかな夜が始まる。

局のタクシーで、家に向かう中、
まさか、家に大勢の人が集まっているとは、
亮太は夢にも思わずにいた。


<おわり>

■次回予告■

新作ができません。
再投稿で、しのぎたいと思います。

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受験生・大村亮太③「母へのカムアウト」

もう少し長く書くつもりが、今度は、短く終わります。
次回、最終回です。読んでくださるとうれしいです。

============================

「お母さん。お客様が来てる。お兄ちゃんの先輩だって。」千佳が言った。

母がやってくる。
そして、母が顔を見せた。
小柄だが、がっちりした人だった。

亮太は、立ち上がった。
加奈も立ち上がった。
母は、亮太を見た。
そして、加奈に目で会釈した後、
「亮太、どうして女の子の格好をしているの。」
と言った。

「お母さん。ぼく、小さい時から、女の子の格好がしたかったの。
 大きくなったらそんな気持ち消えると思ってた。
 でも、消えなかった。これから先も消えないと思う。
 お母さんに内緒で、女の子の格好をしてた。
 でも、秘密にするの嫌だから、今日お母さんに打ち明けようと、
 女の格好でいるの。」

「そう、こちらは。」と兼子は加奈を見た。

加奈が答えた。
「今日、偶然に亮太さんと出会いました。
 加納純と申します。
 つたない推理小説を書いています。
 ペンネームは、加奈と申します。」

それを聞いて、千佳が、はあーと息を吸って、
自分の部屋に飛んで行った。
そして、4冊の本を持ってきた。
「もしかしたら、これをお書きになった加奈さんですか。」
と千佳は言った。
「あ、はい、そうです。」と加奈は言った。
次に驚いたのは、亮太だった。
「加奈さん、本物だったの?」と加奈を見た。
「うん。はっきり言わなくてごめん。」

4冊の本は、母兼子も読んで知っていた。

「私は、開明高校の、亮太さんの4歳上の先輩にあたります。
 女の子の服装をしたいという同じ願望を持っています。
 今日カラオケで出会ったとき、偶然とは思われませんでした。
 そこで、今、こんなふうに付いてきています。」
「じゃあ、加奈さんは、お兄ちゃんと同じ、男性?」と千佳。
「はい。隠しているつもりはないのですが。」

「まあ、座りませんか。せっかくのお料理が冷めますから。」
兼子が言った。
みんな、座って、いただきますをした。

「今日、私にそれを言うのに、亮太は勇気がいったわね。」兼子は言った。
「うん。心臓が飛び出しそうだった。」亮太は言った。
「どうして、言う気になったの。」
「お母さんに秘密をもったまま、受験勉強したくなかったから。
 それと、加奈さんが、言うなら早いほうがいいって、アドバイスをしてくれたの。」
「誰だって、秘密くらいあるのに?」と兼子。
「うん。でも大き過ぎる秘密だから、言ったの。」亮太は言った。

「つりの趣味とか、プラモデルの趣味とはちがうの。」と兼子。
「ちがうと思う。女装するって思われると、変態視されるし、
 キモイなんて言われて、差別されちゃう。」と亮太。
「お兄ちゃん、女の子にしか見えないよ。」と千佳。
「ぼくは、たまたま運がよかっただけ。
 普通はべっ視されると思う。」と亮太。

「それに…。」と加奈は口を濁したが、
「千佳さんの前ですが、女装の趣味は、多くの場合性的興奮を伴います。
 これが、後ろめたさとなります。
 そこが、決定的に一般の趣味とちがうところです。」

加奈はさらに言った。
「今日、亮太さんは、大変な思いで働いているお母さんを思い、
 勉強に集中できるように、女装を止めようと決心しました。
 そして、カラオケのトイレのゴミ箱に、女装の用品を全部捨てようとなさいました。
 それを、私が拾いました。
 そして、やはり捨て切れず、戻ってらした亮太さんに出会いました。

 そして、私は提案しました。
 週日は女装のことを忘れて、日曜日だけ私のマンションに来て、
 好きなだけ女装をしてはどうかと。
 亮太さんは、それにしても、
 お母さんに女装のことだけは打ち明けたいとおっしゃり、
 私が、出しゃばって付いてきた次第です。」

「なるほど。」と兼子は言った。
みんなは、兼子に耳を傾けた。
「女装というのが、特殊な趣味であることは、わかりました。
 また、エスカレートしやすい趣味であることもわかりました。
 でも、人様に迷惑をかけるものでもない。
 だから、ダメだという理由もありません。
 ただ、亮太一人に、好きにさせることは心配です。

 加奈さんは、信頼のおける方とお見受けしました。
 ですから、日曜日、加奈さんのお宅で女装させてくださるなら、
 私も安心です。
 加奈さん、亮太の面倒をお願いしてよろしいでしょうか。」
兼子は、そういった。

「はい。喜んで。」と加奈はいった。
「わあ、お母さん、ありがとう。加奈さん、よろしくお願いします。」
と亮太は言った。
「お兄ちゃん、よかったね。」と千佳が言った。

「おにいちゃん。全国クイズ大会に向けて、
 中間と期末、1番とらないとね。」と千佳が言った。
「え、2人がまた1人になったの?」と加奈。
「そう、去年から、また1人になったんです。」と亮太。
「一人は、大変だよ。」と加奈。
「え?先輩、経験者みたい。」と亮太。
「うん。4年前の出場者だよ。」と加奈。
「で、優勝?」と亮太。
「開明は、番組始まって以来ずっと不敗じゃない。」と加奈。
「わあ!すごい。じゃあ、学年で1番だったの?」と亮太。
「3年間、1番以外とったことないよ。」と加奈。
「わあ~!すごい!」とみんなは、口を揃えて言った。



亮太にとって、待ちに待った日曜日が来た。
待ち合わせの2時に駅に付き、加奈にあった。
加奈のマンションは、3LDKあった。
一つの部屋は、机にパソコンとプリンターがあり、仕事部屋。
後ろの壁は全部本。
リビングは、大きくて、ソファーがあり、
ベッドルームは、やわらかい女性的な色調の部屋だった。
この部屋の1面が全部洋服棚になっていて、
亮太は見たとき、興奮してしまった。

「わあ、加奈さん、セーラー服もある。着たりするの。」と亮太。
「だって、セーラー服は、女装子の永遠の憧れじゃない。」と加奈。
「わあ、高校の制服もある。」
「それも、永遠の憧れでしょう。」
「わあ、コスプレもすごくある。もう興奮しちゃう。」と亮太。

「今日は、どれがいい?」と加奈。
「基本中の基本。セーラーの夏服がいい。」と亮太。
「あたしも、そんな気分だったの。ちゃんと2着ずつあるのよ。」と加奈。



二人は、スカートが膝上のスーカートの夏服のセーラーを来た。
「セーラーだから、亮子には、ストレート・ロングのかつらにするね。」
と加奈は言った。
二人ともノーメイクにし、グロスだけ塗った。

居間のソファーの前で向かい合った。
「ああ、亮子、可愛い。」と加奈。
「お姉様、綺麗。」
二人はそう言いながら、お互いの体を触りあった。
「セッ・クスのことだけは、母に言えなかった。」
「あたしが、性的興奮が伴うって遠まわしに言ったわ。」
「あ、そうか。」
体を触り合っていると、気持ちが高まってくる。
そっと、キ・スをする。
何度も軽くして、そのうち、強く唇を合わせる。
亮子が声を上げる。
強く抱き合う。
「ベッドにいこうか。」と加奈が言う。
加奈が、亮子を連れてベッドに行く。
二人で抱き合って、上になったり下になったりする。

加奈が、亮子のブラウスのボタンをはずす。
白いスリップが現れる。
二人は、スリップ姿になって、重なる。
「ああん、お姉様。好き。抱いて。」
「うん。亮子が好き。」

「毛布の中で、ショーツを取ろう。」と加奈。
「うん。」
二人は、毛布の中で、スリップを取り、
ブラとスリップだけになる。

スリップの中を、お互いにまさぐる。
「ああ、信じられない。お姉様に、あるなんて。」
「いやよ。はずかしいから言わないの。」
二人は、お互いの男の物をこすりあう。

「お姉様、あたし、イきそう。」
「うん、いいよう。しゃぶってあげるね。」
加奈は、亮子のものを、口の中に入れる。

やがて、亮子は、声を上げて、「お姉様。」と何度もくり返し、
身を震わせた。

「今度はあたしね。」
亮子はそう言って、加奈を天国にいざなった。

しばらく二人は抱き合って、何度も口・づけをした。


つづく

■次回予告■

時は、一気に7月となり、「全国高校生クイズ大会です。」
亮太の家に、応援の人が集まります。
亮太は、たった一人で、開明の不敗記録を守れるのでしょうか。
次回、最終回です。

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受験生・大村亮太②「カムアウトの説得」

大波、小波に揺られながら、一生懸命書いています。
読んでくださると、うれしいです。

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「加奈さん、ぼくだめ。我慢できない。」
亮子は、込み上げる欲求に必死に耐えていた。
「亮子、座ろう。」と加奈が言った。
「はい。」と亮子はうなずいて、加奈にくっつくように座った。
「今、苦しいと思ってる?」と加奈が言った。
「はい。気が狂いそう…。」
「わかった。楽にしてあげるね。ショーツをぬいで。」と加奈が言う。
亮子は、今、ショーツを脱いだら、自分のあそこがもろにスカートを持ち上げる、
恥ずかしいなあと思っていた。
しかし、もう我慢できない。
ショーツを取った。

加奈は、何か手に持って、亮子のスカートの中に手を入れた。
そして、あるものを、亮子の熱くなっているものに、かぶせた。
そして、そっと上下運動を始めた。

亮子は、たまらなくなってきて、
「加奈さん。抱きついていい?」と言った。
「いいわよ。」
亮子は、加奈に抱きついた。
夢を見ているような、気持ちよさだった。
誰かにやってもらうのは、初めてだった。

「加奈さん、ぼく、もうだめ。」亮子は言った。
「じゃあ、キ・スしよう。」と加奈が言う。
亮子は、『いいの?』という顔をして、加奈にくちびるを寄せてきた。
加奈は、亮子を抱いて、キ・スをした。
「ああ…。」と亮子は小さく叫んで、体を震わせた。
亮子は果てた。

加奈もそのとき、完全にこうふんしていたが、我慢をした。
加奈は、ティッシュとお手拭で、亮子のあそこをきれいにして、
ショーツを履かせた。



「楽になった?」加奈は聞いた。
「はい。ありがとうございます。」と亮子は言った。

「じゃあ、亮子の困っていることを解決しよう。」と加奈は言った。
「女装のこと考えると、受験勉強ができません。
 ぼく、父がいなくて、母は、ぼくを私立に行かせるために、
 大変な思いをして働いてくれてます。

 食堂の仕事だけど、朝7時から夜の7時まで12時間も働いてる。
 帰って来るのが、7時半。
 それまでに、ぼくは、母の夕食を作っておくの。そして、ビール。
 妹は、お風呂を洗って、母さんが真っ先に入れるようにする。
 洗濯は妹。ぼくが朝干していく。」

「えらい、亮子は、毎食作っているの。」
「はい。ぼく料理上手だから。本で研究してるし。千佳や母さんにおいしいもの食べて欲しい。
 8時までに、家族が食べられるように作るの。」

「お母さんも、よくやってらっしゃるけど、子供達もよくやってる。」加奈は言った。
「だから、ぼくは、勉強しないと申し訳なくて。
 だから、女装のものを全部捨てようと思ったけど、捨てられませんでした。」

「ほかに?」
「女の子の服、もっと欲しいけど、お金もないし、置くところもありません。」
「ほかに?」
「家族に内緒にしていることに、罪悪感を感じています。」
「千佳さんて妹さんがいるのよね。」
「はい、中3です。」
「協力的?」
「千佳は、ぼくの女装知ってる。一度ばれたの。千佳、分かってくれた。」
「ほかに?」
「だいたいそのくらいです。」

「亮子の学校での成績は?」
「1番です。」

「えええ!!開明で1番なの?すごい。」
「ええ、なんとか。」
「開明で1番っていうことは、
 普通にやっているだけで、どの大学にも入れるんじゃない。」
「ぼく、医学部に入りたいんです。狭き門です。」
「そうね。」

『そうか、開明で1番。ただの秀才ではない。』
と加奈は心で思った。



「亮子の願いは、ほとんど叶うわ。」加奈は行った。
「ほんとですか?」亮子は叫んだ。
「あなたとここで会ったことに、運命的なものを感じるの。
 まず、女装はやめられないって思って。
 だから、日曜日だけ、あたしの家に来て、女装するの。」

「いいんですか?」
「いいの。女の子の服は、あたしのを好きに着ていいわ。
 買わずにすむでしょう。置き場所も解決。」
「わあ、すごい。」

「ご家族には、今日言うの。あたしがついて行ってあげる。
 妹さんが理解してくれてるなら、お母さんだけじゃない。」
「ぼくの母さん、肝っ玉母さんなの。怒るとこわい。」

「怒らなければ、やさしい。ちがう?」
「うん。そのとおり。やさしい母です。」

「1日でも早く、カムアウトすれば、それだけ楽になるでしょう。」
「はい。でも、どうしてそんなに、よくしてくださるんですか。」

「あたしも、前にある人にすごくお世話になったの。
 『ペイ・フォーワード』よ。」
「受けた恩を、別の人に返す…ですね。」
「うん。そうなの。それに、あたし、亮子の先輩。」



亮太が加奈と家に着いたのは、7時を過ぎたころだった。
亮太は、完全な女装をしていた。
「お兄ちゃん、お帰り。」
と自分の部屋を飛び出してきた千佳は、
亮太の女装姿と、もう一人いる加奈を見て、はっと次の言葉を飲み込んだ。

「加奈さん、妹の千佳です。」と亮太は言った。
「千佳、ぼくの先輩の加奈さん。」と千佳にも言った。

亮太は、加奈を奥のキッチン・テーブルに案内した。

「お兄ちゃん。どうして女装して帰ってきたの。
 お母さんに見せるの?」と千佳は言った。
「うん。正直に話す。お母さんに隠しているの辛いし。
 加奈さんにそうアドバイスされた。」

「加奈さん、お兄ちゃんの先輩って言ったけど、お兄ちゃん男子校じゃない。」
「あ、私も女装してるの。中身は男子。」加奈は言った。
「わあ、そうですか。すごく綺麗。
 お兄ちゃんも、可愛くなるけど、加奈さんは、お綺麗です。」と千佳は言った。
「あ、いけない。夕食作らなくちゃ。」
と亮太は席を立った。

亮太は、台所をところ狭しと動いて、どんどん品を作っていった。
「亮子、あたしもフライパン振れるよ。」加奈はいった。
「じゃあ、野菜炒めお願いします。」と亮太が言う。
千佳は、テーブルをセッティングした。
加奈を入れて、4人分。

全部お皿が並んだのは、8時5分前だった。
「ああ、間に合った。」と亮太は言った。
「亮子、すごい。びっくりしちゃった。」と加奈。
「お兄ちゃんのは、早いだけじゃなくて、おいしいの。」と千佳が言った。
「うん。匂いでわかる。」と加奈。

そのとき、3人は3様に母兼子(かねこ)の帰ってくるのを、
ドキドキしながら待っていた。
「千佳、母さん帰ってきたら、千佳が出迎えてくれる。」亮太は言った。
「うん、わかった。意味わかる。」と千佳はにっこりした。

やがて、玄関の引き戸がガラガラと開いた。
「ただいまー。」と母の声。
「お帰り。」と千佳が飛んで行った。

亮太の胸の高鳴りは、最高潮に達していた。


つづく

■次回予告■

母へのカムアウト。
加奈の部屋に行った亮太。
加奈は、亮太の才能を見つけようとします。

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受験生・大村亮太①「加奈との出会い」

新作です。行き先の分からぬ航海船のような気分で書いています。
どうか、最後まで、書けますように。

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大村亮太、高校3年の4月。
よく晴れた日曜日の午後。

亮太は、大きな決心をして、学生街を歩いていた。
亮太とすれ違う人は、誰も、亮太が男子だとは思わなかった。
亮太は、女の子としての、可愛い顔をしていた。
髪は肩までのボブヘアー。
背は、160cm。
細身で、スタイルがよかった。

長袖の花柄のワンピースを来て歩いていた。
スカートの丈は膝上。
片手にワンピースには不釣合いな、
大き目のスポーツバッグを提げていた。

亮太は、女装マニアだった。
しかし、今日から、きっぱりと女装をやめようと思っていた。
家族にばれたときのことを思うと怖かった。
また、家族に秘密があることが辛かった。
これから、大学受験を本格的に始める。
女装にふけっているときではない。

今日を最後に、女装をやめるのだ。
そう固い決心でいた。
最後の女装は、一人カラオケで過ごそうと思った。
カラオケには鏡がある。
音楽をかけて、マイクで女の子が歌う真似をして、時間を過ごした。
やがて、自分で決めた、午後4時になった。

『女の子でいるのは、ここまで。』
亮太は泣きたい気持ちで、ワンピースを脱ぎ、
かつらをはずし、男服を着ながら、
女物の下着を脱いだ。

ビニール袋に女装用品のすべてを入れた。
靴が最後だった。
男の靴を履き終わった。

1つ1つ苦労して買った女装の品々だった。
どれにも思い出があった。
死ぬほどの勇気を出して買ったショーツとブラ。
高かったけど、いいかつらが欲しくてお小遣いをはたいた。

男服にもどった亮太は、うっすら涙を浮かべていた。
かつらだけは、持っていようと、何度迷ったか知れない。
でも、それが元で、また女装を始めてしまいそうだ。

亮太は、ビニール袋を持って、
トイレの前に言った。
『男子トイレから、こんなのが出てきたら変かなあ。』
と思った。
しかし、男装で女子トイレに行くわけにはいかない。
亮太は、男子トイレに入って、ゴミ箱にビニール袋をつめた。
涙が出てきた。
大好きな人形を捨てるときのように、
涙が、出てきてしょうがなかった。
亮太は、涙を拭きながら、トイレの外に出た。

加奈は、トイレのそばにいた。
ただならぬ様子で、ビニール袋を持って、青年がトイレに入っていった。
そして、涙を拭きながら出てきて、自分の部屋へ、とぼとぼと歩いて行った。

『彼は、何か大切なものをトイレに捨てて、出てきた。』
加奈は、そう見た。

加奈は、自分が女装しているにもかかわらず、男子トイレの中に入った。
幸い、だれもいなかった。
そして、見つけた。
洗面の下のゴミ箱の中にビニールの袋がある。
取り出してみて、加奈は、それが女装用品だとすぐにわかった。

加奈は、考えた。
小柄で、顔立ちが女の子のように可愛い青年だった。
あの子は今さっきまで、この袋の中のものを身に着けていた。
何かの理由で、女装に決別しようと思い、
身を切られる思いで、品々を捨てた。

悲しい気持ちが痛いほど分かる。
加奈は、そのビニール袋をそっくり取り出した。
ほんとの従業員が来る前に。

加奈は、また考えた。
彼は来る。絶対後悔してまた来る。
苦労して集めたものを捨てられるわけがない。
女装は、簡単にやめられるものじゃない。
例え結婚をしたって。
加奈は、ビニール袋を持って、トイレの前の手すりで、高校生を待った。

やはり、彼は、来た。
泣きはらしていた様子がわかった。
青年はトイレに入った。
そして、呆然とした顔で出てきた。
そして、加奈のいる手すりのさんにもたれ、しゃがんで、
膝小僧に腕を乗せ、泣き出した。

「あなた、これじゃない?」
と加奈は、青年の横にしゃがんで、ビニール袋をみせた。
「ああ、それ。でも、あなたがなぜ?」と亮太は言った。
「あなたの大切なものだと思って、ゴミ箱から取り出してもっていたの。」

「ああ、ありがとうございます。
 ぼく、うれしい。ゴミ箱になかったから、
 もう、処理されたのだと思ったの。」
「わけがありそう。私の部屋に来ない。」
「はい。行きます。」

亮太は、きれいなお姉さんだと思った。
白いプリーツスカートに、ピンクのサマーセーターを着ていた。
小さな真珠のピアスがとてもよく似合っていた。

亮太は、自分の荷物を全部持ってきた。
自分の男バッグと、空のスポーツバッグを。

加奈の部屋に入って、ソファーに並んだ。
「あ、ぼく、亮太っていいます。」
「女の子名前は?」
「あ、考えたことありません。」
「じゃあ、亮子はどう?」
「はい、いいです。うれしいです。」亮太は言った。

「あたしは、加奈。」
「加奈さんって、推理小説家でいますよね。」
「そういう本読むの?」
「ええ、推理小説大好きだから。」
「そう。うれしいな。」と加奈はにっこりした。

「オーロラさんの推理小説にも出てくる。
 ゴールデン街でホステスやっている。
 あの名探偵の加奈さんも、すごくステキです。」
「あたし、その加奈よ。」
「あはは。でも、イメージ似てる。」と亮太は無邪気に笑った。
「ばれたか!」と加奈は笑った。
「それより、あたし、あなたの先輩だわ。」加奈は言った。

「どうしてわかるんですか?」
「亮子のもっている大きなバッグ。
 学校のマークが印刷されてる。開明高校の。
 あたしも開明だから。」
「わあ、そうだったんですか。」
亮太はそのことがうれしくて、ただ喜んでいた。

「亮子、何か気がつかない?」
「…というと?」
「ありえなくない?」と加奈。
「あ、男子校!じゃあ、加奈さんは…。」と亮太。
「やっと気がついたのね。そう、あたしも女装子よ。」と加奈は笑った。

「わあ、感激。加奈さんは、ぼくと同じ。すごく綺麗なのに。」
亮太は加奈を改めて見た。
「うん。だから、あなたがトイレに戻ってくるのが分かってた。
 だって、初めての女装の品を、簡単に捨てられるわけがないもの。」

「そうなんです。捨ててみて、大切な人形を捨てたような気がしました。」
「わかるなあ。あたしも初めの女装の物、ちゃんと持ってるもの。」
「うれしいな。感激です。」
と亮子(以下、亮子)は言った。

「ね、この部屋で、もう一度女の子になって、
 亮子の可愛いところを見せて。後ろ向いてるから。」
加奈は言った。
「はい。5分くらい待ってください。
 ぼく、ノーメイクだから早いです。」

3分もたたないうちに、亮子が、
「OKです。」と言った。
加奈が振り向いてみると、亮子はすばらしく可愛かった。
「ね。ちょっと、メイクしてみようか。」
と、加奈が言った。
「はい。」と言って、亮子は、加奈に顔を向け、目を閉じた。

加奈は、ささっとシャドウをつけ、マスカラをつけ、リップを引いた。
全体にピンク系にした。
最後に、セミロングのボブのかつらに、ブラシを入れた。
「できたわ。すごく可愛い。鏡を見てみて。」
亮子は、立って鏡を見た。

「わあ!」
亮子は、がーんと頭を打たれた感じがした。
メイクをすると、
自分がこんなに可愛らしくなるとは、思わなかった。
「今の亮子を見て、誰も男の子だとは、思わないわ。」
と加奈は言った。

亮子は、思わず、男子のあそこを大きくさせてしまった。
加奈がそっと来て、背中から亮子を抱いた。
加奈からバラのいい香りがして、
亮子は、耐え難くこうふんしてしまった。


つづく

■次回予告■

亮子を天国に誘う加奈。
加奈のアドバイスで、
親へのカムアウトを決意する亮太。

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プロフィール

ラック

Author:ラック
上は若いときの写真です。ISなので、体は、かなり女子に近く発育しました。でも、胸はぺったんこです。戸籍は男子。性自認も男子、そして女装子です。アメリカの大学で2年女として過ごしました。私の最も幸せな2年でした。そのときの自叙伝を書いています。また、創作女装小説を書いています。毎日ネタが浮かばず、四苦八苦しています。ほぼ、毎日更新しています。
どうぞ、お出でください。

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