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専務・高坂由紀夫②「啓子のいきさつ」

第2話で終わるつもりが、もう少し長くなりそうです。
読んでくださるとうれしいです。

=============================

『そうか、仕事の後、あのサロンで働いているのか。
 何か事情があるな。』

由紀夫はそう思った。
田村啓子が、サロンの仕事着に着替える時間を計算に入れ、
サロンに入って行った。
ドアを開けるなり、賑やかな音楽が聞こえた。
真っ赤な照明が、中を照らしている。
マスター風の男が来た。
「お客様。女性はお断りです。」
とマスターは言う。
「あたし、男よ。女は格好だけ。」
「それならかまいません。」
「さっき、ここに入った子つけてくれない?」
「ルリですね。空いてます。今呼びます。」

ルリこと田村啓子は、超ミニの袖なしのワンピースを着ていた。
これは、店のユニホームだ。
目的ははっきりしているのだから、毎日着る服を考えないで済む。

田村啓子は、
女の客であることに少なからず驚いたようだった。
ルリは、由紀夫のとなりに座った。
「あたし、ルリです。どうぞよろしく。」
と啓子は言った。
「あたしは、ユキ、よろしくね。」
と由紀夫は女の声で言った。
「女の方には、どうしていいかわかりません。」
とルリは言った。
「いいの。今日あたしと付き合って。」
由紀夫は、マスターにオールナイトを希望した。
「店に5万、ルリに2万でOKです。」
とマスターは言った。
「OKよ。」と由紀夫は言った。
ルリが着替える間を待って、ルリと外に出た。

「お腹すいてない?」
「実は、すいてます。
 店に入るときは、パンを一つ食べるだけだから。」
「丁寧語は、止めない?友達同士になろう。」
「うん、わかった。」
「じゃあ、レストランに入ろう。」

由紀夫は、啓子を連れて、
肉がおいしい落ち着いた店に入った。
入る途中、啓子は言った。
「ユキは、いい匂いがするけど。なあに?」
「ああ、これ。ローズのエセンシャル・オイルをハンカチにしみこませてるの。」
「やわらかくて、気持ちがすーとする。」
啓子は言った。
「どうして、あたしをオールナイトに?」と啓子は聞いてきた。
「可愛い子がいるなあと、後をつけたのよ。」
「そう…。でも、ユキは女の子なのに?」
「女だって、女の子が好きな場合はあるわ。」
「ええ、そうね。」と啓子は言った。

おいしい肉料理が来た。
啓子は、ほくほくしながら食べた。
「ねえ。身の上話聞いていい?」
「いいわ。」
「ルリは、昼間も働いてる子と見たんだけど、どう?」
「うん、そう。」
「夜もサロンで仕事をしてる。訳を聞いていい?」
「父が、リストラにあって、次の仕事を見つけてるの。
 でも、なかなか見つからない。
 父みたいに、キャリアがあると余計に嫌われるみたい。
 このまま行くと、家、暮らしていけなくなる。」
「だから、ルリが昼も夜も働いているのね。」
「うん。正直きついの。仕事中、よく寝てしまったりする。」
「怒られない。」
「うちのオフィス、上司は一人しかいないの。専務一人。
 でも、その人、絶対怒らない。」
「いい人じゃない。」
「怒らないんじゃなくて、度胸がなくて怒れないのよ。」
「あらあら。」
「あたし、一度みんなにお茶くばって、専務にだけ配らなかったの。
 怒れるなら、怒ってみてっていう気持ちだった。
 でも、彼は、何にも言わずに、自分でお茶を淹れにいったわ。」
「そう。お茶くらいで怒るなんて、大人げないと思ったんじゃない。」
「女みたいな人で、みんなバカにしてる。」
「そうなの。めずらしい人ね。」
由紀夫は、くすっと笑った。

「お父さんの職種を聞いていい?」
「営業。△△商事の営業部長してたの。」
「わあ、すごい。超一流じゃない。」
「うん。けっこう有能なのに、リストラされて、ショックだったみたいで、
 今、全然元気がないの。」
「おいくつ?」
「48歳。」
「あたし、友達に人探している子がいるから、
 聞いてみるね。」
「うん、お願い。」
啓子は、少しも期待していないような返事をした。
(啓子は、由紀夫を、自分と同じ、22歳と見ていたのだ。)

食事が終わって、少しお酒を飲んで、
「あとは、あなたをお家まで、送ることね。」
と由紀夫は言った。
「え?オールナイトではないの?」
「気が変わったの。昼も働いている人に、
 オールナイトをさせる気にならないわ。
 今日は、ゆっくり休んで。」
「わあ、うれしい。ありがとう。」啓子は喜んだ。

由紀夫は、タクシーを拾って、
啓子にタクシー代を持たせた。
タクシーの中で、啓子は、何度も頭を下げた。

啓子は、タクシーの中で考えた。
自分のオールナイトのために、7万円使ったはず。
食事をご馳走してくれて、タクシー代に1万円。
自分と同じ年に見えた。
『道で可愛い子がいるなあ。』と後をつけた。
それだけのことで、こんなにお金使ってくれた。
可愛かった。
お嬢様なら、キャバクラなんて近寄らない。
わからない。
一体どういう人なんだろう。



「さあ、ミニスカ・パブでもいくか。」
と由紀夫は、腕に力を入れた。
そこは、新宿の2丁目のあたり。
由紀夫は、こういうところに精通している。
中に入ると、中は暗い。
マネージャーがすぐ来て、好みを聞く。
「邦子、空いてる?」
「えーと、はい、呼べます。」

由紀夫は、二人用のボックスに入った。
入り口以外覆われていて、プライバシーがある。
やがて、邦子が来た。
可愛い女の子だ。
ミニスカ・パブだけあって、邦子は、紺のミニスカのスーツを着ている。
髪はミディアムで、頬の辺りをゆるいカールにしている。
「ユキ、珍しいじゃない。」
「うん、働きはじめたからね。」
飲み物とつまみがきた。
あとは、二人の時間だ。
「今日は、可愛がって欲しいの、あたしを可愛がりたいの。」
と邦子が聞く。
「邦子を可愛がりたい。」
「じゃあ。」と行って、邦子は、由紀夫にもたれ、
くちびるを出した。
由紀夫は、邦子を抱いて、口・づけをした。
邦子がもう、息を乱している。

邦子のブラウスのボタンをはずし、
由紀夫は、ブラの間に手を差し入れた。
邦子の胸をあいぶする。
はああ…と邦子の声は可愛い。
邦子の胸をたっぷりあいぶして、
由紀夫は、ミニスカで半分以上むき出しになっている邦子のももをなでる。
「邦子のもも、最高にセクシーよ。」
由紀夫が言う。
「ありがとう。」
と、邦子は言い、由紀夫の腕に絡み着いてくる。

由紀夫は、スカ・ートの奥へ手をやり、
ショ・ーツの中に手を入れて、邦子の男のものを外に出す。
邦子は、由紀夫と同じ男子だ。
邦子は、こかんに大きな穴が開いたパンストを履いている。
由紀夫は、邦子のショーツをとった。
「あ、いや・~ん。」と邦子が言う。
ミニスカの中の男の証。
それが、由紀夫にはたまらない。
そっとあいぶしていく。
邦子は、店の中で、声を出すまいとしている。
しかし、由紀夫のあいぶで、もうたまらなくなっている。
「あ~ん、あ~ん、あたし、イきそう。お願い、イかせて。」
由紀夫は、テーブルのおしぼりをとって、
それを、邦子のその部分に巻いた。
邦子は、腰を前後にゆらして、
とうとう断・末・魔の声を上げた。

「邦子のイっちゃうときの顔、最高にセクシーよ。」
と由紀夫は言った。
「今度は、ユキをいかせたい。」と邦子。
「あたし、家を出るとき、興奮して、やっちゃったの。」
「バカねえ。ここまでとっておかなくちゃ。
 2度目はだめなの?」
「すごく刺激が強いとできる。」と由紀夫。
「いいわ。すごい刺激与えてあげる。」
そう言って、邦子は、席を立った。

やがて、邦子は、白い妖精のようなワンピースを着た女の子をつれてきた。
下はひらひらのミニスカート。上は半袖の服。
髪が長くて、白いヘアバンドをつけ、大きなリボンがついている。
どう見ても、15歳くらいだった。
「はじめまして。」
とその子は言った。声が幼い。
「邦子、まずいわよ。この子未成年じゃない。」と由紀夫。
「それが、19歳なの。信じられないでしょう。」
「ひょっとして、この子、まさか、男の子?」
「ピンポーン!」
「うそ、わあ、あたし一気に興ふんしちゃった。わあ、うそー。」


つづく(次回は、「啓子の父の再就職」です。




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専務・高坂由紀夫①「女のような専務」

短い物語を書いてみます。第2話くらいで終わります。
読んでくださるとうれしいです。

==============================

高坂由紀夫・25歳は、会社から帰ってきた。
長い髪を後ろで1本に留め、細くした眉を隠すため、
前髪を下ろしている。
普通こんな髪型で、サラリーマンはやれない。
だが、由紀夫は、大阪にある繊維メーカーの社長の三男であり、
専務として、東京支部のトップだった。
実は、これは左遷であった。

由紀夫は、女性のミニスカのスーツのマニアだった。
タイトなミニスカのフェチだとも言えた。
由紀夫は、3LDKのマンションの化粧コーナーで、メイクをする。
下着をつけて、パンストを履く。
女体にほぼ近づいた自分を見ると、そこで、もう興奮する。

由紀夫は、自分の体を女体化するためにあらゆることをした。
全身永久脱毛、コルセット、肋骨の切除、女性ホルモン。
そして、マニアであるミニスカをかっこよく履くために、
ピップにシリコンを入れる手術もした。

また、女声で話す訓練も1年間やった。

丹念にメイクをした。
由紀夫は、肌触りのいいブラウスを着た。
そして、いよいよタイトなミニスカのスーツである。
黒が好みだった。
スーツを決め、髪をほどく。
2日に一度美容院へ行って手入れをしている髪は、
パラリと、背中をなでる。

肋骨切除で得たハイ・ウエスト。
恵まれた長く女の子のような、むっちりした脚。

女顔でさらに童顔で22歳くらいに見えた。
由紀夫は、姿見の前で、いろいろに座ってみて、
うっとりする。
姿見の角度を変えて、スカートの奥のデルタが見えるようにする。
「あたしのデルタを見て、男達は、萌えるかしら。」と思う。

実際、女装した由紀夫を、男と見る人は希だった。
由紀夫は、これから夜の街に遊びに出るのに、
早、こかんのものが、勢いづいてくる。
「ああん。やっちゃおうかな。」
由紀夫は、デルタの部分をなではじめる。
そのときが、一番興・ふんする。
男のものは、股の下に回して、ショーツとパンストで、押さえつけている。

「ああん、だめ、我慢できない。」
そう言って、ミニスカをももに寄せて、
ショーツとパンストを脱ぐ。
もう一度、ミニスカをきちんと履く。
圧迫をのがれた男の物は、由紀夫のスカートのある部分を押し上げる。

「ああん、だめよ。男だってばれちゃう。」
由紀夫は、そう言いながら、ミニスカをお腹に寄せて、
その大きなものを、解放する。
それは、天をむいている。
「あ、いや、恥ずかしいわ。」
由紀夫は、そそうをしないように、ゴムを被せる。

そして、そっと天を向いているものをなでる。
「ああん、気持ちいい。すぐにいっちゃだめ。」
そういいながら、なでたり、離したりをくり返す。
やがて、我慢の限界が来る。
「ああ、女なのに、こんな物があるなんて、いきそう。
 ああ、ああん。だめーーーー。イくーーーーー。」
由紀夫は、背中をのけ反らせて、果てて行く。

「ああ、もうやっちゃった。あたしってダメね。」



夜の街にくり出す前に、
必ずお気に入りの美容士さんのところへ言って、髪をセットしてもらう。
耳まではストレートで、そこから下はカールにしてもらう。
すると、とても可愛らしくなる。



由紀夫は、エンジ色のワンピースにバッグを提げて、
新宿の街にくりだした。

由紀夫は、無能な経営者ではなかった。
アメリカで、経営学を学び、優秀な成績で卒業した。
しかし、父の真治は、由紀夫の長髪と、
女のような顔立ちを見て、本社には置けないと判断した。

東京支社は、ショールームがあり、
その裏に15人の社員がいる。
多くの男性社員は、営業である。

由紀夫は、男性社員には、さほど嫌われてはなかった。
うるさいことは何も言わないから。
起案は、ほとんど通してくれる。
やりやすい上司であった。

しかし、女子社員には、嫌われていた。
女みたいで気持ちが悪い。
ほとんど仕事らしい仕事をしていない。
そんなことで、お茶を入れるときも、
由紀夫のデスクには、ぞんざいに置く。
ときどき、お茶を置かない。
そんなときは、由紀夫が自分でお茶を入れ、
お茶当番に文句を言うことがなかった。

しかし、由紀夫は見ていたのである。
社員の健康状態を。心の状態を。
最近、田村啓子という社員に、元気がなかった。
血色が悪く、仕事中ときどき居眠りをしている。
その田村啓子は、自分を嫌っているナンバー1だった。

だから、そばに行って、聞いたりできない。
由紀夫が近づくと、身を寄せて、触らないようにしているくらいだ。



由紀夫が、新宿の街をぶらぶらしているとき、
その田村啓子を見かけたのだ。
どこに行くのかと、好奇心と心配が由紀夫の胸によぎった。

田村啓子は、キャバクラ・サロンに入って行った。


つづく(次は、「田村啓子の事情」です。)




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女装小説家・菅野美雪⑩「二人の幸せ」最終回

今日で、第10話「最終回」です。終わりまで書けたことが、うれしいです。
ここまで、お付き合いくださったみなさま、本当にありがとうございました。

============================

次の日から、直子のメールが毎日来た。
「今日も女の子でした!」
このメールが、1週間毎日来た。
これは、いよいよ本物といえそうだ。美雪は、うきうきした。

その間、直子は学校には、行かず、
ジェンダー・クリニックで、「女性である」という診断書をもらった。
それをもって、戸籍の変更を申請した。
その結果、今までの性が誤りだったとして、
女性の性に書き換えられた。そして、名前の変更も行われ、直也は、直子になった。

両親は、学校へ行き、転校の手続きを願う際、
校長に、直子が受けたいじめの実態を知らせた。
しかし、一番悪かったのは自分達親であったという謙虚な姿勢を貫き、
学校を一切責めはしなかった。

その代わり、性同一性障害の理解を図るため、クラスで話をしたいと言った。
健三は、クラスで話をした。大勢の先生が、自分のクラスを自習にして見に来ていた。
健三は、その際も、一番悪いのは、親であったという姿勢をとり、
いじめたクラスの生徒達を責めることは、一切しなかった。

健三自身も、心と体の性が異なる体験をしたことなどを話し、
それが、どんなに辛く、たった1時間で、死ぬことを考えたことなどを語った。
直也は、その苦しみに17年間耐えてきたことを伝えた。
校長や先生達は、後ろで参観していて涙を流した。

健三の話は、生徒達の心に入った。
始め、女子の一群が、泣き始め、それが広がって、
クラス中が号泣を始めた。
そして、直也をいじめてしまったことを、
心から詫びる言葉を一人一人が述べた。



直子は、落ち着きのある、有名私立の女子高に転学した。
直子は、本物の女子になったのである。
自分の身体に劣等感をもつことは、何もなかった。

あのピンクの錠剤が本物であったことは、
まだ、ずっと女の子のままでいることで、証明されたようなものだった。

美雪は、ある日、直子にメールを出した。
「本物の女の子になっちゃうと、私の小説、全然面白くないでしょう。」
すると、直子は、
「それが、今までのクセで、先生の読むと、未だに興奮しちゃうの。」
と返事がきた。
わあ、うれしいと、美雪は、うふっと笑った。

*    *    *    *

あれから、3ヶ月半。12月23日。
通りはクリスマスの賑わいで活気付いている。

『こういうとき、一人は、かえってわびしいなあ。』
そう思って、美雪は、ジャンパーのポッケに、手を突っ込んで、
マンションへの道をぶらぶら歩いていた。
ときどき、道行く人へのサービスとばかり、
豪華な、イルミネーションを家の外に作っているところがある。
その奉仕的精神には頭が下がる。
一人者の心を温かくしてくれる。

冷たいマンションの部屋の中。
淋しい夜を女で過ごそうかな、
と、美雪は、青い薬を1錠呑んだ。
坂井ミユになった。

そうだ、あのおじさん、いるかなあと思った。
おじさんには、家族がいないかもしれない。
美雪は、おじさんのテントまで、白い息を吐きながら行ってみた。
すると灯りがついている。
美雪は、ちょっと引き返し、
スーパーの駐車場で売っている焼き鳥を多めに買った。
そして、スーパーで、一升ビンの酒とコップを2つを買って、
おじさんのテントの入り口をめくった。
おじさんがいるではないか。

「やあ、おじさん。」
「だれじゃったかな。べっぴんじゃの。」
「あたし。ピンクの薬を10円で買った。」
「おお、どうじゃった、ありゃ、本物じゃったかの。」
美雪は、やきとりを広げ、ビニールコップを出した。
「おじさん、一人でしょ。
 いい女と、一杯やんない。」
「おお、ええのう。わしゃ、孤独な老人じゃでな。」
「はい。」とお酒をコップにつぐ。
2人で、「メリークリスマス。」と言った。

やきとりを食べながら、
「おじさん。ピンクの薬、本物だった。
 一人の男の子を救えたわ。」
「おお、そりゃめでたいの。」
「あたし、わかったのよ。
 おじさんは、全部本物だとわかっていた。」
「なんで、そう思うんじゃ。」

「あたしが、始めに買った青と白の薬も、
 ふっかけたんじゃない。
 本物と知ってたから、5万円だと言った。
 本物なら、10万でも100万でも欲しがる人がいるもの。」

「ほう、それじゃ、わしは、正直者か。」
「そう、おじさんは、天下の正直者。
 そして、ピンクの薬。本物だって知ってた。
 10円であたしに売ってくれたのは、
 あたしが正直な人間と見てくれたから。

 自分で使わず、誰かを助けるために使うと
 分かっていたから。
 『性同一性障害』の言葉も、本当は言えた。
 おじさんは、人を使って、人を助ける。」

「ほうほう。ますます、わしは、善人じゃの。」
「そう、善人中の善人。」
「して、わしの正体は?」
「えへへ。夏にはわからなかった。
 今、やっとわかったわ。
 おじさんは、サンタクロースでしょ!」
「あははは、うぉふぉふぉふぉ。
 バレてしもうたか。」とおじさんは、高らかに笑った。

「でさ、明日はクリスマスイブ。
 おじさんは、忙しい。
 だから、今日来たのよ。」
「こりゃええわい。もう一杯くれんか。」
「はいはい。」
「周りが賑やに浮かれとるとの、一人身の淋しさが応えるわい。
 あんた、よう来てくれた。」
「あたしも、一人身でさみしいのよ。」
「あんたには、もうすぐ生涯の伴侶が訪ねてきよる。
 ちょっとの我慢じゃ。」

「ほんと?向こうから来てくれるの?
 おじさん、そんなことまで、わかるの?」
「忘れてもらってはこまる。わしの副業は、占い師ぞい。」
「サンタのおじさんの言うことなら信じる。
 ああ、楽しみ。」
「今夜は店じまいじゃ、あんたと飲み明かそうかい。」
「はい、はい。いきましょう。」
こうして、2人は、大いに盛り上がったのだった。



さて、女装小説家菅野美雪の生涯の伴侶が来る日を、
美雪は、片時も忘れたことはなかった。
明日か、明日かと待ち続けた。

一年と数か月が過ぎたある日、
桜の咲く頃、彼女はやってきた。

ピンポーンと鳴り、胸騒ぎがして、美雪はドアをあけた。
そこに、めちゃめちゃ綺麗な子が立っていて、目が笑っている。
美雪は、その子を中に入れた。
「だ、だれ?」
男の姿でいた美雪は、目を丸くして言った。
「あたしです。直子。」
「わあ、綺麗になって、どうしたの?」
「ちょっと、メイクしてます。
 高校を卒業しました。
 だから、先生のところにおしかけてきました。
 今日から、炊事、洗濯、掃除、全部やらせていただきます。」

直子を畳みの部屋に上げ、
「う、うん。うれしい。直子。直子だったのかあ。」
「ということは?」
「あのね。占いのおじさんが、言ってくれたんだ。
 生涯の伴侶が来てくれるって。」
「ピンポーン!あたしがお嫌でなかったら、
 先生と一生いっしょにいたいです。」
「わあ、やったあ。うれしい。バンザーイ。」
美雪は飛び上がった。
直子は、くすくす笑っていた。

「男の姿の先生もステキ。」
「そ、そう?ださくない?」
「目の優しさが同じです。」
「わあ。うれしー!」
美雪は、直子を抱きしめて、くるくる回った。

こうして、占いのおじさんは、
またもや正しいのだった。

直子と二人で、おじさんに会いに行った。
すると、おじさんは、テントごといなかった。



夜のベッド・タイムでは、青と白の錠剤を呑んで、
美雪と直子は、いろいろなバリエーションで楽しんだ。
金曜日は、変身の日として、美雪は、たいていアリアリの坂井ミユになった。
ナシナシ同士として、レズビアンを楽しんだり。

そして、不思議なことが一つ。
あの青と白のお薬。いくら呑んでも少しも減らないのだった。

おじさんは、やっぱりサンタさん。


<おわり> (次回は、未定です。)




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女装小説家・菅野美雪⑨「両親のGID体験」

今日の第9話は、物語のクライマックスです。だから、少し長くなりました。
物語は、次回⑩「最終回」を残すのみです。読んでくださるとうれしいです。

============================

しかし、3分経って、2人は顔色を変えた。
母親は、髪が短く五分刈りになった、髭が生え、
手や足が毛むくじゃらになり、胸がなくなり、
そして、下腹部に新しく男のものを感じた。
顔の骨格が変わり、誰が見ても男になった。

母親は真っ青になった。
「あの。」と声を出して、肝をつぶした。
低い男の声だった。

父親も、女の体になっていた。
髪が伸び、顔が女だ。眉は細い、髭類も一切ない。
声を出すと、完全な女声だ。胸が出て背広の胸を押し、
お尻が広がって、ズボンがはち切れそうになっている。全てが女だ。
身長は、180cmのままだった。

母親は、ドレッサーの鏡を見て、「キャー。」と叫び、
そのまま、畳みの上に顔を伏せ、泣き始めた。
父親も鏡を見て、座ったまま、涙の目に手をあてた。

美雪「お父様は、女は女らしくですね。
   お父様の体は、女ですから、女の服をきて、
   態度、言葉使いを女らしくなさってください。
   これは、あなたが、息子さんに要求されたことです。」

美雪「お母様は、直也さんと同じ立場です。
   心は女ですが、体は、男です。
   お母様は、直也さんに、男らしくとおっしゃって来たのですよね。
   では、ご自分は、体の性に合わせて、
   男の服を着て、男らしくなさってください。
   女言葉はなしですよ。」

父親「あの、薬はいつ切れるのですか。」
美雪「直也さんは、もう17年間も、
   この状態で生きてきたのです。それが、答えです。」  

美雪「お父様、明日は?」
父親「(女の声で)大事な、プレゼンがあります。」
美雪「今日急いで、その背丈にあう女性のスーツを探してください。
   お母様は?」
母親「保護者会の後、役員の打ち合わせがあります。」
美雪「では、いらしてください。身長に合う、男性のスーツをお探しください。
   マスクなどで顔を隠すのは、ルール違反です。
   男らしくされることと矛盾します。
   会に欠席して、家にいるのは卑怯ですよ。
   お2人は、直也さんの、家にいさせてという願いを
   聞き入れなかったのですから。
   そして、6ヶ月トイレは外でなさるんです。お忘れなく。」

母親も、父親も泣いていた。
まさか、薬が本物だとは思わなかったのだ。

美雪「今日のところは、以上です。お帰りください。
   性同一性障害のことも、少しは、お勉強なさってください。」

親2人は、真っ青な顔をして、立ち上がった。
体が、震えていた。
沙紀が、「お父さんは、女なんだから、もっと女らしくして。」と言った。
由佳が「お母さんは、男なんだから、もっと男らしくして。
    これじゃ、オ△マって言われるよ。」と言った。

4人は、頭を下げて、出て行った。
直子は、「少し、可哀相。」と言った。
「1時間で、ギブアップして、またいらっしゃるわよ。」
と美雪は言った。

外に出ると、すれ違う人々にジロジロと見られた。
健三は、女だが男の服、幸子は、まるで男の顔で、女の服。

それでも、4人は、やっとの思いで駅にきた。
健三と幸子は、人が来ると恥ずかしく、壁の方を向いていた。
なんとかプラットホームに来た。
母親の幸子が、
「あたし、トイレに行きたいわ。」と言った。
「俺もだ。母さんは、男なんだから、その辺の影で立ってしろよ。」
「ダメよ。心は変わってないんだから、立ってなんかできないわよ。」
「お兄ちゃんだって、立ってできなかったのよ。
 お母さん、それ、叱ってたじゃない。」と沙紀が言った。
「そうね。あたし、立ってしなくては。」と幸子は泣きそうに言った。
「俺は、女の体か。立ってもできない。」
4人が電車に乗ろうとするとき、2人にトイレの限界が来た。
脂汗をかき、心臓がドクドクと鳴っている。
電車の中で漏らすのは、最悪だ。

ホームの端っこに行った。そこに、トイレがあった。
「あたし、行くわ、外ではできないわ。」
「俺もだ。外ではできない。」
「お父さん、約束やぶったら、会社首じゃない。いいの。」由佳が言った。
その声で、2人は、踏みとどまった。

トリレに行けないということは、地獄の苦しみに近いと2人は思った。
「直也が、こんな思いを6ヶ月もしていたのに、
 知らんふりしていた俺達は、悪魔だったな。」
「ええ、そうね。人間じゃなかった。」と幸子は涙の目で言った。
「どうすればいいんだ。もう我慢できない。」
そう言ったとき、父健三は、液体をズボンの中に、漏らした。
追って、幸子も液体を足に垂らした。

幸子は、両手で顔を覆って、しゃがんで泣き出した。
「直也、ごめんなさい。ごめんなさい。どうか、ゆるして。
 直也が、お漏らしをして帰ってきたとき、
 ズボンを洗ってもやらなかった。直也に一人でやらせた。
 あたしはひど過ぎた。鬼だった。」

「俺は、いつも威張りちらして、自分が正しいと思っていた。
 直也の気持ちなんて考えなかった。
 これを6ヶ月だったなんて、地獄の毎日だ。
 許してくれ、直也。許してくれ。」
健三も同じく男泣きに泣いた。

幸子「あなたは、明日女の姿で、女の声で、プレゼンをするのですか。」
健三「男は男らしく、女は女らしくと言ってきた。
   俺は今女だ。女らしくしなければ、直也に合わせる顔がない。」
幸子「あたしは、男として、髭づらをして、男の声で、
   保護者会に出て、そのあと役員会がある。
   男らしくなんかできない。
   女みたいになよなよして、オ△マと思われ、地獄だわ。
   沙紀や由佳にも影響するわ。おまえの母ちゃんは、
   男でオカマと言われてからかわれる。」

健三「直也は、17年間、特に小学校から10年間、そう言われて来たんだよ。
   おれは、女の言葉など使えない。
   女らしい仕草などできない。
   しかし、俺は、直也にそれを要求してきた。
   あれほどのいじめにあっても、
   男らしくしないお前の自業自得だと言ってきた。
   だから、俺達は、この地獄に耐えねばならないんだろう。
   17年間もか…。なんたることだ。」

幸子「だめ、できない、そんなこと、死んだ方がまし。
   体が男になったことだけでも、死んでしまいたいのに。」
健三「俺もそうだ。さっきから、死ぬことばかり考えている。」
沙紀「お兄ちゃんも、だから、死のうとしたんじゃない。
   お兄ちゃんの遺書を見たって、
   どうせ死にっこないと何もしなかったよ、お父さんもお母さんも。」
由佳「学校にも警察にも連絡しなかった。あの綺麗な人がいなかったら、
   お兄ちゃん死んでいたと思う。」

健三「俺、死ぬ気で、あの人に会って、もう一度謝りたい。
   直也がいたなら、抱きしめて謝りたい。今度こそ、本心だ。」
幸子「あたしも同じです。いきましょう。」
4人は、美雪のマンションを訪れた。

チャイムがなった。
「ほら、ちょうど1時間よ。」
美雪は、直子に言った。
扉を開けると、安井家の4人だ。

「どうぞ、上がってください。」と美雪は言った。
「いえ、実は、お漏らしをしました。家内もそうです。
 ですから、立ったまま、失礼します。」と健三。

「そんなこと少しもかまいません。
 では、座布団にバスタオルを敷きます。
 どうぞお上がりください。」と美雪。

4人は、上がってきた。
健三は手をついて、涙ながらに言った。
「すいませんでした。もう十分わかりました。
 直也がどれだけ辛いいじめを受けたか。
 心が女であり、体が男であることが、どれだけ辛いことか。
 直也と同じに、私達も、自殺を考えました。
 たった1時間の苦しみに対してです。

 直也は、それを、17年間苦しんできた。
 それなのに、私達は、助けるどころか、叱ってばかりでした。
 私達は、ひどい親でした。いえ、悪魔でした。
 やっとわかったのです。

 もし、直也がもどってきてくれたら、
 私は、直也が女の子になれるよう、何でもします。
 学校も転校させ、もっと理解のある学校をさがします。
 そして、これから、直也を女の子だと考えます。
 これは、家内も同じ考えです。
 直也に会えたら、抱きしめて謝りたい。
 この気持ちを直也にお伝えください。」

両親は、深々と頭を下げ、涙をこぼした。

美雪は、直子を見た。
直子はうんとうなずいた。

「お父さん、全部聞いていたよ。
 ここにいるあたしが、直也。
 お父さんの呑んだ女になる薬を呑んでいたの。
 だから、お父さんが無理矢理脱がせたのは、あたし。
 だから、お父さんは、罪にならないよ。
 お父さん。ほんとうにわかってくれたんだね。」

「ああ、わかった。直也には辛い思いをさせた。
 許してくれ、直也。」
と父が言ったとき、直也は父の元に行った。
「おとうさん。」といって、抱きついた。
父は、しっかりと直也を抱き、
「直也、どれだけ辛かったか。許してくれ。」といって、涙を流した。

「直也、お母さんのとこにもきて。」
「お母さん。」と直也は、母と抱き合った。
「直也、ごめんね。ごめんね。お母さんを許して。
 直也の辛い思いがわかったの。ごめんなさい。
 直也の幸せのために、お母さん、全力でがんばるからね。」
母はそういって涙をこぼした。
2人の妹も泣いていた。

「沙紀も由佳もありがとう。何回もぼくのために言ってくれた。うれしかった。」
「うん。お兄ちゃん、よかったね。」と沙紀が言った。
「お兄ちゃんが、死んでなくてよかった。」と由佳が泣いた。
直也は両手で、2人を抱きしめた。

美雪は、両親に、逆の薬を渡した。
それを呑んで、幸子は、女性に戻った。
健三は、男性に戻った。

「直子、ちょっとこっち来て。」と美雪は、直子を呼んだ。
美雪は、ピンクの薬のケースを見せた。
「これね。本当か嘘かわからないのよ。
 本当なら、これを飲むと、一生女の子でいられるんだって。
 一生のことだから、もっとゆっくり考えてと思ったけど、
 直子が女の子になりたいって思うのは、一生よね。」
「はい、後悔しません。」
「じゃあ、一つ呑んじゃう?」
「ぜったい後悔しません。」
「ニセ物かも知れないのよ。」
「ダメ元です。」
「じゃあ。」と言って、ピンクの薬は、直子の口に入った。
お水でこくん。

「これから、毎日メールで知らせて。
 ずーと女の子でいるかどうか。」
「はい。楽しみです。
 ほんものだったら、すごいですよね。」
と直子は、にっこりとした。

家族は、4人で帰って行った。
『よかった。やっぱり家族が一番。』

『ピンクの薬が、本物でありますように。』
美雪は、そう祈った。


つづく(次は、最終回「美雪の幸せ」です。)




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女装小説家・菅野美雪⑧「両親直也のいじめを理解」

そろそろ物語りは、山場に向かいます。次回の⑨が、事実上のクライマックスです。

==============================

直子は、その場に呆然と立ち、
やがて、両手で顔を覆って泣き出した。

「し、失礼。申し分けない。す、すまない。ごめんなさい。ごめんなさい。」
そう言って、健三は、額を畳みにすりつけて、何度も、あやまり始めた。

家族も全員、畳みの上に正座した。
母親の幸子は、手で顔を覆い、絶望の様子であった。

美雪が、新しいブラを出し、直子に服を着せようとすると、
2人の妹が、すぐ手伝いに来た。
服を着た直子は、美雪の横に座った。

美雪は、そこで、ケータイを開け、
「あ、警察署ですか。ただ今、部屋にある家族の訪問があり、
 中に通したところ、その父親が、私の手伝いの女性にいきなり飛びかかり、
 女性の服を脱がし、力づくで真っ裸にさせました。
 自分の息子さんに間違えたようですが、
 誰が見ても、彼女は女性であり、その父親の行動は、理解に苦しむものです。
 少し話しを聞いてから、再度電話をいたします。
 そのときは、被害届をいたします。よろしくお願いいたします。
美雪は、そう言って、住所を伝え、電話を切った。

「今のお父様のなさったことは、婦女暴行であり、
 刑法にあたると思います。そこで、今ご覧のように、
 警察に知らせました。」
美雪は言った。

父親は、両手をついて、今も、
「すいませんでした。とんでもないことをしました。
 このとおりです。」
と直子のそばに来て謝っていた。

「お詫びは、いいです。
 あんなことされた理由も聞きたくありません。
 ご家族のところへ、お戻りください。」
と直子は言った。

コタツ机を挟んで、
美雪と直子。
向こうに両親。横に妹2人。

父建造は、入ってきた時の勢いは、とうに失せて、
うつむいて小さくなっていた。

「現実的なことを申し上げます。
 お父様のなさったことは、婦女暴行にあたると思います。
 取り調べの中で、当然、会社に問い合わせがいきます。
 婦女暴行の場合、辞職を余儀なくされると思います。」
美雪が言った。

父親は、うつむいて泣いていた。

「しかし、彼女はまだ被害届を出しておりません。
 彼女がそれを出さないかぎり、事件として成立せず、
 罰もなく、家に返されます。会社にも連絡が行きません。
 今、私は、この状況で、やっと、傲慢で乱暴でいらっしゃるお父様とも、
 お話ができると考えます。
 ここにいらっしゃるということは、
 性同一性障害について、勉強してくださったのですね。」

母親。「すみません。まだです。」
美雪「お父様は?」
父親「はい。すみません。」
美雪「直也さんが、高校で、もちろん小学校、中学校もです。
   地獄の苦しみと言えるほどのいじめにあっていたことをご存知ですか。」
母親「知っていました。」
父親「知っていました。」
美雪「知っていて、助けて上げない。
   それは、どんないじめをされたか、ご存知ないからです。
   一つ直也さんと同じ体験をなさってみますか。」
両親「はい。受けてみます。」
美雪「では、6ヶ月、屋内のトイレを使わないでください。
   直也さんは、そう言ういじめを受けたのです。
   学校のトイレを、いじめっこに、ことごとく行けないようにされました。」
   
母親「どうやって、トイレを済ませたのでしょう。」
美雪「お母様なら、どうされますか。」
母親「屋内がだめなら、外に出るしかありません。
   ビルや木の陰で、そっとします。」
美雪「いじめっ子は、お母様を見つけて、おーい、みんな来いよといい、
   みんな集まってきます。お母様のお尻を見て、みんなが笑います。
   見ろよ、男のクセに、しゃがんでやってやがらあ。
   次の日学校にくると、しゃがんで用を足している絵が黒板にあって、
   みんなは、大笑いします。
   これから、トイレをどうなさいますか。」
母親「もう、学校へはいけません。」
美雪「トイレを、どうなさいますかと聞いたんです。」
母親「お漏らしするしかありません。」
美雪「そして、どうなさいますか。」
母親「家にすぐ帰ります。」
美雪「直也さんは、しょっちゅうお漏らしをして、帰ってきませんでしたか。」

母親は、顔色を変えた。

母親「ああ、じゃあ、お漏らしの原因はそういうことだったのですね。」
美雪「叱りましたか。」

母親は、涙を浮かべていた。

母親「高校生にもなって、恥を知りなさい!といいました。
美雪「その体験を、6ヶ月なさってください。
   直也さんの辛さの10分の1くらいわかりますよ。」
 
父親「息子のそんないじめを知りませんでした。」
美雪「嘘をつくなら、もうお帰り願います。
   あなたは、会社を首です。
   ご家族はどうやって暮らしていくのです。
   2人の妹さんはどうなります。
   今時、再就職などできませんよ!」
美雪は立ち上がった。
父親は必死で止めた。
父親「嘘を言いました。すいません。
   息子は何度もいじめられてると言いました。
   その内容も言いました。
   しかし、私は、『お前が女みたいにしているからだ。
   自業自得だ。』と突っぱねました。」
美雪「これから、正直に言ってください。
   あと一つ嘘をおっしゃったら、終わりです。」
父親「わかりました。嘘はいいません。」

美雪「トイレのいじめは、直也さんが受けたいじめのほんの一部です。
   ありとあらゆるいじめを受けました。
   いくつ、知ってらっしゃいますか。」
父親「トイレの水を飲まされた。手を上に縛られ、
   ズボンとパンツをぬがされ、オチンチンを出しながら、
   廊下を歩かされた。オシッコを飲まされた。それから、物隠し、・・・。

そのとき、上の妹の中2の沙紀が言った。
沙紀「お父さん、もうやめてよ。それだけ知ってて、
   どうしておにいちゃん守って上げなかったの?
   お父さんは、もうお父さんじゃないよ。
   お母さんは、どうなの?全部知ってたの?」
母親「知ってたの。でも、直也が女っぽいせいだと、男らしくしないからだと直也を叱ったの。」
沙紀「信じられない。そんなお父さんやお母さんなら、あたし家出たいよ。
   今、誰だっていじめられるんだよ。
   もし、あたしがいじめられたら、お父さんたち、
   あたしにきっと何にもしてくれない。
   あたし、お父さんとお母さんを許せないよ。」

父親、母親は、うなだれてだまっていた。

美雪「いじめられて、学校は地獄だから、
   不登校させてと直也君はたのみましたね。
   お母さんは、何といいましたか。」
母親「許しませんといいました。学校はいくべきだし、
   少しのことで逃げるような真似はいけないといいました。」
美雪「少しのことでしょうか。お母様は、下半身を露にされ、廊下を歩かされる。
   少しのことですか。外でトイレを済ませるほかなく、しゃがんでいたら、
   男のくせに、しゃがんでら、と翌日黒板に大きな絵を描かれる。
   クラス全員に大笑いされる。少しのことでしょうか。
母親「それは、死ぬほど辛いことだと思います。
美雪「お父様は?
父親「自分がされたら、生きていけません。」

美雪「妹さん。お2人は、お兄さんが、
   自殺しようとした気持ちがわかりますね。」
由佳「あたしだったら、とっくに死んでる。
   お兄ちゃん、信じられないくらい我慢したと思う。」
沙紀「あたしも死んでる。とっくに死んでる。」

美雪「最後に、直也さんは、性同一性障害という大きな障害があります。
   この点には、ご両親は全く不勉強なのですね。」
両親「すみません。」
美雪「不勉強ならば、体験なさるのが一番です。
   ご協力願えますか。」
両親「はい。」
美雪はコップの水を用意して、言った。
「ここに青い薬と、白い薬があります。
 お母さんは、白い薬で男性の体を得ます。
 お父さんは、青い薬で女性の体を得ます。
 これで、性同一性障害のことを体験できます。」
   
親2人は、そんな薬、嘘に決まってるいと、
少しも信じていなかった。
そこで、2人は迷いもなく薬を呑んだ。


つづく「次回は、「両親の性同一性障害体験」です。)




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女装小説家・菅野美雪⑦「家族が乗り込んでくる」

このお話は、第10話まであります。最後まで、お付き合いくださるとうれしいです。

===============================

夜になった。
「お風呂入っても、女の子のままだかから、安心して先に入って。」
「はい。」と直子は言った。
美雪は、可愛いパジャマを用意した。
直子も後で入って、パジャマ姿になった。

「ベッド、1つしかないから、二人で寝るでいい。
 その代わりダブルベッドだから。」美雪は言った。
「うん。うれしい。」と直子は言った。

二人で、一つの布団に入り、毛布を肩までかぶった。
電気を薄暗くした。
しばらく経って、直子は言う。

「あたしが、女の子でいられる最後の晩でしょう。
 だから、そのう…。」と直子は、言葉を言いかねていた。
「だから、そのう、あたし、女の体の喜び知りたいの。」

「直子は、男の子が好きなんでしょう。あたしでいいの?」
「昼に言ったように、女の子も、可愛い子や、綺麗なお姉さんが好きなの。
 美雪みたいな人なら、抱き締められたい。」
「キ・スをして?」
「うん。」
「うん、わかった。あたし、今日1日、直子が可愛くて、
 抱きしめたくて、たまらなかったの。」
「抱いて。」
「うん。」

美雪も、女の子が初めてだった。
直子の上になり、直子を抱く手が震えた。
待っている直子は、もっと震えていた。
直子を強く抱きしめた。
「ああ、美雪…。」と直子は言った。
美雪は、直子のくちびるにくちびるを合わせた。
始めはそっと。
そのうち、思いが募って、強く合わせた。
舌を少し入れた。
直子はと惑っていたが、美雪の舌を受け入れた。
直子も舌を出してきた。
美雪はそれを強くすった。
2人とも荒い息をしていた。

美雪は、パジャマを脱ぎブラを取り、
直子のパジャマとブラを取った。
パジャマのズボンも取って、直子のズボンをとった。
2人は、ショ・ーツだけになり、
お互いの体温を与えあった。
そして、体中をお互いになでまわした。

直子の、胸をあいぶした。
直子は、声を上げた。
直子の胸の、先端を噛み、そのあと指でくりくりとした。
「はあ……あん。」と直子が声をあげた。
直子は、大きい声を出すまいとしていたが、
どうしても出てしまう声があった。

美雪は、直子の下半身に手を伸ばした。
「ここが、一番感じるんだって。」
「うん。触って。」直子は言った。
直子のあそこは、十分に準備ができていた。
美雪は、直子のスポットに指をあてた。
あああああ、と直子は背をそらせて声を上げた。

美雪は、そこのあいぶをつづけた。
直子は、首を振り、体を上下させ、かいかんを訴えた。
息が荒くなっていた。
「ああ、美雪、あたし、気が狂いそう。」と直子が言った。
「もっと、気持ちがよくなると思うわ。」
「ああ、だめ、ああ、気絶しそう…。」
美雪は、あいぶの指を速めた。
直子は、もだえにもだえた。
そのうち、あああ…と声を上げ、脚を閉じて、
大きく体を振るわせた。
直子は、達した。

美雪は、直子を抱きしめた。
「あたし、死ななくてよかった。
 こんなにステキな思いができて、幸せ。」直子は言った。

それから、直子は自分がされたように、美雪にした。
美雪も、同じ様に、声を上げながら、やがて達した。
「うれしい、直子じょうず。」と美雪。
「美雪のやり方を真似ただけ。」と直子。
「男の子とすれば、もっと違う感動があるんだろうな。」と美雪は言った。
「それは、永久に無理だと思う。」と直子は言う。
「わからないわよ。今、女の子でいることだって、
 永久に叶わぬ夢だって思っていたでしょう。
 だから、何が起こるかわからないよ。」
「うん。そうね。未来を決めつけては、いけないものね。
 これ、先生のご本のセリフ。」
「うん、覚えがある。」

電気を消し、2人は抱き合ったまま、眠りに堕ちて行った。

*    *    *    *

次の日の夜6時過ぎ。

美雪は言った。
「一応ご家族には、電話しておくね。
 遺書を書いて来たんでしょ。
 生きていることは、知らせないと。」
「探してないと思う。どうせ、いつか帰ってくるだろうと思ってる。」
と直子は言った。

美雪は電話を掛けた。
「はい。」と母親がでた。
「わたくし、菅野美雪と申しまして、
 直也さんの居場所を知っております。

 直也さんは性同一性障害です。
 今日、家族会議をお開きになって、
 性同一性障害について理解され、
 直也さんの気持ちがわかったと思われるとき、
 お迎えにきてください。
 ご理解がいただけないのなら、
 直也さんのいる場所を、お教えできません。」
美雪は、住所と電話番号を教えて受話器をおいた。

「あの親は、あたしのこと、理解しようとする親じゃないわ。」
と直子がいう。
「あたしは、ああ言ったけど、今すぐ乗り込んでくると思ってる。
 チャイムがなったら、直子はベッドルームに隠れていて。
 あたしは、ミユでは若すぎだから、そうだなあ、恐れ多いけど、
 ZERDの阪井泉水さんになる。」

美雪は、そう言って、阪井泉水の35歳の時のCDジャケットを見て、
泉水になった。
「わあ、美雪、すごいスケールの美女だわ。」と直子が言った。
直子にも、もう一錠。女の子でいた方がいいと、美雪は思った。

美雪は、コタツ机をだして、座布団をいくつか出した。

美雪の勘は、当たっていた。
20分後、夜の7時、チャイムがなった。
そして、ドアをどんどん叩く音がした。
乱暴だ。怒っているのか。
ドアをあけると、両親が乗り込み、妹2人が、ついてきた。
父親の建造は、背が180cmからあるがっちりした男だ。

「お約束がちがいます。」と美雪は言った。
「何を言う。他人の子をかくまっておいて、
 親に渡さぬ者がどこにいる。誘拐と同じだ。」と、部屋をうろうろしている。

「まず、お座りください。」
父親の建造以外は、座布団に座った。
まだ、部屋を見回している。

「ここのどこかに、直也がいるに決まっている。
 ここか!」と言って、父親は、ベッドルームの戸を開けた。
ベッドに、水玉のワンピースをきた直子が座っていた。

「ほらいた。直也、女の服なんか着おって。
 親をバカにするのもいい加減にしろ。」
そう言って、直子を、6畳の間に引きずり出した。

「その子は、ちがいます。女の子です。私のお手伝いの子です。」
美雪は叫んだ。

「何をいう。女の子だと。直也は男だ。見ろ。」
そういうと、父親は、強引に直子のワンピースのファスナーを下げ、
ワンピースを下まで下げた。
母親の止めも振り切り、
「なんだこんなのも。」
と言って、ブラを引きちぎった。
そして、直子のショーツを一気に下げた。

そこにみんなの見たものは、
女の子の全裸の姿だった。

父親は、はっと全裸の女の子を見て、顔色を変えた。
そして、自分がしてしまったことをやっと認識した。
自分は、見ず知らずの女の子を、力づくで全裸にしたのだ。
父親は、ショックで、畳にへたり込んだ。


つづく(次は、「両親、直也の辛さを理解して行く」です。)




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女装小説家・菅野美雪⑥「直也、青い薬呑む」

直也は泣き止んだ。
美雪は、直也の前に移り、
「直也君。全てが解決するまで、ここにずっといていいからね。」
と言った。
「先生に断らなくて、いいんですか。」
「いいの。あたしが、菅野美雪だから。」
「ええ?菅野先生、女性で、こんなに綺麗で若い方だったなんて。」
直也は大きく目を開けて言った。

「あたしが、男性っていうのは、ほんと。
 直也君、信じられないかも知れないけど、
 あたし、1日だけ女になれるお薬に出会って、それ、たまに呑んでるの。
 中身まで、女の子になれるの。24時間だけどね。」
「ほんとですか?そんなお薬あるの?」
「うん。直也君が、もう死んだりしないって約束してくれるなら、
 1錠あげる。女の子1日体験、してみる?」
「はい。うれしいです。あたし、もう死にません。」

美雪は、一生女の子になれる薬の話はしなかった。
まだ、薬がどんなものかもわからない。

「直也君。だれか、好きな女の子になりたかったら、
 ファッション誌で選んで、その子を見てるとその子になれるの。
 直也君、今でも、女の子のお顔だから、そのままでもいいわ。」
「じゃあ、このままで。」
「多分、そのまま、全体が微妙に変わって女の子風になると思う。」

直也のカツラを取った。
直也は、1錠口に入れ、水で呑んだ。

3分で女の子になれる。
直也の髪の毛が、肩まで伸びた。
そして、胸が出てきて、お尻が大きくなり、
顔が、少しずつ女の子の顔になった。
エラが少し取れて、あごが少し細くなり、
おでこが丸くなり、眉が細くなり、
鼻筋が、ほんの少し狭くなり、
顔全体が、ふっくらと柔らかくなった。

首が細くなり、肩が狭くなった。
そして、女の子の香りを放つようになった。

「もういいみたい。直也君、鏡を見てみたら。」
「はい。」
直也は、震えながら、ドレッサーの鏡を見た。
「ほんとだ、あたし、誰が見ても女の子だ。
 髪が伸びてる。
 胸もある。ウエストも高い所にある。
 あ、声も変わってる。女の子の声。」
直也は、いちばん肝心なところ。
スカートの上から触り、そして、スカートを上げて中を覗いた。
「わあー、女の子になってる!」と叫んだ。

「先生、ありがとう!」と言って、直也が抱きついてきた。



「さあ、直也君は、女の子になったから、名前考えて。」
小机に座り直して、美雪は言った。
「えーと、直子にします。」
「あたしは、美雪ね。
 それとね、本物のミユちゃんは、17歳。高2なのよ。
 だから、直子と同じ年。
 これから、あたしのこと美雪って呼び捨てにして。」
「わあ、先生のこと呼び捨てにしにくいです。」
「じゃあ、あたしの薬が切れて男になっちゃったら、先生って呼んで。
 女のあたしのときは、美雪って呼んで。」
「わかりました。」

「美雪に対して、敬語丁寧語もなしよ。同じ年だから。」
「うん、わかった。」
「じゃあ、これから、直子を美容院へ連れて行きます。」
「わあ、すごい。でも、あたしお金もってません。」
「あたしは、お金持ちだから、直子の経費は全部あたしがもちます。」
「わあ、ありがとう。」と直子は喜んだ。

まだ、外は明るかった。
直子と手をつないで歩いた。
「ね、向こうから6年生くらいの男の子が2人来るじゃない。
 で、聞くの。ボク今女装してるんだけど、一応女に見えるって。」
「あははは。」と直子は笑った。
そして、実行に移した。

言われた男の子2人。
「見える?って、お姉さん、女じゃない。」
「男ってバレない?大丈夫かな。」と直子も役者。
男の子は、笑って、
「お姉さんが男だっていう人がどうかしてるよ。
 ぜってー女。お姉さん、自信持ちなよ。」
「ありがとう。自信ついた。」
男の子は、笑いながら行った。

「ほら、次、あのサラリーマン風の大人に聞いてみよう。」と美雪。
美雪は、サラリーマンに聞いた。
「ええ??君は女の子だよ。
 男はね、本能的に分かるんだよ。
 女の子がそばに来ると、ビビっとね。
 おじさん、今ビビッときてる。君、女の子ばればれ。
 ははは。」
と笑って歩いて行った。

直子は、ものすごくおもしろがっていた。
「これ、やめられない。」と美雪
「うん。楽しくって、ずっとやっていきたくなるよね。」
「うん。」
と直子は言って、幸せそうな顔をしていた。

美容院に入った。

出てきた直子は、ステキな髪型になって、一層可愛くなった。
2人で、パフェを食べに行った。
直子が言った。
「あたし、昨日死のうと思ってたことが、ウソのように思える。
 今幸せでいっぱい。美雪が全部そんな気持ちにさせてくれた。」
「ありがとう、そう言ってくれて。
 女になると、あたし優しくなるみたい。
 男のときは、アホなのよ。」
「そんなあ。あははは。」と直子は笑った。

美雪は、思っていた。
占いのおじさんから10円で買った「一生女の子でいられる薬」。
あれは、きっと直子のために、神様が自分の手に持たせてくれたものだ。
直子を一生女の子にしてあげたい。
でも、それまでに、いくつかのことをしなくてはならない。
まず、直子の親だ。
そして、学校。
まだ、あるかな・・・。

帰宅して、
美雪は、1つ、直也の高校に電話してみた。
「菅野美雪と申します。2年C組の安井直也さん、
 今日、出席していますか。私、アルバイト先のものです。」
「えーと、昨日から欠席ですよ。」
「理由はわかりますか。」
「ご家庭からの連絡がないので、確認の電話を入れました。
 熱があって休みとのことでした。」
「ありがとうございます。」

美雪は思った。
直子が、遺書まで残して家を出たのに、
学校にさえ、知らせていない。
直子が、親もダメだというのが分かる気がした。
すぐに、親へ連絡をとろう思ったが、明日でかまうものか。

「直子、家への連絡、明日にする。」
「うん。あたしのことなんか探してない。
 連絡なんかいらないくらい。」
「そうは、いかないけどね。」

昼はおいしくて有名なラーメンを食べた。
直子も大好きだという。

美雪は、直子が可愛くてたまらなかった。

夕食は、家で、ハンバーグを作って食べた。
直子は料理上手で、ほとんど作ってくれた。

直子は、美雪の小説のあれこれを語った。
「あたし、『ウエルカムGID』に心から感激した。」
「そう、あれいい?」
「うん、先生のGIDものの最高傑作だと思う。
 あれ読んで、自殺を止めた子が、きっと大勢いる。
 GIDであることに、希望を持たせてくれる本なの。
 あたし、あの本を読んだから、ここまでこれたの。
 でなきゃ、とっくに死んでた。」
「そうなんだ。うれしいな。
 あたしが、書くもの、けっこう役に立ってるんだ。」

「役に立ってるなんてものじゃなくて、あたしのバイブルなの。
 布でカバーをして、今も、かばんの中に入れてあるの。
 家を出てからも、何度も読んでた。」
美雪は、うれしく思った。
美雪は、直子のためなら、誰とでも戦おうと思った。


つづく(次回は、「直子の家族、乗り込んでくる」です。)




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女装小説家・菅野美雪⑤「GID安井直也」

明日、用があり投稿できませんので、明日の分を今投稿します。
今日このシリーズを終わりまで書きました。すると、今までで、最長のものになってしまいました。
本日登場する男子・安井直也のことについて最後までつづきます。がんばって書きました。最後まで、お付き合いくだされば、こんなにうれしいことは、ありません。

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例の薬を買って1週間後、美雪は、
またあの占いのおじさんのとこへ行ってみた。
そのときは、坂井ミユになっていた。
テントに灯りが点いている。
テントの幕をくぐって入った。
おじさんが、いるではないか。
「わあっほう!」と美雪は叫んだ。

自分で勝手にイスに座った。
「お久しぶり。」と美雪は言った。
「はて、誰じゃったかの。」とおじさんは、きょとんとしている。
「あたしよ。青い薬と白い薬を30万円で買って行った。
 見て、お陰で、いい女になれたわよ。」
おじさんは、目を丸くした。
「なんと別ぴんじゃの。なら、あの薬は本物じゃったか。」
「あらあ?ニセ物だと思って売ったのお?」
「あはは、まあまあ。」とおじさんは、ごまかし笑いをした。

「でさ、あたし、6セットも買ったけど、毎日呑んだら
 あの数では、3年以内になくなってしまうと計算したの。
 でね、一生女でいられるお薬ないかどうか、聞きにきたの。」
「その気持ちは、虫メガネを使わんでも分かるの。」
「あるの?」
「ある。」
「えええ?!!」と美雪は乗り出した。
「今見せよう。」
おじさんは、小さな細長いプラスチックケースを出した。
紫のビロードの台座の上に、
おごそかにピンクの錠剤が5つ並んでいる。

「わあお、今度の薬は、特別扱いじゃない。」
「じゃろう。いかにも効きそうじゃ。」
「一生女にしちゃうのね。」
「そうじゃよ。」
「一生男にする薬と間違えてないわよね。」
「男にするのは、これじゃ。色が青じゃ。」
「ピンクと青。トイレみたいに間違えないわね。」
「そうじゃ。」
「買う、いくら?」
「10円でいい。」
「一生よ。10円なの?」

「あはは。実は、あんたに前売った薬は、
 わしが、マーケットで6セット600円で仕入れたんじゃ。
 本物かニセ物か、知らずにな。
 それを、1セット5万円とあんたにふっかけてみたらさ、
 あんた、買いよった。
 そのあとわし、良心がとがめての。
 こんなわしでも、良心はあるんじゃよ。
 で、あんたが、もう一度来たら、このケースの薬を、
 10円で売るつもりだったんじゃ。」

「1セット100円のものを、5万円で!
 ふふ、おじさんもワルじゃのう。」と美雪はおじさんを見て、にやりと笑った。
「しかし、ケースの薬が本物じゃったら、5人の子を救えるじゃろう。
 ほれ、性同一なんとかいう男の子をのう。」
「性同一性障害。おじさん、お年のわりに知ってるね。」

「青と白のは、もうないの?」
「ない。せいぜい節約しながら、使っておくれ。」
「じゃ、10円ね。」と美雪は、10円を出し、立った。
「その薬が本物かどうか、わしゃ知らんからな。」
「ダメ元、ダメ元。」
美雪は、そう言って、おじさんのテントを出た。

100万円を用意してきた美雪だった。

この薬が本物かどうか。
自分で試すわけにはいかない。
美雪は、一生男がいいと思っている。
ときどき女になるのが楽しい。
女になってしまったら、女装の楽しみがなくなる。
しかし、今日のピンクの薬。
持っているだけで、楽しみ。
くくくっと美雪は笑った。



美雪が、ピンクの薬を手に入れたことを知るかのように、
運命の矢が、美雪に放たれた。

翌日、美雪の本を出している秋風書房から電話があった。
電話は、編集長の鳥居からだった。
「菅野美雪先生、ご在宅ですか。」
「はい。私です。なんですか、編集長直々に。」と美雪。
「えーと、それがですね、
 今ここに高校生の子が来ているんですよ。
 かなり思いつめていて、明日にも死ぬ覚悟だというんです。
 でも、死ぬ前に、一目尊敬して止まない
 菅野美雪先生にお会いしたいと言うんです。

 見たところ女の子になりたい青年で、親も学校の先生も、
 だれも自分を理解してくれない。
 学校のいじめも、ひどいらしく、でも、家庭に理解がないので、
 不登校をさせてもらいない。
 昨日、道路の陸橋から飛び降りようとしたけど、
 菅野先生に会ってからと
 思いとどまったとのことなんです。
 彼に、菅野先生の住所と電話番号を教えて、
 訪ねさせていいでしょうか。」

「はい、わかりました。お待ちしてますと言ってください。」
「安井直也という子です。」
「はい、OKです。」
 
わあ、これは大変と美雪は思った。
男の子の命がかかっている。
その子にとって、憧れの自分は、
綺麗なお姉さんであった方がいいと思い、
青い薬を呑んだ。
今は、3分で効くことが、わかっている。

オシャレ服より普段着がいいと思った。
水色の袖なしの木綿のワンピース。
部屋のごちゃこちゃの資料を片付けた。
自殺を覚悟した子だ。
何か甘い物を買ってこよう。
ケーキ屋さんで、ジャンボ・シュークリームを4個買った。
(一人二つ。)
ああ、暑い中来るんだから、
冷やしたタオルがいるな。
冷蔵庫に濡らして巻いたタオルを入れた。

もういいかなと、6畳の真ん中に小机を出して、彼を待った。
ふと、自分は、なかなかいい人間だなと思った。

やがて、ピンポーンと鳴った。
美雪は、すぐにドアを開けた。
顔を見せたのは、背は、160cmくらいの可愛い男の子だ。
髪は普通の長さ。
リュック型のスクールかばんを背負っていた。

「あのう、菅野美雪先生のお宅でしょうか。」と安井直也は言った。
「そうですよ。直也君ね、あがってください。」
美雪は、そう言って、直也を小机の座布団に座らせ、
冷蔵庫のタオルを取りに行った。

「先生は、今いらっしゃらないんですか?」と直也は聞いた。
「ええ、今ちょっとね。」と美雪は、
すぐに「私です。」とは、なぜか言えなかった。

「はい、冷たいタオルよ。」
「ありがとうございます。ああ、気持ちいい。」
と直也は言った。
「菅野先生は、美雪ってお名前だけど、男性ですよね。」と直也は聞いた。
「ええ、そうよ。先生女装が好きだから女名前なの。
 あ、あたしは、坂井といいます。」美雪は名乗った。
「ぼくは、安井直也です。」と彼は言った。
「女の子になりたいのよね。女装じゃなくてGIDさんよね。」
「はい、そうです。」

直也は、学校の制服を着ていた。
堅苦しいだろうと思った。
「直也君に、女の子の服もってくるね。」
美雪は、そう言って、女の子の下着一式と、
赤に白の水玉のワンピースを出して渡した。
「わあ、いいんですか。」と直也は目を輝かせた。

お風呂場で着替えて来た直也は、まるで女の子だった。
「今時暑いけど、髪を少し長くしましょう。」
美雪は、直也をドレッサーに連れていき、
ショートのボブへヤーのカツラを被せた。
直也は喜んでいた。
その姿で、直也は完璧に女の子になった。
「これから、自分のこと、『あたし』って呼ぶのよ。」
「はい。あたし、心の中では、いつもそう呼んでいるから、使えます。」

美雪は、直也を観察しながら、この子は心の奥まで女の子だと思った。
仕草や表情、全てが女の子だ。
「坂井さんは、すごくお綺麗ですね。モデルの坂井ミユさんに似てます。
 あ、苗字も同じだ!」
と直也が言った。
「え?知ってるの、坂井ミユ。」
「ファッション雑誌『CaMie』のモデルさん。
 あたしの好きなモデルさん、ベスト3です。」
「そうなんだ。あたし、ミユちゃんほど、綺麗じゃないわ。」
「ううん。お姉さん、同じくらい綺麗。
 ドアを開けてもらって、お姉さん見て、胸がキュンとしました。」
「直也君は、女の子なのに、キュンとするの?」
「しますよ。女の子でも、可愛い子や綺麗な人は大好きです。」

「ふーん、そうなんだ。あ、シュークリームがある。」
美雪は、急いで取りにいった。
「一人2個よ、食べられるでしょう。」
「わあ、うれしい。」

2人で食べていた。

そのうち、直也の目が潤んできて、直也が泣き出してしまった。
「先生のお宅で、こんなに温かくしてもらって、うれしい。
 それなのに、自分の家で、くつろげないのが、悲しい。
 学校は、地獄。だれも助けてくれない。」
その後、たくさん辛いことを口に出した。
美雪は、目が潤んでしまい、直也の後ろに行って、
直也を背中から抱いた。ずっと抱いていた。


つづく(次回は、「直也、青い薬を呑む」です。)




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女装小説家・菅野美雪④「高校生2人の願い叶える」

美雪は、毎日は女になっていられないことがわかった。
身がもたないのだ。
綺麗なお姉さんでいることは、疲れる。
世の綺麗なお姉さんは、
よく毎日綺麗なお姉さんでいられるものだと感心した。

午後3時ごろ。
今日は、3日ぶりの坂井ミユになって、
家から一番近いコンビニに向かっている。
白いワンピース。ちょっとメイク。
元がいいと、ちょっとのメイクで十分だ。
長い髪をさらりと後ろに流している。

すると、何か後を付けられている感じだ。
1人、いや2人だ。
座頭市の気分で耳をすました。
2人がかなりそばに来たとき、
わあ!と言って後ろを向いた。
わあ!と同じ様に、男子高校生2人が驚いて抱き合った。
「君達、あたしの後付けてた?」と聞いた。
「はい、すいません。」と高校生2人は、殊勝である。

「なんのご用。あたし暇だから、たいていの用は聞くわよ。」と美雪。
『おい、お姉さん、暇なんだって。頼んでみようぜ。』
と、太目の人のよさそうな子が、メガネを掛けた色白の細い方に言った。

「あ、あのう、お、お願いがあります。」
太目くんは、カチンカチンになっている。
「ちゃんと聞くわ。このコンビニ、テーブル席があるから入らない?」
と美雪は行って、中に入って行った。
2人は後からついてきた。
ソフトクリームを頼んで、テーブル席に座った。
2人の分はおごった。

2人が言うには、こうである。
男女共学のクラス。
女子は全員セックスの経験あり。
男子は、2名を除いて経験あり。
その2人こそ目の前の2人なのだった。
みんなにからかわれて、破れかぶれで啖呵を切った。
「えーい、1週間で、綺麗なお姉さんとやってやらい。
 証拠に、いっしょにプリクラを撮ってきてやるわい。」

「というわけなんです。それで、あなたが綺麗なお姉さん。
 ぼくたちに、そのお、セッ・クスを教えてください。」
太目君は、太田と言った。
細メガネ君は、細井と言った。
「あたしは、美雪。」と名乗った。

「いいわよ。あなた達の気持ちわかるから。
 あたしもモテなかったのよ。
 どんどんイジけて、ますます女の子に声掛けられなくなるのよね。」
「ええ?お姉さんみたいな綺麗な人が、ぼく達の気持ちわかるんすか?」
と太田が言った。
「あ、そうか。あたし、今綺麗なんだっけ。」
「ええ?」と2人はまた言った。「今の発言、理解不能っす。」
「あ、まあまあ。あたし、バージンだろうけど、あんた達にあげる。」
「ええ?だろうけど~ですか?またまた理解不能っす」と2人は言った。
「まま、いいじゃない。とにかくOKよ。」
「お姉さん、最高っす。俺らみたいな、女からガチ縁のない奴らに。」
「もう、泣けてくるっす。」
「じゃあ、あたしのマンションいきましょう。」と美雪は言った。

美雪は、2LDKのマンションに二人を招待した。
「女性の部屋じゃないっすね。」と細井がいう。
(痛いところ突くなあ。)
「となりのベッドルームましよ。」と美雪。
「ほんとだ。ここは、綺麗っすね。」と2人。

2人に紅茶を出して、飲み終わった頃。
「じゃあ、どっちからやる?」と若者に聞いた。
太田が、
「おれ、経験なくて、何していいかわからないっす。」
「あたしも、初体験だから、研究しましょう。」
「ええ?」と太田が言った。
「お姉さんほどの美人が、初体験って、
 バージンは本当だったんすか。」太田は言った。
「ちげーよ、太田。お姉さんは、
 俺達が劣等感持たないように、ああ言ってくれてんだよ。」と細井が言った。
「そうか、お姉さん、最高っす。おれ、感激っす。」と太田が言った。

太田を連れて、ベッドにいった。
「パンツ、だけになって。あたしは下着だけになるから。」
「綺麗なお姉さんの下着姿。俺、もういっちゃいそうっす。」
「多分、大丈夫よ。」
「多分っすか?」

美雪は、ワンピースを脱いで、白いスリップを着た。
考えると、自分も男子を相手に、女のあそこを使うのは初めて。
こんなことなら、自分でやって、練習しておくんだったと、美雪は少し後悔した。

「毛布にいっしょに入ろう。」と美雪は言った。
「はい。」と太田は、ガチガチになっている。
「キ・スしようか。」と言って美雪は、太田を抱いて、キ・スをした。
太田は、「うっ。」と言って、その後、しょんぼりした。
「どうしたの?」と美雪。
「お姉さんみたいな綺麗な人にキ・スなんかされたから、撃沈っす。」
「もうイっちゃ・ったってこと?」
「はい。すいません。」
「あらあら。」

美雪は、濡れタオルで拭いてやり、自分のトランクスを出してきて、
新しいトランクスをはかせた。
「お姉さん。こんなトランクスがあるってことは、
 彼がいるんすね。やっぱり俺達のために、
 バージンだって言ってくれたんすね。最高っす。」
太田は、えらく感動していた。

「あなたは、気が回り過ぎ。いろいろ考えないの。じゃあ、細井くんと代わって。」
細井がやってきた。自分から服をぬいで、トランクス1枚になっている。
「毛布に入って。」
「はい。失礼しまーす。」
(ここは、職員室じゃないのよ。)
細井にキ・スをした。
「ああ、感激っす。」
「じゃあ、あたしのオッ・パイをもんで。」
「はい。失礼します。」
細井は、けっこう上手なのだ。
ちぶ・さの先が気持ちがいいことを知っていて、指でくりくりしてくる。
美雪は、思わず声を出した。
「あ…ん。あ…ん。」

「じゃあ、ここ、こす・って。ここが一番のスポットなの。」
美雪は、下半身のポイントに案内した。
「はい。失礼します。」
細井は、忠実に言われた通り、攻めて来る。
美雪にとって、初めてのタッチである。
どんどんぬ・れてきてしまった。
バー・ジンかもしれない。
美雪は、ねんのため、お尻の下にバスタオルを敷いた。
細井のあいぶがじょうずで、
美雪は、あられもない声をどんどん上げた。

「ああ、もうだめ。入れて。」
と言って、細井のあれを、じぶんのあそこに導いた。
「ピストン運動でしょうか。」
「ええ。やって。」
「失礼します。」
と言って、細井はどんどん突いて来る。
ああ、すごいかいかんだ。
美雪はたまらずに、大きな声を上げてしまった。
ほんとだ、男の何倍もかんじる。
ああ~すごい、ああ~だめ…。

「美雪さん、俺、もうだめっす。
 美雪さんの声聞いたら、一気に来ちゃいました。」
「ええ、どうぞ。いつでも噴・射して。」
「失礼します。」と細井は言って、
「う、う。」とうめきながら、温かい液を美雪の中に入れた。

「はっ、中出しだ。」と美雪は思ったが、
男に戻れば妊娠はないだろうと思った。

「ありがとうございました。」
細井は、礼儀正しく礼をして、自分のものをティッシュで拭いた。

「太田君。あなたも、今度は大丈夫よ。
 いらっしゃい。」
太田は、細井のクールな様子を見て、落ち込んでいた。
しかし、2回目は、「うおーお!」と声を上げて、見事目的を果たしたのである。

プリクラの代わりに、デジカメのタイマーで写真を撮った。
一つは、美雪が下・着姿で、2人がトランクス姿。
2枚目は、みんな洋服を着て、肩を組んでいるもの。
それを、写真用紙にプリントアウトした。
「これがあったら、絶対す。」と2人は喜んだ。

「ね、せっかく知り合ったんだから、夕飯食べて行かない。
 すき焼きおごるから。」
うおーと二人はほえた。

鍋を突きながら、太田が言う。
「美雪さんは、菩薩様っす。ふつう、俺達なんか相手にしてくれないっす。」
細井が言う。
「もう、奇跡っす。美雪さんみたいな綺麗な人に、童・貞を捧げることができて。」
美雪は、
「ふふん。そう言ってくれるとうれしいな。
 また、お出でっていいたいけど、ほら、あたし彼がいるじゃない。
 だから、今日で終わりよ。」と言った。

「もう、今日だけで、十分す。一生忘れないっす。」と太田。
「美雪さんみたいな人、俺達には、もったいないです。」と細井。
「そんなことないのよ。あたしの書く小説ではね、
 謙虚で誠実な子が、最後にモテることになってるの。
 だから、2人はいい線よ。」と美雪は言った。
「美雪さん、小説家なんすか??」と2人は驚いた。
「まだ、卵。」と美雪。

「あ、その肉、まだ早い。」と美雪。
「待てないっす。煮えるの待ったら、取られます。」と太田。
「俺は、この肉、リーチです。」
「あはは。何か懐かしい。この肉の取り合い。」と美雪は笑った。
「懐かしい…ですか。」と細井が言った。
「うん、女も若いときは、食べるから。」と美雪。
「…美雪さん若いのに…ちょっと理解不能っすけど、まあ、いいっす。」と太田。

和やかな空気の中、夜になっていった。
若い2人に囲まれて、高校の日々を思い出す。
美雪は、ほのぼのと幸せだった。


つづく(次は、「美雪を慕ってきた可愛い青年」です。)




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女装小説家・菅野美雪③「ぼくは、多分バカだろう」

「だれ?わかんない。」と美雪は言った。
「あたしよ、あたし。」と言ってその子は笑いながら、手を取った。
見てみると、めちゃめちゃ可愛い子だ。
(マジ、好み。)と心で言った。
ミニの赤いスカ・ートにタンクトップの重ね着。
胸にジャラジャラしたネックレスをしている。

「だれだっけ?」
「え?うそー。どうかしたの。同じ雑誌モデルやってる小坂香里よ。」
「人違いしていない?坂井ミユさんと間違えてない?」
「ミユじゃないの?」
「ぼく、女装子、美雪。坂井ミユさん好きだから、メイク真似してるだけ。」

(これは、なかなかいい言い訳だと美雪は思った。
 それにしても、可愛い子だ。ストレートの前髪と、ロングの髪。
 こんな子が、目隠ししてくれるなんて。)

「美雪君、あなた男の子なの。絶対うそ。
 男の子でミユほど可愛い子なんてあり得ない。」小坂香里は言った。

「ほんとよ。なんだったら、さ・わ・ってもらってもいいけど。」美雪は言った。
「いいわ。トイレ行きましょう。美雪君が男の子のはずない。
 あたしをからかってるに決まってる。」と香里は言った。
駅ビルの端にあるトイレに二人で行った。
幸い女子トイレには、誰もいなかった。
二人で、同じ個室に入った。

「さわ・ってみ・て。」美雪は言った。
香里は、スカ・ートの上から、美雪の下腹・部を触った。
「膨らんでないわ。女の子じゃない。」
「後ろに回してるの。今、下・着下げるから。」
そう言って、美雪は、ガー・ドルとショ・ーツを下げた。」
「いいよ。ス・カートの中に手を入れて。」

美雪に言われ、香里は、ス・カートの中に手・を入れ、あっと叫んだ。
「ビデオのふた・なり物みたいに、ゴ・ムのあれを貼り付けているだけじゃないの。」
香里はまだ信じない。
「じゃあ、ちゃんとさわ・って。」
美雪は、香里のような可愛い子に触られて、少しぼう・ちょうさせていた。
香里は、再度手を入れた。
「わあ、さっきとちがう。生きてる。もういいわ。下・着を戻して。」
香里は言った。
驚きで、呆然としていた。

美雪が、下・着をちゃんと戻すと、香里は言った。
「ごめんね。本当にごめんなさい。
 美雪君の時間を邪魔した上、あなたを疑って、
 はずか・しいところさわ・ってしまった。」
香里はかなり落ち込んでいた。

「あ、気にしないで。ぼく、可愛い人好きだから、
 香里さんにさわ・られて、うれしいだけだったから。」
「あなたのさわ・ってしまったから、あたしのもさ・ってもらわないと、
 あたしの気がすまない。
 じゃあ、あたしのマンション来ない?」
(うそー、と思った。
 ここで触らせてもらえば、それで済むのに。ステップ早過ぎ。)
と美雪は心で言った。

「それとも、美雪君は、男の人が好きなの?」
「ううん。女の子が好き。大好き。ものすごく好き。」
美雪は、チャンスを逃すまいと、たたみ込んだ。
「じゃあ、夕食を食べて、それから行こう。」
「うん。なんか興・ふんして、気絶しそう。」
「またあ、美雪君は、大げさなんだから。」と香里は笑った。



香里とイタリアンの店に行って、お話をしたが、
美雪は、これからの展開に心が行ってしまい、
何を話したのかわからなかった。

タクシーを拾い、香里のマンションに着いた。
美雪は、反復していた。
香里のマンションに行くということは、
同じベッ・ドに行くということ。
香里が、あそこを触らせてくれるということは、
イコール セッ・ク・スということ。
あああ、どうしよう。

美雪は、今までモテないので、お金を出してのセッ・ク・スしか知らない。
女装子同士なら、かなりある。
今日は、記念の純女さんとのセッ・ク・スになるのか。
ああ、この期待に耐えられるだろうか。

「美雪君。ぼんやりしてないで入って。」
といわれた。
は、は、はいと舌がもつれた。

ソファーに座るように言われた美雪。
「あたし、シャワー浴びて来ていい。」と香里。
「あ、うん。」
ああ、シャワー、いよいよなんだなあと思って、体が震えてくる。

シャワーから上がった香里は、すでにスリ・ップ姿で来た。
黒いショ・ーツと黒いス・リップ。
香里が、美雪のとなりに座った。
石鹸のいい香りがする。

「あ、あの、香里さん。ぼく、まだ全然経験がないの。」美雪は言った。
「いいわよ。あたしがリードして上げる。」
「お、お願いします。」と美雪は言った。
「わあ、お願いしますなんて可愛い。」
美雪の心臓は、ドック・ンドックン鳴っていた。

「立って。」と香里。
美雪が立つと、香里は、美雪に身を寄せて、
ワン・ピースの背中のファス・ナーを下げた。
美雪からワン・ピースを取った。
香里は、ワン・ピースを丁寧に畳んで、ソファーに置いた。
(そう。女の子は畳むんだよね。)
香里は、美雪にピンクのスリ・ップを着せて、
ブ・ラを取った。

美雪と香里の背の高さは、だいたい同じ。
香里の細い腕が、美雪の首に絡みつく。
香里の口・びるが、美雪の口・びるに重なる。
(ああ、最高。)
香里の手が、美雪の胸をあいぶする。
(そうだ、胸は、これ初めて。)
ああ、気持ちがいい。女の子は、こんな風にかんじるのか。
肩の紐を一つはずして、香里が美雪の胸の先をかんできた。
あ…あ、すごい、だめえええええ。

香里がすーっとしゃがんだ。
美雪のショ・ーツを降ろす。
美雪のぎん・ぎんになった物が、香里の口に向かっている。
「あ…あ、こんな可愛い女の子に、こんなものがある。
 あたし、信じられない。」
そう言って、香里は、おいしそうにしゃ・ぶりはじめた。
だんだん勢いが速くなる。
「ああ、香里さん。ぼく、だめ、イきそう。」
「まだイっ・ちゃだめ。一時ストップ。」
香里は鼻にかかった声でそう言って、再び立った。

「ベッ・ドに行こう。」香里は言った。
美雪はそのとき、うぶな中学生くらいの男の子の心境でいた。
香里に手を引かれ、ベッ・ドに来た。

下着のまま、ベッ・ドに並んでのり、
1つの毛布を胸まで掛けた。
香里と向き会った。
「美雪は、高校生でしょう。」と香里が言う。
「えーと、ミユさんくらい。」
「ミユは、17。高2だよ。あたしは、19。
 美雪は、16くらいに見える。」
「そ、そう?」と美雪は聞き返した。

「ねえ、内緒で聞いてくれる。」と香里は話し始めた。
「あたしとミユさ、レズ・ビアンなんだ。
 あたし、男の荒っぽいの嫌い。
 男男した匂いも苦手。だから、男とできない。

 でも、美雪は男の子だけど、女の子の匂いがする。
 あたし、女の子の匂いに、くらくらっとするの。
 美雪は、女の子なのに、男のあれがついてる。
 ほとんど奇跡。
 あたし、一度でいいから、男のあれ、
 自分の中に入れてほしいと思ってるの。
 だから、美雪と寝ようとしてる。
 これ、ミユに対する浮気かな?」

香里は、聞いている。
美雪は、戸惑った。
本当は32歳だ。32歳の分別がある。
だか、香里に16歳と言われると、
思考が16歳になりそうになっている。
ああ、なんて答えるべきか。

2つの選択肢がある。一つ。
『平気だよ。レズの人は、男の子とやっても浮気にならないでしょ。
 他の女の子としてしまったら、ミユは泣くと思うけど。
 女装子は、けっこうフリーだよ。平気で相手変えてやってるよ。』

こう言えば、香里とセッ・クスができる。
しかし、美雪は、いつの間にか、もう一つの選択肢を口にしていた。

「よくわからないけど、ぼくとやって、
 そのこと、ミユさんに正直に言えばいいと思う。
 正直に言えないのだったら、今ぼくとしない方がいい。」

心の中で、バカバカバカと鬼が笑っていた。

香里は、美雪の顔をじっと見ていた。
そして、うなずいた。
「美雪は、純粋だね。美雪が正しいと思う。
 あたし、美雪とやってしまったら、ミユに言えない。
 だから、今、美雪とするの我慢する。
 いつか、3人で、3Pやろう。」

「うん。それ、楽しみ。」
「でも、約束だけは果たさせて。そして、キ・スを一回だけ。」
そう言って、香里は、美雪の手をとって、ショ・ーツの中に入れた。
そこは、少しうるんでいた。
そして、香里は、美雪の両頬に手を添えて、厚いくち・づけをした。



香里と別れて、西新宿の坂を登りながら考えていた。
『惜しいチャンスを逃しちゃったな。
 ぼくは、多分、バカだろう。』

美雪は、ミユのファンだった。
だから、ミユが悲しむことはできなかった。

新宿駅の屋上の明かりを見ながら、美雪は一言言った。
「まあ、いいか。」

つづく(次回は、「男子高校生にサービス」です。)




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女装小説家・菅野美雪②「ね、ね、あたし女に見える?」

美雪が、そのとき一番恐れていたこと。
『それは、全部夢でした。』というオチ。
頬をつねったり、逆立ちをしてみたり、いろいろした。
全部、夢ではないとの結果だ。
美雪は、これはいよいよ現実であると確信した。

こういう時、女になれた男が、真先にしてみることは何か。
この手の小説を熟読している美雪には、わかる。あれだ。
だが、それは、するまいと、女装作家のはしくれとして美雪は思った。
もっとユニークに行かなくっちゃね。

ちゃんとブラをつけて、
美雪は、花柄のオシャレなワンピースを出した。
肩見せ、紐は、首の後ろで結ぶ。
元が可愛いから、なんでも似合う。

髪はポニーテール。
サンダルを履いて、小さなバッグを提げて、外に出た。
ああ、世界が違う。
キャリアだけは長い美雪は、女の歩き方、仕草くらいは、マスターしていた。
美雪は、歩きながら、ショーウインドウに映る自分を見た。
スカートが風にはためいている。
ああ、感動!

前から、小学2年生くらいの女の子が二人きた。
美雪は、かがんで聞いた。
「ね、ね、あたし男で、女装してるの。一応女の人に見える?」
「うん、見えるよ。絶対男の人に見えない。」
「すごく綺麗。」
と女の子達は言ってくれた。

これが、美雪の考えた「ユニークなこと」である。

中1くらいの男の子が来た。
「あのさ、あたし男なんだけど、女装してるの。
 一応女に見えるかなあ。」
その子は、笑って、
「完璧に女の人。女装って嘘でしょう。」
と言った。
「わあ、そこまで言ってくれるとうれしい。」

美雪は、うきうきしながら歩いた。
しかし、こんなこと聞いて歩く女って、相当変だな。そうも思った。
ああ、でも、これ、やめられない。

コンビニチェックをしなくちゃ。
コンビニに入る。レジは、高校生のバイトの女の子だ。
ガムを買った。
その女の子は、すごい速さでキーを打つ。
おつりをもらったとき、
「あたし、女装してるんだけど、女で通った?」
と聞いた。
「え?男の人なんですか。絶対ウソ。絶対見えない。」
「ほんとに、ほんとに?」と美雪は聞く。
「ええ??すっぴんですよね。絶対、信じられない。」
と女の子は言った。

わあ~、だいぶ満足してきたぞ。
まだ、女でいることに慣れてないから疲れてきた。
部屋に帰ろう。
そう思って、一端引き上げることにした。



6畳の部屋で、大の字になっていた。
女の喜びをためすのは、まだまだ、お楽しみにとっておく。
美雪は、そのとき、ふと思った。
女装子は、あそこが男だから、醍醐味がある。
今の自分は、ただ女でいるに過ぎない。
今くらいの美貌で、あそこに男のあれがあれば感動だ。

美雪は、白いビンがあることを思った。
なんとか、あそこだけ男にする方法はないか。
美雪が記憶する過去の女装小説には、こんなシチュエーションはない。
白い錠剤を、4分の1にして呑んだらどうなるか。
全体に少し男っぽくなってしまうのか。

ずーと考えていて、「そうか!」と起き上がった。
美雪は、引き出しを探し、「ピルカッター」なるものを見つけた。
これは、溝のない錠剤も、
2分の1、4分の1に、カットすることができる優れ物だ。
美雪は、それを使い、白の錠剤を4分の1にカットした。

そして、ネットのAVサイトに行き、
男のものがはっきり見える画面をさがし静止画にした。
よし!
美雪は、その男の証をじっと見つめながら、
白い錠剤の4分の1を呑んだ。

反応が速い。
2分も経たないうちに、自分のあそこに男の物が生えてくるのがわかった。
『やった。あたしって、天才かしら。』と思った。

ドレッサーの前に立った。
ショーツを抜いだ。
完全な女の子。
スカートを徐々に上げていった。
やがて、こかんに見えたものは、立派な男のもの。

美雪は、一気に興奮した。
「ああ、坂井ミユちゃん、あなたは、男だったの。」
と言って見た。
「あなたみたいに可愛い人に、こんなものがあるなんて、
 ウソでしょ。信じられない。絶対ありえない。」
そう独り事をいうに従い、男のものがどんどん大きくなり、
天井を向いてくる。
ああ、たまらない。

美雪は、ドレッサーに座った。
そして、自分のあれに、ゴムをかぶせた。
そして、鏡に可愛い姿の坂井ミユを見ながら、
大きく固くなったものをなで始めた。
同時に、下半身を見ながら、
倒錯的な喜びに震えた。
「いや~ん、いや~ん、あたしにこんなものついてる。
 あたし、男だったの?うそよ、うそよ、あたしは女よ。
 ああ、でも、ちゃんとあるもの。うそー、気が狂いそう…。」
美雪は、そう可愛い声で言いながら、
やがて、背を反らせ、
ビクン、ビクンとなり、果てて行った。

『あああ、やっちゃった。今日は、あと1回しか出来ないな。』
そう思った。



女になった体で、昼寝はもったいないが、
身が持たないので、2時間ほど寝た。

夕方になり、繁華街に行きたくなった。
あそこに男のものがあるままの女装はなれている。
あそこを、股の後ろに回し、タマタマは、体内にしまい、
ショーツで抑え、念のためガードルを履いた。

メイクをすると、驚くほど美人になった。
さっきの花柄のワンピースで、新宿に出かけた。
電車の中で、2度もチカンをされた。
男の身には、そう悪い気分ではない。
電車の中でもジロジロと見られた。
自分が、キレイだからだと思った。
こんな気分、今まであり得なかった。

新宿駅で、外に出るのはまだ怖いので、
駅ビルのブティックの並びを見ていた。

あるドレスを熱心に見ているとき、
「ミーユ。」と言って、誰かに目隠しをされた。
声と指の感触では、女の子だ。


つづく(次回は、「証拠を見せて!」です。)




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女装小説家・菅野美雪①「女になれる薬とは、いかに」

女装小説を書いている私が、女装小説家の話を書きました。
因みに、モデルは、私ではありません。彼はプロ。私はアマです。
読んでくださるとうれしいです。

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暑い夏の日のことである。
女装小説作家・菅野美雪・32歳・男子は、
6畳の部屋にごろんとしていた。
「何か、いいネタないかなあ。
 もう、ネタ使い切っちゃったよ。」
と独り事を言った。

女装小説を書くあたり、彼も女装愛好家である。
赤いミニの肩見せのワンピースを着ている。
一応女性のショーツを履いている。
暑いのに、かつらを被っている。
ブラは手抜きでしていない。
男のあれも、股に回して押えるなんてしていない。
メイクはリップだけ。
かなり、手抜きな女装愛好家であった。

一昨日、ネタがないので、占い師のところへ行った。
薬屋の外壁を使い、テントを張ってやっている。
夜なので、一応の女装をして行った。
メイクもがんばって濃い目にした。

男性の75歳くらいの占い師は、
大きな虫眼鏡で、美雪の掌を見て、
「ははん。あなたは、女性の身なりをしているが、男性じゃな。」
と言った。
(あたしを見りゃわかるでしょ。)と突っ込みたかったが、黙っていた。

「ひょっとして、苦しんでおられる。」
(だから、来てるの!)
とまた、心の中で突っ込んだ。
「それは、ネタが浮かばないという苦しみじゃな。」
(お。けっこうまともな占い。)
「いい女になれないという苦しみもあるな。」
(そうそう。でも、それ、あたし見て言ってんのね。)
「苦しみから逃れたいと思っておるな?」
(ふつう、そうでしょう!おじさんレベル落ちて来たよ。)

「では、あなたにネタが浮かび、いい女になる道を授ければいいんじゃな。」
「そ、そうです。でも、無理でしょう。」と美雪。
「道がなくもないが、あんたは、信じないでしょう。」
「え?あるの。今、ワラでもつかみたい気持ちなの。」
「これじゃよ。」
と占い師は、二つのビンを出した。
一つは、青い錠剤。もう一つは、白い錠剤。
「青い錠剤を呑めば女になる。白を呑めば男に戻る。」
とおじさん。

美雪はがっかりした。
「おじさん、そう来ると思った。そういうのさ、もう古いの。
 もう30年前のネタなのよ。やめてくんない。」美雪は言った。

「ほら、あんたは信じないと言ったでしょう。
 ワラをもつかみたいと言ったから、取って置きを出したのに。」
「何言ってんの。『取って置き』なんて言って、
 女装マニアが来るなんてわからないでしょう。

 おじさんは、恋に悩む乙女がきたら、
 恋愛が叶う薬じゃよ…と言って、その同じビンを出す。
 金がなーいって客が着たら、金の出来る薬じゃよ、
 といって青か白のどっちかのビンを出す。
 なんでも、都合のいい薬なんだから。見え見えですよ。」

「じゃあ、やめようかの。」おじさんは、ビンをしまおうとした。
「だめ。買う。」と言って美雪はおじさんの手を止めた。
「なんだ。買う気あったの。じゃあ、ごちゃごちゃ言わなきゃいいのに。」
と占い師は、美雪を上目遣いに見た。
「えへへ。一応言ってみたの。」と美雪は舌を出した。
「いくら?」と美雪。
「5万円。」
「うそー!」
「どっちで驚いとるんじゃ。高くて?安くて?」
「安い。だから、今あるの全部ちょうだい。」
「6セットあるが、30万円ぞい。それほど信じるのかい。」
美雪は、そんな気がして、大金を持っていたのである。

「こういうストーリーってさ、疑って『捨て金でーい』みたいに1セット買ってさ、
 家に帰って試したら、正真正銘本物!で、すぐにもっとと買いに行ったら、
 おじさんは、もうそこにいない。こうなるに決まってるんだよね。
 だから、あたしは、そんな馬鹿をしない。全部買うの。
 はい。30万円。見料は、込みでいいでしょ。」

「あんたも、変わった人だねえ。」
「賢い…と言い直して。で、一錠で何時間効くの?」
「24時間。」
「寝てる時間、もったいないね。」
「あんたも、細かいの。彼と一晩を共にする。
 朝になって男にもどっとったら、具合の悪いこともあるじゃろが。」
「あ、なーるほど。おじさん、ナイス説得力。」

美雪は、紙袋に6セットの錠剤を入れてもらい、ほくほくと家に帰った。
帰ったものの、すぐに呑みはしなかった。
パソコンのそばに置き、1日待った。

そして、昨夜と同じ時刻に、自転車を走らせ、
おじさんを見に行ったのである。
すると、おじさんのテントの明かりは消えていた。

「ほーら見ろ。こうなんだよ。本物だとわかって再び来てみると、
 ああ、もうおじさんは影も形もないのでした。
 あははは。全部買っておいたぼくは、勝負に勝った!」
と美雪は、興奮したのだった。
(おじさんにも、定休日がある。
 そんな、発想は、美雪にはないのだった。)



おじさんがいなかったことに安心し、
美雪は、なんと次の1日、30万円も出した薬のことを忘れていたのである。
そして、気がついたのは、その翌日の昼、
暑くて、6畳間でごろごろしていたときである。
はっ。あの薬をまだ試していない。
美雪はとび起きた。
パソコンの横の紙袋から、青いビンを取り出した。
小机を寄せて、その上にビンを乗せた。
そして、正座をして、ビンと対面した。
美雪は、本物であることを少しも疑っていなかった。

そうか、と気がついた。
女になるだけじゃだめ。いい女にならなくては。
美雪は、古今東西の女装小説、漫画の中から、
いい女になる方法の記憶を手繰っていた。
一つあった。あの話。
それは、いい女の写真を見ながら呑むことによって、
その女になれる。
これだ、と思い、美雪は、女性のファッション誌を取り出した。

美雪の大好きなモデルさんがいる。
この人。見つけた。
坂井ミユさんなんだよね。うふふ。
夏の号で、ちょうど彼女も夏のスタイルをしている。
美雪は、コップに水を用意した。
坂井ミユさんを見る。
薬の蓋を開ける。
薬を呑むとき、手がぶるぶると震えた。
口の中に入れる。
水を口に入れて、一気に呑む。
目をつぶって、静かに待った。

胃に入った薬が、腸に入り、吸収され始める。
15分がたち、もういいころかな?
怖くてたまらない。
一度に鏡を見るなんてできない。
薄目を開けて、手の甲を見てみた。
爪を見た。
おおお。女の子の爪だ。指が細い。女の子の指だ。
期待に胸が爆発しそうだった。

目を閉じて、胸を触った。
おおお。ある。女の子の胸がある。
ほんとだ。本当にある。

美雪は、立ち上がって、鏡をのぞきにいった。
ドレッサーの前に立ち、あごから見て、鼻、目と見て行った。
鏡には、大好きなモデル・坂井ミユさんと
同じ女の子が映っている。
髪までが長くなり、それをポニーテールにしている。

美雪は、赤いワンピースを脱いで全身を見た。
身長163cmくらいか。
抜群のスタイルの女の子が映っていた。
喜びが胸の奥から湧いてきた。
美雪は、それをそのまま言葉にして言った。
バンザーイ!!


つづく(次回は、「坂井ミユになって」です。)




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KDDのハプニング②「二人のがんばり」最終回

KKDの頂点にいた野原と中村の突然の引退は、
全国のファンに衝撃を与えた。

記者会見では、森下と野原、中村が出席し、森下から出来事が伝えられた。
グループの鉄則である「ジェラシーは禁止」というものにケチをつける発言を野原がして、
中村がそれにうなづいた。
同席していた、野原と中村は、森下の言葉に少しも間違いはないと言い、
全ては自分たちが悪く、辞めさせられて当然だと思っていることを述べた。

記者の一人が発言した。
「たった一言で、また、それに相槌を打っただけで、除名というのは、
 少し厳しすぎないかというファンの思いもあると思いますが、どうですか。」

森下が答えた。
「KKDは、36名からなるグループです。
 みんな、一人でもいい、追い抜きたい、
 トップに立ちたいと思っている子ばかりです。
 そういう子36名を維持して行くためには、
 鉄則がなくてはなりません。
 いままでも、その鉄則を破ったものは、除名してきました。
 それによって、今のKKDがあるのです。
 この二人は、トップに立つまでに、
 何人もの先輩を抜かしてきたのです。

 しかし、抜かされた先輩達は、どんなに悔しくても、
 それを言動に出さなかった。
 だから、足を引っ張る子もいなかった、
 嫌がらせをする先輩もいなかったのです。
 そういう先輩達の我慢の上に今の二人はいるのです。
 もし、無法地帯のようなKKDなら、この二人は先輩達の嫌がらせで、
 とっくに自分から辞めていたかもしれません。

 野原と中村は、こと先輩の意地悪については、
 苦労知らずにきたのです。
 しかし、その陰で泣いていた先輩達の姿を、
 忘れてはならなかったのです。
 その先輩達の思いを知るならば、
 今回のような言動は取らなかったでしょうね。」

記者B。
「ついうっかりということもあるのではありませんか。」

森下。
「記者さんともあろう方が、何をおっしゃるのです。
 大臣だって、一つの失言で辞任されるではありませんか。
 それは、その失言が本音なのだろうと国民が見るからです。
 野原の発言は、ついうっかりではなく、本音だろうというのが、
 一般の味方なのではないでしょうか。
 私も本音であったのだろうと思っています。」

記者C。
「野原さん、その発言は、本音だったのですか?」

野原は、泣き始めた。
「はい。厳しい規則に対する反発が自分にあったのだと思います。
 しかし、その厳しい規則のお陰で、
 自分が今の立場に立てたのだという認識が、
 自分に欠けていました。
 今回除名と言う処分を受けて初めて、先輩たちが
 私を妬ましく思っても、
 一切口に出さずにいてくれたことを思いました。
 私は、増長していました。傲慢でした。いくら反省しても足りません。
 ここで、もし私が許されたりしたら、
 今まで規則を破って除名された先輩たちに、
 私は、会わせる顔がありません。」

記者D。
「中村さんに聞きます。相槌を打っただけということですが、
 除名は厳しいのでは。」

中村。
「除名されたとき、厳しすぎると思ったり、
 私に話しかけた野原さんを恨んだりしました。
 でも、あれからよく考えて、
 私は、野原さんと同じだけ悪いと気が付きました。
 野原さんに同意してしまえば、2人の勢力になります。
 これは、すでに1人より強いので、
 この2人に意見できる人はいなくなります。
 それが、やがて3人になり、あっという間に、
 全員を仲間にしてしまいます。

 私が、中学校のとき、ひどいいじめがありあましたが、
 この通りだったのです。
 だから、話しかけられた人が、しっかりしていれば、
 グループは崩れません。
 私は、野原さんから話しかけられたとき、
 『しー!』と反応していれば、
 野原さんもはっと気がついてくれて、
 こんなことにならなかったと思っています。

 森下先生は、『相槌を打っても同罪』とこれまで、
 何度もおっしゃいました。
 そのわけも何度も聞いていながら、
 自覚のなかった自分は、除名されて当然だと思います。」

記者E。
「森下さん。二人は、立派に反省していると思いますが、
 それでも除名でしょうか。」

森下。
「それは、さっき申し上げたとおりです。
 すでに、規則を破って除名された子たちが何人もいるのです。
 ここで、二人を許したのでは、
 先に除名された子達に何と言えばいいのですか。言葉がありません。」

記者F。
「しかし、年末のライブ・ツアーですが、
 この2人無しでは、興行成績に差し支えませんか。」

森下。
「差し支えますとも。
 完売するはずのチケットが、2割以上残るでしょう。
 私など、今、腹をぐっさり引き裂かれて、
 どくどく血を流していますよ。
 この二人をこれだけにするのに、
 プロダクションは一体いくら宣伝費を使ったか。

 彼女たちが、プロダクションに利益をもたらしてくれるのは、
 これからだったのですよ。
 この二人には、そんな自覚はなかったでしょう。
 全国のファンのみなさんがどれだけがっかりするか、
 その自覚もなかったでしょう。

 泥を被るのは、私ですよ。
 私は、この二人から、損害賠償をとるわけではない。
 この私こそ、この二人に、どうしてくれるんだと、
 詰よりたいくらいです。
 どんな大きな犠牲を払っても、鉄則は守らねばなりません。」

記者G。
「今、二人の除名を知って、
 KKDに戻してくれるように署名が行われていて、
 今、20万人、そのうち100万人を超えると見込まれていますが、いかがですか。」

森下。
「署名はいくらなさってもけっこうです。
 しかし、これまで申し上げたように、二人の復帰はありえません。
 彼女達の契約は、あと1年あります。
 この一年、プロダクションは、二人に仕事をあたえず、ただ遊ばせます。
 契約が切れた後で、再契約はありえません。

 ですから、1年後に、署名された方々が、
 二人に芸能活動を希望されるのはご自由です。
 また、どこかのプロダクションが、彼女たちと契約を結ぶこともご自由です。
 ただ、芸能界とは厳しいところで、3ヶ月活動を休止しますと、
 忘れられて、もう人気を得るのは、むずかしくなります。
 余程実力があり、個性をお持ちのアーティストなら別ですが。

 1年経っても、まだ、彼女たちを応援するという方の署名なら、
 二人にとっては、喜ばしいものでしょう。
 その署名運動は、是非1年後にやっていただきたいものです。
 果たして、何人の方が署名されるでしょうか。
 プロダクションへの売り込みに、
 何人の人が彼女達のために動いてくれるでしょうか。
 それは、ご想像にお任せします。」

記者H。
「ファンの中には、二人が許されるまで、テレビを見ない、
 ライブチケットも買わないという、
 言わば、ボイコットの意志を見せてもいるようです。
 それについていかがでしょうか。」

森下。
「一向にかまいません。
 しかし、それは、彼女たち二人を苦しめるだけではないでしょうか。
 自分達の犯した過ちの傷を深くするだけで、
 残ったメンバーにそれこそ合わせる顔がなくなりませんか。」

記者I。
「では、どんなことがあっても、二人の除名は撤回されないということですね。」

森下。
「はい。この記者会見は、放映されると聞いています。
 ファンのみなさまは、この記者会見をご覧になってから、
 書名なり何なりをお考えいただきたいと思います。」

森下のこの言葉で、記者の質問は途絶え、記者会見は終わった。

翌日に、記者会見の映像が3つの局から放映された。
その後、ファンの運動は、一気に勢いを失った。
ほとんどのファンが、森下の言葉に納得したからだった。
また新聞は、いじめの構造に関連させ、
KKDの森下の方針を絶賛した。
こうして、野原、中村の復帰の可能性はゼロに等しいものになった。



それから、1週間たったある夜、
野村有香と中村里美は、森下の部屋を訪れた。

有香が言った。
「お願いにきました。私達を、練習組に入れてはくださらないでしょうか。
 ただ、遊んでいるだけでは、つまらなすぎます。
 これからの人といっしょになって、自分を高めたいんです。」
中村が、
「できるお手伝いならします。
 もう、KKDに出して欲しいとは思っていません。
 私は、踊りや歌をもっと習いたいのです。
 基本からやり直したいんです。
 雑用ならなんでもします。」

森下は、うーんと考えた。
隣にいたコーチの杉田に聞いた。
「いいんじゃないですか。
 KKDを除名しただけで、プロダクションから除名したわけではありません。
 今まで除名した子達もそうですよね。
 二人は、練習組の子達の実力と比べたら、段違いだし、
 コーチの代わりに、マンツーマンで後輩を教える。
 二人は、何かしら、KKDにつくしたいんですよ。
 反省して、何か一つでも、役に立ちたいと思ってるんですよ。

森下は、
「記者会見でも言ってしまったので、二人の再契約はない。
 二人が、練習組に来て、腕を磨きたいと言うのなら、
 ダメだという理由もない。
 君達のファンも、二人がKKDのために尽くしていると知れば、
 喜ぶだろう。
 同時に、演技の勉強もしておきなさい。
 ここで、力をつけて、他のプロダクションンに
 入れてもらえるようがんばりなさい。」

わあ~と二人は飛び上がった。

以後、二人は、練習組で、模範となる行動をとった。
一番に着て、モップで床を全部拭き、先回りして、長机を出したり、
お弁当運びもやり、麦茶も毎日作った。
その片付けもやった。
コーチの指示で、後輩に踊りを教えることもやった。
うまく振りができないでいる子を、練習が終わってから、
マン・ツー・マンで出来るまで教えた。
本当によくやったのである。

ファンは喜び、プロダクションの許可を得て毎日のように写真をとり、
ブログで、「有香、里美の練習便り」を立ち上げた。
そして、毎日更新し、二人の活動を、熱く報告した。
有香、里美からの直接の書き込みも、どんどん入れた。

ブログでは、驚異的なアクセス数を記録し、それが続いた。
こうして、二人の人気は、ピークからある程度横ばいを続けることができたのである。

KDDの除名から、1ヶ月ほどたったとき、練習組のコーチに呼ばれた。
コーチは、名刺をくれた。
「来週から、金曜日、ここへ行って演技の勉強をしなさい。
 これは、プロダクションからではなくて、
 森下先生の特別な計らいだよ。二人がよくやっているからね。」
二人は飛び上がった。

1年後、契約が切れ、他のプロダクションから声がかかった。

契約の最後の日、二人は、森下に挨拶に言った。
演技教室のお礼を言った。
「この1年、よくがんばったな。
 あれだけの根性と気力があれば、
 どこへいっても大丈夫だ。
 おめでとう。」
と森下は、温かい笑顔を見せた。
二人は、泣いてしまった。

二人は、歌えて踊れる女優として、活躍していくことになる。


第一部<おわり>

※次回は、「女装小説家・菅野美雪」です。




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KDDのハプニング①「入団早々のハプニング」(第2話完結)

「女塾」をでた、近藤有紀と佐藤里奈が、人気歌手グループKKDに入団したばかりのときのパプニングを書いていました。それが、それだけで、長くなってしまい<第1部>として、それだけで、まず、終わることにしました。女装が出てこないのですが、がんばって書きましたので、読んでくださるとうれしいです。
尚、これはフィクションですので、登場人物に、特にモデルがあるわけではありません。

=================================

KKD36名が、練習スタジオに集合していた。
前で話をしているのは、全権をにぎるプロデューサーの森下だった。
森下の横に、近藤有紀と佐藤梨奈がいた。
女塾の卒業生の中で、悠子と仲のよかった有紀と、大阪出身の梨奈だった。
二人は挨拶をして、先月に2人抜けたところに座った。

森下は、力強く語った。
「いいか。今日新人が入ったから、またくどく言っておく。
 いままで、こういう多人数のグループは、いろいろあった。
 それが、短期間の内に解散になり、消えて行ったグループは数知れない。
 その原因は何か。
 それは、グループ内の「ジェラシー」だ。
 これが、グループの結束をダメにし、破綻に導いた。
 だから、このKKDでは、ジェラシーは、絶対の禁止だ。

 一人心の中で嫉妬するのはしかたない。
 誰だってするだろう。
 だが、その気持ちを誰かに言ったり、
 態度に表してはならん。
 だれかから、そんな陰口を聞いたものは、
 何を言われても無視することだ。
 聞かなかったことにして、その場を逃げ出せばいい。
 勇気があるなら、『そんなこと言わないで』と相手に言ってやりなさい。

 誰かの悪口を言った者とそれを聞いて相槌を打った者とは同罪だ。
 ジェラシーさえ表に出さなければ、グループは上手くいく。」

そのとき、KKDでも1番人気である野原有香が、
となりの2番人気の中村里美に、
「そう言ったってねえ。」と小声で言い、
中村は、野原の顔を見て、「うん。」とうなずいたのだった。

それを、森下にしっかりと見られた。
「野原、中村、立て。」と森下は言った。
二人はびくんとして立った。
「野原、今、中村に何と言ったか言え。」森下は言った。
野原は、うつむいたまま、何も言えずにいた。
「じゃあ、俺が言おう。『そう言ったってねえ。』とお前は言った。
 そう聞こえたもの手を挙げろ。」
周りの10人くらいが、すまなそうに手を挙げた。

「コーチの杉田君、間違いないかな。」と森下。
「はい。自分もそう聞きました。」と杉田。
「では、中村だが、『うん。』と言って、野原の顔を見て相槌を打った。
 中村、違うか。」と森下。
「はい、その通りです。」と消え入りそうな声で言った。
「始めに言った者と相槌を打った者とどちらが悪い?」
「同罪です。同じくらいに悪いです。」と中村は言った。

「お前達は、新人ではない。だから、俺のこの話を、
 何十回と聞いてきたはずだ。
 それなのに、未だにこれか。

 わかった。お前達は、もう来んでいい。KKDから除名だ。
 今すぐ出て行きなさい。」

森下の言葉に、二人は顔を見合わせ、「うそよねえ。」と言いたげであった。
「早く出て行け!」と森下は怒鳴った。

二人は、広間を出て、廊下に来た。
「ふん、一番人気の私をここで、辞めさせられるもんですか。」
と野原は息巻いた。

中村は、こらえていた怒りに、野原を壁に押し付け、何度も胸をぶった。
「何であたしにあんなこと言ったのよ。
 言われたら、友達のあんただから、あたしうなずいちゃうじゃない。
 あたし有香を無視すればよかったけど、
 仲良しの有香には、無視できなかった。

 あたしと有香は同罪だけど、
 あたし、有香みたいに思っていなかった。
 ジェラシーを表に出すのは本当にいけないと思ってた。
 どうしてあたしに話かけたの。
 独り事で言ってくれればよかったのに。

 森下さんが、一度だめと言ったら、例えトップアイドルだって、
 今まで、みんな辞めさせられてきたじゃない。
 もう、遅いのよ。もうだめなのよ。わかってるくせに。」
中村は、そういいながら、しゃがんで泣いた。

「謝ってもだめかな。」と野原は言った。
「だめよ。あたしたち、ジェラシーの話、何回聞いてきたのよ。
 古いあたしたちがお手本になるべきなのに、
 有香は、『だってねえ。』っていったのよ。
 そんなトップは、いらないのよ。
 あたしたちの代わりなんて、いくらでもいるのよ。
 あたしたちなんて、別になんのスペシャルでもないのよ。
 身の程を考えなよ。
 有香のバカー!」と中村は号泣した。

野原は、取り返しがつかないことだと認識しつつあった。
明日からの華やかなステージはもうない。
ファンに囲まれ騒がれることもない。
3万人を前にした誇るべき年末のライブもない。

「そう言ったってねえ。」などとなぜ言ってしまったのだ。
先輩たちがジェラシーしなかったからこそ、
今、自分はトップに来られたのではないか。
さもなくば、すぐ足を引っ張られ、トップになどなれなかった。
ひどいいじめに苦しんで辞めたかもしれない。

何のいじめにも遭わなかったのは、『ジェラシーは禁止』の鉄則があったからだ。
それさえも、身に沁みてわかっていなかった自分をひどく反省した。
さらには、中村里美まで、巻き添えにしてしまった。
言うなら、独り事で言えばよかった。
何ということだ。
すべては、もう遅い。
一言で、すべてを失った。中村里美のすべてをも奪ってしまった。
野原有香は、ようやく現実を悟り、手で顔を覆って泣き出した。

その夜の練習が終わり、有紀と梨奈はスタジオを出て二人になった。
「有香ちゃんと里美ちゃん、ほんとにもうアウトなのかな。」と有紀は言った。
「だと思うよ。あれで、許されちゃったら、示しがつかないもの。」と梨奈。
「でも、あたし、ジェラシー禁止の方がいいな。聞いて、うれしかった。」
「あたしも。あれだけ徹底してくれたら、みんなジャラシー表にださないよ。
 そしたら、すごく気持ちよく働ける。」
「そうよね。」と梨奈は言った。


つづく(次は、「記者会見」です。)




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斉藤梨花GID17歳③「梨花の告白」最終回

私は、GIDではありませんが、GIDの方のことをいろいろ想像して、
私なりに、全力で書きました。読んでくださるとうれしいです。
なお、今回を最終回としました。

==============================

梨花は、大西医院の看護婦さんに会いたくて、
薬がまだ1日あったが、医院に行った。
受付で、思いきり勇気を出して、
「あの、あたし、女名前・梨花なの。
 看護婦さんの、女名前聞いてもいい?」
と小さな声で聞いた。

「あの、あたし看護服着てますけど、
 看護士じゃなくて、受付で医療事務をしてます。
 名前は、愛美です。」
「愛する美しい?」
「ええ、そう。」と愛美は、笑顔をみせた。
その笑顔に、梨花はときめいてしまった。

これだけでも、話せたことに、梨花は満足していた。

名前を呼ばれて、啓子のところにいくと、
「次の日曜日、ここの2階で、ミーティングやるの。
 午前10時から。これる?」と聞かれた。
「行きます。絶対。」
と梨花は言った。



日曜日。
梨花は、朝からそわそわして、
オシャレをしていこうか、メイクを決めていこうか迷っていた。
最後に、薄くメイクすることに決めた。
ファンデーションと薄いシャドウと口紅だけ。
茶の長袖のニットのワンピースを着て行った。
それを切ると、抜群のプロポーションが際立って見える。

医院の2階にいくと、そこはサロンになっていて、
楕円形のテーブルがあり、みんながそろっていた。
飲み物がセルフーサービスだった。
梨花は、紅茶を作って、席についた。

自己紹介をすることになった。
始めは、新人の梨花から。
梨花は立った。
「えーと、女名前は、梨花です。
 小学校4年生から、ホルモン治療してます。
 俗にいうアリアリです。
 私立緑蔭学園高校の2年生です。」
「え!緑蔭学園なの?」と驚いて美沙が叫んだ。
「緑蔭って、毎年T大に40人から入るあの緑陰?」と薬剤師の由加里が言った。
「ええ。はい。」と梨花は照れて言った。
「わあ、すごーい。」とみんなが言った。

梨花が座ったので、みなは拍手した。
隣は、25歳の看護士、美奈。独身。アリアリ。
次は、35歳。薬剤師。芳子。ナシナシ。既婚。
次は、愛美。19歳。アリアリ。
次は、啓子。30歳。アリアリ。

啓子が、30歳と聞いて、梨花は飛び上がった。
「うそー。」と言った。
「あら、うれしいリアクション。いくつに見えた?」と啓子。
「先生だから、最低25歳だと思ってたけど、
 先生じゃなければ、あたしより少し上の19歳くらい。」と梨花は言った。
「大変よくできました。」と啓子はにこにこしてすわった。
最後は、美沙。
「えー、美沙。院長の啓子とは、高校からのレズビアン友達です。
 今、同棲してます。専門は、外科で、性別適合手術を学んでいるところです。」

これで、以上だった。
啓子が言った。
「この会は、これから、梨花ちゃん方式で行きます。」
「何ですかそれ?」とみんなが言った。
「つまり、敬語、丁寧語禁止。友達言葉、ため口でいきます。」と啓子。
「いや~ん、先生にため口なんか利けないです。」と愛美が言った。
「使えば慣れるわよ。この会だけだから。
 それと、私を先生と呼ばないで。啓子って呼んで。美沙も同じ。」
と啓子は言った。

「じゃあ、一番悩みを抱えていそうな、梨花ちゃんから、何か言ってね。」
と啓子は梨花に振った。
「あたし、悩んでいるように見えた?」と梨花。
「見えたわ。」と啓子。
「実は、ずばり悩んでいるの。
 あたしGIDで、ずっと男の子が好きできたけど、
 最近、同じGIDの女の子を好きになりそうなの。
 これって、許されることかって悩んでいるの。」梨花は言った。
愛美は、そのGIDの女の子が、自分だとは思わず、
少し悲しい気持ちで、うつむいていた。

看護士の美奈が言った。
「梨花が、どうして悩むのかわからない。
 許されることに決まってるって思うけど」
梨花。
「例えば、あたしは小学校では、GIDだっていうことで、
 女子トイレも女子更衣室も使わせてもらったの。
 それは、女子の裸や下着姿を見ても、性的に興奮しないから、
 それで、女子も嫌な顔しないでくれたんだと思うの。
 だから、あたし、女の子を好きになっちゃいけないんだと思ってきたの。」
「なるほど。」と薬剤師の芳子は言った。そして、
「ここは、啓子さんだわ。」と言った。

啓子。
「梨花ちゃんは、女子更衣室で、女子の下着姿を見て、
 むらむらっときたことないでしょ。」
梨花。
「うん、それは、なかったと思う。」
啓子。
「例え、あったとしても、それを楽しまなければ、それでいいの。」
 理性で、『あ、こんなことを楽しんではいけない。』と押さえつければいいの。
 あたしは、そう思うな。」
美沙。
「さっき、梨花が言ってた、MtFの子が、MtFの子を、
 愛してしまっていいかってことなんだけど。
 啓子に聞いたことだけど、男女どちらを好きになるかっていう性志向は、
 GIDの診断基準には、ないんだって。
 だから、男女どちらを好きになってもGIDは、GID。」

看護婦の美奈が言った。
「あたしは、GIDという診断が先にあるんじゃなくて、
 その人が、今どうなのかが大切だと思う。
 GIDだから、これはダメって考えるのは、逆だと思う。」

「愛美ちゃん、まだ、発言ないけど、どう?」と啓子が聞いた。
愛美。
「あたしは、学校のときは、トイレや更衣室のとき、
 GIDって診断名は、女の子として扱ってもらうために大切だったの。
 でも、社会に出たら、あまり大切じゃなくなるみたい。
 梨花さんが、MtFの人を好きになったのなら、それでいいと思う。」

「梨花ちゃん、みんなの意見を聞いてどう?」と啓子が言った。
梨花。
「うん。かなりはっきり分かってきた。
 あたし、GIDという名に縛られていたんだと思う。
 あと、あたし、セックス未体験なの。
 あたし、アリアリだから、いままで、男子と付き合う勇気なかったの。
 男の部分見られるの、死ぬほど辛かったから。
 同じ意味で、女の子とレズビアンもだめ。
 相手が理解してくれても、男がやるあのピストン運動、
 あたし恥ずかしくてできない。
 手術して、完全な女になってからの、
 男の人とのセッ・クスってどうなのか、由加里さんに聞きたいの。」

由加里。
「つまり、セッ・クスの喜びがあるかってことね。
 身体的に、少しは快感があるの。でも、多くは精神的な満足だと思う。
 男の人のものが、あそこに入って、そして、ピストン運動されて、
 男の人のものが大きくなってくると、うれしいし、心が満たされる。
 精神的なものを除けば、お尻の方を使うAの方が、快感度は高いと思う。」
啓子。
「梨花ちゃん、参考になりましたか。
 これ、個人差が大きいので、すごく感じる人もいるみたいよ。」
梨花。
「はい。手術するかは、もっと考えた方がいいと思った。」
看護士の美奈。
「あたしも、もし彼ができたら、よく相談して決めようと思ってるの。」
啓子。
「梨花ちゃんも、彼女とよく相談しなさい。」
梨花。
「だめ。だって、まだ、少し口を利いただけなんだもん。
 まだ、遠い人なの。」
啓子。
「そうでもないでしょ。みんなの前で、告白しちゃえ。」
(啓子は、梨花と愛美の気持ちが分かっていたのだ。)
梨花。
「言っちゃおうかな。でも、ふられるに決まってるの。」
啓子。
「でも、言ってみなければわからないよ。」

愛美は、自分だとは、夢にも思ってなかったので、
梨花の告白は、辛いものと思っていた。

梨花は、顔を上げた。
「えーと、あのう、あたしの好きな人は、ここにいる愛美さんです。」
みんなが、「わあ。」と言った。
愛美はうつむいていた顔を上げた。

「ほんと?」と愛美は、梨花を見た。
「うん。毎日、愛美さんのこと考えてるの。
 でも、愛美さんは、男の人が好きなんでしょう。
 あたしじゃだめだとわかっているけど、ダメ元の告白なの。」

「あたしも、梨花さんのこと毎日考えてるの。
 梨花さんに一目惚れなの。あたし、うれしい。」
愛美が目に涙を浮かべながら言った。

梨花。
「ほんと、わあ、夢見たい。絶対だめだと思ってた。」
梨花も、目を潤ませ、手で涙を拭いた。

由加里が出てきて、二人に手をつながせ、
隣同士の席に座らせた。

みんなが、にこにこして拍手をした。

「今日は、ミーティングやった価値ありね。」
と啓子は、たからかに言った。
「啓子はわかってたんでしょう。二人の気持ち。
 だから、梨花に言わせた。すごい観察力、洞察力。その手腕。
 やっぱり18歳じゃないわ。30ね。」と美沙が言った。
「それを、言わないの。」と啓子が、笑いながら美沙をぶった。



昼に、みんなでスパゲッティを作った。
梨花と愛美はもちろん並んだ。
由加里さんがいった。
「ほら、1本のスパゲッティを二人で、つるつるっと口の中に入れて、
 最後は、キ・スになるやつ、やってみて。」
梨花と愛美は、恥ずかしながらも挑戦した。
うまくいって、初めて二人はキ・スができた。
みんなのすごい拍手。

梨花は思った。
この医院に来てよかった。
いっぺんで自分を分かってくれる人5人に会えた。
好きな人もできた。
もう、淋しくない。

梨花は、何となくだが、頭の隅で思っていた。
手術は、もう少しあと。
医学部に入って、啓子のようなマルチな医者になる。
そのとき、医院の受付にいるのが、愛美。
それとも、愛美は看護士になっているかな?

たっぷり愛を楽しむ。
まだ、やり方は、わからない。
それは、啓子先生に聞けばいいと思った。


<おわり> (次回は、未定です。)




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斉藤梨花GID17歳②「梨花の戸惑い」

梨花は、最難関と言われる緑蔭女子高校の生徒だ。
学校は、GIDの梨花の入学を許可した。

中学の3年間、梨花は、オシャレ系の2人の友達と、
女の子としての生活を謳歌した。

「きゃー。」とか「いや~ん。」とかの女の子言葉を多発し、
パープリンで、ぶりっ子のキャラでいた。
それが、うれしくてたまらなかった。

しかし、中学で、ぶりっ子ギャルの生活に満足し、
高校からは、地味で、ぶっきらぼうなキャラになった。

高校1年のとき、梨花は、スカウトを受け、
ファッション誌のモデルのアルバイトを始めた。
プロにメイクをしてもらい、
たくさんのステキな服を着ることができる。
うれしい仕事だった。

モデルの仕事をするようになってから、
梨花は、オシャレをすることが少なくなった。
オシャレは、モデルの仕事で満たされていたからである。

今、高校2年。
梨花は、セックスの経験はなかった。

*    *    *

梨花の家は裕福で、家も大きい。
梨花は、一人っ子だったので、
特別に広い部屋をもらっていた。

家に帰って、梨花は、痛み止めを飲み、
ベッドに仰向けになっていた。
痛み止めが、効いてくるにしたがい、いろいろな思いが頭をよぎる。
大学受験まで、あと1年半にして迷っていた。
自分は、高校の内に、性別適合手術を受けて、
戸籍上も晴れて女として、大学に行きたかった。

しかし、今日、可愛い看護婦さんがGIDと知って、
自分は、萌えてしまったのだ。

自分がわからない。

男の子は、好きだ。
抱かれて、キ・スをされたい。

自分は、GID。
完全な女の子になろうとしているのに、
どうして、可愛いGIDの人に萌えてしまうのだろう。

大西医院の看護婦さん。
可愛い人だった。
一目見て好きになってしまった。
それが、彼女もGIDと知って、尚好きになってしまった。
梨花は、彼女と口づけをしていることを思っていた。
胸がドキンとした。
女同士なのに。

梨花は、考えるうち、自分の唯一の男の部分が、
大きくなっているのを感じた。
股の下に回して、ショーツで押えてあるのに。

しばらく考えていた。
やっぱり我慢できない。
梨花は、下着姿になり、毛布を肩まで掛けた。
しばらくじっとしていた。
やがて、気持ちが、むらむらとしてきて、
自分で胸を揉んだ。

想像の中で、梨花は、声を上げ、荒い息をしていた。
梨花は、ショーツを取った。
自分がいちばん見たくない体の部分。
一番の劣等感。
それを、そっとなで始めた。
8年も女性ホルモンを打っているというのに、
その部分は、熱くなり、固くなっている。
梨花は、そのものを、掌で隠すようにして、こかんに中指を滑らせた。
それをくり返した。

頭の中であの看護婦さんと抱き合っていた。
彼女を裸にして、彼女のこかんに手を当てた。
自分にあるものが、彼女にもあった。
女の子なのに、どうしてあるの?
そのことが、梨花の思いに火をつけた。
梨花は、荒い息をして、声を上げながら、
あいぶの手を速めた。
ああ…。
梨花は、体を振るわせ、
掌の中を、ある液体で満たした。

波が引いていく中で、梨花は思った。
あたしは、本当にGIDなのだろうか。

この行為をするたびに、その後で後悔がやってくる。
梨花は、わずかに瞳を濡らした。



大西啓子(女性名)は、午後7時ごろ、
4LDKのマンションに帰った。
すると、美沙が、テーブルにずらりと、料理を作っていてくれた。
「きゃー、すごい、ありがとう。」
と啓子は、目を輝かせ、
背が168cmある美沙の首に抱き付いて、口づけをした。
「待ってて、今着替えてくるから。」
そう言って、啓子は、ベッドルームへ行った。
やってきた啓子は、お嬢様服とも言える可愛い薄紫と白のワンピースで、
肩までの髪を、左右2つに結び、
前髪の脇に一房ずつ髪を垂らしていた。
そんな、啓子は、ともするとハイ・ティーンにも見えた。

テーブルで食事をしながら、
「相変わらず、啓子はどうして、そう少女趣味なの?もう、30歳よ。」
と美沙は笑った。
「年のことは言わないで。アンチ・エイジングに挑戦してるんだから。
 正直、幾つに見える?」
「おまけして、18。」
「おまけしないで、いくつ?」
「20歳。」
「よし。」と啓子は、言った。

童顔の啓子に比べ、美沙は、年齢相応の大人顔で、美形だった。
美沙は、啓子と同じ医科大学の同期で、外科医だった。
同じ高校で、GID同士として出会い、同じ医師の道を選んだ。
出会ったとき、二人は女子の制服を着ていた。
美沙とはじめてセックスをしたのは、高校2年のとき。
二人は、GIDであったが、性志向は、女子であり、
互いにレズビアンだとの認識を持った。

「名前出さないから言ってもいいかな。」と啓子は言った。
「何?」と美沙。
「今日、うちの医院に、なんとGIDの女の子が来たの。」
「GIDの女の子って、生まれは男の子って意味?」
「そう。すごく可愛い子。敬語使わない子なの。でも、知的ですごく品があった。」
「それは、すごい偶然ね。」
「ちょっと悩んでいるみたいだった。」

「ね、あたし達みたいに、レズで、男の子に恋愛しないタイプも、
 GIDって呼んでいいの。」美沙は言った。
「そこ。今日の子、なんとなくだけど、その辺で悩んでいるとあたしは見たの。
 受付の愛美ちゃんのこと、すごく意識していたから。」
「そう。で、どうなの?」

「あ、GIDでレズがありかってことね。ありよ。一応ね。
 DSMのGIDの診断基準では、性志向、つまり男女どちらに恋愛感情を持つか、
 それは、唱ってないの。
 自分の体に性としての嫌悪感を持っていることと、
 性自認が、反対の性であること。この2つが言えれば、だいたいGIDと診断される。」
「じゃあ、その子、悩む必要ないのね。」
「うん。自分の性志向が、はっきりしない子って大勢いるの。
 大体、性志向といったって、男女の2通りなんて、無理よ。
 あたしの場合、女の子と男の子を7:3くらいで好き。
 この割合を変えれば、性志向なんて無限大のバリエーションがあるじゃない。」
「わ。さすが。18歳じゃないわね。30だわ。」
「それ、言わないの!」



大西医院の受付をしている原田愛美は、くつろいだワンピースを着て、
自宅の自分の部屋で、勉強をしていた。
高校を出てから、医院で働き、医療事務の通信教育で勉強している。

ストレートな、長い髪を、背中に綺麗に垂らしていた。
愛美はときどき前髪をかき分けて、
今日、医院にやってきた、斉藤梨花のことを考えていた。

綺麗な子で、ファッションモデルかと思った。
一目で好きになった。
その女の子が、男名前であるのを見て、
愛美の心は、ときめいたのだった。

愛美は、中学1年から、ホルモン治療をしている。
幸い、女性として恵まれた体をしていた。
背は、158cm、体重43kg。
治療を始めたときすでに、ハイ・ウエストでヒップが大きかった。

梨花のことをずっと考えていた。
梨花に抱かれることを考えていた。
ふと、股・間のものが、膨張してきた。

「今は、勉強中。」と自分に言い聞かせた。
しかし、我慢ができなかった。
愛美は、部屋をロックし明かりを消し、
ベッドの上に寝た。
ショー・ツをとった。
自分の体で、一番恥ずかしいと思っているものに手を触れた。
触りたくもないものなのに、梨花への思いが募り、
動く手を止められなかった。


つづく(次回は、「ミーティング」です。)




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斉藤梨花GID17歳①「保険証はきらい」

斉藤梨花は、喉が痛くて、咳払いをした。
10月に入り、気候の変化が原因だろうか。
これは、医者に行くレベルだと思った。

梨花は、厚めのストッキング、デニムのミニスカートと茶のセーターを着ていた。
身長163cm。
真っ直ぐな長い脚、ウエストのくびれ、抜群のスタイルだった。

斉藤梨花の本名は、斉藤道夫。
小学4年生のときに、性同一性障害と診断され、
そのときから、ホルモン治療を受けてきた。
今高校2年で、もう8年間になる。

梨花は、ただ、一箇所だけは除いて、
足の爪先から、頭の髪の毛まで女性だった。
背中まで伸ばした髪はサラサラで艶があった。
男性にしかわからない女性特有の好香を放っていた。
男性が女性に近づいて、本能的に異性を感じる。
それは、その好香かも知れなかった。
もしくは、フェロモンと呼ばれるものである。

梨花は、最近出来た大西医院に行こうとしていた。
梨花は、医者に行くのが苦手だった。
それは、保険証である。
保険証には、斉藤道夫とあり、性別は男となっている。
このため、受付でいつもトラブルになる。

「これは、男性の保険証です!
 ご自分のでないと使えませんよ。」
そう言って、受付で付き返されることがほとんど。
長い説明のあと、渋々納得してくれるところもあった。
とにかくわずらわしい。
梨花は、顔立ちが整い、声も完全な女声であり、
誰が見ても可愛い女の子だったので、無理もないことだった。

こんどの大西医院は、女医先生とのこと。
なんとなく、優しそうな感じがした。

梨花は、開く硝子戸を通り、中に入った。
新しい医院のせいか、まだすいていた。
全体に淡い色の女性的な内装だった。
梨花は、一番苦手な関門を正面にした。
可愛い看護婦さんがいた。
自分と同年に見えるが、20歳は超えているんだろうなと思った。

「あの、喉が痛くて、風邪だと思うの。」
「お熱を計って、その間に、この問診表に記入してください。
 そして、保険証をお預かりします。」
と看護婦さんは言った。

梨花は体温計をもらい、バインダーに挟んだ用紙をもらった。
病歴だのアレルギーだの基本的な項目がならんでいる。
そして、また嫌なこと。
名前と性別を書くところがあった。
保険証を出したので、しかたがない。
梨花は、男性名を書き、男に丸をつけて、提出した。

いつも、それを提出して、15秒後くらいに、
呼ばれて、トラブルになる。
梨花は、それを覚悟し、ソファーに座っていた。
ところが、呼ばれない。
看護婦さんは、名前や性別を見落としたか。
カルテに書き写しているはずだ。

とうとう、先生の診察室へ呼ばれた。

入ると、大西先生は、若くて、とても女性的な先生だった。
声が可愛く、顔も可愛く、体もほっそりしていて、
そして、柔らかそうだった。
「お姉さん」と呼ぶ方がふさわしい人だった。
先生だから、6年間の大学を出て、インターン1年、
最低25歳だが、とてもそうは見えない。
ぱっと見ても、じっと見ても、
17歳の自分より少し上、20歳そこそこに見える。

先生の前に座った。
「えーと、喉が痛いのよね。」と先生。
「うん。」
梨花は、敬語やていねい語を完璧に使えたが、
最近は、誰に対しても、友達言葉を使っている。
その方が、すぐお友達になれて、本音で話せる。
とくに高校から、そう考える自分になった。
敬語を使うのは、学校の先生と、校長くらい。

さぞ、不躾な娘だと思われるだろうが、気にしないと決めた。

「じゃあ、お口を開けてください。」
「あーーー。」
「はい、いいです。」
先生は、聴診器を耳に差した。
「では、胸の音を調べますから、セーターを上に挙げてください。」
先生はいろんな場所に聴診器を当てた。
「ブラを、もう少し上げられますか。」と先生。
梨花は、ブラを半分以上上げた。

「はい、いいわ。服を戻してください。」
そう言って、先生は、カルテに何か記入した。
その間、梨花は思っていた。
カルテに、看護婦さんが書いたであろう男性名と性別が、
この先生は気にならないのだろうか。
見たなら、患者の乳房まで見て、不審に思うはずだ。
それとも、氏名性別をよく見もしないで、記入しているのだろうか。
梨花は、言われても嫌だし、言われないのも、不安だった。

「あなたは、風邪だと思います。
 だから、痛み止めと、総合感冒薬を3日分出します。
 それから、あなたは、問診表の特定の投薬の項目で、
『とくになし』と書いてあります。
 そんなはずないわ。」
と大西先生は、梨花を正面に見た。
「エストロゲン類のものを打ってらっしゃるはずだわ。」
先生は、そう言って、にっこりした。

梨花は、ドキンとした。
「先生、わかるの?」
梨花は驚いて聞いた。
「わかります!」
先生は、ややオーバーに言った。

「保険証は、男性名、性別男子。
 これだけなら、ご家族のものを間違えて持ってらしたのかもしれない。
 でも、あなたが記入した問診表には、
 あなたがお名前や性別を間違えるはずないわ。
 あなたは、斉藤道夫さんで、男子。
 でも、あたしの前にいるのは、可愛くてステキな女の子。
 あなたが、性同一性障害の治療を受けて来たと考えるのが一番妥当だわ。」

「じゃあ、受付の看護婦さんも、そう思ってくれたの?」
「ええ、『GIDの患者さんだと思います。』とあたしに言ってくれました。」
「わあ、すごい。あたし、こんなところ初めて。
 今まで、保険証を出すと、他人の保険証じゃだめって、
 受け付けてくれないところばっかだったの。
 あたし、怒られたことだってあるの。

 で、でもさ、普通あたしがGIDだって発想湧く?」
梨花は先生に言った。

「確かに、普通、湧かないかもね。
 でも、この医院は、GIDにとても近い関係がありますから。」
「どういう意味?」
「あたしが、GIDです。」
先生は、お茶目に少し首をすくめて、
うふっと笑った。

「ほんと?わあ、感激。ほんとにほんとなの?」
「ほんとにほんとよ。」
先生はそう言った後、3人のスタッフさん達に、
「ねえ、言ってもいい?」と聞いた。
「はい、その方になら、いいです。」とスタッフさん達はにこにこしていた。
「じゃあ、許可を得ましたので。
 この医院のスタッフは、みんなGIDなのよ。」
と先生は言った。

「あの、受付の可愛い看護婦さんも?」と梨花は小声で言った。
「ええ、そうよ。」と先生。

「わあ、すごいところに来ちゃった。
 あの、風邪が治ったら遊びに来てもいいですか?」と梨花は言った。
「いいわよ。ときどきあたしたち、ミーティングをするの。
 そのとき、ご連絡するわ。」
「ぜひ、お願いします。わあ、楽しみだな。」
「GIDのことは、人権問題ですから、私やスタッフのことは、
 ご家族にも絶対の内緒よ。」
と先生は言った。
「うん。わかる。」と梨花は言って立ち上がった。
「あ。」と先生は、梨花を呼びとめ、
「帰りに、うちの看板よく見てくださいね。」
と言った。
「それと、あなたの女の子名を教えて。」と先生は訪ねた。
「梨花です。梨の花。」
「梨花。あなたにぴったりの名前だわ。」
と梨花を見て、先生はにっこり笑った。

梨花は、帰るとき、受付の看護婦さんをもう一度見た。
目と目が合い、看護婦さんは、にこっと笑って、小首を傾けた。
可愛い人。

梨花は、医院を出たとき、看板をよく見た。
内科、小児科、婦人科、そして、小さい字で、ジェンダー科
とあった。
『そうか、見落としてた。ここは、ジェンダー・クリニックでもあるんだ。』

梨花は感激して、風邪が一気に治ったみたいに感じていた。


つづく(次回は、「悩み多き梨花」です。)




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春果を包むやさしいクラス③「春果女の子デビュー」最終回

最数回なので、少し長くなりました。読んでくださるとうれしいです。

================================

翌日。
授業をまつ5分間のこと。
春果を囲む3人の男達が、大きい声で話しをしていて、
それが、下ネタになって来てしまった。
一人が、あわてて、「春果が聞いてるぞ!」とジェスチャーをして、
話を止めさそうとした。
一人が、そうか、という顔をして、わざとらしく、
「そういえば、今日は夕方雨になるらしいぞ。」
とまったく脈絡のない健全なことを言った。
春果は、そのごまかし方が、全く見え見えで、おかしく、
「ふ。」と噴いた。
それから、我慢できなくて、
「うふふふ、あはははは。」と大笑いをした。
みんなが、春果を見た。
みんなにとって、春果が笑ったのを見るのは、初めてだった。
春果は、そのとき、なぜか笑いが止まらなくて、
顔に手を当てて笑ったり、
机に腕を置いて、それに顔を伏せて笑ったりしていた。

やっと、春果が笑った。
クラスのみんなは、うれしかった。
何人かの男子は、春果の笑う顔が可愛くて、胸にぐっときてしまったりしていた。

春果は、机に置いた腕に顔を伏して笑ううち、その笑いを終えた。
そして、しばらく動かなかった。
春果は、ハンカチを取り出して、それを目に当て、今度は泣き出した。

みんなは、心配した。
周りの男子が、何か悪いことを言ったかと、あわてた。
「春果、俺達、なんか、悪いこと言ったか?」
と誰かが言った。
春果は首を横に振った。
春果は、ハンカチをとり、涙の目で言った。
「あたし、学校で、笑ったの、4年ぶりなの。
 ずっと、ずっといじめられてきたから。
 でも、このクラスの人はみんなすごく優しくて、
 あたし、毎日毎日、心の傷が治っていったの。
 そして、今、やっと笑えるようになった。
 みなさん、ありがとう。」
春果がそう言って、またハンカチを目に当てた。
女子の大勢が泣いていた。



その日、春果は、職員室へ、担任の山崎忠男を訪ねた。
山崎は、30歳の国語の先生だった。
春果は、女の子デビューをしようと思う気持ちを山崎に伝えた。
「大丈夫だと思うよ。あのクラスは、特別に理解のある子がそろってる。」
山崎はそう言った。

春果は、クリニックに相談するために、明日は休むと言った。
「じゃあ、明日、君のいないときに、みんなに君の説明をしておこう。」
と山崎は言った。
「よろしくお願いします。」
と春果は、言って、礼をして、職員室を後にした。

翌日、クラスの生徒たちは、担任山崎から、
性同一性障害の説明を聞いた。
「先生、それ、めちゃくちゃ大変なことじゃないですか。」
とある生徒が言った。
「そう、大変な障害だよ。みんな、朝起きたら、
 自分とは性の違う体になっていたらと考えると、それがわかるよね。」
と山崎は言った。
「春果さんは、今までずっとそれに耐えてきたんだ。
 おまけに、みんなにいじめられても来た。
 これ、2倍つらいことですよね。」
とある女子が言った。
「じゃあ、このクラスは3年間変わらないわけだから、
 3年間は、大丈夫だよ。俺達、今日理解したから。」
と別の生徒。
山崎が、
「特別なことはいらないよ。女の子として、普通に接してくれればいい。」
と言った。
「明日は、春果ちゃんの女の子デビューを祝って、
 1時間目は、お祝いをしよう。
 先生、いいですよね。一時間目、先生の授業だから。」
と誰かが言った。
「うん、かまわないよ。」と山崎は答えた。

春果は、クリニックで、主治医に女の子デビューをすると言った。
「今度のクラスは、いいみたいだね。」と先生。
「はい、みんないい人です。めったにないクラスだと思います。」
春果はそう答えた。

春果は、その日、美容院へ行って、
女らしいステキなショート・ヘアーにしてもらった。

翌日の朝。
春果は、夏服の女子の制服を着た。
白いブラウスに、チェックのスカート。ややミニ。
胸に、大きなリボン。

「春果は、初めて女の子になって、学校へ行くんだなあ。」
と父の健二が感慨深げに言った。
「うん、今度のクラスは、絶対大丈夫。」と春果は言った。
母の佳子は、学校へ付いて行くことになっていた。

学校へ、30分早く行くと、担任の山崎が、すでに靴箱のところで待っていた。
そのまま、山崎といっしょに校長室へ行った。
校長が、
「春果さんという名は、女性名でもあるし、名前を変える必要はありませんな。」
と言った。
「はい。女の子のような名前をつけてしまって、失敗だったかなと思いましたが、
 今になって、かえってよかったと思っています。」
そう母の佳子は言った。

そのうち、クラスの女子が一人、
「山崎先生、OKです。」と言いに来た。
「じゃあ、クラスに行きましょうか。」と山崎は言った。

佳子と3人で、教室に向かった。
教室への階段を上がったとき、
さっきの女生徒が、廊下に出ていて、
春果たちの姿を見ると、急いで教室に入った。

山崎が教室を開けた。
その後に春果が入ると、すごい声援と拍手があり、
頭の上から、紙吹雪が落ちてきた。
正面をみると、窓の端から端までの、大きな横断幕があり、
そこに、
『春果さん。女の子デビュー、おめでとう!』
と書かれてあった。

母の佳子は、中に入らず、廊下から見ていた。

春果は、感激して、泣いてしまいそうだった。

司会の女子が一人いて、
「これから、春果さんの女の子デビューのお祝いをします。
 では、江藤さん、お祝いの言葉をお願いします。」

江藤亜紀というクラスで一番しっかりした女子が立った。
春果は、山崎といっしょに、教壇の前に立っていた。

江藤亜紀は、紙を見ながら、お祝いの言葉を読み始めた。
「立原春果さん、女の子デビューおめでとうございます。
 私達は、昨日、山崎先生から、あなたのことを聞きました。
 春果さんが、生まれて今まで、どんな辛い思いをしてきたか、
 私達は、理解しました。
 春果さんの身になって考えてみて、私は、涙が止まりませんでした。
 女子のほとんどが泣いていました。

 春果さんは、ご自分の体のことだけでも辛い思いがあると思います。
 でも、クラスのみんなのことは安心してください。
 このクラスには、あなたを辛くするようなことをいう人はいません。
 もしいたら、私が、ハイキックをして、懲らしめます。
 (クラスちょっと笑い。)
 このことでは、完全に安心してください。

 心の性が女の子なら、その人は、女の子です。
 私達は、それを完全に理解しています。
 これから、春果さんに特別やさしくするというのではありません。
 ふつうに、自然に、同じクラスの仲間として接します。
 私達は、それを誓います。

 昨日、私達は、男子に人気投票をさせました。
 好きな女の子は誰か?
 小さな紙に無記名で、好きな女の子の名前を書かせました。

 その結果、私が、5票で2位でした。
 何を間違ったか、坂田晴美くんに2票入っていました。
 (クラス、かなり笑い。晴美自慢げに笑顔を振りまく。)

 そして、1位に輝いたのは、12票とった立原春果さんでした。
 春果さんは、モテます。(クラス笑い。)
 これから、女の子として、絶対の自信をもってくださいね。

 なお、横断幕は、昨日私達が、必死で作ったものです。
 これが、私達の春果さんに対するお祝いの気持ちです。

 春果さんの女の子デビュー、おめでとうございます。
 これで、お祝いの言葉を終わります。
  
                 江藤亜紀。」
大きな拍手が起こった。

春果は、涙ながらに聞いた。
心から、感激した。

廊下で、母の佳子は、ずっとハンカチを目に当てていた。

司会が、
「春果さん、お言葉がありますか。」
と言った。

春果は、目にハンカチを当てていた。
やがて、そのハンカチをとり、みんなの方を見た。

「みなさん、ありがとうございます。
 あたしは、学校で、こんな風に祝ってもらったこともないし、
 あんなに温かいお祝いの言葉をいただいたのも、初めてです。
 そして、あたしのために作ってくださった横断幕を、
 あたしは、一生忘れません。

 前、クラスで、大笑いをしてしまって、そのときも言いましたが、
 あたしは、小学校の3年生頃から、学校で泣くことはあっても、
 笑うことはありませんでした。
 自分は、このまま一生笑わない子になるのかなあと思っていました。
 それが、このクラスに来て、1ヶ月もたたないのに、
 笑えるようになりました。

 このクラスのある人が、私に言ってくれました。
 「このクラスは、春果への、神様の贈り物だよ。」って。
 私は、心からそう思いました。
 今まで、たくさん悲しいことがありましたが、
 私は、この神様の贈り物の中で、元気で、明るく、
 よく笑う女の子になれたらうれしいです。

 みなさん、本当にありがとうございます。
 女の子としての春果をよろしくお願いします。」
そう言って、春果は頭を下げた。
みんなから、すごい拍手が起こった。

会は、それから、司会が変わって、
いろいろゲームを始めた。

山崎は、教室を出て、母の佳子に、
「後は、子供達のお楽しみ会ですから。」
と佳子を、玄関まで誘った。
佳子は、泣きはらしていた。
「いいクラスですね。
 わたし、代表の方の言葉を聞いて、
 涙が出てなりませんでした。
 本当に、神様の贈り物だと思います。」
佳子はそう言った。

「そうなんです。あれだけ優しい子がそろったクラスも珍しいです。
 1クラスだから、3年間同じメンバーです。
 春果さんは、これまでの心の痛手から、きっと回復なさると思います。」
「はい。ありがたいことです。」

階段を下りるまで、クラスからは楽しげな笑い声が聞こえていた。

生徒の靴箱に、明るい光が差し込んでいた。
佳子は、学校がこんなに明るいところだと初めて思った。
きちんとそろって並んでいる靴の一つ一つを、
佳子は、幸せな気持ちで眺めた。


<おわり>

※次回は、「斉藤梨花GID17歳」です。




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春果を包むやさしいクラス②「晴美の理解」

このお話は、短く終わります。次回、最終回です。

==============================

その日の帰り道、春果は、ガールズトークが出来た喜びで、
久しぶりに、るんるんした気持ちで、家に向かっていた。
そこを、ポンと春果の肩を叩いた人がいる。
見ると、坂田晴美だった。
「いっしょに帰ろう。」と晴美は、さも、自然に言う。
「う、うん。」
春果は、坂田晴美が好きだと言ったことが、知られたのかと思った。
男子なのに、男子が好きだなんて。

「坂田君、あたしの言ったこと聞いた?」
春果は、また「あたし」と言ってしまったことに気がついた。
楽しかったガールズ・トークの気分に浸っていたからだ。
晴美は、春果の「あたし」を少しも気に留めなかった。
「春果ちゃんが、ぼくのこと何か言ったの。」
「ううん。なんでもない。忘れて。」
「今日、ボクの家に遊びに来ない?」
と晴美はいった。

そうか、男同士として、気軽に誘ってくれたのだと思った。
しかし、春果は、人の家にいくのは苦手だった。

「あの、ぼく、人の家行くの苦手だから、ぼくの家に来て。」春果は言った。
「いいの?すごくうれしい。ぼく、春果ちゃん、好きだもの。」
と晴美は、天真爛漫に言った。
「その、好きって、どういう意味で?いろいろあるでしょ。」
「愛してるってこと。アイ・ラブ・ユウのラブ。」
晴美は、平気な顔で言う。
春果は赤くなった。自分は、一応男子なのに、複雑な気持ちがした。

春果の家は、2階建ての新しい家だった。
春果の後に入っていくと、お母さんが目を丸くして、
「あら、春果、もうお友達ができたの?」と喜んだ。
「坂田晴美です。晴美だけど、男子です。」
と晴美は言って、お母さんを笑わせた。

春果のお母さんは、春果に似て、とても美人だった。
奥がアトリエになっているらしくて、
お父さんがいた。
晴美は、アトリエに入っていき、お父さんにも挨拶した。
「やあ、いらっしゃい。」とお父さんは言った。
お父さんは、デザイナー風で、長髪で若若しかった。

春果の部屋に入った。
8畳くらいの洋間だった。
晴美が思った通り、女の子のファンシーな部屋だった。
「あの、坂田くん。まるで女の子の部屋だと思った?」
と、春果は聞いた。

「うん。思った。でも、ぼくもこういう部屋好きだよ。」と晴美は言った。
春果は、晴美なら分かってくれるという気がしていた。
とても不思議だ。晴美は、何もかもわかっているように思えた。
「坂田君。あのね。ぼく、家に帰ったら女の子の服着るの。
 笑わないでくれる。」
どうして?と晴美は言わなかった。
「うん。笑わないよ。」
「着替えたいから、後ろ向いていてくれる。」
春果は、言った。
「いいよ。」と晴美は、2分くらいまった。
「いいわ。」と春果の声がした。

振り向いて見ると、赤いワンピースを着た春果がいた。
春果は、ショートの髪の耳を出していた。
それが、ものすごく可愛かった。
春果は照れていた。
「春果ちゃん、可愛いっていうより美形だね。すごい美人。」
晴美はうれしそうに言った。
「今からぼく、女の子みたいにしてもいい?」と春果は言った。
「うん、いいよ。その方が似合うよ。」と晴美。
「自分のこと、あたしって呼んでも笑わない?」
「笑わないよ。」
「女言葉使っても、変だと思わない?」
「思わないよ。」晴美は、迷いもなくそう言った。

春果は、晴美の前で、どうしてこんなに自分が出せるのだろうかと思った。
自分の女の心が、晴美を好いているからだろうか。
春果は、晴美に、何でも受け入れてくれそうな、心の広さを感じていた。

二人で、ジュータンの上で、ベッドに持たれて並んで座った。
「あたし、帰り道、晴美君の前で、何度も『あたし』って言っちゃった。
 だけど、晴美君、なんとも言わなかった。
 今日も、女の子達とお話したの。
 あたし、つい何度も『あたし』って言っちゃったの。
 でも、それを笑う人いなかった。
 なんでだろう…。」

「あのクラスは、特別に、みんないい人なんだよ。これ、奇跡。
 それにね。クラスのみんな、春果ちゃんは、本当は女の子なのに、
 なにかの事情で、男子の制服着ているんだって思ってるの。
 今日の女の子達、春果ちゃんが、『あたし』って呼ぶたび、
 『女の子の証拠つかんだ!』って思って喜んでたんだよ。」
「え?じゃあ、晴美君、全部聞いていたの?」
「ううん、ちょっとだけ。通りがかりにね。」と晴美は答えた。

「そうか。だから、男の子たち、みんなやさしくしてくれたんだ。
 重いバケツもってくれたり、汚れる仕事代わってくれたり。
 女子もなんとなく、あたしを女の子と見てくれてたんだ。」

そのとき、ドアがノックされ、
春果の母佳子が、果物を持ってきた。
佳子は、春果のワンピース姿を見て、
「あら、もうわかってくれるお友達できたの?」と言った。
「うん。今度のクラス、みんないい人なの。」
春果が言うと、お母さんは、
「まあ、よかったわね。」と笑顔を浮かべて、晴美に会釈をしてさがっていった。

果物を食べながら、春果は言った。
「晴美くんも、みんなと同じに、あたしのこと女の子だと思ってるの?」
「ちがうよ。みんなと同じに思っていない。」
「どんな風に、思ってるの。」
「春果ちゃんは、男の子として生まれたけど、心は女の子。」
「そ、その通りなの。どうしてわかるの?」
「ぼくね、女の子の服着るの好きなんだよ。
 春果ちゃんとは少し違うけど。ぼくは、女装子。
 春果ちゃんは、GIDでしょう。」

「わあ、GIDなんて言葉知ってる人に初めてあった。
 晴美君は、始めから全部わかってくれていたのね。」
「うん。」と晴美は言った。

「あたしね。転校してきたそのときから、
 誰かの温かい眼差しを感じていたの。
 ピンチときは、いつでも助けてあげるっていう。
 外にいても、教室にいても、守られてる気がしてた。
 それ、やっぱり、晴美君だったのね。」

「うん。多分ぼくかな。
 だって、ぼく春果ちゃんのこと好きだっていったでしょう。」
「ありがとう。
 あたし、もうクリニックで診断も下りてるの。
 だから、女子の制服で行けるんだけど、
 そういうのわかってくれないクラスかも知れないでしょう。
 だから、始めは、男子の制服で行ったの。」
「そうだったんだ。
 ぼく達のクラスの人達、絶対わかってくれるよ。」
「うん。今は、安心してる。みんなすごくいい人達だもの。」

「今まで、辛い思いして来たでしょう。」と晴美は言った。
「いじめられて、3回も転校した。
 でも、どこでもいじめられたの。
 それはそうよね。男なのに、女みたいなんだもの。
 たくさんたくさん辛い思いした。」
そういうと、春果は、涙を流し、
膝小僧に乗せた腕に顔をうずめて泣いた。
「たくさん泣くといいよ。それしか、ないもの。」
晴美は言った。
「うん。」
そう言って、春果は、晴美の肩にすがりついて泣いた。
さめざめと泣いた。
晴美は春果の背中をそっと抱いた。
「もう、大丈夫だよ。
 春果の中学時代は、バラ色になるよ。
 あのクラスに来たことは、神様の贈り物だよ。」
「うん、うん。」とうなずきながら、春果は泣き続けた。


つづく(次は、「春果、女の子デビュー」最終回)




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春果を包むやさしいクラス①「春果は女の子だ」

このお話は、意地悪な人は、一人もでてきません。
安心してご覧になれます。

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泉が丘中学校は、各学年1クラスしかない、小さな学校だった。
坂田晴美(男子)は、中学1年。
子供のときから、女装の趣味があった。
学校でも、ときどき女の子の真似をして、みんなを笑わせた。
背は低くて前から3番目。
髪の毛を伸ばして可愛い顔をしていたので、女の子に見えた。
成績はよくて、学年=クラス45人中でいつも1番を取っていた。
運動も好きで、昼休みは、必ず友達とサッカーをしていた。

そのクラスに、六月に転校生が来た。
たった1クラスしかない学年なので、
転校生が来ることは、大事件だった。
みんな、どんな子が来るか、心から楽しみにしていた。

朝、先生の後についてきたその転校生は、
顔立ちが女の子のようだった。
女の子なら、さぞ可愛いだろうと思われた。
長髪にしていて、髪がさらさらとしている。
顔立ちだけではなく、何となく身のこなしが女の子っぽい。
背は、高い方だった。

先生が紹介して、その子立原春果(男の子)は、挨拶をした。
「立原春果です。女の子みたいな名前ですが、男です。
 どうか、よろしくお願いします。」
そういう、春果の声は、変声期は過ぎたと思われるのに、
女の子のような声だった。
みんなが、拍手をした。
そのとき、春果は、特別温かい眼差しで、
自分を見ている生徒の存在を感じていた。

立原春果は、本当に女の子のようだったのである。
座っている姿勢がよく、動作、仕草の一つ一つが、女の子なのだった。

初めは男子達が、昼休みに、サッカーに誘った。
春果はついていったが、行くだけで、自分は、そばの木にもたれて見ていた。
「見てるだけじゃ、つまんねえだろう。やろうぜ。」
とAが声をかけたが、いえいえと手をふって、辞退していた。
そのときも、春果は、自分を温かく見ている眼差しをどこかに感じた。

男子は、3日、昼休みに春果を誘ったが、春果はいつも見ているだけだったので、
悪いと思って、もう誘わなくなった。

それから、昼休みや、中休み、春果は、いつも教室に残って、
本を読んだり、絵を描いていたりした。
そのとき、春果は、温かい眼差しの本人が分かった。
一人いる教室に、髪の長い女の子のような男子が、同じように教室にいた。
その子は、春果と目が合うと、にこっと笑った。

春果のそばに、
ときどき女の子が、集まり、絵を見て、
「うまーい。」
などと騒いだりすることがあった。
しかし、春果は無口で、にこっとするだけだった。

そのころから、男子、女子が集まり、
「春果、女の子説」というのがささやかれた。

みんながあつまり、小声で、言い合っていた。
「春果は、訳があってさ、女の子なんだけど男の格好してるんだよ。」
「なんのために?」
「それは、わからねえ。だって、春果はどう見ても女の子だぜ。」
「トイレも、立ってしてるのみたことねえ。
 必ず、個室入る。」
「え?そうなの。でも、春果まだ胸出てないわよ。」
「お前だって出てねえじゃん。」
「ま、失礼ねえ。」
「あは、ごめんごめん。」

「春果の仕草とか、動作は、完全に女だよな。」
「それは、同感。」
「春果の声は、変性期前の少年の声じゃない。
 お前らと同じ、変性期後の女の声だ。」
「するどいな、その分析は。」
「そんな、感じがする。」
「だから、春果は、ほとんどしゃべらないのよ。声で、女ってバレる。」
「そうかあ、そうに決まってる。」

「ズボンだって、男のふくらみがないと思わねえか。」
「そうだ。体育のジャージも、女の子みたいに、あそこが膨らんでねえ。」
「あたし、字も見たの。春果の字は、女の子文字だよ。」
「可哀相にな。何か事情があってさ、女の姿ができねんだ。」
「これからさ。春果は女の子だと思って、無理させるのはなしだ。」
「言葉に、気をつけろよ。傷つけるような言葉は、なしだ。」
「わかった。」
みんながうなずいた。

(春果は、いつも自分の男の証がいやで、それを股の後ろに回し、
 きつめのショーツを履き、その上からトランクスを履いていた。
 だから、ジャージを履いても、女の子のように見えたのだった。)

ここで話したことは、クラスの春果以外の全生徒に密かに伝えられた。

こんなふうに、泉が丘中1年の45人は、男女とも、
希に見るような、やさしい生徒の集まりだったのである。

掃除当番で、春果が重たい水の入ったバケツを運んでいるとき、
力持ちの男子が来て、
「俺が持つ。」
と言って、すっと春果のバケツをもっていく。

黒板消しを、はたいていて、
制服が粉だらけになっているとき、
「オレに任せろ。」と言って男子が代わってくれる。

女の子達は、自然に「春果」と呼び捨てにする。

ある昼休みのこと。
一人でいる春果のそばに5人の女子が来て、
「あたしたち、今、好きな男の子を、絶対内緒で、言い合ってたの。」
「久美子はさ、森泉くん。瑠奈は、大川君。」
 みんなその度、キャーキャー言っていた。
紗枝が好きな男子を、みんなに教えた。
「きゃー、ほんと!うそー。」などと言っている。

「じゃあ、次、春果よ。」とB子がさりげなく言う。
「あたし?」と春果は、両手で自分の胸に手を当てた。
そのとき、女子達は、バチバチっと目を合わせた。
『春果が、自分のこと「あたし」って言った。』
『やっぱり女の子。証拠をつかんだ。』
目のバチバチは、その意味だった。
だが、5人は、何食わぬ顔である。

「そう、春果も言うの。」
「うーんとね、あたしは、坂田晴美君」と春果は言った。
「おおおお。」と5人は言い、
「まだ、なんとなくよ。話ししたこともないし。」と春果は言った。

「どうして、坂田なの。そりゃ、アイツ可愛いけど、とっぽいよ。」
「あたし、女の子みたいな男の子、なんとなく好きなの。」と春果。

春果は、自分が、「あたし」と自分を呼んでいることに、少しも気がついてなかった。
それに、これは、女の子同士の話であることも気がついてなかった。

「うん、坂田は、女の子みたいではあるね。」

そんな風に、春果は、その休み時間、
5人の女の子たちと、ガールズ・トークをしてしまったのだ。
5人は、何事もなかったように、
「じゃあ、またね。」と解散した。

その後で、春果は気がついた。
あのとき、自分の心は、完全に女の子になっていて、
自分をつい「あたし」と言ってしまったこと。
好きな男の子まで、言ってしまったこと。
気がついて恥ずかしくなり、うつむいて真っ赤になっていた。

自分を「あたし」と呼ぶ男子を、あの人達はどう思っただろう。
でも、その5人が後で、からかいにきたり、
男子に言いふらしたりすることは、なかった。

『ひょっとして、ここは、ものすごくいいクラスなんじゃないだろうか。』
と、春果は思った。


つづく(次回は、「春果のいきさつ」です。)





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春樹はキューピッド③「春樹はキューピッド」最終回

すぐ最終回になってしまいました。次の回のことほとんど考えてないんです。
読んでくださるとうれしいです。

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次の日曜日、遊園地で、会うことにした。
午前10時に。
佐和子は、春樹を特別に可愛くしたかった。
前々から、取っておきのお姫様服を着せた。
白とピンクが織り成したワンピース。
すべて肩見せで、吊り紐は、背中でクロスしている。
ロングのウィッグ。下が緩くカールになっていて、可愛い。
白いサンダル。白い小さなバッグを斜に掛ける。
分からない程度にメイクをした。
ファンデーションに、ピンクの口紅。ピンクのチーク。
上まぶたにピンクのシャドウ。
そして、ネットの白い帽子。
「春樹どう?」と佐和子は聞いた。
「すごく可愛い。うきうきしちゃう。」

「今日会う人はね。春樹のお父さんなんだけど、
 女性として暮らしているの。」と佐和子は言った。
「うん。すごく会いたい。お父さんってだけで会いたいのに、
 女性として暮らしているなんて、もっと会いたい。」
春樹は言った。

よく晴れた日だった。
佐和子と春樹は、先について、遊園地の入り口で待っていた。
来る人来る人、あれが、そうかな、ちがうかなと春樹は言った。
「春樹、男の人じゃないの。女の人として来るのよ。」
佐和子に言われ、
「あ、そうか。」と春樹は言った。
そのうち、向こうから、まるで春樹のお姫様服を占ったように、
そっくりな服を着た人が来る。
バッグを斜にかけ、ネットの白い帽子も同じ。
白とピンクのワンピース。膝丈のスカート。

その人は、佐和子と春樹をみると、帽子を取ってその手を振った。
「お母さん。あの人。あたしと同じ服着てる。」
佑香がそばに来た。
春樹は、キラキラとした瞳で佑香を見た。
佑香がしゃがんだ。
「あの、お父さん?」
「うん。そう。」
「すごく、可愛い。」と春樹。
「ありがとう。」
そういう佑香の目から涙がこぼれた。
「春樹、会いたかった。」
「あたしも。」
そう言って二人は、抱き合った。
佐和子もそばで、涙を流した。

「お父さんって呼びにくい。お姉さんって感じ。
 そう呼んでもいい?」
と春樹が言った。
佑香は、佐和子と目を合わせた。
「いいわよ。」と佐和子はにこにこして言った。
「わあ、うれしい。」と佑香。
「お姉さん、大人になっても女の子の声出せるの?」と春樹。
「うん。これは、3ヶ月くらい訓練したの。」
「胸は、本物。」
「本物よ。触っていいわ。」
「わあ、ほんとだ、すごーい。」
「お姉さんは、いつもそういう可愛い服着てるの。」
「うん。可愛いのが好きなの。」
「あたし、お姉さんみたいに綺麗になりたい。」
「もう綺麗じゃない。春樹は、妖精みたいにステキよ。」
「ありがとう。」

もう春樹は佑香にべったりで、佐和子はジェラシーだった。
「春樹。お母さんにも、べったりして。」と佐和子。
「お母さんには、毎日べったりしてるじゃない。
 お姉さんとは、今日だけなんだもん。」と春樹が言う。
そのとき、佐和子はふと思った。
3人で生活できたら、きっと毎日がもっと楽しい。
佑香が、女友達であり、夫だったら。
夫と別れたのは、女装のことだけだった。
雅彦(=佑香)は、優しくて、おもしろくて、賢くて、ステキな人なのだ。

春樹は、1日、佑香と夢のように楽しい時間を過ごした。
春樹は、佑香が家族だったら、どれだけいいかと思った。

遊園地からの帰り、レストランに行った。
レストランでも、春樹は、佑香の隣に座った。

食事をとっているとき、春樹がぽつんと言った。
「佑香お姉さんとお母さん、もう一度結婚してほしい。」
「春樹、それは・・・・。」と佐和子は口ごもった。
「お母さんは、お父さんが、女の人になるのが、
 許せなかったんでしょう。今もそうなの?」
佑香はうつむいていた。
「あたし、お父さんの気持ちがわかるもの。
 女になりたいって気持ちわかるもの。
 女になっても、女の人が好きって気持ちもわかる。
 お父さんは、女になっても、お母さんを愛していたと思う。」
佑香は、思わず、ハンカチを目に当てた。
今、春樹が言ったことは、自分が春樹のために無理解な人へ言う言葉だった。
春樹は言った。
「お母さんも、あたしと二人だけでは、淋しい時があったでしょう。
 ときどき、お母さん泣いてたもの。
 仕事で、悲しいことあったんだと思った。
 そんなとき、あたしより、お父さんがいてくれたら、
 お母さんも、心強かったと思うから。」
佐和子は、泣いた。声を上げて泣いた。
「結婚しなくても、3人で暮らせたら、あたし、うれしい。」
そこまで言って、春樹も泣き始めた。
3人は、3様に泣いた。



3週間後。
佑香の4LDKのマンションに佐和子と春樹は越して来た。
引越しの片付けも終わった。

夕食のとき。佐和子と春樹はうれしそうにテーブルに座っていた。
佑香が、盛んにフライパンを振るっていた。
佑香は、可愛いワンピースを着て、エプロン、頭にバンダナを三角に付けている。
「お母さん、ラッキーだね。ママがお料理上手で。」
「ほんと、こんなにうれしいことないわ。」と佐和子は言った。
春樹は、佐和子をお母さん、佑香をママと呼んだ。
テーブルに豪華なお料理がならんだ。
「じゃあ、いただきます。」
「いただきまーす。」と明るい声がはずんだ。



夜も更け、二人の寝室。
下着姿で、佐和子と佑香は、毛布にもぐった。
「あたしが女でも平気?」と佑香は聞いた。
「あたし、自分がレズビアンだってやっとわかったの。
 春樹にしたように、男の子を女の子にするのが好き。
 女の子にして、うんと可愛がってあげたい。」
「じゃあ、あたしを可愛がってくれるの。」
「その後で、あたしを可愛がるのよ。」
「いいわ。もう、たっぷりね。」

春樹は、すっかりファンシーに飾った自分の部屋で、
可愛いパジャマに着替え、毛布に入った。
今日の夢でも、また可愛い女の子になれますように。
そうお祈りして、瞳を閉じた。



春樹は、ジェンダー・クリニックで性同一性障害の診断を受け、
ホルモン治療を始めた。
中学は、GIDや性のマイノリティに特別の理解がある私立中学に、
女子生徒として通うことになった。
そこは、各階に、男女共用のトイレがある。
もっとも女子のトイレに入っても、誰から何も言われなかった。
そういう教育が徹底した学校だった。

高校生になった春樹は、ほぼ完全な女性体形を得た。
脚が長く、抜群のプロポーションで、オシャレをいっぱい楽しんだ。

佐和子と佑香は、いつまでも若くて、春樹が二人に追いついていくようだった。
春樹が高校2年になると、もうお母さん、ママとは呼ばなくなった。
お互いに、佐和子、佑香、春樹と呼び合って、3人娘のいる家庭になった。
「佐和子と佑香だけは、夜一つのベッドに寝てずるい。」
と春樹はよく言っていた。

そんな春樹に洋介という彼ができた。
ジェンダー・クリニックで知り合ったFtMの好青年だ。
春樹は163cmで、洋介は、168cmだった。
ベッドのなかで、春樹は、洋介に言った。
「あたし、男の子を好きになるとは思ってなかったの。」
「オレは、ずっと女の子好きだったけど、
 春樹みたいな女の子に出会えると思ってなかった。」
「あたし、洋介となら、劣等感なしでセッ・クスができる。」
「オレも。」
二人は、目と目を合わせた。そして、微笑んだ。
いつの間にか、唇と唇が重なっていた。


<おわり>




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春樹はキューピッド②「佐和子の夫・佑香」

このお話は、早く終わります。次回が、最終回です。

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佐和子は、少しずつ不安を抱きつつあった。
女の子みたいな男の子に、春樹を自分がしてしまったのではないか。
春樹を、同性愛の子に育てようとしているのではないか。

ある夕食のとき、佐和子は聞いてみた。
「春樹は、小さいとき、お母さんが女の子の服を着せたから、
 女の子の服が着たいと思うようになったの?」
春樹は、はっきり言った。
「ちがうよ。お母さんが、女の子の服を着せてくれる前から、
 ぼく、もう、女の子の服着たいと思ってた。
 お母さんのせいじゃないよ。」

「春樹は、女の子になって、男の子を好きになったりするの。」
「好きにならないと思う。ぼく、やっぱり好きなのは女の子。
 でも、テレビで綺麗なニューハーフの人なんか見ると、
 憧れちゃうし、興奮する。」
「興奮って、あそこが変化すること?」
「うん。お△んちんが、大きくなっちゃう。」

「オッパイなんか大きくして、もっと女の子になりたいと思う。」
「思う。髭なんか生えてくるの死ぬほどいや。
 でも、ホルモン打つと、もう男に戻れないんだって。」
「そうなの。よく知ってるのね。」
「うん。お母さんが帰ってくるまで、パソコンでたくさん調べたから。」

佐和子は、自分があまりにも無知であったことを反省した。
春樹がテレビを見ている横で、自分のことを調べた。

「息子に女装をさせて喜ぶ母親」
で、検索してみた。
何件かヒットした。
内容は、だいたいこの3つだった。

・少女時代の着せ替え遊びの喜びを、大人になるまで引きずっている。
 変身願望の一つ。それを、少年の少女への変身で叶える。
・同性愛の一つであり、息子を同性の姿にして満足を得る。
 性愛と母性愛の未分離。
・フェチシズムの一種。女児の洋服を集めようとする。
 男児に着せることで、より満足を得る。

※上記のいずれにおいても、わずかに性的興奮を伴うことが多い。

そうだったのかあ…と佐和子は、納得をした。
自分は、上の3つ全部にあてはまると思った。
自分も特殊な性的趣向を持っていることに、初めて気がついたのだった。



佐和子は、春樹の学校の様子を聞きたいと、
学校の担任の先生に面会の予約をとった。
担任は、32歳くらいのやさしそうな男の先生だった。
眼鏡をかけている。
佐和子は、春樹が家で女装していることを話し、
学校での春樹の様子を聞いた。

担任は、佐伯信夫と言った。
佐伯は、言葉を選びながら、ゆっくりと話した。
「そうですね。学校でも、女の子をしていますよ。」
「つまり、どういうことでしょう。」
「自分のことを『あたし』と呼び、女言葉を使い、
 いつも女子の中にいます。」

「そんな、いじめられたりしていないんでしょうか。」
「大丈夫です。クラスのみんなは、春樹くんを、女の子と
 見なしています。
 春樹君は、動作、仕草、表情、歩き方、身のこなしなどが、
 ほとんど女子と変わりがありません。
 性格も明るくて、勉強もでき、女子としてみんなと仲良くしています。」

「先生は、性同一性障害と思われますか。」
「私は、医者ではありませんので、断言はできませんが、
 おそらく、GID=性同一性障害に近いと思います。」

「ジェンダー・クリニックなどに行く必要がありますか。」
「はい。なるべく早くいらっしゃるのがいいと思います。
 中学生になる前に、是非いらしてください。」
担任の佐伯はそう言った。

佐和子は心細かった。
性同一性障害であるといことは、大変なことだ。
こんなとき、夫がいてくれたら、どんなに心強いかと思った。
一人で考え、一人で決断を下すのがどんなに怖いか。
佐和子は、まだ30歳だった。

佐和子は、前夫雅彦に会いたくなっていた。
今なら、雅彦を許せるのにと思った。
雅彦には、女装趣味があった。
結婚して2ヶ月ころのある日。布団で待つ佐和子のところへ、
カツラをかぶり、女装をし、化粧をして来たのである。

「これが、ボクの正直な姿なんだ。」と雅彦は言った。
佐和子は、ショックだった。その場で泣いてしまった。
佐和子はどうしても、女装の雅彦を受け入れることができなかった。

そして、結婚して6ヶ月で離婚した。
お腹には、すでに春樹がいた。

夫の女装を拒否した自分が、今、息子に女装をさせているとは、
なんたる矛盾だろうと思った。
別れて12年の歳月がたって、
佐和子は、自分もフェチシズムや同性愛、
変身願望があることを知った。
自分が息子に女装をさせていることを思うと、
夫が自分でしている女装の方がよっぽどましだと思った。

18歳で別れて同年の夫も30歳。
夫には、資産があった。女への道を進み、
今は、ブティックと、子供服の店を2つ経営し、流行っている。
また、子供服のデザイナーでもある。

雅彦は、24時間女性として生活し、佑香という名前でいた。

佐和子は、年賀状で来た雅彦の子供服の店の葉書を大事にもっていた。
佑香という名で、店の電話番号が書いてある。
佐和子は思い切って、雅彦の店に電話した。
一番流行っていそうな子供服の第1店に。

店員が出た。
「もしもし、佐和子といいます。
 あの、店長の佑香さんお願いします。」
これが、12年ぶりの電話だった。
「もしもし、佐和子なの?」
その声は、女性の声だった。
「あのう、あなた?」
「うん、そうよ。びっくりした。どうしたの?」
「あ、女性の声だったから、ちょっとびっくりして。
 あの、会いたいの。春樹のことで。」
「そう。いいわよ。」

二人は、佑香の子供服店に近い
喫茶店の2階であうことになった。
ゆったりできて、明るい。
佐和子は先に来て待っていた。
ブティックの店長をしている雅彦は、
豪華な服を着てくるのかなと思っていた。
比べて、自分は見劣りするだろうと、覚悟をしていた。

ところが、2階への階段を上がってきた佑香は、
前髪のあるストレートな髪を、左右2本にまとめ、
黄色いTシャツに、白のミニスカートを履いていた。
そして、胸までの人形の模様のあるシンプルなエプロンをして、
まるで、幼稚園の先生のようだった。

佐和子も若く見えるが、その格好の佑香はもっと若く見え、
どう見ても、20歳そこそこにしか見えなかった。
背も、佐和子と同じ162cmだった。

「あなた、若いわ。」と佐和子は言った。
「ありがとう。佐和子も若いわよ。
 佑香って呼んで。女友達二人になろう。」
「うん、わかった。佑香は、もっと豪華な服で来ると思った。」
「ブティックのお店では、仕方なくそんな服着るけど、
 子供服の店では、可愛い服を着るようにしてるの。
 こんな格好が一番好き。」
そう言って、佑香は、にっこりとした。

佐和子は、春樹にずっと女装をさせてきたことを言った。
そういう自分は、フェティシズムであり、同性愛であり、変身願望の
持ち主であったことを言った。
佑香の女装を拒否しながら、自分もそれ以上のことをやっていることを言った。
春樹が学校で、女の子を演じていることも言った。

「あたし、あなたを拒否する資格なんかなかったの。
 長い間、ごめんなさい。自分がやっとわかったの。」と佐和子は行った。
「佐和子は、本当のフェティシズムでも、
 同性愛でも、変身願望の持ち主でもないと思うな。
 心の裏側に、そんな気持ちがあるのかも知れないけど。
 可愛い女の子みたいな息子をもった母親が、女装させてみたいと思うのは、
 自然なことだと思うけど。

 あたしの女装は、もう病気のレベルだから。
 ホルモンを打って、胸もあるし、ヒップもある。
 あそこの手術は、していないけど、
 全身永久脱毛までしてる。
 でも、あたしは、性同一性障害ではないと思ってる。」

「春樹は、性同一性障害だと思う?」
「あたしより、重症だとは思う。
 学校でも、女の子やってるんでしょう。
 これは、相当だよ。
 動作や仕草が、女の子だった?」

「あ、そう言えばそう。女の子として、
 あたり前だと思っていたから、気がつかなかったけど。」
「書く字はどう?」
「女の子文字だわ。」
「男の子に恋をする?」
「ううん。それだけは、違うって。」
「じゃあ、あたしと似てるのかな。
 あたし、春樹の気持ちが、よくわかる。」

「一度、春樹に会ってくれない。
 お父さんだけど、女性として生きてる人だって言っておく。
 春樹は、あなたを拒否しないと思う。
 今でも、春樹のこと思ってくれてる?」

佑香は、佐和子を見て、じわりと目を潤ませた。
「この12年間、佐和子と春樹のことを思わない日はなかったよ。」
「そうなの。ごめんなさい。」
佐和子も涙を浮かべた。


つづく(次回は、「春樹はキューピッド」最終回です。)




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春樹は、キューピッド①「春樹、女装願望を告白する」

この投稿の1つ前に、「オーロラの『1つを2つにするな』について、
少し書きました。そちらもお読みくださると、うれしいです。

==============================

坂井佐和子は、22歳、美容士だった。
夫と別れ、4歳になる春樹という男の子との二人暮らしをしている。
早い結婚で、母といっても女子学生のようだった。

佐和子は、もし女の子を授かったなら、
毎日可愛い服を着せ、髪も長くし、いろんな髪型にセットしてやりたかった。
佐和子は、自分の願望を満たすために、
仮想の娘を思い、可愛いデザインの洋服を買い集めるのが趣味になっていた。

佐和子は、いけないと思いながらも、
自分の願望に負け、4歳の春樹の髪を女の子のように伸ばしていた。
美容士なので、女の子のように、
とてもスタイリッシュに、春樹の長い髪を整えていた。
男の子というものは、たいてい髪を切るのを嫌がる。
髪を切った翌日は、わざわざ教室でも帽子をかぶっていたりする。

佐和子が、春樹の女の子のような髪を切ろうとすると、
春樹はそれをいやがった。
例え、今、どう見ても女の子の髪型になっていてもである。
佐和子は、いやだという春樹の言葉に甘えて、
春樹の髪をそのままにした。

春樹が5歳になったとき、春樹の髪は背中に届いていた。

顔立ちも可愛く女の子のような春樹を見て、
ある日、佐和子は我慢ができなくなった。
買いためた女の子の洋服と下着を出して、
春樹にたのんだ。

「春樹、1度でいいから、ここにある洋服着てみてくれない。
 お母さん、女の子になった春樹を見てみたいの。」
「いやだよ。ぼく、男だよ。」
春樹は、そう言った。

しかし、春樹は本当は、着てみたくてたまらなかったのだ。
『お母さん、何度も頼んで。ぼく着たいんだから。』
春樹は心で思っていた。
母は、何度も頼んだのだ。
「じゃあ、ちょっとだけだよ。」
春樹は、ふくれっ面をして言った。

佐和子は、春樹にスリップを着せ、
赤いワンピースを着せ、赤い模様のある女の子のパンツを履かせた。
そして、ドレッサーの前に座らせ、髪にカールをかけた。

「春樹、少しだけ、リップを引かせて。」と佐和子は言った。
「やだよ、そんなの。」と春樹は言ったが、母にもっと言って欲しかったのだ。
「ほんのちょっとだからね。」と母は言った。
春樹の唇に、赤いリップが塗られた。
髪のカーラーをとった。
半分から下がカールになったお姫様のようなヘアスタイルになった。
春樹を立たせて、母は、うっとりと春樹を見た。
『ああ、可愛い。完全に女の子に見える。』
佐和子はうれしくてたまらなかった。
春樹は、間違えて男の子に生まれてきたような、
可愛い女の子のような顔立ちをしていた。
佐和子は、春樹の写真をたくさん撮った。

春樹はうれしかった。
いつ頃から、女の子の服を着たいと思い始めたのだろう。
春樹は、このとき、自分の女装への願望を、子供心にはっきりと自覚した。

それから、毎日、遊びから帰ってきた春樹に、
母は、女装をさせた。
春樹は、いつも、いつも嫌だと抵抗したが、
本当は、女の子になれる時間が幸せでならなかった。
いつも嫌がって見せたのは、照れくさかったからだ。

夕食の時間と、テレビの時間。春樹は女の子でいた。
そして、お風呂から出たときに、男の子の服にもどった。

佐和子は1つ気がつかなかったことがあった。
女の子の服を着ているとき、春樹は、仕草も動作も女の子になっていたのだ。
女の子の姿をした子が、女の子の仕草をするのは、当然のことなので、佐和子は気づかなかった。
そして、春樹自身も気がつかなかった。

6歳になり、小学校に上がるとき、
佐和子はさすがに、春樹の長い髪を切った。
春樹は抵抗した。
その末、やっと、アゴのあたりまでの女の子のおかっぱくらいで、互いに妥協をした。

佐和子は、春樹に女装をさせることも、きっぱりとやめた。
しかし、春樹は、それほどがっかりしたことはなかったのだ。



母に女装への願望を伝えぬまま、春樹は、6年生になった。
これまで、クラスの女の子の可愛い服をみて、どれだけ羨ましいと思っただろうか。
一言、母に、女の子の服が着たいと言えば、母は喜んで願いを叶えてくれただろう。
だが、どうしても、その一言が言えなかった。

春樹は、髪をおかっぱにしていて、小柄で、細く、顔立ちも女の子風だったので、
女の子に間違われることが、多かった。
そのたびに、春樹は怒ってみせたが、内心は喜びに浸った。

6年生の夏休み、夕食が終わるころ、春樹は母に遠まわしに聞いてみた。
「お母さんは、女の子の服を買うのが趣味だったでしょう。」
「ええ、そうよ。」
「今でも、買ってるの?」
母は、うつむいて、少し赤くなった。
「ごめんね、春樹。今も買ってるの。
 春樹に着せようなんて、少しも思ってないのよ。
 でも、これ、お母さんの趣味だから。」
「僕の、背に合わせて買ってるの?」
「うん。実はそうなの。ほんとうは、春樹にまだ着せたいのかも知れない。」

「お母さん。ぼく、お母さんにずっと嘘ついてたことがあるの。」
春樹は、このとき言おうと思った。
突然、言ってしまおうという気持ちが湧いてきて、抑えきれなかった。
「なあに?」
「お母さんは、ぼくが小さいとき、ぼくに女の子の洋服を着せたでしょう。」
「うん。」
「ぼく、そのとき、いつも、いつも、イヤだって言ってたでしょう。」
「そうだったわね。」
「あれ、ウソなの。ぼく、本当は女の子の服を着たくてたまらなかったの。
 小学校に上がって、お母さん、それ止めたでしょう。
 ほんとは、ものすごく悲しかったの。

 ずっと女の子の服が着たくてたまらなくて、
 女の子を見て、うらやましくてたまらなかった。
 実は、今でもそうなんだ。女の子の服が着たい。
 ときどき、たまらなくて、眠れないことがあるくらい。」

「ほんと?そうだったの?」と母の佐和子は春樹を見つめた。
「うん。ぼく、6年生になっても、女の子みたいでしょう。
 今でも、女の子の服が似合うといいなあって思ってる。」

「春樹、じゃあ、着てみよう。服、たくさん買ってあるの。
 春樹の髪はショートだから、ロングのカツラまであるの。お母さん美容士だし。」
佐和子は、喜びの声で言った。

春樹は、女の子のパンツを履いて、ドレッサーの前に座り、
下着から女の子のものを着て、そして、ピンクの可愛いワンピースを着た。
幅の広い帯があり、背中で大きなリボンに結ぶようになっている。
膝までの、白のストッキングを履き、
そして、佐和子の業務用の高級なロングのカツラをかぶった。
白いリボンを首の後ろから上にかけ、頭の上で、蝶々結びを作った。

少しメイクをした。
ファンデーション、シャドー、そして、チーク、リップを塗ったとき、
春樹は、一気に美少女に変身した。
春樹自身、感激し、性的・興奮を得ていた。
スカートが、ふんわりしているので、母には、バレなかったが。

「春樹、可愛いわ。今が昼なら、外を歩いてもみんな女の子に見るわ。」
「昼は、恥ずかしいよ。夜の方がバレないよ。」
と春樹は言った。
佐和子は時計を見た。8時半だった。
「じゃあ、行ってみよう。まだ、8時半だし。親がいっしょなら大丈夫。
 駅前のパフェで、何か食べて帰ってこよう。」
「うん。それ、うれしい。」

佐和子は、靴やバッグも買ってあった。
白い可愛いエナメルの靴を履いた。

涼しい夏の夜だった。
「春樹どう?」
「自分が女の子だと思うと、世界が違って見える。」
「そうでしょうね。」と佐和子は言った。
佐和子は、そのときも気づかなかった。
春樹が、女の子歩きをしていることを。
女の子として、自然に見えたので、気がつかなかったのだ。

春樹を見ていく人が大勢いた。
春樹は、妖精のように可愛かった。
佐和子も春樹も、幸せだった。


つづく(次回は、「佐和子、別れた夫に会う」です。)




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<付録>オーロラの「同時殺人、犯人は1人」について

<付録>

●オーロラの同時殺人、犯人は一人について

ここは典子の店。オーロラが小説のプロットを話したところ。

ママ「警察の死亡推定時刻ってアバウトなのに、
   どうやって、ぴたり同時刻殺人って、思わせるの。
オーロラ。 
  「昔は、腕時計を割ったりしましたけど。
   私のは、殺害の部屋で、テレビをかけておくんです。
   部屋を挟んで、テレビカメラで、テレビを撮影しています。
   そのテレビとカメラの間で、殺害する。すると、テレビのこの場面で殺されたと、
   と秒単位で、殺害時刻がわかります。」
ママ「なあるほど。でも、録画したのを使えば、時間差で、二つの部屋にいけない?」
オーロラ。
  「それだと、死亡推定時刻と照らして、テレビ画像は嘘だとすぐにばれます。
   それに、テレビカメラは、殺人のあとも、ずーとテレビを映しているんです。
   そして、A子もB子も、DVDの再生機がないんです。」
ママ「そうかあ。」

ママ「じゃあ、同時殺人をわざわざ行った理由はなあに?」

加奈「あ、それわかる。A子、B子が殺されたとして、
   犯人がA子を殺しているときは、B子の部屋には行けない。
   つまり、B子の殺害に関しては、
   A子を殺していたというアリバイがあって、犯人は白。
   B子殺害のときは、A子の部屋には行けないわけだから、
   A子の殺害に関しては白。
   事件は、アリバイが最優先されるから、両方白になる。」

オーロラ。
  「そうでーす。さすが、加奈さん。」
ママ「そうか、2人殺したヤツだとわかっていても、有罪にできない。」
加奈「だから、犯人は、同一人物の犯行だと思わせることに、苦心するのね。」
オーロラ。
  「はい。映しているテレビカメラに、アイマスクをした顔を写したりします。」
ママ「じゃあ、このお話のポイントは、同時殺人じゃないことを証明すればいいのね。」
オーロラ。
  「そうです。犯人もしぶといですから、いろんなことをして、
  同時だと見せかけます。」
加奈「同一犯人だということを崩す方法もあるわよね。」
オーロラ。
  「最後に、密室からどう出たかもあります。」
ママ「ああ、楽しみ。気になって眠れないわ。」
加奈「ほんと、あたしも。」
オーロラ。
  「どうか寝てください。」
一同笑い。


※今日は、次のお話について、少し投稿する予定です。




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オーロラ姫は男の子⑤「本格推理小説・出版」最終回

2回に分けようと思いましたが、切れ目がなく、少し長いのですが、
一気に最終回です。最後まで読んでくださると感激です。

==============================

それから、3週間。
文庫本にして、200ページほどの本格推理小説
『1つを2つにするな(仮題)』
の原稿を、有希は若葉出版の朝倉のいるデスクに「はい。」と置いた。

「おお、早いなあ。」と朝倉は、目を輝かせた。
その日は、朝倉の妻の法子がきていた。
「大森有希、オーロラがペンネームです。」
「まあ、可愛い方だわ。
 あなたが来てくださってから、
 主人は、お金の苦労がなくなったって、大喜びですの。」
と法子が笑いながら言った。

「そう。オーロラは、若葉出版の救いの女神なんだ。
 ずっといてくれよ。」と朝倉。
「はい。昔から、若葉出版しか頭にありませんでした。」と有希。
「どうして?」と法子は聞いた。
「小学生のときから、本屋さんで、いいなあと思って推理本を取って見るたび、
 若葉出版なんです。いいものしか出さないって感じでした。
 もし、若葉出版が出版してくれたら、
 それは、あたしの『最高』の勲章だって思ってきました。」と有希。
「あなた、うれしいお言葉だわ。」と法子が優しい目で言った。

朝倉編集長は、いよいよ『1つを2つにするな』の読みに入った。
法子と有希は、心配そうにソファーから朝倉を見ていた。
とくに、有希は、緊張で心臓が飛び出しそうだった。

朝倉は、途中なんどもニヤニヤと笑い、また大笑いをし、
それから、ものも言わず、集中読みに入って行った。
ときどき、上を見て、ぶつぶつ言ったり、紙に何か書いたり、
そのうち、にゃっと笑い、それが満面の笑顔となり、
最後のページを閉じた。

「オーロラ。」と行って朝倉は立って、机の前に来た。
そして、手を出した。
朝倉は握手をし、そして、両手で有希の手をとり力を込めて、
「傑作だ。すばらしい。完璧だ。法子、喜んでくれ。
 今、世紀の大傑作トリックが誕生した。」と言った。

「よかったわ。あなたが読み終わるまで、寿命が縮みましたわ。」
「編集長、ほんとですか。新しいでしょうか。」と有希は聞いた。
「ああ。2つの密室での同時殺人は、見たことがない。
 考えたくても、まず不可能だ。それを、オーロラはやった。

 犯人を2人と考えたいが、1人なんだ。
 だから表題は、『1つを2つにするな』なんだな。
 この題でいいと思う。
 推理のミスもなさそうだ。
 前作の笑いやユーモアも入れ、ほのぼのとした恋愛も入れ、
 そこに、マニアを驚嘆させる世紀のトリックだ。
 天才少女加奈も実に魅力的。脇もしっかり描かれている。
 オレは今、長年この仕事をやってきて、本当によかったと思っている。
 オーロラ、ありがとう。」
朝倉は、言った。
有希は、うれしくて涙が出た。
法子が、そっと有希の肩に手を添えた。



朝倉と有希の二人で、念には念をいれ、
推理のミスがないか何度も調べた。
そして、確信に至った。

そして、前作から7週間後。

『オーロラが放つ本格推理小説「1つを2つにするな」
 2つの密室で行われた同時殺人。しかし、犯人は1人。
 前人未踏のトリックを解き開かせるのか、天才少女加奈!』

こんなキャッチ・コピーを下げて、
書店にうず高く積まれた。
表紙は、今度も今野英明だった。
前作の150万部突破というのは重く、
今回は、今野自らが、是非イラストをしたいと申し込んできたのだった。

前作の実績で、初版は、80万部。

推理小説マニアたちの間で、騒然となった。

毒舌推理小説評論家で作家を誉めたことのない権藤永吉は、
オーロラの作品を読んだ。そして、言った。
「おのれ、朝倉。これをけなしたのでは、オレの評論家人生は終わりだ。」
そして、こう書いた。
『本書は、推理小説界における財産である。
 このトリックは、世界初であろう。まさに、驚嘆に値する。』

酷評家の権藤にして、この書評である。
今回は、どの推理小説評論家も、絶賛の嵐だった。

本を読んだ人は誰もが、唸り、そして、爽やかな読後感に包まれた。

本は売れに売れ、1週間で、100万部を突破した。
予約の数も入れ、200万部突破は、確実となった。
また、海外でも翻訳され、多くの国で販売され、絶賛された。
本の総売り上げは、過去に例を見ないものとなった。

「オーロラ、どうしよう。
 もう一生仕事しないで、よくなったよ。ビルにでもするか。」と朝倉は言った。
「だめですよ。このオフィスは古いまま、狭いまま、編集長は1人。
 社員のような人1人。それ以上絶対大きくしないでくださいね。」とオーロラは言った。
横で、朝倉の妻法子も、
「オーロラさんに、賛成。私も、今のままの事務所が好きだわ。」と言った。
「実は、オレもそう思ってる。」と朝倉は言い、3人で笑った。



「お父さん、お母さん、はい、これ。」
と有希は、父と母に1冊ずつ、本を渡した。
「実は、待てなくて、本屋さんで買ってしまったの。」
と母は、すでにある本を見せた。
「恵子、ずるいぞ。オレは会社で読めなかったぞ。」
「あなた、ごめんなさい。」
「で、お母さん、どうだった?」と有希は聞いた。
「あたし、天才を産んだと思ったわ。」と恵子。
「そんなによく書けてるの。」と父の五郎。
「天才って言ったじゃない。」と恵子。

「あの夢は、本当だったのかもしれないね。」と五郎はいった。
「あたしも、そう思った。」と恵子。
「だから、ペンネーム、オーロラにしたの。」と有希。
「有希のお金、すごくなったでしょう。
 でも、家には回さなくていいからね。有希が好きにつかって。」と母は言った。
「うん。法律のことは、これからなんだけど、
 GIDのために使いたい。
 例えば、手術の基金にするとか。
 性のマイノリティの人達のセンターを作るとか。」
「それは、いいね。お父さんは応援するよ。」
「うん。ありがとう。」有希は言った。



8時ごろ、典子ママの店に言った。
「まあ、オーロラさん。出版おめでとう。」とママが言った。
有希は、二人にサイン本を渡した。
「実は、待てなくて、もう買って読んじゃったんだけど、いただくわ。」
とママが言った。
加奈が、
「もう、トリックのところ、感動して体が震えちゃった。
 もう、ほんとすごい。日本の推理小説の歴史に残ると思う。」
と言った。
「あのう、典子ママと、加奈さん、つい実名使っちゃったんです。
 すいません。」とオーロラが言った。
「いいのよ。本名は、二人とも別にあるから。
 それより、お店の名前や場所も書いてくれたでしょう。
 毎日、高校生たちがわっと訪ねてくるの。
 とくに、加奈なんか、大変な人気で、サイン攻め。
 あたしもね、サインさせてもらってるけど。」とママ。

「あたしのこと、あんなにステキに書いてもらって、
 どうしようかと思ってるの。」と加奈は笑いながら言った。
「ほんと、天才少女加奈、ステキよね。
 映画化されたらさ、加奈本人が出るのが一番よ。」とママ。
「あたしもそう思います。映画化のお話は、まだないんですけど、
 あたし、加奈さんの、考えてる時の表情がたまらく好きで、
 そこ、書きたかったんです。」とオーロラ。

「このご本は、GIDの人や、女装子や、マイノリティーの人が、
 普通に出てきて、そえぞれ魅力的じゃない。
 あたし、世の中の人のあたし達を見る目が少し変わる気がする。」とママ。
「あたしも。そういう意味でも、すごい価値ある1冊だと思う。」と加奈は言った。

夜のお客さんも、大入り満員で、客がとだえたことがないと言う。
ママと加奈は、うれしい悲鳴をあげた。

学校に行って、今度も夏樹一人に、サイン本を渡した。
「親友 夏樹洋子さんへ。」
と書かれていた。
夏樹は泣いた。
「あたしのこと、親友と思ってくれてるのね。
 うれしい。」
と言って、夏樹は、有希に抱きついた。

職員室でも、騒ぎになっていた。
ある男性教師が、
「この作者のオーロラは、我が校の生徒ですよ。
 主人公が、『希望の森学園』のことを、
 2度も語っています。」
「ほんとだね。これは、うれしい。
 これで、我が校は、一躍有名になるな。」
と校長始め、みんなが喜んだ。

*   *   *   *  

ある日、学園の正門のそばの大きな木の下で、
有希と夏樹は、椅子を出して座っていた。
二人は、大きな紙でプラカードを作っていた。
「GIDの人LGBTIの人、
 カムアウトして、友達になりましょう。」

「だれか、来てくれると思う?」と夏樹が言った。
「来てくれるまで、何日でもがんばろうよ。」と有希は言った。

そのうち、一人が来た。眼鏡をかけた小柄な女の子。
「わあ、オーロラさんですよね。
 オーロラさんの本を読んで、カムアウトする気になったんです。
 上月さち子、GIDです、どうぞよろしく。」
と彼女は言った。
「わあ、やった。お友達になろう。」有希と夏樹は言って、握手をした。
また一人来た。
背の高い子だった。
「あたし、オーロラさんの本読んでて、GIDであることを、
 そんなに引け目に感じなくなりました。
 小池由布子です。仲間に入れてください。」
次は、男の子が来た。
「FtMでも、いいんでしょう。
 オレ、高橋真吾。よろしく。もう隠してるのやんなっちゃったから。」
「ああ、うれしい。」と有希はいった。

「ね。みんなで、バンド組まない?
 楽しいと思うけど。」
「有希、推理小説やめるの?」と夏樹。
「やめないよ。でも、フリーな時間は、いっぱいあるもの。」と有希。

「いいね、それ。オレやりてー。ドラムやれるよ。」と真吾。
「あたし、ベースやれる。」と長身の小池が言った。
「あたし、パーカスなら、小学校のときからやってます。」と上月。
「えへん。実は、あたし、ギターやれるの。」と夏樹。
「ほんと、全然知らなかった。」と有希。
聞いてみると、みんなそれぞれ得意な楽器があった。
「ね。有希は何かできるの?」と夏樹が聞いた。
「あたし?楽器は全部できます。ボーカルも。」
 そして、作詞・作曲ができまーす!」と有希はうれしそうに言った。
おおおおおとみんなが言って、拍手した。

上月さち子が、ハンカチを出して、泣き始めた。
「どうしたの?」と背の高い由布子が、さち子の肩に手をかけた。
「うれしいの。あたし今まで、ずっと劣等感持ってたの。
 表向き女の子だけど、女の子達に本気で馴染めなかった。
 みんなをだましている気がして、罪悪感があったの。
 でも、あたしのこと完全に分かってくれる人達に会えて、
 もう、一人じゃないんだって。うれしいの。ありがとう。」
さち子は、そう言った。
「オレもそう。上月さんの言うこと痛いほどわかる。」
と真吾は言った。
みんな、それぞれ、涙を浮かべた。

メンバーは、最終的に8人になった。
FtMの子が2人になった。
みんな、今日会ったばかりの人達とは思えなかった。
いっぺんで、心が通った。
有希は、夏樹と二人で、やってよかったねと言い合った。

有希は、今度は、一番得意な音楽で、
メンバーと共に活躍していく。

そのお話は、またの機会に。


<おわり>




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オーロラ姫は、男の子④「本格推理小説完成」

昨日は長い挿入話を書いてしまい、すみません。
(まだの方は、読んでくださるとうれしいです。)
本編に戻ります。「典子ママと加奈」が毎度のように出てきます。
困ったときの、「典子ママ」なんです。どうか、ご容赦を。
では、読んでくださるとうれしいです。

===============================

次の日は、モデルのバイトの人だった。
スタッフの人達は、有希の著書のことは、誰もしらなくて、
有希は、ほっとした。
やっと冬だというのに、今日の服は、春物ばかりだった。

仕事が終わったとき、夏樹がスタジオまできて待っていた。
「あ、夏樹、待っててくれたの。」と有希は言った。
夏樹は、なんだか心にかかるものがあるらしかった。
「有希、今日カラオケ行こう。」と言った。
カラオケ行こう…とは、セッ・クスしようということだった。
この頃、推理小説に夢中になって、夏樹とほとんど会っていなかった。
「うん。行こう。家に電話しておくね。」
家に遅くなると言って、有希は、夏樹と出た。

夏樹は、こげ茶のニットのワンピースと、長いベストを着て、
頭に、同じ色のベレー帽をかぶっていて、とってもチャーミングだった。
有希は、レザーのミニのワンピースを着て、
黒いコートを羽織っていた。

カラオケに入って、最初の飲み物を頼んで、
それが来たら、もう、だれもこない。
お金のない高校生たちは、みんなカラオケを利用している。

二人は、コートをフックに吊った。
飲み物が来て、店員さんが行ってしまうと、
夏樹は有希の首に両手を回してきた。
「あたし、有希がどんどん遠い人になっちゃう気がして、
 この頃、すごく悲しいの。」と夏樹はいう。
「そんなことない。作品書いていても、あたし学校へは毎日来るよ。」
「じゃあ、ちょっとうれしいけど。」と夏樹は言った。

夏樹は、ニットのワンピースを着ていて、
それは、座ると、裾がももの半分より上に来る。
夏樹は茶のストッ・キングを履いていた。
その脚がほとんど見えて、色っぽい。
「夏樹、こんな綺麗な脚を見せて、あたしを挑発する気でしょ。」
「有希だって、超ミニじゃない。」

有希と夏樹は、いつの間にか、肩を抱きあってキ・スをしていた。
そして、お互いの胸を触りあう。
お互いに息が荒くなり、たまらなくなって来る。
「ショー・ツもストッ・キングも脱いじゃおうか。」
有希がいうと、夏樹は、うんと言った。
座りなおすと、下・半身がスースーする。

有希は、夏樹がセクシーでたまらない。
夏樹は、下唇が大きくて、柔らかい。
目が、くっきりと大きい。
二人とも、スカー・トの中に手を差し込んだ。
「あ…ん、感・じちゃう、だめえ。」と夏樹が甘えた声を出した。
「夏樹、感じやすいから、すぐ大きくなっちゃうんだね。」と有希が言った。

「有希は、どう?あん、有希だって大きいよ。」
二人で、さわりっこしていると、二人は、しだいに無口になってくる。
「ううん。」という声が出てくる。
呼吸も荒くなって来る。
有希が、夏樹の股・間に顔をうずめた。
あるものをくわえ、
夏樹の長い脚を撫でていく。
夏樹のももが少しずつ開いていく。
「あん、有希、あたし、たまらなくなる。」
夏樹がセ・クシーな声を出す。

二人が座っている正面にちょうど鏡がある。
そこにももを開いた夏樹が映っている。
夏樹はそれを見ると、さらに興・ふんするのだった。
「有希、有希、だめ、イきそう、ああ…。」
有希は、バッグの中からゴ・ムを出した。
それを、夏樹の部分に被せて、手のあいぶに変え、
夏樹のくちびるをくちびるで塞ぐ。
空いた手で、夏樹の肩を抱き、強く口・づけする。

やがて、夏樹が、いやい・やを始めた。
夏樹は、ももを完全に開いてしまっている。
「有希、イく、あたし、イっちゃう、ああ、ああ……ん。」
夏樹が泣きそうな声をあげた。
「あああ・・・、イく・・・ああん。」
と小さく叫びながら、体を反らし、ゆすぶりながら、夏樹は達した。

そのあとで、有希は、夏樹から同じことをしてもらう。
有希の特別サービスで、有希は気が狂いそうになって、
大きな声をあげてしまった。
しかし、ここはカラオケルーム。
どれだけ、大きな声を出してもかまわない。


すっきりして、服を着て、いつも焼きそばを頼む。
「ああ、有希は、本でお金持ちでしょ。あたしだけ貧乏。」と夏樹。
「大丈夫。あたし、夏樹と結婚するから。」
「ほんと、どっちが男のまま?」
「あたし。」と有希。「夏樹は、性転換して女になるの。」
「それいいな。」と夏樹。
「なりたい?」
「うん。」
「夏樹の方が、あたしより、ずっと女の子だね。」
「うん。有希は、男の子が少し残ってる。」
有希は、こんな会話が出来る友達がいて、幸せに思った。
GIDであることを、ずっとポジティブに考えていきたかった。
高校でまだ出会っていないGIDさんみんなに会いたかった。
いつか、そんな日が来そうな気がした。



有希は、夜の8時ごろ、新宿通りを歩いていた。
茶系のセーター、スカート。ブーツ。
黒のコートに、茶の毛糸の帽子をかぶっていた。
やがて、有希は、細い道に入った。
そこは、小さなバーやスナックがひしめき合っている「ゴールデン街」だ。
夜高校生の女の子が来るところではない。
でも、有希は、昼のうちに場所を調べておいたので、
真っ直ぐに目的の店に行った。

「らーめん」の提灯がかかった「典子」の店。
「あのう。」と言って首だけ、店にのぞかせた。
「典子ママと推理小説作家の加奈さんのお店ですよね。」と有希。
「はいそうです。お入りになって。」とママが言った。
「推理小説家の木村先生に聞いてきました。
 私も一応推理小説書いているものです。
 ペンネームは、オーロラといいます。」

「まあ!」とママは飛び上がった。
「わあ、可愛い!」と加奈が言った。
「オーロラさんは、プロフィールにGIDって書かれたでしょう。
 あたし、うれしかったわあ。この店ではあたしがGIDなのね。
 GIDのこと、堂々と書いてくれて、もう、胸がすかっとしたの。」
「だったら、うれしいです。何事もカムアウトは早い方がいいと思ったんです。」
「その通りよ。」
わいわい話が弾んで、本題になかなか行けなかった。

「今日、お訪ねした訳なんですけど、
 あたし、今度本格(推理本位の)推理小説書きたいんです。
 それで、木村先生からアイデアいただいたんですけど、
 ゴールデン街のお店に、天才少女がいて、
 その人が主人公なんです。
 その天才少女のモデルが加奈さんです。
 そして、その天才少女の合いの手を打つのがママさん。

 そこに、推理小説家の男性がいて、
 彼はいろいろ事件に首を突っ込んで、考えるんです。
 そして、行き詰ったら、ここに来て、お知恵拝借なんです。
 そのお知恵を出すのが、加奈さんです。
 加奈さんは、お店から1歩も出ないで、難題を解決するんです。

 だから、今日は、お店やお二人をモデルにする許可をいただくことと、
 ママと加奈さんにお会いすることと、お店の様子を見に来ました。

 と言うことで、このお店を舞台にしていいでしょうか。」

「もちろんよ!うれしいわ。」とママは大喜びをした。
「うれしいです。加奈さんとママをモデルにすることもいいですか。」
「もう、最高にうれしいわ。」とママ。
「あたしも最高にうれしい。」と加奈。
「作中では、加奈さんは、女装子にしようと思います。」
「実際そうだから、いいです。」と加奈。
「わあ、これで、決まった。うれしいです。」と有希は言った。

「ね、本格なら何に挑戦?」と加奈は聞いた。
「本格処女作ですから、これっきゃない、『密室』です。」と有希。
「わあ、すごい。今度は、マニアをうならせるのね。」と加奈。
「そうなんです。書評で、トリックが陳腐だなんて書かれたので、燃えてます。」と有希。
「そんなことない。あたし、あのトリック、新しいと思ったけど。」加奈。
「同じ意見よ。トリックの楽しさ意外にお楽しみがたくさんあったけど、
 オーロラちゃんのあのトリック今まで聞いたことなかったもの。」ママ。
「そうなら、うれしいです。」と有希は言った。

「あ、心配だから、次の作品の急所だけ、聞いていただけますか。」と有希は言った。
「うんうん。」とママと加奈は身を乗り出した。
「えーと、2つの密室で、同時刻に殺人が行われる。犯人は1人。
 って言うんですけど、世界は広いから、誰かもう書いてるかも。」
「すごーい。あたしもマニアの一人だけど、ない。ないわ。」とママ。
「あたしもない。これ、書けたらすごい。もう考えてあるの?」と加奈。
「はい。」と有希は、満面の笑顔で答えた。

これで、全ては決まった。
あとは、書くだけだ。
ストーリーは、出来ていた。
有希は、猛烈な速さでキーボードを打った。

それから、3週間。
文庫本にして、200ページほどの本格推理小説
『1つを2つにするな(仮題)』
の原稿を、有希は若葉出版の朝倉のいるデスクに「はい。」と置いた。


つづく(つぎは、「本格推理小説・出版」です。)




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オーロラ、世界の巨匠安井民男との対談・1話完結

「オーロラ、安井民男と対談」(挿入話)

これは、エピソードとして書きました。現実にはありえないことだと思います。
ここに出てきます作家安井民男は、誰かをイメージしたものではありません。
長いもものですが、一気に投稿します。読んでくださるとうれしいです。

夜9時10分、加筆・訂正しました。

===============================

安井民男は、むっとした。

安井民男は、今日本を代表する小説家であり、
著作は、方々の国で翻訳され、世界的な作家であった。
ただ一つ、性格的に偏りがあり、独特の正義感を持っていた。

テレビ局から、対談の依頼であったが、
その相手が、16歳の女性推理小説作家だという。
まだ1冊を出したばかりだが、
その売り上げが150万部を突破したとのこと。

「なんで、オレが、そんな小娘と話をしなくちゃならない。」
と安井は言った。

「それが、お偉い方からの、是非にというご依頼で、断れません。」
と書生の金子がいう。
金子明は、安井がただ一人そばに置いている絶対信頼のおける書生だった。
「オレは、対談なんて今までしてないからね。相手がどれだけえらかろうが。」
「30分なんです。その時間だけ我慢してくれませんか。」
「どうしても、断れんのかね。」
「はい、どうしてもです。」

「わからんなあ。どうしてオレと推理小説作家なんだ。テーマは。」
「ありません。」
「じゃあ、どう曲がりくねってもいいんだね。」
「と、思います。」
「ふん。」
安井民男は、返事ともとれない返事をした。

対談が、明日という日、書生の金子が本を持ってきた。
「対談のお相手が書いたものです。」
と言って、置いていった。
安井は本を手に取り、ぱらぱらっとめくり、
ごみ箱に捨てた。
思い返したのか、さっと名前だけ見て、また、ごみ箱に戻した。
「オーロラか。お姫様気取りだな。」そう言った。

当日がやってきた。
テレビのライブ放送だ。一部世界にも放映されている。
司会の人物が、安井民男を向かえることができたことは、
どんなにすごいことかをくり返していた。

その相手が、16歳の推理小説家オーロラとあって、
ユニークな対談であることを、語っていた。

番組は、安井の希少価値とオーロラの人気も加わり、
番組の視聴率は40%を超え、局としては、歴史的なものとなった。
視聴者が、オーロラを映像で見るのは、これが初めてであった。

世界の安井民男に、新進気鋭のオーロラが、
16歳にしてどこまで食いついていけるか、
視聴者の興味は尽きなかった。
二人の対談に対し、50名の視聴者が、スタジオの中にいた。

オーロラがやってきた。
白いふかふかのスカートと上着。
頭に白いベレーをかぶっていて最高に可愛い。
視聴者のほとんどが、すごい声援を送った。
お茶の間の視聴者のほとんどは、本の写真より、数段可愛いと思った。
安井民男が出てきた。
同じくすごい拍手があった。

二人の間には、テーブルがあり、安井のところには、10冊ほど。
オーロラのそばには、1冊だけあった。

司会無しのフリートークだった。
オーロラが、
「先生は…。」と言ったとき、
安井は、
「私は、先生と呼ばれるのは、嫌いだ。
 書生には許しているがね。一般の人からそう呼ばれたくはない。」
「では、安井さんでいいのですか。」とオーロラ。
「そうですね。」と安井は言った。

次に、安井が、
「あなたのようなお若い女性がですね…。」というのを、オーロラは止めた。
「あの、私は、女性ではありません。途上ではありますが。」とオーロラが言った。
「じゃあ、男なの?」と安井が言った。

50人の観客。スタジオにいたほとんどが、
「その言葉はまずい。」と顔をしかめた。
オーロラは、その言葉に少なからず、ショックを受けた。
安井が、自分の本を読んでくれてないことを悟った。
また、完全に女装をしている自分に対して、「じゃあ、男なの?」
という言葉は、あまりにも心ないものに思えた。
悲しく、涙がにじんできた。
オーロラは、こらえきれず、ハンカチを出して、目に当てた。

安井は、オーロラの涙の意味が分からず当惑した。
女性じゃないというから、男なのと聞いたまでだ。
そう思っていた。
「なぜ泣いているのか、理由を教えてくれたまえ。」
安井は言った。

オーロラは、悲しみの後に、怒りが込み上げてきた。
しかし、安井を迎えた貴重な番組に、自分が、怒りをぶつけていいものか迷った。
そして、ガラスのブースのなかのプロデューサーに目をやった。
プロデューサーは、はっきり「言え。」とのジャスチャーをしていた。
オーロラは、意を決した。

「私は、今日の日のために、安井さんの著書をすべて読んで参りました。
 それが、対談する方への最低の礼儀だと思ったからです。
 一冊も読まずに、今日の対談に臨むなど、非礼の極みだと思っていました。

 それを、安井さんは、おそらく私の著書、1つしかありません、
 それも、お読みいただけず、ここにいらした。
 そうお見受けいたしましたが。
 お読みいただけたのなら、私の「女性ではない。途上ではあるが。」の意味を、
 ご理解くださったはずです。」

しばらくの沈黙の後、安井が口を開いた。
「私は、ウソは嫌いだ。
 正直にいいます。あなたの本を読んできませんでした。
 お名前だけは見ました。」
会場に、どよめきが起こった。
プロデューサーは、頭を抱えた。
安井は、そのどよめきは、自分を非難するものと感じた。

「なぜ、お読みいただけなかったのですか。」
「あなたの作品を、とるにたらんと思ったからです。」
安井は『嘘は嫌いだ。』と明言した以上、
方便としてのウソもつけなくなっていた。
爆弾発言であることは、わかっていた。
自分がどれだけ窮地に立とうが、事実を正直に発言する姿を、
嘘ばかりで、塗り固めた人種に見せたかったのである。

「とるにたりない私との対談を、どうしてお引き受けになったのです。」
「えらい人のどうしてもの頼みだと聞かされたからです。」

「安井さんらしくもありません。偉い人の頼みなら、お聞きになり、
 私のような取るに足らない者には、公共の場で、
 侮辱してもかまわないのですね。」

「侮辱した覚えはない。ただ、正直に答えたまでだ。」
「対談の相手として、私では、不足ということですか。」

「そうだ。私は58歳だ。私と対談したければ、40年勉強してから来なさい。
 不愉快だ。失礼する。」
安井は、楽屋に向かって、廊下を歩いていった。
スタッフがあわてて追いかけていった。

カメラは、回っていた。

オーロラは立って、50人の視聴者に聞いた。
「私は、間違っていたのでしょうか!」
「正しい。あなたは何も悪くない。」と50人。
「私が生意気だったのでしょうか。」
「とんでもない。無礼なのは、あの人だ!」

安井を止めにきたスタッフ達は、途中でそれをやめた。
安井を止めても、もう、どうにもならないことを悟り、スタジオにもどった。

プロデューサーは、しかたなく、オーロラをゲストとして、
司会者を置き、性のマイノリティに関するインタビューに切り替えた。
処女作にあえて性同一性障害と記載した理由などから、
インタビューをはじめた。

しかし、オーロラは、今日安井との話題として、
安井の全著作の中から、「差別と偏見」に関する箇所を、
すべて抜き出してきていた。

そして、抜き出してまとめてきたものを中心に、
安井民男の差別論を展開していったのである。

オーロラ:先生の作品「△△」の53ページにこんな会話があります。
『差別とは、上に作るものではなくて、下に作るものだよ、ジョン。
 井戸を掘るようにね。
 下に穴を掘れば、一つ差別の対象ができる。
 だが、気がついて欲しい。君のいる位置は、少しも変わらないんだよ。』

オーロラ:いかがでしょうか。これで決まりかなと思いきや、
     会話は続きます。ロイが言います。

『じゃあ、掘るのをやめて、土を運んで、底を高くしていこうよ。
 そうすれば、ぼく達、どんどん上に上がっていくじゃないか。』

でも、違う子がいいます。

『そうやっても、ぼくたちが、一番底だということは、変わらないよ。』

そうかもしれませんね。
でも、ロイは引き下がりません。

『一番底でもさ。その底が穴の口まで来たらどうなる。
 ぼくたち、地面の人と、同じ高さにいるじゃないか。』

えーいかがでしょうか。大変現実主義的な安井先生ですが、
この作品では、差別がなくなることもありうると、提言されているように思います。

それは、言わば、理想主義的であり、安井先生のお若いときの作品かと思いました。
ところが、2008年、先生の54歳のときの作品なのです。
どうしてこういうお考えに至ったのか、大変興味深い一節だと思うのです。

しかし、ヒントがございます。作品「△△」では、こんな記述が見られます。
・・・・・・・・
・・・・・・

こんな調子で、安井民男の偏見・差別論ともいうものが、オーロラによって、
見事に語られていったのである。

安井作品の引用を巧みに構成し、知的興味を駆り立てながら、
クライマックスに運んでいく。
これには、マイノリティーの人達も、安井ファンの人達も、
完全に引き込まれ、最後まで、興奮しながら見たのだった。

そして、最後には、安井民男はやっぱり偉大であるとの思いに至るのだった。

オーロラの時間も視聴率は、40%代が続いた。
番組はそっと時間を延長し、40分行った。

プロデューサーやスタッフが、オーロラを絶賛したことは、言うまでもない。



(時間は遡る。)

楽屋を出て、書生の金子と局を出ようとするとき、
立ち止まり、安井は、金子に聞いた。
「私がまちがっとったのか。」
「はい。先生どうかされていました。
 『ウソは嫌いだ』というお言葉に縛られて、
 ご自分への正義と思っておっしゃったことが、相手を傷つけました。

 あの人は、性同一性障害の人です。
 ご本のプローフィールに堂々と記載されてます。そこが、重要なところです。
 オーロラさんは、言わば、性的マイノリティーのジャンヌ・ダルクなんです。
 だから、先生ほどの方との対談が成立したんです。

 先生に先入観を与えるのはよくないと思い、黙っていましたが、
 偉い人…というのは、政治家や大金持ちではないのです。
 国連付属の世界差別解放団体からの依頼です。
 オーロラさんが、性同一性障害のことを、
 著書のプロフィールに堂々と書いておられることに着目され、白羽の矢が放たれました。

 先生が、世の中の偏見と差別にどんなメスを入れて語られるか。
 オーロラさんと話すということは、自ずとそれがテーマだということです。
 国連の解放団体からの依頼なので、局は断ると大変なことになります。
 もちろん、オーロラさんは、聞き手として、また当事者として、
 対談の主旨は見当をつけておられた思います。
 そして、今日の対談は、世界に放送されていました。

 ありきたりな差別論にみんな飽き飽きしています。
 だから、世界の安井先生のお言葉をみんな何よりも楽しみにしていました。
 今日の先生の言動を、世界の人は、どう見たでしょうか。
 ライブなので、もう放送されてしまいました。」

「国連だの、解放団体など、何も聞いていなかったぞ。」と安井。
「先生は、国連だからといって、態度をお変えになる方ですか。
 解放団体だからと言って、団体にこびたことを言われる方ですか。」
「断じて、ない。相手が誰であろうと、私は態度を変えん。」
「だから、先生に何もお伝えしなかったのです。」金子は言った。

「これで、先生は、世界の性的マイノリティの人々を敵に回してしまいました。
 先生は、これから、弱者を守るような小説は、お書きになれません。
 強者を賛美する小説など誰も読みませんよ。」

「君も、きついな。今日はそれほどの失態だったのか。」
「はい。先生の作家生命に止めを刺すものでした。
 過去の作品の価値を、根こそぎ無にするものでした。」

「どこで間違えたんだね。」
「オーロラさんがおっしゃったように、最低の礼儀として、
 あの方の本をお読みになるべきでした。
 たった1冊なのですから。
 オーロラさんは、先生の作品48冊ですよ。学校や仕事に行きながら。
 私は、万が一先生が、小説はお読みにならなくても、
 巻末のプロフィールくらいは、最低ご覧になると思っていました。
 そうすれば、性同一性障害のこともおわかりになった。
 あの方の、『途上にあります。』という言葉を、
 ユーモアをもって受け止められました。
 今日の対談の重さもお気づきになったと思います。」

「オレは、あの人の本をごみ箱に捨てた。
 なぜ、そんなことをしてしまったのかな。」
「同業の年少者に対する偏見と、推理小説への軽視がおありだったからです。
 そういった偏見をどうすれがいいか、
 それが、まさに今日のテーマでしたのに。」

「その通りだ。オレは、偏見をもっていた。
 何を小娘が…と思って、本もごみ箱に捨てた。
 オレは、もとより今日の対談に出る資格のない人間だった。」

「本をごみ箱に捨てるなど、本を書く資格も怪しいです。
 私は、ゴミ箱の本を拾って、家に持って帰りました。
 そして、読みました。宝石のような可能性に富んだ作品でした。
 ジェラシーを覚えました。

 しかし、それでも、私は、先生の差別論をお聞きしたかったです。
 世界を変えるものだったかもしれません。
 それが、もっとも悔やまれることです。」

ああ…と安井は頭に手を当てて、地面にしゃがんだ。



番組が終わる寸前に、司会者は聞いた。
「今日、安井先生が帰ってしまわれたことについて、
 今、どのようなお気持ちですか?」

オーロラはゆっくり考えながら答えた。
「私の変な意地で、あのようなことになってしまい、
 今はとても反省し、後悔しています。

 先生の「じゃあ、男なの?」の発言で、
 私は、先生が私の本どころか、巻末のフロフィールさえ
 目を通していただけなかっと悟り、失望と怒りを覚えました。

 しかし、今日の対談の中心的課題になるはすだった、
 『偏見と差別』というテーマの重要性を思えば、
 私のプロフィールを見ていただけたかどうかなど、小さなことでした。
「じゃあ、男なの?」と言われたとき、
「私は、性同一性障害です。」と自分の口で言えばよかったことでした。
 どうして、そうしなかったのかと、今、悔やまれてなりません。
 あんなことになってしまったことに、大きな責任を感じています。
 申し訳ありませんでした。」

「そうですか。オーロラさんのお言葉は、先生に伝わっていると思いますよ。」
という司会者の言葉で、番組は終了した。



安井は、家に帰り、自分が去ったあとのスタジオの様子が気になり、
録画してあったものを見た。

すると、オーロラが、安井の差別論を語っていたのである。
オーロラは、安井の不在の中、安井作品の引用を借りて、
安井文学の「偏見と差別」について語っていた。

それを、安井は、まるで、奇跡のように感じて見入った。
内容は、すばらしく、安井作品を分析し、本質を見事にとらえていた。
しかも、安井作品の価値を聴衆に強く印象づける終わり方だった。

それは、今日のためにオーロラが、どれだけ安井の文学に対し、下調べをしてきたか、
十分に知れるものであった。

安井は、オーロラに深く感謝をした。
自分の失態を人々に忘れさせ、安井文学はやはり偉大だと人々に思わせてくれた。

「オレは、これだけの人物を、『たかが小娘』と蔑んだのか。
 それなのに、オレは、この人のプロフィールさえ見なかった。」
安井は深く悔やんだ。

さらに、安井は、オーロラの最後の言葉を聞き、涙を流した。




安井は、翌日、局と新聞社に謝罪の文を書いた。
すべては、自分の責任であり、相手のオーロラ氏には、何の落ち度もないこと。
オーロラ氏が、自分の抜けた後、安井論を展開してくれたことへの感謝。
オーロラ氏を代表として、世界の全てのマイノリティの人々を侮辱してしまったこと。
それは、自分の傲慢と高慢が原因であったこと。
許し難い言動をしたことを、お詫びしたいとのこと。
そして、末に、自分を反省し、見つめるため、休筆を宣言した。

謝罪文は、新聞に掲載された。
安井のオーロラへの気持ちもしっかり綴られていた。


つづく(次回は、本編に戻ります。「有希、本格推理に挑戦」です。)




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オーロラ姫は男の子③「いい書評、悪い書評」

朝倉賢治は、若葉出版を今一人でやっている。
たまに、妻の法子が手伝いに来る。
前は、6人もいる出版社であったが、
本が売れず、だんだん社員を減らさざるを得なくなった。

有希の推理小説「バラの色は月曜日」は、
久々に、わくわくするような作品だった。
めったに現れない新人だと思った。
原稿の校正をしながら驚いた。
ほとんど校正の必要がない。
とうとう、最後のページまで、全く校正を必要としなかった。
それは、驚くべきことだった。

有希は、すべてのページをワープロで打ってあったので、
それを記憶させた、USBメモリーをおいて行った。
朝倉は、すぐ印刷の方を手配し、
装丁として、昔世話をしたことのある、
今人気絶頂の今野英明に依頼した。
今野は、昔世話になったことのある朝倉の頼みだったので、
多忙であったが、断れなかった。

こしうして本は、3週間という驚異的な早さで出来上がった。
有希のペンネームは、「オーロラ」だった。
末のプロフィールに、GIDのことも書いた。

「わあ、もうできたんですか。うれしいです。」
と有希は、本を見ながら、うれしくてジャンプした。
「今頃お家の方に、献本が100冊行ってると思うよ。
 それから、君のブログでどんどん宣伝してくれたまえ。
 まず、8000冊売れば、赤字にならない。」

有希は、ブログで大々的に宣伝した。
本屋へ行って見ると、「バラの色は月曜日」が横置きで、
入り口のすぐそばに置かれていた。
今野英明装丁ということで、書店は、横置きにしたのである。

8000部は、あっという間に売れた。
有希は、朝倉に呼ばれた。
「ネット販売で4000売れてる。
 これは、君のブログからだろう。
 だが、あとの4000部は、書店で売れている。
 これは、すごい。
 で、だ、第2版は、2万部行ってみようと思ってる。
 どうだい?」
と朝倉は言った。
「あたしは、そのへんわかりませんので、お任せします。」
「それとね。家は印税、発売のとき払うから、
 200万円くらい、銀行の口座に振り込まれるよ。」
「わあ、印税なんてあるんですか。うれしいです。」
有希は、またもや飛び上がった。

その後、本は、売れたのである。
朝倉には、夢に見た、ミリオンセラーになった。
有希は、書店に行くと、山済みにされている自分の本を見て、
うれしくてたまらなかった。

有希は、印税のことをまだ父母に言ってなかった。
ある夕食のとき、二人に言った。
「お父さん、お母さん、印税って知ってる。」
「もちろん。」と二人。
「今あたしの本で、ここまで印税がはいったの。」
そう言って、有希は、銀行の残高証明を見せた。
「あら、うそ、わあーーー。」と母の恵子は言った。
「どれどれ、おおおお、父さんの給料の2年分だよ。」と父の五郎は言った。

「これで、あたし、完全な女になる手術代でるかもね。」
と有希は言った。
「やっぱり、するのか?」と五郎。
「高校の3年間で、ゆっくり考えるね。」
有希はそう言った。

有希は、学校では、夏樹にだけ、本のことを話して、
本をプレゼントした。
「親愛なる夏樹へ」と書いてあった。
夏樹は、興奮して、飛び上がった。
「やっぱり有希は、有名になるんだね。
 ジャラシーだけど、おめでとう。ずっとあたしと友達でいてね。」
「うん。もちろんだよ。」
と有希は、言った。



金曜日は、授業が少しなので、若葉出版に言った。
本は、今、150万部売れようとしていた。

朝倉が一枚の紙を見せる。
「はい、これ、書評だ。悪いのから見る?いいのから見る?」
「悪いのからみます。」と有希は言った。

<悪いの>
・モデルの経歴や、本人の美貌、GIDという境遇、
 さらには、人気イラストレーターの装丁で、売れているだけである。
 文章は未熟で、変に笑いを誘うところが余分である。
 トリックもよくあるもので陳腐であり、肝心の中身を充実させて欲しいものだ。

「ううう。」と有希は悔しがった。
「まあまあ、けなす人は、けなすだけの人間なんだよ。」と朝倉は言った。

・経歴や本人の境遇で本を売るのは、どうかと思う。
 笑いの箇所は、あるていど成功しているが、トリックにもう少し重きをおいて欲しい。
・今の流行をうまくつかんではいるが、内容に重みが欠ける。トリックはまあまあである。

有希は、
「はあ~。」と息を吐いた。
「くやしいなあ、今度本格書いてみます。」と言った。
「まあ、いい方も読んでご覧よ。」

<いい方>
・私は、経歴など一切無視して読むが、とにかくおもしろく、おしゃれであり、
 何度も大笑いさせられた。これが、16歳の著者が書いたとは、驚きである。
 トリックは、大変新鮮であり、私が今まで目にしたことがないものである。
 だとすると、これは、偉業を成し遂げたと言えるのではないか。

・16歳という著者ならではの、現代性、流行色が感じられ、おしゃれな一冊である。
 さらに、これは、上質なユーモア小説でもあり、そこに1級のトリックが盛り込まれ、贅沢な一冊と言えるものである。

・トリックが素晴らしく、恐らく推理小説界初登場のものと思う。
 16歳の著者が考えたものなら、それは、驚嘆に値するものである。

「ああ、よかった。いい方を読んで。」と有希は言った。
「だろう。一つの評価だけ読むと、やる気をなくすから、
 いろいろ読んだほうがいいね。」と朝倉。
「朝倉さん、あたし、次に本格書いてみたいんですけどいいですか。」
と有希は言った。
「ああ、いいとも。君のトリックをけなしたヤツラを、ぎゃふんと言わせてやれ。
 わが社は、君のお陰で、6ヶ月は何もしなくて暮らせるからね。
 冒険をするチャンスだよ。」
そう朝倉は言った。


つづく(文学の巨匠安井民男との対談)




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オーロラ姫は、男の子②「有希・推理小説を書く」

「有希(ゆき)~!」と遠くから声がした。
夏樹だ。背が168cmある美少女だ。
夏樹は、有希のとなりに座った。
「今日のバイト、いっしょに行こう。」と夏樹。
「うん、いいよ。」と有希は答えた。
有希と夏樹は、二人で、ファッション誌のモデルのアルバイトをしている。
夏樹もGIDだった。
夏樹とは、中学のとき、クリニックで知り合った。
そして、同じ学校であることを喜んだ。
実際、二人の「希望の森学園」は、
GIDの生徒にとって、大変居心地のよい学校で、
自分からそうだと言わないが、GIDの生徒が多くいたのだった。

二人はベンチを立った。
立って歩くと、二人そろって抜群のプロポーションだった。

二人は、モデルをするにあたって、GIDであることを、
初めから会社に伝えていた。
社の重役達は、初め迷っていたが、カメラマンや、服装デザイナーを呼び相談した結果
服を着ている写真であるからとOKした。
有希は、主に、プリンスセス系のモデルをし、
夏樹は、セクシー系のモデルをしていた。
夏樹は、豊胸もしていて、Dカップあった。

電車に揺られながら、夏樹は言った。
「ねえ、有希は、どうしてそんなに天才なの。」
「例えば?」
「う~ん、本読むのがめちゃめちゃ速い。」
「本が好きだから。」
「楽器なんでもやれる。ボーカルも抜群。」
「音楽好きだもん。」
「漫画も描けるし、油絵もすごい。あたし、時々ジェラシーする。」

「突然どうしたの?今までそんなこと言ったことないのに。」
「あたし、ルックスだけまあまあ。
 そのルックスも、有希の方が美人。」

「夏樹は背が高いじゃない。すごくかっこいいよ。それに、セクシーだよ。」
「有希に比べて、それだけね。」
「夏樹の方が、絶対彼ができるタイプだよ。」
「突っ込み易いからね。そっか、有希は出来すぎちゃんだから、
 男の子びびっちゃうね。」
「あたし、未だに女の子が好き。
 ホル打ったら男の子好きになるかなって思ってたのに。」

「あたしは、女の子も男の子も好きだけど、
 GIDの壁乗り越えられない。だから、恋人は、有希だけ。」
「あたしも、夏樹だけだよ。セックスできるの。」
「有希に出会えてよかった。
 有希、どんなに有名になっても、あたしの友達でいてくれる。」
「もちろん。あたし、夏樹と結婚したいくらいだよ。」
「ちょっと早いよ。」と夏樹は笑った。

モデルの仕事は、とっても気分がいい。
座っているだけで、メイクさんが、メイクをしてくれる。
髪にカーラーを巻き、洋服を着る。
カラーが取れたとき、撮影に入る。
いろんなポーズを撮る。
いろんな服に着替える。
それらは、みんな有希の好きなことだった。

スタジオが違うので、帰りは夏樹とばらばらになった。
有希は、急いで家に帰った。
夕食は、できるだけ、両親と食べたい。
有希は、一人っ子だった。

「有希も、どんどんお姫様になっていくな。」と父の五郎は言った。
「だって、あたし、お父さん達の夢に出てきたんでしょう。」
「そう。生まれる前、女の子のイメージしかなかったから、
 男の子が生まれたとき、びっくりしたの。失礼よね。
 でも、夢のお告げの通りになってきちゃった。
 今の有希、だれが見てもお姫様だもの。」と母の恵子は言った。
「お姫様かどうか知らないけど、夢のお告げ当たっていたんだね。」と有希は言った。

食事が終わると、洗うのを手伝って、有希は自分の部屋にいく。
そこには、使い込んだノート・パソコンがある。
パソコンを立ち上げ、まず、自分のブログへ行く。
GIDや女装関係のブログ。
もう一つ、総合ジャンル。
そこに、時々自分の写真を載せながら、
毎日エッセイを書いていた。
そのエッセイがとても好評で、
二つのジャンルをあわせて、毎日2万を超えるアクセスがあった。
ハンドルネームは、「オーロラ」だった。

ブログを終えたら、有希のもう一つの趣味、
「推理小説を書くこと。」
軽く、明るく、ユーモアがあって、おもしろい、
というのが、有希の理想だった。

有希がキーボードを打つのは、ものすごく速い。



冬の初め。
有希は、「出来たあ!」と歓声を上げた。
ずっと書いて来た、推理小説が完成した。
活字の本にしたら、250ページくらい。
有希は、できたら、持ち込みにいく出版社を決めていた。
「若葉出版」という小さなところ。
推理小説の出版をしている小さな出版社だ。
有希は、その会社の出版物が気に入っていた。

有希は、前の日に電話をして、原稿を見てもらいたいと言った。
若葉出版の中年の人がでて、すんなり、見ましょうということになった。

有希は、平日の水曜日、学校をサボって若葉出版へ行った。
そこは、銀座にある。
すごいなあと思いながら、住所をたどっていくと、
銀座のメイン道路から、脇の道があり、
そこをどんどん行くと、次第に古びたビル街になっていく。
その横町の、戦後を思わせるような小道の小さなビルの2階に、
若葉出版があった。

ノックをして入ると、狭い部屋で、
デスクに50歳くらいの、髭の男性がいた。
どうも、彼一人のようだった。
「大森有希です。」と有希は名乗り、
自分の履歴書と、原稿を渡した。
その編集長は、朝倉賢治と言った。

朝倉は、有希の履歴書を見て、
「何、君、性同一性障害なの?」と驚いた。
「はい。生まれは男子です。」
「もし、これが本になったら、このことは、伏せておくんだよね。」
「いえ、公表してくださってけっこうです。」
「失礼だが、こういうことは、売りになるからね。」
と朝倉はいった。
「では、まず拝見するか。」

そういって朝倉は、椅子からデスクに脚をかけたまま、
有希の原稿を1枚1枚めくって行った。
さすが、編集長。ページを見るのがものすごく速い。
初めての人が見たら、「真面目に読んでくれてるのか?」と、
怒ってしまうだろうとの速さだった。
しかし、有希は、もっと速く読める。
だから、朝倉のスピードを見ても、特に驚かなかった。

朝倉は、その姿勢で見ながら、途中で、脚を降ろし、
デスクにきちんと座り、原稿をめくりはじめた。
途中何度も、「ぷーっ。」と拭き出した。
「あははは。」と何度も笑いもした。
有希は、「いいぞ。」とうれしく思っていた。

本にして、250ページくらいの原稿を、わすか、20分もかからずに読んだ。
原稿を、デスクに置いて、朝倉は、
「うーん。」と唸った。
「これは、若い子を対象にして、明るくて、オシャレで、おもしろく、
 かつ、トリックがすばらしい。

 君は、まだ知名度がないから、表紙装丁に、人気のイラストレーターをたのみ、
 また君は、美人だから、著者プロフィールに、君の写真を載せる。
 そして、君が、GIDであることもはっきりと書く。
 どうだい、君がそれでいいなら、本にしよう。」

「わあ、うれしいです。」と有希は飛び上がった。
「君、アルバイトにファッション誌のモデルをやっているとあったね。
 そのことも書こう。
 ファッションモデルが、推理小説を書く。
 どうせ、美貌を売りにした三流小説だろうと思って、みんなは手にする。
 だか、読めば、完璧に笑わされ、トリックに感心する。
 どうこれ。」
と朝倉は言った。

「ほんとに、本にしてくださるのですか。」と有希は聞いた。
「ああ、本気だとも。君はわが社の宝だ。よく来てくれた。」
朝倉は、にこっとした。
「そうだ、君は、ブログをやっているといったね。アクセスは、どのくらい?」
「毎日、2万です。」
「UUっていうの?実際の人数は?」
「5000です。」
「よし、その人達が買ってくれるとして、初版は、8000部でいこうか。」
「はい、うれしいです。」
有希は、飛び上がった。


つづく(次は、「批評家たちの声」です。)




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オーロラ姫は、男の子①「有希、高校生になる」

「オーロラ姫は、男の子」

初めての赤ちゃんが、明日にでも産まれるという夜。
大森五郎、恵子は、布団の中で祈った。
「どうぞ、ステキな赤ちゃんが生まれますように。」

二人は、その夢を明け方に見た。
「眠れる森の美女」のシーン。
妃に抱かれるプリンセス・オーロラ。
姫の誕生祝いに、国中から王子達が訪れ贈り物をしていく。
そして最後に、幾人かの妖精が、一つ一つプレゼントをする。
「お姫様には、たぐい希な美しさを。」
「お姫様には、たぐい希な美しい声を。」
「・・・たぐい希な、芸術の心を。」
「・・・たぐい希な、賢さを。」
・・・・・・
・・・・
何人の妖精が、贈り物をくれただろう。

朝、目覚めて五郎と恵子は、夢のうれしさにお互いに夢を語った。
すると、二人の夢は、全く同じものだった。
五郎と恵子は、何か、運命的なものを感じた。
そして、オーロラ姫のような美しい姫の誕生を思った。

その日の昼に陣痛が来た。
病院の分娩室に運ばれる恵子。
廊下で、うろうろする五郎。

やがて、元気な赤ちゃんの産声を聞いた。
「おかあさん、おめでとうございます。
 元気な男の子ですよ。」
恵子は、そう言われて、「あ、そうか。」と思った。
オーロラ姫のことばかりイメージしていて、
男の子の可能性を少しも考えていなかった。
我ながらと思い、くすっと笑った。

すぐ後で、五郎も、生まれた赤ちゃんを見せられ、
「元気な男の子ですよ。」
と言われ、「あ、そうか。」と思った。
男の子が生まれるとは、少しも考えていなかった。
我ながらと思い、くすりと笑った。

赤ちゃんは、「有希(ゆうき)」と名づけられた。



5年生になるまで、有希は、全く普通の子供だった。
とくに得意なものはない。勉強も運動もふつう。
ただ、どこか不思議な雰囲気があって、
それは、いつも堂々としていることだった。

夫妻は、あの眠り姫の夢のことなどほとんど忘れていた。
だが、2つのことが、普通の子供ではなかった。

一つ。有希は2年生のとき、
髪を女の子のように伸ばしたいと言い出したこと。
夫妻は、それを許した。

もう一つ、3年生のときに、
「ぼく、家にいるときは、女の子でいたいから、
 女の子の服を着させて。」
と自分から言い出したことだ。
そういう言葉を有希は、なんのためらいもなく堂々と言うのだった。

五郎と恵子は納得した。
あの夢では、「姫」へのプレゼントだったのだ。
じっさい、有希は、女装の方がよっぽど似合っていた。
有希は、まるで、女の子のように可愛く愛くるしい顔立ちだった。
有希は、家では、女言葉を話すようになった。

あの夢のように、有希が、非凡な才能をみせたのは、5年生のときだった。
大森家には、恵子が持っていたピアノがあった。
有希には、ピアノを習わせていなかったので、
そのピアノは、ほとんど眠ったままだった。

ある日恵子は、懐かしさに、埃をかぶったピアノの蓋を開け、
自分が大好きな「乙女の祈り」を弾いていた。
そこへ、有希が学校から帰ってきた。
有希は、母のピアノを聞いていた。
母は、演奏を止めた。
「お母さん。『乙女の祈り』好きだったの?」と有希が言う。
「よく、曲名を知っているわね。」と恵子は言った。
「あたし、弾けるよ。今のお母さんの聞いていたから。」
「うそーー?」と恵子は笑った。

「多分だけどね。」有希はそう言って、母と代わった。
そして、見事に弾くのだった。
しかも、うっとりするように、美しく。
曲の全部を有希は弾いた。

「うそ。有希、どうして弾けるの?」と恵子は聞いた。
「この曲、好きだったから、学校で1曲特訓したの。」
(それは、ウソだった。有希は聞いて初めて弾いたのだった。)
「それでも、すごいわ。」と恵子は言い、あの日にみた夢を思い出した。
「たぐい希な芸術の心を。」と妖精が言った。
そして、このことを、一刻も早く、夫五郎に伝えたいと、うずうずした。

有希が、天才を見せたのは、その一回だけだった。



6年生になって、夫妻は、有希にパソコンを買い与えた。
有希は、すごく喜び、パソコンに熱中した。

そして、ある日、夕食の席で言った。
「お父さん、お母さん、あたし、性同一性障害だと思うの。
 あたし、中学からは、女の子として生きたいから、
 あたしを、ジェンダー・クリニックに連れて行ってくれない。
 性同一性障害って診断をもらえたら、あたし女子として中学行けるから。」

「そんなこと、何で調べたの。」と五郎は驚いて聞いた。
「うん、インターネットで調べたの。
 似たテストをいくつかしてみたら、全部『女子』として結果が出たの。
 ただ一つ、あたしは、男の子に恋をしないから、そこだけは、違うけど。
 実は、ジェンダー・クリニックもいいところ見つけてあるんだ。」
有希は、すらすらと言った。

五郎と恵子は、舌を巻いた。
自分達より、有希の方が、数段しっかりしているように思えた。

有希は、GIDの診断書をもらった。
そして、自分を誰も知らない学校へ行きたいと私立中学・高校を探して来た。
そこは、「希望の森学園」。大学のように広いキャンパスを持った学校だ。
学園は、徹底した自由の校風で、制服はなし。
中学生でもメイクOK.
先生は生徒を徹底して、叱らない方針。
授業中の生徒の出入りも自由。

おもしろい授業なら、生徒はついて来るはずだという考えで、
先生は、毎回、すばらしい授業をする。

そして、何より、有希を驚かせ、感激させたのは、
トイレに、男女の別がないことだ。
「仕切りをするから、お互い禁断の場所になる。
 仕切りを取り去れば、共有の場所と考える。」
実際、その学校のトイレは、ただ「トイレ」との表示があり、
男子トイレ、女子トイレが存在しない。

有希は、こここそ自分の求めていた学校だと確信した。



4年後。

有希は、その日の授業が終わり、
枯葉の散る木の下のベンチで秋の空気を吸っていた。
もこもこっとした茶のセーターに、こげ茶の膝までのスカート。
リュックを背負っている。

有希は、高校1年になった。
髪は、背中まで伸びた。よく手入れされた、さらさらの髪。
4年間のホルモン治療で、有希の胸はCカップくらいになった。
背は、162cm。ピップも豊になり、
目を見張るような美少女になった。


つづく(次は、「初めて書く推理小説」です。)




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プロフィール

ラック

Author:ラック
上は若いときの写真です。ISなので、体は、かなり女子に近く発育しました。でも、胸はぺったんこです。戸籍は男子。性自認も男子、そして女装子です。アメリカの大学で2年女として過ごしました。私の最も幸せな2年でした。そのときの自叙伝を書いています。また、創作女装小説を書いています。毎日ネタが浮かばず、四苦八苦しています。ほぼ、毎日更新しています。
どうぞ、お出でください。

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