続・美雪と瞳⑧「コンクールの終了」最終回

簡単に書くつもりが、すごく長くなってしまいました。
最数回まで読んでくださり、ありがとうございました。

================================

第5位は、8歳にしてハンガリア狂詩曲を弾いた女の子だった。
その子は、賞状を審査委員長横山教授からもらって後ろに並んだ。
第4位は、中学生で、ラフマニノフを弾いた、男子だった。
第3位は、社会人で、ショパンを弾いた男性だった。
みんな一人ずつ賞状をもらった。

「あと2人だね。」と靖男が言った。
「そうね。でも、そんな夢みたいなこと、あり得ないわ。」と早苗が言った。

「第2位。」とアナウンスが言った。
「桐邦学園、加納公平さん。」
公平の周りが祝福した。
公平は明るい顔で、舞台に上がった。

「第1位。」とここでアナウンスの女性は言葉を切った。
「第1位は、審査員全員の一致を見ました。
 国立G大付属音楽高等学校の大塚美雪さん。」

うおおおお・・・・と、後ろから同学校の生徒が声を上げた。
仲良しの4人は抱きあって喜んでいた。
美雪は、母と父と抱きあった。

美雪がホールの段を下りて舞台に行く。

「あなた、夢じゃないわよね。」と早苗は言った。
「ぼくも、今そう思っているよ。」と靖男は言った。
「はっきり、夢じゃありませんよ。」と瞳が体を寄せて、二人に微笑んだ。

美雪は、賞状をもらった。
賞状の他に、盾もあるが、後から郵送される。

美雪が症状をもらうとき、一際、大きな拍手が起こった。

審査委員長の横山教授から、5人に対し、簡単な講評があった。
5位、4位、3位の人が続けて評された。
横山教授にふさわしく、よい所だけを、言われていた。

「第2位の加納公平くんは、ますます腕を上げ難曲に挑んできました。
 そして、今回は、感情表現にも挑戦していて、成果を見たと思います。
 来年がまた楽しみです。」
と教授はいった。

「第1位の大塚美雪さん。審査員全員一致の堂々たる優勝です。
 今回の演奏では、ピアノがまるで生きているようにあなたの指に応えていました。
 ピアノとあたかも対話しているような楽しげで伸びやかな演奏をしました。
 あなたの表情も豊かで、聞く人の心を惹きつけて止まない音がどんどん出てくる。
 もしかすると、あなたは、新しい表現の形式を開きつつあるようにも思えました。
 すばらしい演奏でした。このコンクールの大きな収穫の一つです。」

教授の言葉で、会場にすごい拍手が起こった。

「では、入賞者の言葉を、簡単にお聞ききします。」5位の人から、アナが聞いて言った。
3位の社会人の人は、
「道子、啓太、郁子、睦、父さんはやったぞー!」と言って、会場の拍手を受けた。

2位の、加納公平は、
「予選で、大塚美雪さんの演奏を聞いて、ぼくは、凹んでしまいました。幸いぼくが優勝しましたが、
 それ以来、大塚さんを目標にがんばってきました。ぼくに目標を与えてくれた、大塚さんに感謝で一杯です。」

相手を讃える公平の言葉に、会場から、大きな拍手が起こった。

「次は、優勝者の大塚美雪さんです。」
アナウンサーは、小声で、「少し長くてもいいです。」と言った。

美雪は、マイクをもった。
そして、会場を見渡した。
「私は、中学から2年半間、不登校の生徒でした。
 外へ出ようとすると恐くて、脚がすくんでしまいました。
 そんな私を、両親は、少しも咎めることなく、
 私が淋しいだろうと、部屋にピアノを買ってくれました。
 ピアノを弾いているときだけは、辛いことも悲しいことも忘れることができました。

 その後、素晴らしい家庭教師の先生に出会うことができました。
 先生は、私が外に出られるようにしてくださいました。
 そうして、高校へ通えるようになりました。

 高校のクラスの人はみんなやさしくて、私に明るく接してくれました。
 そして、音楽室でピアノを弾いていたら、
 学校中の方達や先生方が、私の演奏を聞きに来てくださり、
 温かい言葉をたくさんくださいました。
 こうして、私はやっと自分に自信がつきました。
 そして、こんな晴れやかな場に立つことができています。
 私は、全てのみなさんに、感謝でいっぱいです。
 ありがとうございました。」
美雪は、目に一杯の涙をため、深々と礼をした。

ひと一倍大きな拍手が会場にこだました。

早苗も靖男も目にハンカチを当てて泣いてばかりいた。
瞳も、4人の友達も、学校の多くの生徒が泣いていた。

「では、優勝者のプレゼント演奏があります。
 優勝者だけ残り、後の方々は、お席の方にお戻りください。」とアナウンサーが言った。

みんなが座席についたとき、アナウンサーがマイクを向け、
「曲目は、何にしますか。」と聞いた。
「ショパンの幻想即興曲を。」と美雪が言った。
アナはそれを伝えた。

ピアノの前で、しばらく気持ちを整え、
『ピアノさん、もう一度、お願いします。』と美雪は心で言った。
美雪は手をあげ、それを降ろした。
そのとたん、すばらしく速い指使いで、曲を奏ではじめた。
審査員や、多くの人達が、美雪の速さにはっと目を見開いた。
難曲に関わらず、思いもよらない速さだったのだった。
しかし、聞いていると、たまらなく情感がかき立てられる。
美雪のピアノと一体と見える演奏が、ここでも見られた。
審査員達は、新鮮な感動で、胸を満たしていた。

『美雪、すごい、すばらしいよ。』
瞳は心の中で語りかけていた。

美雪の演奏は、会場全体を魅了した。
出場曲でもないのに、それ以上の素晴らしさだと、多くの人が思った。

約4分の曲が、あっという間に終わった。

うおおおおお・・・・という声と共に、会場の全員が立って拍手を送った。
審査員も全員立っていた。

「よかったですなあ。」と審査員。
「こっちが出場曲でも、優勝でしたな。」
「何か、新鮮なものに触れた思いです。」
と審査員達は言っていた。

本当は、ここで終わりだった。
しかし、拍手が鳴り止まない。
アナウンスの女性は、審査委員長と目を合わせた。
審査委員長は、1本指を出した。「あと1曲。」という意味だった。

アナが、美雪の所へ来た。
「あと1曲できますか。」と言った。
「モーツアルトのトルコ行進曲ならできます。」
美雪は言った。
この曲は、美雪がピアノを始めてからの、憧れの曲だった。
完全に弾けるようになってからも、何度弾いたかわからない。

アナが、会場のみんなに、
「では、異例ではありますが、『モーツアルトのトルコ行進曲』ならということで、
 もう1曲演奏していただくことになりました。」

会場がシーンとなった。
ピアノと対話するように一体となって弾くという奏法。
一度会得したものは、どの曲にでも発揮できる。

難易度は、低い曲である。小学校6年生でふつう弾ける。
会場の人々は、このやさしい曲を、美雪がどう弾くかということに、興味を抱いていた。

美雪は息を吸って、左手を構え、右手を高い所から降ろした。
そして、ピアノと対話するように、演奏をし、
最後の音を、惜しむように、曲を終えた。

会場からすごい拍手が起こり、
これも、スタンディング・オベイションを受けた。
「違うなあ。あの子が弾くと違うよ。」
「ほんと、スカットしてよかったなあ。」
「もう一度聞きたいなあ。」
というような声が方々で聞こえた。

美雪がなんども頭を下げ、アナの人に挨拶をして、舞台から降りた。

観客は、やっと座った。

大会の終わりの宣言を聞いて、観客は、席を離れて行った。

美雪が帰ってくると、今まで泣き通していた早苗は、美雪を抱きしめた。
「美雪、お母さんは、うれしい。こんな日が来るなんて、夢にも思わなかった。
 お母さんの最高の一日よ。」と言った。
横で、靖男と瞳が、優しげに早苗を見ていた。

親子の喜び合いを邪魔しないように、4人の仲良しや、
クラスメイト、学校の先輩達は、そっと合図をして、帰って行った。

親子水入らずでと思い、瞳も席を立とうとしたが、
「絶対だめ、瞳先生は、家族です。」と靖男にがっちりと引き止められた。
美雪も、瞳の感想をたっぷりと聞きたかった。



近くのホテルの展望レストランに、
4人の姿があった。

食事をしながら、早苗が言った。
「美雪、そろそろ種証しして。演奏直前に悟ったことってなあに?」
「ああ、それね。」美雪は語り始めた。
「ほら、瞳先生と8小節交代で『ハンガリア狂詩曲』弾くのお母さん、お父さんに見てもらったとき、泣いてくださったじゃない?私がにこにこ楽しそうに弾いているのが、うれしいって。
 それが、ヒントなの。
 ピアノってみんなむずかしそうな顔をして弾くでしょう。
 私は、ピアノとお友達になって、笑顔で楽しそうに弾こうって思ったの。
 そこで、ピアノの前に座ったとき、ピアノに『お願いします。』って言ったの。
 そしたら、ピアノが、言うの。『いいとも。そんなこと言ったの君だけだよ。』って。
 そして、ピアノと心で語り合いながら弾いたの。
 そうしたら、どんどんいい音が出てくる。
 そのたびにピアノに感謝しながら弾いていたの。」

「まあ、そうだったの。でも、それだけでって気もするけど。」と早苗は言った。
瞳が言った。
「お母さん。これは、美雪さんにしかできないことですよ。
 美雪さんは、ただにっこりしていたのではなくて、自分の気持ちをピアノに伝えていたんです。
 自分の表情で。あたかも、ピアノと対話しているかのようにです。
 だから、みなさんは、美雪さんの音の魅力に加え、美雪さんの表情に魅せられたのです。」
 
早苗。
「それは、すごいことなんですか?」

瞳。
「はい。だから、横山先生が、特上の賛辞を述べられたではありませんか。
 横山先生は、美雪さんによって『新しい表現形式が開かれつつある。』と。
 つまり、過去に誰もしなかったような新しい表現方法が、
 美雪さんによって、生まれつつあるということです。
 私は、先生のそのお言葉を聞いたとき、体中に旋律が走りましたが。」

「ほんと?すごい!」と美雪が言った。
「まあ、なんて、うれしい…。」
と、早苗は、またもや感激して、ふらふらとしてきた。
靖男は早苗の腕を支えながら、言った。
「瞳先生、妻がもう感激の限界に来ています。
 これ以上、美雪を誉めるのはやめましょう。」
瞳「あ、そうですね。」
美雪「おかあさん、平気?」
早苗「はい、なんとか。ほんとに、今日これ以上感激すると、あたし気絶すると思います。」

みんなで、くすくすと笑った。
こうして、おいしい料理を食べながら、
それぞれは、最良の日をかみしめた。

外は、東京の灯りが、満天の星のように輝いていた。


<おわり>

※1つ書き終わってホッとしています。また英気を養って、次のお話を書きたいと思います。
 ここまで読んでくださり、ありがとうございました。




スポンサーサイト

続・美雪と瞳⑦「美雪の演奏終わる」

長々書いてしまいました。次回で最終回にしたいと思います。

=================================

11月23日、土曜日。
大会の日がやってきた。
美雪は、ドレスを着ずに、学校の制服で行くと言った。
生まれて初めて高校に行けて、いちばん嬉しかったのが、女子の制服だったからだ。
制服は、フォーマルである。

会場には、家族の他に、瞳。そして、そばに、クラスの3人組。そして拓也。
それから、学校の有志達。高校の先生たちが来ていた。
横山康孝教授は、審査員だったので、そばにはいなかった。

美雪は、午後の出であったので、午前中は両親の間に座っていた。

美雪は、「もう一つの何か」が見つからないまま、出演者の演奏を聞いていた。
驚くことに、8歳の女の子が、「ハンガリア狂詩曲」を完璧に弾いた。
場内、すごい拍手が起こった。
「うわあ、かなわねーな。すごいや。」
と後ろの拓也が言っていた。
「ほんとに、年齢は関係ないのね。」と早苗は言った。
「ほんとビックリ。あたしの演奏曲なのに。」と美雪は言った。
こうして、5歳から15歳までの、すばらしい演奏をたっぷり聞いた。

昼休み、ロビーに出て、家族と瞳でサンドイッチを食べた。
「美雪。何か考えごとしてるの。」と父の靖男が聞いた。
「わかる?今日の演奏に1つ何か足りないものがある気がするの。」と美雪は言った。
「そう。あれだけ練習しても満足していないのね。」と早苗が言った。
「土壇場で分かることもあるよ。私の場合は、演奏中にわかったことがある。」
と瞳が言った。
瞳は、それは、何かとは聞かなかった。
自分で見つけないと意味がない。
美雪はそう思った。

時間が来て、美雪は家族と瞳と別れた。
仲良し4人が、「ファイト!」と言ってくれた。
「うん。」と美雪は、握りこぶしを見せた。

美雪は、控え室に言った。
そこに、6人の高校生がいた。
女子二人。
桐邦の加納公平もいた。
6人の中にすこぶる好人物がいた。
胸のネームをみると小島忠志とあった。

小島は、みんなの演奏曲を聞いて、
「うわあ、そんなんやるん。もう、びっくりや。
 こんな会場で、ようそんなんできるな。
 音まちがえへんか?」
A「今、どきどきして、死にそう。」
B「あたし、さっきから、脚がふるえて、ペダル踏めるか心配。」
小島「俺、昨日眠れへんかった。」
C「同じ。朝から、生きた心地してない。」
加納公平「大丈夫だよ。ピアノの椅子に座ったら、
   全部吹き飛んじゃうよ。」
小島「そこの制服の人、何か考えよるん?」
と美雪に言ってきた。
美雪「うん。あたし何か一つ足りないの。それが、わからないの。」
加納公平「ぼく、君の演奏好きだよ。予選でぼくが優勝したけど、
   ぼくのピアノより、君の方がずっといいと思った。すごく引き込まれる。」
美雪「ほんと、ありがとう。」
小島「ええなあ。そうやって励まし合うの。
  どうせ、ここまで来たんや。あとは、楽しもやないか。」

その、小島の言葉を聞いて、美雪は、一瞬ビーナスの雷が頭に落ちて来た気がした。
『そうだ。楽しく弾くんだ。
 不登校のとき、自分をずっと支えて来てくれたピアノ。
 瞳といっしょに弾いた『ハンガリア狂詩曲』。
 それを、父母が聞いて、自分が楽しそうだったと泣いてくれた。
 学校へ女子として行けたこと。
 自分の演奏を学校中の人が聞いてくれた喜び。
 そうだ。こんな大きな舞台で演奏できる喜びを思おう。
 ピアノに感謝し、ピアノと語り、愛しむようにピアノを弾こう。
 笑顔でピアノと対話する。
 そうだ、このことを私は今まで、意識したことがなかった。
 わかった!』

小島「お、制服の人。表情が明るなったで。」
美雪「小島さん、ありがとう。あなたの言葉で、分かったの。」
小島「え?そうか。それは、よかったなあ。
   俺ら、結果はどうでも、ジェラシーはなしでいかんか?」
加納「賛成。みんな、全力を発揮しよう。」
7人の心はなごんだ。

美雪は、桐邦学園の加納公平の次だった。
すでに、優勝を期待されている一人だった。

舞台の袖で、美雪は聞いていた。
すばらし演奏が成されている。
美雪は、次だというのに、不思議なほど落ち着いていた。
それより、あのピアノと対話しながら、楽しく弾くんだ。
そう思っていた。

客席で、すごい拍手が起こっている。
みんな、総立ちで、拍手を送っている。

加納公平は、お辞儀をし、舞台袖に来た。
「すごい。スタンディング・オベイションよ。」
と美雪は声をかけた。
加納公平は、にっこりとして、
「君は、もっと大きな拍手をもらう気がする。」
と言った。

客席では、新藤初音らが話していた。
「美雪、不利じゃない?あんなすごい人の後で。」
「そうだね。ああ、ドキドキする。」とみんなで言っていた。

母早苗は、すでに生きた心地がしていなかった。
「あなた、次よ。どうしましょう。」
「やるだけやったら、それでいいじゃないか。」父の靖男が言った。

名前が呼ばれ、美雪が出てきた。
美雪は、わずかに微笑んでいて、観客の多さを眺めているようだった。
この大舞台を全身に受け止めるかのように。

美雪は、椅子に座り、少し気持ちを整えた。
『ピアノさん、よろしくお願いします。』
美雪は、心で言った。
『いいとも。そう言ってくれたのは、君だけだ。ぼくも全力でいい音を出すよ。』
美雪には、ピアノの声が聞こえた気がした。
もう大丈夫。美雪はわずかに微笑んだ。

「あ、美雪が、微笑んでる。」拓也がそう気がついた。

美雪は、鍵盤を愛しむように押した。
優しい眼差しをしていた。
それから、曲が速くなる。
それを、満喫するように、弾いて行く。
速いところは、むしろ笑顔に近い表情をして、
鍵盤を追っていた。
力強く弾くところは、上を向いて、勇ましく、
小さく速いところは、愉快そうな目を送りながら。
ピアノと一体になって、音を奏でている。

観客は、美雪の演奏と共に、美雪の表情に引きつけられていた。
『なんて、楽しそうな表情で弾くの。美雪、あなたはすばらしい。』
瞳は、心の中で言っていた。

美雪は、幸せに包まれて弾いていた。
曲を弾き終わるのが残念だった。
この時間がいつまでも続いて欲しいと思っていた。

やがて、最後の音を、愛しむように押え、曲は終わった。
わあああ・・・というすごい拍手が起こり、観客は総立ちとなった。
拍手は、しばらくの間鳴り止まなかった。

美雪は、椅子からおり、会場を端から端まで眺め、
ゆっくりと礼をした。

美雪の母早苗は泣いていた。
「もう、十分。あれだけの演奏ができたのだもの。
 もう、順位なんてどうでもいいわ。」
夫の靖男は、早苗の肩に手をかけた。
「ほんとにその通りだね。」
靖男は言った。

「感無量です。」と隣にいた瞳は言った。

美雪は袖にもどると、出場者みんなに握手を求められた。
「よかったわ。ステキだった。」
「最高やった。オレ涙が出たで。」と小島が言った。
「今日は、君に勝てない気がしたんだ。」
加納が笑顔でそう言った。

演奏は、大学生、それから、社会人と続き、
すべての出場者の演奏が終わった。
舞台の袖にいた全員が、席に戻された。
後は、審査の結果を待つのみである。

美雪が帰ってくると、母に抱き締められた。
「美雪、お母さんは、今日の演奏以上を望まない。
 ほんとにステキだったわ。」
と早苗は言った。
「何か一つって言っていたの見つかったの?」
と父靖男は聞いた。
「それが、直前にわかったの。」
「わあ、やっぱり。今日の演奏、一味も二味も違ってたもの。」
瞳がそう言った。
「それは、何?」
と母が聞いた。
「内緒。」と美雪は照れて言った。

クラスのみんなが、美雪を誉めに来た。
例の4人組は、「音楽室で聞いたより、さらによかった。」と言った。

やがて、アナウンスの女性が、審査結果の発表の始まりを告げた。
会場は、シーンとなった。
入賞は5名だ。

「審査の結果を発表します。名前を呼ばれた人は、前に出てきてください。
アアナウンスの人がそう言った。


つづく(次は、「審査結果」最終回です。)

続・美雪と瞳⑥「コンクール前夜まで」

長々続けております。次の次が、最終回の予定です。
ここまで読んでくださった方々、ありがとうございます。

================================

九月から3週目の土曜日。
美雪は、G大の横山教授が研究室にいる日なので、
隣の教室で、ピアノの練習をしていた。
瞳も、この日たいてい研究室にいて、教授の書類の整理をしていた。
その教室のピアノは、演奏会用の最高級のもので、普通ならめったに弾けないものだ。
そのピアノで弾けることは、美雪にとって、この上ない幸せだった。

美雪は、主に「ハンガリア狂詩曲2番」と「幻想即興曲」を弾いていた。
美雪は、「幻想即興曲」をもう少し速いテンポで弾きたかった。
その方が、聞く人の情感に訴える気がしたし、自分をもっと表現できる気がした。
そのためには、ものすごく速い指使いが要求される。

速さを意識し始めてから、かなりいい線まできた。
しかし、目標までもう少しだった。

「瞳君。」と横山教授は言った。
「はい?」と瞳。
「君の仮説はあたっていたね。」教授。
「美雪のことですか。」瞳。
「高校に行き始めて、早、3週間で音が変わった。」
「はい。そうですね。」
「ハンガリア狂詩曲の方だと、音のメリハリが出て、明るく、聞いていて気持ちがいい。」
「同感です。」
「『幻想即興曲』の方は、スピードに挑戦しているね。」
「はい。その方が情感に訴えます。」瞳。
「君が、教えたわけじゃないのだろう。」教授。
「はい、美雪が自分で思ったことだと思います。」
「その通りなんだよ。いい感性をしている。
 あれが、完成したら、コンクールの出場を誘ってみよう。
 コンクールの資料、集めておいてくれる?」
「はい、喜んで。」
「美雪くんに上達を誉めるのは、彼女が自分で『やったー!』と思えるまで待とう。」
「賛成です。」と瞳は言った。



美雪の「やったー!」の日は、その3週間後に来た。
10月の中旬だった。
その日、教授と瞳は、教室の椅子で聞いていた。
美雪は、すごいスピード感のある「幻想即興曲」を弾いた。
『弾けた!』心で思った。
うれしさで、天井を見上げた。

そこに、二人の大きな拍手があった。
美雪は気がつき、飛んできた。
「美雪君。やったな。こう、たまらなく情感をかき立てられる演奏だった。
 どこに出しても、恥ずかしくない。そこでだ。」
と教授は身を乗り出した。
「コンクールに出てみないか。」と言った。
「あたしがですか。」と美雪。
「そうだとも。瞳君が調べてくれた。
 KHKが主催の『全国ピアノ・コンクール』というのが、11月末にある。
 瞳君は、すでに優勝しているので、出ないがね。
 今の美雪くんは、瞳君に引けをとらない。どうかね。」
「はい。出たいです。」
「よし。これで、楽しみが増えた。詳しいことは、瞳くんから聞きたまえ。
 学校には、私から、連絡をしておくから。」
教授は、にこにこして、席を立った。

瞳から説明を聞いた後、美雪は飛んで家に帰った。
そして、父母に真先に報告した。
母早苗は歓喜した。
「あのK響のピアノコンクールなのね。
 教授がOKを出してくださったの?
 ああ、お母さん、うれしくて気絶しそう。」
「そんなにすごいコンテストなの?」と靖男が言った。
「もう一つ全日本国際音楽協会のコンクールっていうのもあるの。
 それと、同格のコンクールなの。
 でもK響の方は、『年齢枠なし』という部門があって、ここで優勝した人は、
 実質日本1っていうことになるの。」
「それは、すごいね。でも、すごい子が大勢出てくるんだろうね。」と靖男。
「当然そう思うけど、あたしは、他の子の演奏も聞きたいし、
 とにかくそういうところへ出てみたい。」
美雪は言った。
母は涙ぐんで言った。
「外に出られなかったあなたが、今はみんなの演奏を聞きたいだなんて、
 お母さん、うれしいわ。出られるだけで名誉なのよ。」
「うん。」と美雪は答えた。
美雪は、胸の内側から、闘志が湧きあがってくるのがわかった。



コンクールは、予選があり、人数が絞られ、本コンテストに望める。
美雪は、選曲に迷っていた。
そこで、瞳に電話をしてみた。
瞳はこう言った。
「『ハンガリア狂詩曲』で、勝負。10分の時間枠ぎりぎり。
 で、優勝できたら、優勝者の演奏がその場であるのね。
 そこで、『幻想即興曲』を弾いて、聴衆を完全に魅了する。
 こんなのどう?」
「瞳、あたしが優勝すると思っているの?」
「思ってるわよ。教授が、美雪のことあたしと同レベルって言ったじゃない。
 あたしは、すでに優勝しているんですからね。」
「ありがとう。そうするね。
 なんだか、優勝者の演奏の方に身が入ってしまいそう。」
「あはは。それでいいの。それ、大事だから。」
瞳はそう言った。

予選は、全国各所で行われた。
小学生の部、中学生の部、高校生の部、大学・大学院の部。
それぞれの部で、順位が決められ、順位の高い演奏者の順に、
年齢枠なしの部門に希望できる。
柔道でいう「無差別級」のようなものだ。
予選で、1位、2位になった演奏者は、
ほぼ全員、年齢枠なしの部門を希望する。
また、小学校に満たない子も出場してくる。
過去に、5歳の子が優勝した例もある。
ここで、優勝すれば、事実上日本1ということになるからだ。
このシステムが、あることが、KHK「ピアノコンクール」の魅力だった。

美雪は、高校生の部の予選において、2位を取った。
そして、「年齢制限なし」の部の出場者の資格を得た。
母早苗は、美雪を抱き締めて、喜びを表した。

大会は、3日にかけてKHKの中ホールで行われる。
座席数1500。
小中学生で、一日。高校・大学で一日。
3日目に、年齢制限なしの部だけが行われる。
3日目の、出場者は、18人であった。

大会まで、あと2週間。
予選で第一位は、私立ナンバー1・桐邦学園高校の男子だった。
加納公平という名を美雪は忘れなかった。
ラフマニノフの超難曲を弾いた。驚くべき演奏だった。

美雪は、「ハンガリア狂詩曲2番」。
会場でどんなにあがっても、他のことに気が散っても、
目隠しをしても、意識を失っても、指だけはちゃんと動くという段階まで練習していた。
しかし、桐邦学園の加納公平に勝つには、もう一つ何かが足りないと思っていた。
瞳に聞いても教えてくれるはずはない。
横山教授と同じ方針だから。
自分で見つけるしかない。

美雪は、それを、とうとう大会当日まで、見つけることができなかった。


つづく(次は、「美雪の開眼、そして演奏」です。)

続・美雪と瞳⑤「由希、家族へのカムアウト」

玄関を明けると、両親が迎えに出てきた。
由希の母信子は、背が高く体格もよく、肝っ玉母さんのようだった。
父則夫は、逆に小柄で細く、優しそうだった。

母信子は、女装している由希を見て、
早、察したのか、大きなテーブルのある客間にみんなを案内した。
由希の後ろに横4人、みんな座布団に座った。
テーブルを挟んで、母信子と父則夫が座った。
信子は、どうどうと座っていた。

由希は、今死ぬほどの勇気を振るっているところだった。
やがて、口を切った。
「あの…お母さん、お父さん。
 世の中に、体は男だけど、心は女だったり、
 体は女なのに、心は男だったりする人がいるの知ってると思うの。
 ボクは…ボクは、そんな一人なの。
 小さい頃から、女の子になりたかった。」
由希の声が、涙声になっていた。
由希は、言葉を続けた。
「そして、もう、男として生きていけないの。
 今日大塚さんが、ボクに女の子の格好をさせてくれた。
 うれしかった。」
由希は、声をしゃくりあげながら続けた。
「お母さん、お父さん、ぼくは、女として生きて行きたい。
 女としてじゃなければ、もう生きていけない。
 お父さん、お母さん、そんなボクを認めてください。」
そこまで言って、由希は、大声で泣き始めた。
美雪始め3人は、もらい泣きしていた。
母も父も涙を浮かべていた。

やがて、信子が言った。
「由希、よく勇気を出して言えたね。
 お母さん、それが、うれしい。
 知っていたのよ。
 いっしょに暮らしていれば、わかるもの。
 だけど、こっちから尋ねることは、しなかったの。
 由希は、勇気が足らなくて、いろんなこと言えずにきたでしょう。
 でも、自分の一生のことくらい、
 勇気を出して、自分で言うべきだと思って、待っていたの。
 ちょっと待って。」
と信子は言って、4、5冊の本を持ってきた。」
「由希、これを見て。」
信子は言った。
それは、全て、性同一性障害に関する本だった。
「お母さん。」
と由希は、涙の目を拭いて、母を見上げた。

「これ全部読んで、いざというときが来てもいいように、勉強したの。
 お父さんとは、とっくに話し合って、覚悟をしていたの。
 だから、由希。明日クリニックに行って、
 女の子の洋服をたくさん買いに行きましょう。
 由希が、死ぬほど勇気を出してカムアウトしたご褒美。
 由希は、今からあたし達の娘よ。」
「お母さん。」と由希は言って、立って信子の元へ行き抱きついた。
そして、父にも。
「今まで、辛い思いをしたな。もう大丈夫だよ。」
父の則夫は泣きながら言った。

美雪、拓也、初音、未来もハンカチを出して泣いていた。

信子は、後ろの4人に言った。
「由希が勇気出せたのは、みなさんのお陰だと思います。
 どうも、ありがとう。大塚さんはどちら?」
美雪は、「はい、あたしです。」と言った。
信子は「ありがとう。由希を女の子にしてくれて。」
美雪は、「あの、あたしも同じなんです。GIDです。」と言った。
拓也が出てきて、
「俺もそうです。由希さんと逆ですけど。
 俺や、美雪さんがいるから、クラスは完全にGIDへの理解があります。
 安心してください。」
と言った。
「そう、それは安心だわ。」と信子は喜んだ。

由希は、5人兄弟で、いちばん上だった。
母信子は、弟や妹達を呼んだ。
4人がやってきた。
信子は、
「みんないいかい。由希お兄ちゃんは、今日から女の子になったの。
 だから、お姉ちゃんって呼ぶんだよ。」
下の中学生の久美が言った。
「うん。お兄ちゃん、女の子みたいだったから、思い切り女の子した方がいいと思ってた。
 お兄ちゃん、あ、お姉ちゃんか。お姉ちゃん、可愛いよ。女の子にしか見えない。」
他の弟、妹たちも、
「うん、いいよ。お姉ちゃんって呼ぶ。
 もう、お兄ちゃんに見えないもん。」
そう言った。
由希は顔を上げて、
「みんな、ありがとう。お兄ちゃん、これから、自分のこと『あたし』っていうからね。」
そう言った。

美雪、未来、初音、拓也が帰るのを、家族中で見送ってくれた。
美雪は、洋服やカツラを、しばらく貸すことにした。

朝田家を離れた4人。
「ああ、よかったなあ。俺も家族に言うとき、死ぬほど勇気いったよ。」と拓也は言った。
「あたしも。言いながら、泣いちゃった。」と美雪。
「由希、よかったなあ。そうだ、これから由希(ゆうき)のこと、由希(ゆき)って呼ぼう。」
と、初音が言った。
「『ゆうき』でも、女の子ありだけど、『ゆき』だと、まず女の子だもんね。」
と、未来が言った。
「それが、いいね。」とみんなが言った。

日が暮れて、空が紺色に染まっていた。
美雪は、今の由希の家のようすを想像していた。
きっと、みんなで賑やかに、
由希の女の子としての誕生を祝っているだろうなと、美雪は思った。



朝田由希は、ジェンダー・クリニックに行き、GIDの診断が下りた。
両親と由希は、すぐ学校へ出向き、校長に診断書を提出し、
女子としての登校を願い出た。
それは、すぐに受理され、由希は、女子生徒の制服で、通えるようになった。
由希は、美容院にすぐいき、髪を、女の子風にカットしてもらった。
洋服もたくさん買ってもらった。
クラスでも、美雪がしたように、カムアウトをした。
そうして、新藤初音、石井未来、美雪の3人に加わり、4人の仲良しグループになった。
押上拓也もしょっちゅうやってきた。
大人しかった由希は、とてもおしゃべりな子になった。


つづく(次回は、「美雪、ピアノコンクールへ」です。)

続・美雪と瞳④「美雪、女の子になる」

美雪、由希、初音、未来、拓也の5人で、美雪の家に行った。
「うへえ、美雪の家、超豪邸じゃん。」と拓也は言った。
「ほんと、すごーい。」と他のみんなも言った。

5人で玄関に来た友達を見て、母の早苗は、目を丸くした。
「まあ、美雪が友達を連れて来たの初めてなんですよ。
 うれしいわ。みなさん、美雪をどうかよろしくお願いします。」
と早苗は言った。
「美雪さんは、今、学校の1番人気ですから。」
と、拓也が気の利いたことを言った。
早苗は、うれしそうにそれを聞いた。

美雪の部屋に入って、みんなはまたビックリした。
「自分の部屋に、グランド・ピアノなの?」と未来が驚いて言った。
「うん。学校にずっと行けなかったから、買ってもらったの。」と美雪。

由希は、すでにカチンカチンになっていた。
「みんなが、見てると、朝田君、恥ずかしいかも知れないから、
 みんなは、ソファーでくつろいでて。」と美雪は言った。

美雪は、由希とドレッサーの前に行った。
「これ、あたしの下着だけど、いい?」
「え?下着から女物履くの?」と由希は驚いていた。
「あたり前よ。そうじゃないと、女の子になった気がしないもの。」
由希はズボンとトランクスを脱いで、美雪のショーツを履いた。
「こうすると、女の子に見えるのよ。」
と、美雪は、由希に、瞳から教わった女の子に見えるショーツの履き方を教えた。
「ほんとだ。すごい。」と由希は何度もその部分を見て感心していた。

由希にブラをつけさせ、ピンクのスリップをかぶせた。
長髪の由希は、すでに、女の子に見えてきた。
由希の手が震えていた。
『あたしもそうだった。』と美雪は瞳との初女装のときを思い出した。
次はいよいよ服。
美雪は、始めからピンクを心に決めていた。
半袖の、お嬢様風なピンクのドレスを出した。
肩のバルーンが、少し首側から始まっていて、華奢に見える。
それでなくとも由希の上半身は、女性的だった。

ピンクのドレスのファスナーを上げ、ウエストのリボンを後ろで蝶々に結ぶ。
「ちょっと、メイクしてみよう。」
美雪は、そう言って、由希をストールに座らせた。
睫をカールして、マスカラをぬった。
由希の目がパッチリとした。
ドレスがピンクなので、明るいピンクで、目の上、眉の下にシャドウをつけた。
チーク、そして、ルージュを薄く引いた。全部ピンク。
美雪は、肩までの内巻きのボブのウィッグを持っていたので、
由希の髪をネットでまとめ、それを由希にかぶせた。
ブラッシングして、由希の太目の眉を、前髪で、すれすれに隠してしまう。
出来上がり。

由希は、思ったよりずっと可愛くなった。
「どうお?」
と、美雪は、由希に小声で言った。
「ありがとう。ボク、信じられない。ボク、女の子に見えるね。」
「見えるだけじゃないわ。すごく、可愛いよ。」と美雪は言った。
美雪は、みんなに声をかけた。
「みなさん、変身完了です。」
由希は立って、みんなの方を見た。

3人は、すごい反応を見せた。
「うそー。わあ、女の子じゃない。」
「やったー、可愛い。もう完璧女の子だわ。」
「朝田は可愛いと思ってたけど、これほどまでとは、知らなかった。
 ぜってー、大丈夫。女の子でいけるよ。」
3人は、口々に言った。
「ああ、感激して涙が出そう。美雪さん、ありがとう。」
由希がそう言って、目を潤ませた。
「朝田君。今から、自分のこと『あたし』って呼ぶの。
 そして、女の子言葉使うの。いい?」
「うん。ぼく…いえ、あたしは、心の中では、ずっと女の子言葉しゃべっていたの。
 だから、できると思う。」
由希は、言った。

30分後、ソファーに向き合って、
由希は、完全に女の子になっていた。
「いや~ん、あたし、そんなこと知らないわ。」とか、
「あ~ん、あたしにやらせて。」とか。

美雪は、言った。
「由希、あたしは、初女装したとき、そのまま勢いで家に帰って、
 両親にカムアウトしたの。由希も、このまま家に行って、カムアウトしたらどうかな。
 あたし、ついて行く。」
「じゃあ、俺も行く。」
「あたしも。」
「あたしも。」

3人は言った。
由希はしばらく考えていた。
「うん。する。あたしは、今まで勇気を出したことがないの。
 自分の一生のことだから、死ぬほど勇気出して言う。
 みんなが応援に来てくれると心強い。
 言えると思う。」
由希はそう言った。



由希の家は、和風の大きな家だった。
5人は、インターフォンの前にいた。
美雪は自分のときのことを思い出していた。
脚が震えた。声も震えた。でも、カムアウトした。
『がんばれ、由希。』と、美雪は心で叫んでいた。


つづき(次回は、「由希、両親へのカムアウト」です。)

続・美雪と瞳③「由希という男子生徒」

美雪の演奏は人気となって、
美雪が次に演奏する日を、2、3年生も聞きに来るようになった。
そこで、女子達は貼り紙をした。
「大塚美雪の演奏 △月△日 昼休み。曲目『・・・・・・・』」。

すると、クラスのみんなの特権だった、椅子に座って聞けることがなくなり、
学年を越えて、先に来て座って待っている生徒が増えてきた。

美雪が、「ハンガリア狂詩曲2番」を弾くと貼り紙があったとき、
すごい評判で、弁当を早く食べて駆けつける生徒が大勢いた。
そして、20人ほどの先生達も、先に来て椅子に座っていた。

「ああ、同じクラスなのに、あたし達、立ち聞き?見えるかなあ。」と新藤初音が言った。
隣で、背の高い石井未来が笑っていた。

「ハンガリア狂詩曲2番だって、こりゃすげーや。」とある3年生が言った。
「指だって長くはないだろうに、どうやって弾くんだろう。」と隣の3年生。
「楽しみだなあ。あの子は、いつも聞かせてくれからなあ。」と3年生。

椅子の人。立ち聞きの人。廊下の人。
聴衆は、120人を越えて、学校中の生徒職員が来ていた。

美雪は、やがてやってきた。
すごい拍手を受けた。
美雪は、礼をして、ピアノについた。
美雪が一番好きで弾きこんだ曲。瞳と一番時間をかけて練習した曲だ。
美雪は、ピアノに関しては、人前で上がるということはなかった。
弾き始めると、深く曲の中に入っていけた。

美雪がピアノにそっと手をかけると、
会場はもの音一つしなくなった。

やがて、演奏が始まった。
低く重いメロディーから、高くて繊細なところ、
低い音の迫力も満点。高いところの羽根のような音も満点。
スピード感も満点。踊るようなリズムも満点。
120人余りの聴衆は、完全に魅了されていた。

美雪が、最後の音を叩いたとき、音楽室の観客は、全員立ち上がって、
スタンディング・オベージョンをした。
「すごい、これはすごいよ。」と誰かが言った。
「もう、完全に聞かせられたわ。」
「あの子、まだ1年生だぜ。すげーなあ。」
そんな声が方々でした。
聞いている生徒も、音楽一筋にやってきたような優秀な生徒ばかりだった。
しかし、美雪は、その中で特に秀でていた。

美雪は立って、礼をした。
新藤初音たちがやってきた。
「美雪、すごい。あんたって人は。」
「もう、憧れちゃったわよ。」
「ハンガリア狂詩曲だもん。もうビックリよ。」
と交互に言った。
美雪は、去年までの自分を考えていた。
死ぬことまで考えたのに。
死ななくてよかった。こんなうれしい日が来るなんて・・・。

「みんな、ありがとう。」そういうと美雪は泣き出してしまった。
「だれだって、感激するよ。」と石井未来が言った。
「それも、あるけど、美雪は、いろんなこと思い出していたんだと思う。
 辛くても、がんばってきて、よかったね。」と新藤初音が美雪を抱きしめた。

先生達は帰りながら、
「いやあ、いいですなあ。こういう盛り上がり、私は大好きですよ。」
「なんか、学校が1つになった感じで、うれしいですなあ。」
「うちの学校の生徒は、ジェラシーというものを知りませんな。驚くべきことです。
 全員、興奮して、喜んでましたよ。」
「しかし、あの子は、宝石ですな。楽しみなことです。」
と、笑いながら、こんなことを言い合っていた。



初登校の日から、2週間が過ぎた。
美雪は、始めから一番後ろの席の校庭側にいた。
美雪は、授業中、ある視線を感じていた。
それは、悪意のあるものではなかった。

美雪と同じくらい小柄で、とても幼く見え、
可愛い顔をしている朝田由希(ゆうき)という男子だ。
髪は、男子としては長髪。
席は一番後ろの廊下側で、横を向けば美雪が見える。
その彼、朝田由希が、時々美雪を見ていて、
視線が合うとすぐに目を伏せてしまう。
朝田由希は、自分に何か話をしたがっている、
でも、内気な性格で、それができないのだ、
美雪はそう思っていた。

そこで、ある20分休みに、朝田由希のところにそっと行き、
「廊下にちょっと。」と声をかけた。
由希が廊下に来た。
「あの、人のいないところへ行かない?」と誘った。
「うん。」と由希は言った。

そんな様子を新藤初音や、石井未来が見逃すはずはなかった。
二人が後をつけて行くと、後ろに押上拓也がいた。
「なんで、あんたがついてくるのよ。」と初音が言った。
「なんか俺がいた方がいい気がしたんだよ。」と拓也。

美雪と由希は、校舎の影に行った。
ついて来た三人は、校舎の角で聞いていた。

「朝田君、あたしに何か話したいのかなって感じたの。
 もしよかったら話して。」美雪は言った。
「ありがとう。ボクが勇気ないから、大塚さんの方から声かけさせちゃった。」
由希はそう言った。
「ねえ。言って。」と美雪が言った。

「ぼく、大塚さんが、クラスに来たとき、すごくうれしかった。
 あのとき、新藤さんが言ったじゃない。
 見かけが例え男みたいでも、心が女の子なら、その子は女の子だって。
 あの言葉聞いてうれしかった。」
「うん。あたしもそう思う。」
「ぼくね。」
「うん。」
「ぼく、君と同じなの。心は、女の子。
 君は、可愛くてステキだし、ピアノで学校のヒロインだし、憧れてる。
 大塚さんみたいに、みんなにカムアウトして、みんなから女の子として見られたいって、
 ずっと思ってたの。

 授業中、大塚さんを見ていると、まぶしかった。
 ボクの夢を叶えていて、勇気があって、つらい思いにもめげないで、最高だなって思って。」
由希は、そこで声を詰まらせた。
「ボク、大塚さんみたいになりたい。女の子になりたい。もう我慢できない…。」
由希は、そう言って泣き出してしまった。

美雪は、由希の涙が痛いほどわかり、自分も涙がわっと出てきて、由希を思わず抱きしめた。
「わかる。すごくわかる。朝田君、女の子になろう。あたし、どんな力にでもなる。」
「ありがとう。」と由希は泣きながら言った。

そのとき、3人が出てきた。
「ごめん、聞いちゃったの。」初音が言った。
「あたしにもできることあったらしたい。朝田君、めちゃ性格いいもん。」と未来が言った。
「朝田あ。何で男同士、俺に言わねーのよ。
 こういうときのために、GIDの俺がいるんでしょうよ。」と拓也が言った。
由希は、顔を上げた。
「ありがとう、みんな。ボクうれしい。」
そう言った。
美雪は、由希が女の子になったらきっと可愛くなると思った。

「今日、みんなでうちに来て。朝田君、一度女の子になってみよう。
 あたしと由希君、身長同じくらいだし。」と美雪は言った。
「ほんと?ありがとう。」と由希は、また泣きそうになっていた。


(次回は、「由希、女の子になる」です。)

今回の美雪の演奏した曲「ハンガリア狂詩曲2番」by Alice Sara Ott

続・美雪と瞳②「美雪の演奏」

1、2時間目の終わりの20分休み、
美雪は、みんなの引っ張りだこになった。
女子が大勢来て、まず、トイレにいっしょに行こうとさそってくれた。
例の男子のGIDの押上拓也もきた。
「ね、俺とつき合わない?ほら、境遇の似たもの同士。」と言った。
「拓也は、男。しかも、エッチだから、絶対気をつけた方がいいよ。」
と女子。
「ええ?俺だっていろいろ苦労あるんだぜ。」と拓也。
「わかってるよ。あたしだってあるわよ。拓也は後でね。」とある女子。
そして、美雪の周りに女子が10人くらい来て、
ガールズトークに花を咲かせた。
「ね、美雪は、専攻何?」と誰か。
「ピアノ。」と美雪。
「わあ、ステキ。昼休みに聴かせて。」
「あんまり上手じゃないよ。」と美雪。
「そういう風に言う子に限って上手なのよ。じゃあ、中休みね。」
と石井未来(みく)という子が言った。



中休み、美雪がピアノを弾くというので、
クラス全員がついてきた。
場所は音楽室。
そこは、空いていれば誰でも使っていい。
横山教授に聞かせた教室のように、舞台が1段高くなり、
生徒はスロープのある座席に座れるようになっていた。

「何がいいかなあ。」と美雪は言った。
「あの、あれ、ショパンの幻想・・・。」と新藤初音が言った。
「幻想即興曲?」と美雪。
「そうそれ。」初音が言った。

おおおおおっと声が出た。
「美雪が幻想即興曲弾くんだって。」と男子が言った。
「聞いてみてえ。」と横の男子が言った。

美雪は、ピアノの前で深呼吸を一つした。
クラスメートたちは、固唾を飲んで、待っていた。

やがて、美雪の美しい音色が室内に広がった。
テクニックも問われ、情感も問われる。
だが美雪は、ひたすら音楽に集中して演奏した。

美雪が弾いている間、
廊下を通る2年生、3年生も、美雪のピアノに心魅かれ、
廊下で立ち止まって、聴き始めた。
いつの間にか音楽室とその廊下で、約100人の人が、聴いていた。
さらに、先生達も、来ていた。

美雪は、演奏に没頭していた。
そして、最後の音を弾き終わったとき、
すごい拍手を耳にし、後ろを見た。
100人以上の人が、聴いていた。
みんな、拍手をやめない。
美雪は、立って、みんなに礼をした。

新藤初音が真先に飛んできた。
「美雪すごい。よかったあ。」
「どうして、こんな大勢の人が聴いてくれているの。」美雪は言った。
「あなたの演奏が、ステキだったからに決まってるじゃない。」初音は言った。
「わあ、ほんと?うれしいなあ。」美雪は少し赤くなった。

廊下の2、3年生が、
「ありがとう。すごい演奏聴かせてもらった。」
「君、すばらしいよ。感激した。」
「明日も弾いてくれるんなら、また来るよ。」
そんな声をたくさん残して、廊下の人達は去って行った。

先生達は言っていた。
「これは、うれしい生徒が来ましたね。」
「さすが、横山教授の推薦のことだけはありますね。」
「みんなの刺激になりますね。」
こんなことを。



美雪は、授業が終わって、家へ飛んで帰った。
父も心配して家にいるだろうと思った。
「ただ今。」とインターフォンでいうと、
両親が玄関に迎え出て来た。
「どうだったの美雪。」と母は真先に聞いた。
「すごく、いい学校。あたし、カムアウトしたの。
 そうしたら、男の子だけど、同じGIDの子がいて、
 クラスも、みんな理解してくれてるの。

 それから、音楽室で、幻想即興曲を弾いたら、
 学校中の人が聞きに来てくれて、誉めてくれた。
 すごく、うれしかった。
 もう、同じ年の人のこと怖くない。」

一気にしゃべり立てる美雪の様子を見て、
美雪がどんなに喜んでいるかがわかった。
『よかった、よかった。』
と、早苗も靖男も涙ながらに、美雪の声を聞いた。


つづく(次は、「美雪に憧れる男の子」です。)

今回美雪が弾いた曲=ショパン「幻想即興曲」by サンソン・フランソワ

 

続・美雪と瞳①「美雪の高校初登校」

「美雪と瞳・第2部」

このストーリーには、悪い人、意地悪な人は一切出て来ません。
安心してお読みください。
また、女装もあまりでてきません。すみません。

=================================

美雪は、国立G大付属音楽高校に合格した。
ペーパーテストは、簡単な英語と国語の試験。
そして、実技があり、これは横山康孝教授の太鼓判とあって、
形式的に行われただけだった。

高校は、1学年30人、1クラスという小人数の規模だった。
そして、1~3年まで、1クラスずつ、全校で90人しかいなかった。
男女共学、男子15名、女子15名だった。
生徒数の割に設備や教員数は贅沢なほどで、
専門の音楽の授業は、極小人数で行われていた。

9月1日。
美雪の初の投稿日だった。
高校の女子の制服をきた美雪は、緊張で朝からかちんかちんだった。
高校生に親がついていくのも、変だ。
美雪一人で行く。

美雪は、心配していた。
性同一性障害の診断をクリニックでもらい、
学校では、女子の扱いをされる。
しかし、クラスメートは、自分を女子として認めてくれるだろうか。
女子トイレに入って、変な顔をされないだろうか。

美雪は、9月1日、
今日初対面の、クラスメートにGIDであることをカムアウトするつもりだった。
いっしょに生活をすれば、体が女子ではないことがいつかばれると思った。
そのときのクラスメートの反応が恐かった。
ジャンダー・クリニックで、ホルモン治療が始まっていた。
しかし、まだ数ヶ月だ。女子の体にはなっていなかった。
今日、勇気を出して言うのがベストだと思った。
それで、嫌がらせをされたら、もう、高校に行くことは止めようと思った。

学校に着いて、校長室に行った。
そこに35歳くらいの綺麗な女性が来た。
「相原吉江と言います。あなたの担任です。」
と相原が言った。
「大塚美雪です。よろしくお願いします。」
と美雪は挨拶した。

教室へ行く道、美雪の胸は最高に高鳴っていた。
相原と教室に入った。
自分と同学年の男女に、美雪は、いじめられたトラウマがあった。
脚が震えた。
しかし、勇気を出すんだ、と自分に言い聞かせた。

起立、礼をし、相原が、美雪の名前を紹介した。
黒板に「美雪」という漢字で書いてくれた。
「じゃあ、美雪さんから、自己紹介をして。」と言われた。

美雪は、覚悟を決めた。
どれだけ体が震えても、声が震えても、言おうと思った。
美雪は、口を開いた。

「私は、中学のときいじめられて、それから、2年半も学校へ行っていません。
 いじめられた後遺症で、同い年の人をみると、恐くて、体が震えます。
 いじめられた原因ははっきりありました。
 私は、心は女子ですが、体は男子です。
 いわゆる、GID、性同一性障害です。
 中学生のときは、服装は男子として通っていました。
 でも、この学校へ入れて、女子の制服で通うことができました。
 トイレや更衣室も女子を使っていいことになっています。
 そういう私を、理解してくださって、女子として接してくれるとうれしいです。」
美雪は、震える声で、やっとそこまで言った。
みんな、シーンとして聴いていた。

そのうち、一人の男子が手をあげた。
とてもハンサムな感じのいい男子だった。
彼は、優しい目をして、
「美雪さん。安心しなよ。俺も、GIDなんだ。
 だから、このクラスのみんなは、GIDを理解してるよ。」
そう彼は、言った。
他の女子の一人が手をあげた。
「新藤さん。」と先生。
その生徒が立った。
「美雪さん。安心して。このクラスに意地悪な人いないから。
 あたしも、中学のときいじめられたの。
 だから、高校行くの恐かった。
 なぜか、このクラス、いじめられ経験のある人多いの。
 ほら、みんなと遊ばないで、ピアノとか音楽ばかりやってきたじゃない。
 だから、付き合いの悪い奴として、嫌がらせをされた。
 だけど、この学校はちがうよ。
 いい人ばっかなの。
 今の美雪さん見て、男の子だなんて、とても思えない。
 でも、見かけがたとえ男の子でも、心が女の子なら、その子は、女子だと思う。
 だから、安心して。あたしたちみんな、美雪さんを女子だと思うよ。
 ねえみんな。」
新藤が、みんなに言葉を投げかけると、
みんなが拍手をした。
みんなの笑顔が温かかった。
美雪は、思わず瞳に涙を浮かべた。
「ありがとう、みんな。」
美雪は、そう言って、目の涙を拭いた。


つづく(次回は、「100人の生徒にピアノを聞かせる」です。)

美雪と瞳④「美雪、教授の前で弾く」最終回

瞳は、美雪と両親の許可を得て、横山康孝教授に、美雪のプライベートなことも伝えた。
「そう。GIDの学生は、この大学にごろごろいるよ。
 瞳君のようにね。」
と教授は言った。
そして、教授は、両親同伴で来て欲しいと言った。



ようやく、教授の前で演奏する日が来た。
瞳は、美雪の両親へのカムアウトの日から、
自分も決心し、女性として大学に通い始めていた。

午後の4時が約束の時刻だった。
父靖男は、仕事を休んで同伴した。

美雪は、新しい服をたくさん買ってもらったのか、
その日は、赤いワンピースだった。
とても、似合っていて可愛かった。

教授の研究室に訪れた。
日本で屈指のピアニストであり教授であるのに、
教授の研究室は、片付けが全くなされていなかった。
教授は私服を着ていて、
極めてフランクな人柄だった。

美雪の両親が挨拶をしようとすると、
「いや、お父さん、お母さん、私は1秒でも早く美雪さんの演奏が聞きたい。
 昨日は楽しみで、眠れなかったくらいなんですよ。
 隣が、小さい教室になってますので、早く移りましょう。」
と早口で言った。
早苗や靖男は、先生の人柄にほのぼのするものを感じて、目を合わせて微笑んだ。

隣の教室には、正面の低いステージの上に、演奏会用の最高級のピアノがあった。

「美雪さん、ショパンの夜想曲第2番あたりどうだね。」
と教授は、美雪に言った。
「はい、ノクターンですよね。暗譜しています。」
と美雪は言った。
そして、正面のピアノへ歩いて行った。

教授と3人は、後部の椅子に横に並んで座った。

やがて、静かに美雪の演奏が始まった。
瞳は、美雪のよさが最高に表現される選曲だと思いうれしかった。

美雪は、ピアノに深く入り、まるで美しい夜に一人想う自分を表しているのだろうか、
演奏に、しっとりとした色合いが出ていた。
天下の教授が聴いているというのに、あがったり、緊張している風はまるでなかった。
教授はだまって、ときに演奏に合わせてうなずいたり、首を揺らしていた。

美雪の演奏が終わった。
みんな、教授の反応を祈るような気持ちで待っていた。
美雪が来ると、教授は立って、大きな拍手をした。
美雪がうれしそうな顔をした。
みなも立った。
美雪が来ると、教授は、満面の笑顔で、早苗と靖男に言った。
「美雪さんは、宝石ですなあ。」
美雪も、両親も、瞳も顔がほころんだ。
「研究室のソファーに移りましょう。」
と教授に言われ、部屋に移った。
教授は、真先に美雪に聞いた。
「美雪さん。演奏してみてどうだった?」
「ピアノがすばらしくて、始めの音を弾いたら、もううれしくなってしまって、
 いつの間にか音に包まれて、最高に幸せな気持ちになり、いつまでも弾いていたいと思いました。」
美雪は言った。

「ふーん。私達が聴いているというのに、集中力があるんだね。」
と教授は言い、両親に向かって言った。
「立原君が、美雪さんのことを何べんも誉めるんですよ。
 私は楽しみでなりませんでした。
 そして、今日願いが叶った。
 さっきも言いましたが、美雪さんは、宝石です。
 宝石だから、まだ磨ける余地はたくさんありますよ。
 しかし、宝石であることに違いはない。
 実に、心に沁みる演奏を今日されました。
 人に聞かせる音を出せますね。
 いいですなあ。」と。

早苗は、天にも昇る気持ちだった。
「教授のお言葉を伺って、感無量です。」と言った。

「こうしませんか。」と教授は言い、
「週に1度でも、2度でも、この私の部屋に遊びに来ませんか。
 いつ私が入るかは、立原くんに後で伝えます。
 授業じゃありません。遊びに来るだけです。
 ピアノは、さっきの教室ので、自由に遊んでけっこうです。
 もちろん、私も、遊びに聞いたりして、
 いいと思ったところを2、3言うこともあるでしょう。

 授業料なんかいりませんよ。遊びですから。
 要するにですなあ。私は、ライバルの大学に、
 美雪さんを取られたくないんですよ。」
そう言って高らかに笑った。
「教授、それ、名案ですね。」と瞳は言った。
「まあ。」と早苗は、目を潤ませた。
「ありがとうございます。」と靖男も言った。

教授は、
「高校ですが、全然人に知られていないのですが、
 この大学の付属音楽学校として高校があるんですよ。
 小人数で和気あいあいとした学校です。
 美雪さんは、すでにNHK学園に在籍していますから、
 編入という方法があります。
 希望されるのであれば、私がお世話します。

 立原くんがいうのですが、美雪さんには、クラスメートとの交わりや、
 楽しい学校生活の経験はあってもいいのじゃないかと。
 私も、反対ではありません。
 しかし、NHK学園を卒業することも、
 それなりに、意義のあることです。

 それと、プライベートなことも伺いましたが、
 病院か、ジェンダー・クリニックへ行って、
 一度診断をお受けになった方がいいと思います。
 GID(性同一性障害)の診断書をもらえれば、
 学校では、その生徒を正式に女子として扱えます。
 もちろん他の生徒には、知らされませんよ。
 体育は女子として、トイレ、更衣室も女子として、
 堂々と使えます。もちろん女子の制服でね。
 その診断書は、ずっと使えますので、大学でも通用します。

 立原くん。このくらいでいいかね。」と教授は瞳に聞いた。

「はい。教授としては、花丸です。」
と瞳が言ったので、みんなで、和やかに笑った。



帰り道。
いちばん喜んでいたのは、早苗だった。
手を広げてくるくる回っていた。
「ああ、幸せだわ。こんなうれしい日はないわ。」と早苗は言った。
「あの教授、ぜんぜん威張ってなかったね。」と美雪が言った。
「そうだねえ。なんか、立原先生に子供扱いされてたね。」と靖男は笑いながら言った。
瞳は言った。
「だって、あの先生、聴いてはくれるんですよ。
 でも、何にも教えてくれないんです。
 欠点は、自分で見つけ、自分で克服せよとのお考えです。
 でも、私達が自力で克服したときは、すかさず誉めてくれるんです。
 そのときのうれしさったらありません。
 だから、みんな教授のこと大好きなんです。」

大学からの道は、長い下り坂だった。
家々の景色が遠くまで広がってみえる。
美雪は瞳と目を合わせ、胸一杯に息を吸った。


<おわり>

※最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
 次ですが、この続編を書きたいと思うのですが、まだ何も書いていません。
 また、ここに何かあったら、読んでくださるとうれしいです。

美雪と瞳③「両親へのカムアウト」

「どう?恐い。」と瞳。
「恐くない。何にも恐くない。」と美雪が言う。
瞳はうれしかった。このまま、人のいる通りを歩けたらいいなあ、そう思った。

アパートを出た。
「美雪、アパートを出たわ。」
「瞳、あたし、恐くない。逆にこの姿を誰かに見てもらいたい。」
その美雪の言葉がうれしくて、瞳は、胸が一杯になった。

いよいよ通りに出た。
大勢の人がいる。
みんなが、美雪を見て行く。
「美雪が、妖精みたいに可愛いから、みんな見て行くのよ。」
「ええ。感じる。意地悪な視線じゃない。全然怖くない。
 あたし、誇らしい気持ちさえする。」
「そう、いいわ。これが、美雪なの。美雪の本当のすがた。」
「ああ、うれしい。お日様をこんなに浴びても、平気。」

パフェに入った。
「美雪、あたしは、イチゴのクリームパフェ。
 美雪が、ウエイトレスさんにあたしのも頼んで。
 美雪は、女の子の声をしているから、大丈夫。」

美雪は、横を通るウエイトレスさんに、
「あ、すみません。」と声をかけた。
そして、二人分のパフェを注文した。
「わあ~、やった。声を出せたわ。」美雪はうれしさで身を振るわせた。
「いいわあ、美雪。ここを出たら、いろんなところで声を出してみよう。」

二人は、それから、通りの雑貨店や洋服店、アクセサリーのお店をまわり、
美雪は、お店の人にいろいろな質問をして、たくさん話した。
今まで、外でできなかった会話を全部取り戻すように声を出した。
そして、昼にパスタのお店に入って、瞳のアパートに帰ってきた。

美雪はうれしくて、瞳に抱きついてきた。
瞳は美雪を抱きしめた。

「瞳、ありがとう。あたし、生まれ変われた。
 こんな幸せな気持ちになれたことない。」
美雪は言った。

キッチンテーブルで、ハーブティを飲みながら、
瞳は言った。

「提案だけど、このまま、電車を使って、美雪のお家へ帰ってみない?
 お父様やお母様は、さぞ驚かれると思うけど、
 美雪の本当の心の姿を見ていただくの。
 そして、これから女の子として生きていきたいという気持ちを伝えるの。
 今日がいいチャンス。どう?」
美雪は考えていた。
「うん。瞳の言う通りにする。もし両親がわかってくれたら、
 あたしは、これから、何でもできる気がする。
 あたしの、一生がこれで変わる。」



男の衣類を紙袋に入れて、美雪と瞳は、アパートを出た。
それから、通りを歩き、電車に乗り、また歩いて、家の前に来た。
「ちょっと緊張するね。」瞳は言った。
「あたし、もうドキドキ。でも、勇気出さないと。」
「そうだね。」
美雪は、チャイムを鳴らした。
「あ、お母さん。ボク、電車で帰って来ちゃった。」
美雪が言うと、お母さんは驚いていた。

二人で、エンタランスを歩いた。
『電車で来た。』という言葉に驚いてか、
両親の早苗と靖男は、二人そろって、玄関に迎え出ていた。
美雪と瞳は、勇気をだして、引き戸を開けた。
早苗と靖男は、二人の姿を見て、あっと驚いた。
「あ、あの立原先生は女性でしたの?」と早苗が言った。
「いえ。美雪さんと同じです。」瞳は答えた。

居間のソファーで、美雪と瞳は並んで、両親と向かい合って座った。
美雪は言った。
「お父さん、お母さん、これが、あたしの心の姿なの。
 だから、立原先生が、あたしの心の姿のままに、女の子の服を着させてくださったの。
 そうしたら、外に出ても少しも恐くなかった。
 どれだけ人に見られても、それが、うれしいように感じられたの。
 たくさんのお店に行って、たくさんしゃべった。
 電車も全く平気だった。

 今までは、あたしの女の心がばれないかと、人の視線が恐かった。
 見られると、女の心がばれたようで恐かったの。
 女の心で学校に行くのはつらかった。
 からかわれたし、たくさん嫌がらせされた。
 
 でも、今日女の子の格好で外に行ったら、
 少しも恐くないの。
 女の心がばれても、姿も女なんだから、恐れるものは、何もなかった。
 だから、外を歩けたの。

 あたしにとって運のいいことに、立原先生も、あたしと同じ女の心を持ってらして、
 あたしの、女の心をわかってくださった。
 だから、今日みたいなことが、実現したの。

 お父さんとお母さんが、そんなあたしのことをわかってくれて、
 あたしを女の子だとこれから思ってくださるとうれしい。
 女の姿でいることを、許してくださるとうれしい。
 それが、あたしのお願いです。」

早苗も靖男も泣いていた。
早苗が言った。
「お母さんは、わかっていたの。実行の心が女の子であることが。
 でも、勇気がなくて今まで聞けなかったの。
 学校でいじめられていた訳も、わかっていた。
 でも、どうしていいかわからなかったの。
 ごめんなさい、実行。
 あたしは、今からあなたを女の子だと思います。
 家でも、外でも女の子でいいの。
 どう生きていくかは、みんなでいっしょに考えましょう。」

「おかあさん、ありがとう。あたし、うれしい。」美雪が言った。

靖男が言った。
「そうだったのか。気がつかなくてすまなかった。
 実行が、女の子のようなところがあることは、気がついていた。
 だけど、心が女の子だということは、考えもしなかった。
 でも、今実行の話を聞いて、たくさんわかってきた。
 どうして外がこわかったのか。これで、やっとわかった。
 実行には、長い間、辛い思いをさせたね。すまないことをした。
 お母さんに、父さんは同じ思いだ。
 今から、実行は、父さんと母さんの娘だ。
 思う存分、女の子でいてもいいよ。

 実行が今勇気を出して、説明してくれたことは、立派だった。
 父さんは、それもうれしかった。

 それから、立原先生。実行のことを理解し、今日してくださったこと、
 感謝で一杯です。ありがとうございました。」

早苗。
「先生、ありがとうございました。」

瞳。
「私こそ、感激しています。ほんとによかったです。
 お父様とお母様が、こんなに真っ直ぐに理解してくださると思わず、
 私は、さっきまで、玄関で足が震えていました。
 美雪さんは、つらい思いをされましたが、いいご両親に恵まれお幸せだと思います。

 美雪さんは、すばらしい才能をもっていらっしゃいます。
 人の心に沁みる、演奏をされます。
 ただ、やや内向的であり、
 明るく外に向かった広がりという点が欲しいと思っていました。
 それは、無理もないことです。外に出られなかったのですから。
 でも、これからは外に出られますよね。外に出て、日を浴びて、人と交わり、
 たくさん笑って、楽しい経験を積めば、演奏は、さらに広がりのあるものになっていく思います。
 だから、美雪さんが外に出られるようにというのは、私の美雪さんへの課題だったのです。

 実は、私は、私が師事しています横山康孝という先生に、美雪さんのことを話しました。」

早苗。
「横山康孝先生とは、ピアノ科一番の教授ではないでしょうか。」
瞳。
「はい。横山先生は、是非一度、美雪さんの演奏を聞かせて欲しいとおっしゃっています。
 私は、今、外に出られないので、出られるようになったら、誘ってみるといいました。
 私は、美雪さんが、横山先生の前でピアノを演奏する日が現実になりそうで、
 今、うれしくてなりません。」

早苗。
「まあ、それは何とうれしいことでしょう。」
美雪。
「そんなに、すごい先生なの?」
早苗。
「日本で、3本の指に入る先生よ。」
美雪。
「わあ、すごい。瞳先生は、今習ってらっしゃるのね。」

「うん。何にも教えてくれない先生なんだけどね。」
と瞳が言ったので、みんなで笑った。


つづく(次回は、「横山康孝教授に会う」最終回)

美雪と瞳②「美雪、女の子になる」


「お父さん、お母さんは、美雪のこと知っているの。」瞳は聞いた。
「まだ、言ってないけど、感づいてはいると思う。」と美雪。
「美雪は、一人っ子だよね。」
「うん。」
「そうかあ。美雪君は、まずそのことをご両親に知らせ、
 それとは別に、外に出られるようになることが、目標だね。」
「父と母には言えると思う。
 でも、外には、永久に出られないと思う。」と美雪が言う。

「そんなことないさ。美雪君が外に出られるようになる可能性が1つあると思う。」
「え?先生、どんな方法?」美雪は、瞳を見つめた。
「これボクの勘だけど、美雪は、女の子としてなら、外を歩けると思う。」
「そうかあ。」と美雪は言った。

「いっしょにがんばろう。」瞳は優しく言った。
「はい。」美雪は、わずかに希望の光をみせて、答えた。
「近いうち、ボクのアパートへお出で。内緒で、女の子にしてあげる。」
「え?」美雪は、喜びの目をして、瞳を見つめた。



2週間が過ぎ、3回目のレッスンのとき、
美雪の父親が、在宅していた。
居間で挨拶をした。
美雪の父靖男は、優しそうで、
45歳ほどと思われたが、青年のように爽やかな人物だった。
父靖男が在宅ということで、瞳と美雪は、
母早苗と父靖男の前で、演奏を披露することにした。

居間のグランドピアノで、美雪と瞳は、ピアノの前に座った。
両親は、ソファーに並んで座っていた。
曲は、二人で練習して来たハンガリア狂詩曲2番。
それを、8小節交代で弾くことだった。

二人はやがて演奏を始めた。
見事な演奏が、明るく光の差した居間に流れた。
二人の交代がわからいほど、バトンタッチが上手くいっていた。
美雪はうれしそうだった。
交代のところが近づくと、美雪は笑顔を見せて瞳に目をやる。
瞳が、それを受けて弾く。

一曲が完璧に演奏された。

母の早苗は、見事な演奏だと思い、胸の中は感無量だった。
父の靖男は、聞きながら涙ぐんでいた。
美雪が、こんなに楽しそうにピアノを弾いている姿を見たことがなかった。
早苗も同じ思いで、胸が一杯になっていた。

演奏が、終わった。
美雪と瞳は、両親のそばに行った。
父も母も目にハンカチを当てていた。
「そんなに、いいと思ってくれたの?」
と美雪は言った。
父親が、美雪を見て、
「うん。美雪が、こんなに楽しそうに弾いているのを見たことがなかったものだから。」
母が続けて、
「美雪のうれしいという気持ちが演奏に表れていたわ。
 こんなのびのびした美雪の演奏聞いたことなかったら、私はうれしくて。ステキだったわ。」
と言った。
美雪は、うれしそうだった。

二人もソファーに座った。
その場で、瞳は言った。
「次の日曜日に、美雪君を私のアパートに招待したいんです。
 これは、あくまで友達としてで、レッスンではありません。
 少しずつでも、美雪君が外へ出られるようにという気持ちもあります。」

それは、ありがたいと、両親は言った。
母は、行きも帰りも、車を出しますと言った。
こうして、美雪は、瞳のアパートに遊びに行けることになった。



日曜日の美雪の訪問に備えて、
瞳は、美雪にあう服、靴、バッグ、下着を買っておいた。
ウイッグは、瞳はすでに5、6持っていた。

日曜日の10時に瞳は美雪の家を訪れた。
両親がそろっていた。
お抱えの運転士が、車を車庫から出していた。

美雪は、まず、玄関を出ることが一つのハードルだった。
両親と瞳に支えられ、玄関を越えた。
そして、車庫に向かった。
両親が頭を下げていた。

車は15分ほど走り、瞳のアパートへ着いた。
「美雪、女の子になりにいくんだよ。がんばろう。」
瞳は言った。
美雪は、その声に励まされ、車から降りた。
運転士さんに、お礼を言った。
瞳は、美雪の手をとり、アパートの玄関をくぐった。
「平気?」と瞳が言った。
「うん。先生がいるから平気。」と美雪は言った。

瞳のアパートというのは、完全なマンションで、
音大生専用のアパートだった。
部屋は全体に完全防音で、居間にグランドピアノが始めから置かれている。
広い居間、ベッドルーム、書斎、キッチン、バストイレ。
アパート代は、目が飛び出るほど高い。

部屋に入った美雪は、
「わあ、ステキ。先生がアパートっておっしゃるから、もっと狭いところかと思った。」
「なぜか、ここ、アパートって呼ばれているの。」

瞳がかなり緊張していると思われたので、
瞳は、カモミールのハーブティを振舞った。
「これ飲むと落ち着くの。」と瞳。
「うん、なんか体やらかくなるみたい。」と飲みながら美雪は言った。

「美雪を女の子にする前に、あたしが、まず女に着替えて来るね。」
瞳はそう言って、ベッドルームで着替えた。
下着をつけて、ブルーの肩見せのワンピースを来た。
ささっとメイクをして、髪を女性風にブラッシングした。
いつも、10分もかからないでやる。

美雪の前にいくと、美雪は目を丸くした。
「わあ、先生。綺麗。絶対女の人。」と言った。
「ありがとう。じゃあ、これから、お友達だから、
 あたしのことは、瞳って呼び捨てにして。
 そして、丁寧語はなし。お友達言葉。
 もちろん、二人とも完全女言葉。いい?」
瞳が言うと、美雪は喜んで、
「ええ、いいわ。」と言った。

瞳は、美雪を居間のドレッサーに座らせ、
瞳のために買っておいた洋服一式をピアノの上に置いた。
「ズボンをぬいで、ショーツを履くの。」
瞳は、そのようにした。
思った通り、美雪の脚は、白くて、真っ直ぐに長かった。
そして、すね毛が全くない。

「できたわ。」と美雪。
「美雪、ショーツをこうやって履くと、女の子に見えるのよ。」
「わあ、ほんどだ。女の子みたい。」
美雪は、男の証が股間にかくれた履き方に感激していた。
「はい、ブラよ。一人でやってご覧なさい。」
「できました。」
瞳は、ブラの中に、専用のパッドを入れた。

美雪は、かすかに震えていた。
無理もない。はじめての女装だ。
「このスリップを上から被って。」
下着は、白に統一した。
「はい。これが、お姫様ワンピースよ。」
と瞳は見せた。

「わあ、すごく可愛い。」と美雪は、目を輝かせた。
半袖の白のワンピース。
大きく空いた胸元。
そこにピンクの丸い大きな襟がある。
ウエストの幅の広いピンクのリボン。
膝丈のスカート。
スカートの裾がピンクの布で縁どられている。

背中のファスナーを下ろして、美雪を入れた。
袖に両腕を通して、肩を通し、
背中のファスナーを上げる。
幅広のリボンを背中で蝶々に結んでできあがり。
「わあ~、ステキ。うれしくて、涙が出そう。」
美雪は、鏡を見て、目を潤ませた。

瞳はその背中にたって、
「長い髪のカツラを被ってみる?」と聞いた。
「ええ。うれしい。」と美雪は言った。
瞳はベッドルームから持ってきて、
美雪をストールに座らせ、
美雪の髪をネットでまとめ、前髪のあるロングのストレートのカツラをかぶせた。
後ろは背中まである。

瞳は、美雪に簡単なメイクをした。
お姫様タイプの美雪なので、ピンク系で、目蓋、眉の下。
美雪の白い頬に、ピンクのチーク。
睫をカールし、マスカラを少しかけた。
ピンクのリップを薄く。
すると、美雪の顔は一気に華やかになった。

最後に、大きな白いリボンのついたカチューシャを髪にさした。
出来上がり。

瞳は、まるで妖精のようだと思った。
ここまで、可愛くなるとは思わなかった。
これで、町を歩けば、だれもが振り向くだろうと思った。

「さあ、立って、全身を映してみて。」
瞳はそういって、ストールを横にどけた。

美雪は、鏡の中の自分に驚いていた。
『可愛い。これが、自分だなんて。うれしい。ああ、涙が出てくる。』
美雪はそう思っていた。
瞳が近づくと、美雪は、瞳の胸に顔を埋めて、
「先生…いえ、瞳、ありがとう。あたし、幸せで泣いてしまいそう。」
と言った。

「泣いてもいいわ。でも、アイメイクがとれるわ。
 今から、10分くらい、鏡でずっと自分を見るの。
 立ったり、座ったり、後ろも見るの。
 自分の姿を目に焼き付けるのよ。」
瞳は言った。
美雪が鏡を見ている間、瞳は、ピアノで、静かな曲をプレゼントした。

10分が絶って、瞳は、ドレッサーにいる美雪のところへ行った。
「美雪。こんなステキな女の子の美雪を、外の人に見せたくない?
 また、外のショーウインドウに自分の姿を映して見たくない。
 美雪は、男の子でいたから、外に出られなかったの。
 美雪の心は女の子。
 今は、心のままの姿をしているんだもの、何も恐くないわ。
 今のあなたの姿をみて、男の子だと思う人はいないわ。
 安心して。絶対大丈夫。
 外にパフェを食べに行こう?」
瞳の言葉に、美雪はうなづいた。
できると思えたのだ。

瞳は、美雪に、白の膝までのストッキングを履かせた。
バッグを肩にかけ、白い可愛い靴を履かせた。

二人で、ドアの前に立った。
息を吸った。
ドアを開けると、眩しい昼の光が押し寄せてきた。
「さあ、美雪、女の子として、デビューするの。」
瞳が言うと、美雪の白い靴が、外の廊下を一歩踏んだ。


(次は、「美雪の外出体験」です。)

美雪と瞳①「似た者同士・運命の出会い」

えー、女装場面をたっぷり書くつもりが、そうはなりませんでした。
読んでくださると、うれしいです。

==============================

「美雪と瞳」

一実(ひとみ)は、国立音大の2年生だった。
小学5年生のとき、ジュニア・ピアノ・コンクールで優勝し、
以来数々のコンクールに優勝し、将来を嘱望される音大生だった。

一実の家庭は裕福で、東京での生活費としてたっぷりの仕送りがあったが、
一実は、遊びで使うお金は、アルバイトで得たいと思った。
一実の遊びとは、女装であった。
女装熱のあまり、高校1年のとき、ネット販売で女性ホルモンを入手して呑み始め、
4年後の今、Cカップの胸と、豊なピップを得ていた。
病院にも自分から行き、血液検査も忘れなかった。



一実は、学生課でピアノの家庭教師の仕事を見つけ、
その家庭に向かっているところだった。

四月の清清しい風が吹いてくる。
一実は、ワイシャツにネクタイ。黒いスーツ姿。
ヒップがあるので、大きめなズボンを履き、
それを、スーツの上着で隠していた。
女装の趣味のため、髪をストレートに肩まで伸ばしている。
7:3に分け、目に髪がかかるため、
しょっちゅう髪をかき上げていた。

一実の教える生徒は、高校1年の男の子で、
本格的なピアニストを目指しているという。
だいたいピアノ教師を家に呼ぶというのは、
相当のお金持ちである。
しかし、本気でプロを目指すなら、高名な先生の元に通うのが普通だ。
それもしないでピアノの学生家庭教師をつけるのは、
きっと事情があるからだと思った。

もう一つ、一実が、その高校生に惹かれたのは、彼の名前である。
大塚実行と書いて、「おおつかみゆき」と読む。
「みゆき」とは、「美雪」の漢字を連想し、ふつう女の子名前だ。
一実も同じだ。「ひとみ」と読む。これも、「瞳」という漢字を連想し、女の子名前だ。

瞳(以後瞳)は、小さいころから、名前でずいぶんからかわれてきた。
しかし、「瞳ちゃん」と呼んでくれる女の子達が友達だった。
小さい頃から、女の子になりたいと思っていた瞳は、女の子の中にいる方が、
ずっとうれしく、居心地がよかった。
瞳は、顔立ちが可愛く女性的で、女の子達は、瞳を女の子扱いしてくれた。
瞳は、小学校時代は、自分を「ぼく」と呼ぶ以外、女言葉を使っていた。
何かされたとき、「いやん。」などという言葉が自然に出てくるほどだった。

一実は、大塚実行という子のことを、心では、すでに「美雪」とイメージしていて、
その名にふさわしい女の子のような可愛い子ならうれしいなと考えていた。

美雪(以下、美雪)の家は、予想通り、豪邸だった。
チャイムを鳴らして、エンタランスを行き、玄関に言った。
お手伝いの人が玄関を開け、入ると、そこに立っていたのは、母親らしき人だった。
「立原です。」と瞳は頭を下げて、そして、髪をかき上げた。
母親は、驚くほどの美人だった。

「どうぞ、居間の方へ。」と母親に言われ、案内された。
そこに、美雪が立っていた。
瞳の背は、163cm。比べて美雪は、155cmくらいで、
一見して、美雪という漢字のイメージにぴったりな子だった。
美雪は、髪を女の子のようなおかっぱにしていて、
母親に似て、目鼻立ちのすばらしくよい子だった。
高校1年と聞いたが、とても高校生には見えない。
透き通るような白い肌をしていて、
どうみても中学の2年生くらいに見えた。

玄関まで来なかったことを思うと、人見知りの子なのだろう。
瞳はそう思った。
ソファーに母親と美雪が並び、
瞳は、対面に座った。

瞳は、「これを。」と言って履歴書を渡した。
履歴書には、数々の輝かしい経歴は書かず、空欄にしていた。
タイトルで着飾っていない自分で行きたかった。

母親は、瞳の履歴書を見ながら、
「うちの実行(みゆき)は、できるならプロのピアニストにしたいと思っております。
 訳があり、高名な先生のところへ通うことができません。
 そこで、誠に失礼ですが、家庭教師の先生には、
 一度、演奏をしていただき、教えていただくかどうかを決めたいと思っております。」
と言った。
週1回1時間のレッスンで1万円であった。
家庭教師として足りる実力があるかをみるのは当然だと思った。

居間には、グランド・ピアノがあり、その向こうは花々の美しい庭があった。
「わかりました。当然のことだと思います。」
瞳は、言った。
母親は、聞いてわかる耳を持っているのだろう。
恐らくピアニストか、音楽に深く親しんできた人だろうと思った。

瞳は、ピアノの前に座り、「何を弾きましょうか。」と訪ねた。
母親が、美雪に、「実行、何がいい?」と聞いた。
美雪は、「『エリーゼのために』がいいです。」と迷わず答えた。
「エリーゼのために」は、初級の曲である。
幼い頃からピアノを習っていれば、小学5年生くらいで、弾けるようになる。
そういう簡単な曲を、テスト曲として選ぶ美雪に、
瞳は、惹かれた。この子は相当にピアノが弾ける。
やさしい曲ほど、ある意味その人の表現力が問われる。
この子はそれを知っているのだろうと思った。

瞳は、意気に感じ、ピアノのふたを開けた。
指を置き、やわらかいmpから入っていった。

居間にすばらしい演奏が流れた。

母も美雪も顔をほころばせていた。
演奏が終わり、瞳は、母親と美雪の方を見た。
母親は、拍手をし、
「立原先生には、うちのピアノでは足りませんわ。なんて魅力的な演奏だったことでしょう。
 実行はどう思った?」と聞いた。
「感激しました。ぼくもあんなふうに弾けるようになりたいです。」
美雪は言った。
「先生、履歴にタイトルが一つも書かれていませんが、
 とてもそんな方とは、思われません。」
母親が言った。
瞳は、これまで取ってきたタイトルをいくつか伝えた。
「まあ、そうでしたか。いい先生に来ていただけで、実行は幸せです。」
そう母の早苗は言った。

家庭教師の仕事は決まった。
二階の美雪の部屋に案内された。
広い部屋だった。
そこにもグランド・ピアノがあった。
「先生。この部屋も完全防音なんです。」
と美雪は言った。
「そう。せっかくボクがきたんだから、少しピアノで楽しもう。」
と瞳は言った。
「はい。」
「今一番弾きたい曲は?」
「ハンガリア狂詩曲2番です。」
「わあ、すごい。一人じゃ疲れるから、二人で、8小節ずつ交代で弾かない?」
「それ、楽しそう。じゃあ、始めはボクから。」
美雪は、重い音で入っていった。
美雪が、期待通りの生徒であることが、それだけで瞳にはわかった。

一つのピアノで、スムースに交代して弾く。
曲がどんどん進む。
追いかけるようなパート。
ねずみが逃げる。交代して、ネコが追いかける。
ジェットコースターのようなところを、見事につなぐ。
岩を踏んで歩くようなところ、
羽根のように軽ろやかに踊るところ、
左右が目まぐるしく交差するところ。

約10分の曲を弾き終えたとき、
美雪と瞳は、旧来の友人のように打ち解けていた。
「美雪君。すごい、まだ高1でしょう。すごいテクニックだね。」と瞳は言った。
「先生は、いつごろ弾けましたか。」と美雪。
「うーんと、中3くらいかな。」
「じゃあ、ボク1年負けてる。」
「伸びる時期って人それぞれだし。美雪君、才能があるね。人に聞かせる音を出せる。」
「ほんとう?」と喜ぶ美雪は、幼い少年のような笑顔をみせた。

30分の練習が終わるころだった。
美雪の首の後ろに、クモが下りてきて留まった。
「美雪君、首の後ろにクモ。ちょっと待って。」と瞳がいうと、
「いや~ん。あたしクモ一番ダメ。」
そう叫び、美雪は、首の後ろを払って、ピアノの椅子の後ろに隠れた。
そのあと、美雪は、今口走った自分の言葉に、はっと気づき、固まってしまった。

美雪は自分と同じだと、瞳は思った。
美雪は、椅子にもどって来た。
「先生。今のボクの言葉聞いちゃいましたよね。」
美雪は、少しうなだれていた。
「うん、聞いたよ。
 二通りの答えがあるね。
 美雪君は、本当は女の子。男の子の振りをしている。
 もう一つ。美雪君は男の子。でも、心は女の子。」
瞳はそう言った。

美雪は、考えていた。
「ボク、その後の方。
 だから、中2のときから、学校へ行けなくなっちゃったの。」
「高1っていうのは?」
「それは、通信制の高校に籍だけ置いてるの。」
「そうだったんだ。美雪とボクは、運命的な出会いだね。」
美雪は、きょとんとしていた。
瞳は、Yシャツのボタンを少しはずし、乳房を隠すナベシャツの胸のファスナーを下げ、
美雪の手を取り、隠してある乳房に触らせた。
美雪は目を丸くした。

「先生。女の人が男の格好しているの。
 それとも、男の人なのに、女性の胸があるの?」
「後の方。女になりたくて、女性ホルモンをずっと打ってきたから。」
「ほんと?わあ、うれしい。先生とボクは同じ?」
「うん。同じだね。ただ、ボクは運がよくて女の子達が友達になってくれた。
 美雪君は、多分、運が悪くて、女の子にも冷たくされたんだね。」瞳は言った。

「うん。そうなの。みんなにキモイって言われ続けて、嫌がらせされたし、
 友達は誰もいなかった。誰もボクをかばってくれなかった。
 死んじゃいたかったけど、ボクにはピアノがあったから、
 ピアノを弾いているときは何もかも忘れることができた。
 だから、一日中弾いてたの。」

「外には、出られないの。」と瞳。
「うん。外に出ると、恐くて脚がすくむの。不安の塊になる。」
「だから、外の先生に習いに行けなかったんだ。今まで、辛い思いをしてきたんだね。」
瞳がいうと、美雪の目に涙が潤み、美雪は、瞳に抱きついてきた。
そして、泣き始めた。
「先生に会えてうれしい。はじめて、ボクをわかってくれる人に会えた。」
美雪は、今までの辛かった気持ちを、すべて吐き出すかのように、声を上げて泣いた。
瞳は、美雪のこれまでの辛さが分かり、目に涙を浮かべた。


つづく(次回は、「美雪女の子になる」

全国高校生クイズ大会⑤「優勝、決定!」最終回

みんなは、拍子抜けした。最終を飾る5点問題としては、
あまりにも簡単に思えたからだった。

これは、中学入試の問題だ。何べんもやらされた問題だった。
天才君は、問題を見て、バカにするなと、1秒で線を描き、
パネルの裏に説明図を描いて、腕を組んでいた。
相棒に「優勝もらったぜ。」とほくそ笑んでいた。
他の学校も、5秒もかからず終えてしまっていた。
「これが、最後の問題?」という声もしていた。

ミユは、自分の頭に答えを出し、
「これで終わりね。天才君が間違えるわけない。」とリリに言って、はっとした。
そのとき、リリはだまって深く集中していて、いろんな情報を懸命に処理しているようだった。
リリに近寄り難いオーラを感じ、ミユは、そんなリリに惚れ惚れと見とれていた。
『リリ、ステキよ。』とミユは心から思った。

時間ギリギリに、「あたしが描いていい?」とリリはミユに聞き、
制限時間ギリギリに描きあげ、パネルを裏にした。
「全力でやったから、天才君と同じでもあきらめて。」とリリ。
「うん。もちろんよ。」とミユ。


司会
「はい、時間です。みなさんペンを置いてください。
 といっても、開明のA子さん以外、みなさんとっくに置いてましたね。

 実は、この問題は、30年ほど前、驚くことに中学2年生の男子が考えた問題です。
 当時、数学マニアの季刊誌「数学セミナー」に載り、大学教授から小学生まで、
 8000名の回答がよせられました。
 しかし、正解者がその中のたった50名しかなかったという、
 誤答率ナンバー1を記録した問題です。
 これは、数学マニア160人中1人、正解率わずか約0.6%の問題です。
 そこで、全国高校生クイズ大会の最終にふさわしい問題として、出題しました。
 この中に正解者がいれば、それは、大変なことであるといえると思います。

 では、これは、端から順に見せていただきます。
 となりの学校のを見ないでくださいね。

 では、ラメール高。」
ラメールがパネルを見せた。

司会「はい。×です。」
「えー?」とラメールの二人は叫んだ。
「どうして?」とパネルにかがみこむ。
司会
「次、神戸女子。」
神戸女子が見せる。
司会
「はい、×です。」
神戸女子も同じ反応。
司会
「では、1秒で答えていた灘川高。」
天才君が堂々と見せた。
「えー、面を展開図にして、AからBへ、直線で結んだ線です。」
天才君は、そう付け加えた。

女装  遥かなる想い


女装  遥かなる想い


司会「ううううううんん、灘川高×です。」
「えーー??まさかあ、これ、トンチ問題やありませんよね。」
と天才君は思わず立って叫んだ。

司会「違います。正規の数学の問題です。」
天才君は、パネルを見ていて、
「あ、しもた!どうして気づかへんかったんや。」
と言って、頭をかかえ、パネルに顔を伏せてしまった。
「開明もまちがえるかも知れへんがな。まだやで。」と相棒が言った。
「そ、そやな。俺がまちごおたんや。開明の女にできるとは思えん。
 できたら、あいつらこそ天才や。」天才君は言った。

「天才君まちがえたよ。」とミユが言った。
「うん、そうだね。」とリリは言った。
「リリのあってるの。」
「あたしの中では、これが最短なの。」とリリは言った。

緑陰も天才君と同じ答えで×。
女子学園も同じく×。
開明に来たところで、司会者は止まった。

会場は、しーんとして、物音一つなかった。
開明の応援団は、固唾を呑んで見ている者、
手を合わせて祈っている者、いろいろだった。

司会が来た。
「他の学校は、数秒で答えていましたが、開明さんは、ぎりぎりまでねばっていましたね。」
リリ。
「はい。道筋は分かったんですが、正しいかどうか、いろんな展開図を描いて、
 確かめていましたから。」
司会。
「全部頭の中で?」
リリ。
「はい。」

司会は前を向いた。
「さて、時間一杯考えたこの開明学園の答えで、優勝が決まります。
 さあ、灘川に初優勝なるか。
 代理とはいえ、驚くべき知識を披露してくれた、開明の連覇は続くのか。
 数学マニア0.6%の正解率に食い込めるのか、開明。
 運命の一瞬であります。
 では、オープン。」

リリは、パネルを出した。
 
司会は、しばらく黙って、目を見張っていた。やがて、 
「正解!!!
 開明学園 優勝!!」と叫んだ。

大スクリーンの裏表に、開明の答えが映し出された。

女装  遥かなる想い


みんなが、「ああ、そうかあ…。」と唸った。

二人の上に、紙ふぶきが散り、全員が立って拍手をした。

「校長、やりましたよ。あの二人。」と副校長が涙ながらに校長の手を握った。
「ああ、やってくれた。ハンデがありながら、堂々の優勝だ。」
校長も、涙を浮かべていた。

司会が、一端皆を沈め、問題の解説をした。

女装  遥かなる想い


「えー、開明学園以外の学校は、この図にあるここ、どの学校も同じ答えです。
 しかし、開明学園は、裏の面を通ってBに達し、展開図でごらんのように、
 わずかに近いのです。
 みんなのコースは、√45、開明のコースは、√41となり、最短です。

 それほどの、問題に正解した開明学園は、名実ともに、日本ナンバー1と言えると思います。
 優勝おめでとうございます!」

ミユは、リリを抱きしめた。
「ああ、リリ、あなたって人は。
 あたしの答えじゃ×だったわ。
 すてき、かっこいい。ワンダフル。」
とそう言った。

出場者は、みんな床に降りてきて、
まず、女子同士集まり、手をつないで喜び合った。
それから、互い握手を交わした。
天才君と握手をしたリリ。
天才君「考えたの、君か。」
リリ「ええ。」
天才君
「すごい。1回間違えてからなら大勢わかる。1回であの道を見つけるのは、ものすごい。
 君に完全に負けた。おめでとう。」リリにそう言った。
リリ
「ありがとう。」
みんな、それぞれ言葉を交わし、健闘を讃えた。
   
そして、2人は、応援団の所へ行って、
「みんな、ありがとう!おかげで勝てたよー!」
と挨拶をして、絶賛の声をもらった。
応援団の喜び方は、尋常ではなかった。
泣いている生徒もいた。

視聴率最高値72%。
番組としては、歴史的記録だった。
それだけの、人々が、二人の優勝に興奮し感動した。

逃げる時が来た。このタイミングだった。
優勝のインタビューに答えたかった。
しかし、止むをえない。
ミユとリリは、みんなが乱れ動く中、
うまくまぎれて、控え室に行き、着替えの袋をもった。
裏口で待っている、2台のバイクのドライバーの後ろに乗り、
ヘルメットをかぶり、「お願いします。」と言った。
雑誌や新聞記者が、待っている玄関付近を横目に、
裏道を突っ走り、新宿のゴールデン街へ連れて行ってもらった。

番組では、やっと授与式の準備ができた。
だが、ミユとリリの代わりに校長が立っている。

スタジオのドアに詰めかけていた報道人たちは、
「しまった!逃げられた。」
とそれぞれに言い、バイクや車に戻って、周辺を回ったが、後の祭りだった。



ゴールデン街の入り口には、なんの追っ手も来ていなかった。
「ありがとうございました。」
二人はお礼をいって、ゴールデン街の「ラーメン酒場」典子の店に駆け込んだ。

典子ママは、小さいテレビで加奈といっしょに見ていた。
「典子ママ、先輩お願いします。」
「きゃー、おめでとう、二人。」と加奈が言った。
「じゃあ、早く奥で、メイク落として。」とママが言った。
「加奈ちゃん、あの子達の先輩なの?」
ママはテレビを見ながら言った。
テレビでは、今、校長が代わりに症状や記念品をもらっているところだった。
「はい。」と加奈もテレビを見ていた。
「じゃあ、開明学園出てるの。」と典子ママ。
「はい。」と加奈。

素顔になったミユとリリは、木綿の地味なワンピースに着替えていた。
さっきとは一変して、かわいい普通の女の子になった。
「まあ、まあ、普通の可愛い女の子だこと。」ママはそう言って、
「今、オレンジジュース出してあげるね。」と言った。
「おめでとう。すごかったね。」と加奈が言った。
「それに、何?病膏肓。膏肓のこと、ミユは、なんであんなに詳しく言えたの。」ママが聞く。
「あたし、人体大好きで、もうマニアックなんです。」とミユ。
「でも、有名校のトップって、あそこまで知ってるのね。たいしたもんだわ。」とママ。

「アリの問題で、リリは、頭の中で、全ての展開図を検証していたでしょう。」と加奈。
「はい。わかりましたか。」とリリ。
「あのときのリリの表情、ステキだったな。」と加奈。
「そうだったんだ。だから、あんなに時間がかかったんだ。」とミユ。
「うん。まあ、そうなの。答えはすぐ出たのよ。でも間違いがあってはならないから。」とリリ。
「ま、二人とも、ばりばりの秀才ね。さすがの加奈も顔負け。」とママ。
「何言ってるんです、ママ。加奈先輩は、一昨年の優勝者ですよ。」とリリ。
「ウソ!あたしそんなすごい子を雇っているの?」とママ。

「でも、一つ、あなた達の方が上よ。」とママが言う。
「どうしてですか?」とミユとリリ。
「女装で出たこと。」とママは笑った。
「そうよ、うらやましくてたまらなかった。あたしもあんな格好したかった。」と加奈。
「そうですね。」とミユ、リリ。
と笑い声が店にこだました。

店は閉店にし、みんなでラーメンを食べながら、
夜更けまでわいわいと話し合った。



学校は、夏休みで、部活の生徒しかいなかった。
スクープ記者が、学校を張っても、暑い8月の毎日はきつい。
日が経つにつれ、話題性も薄くなる。
やがて、記者の姿はなくなった。

開明の代理として出た2人の女生徒は、
開明の生徒以外、永遠の謎となった。


<おわり>

※また、少し休んで次の作品に取り組みたいと思います。
 そのころ、また来てくださると、うれしいです。

全国高校生クイズ大会④「いよいよ5点問題に突入」

さて、ここは、静岡市のある家庭では、
リリとミユの家庭が集まって、ミユの家で二人の健闘を見ていた。
「ねえ、お姉ちゃん、けばくない?」
とリリの弟が言った。
「素顔を隠しているんだよ。お兄ちゃんってばれたら大変だろ。」
とリリのお父さん。
「初めの、故障による点を返上するなんて、
 うちの幸一も雅文君も度胸ですな。」とミユのお父さん。
「欲がないというか、バカというかですな。」とリリのお父さん。
「まあ、楽しみなことです。」
あははと、家族みんなで、楽しんでいた。



さて、会場は、全員がそろい、これから終盤の3点問題である。
3点問題は、4問である。

各学校がそろった。
司会
「さあ、これより、3点問題に入ります。
 ただ今、トップの灘川が30点。それを、素晴らしい追い上げをみせた開明が17点で追い詰めます。
 しかし、開明はこの3点問題を1つでも、落としますと、たった3問しかない5点問題で苦しくなります。では、問題行きましょう。」

アナ「次は英語の問題です。ネイティブの発音する英語の日本語を答えてください。」
ネイティブ「Circumstantial evidence(サーカマスタンシャル エビデンス)」
神戸女子が、反応。
司会「神戸女子」
神戸「状況による物的証拠」
司会「正解。さすが、英語につよい神戸女子。はい、3点追加。
   残り3問。」
アナ「『9』という数字を3つだけ使って、最大の数を表せ。」
司会「はい、開明、灘川。灘川が早い。」
灘川「9の9乗の9乗。」
司会「正解!さすが天才君。仮に10を3つでやればどうなる?」
天才君「はい。1の次に0が百億個並びます。」
司会「おそろしい数ですね。開明さん、同じでしたか。」
リリが、「はい。くやしいです。」と言った。

司会「3点問題あと2問。」
アナ「春は青、夏は朱色、秋は白、では、冬は何色?」
司会「はい、緑陰。」
緑陰「玄冬で黒です。」
司会「はい、正解。お見事!青春、朱夏、白秋、玄冬と言います。玄は黒の意味があります。」

司会「はい、3点問題の最後です。灘川に取られますと、16点差となり、開明の優勝は無くなります。」

会場の応援団の緊張は高まり、静まり返っていた。

アナ「坂本九ちゃんの歌『上を向いて歩こう』の歌詞の中で、幸せと悲しみは、どこにある。それぞれ2つ答えよ。」

ああ、悲しみがわからないとミユが思ったとき、リリがボタンを押した。
司会「さあ、開明、正解するか。」
リリ「幸せは、雲の上、空の上、悲しみは、星の影、月の影。」
司会「せーーーーかい、開明、優勝に首をつなぎました!」

開明の応援席は、どっと疲れて、椅子にへたり込んだ。
「ああ、体に悪いよ。俺、たまんねえ。」
「ああ、身がもたねえよ。」
みんなそう言ったいた。

「きゃー、リリ、助かった。幸せは言えても、悲しみは知らなかったよ。」
とミユがリリを抱きしめた。
「えへへ。昔のこと強いんだ。」とリリ。
「数学もすごいじゃない。」とミユ。
「うん。好きだからね。」とリリ。

このとき全国の視聴者も、はあーーーーと肩を落としていた。

「チーフ。おれ、もうダメかも。冷や冷やしちゃって、仕事忘れそうです。」
「番組としては、開明に勝って欲しいけど、俺、もうどうでもいい。
 何処が勝っても、立派なもんだ。」とチーフは言った。

時間が経った。

司会。
「いよいよ、5点問題に入ります。
 ただ今の得点。ラメール9点、神戸女子8点、灘川33点、
 緑陰10点、女子学園9点、開明20点です。

 5点問題は、3問しかありませんので、開明が全問正解しない限り優勝はありません。
 果たして、そんなことが起こるのか。楽しみであります。」

「校長、5点問題、全部ですよ。どうします?」と開明の副校長が言った。
「わしだって、聞いとるわい!」と校長は手に汗を握っていた。
恐らく、一番はらはらしているのは、校長かも知れなかった。



司会者が、腕を回して、上半身の運動をし、登場した。
「いよいよ、5点問題に移ります。さて、第1問目は。」

アナ「病膏肓に入る」といいますが、この「膏肓」の場所を詳しく説明せよ。」

ピンポンと灘川と開明が上がった。開明が早い。
「ミユ、お願い。」とリリは、心で手を合わせた。
ミユ「名医が下しようもないほどの体の奥。」
司会「詳しく説明せよ。そこまででは正解にならない。」
ミユ「初めの膏は、心臓下部の心外膜、次の肓は、横隔膜の胸腔側の漿膜です。」
司会「かーーーーーんぺきです!これは驚きです。まさか、ここまで答えてくれるとは。」

これには、全学校の応援団が皆総立ちになって拍手を送った。
競技者も、みんな立って敬意を表した。

司会はミユに寄ってきて、
「どうして、そこまで知ってるんですか。『心臓の下、横隔膜の上』で十分だったんですよ。」
ミユ「いえ、『もっと詳しく』といわれて、ついムキになってしまって、すみません。」
司会「謝ることはありません。もう、ほんとに驚きました。」

司会者はこのとき、回答者ミユの派手な外見の奥に、全く違う、知性的で謙虚で成熟した人格を感じ、
胸打たれる思いだった。

司会
「さあ、残るは、あと2問となります。ただ今驚くべき知識を見せた開明。
 次は、昔の唱歌の問題です。私には、正解者が出るとは思われません。
 番組スタッフ関係30人に聞きましたが、だれもできませんでした。
 恐らく、テレビをご覧のみなさまにも、正解される方は極少ないかと思います。
 やはり、5点問題の難易度でしょう。では、問題です!」

アナ「降るとも見えじ春の雨  さて、冬の雨は?」
全員ぽかんだった。校長までも。スタジオの誰一人わからなかったところに、
リリのピンポーン。
司会者は興奮し、
「まさか!開明高。」
リリ「聞くだに寒き冬の雨です。」
司会「この歌の題は?」
リリ「四季の雨です。」
司会者「おおおおおおお、ぴんぴんぴんぽーーーーーーーん。大正解!」

うおおおおおお・・・・と声が起こり、
これも、応援団総立ちで、スタンディング・オベージョン。
出場者も立って拍手を送った。

司会はリリに?
「どうして、この歌を知っていたんですか。」
リリ。
「祖母がよく縫いものをするとき歌っていました。私はそばで聞いていました。」

ミユの家。リリの祖母も来ていた。
リリの母が、「おばあちゃんの歌をリリが覚えていて、今すごい問題に答えたのよ。」
といった。
「そうかい。そりゃ、よかった。ああ、ああ、四季の雨だね。よく歌ってたから。」
と祖母は、ゆっくりうなずきながら言った。

司会者は言った。
「因みにこの歌を、近くの長寿会の方に知っているかどうか伺ったんです。
 そうしたら、40人の内たったお一人しかご存知ありませんでした。そこで、最高ランクの問題にしたんです。
 まさか、2世代も若い方から、正解者が出るとは、思いませんでした。」

司会
「さあ、5点問題の2つを制しました開明。
 次はいよいよ最終問題です。
 これで、優勝が決まります。

 最終問題はパネル問題で、ピンポンクイズではありません。
 そこで、現在のトップが灘川高で33点。次が開明学園の30点。
 開明の優勝は、灘川がミスをして、開明が正解の場合しかありません。
 灘川が正解すれば、開明が正解しても、灘川の優勝。
 灘川がミスをして、開明もミスをしたら、灘川の優勝。

 はい。最終問題は、数学の問題です。
 灘川のA君、数学オリンピックの入賞者の実力なるか。
 一方、数学を得意とする開明のA子さんの実力なるか、
 準備の間、しばし、ご休憩を。

みんなにジュースが配られた。

「リリ、数学だってさ。相手は、数学天才児の名を欲しいままにしてきた人よ。」
「あたし、いくら得意でも、天才君は厳しいよ。」とリリ。
「あたしたち5点問題2つとったんだよ。それだけでも、えらいよね。」
「うん。でも、勝ちたい。」
「あたしも。」
二人はそう言い合っていた。

「おお、チーフ、視聴率がとうとう70%にいきそうです。
 これ、奇跡ですよね。」
「ほんとだ。今日はスタッフ一同ビールで乾杯だな。開明が5点問題を2問とも取ってくれたし、
 見せ場もありすぎるくらいあったよな。開明はやってくれるよ。
 こんな感動的なクイズ大会、もう2度と拝めないだろな。
 あと1問あるけど、もう、俺十分だよ。」とチーフは言った。



時間が来た。
灘川と開明以外の学校は、みんな1点差でも第3位をねらっていた。

司会
「最後の問題は、これからパネルを配ります。
 いいというまで、描いてある図をみないでください。
 ペンがありますか。線を失敗したら、その線に×を描いてください。
 では、問題です。」

みんなにパネルが、裏返しに配られた。
観客には、スクリーンに問題が映される。

アナ
「パネルの図を見てください。
 机の上に、図のような直方体の箱型の木が置いてあります。
 今、アリが、図の頂点Aから、むこうの頂点Bまで、箱の表面を這っていこうとしています。
 アリがどんな道を行けば最短でしょうか。そのおおよその道筋を図の中に書き入れなさい。
 はいどうぞ。時間は30秒です。」

女装  遥かなる想い


みんなは、拍子抜けした。最終を飾る5点問題としては、あまりにも簡単に思えたからだった。
これでは、全員正解だ。それに何か意図があるのか。



つづく(次回は、「開明は優勝できるのか?」最終回です。)


全国高校生クイズ大会③「2点問題・リリの快進撃」

スタジオでは、お偉方も集まって、協議していた。
そして、3通りの方法を結論づけた。

やがて司会は、大きな声で言った。
「お静かに願います。
 方法は3つしかありません。どうか、ご静粛に願います。
 方法の①は、初めからやり直す。
 方法の②は、みんなの総合点の平均を出し、その点を開明さんの点とする。
 方法の③は、このまま行うです。

決めるのは、開明さんにお願いして、それで決定とします。

ミユ「リリ、考えるまでもないね。」
リリ「あたしもミユの考え。」

リリは手を上げてたった。
「私達は③を希望します。
 何が起ころうと、それは、兵家の常。
 私達は、全力を尽くすのみです。」

司会「あのう、いま、60問で、灘川高校に30点のハンデがあります。
   かまわないのですか。」
リリ「全力を尽くすのみです。」

司会「そう言うことになりました。」

そのとき、緑陰学園の応援席の前にいた一人が手を上げて立ち、マイクをもらった。
「私は、見ていたのです。
 これまでの60問、いつもいつも一番早くボタンを押したのは、開明さんなのです。
 そのうち×があったとしても、50点は、確実に取られていたと思います。
 その、開明さんが、0スタートでいいと言われるのは、
 他のどの方法をとっても、どこかに遺恨が残ると判断されたからだと思います。
 私は、その開明さんの高潔な精神だけは、皆さんに知っておいて欲しいのです。」
彼女はそう言ってすわった。

開明の応援団から拍手が始まり、そのうち全校の応援団が拍手をした。

今や、ほとんどの視聴者は、開明学園の味方になった。

「ああ、いいなあ。若いってことは。おれ、ちょっとじーんときた。」
ディレクタは、目頭を拭いた。
「ところで、ディレクター、今視聴率52%です。」
と、サブ・ディレクターは言った。

司会。
「では、気持ちを新たに、次は、2点問題です。
 映画、「三丁目の夕日」Alwaysが人気を博しました。
 これからの問題は、その時代にちなんだ問題を出題します。」

司会「では、61問。」
アナ「ザ・ビートルズのデビュー・シングルは?」
灘川「抱きしめたい」
司会「×」
緑陰「プーリーズ・プリーズ・ミー」
司会「×」
リリ「ラブミードゥー」
司会「はい、正解。」

アナ「1960年代、お茶の間に初めて登場した西部劇・・」
ピンポーン
司会「はい、灘川。」
灘川「ローハイド。」
司会「はい、お手付き1回。」
アナ、「そのローハイドの準主役のロディを演じたのはだれ?」
リリ「クリント・イーストウッド。」
司会「はい、正解。そのローハイドってのは何?言えたらあと3点。」
リリ「生の牛の皮という意味で、それを束ねて作った、牛をピシッと叩く鞭のことです。」
司会「正解!どうしてそこまで知っているの。」
司会者が寄ってきた。
リリは、「あたし、昔オタクですから。」と笑った。

司会「じゃあ、これは、開明A子さんも知らないだろう。できたら大変問題です。」
アナ「オーマイダーリン・クレメンタイン。クレメンタインの最後はどうなる?」
みんな、うつむいていた。
ピンポーン。
司会「はい、開明A子さん。まさか、知ってるの?」
リリ「崖から海に落ちて溺れ死にます。」
司会「正解!これは、驚き。」
司会「因みに、西部の男は、なぜ助けられなかった。言えたら、2点。」
   
リリ「はい、西部の男は、泳げなかったんです。」
司会「ピンポーン。いやあ、恐れ入ったなあ。これは、すごい。」

今まで、リリのあまりの快進撃に、見とれていたいた開明の応援団は、はっと気がつき、
おおおおおーーーーと声を出して、応援した。

「キャー、リリすごい!」とミユはリリを抱きしめた。

アナ「では、映画『男はつらいよ』のテーマソングの・・」
ピンポーン。
司会「灘川。」
灘川「山本直純。」
司会「×、お手つきこれで2回。」
アナ「テーマソングは、山本直純作曲ですが、作詞はだれ?」
ミユ「星野哲郎です。」
司会「ピンポーン。」
アナ「お星様、キラキラ。」表記上のミスはどこ。
女子学園「様をひらがなにする。」
司会「残念。」
司会「開明」
ミユ「キラキラは、ひらがなです。」
司会「正解。因みに何時習った?」
ミユ「小学1年生のときです。音がしないものはひらがなですって。」
司会「わあ、みなさん、1年生の問題だったんだよ。がんばろうね。」

アナ「先ほどの、きらきらやガタガタ、にこにこなど、擬態語、擬声語を合わせてなんといいう。
   カタカナで答えよ。」
司会「はい、神戸女子。」
神戸「畳み言葉。」
司会「あってるけど、カタカナじゃない。」
ミユ「オノマトピア」
司会「正解。」
司会「ここで、2点問題の終わりです。
   なんと、開明高校が、全問奪い、一気に17点です。
   3点問題まで、少し休憩を挟みます。



「チーフ、休憩の間も、視聴率がへりませんよ。」
「うん。こうなったら、最後まで見てくれる気だ。」チーフ。
「みんな、何処を応援してるんでしょうね。」
「きまっているよ。開明だよ。
 だって、30点開きがあった灘川にあと13点と迫っているんだぜ。
 初めは、あんな格好して、ひんしゅくだったけど、実力が第一だよ。
 それに、アクシデントによる点数をもらわなかったじゃないか。
 どこにも、遺恨が残ると思ってか。
 それを、緑陰の女の子が言って讃えてくれるんだもの。最高のドラマだよ。」とチーフ。
「これで、開明が勝ったら、表彰式まで引っ張れますね。」
「ああ、そんなことになったら、もう大変だね。」

ある家庭はこうだった。
父「おお、ローハイドか。うれしなあ。
 あんな、若い子が知っていてくれるなんて。
 父さんは、うれしいぞ。」
子「クリンス・イーストウッドなら、ぼく、知ってるよ。」
父「そうか。俺は、あの子を最後まで応援するぞ。

放送局の控え室で、灘川の二人は言っていた。

「32点のハンデがあったんやから、俺達、32点以上引き離さんと、
 勝ったて言えんやろ。
 それにしても、昔問題全部、やられてもたな。
 俺の好きな数学問題出んかなあ。」とA君。
「おれは、文系やから、そっちはまかしとき。」

女子の更衣室。
ミユとリリがジュースをのんでいると、
出場の6人が後ろにきた。
緑陰女子の一人が、
「あのう、ごめんなさい。あやまりにきたの。」という。
「え?なに?」とリリとミユがいった。
神戸女子の子が、
「大会が始まる前、A子さんが、『女子もがんばろうねー。』
 って気合かけてくれたのに、
 あたしたち、無視してた。あれ、お二人の見かけを見て、
 バカにしていたからなの。
 見かけで人を判断しちゃいけないのに、
 見かけで判断しちゃった。」と言った。
女子学園の子が、
「機械の故障でハンデがあったのに、それを辞退したり、
 あたし達がぐうの音も出ない問題に答えたり、
 あたしたち、見かけで人を判断してたことをすごく反省したの。
 許してくださる。」そう言った。

「そんなあ、あたし達見かけで判断されるような格好してるんだから当然よ。
 だって、私達、たいてい見かけで判断するよ。
 それ、悪いことだとは思わないけど。」リリは言った。

「そう言ってくれると、気が楽になるけど、とにかく、ごめんなさい。」
「ごめんなさい。」とみんなが言った。
「とにかく、あの灘川をやぶって。
 女子が日本一になったらうれしいから。」緑陰の子が言った。
「うん。がんばるね。ありがとう。全日本女子のためにもね。」
ミユとリリが言った。
休憩時間の、ちょっといい場面だった。
ミユとリリの心は温まった。


つづく(次は、「難関3点問題」です。)

全国高校生クイズ大会②「クイズ大会開始」

いや~あ、女装が、主人公の2人だけで、すみません。読んでくださるとうれしいです。

=============================

座席順に、正面舞台の左の袖に出場者は、並んだ。

自分達の場所に、デスクと椅子2つが用意されている。
司会の男性は、名のよく知れた人だった。
クイズ大会を盛り上げる言葉をがんがん飛ばしている。
「では、最初の出場高、ラメール学園どうぞ。」
ラメールの2人が出て言った。
同好の生徒達がすごい応援をする。

司会は、二人の特技を紹介する。
「A君は、漢字検定1級の秀才です。
 B君は、数学検定2級の実力です。
 では、ブースにどうぞ。」
2人は、一番左のブースに座った。
次は、神戸女学園。
二人は、英語と数学が大得意と紹介された。

次は、西の雄、灘川高校。
ひときわすごい拍手が起きた。
毎年、優勝候補の開明を脅かしてきた。
「灘川の今年は、天才君とその名前を欲しいままにし、
 数学オリンピックに入賞したてきたAくんがいます。
 B君も彼に匹敵します。」

その天才君は、以下にも前頭葉が発達した感じで、
みるからに賢そうだった。
「ミユ、あんな子がいるよ。」とリリが小声で言った。
「恐い。や~ね。」とミユはいった。

灘川の次は、緑陰学園。
毎年、40人もの生徒をT大に送り込む、恐ろしい学校です。
あの2人が、緑陰のトップ2かとみんなは見た。
次は、女子高2番手の名門女子学園。
緑陰を脅かす存在です。
最後に、開明だったが、司会者は、説明をした。

「次は、開明ですが、ちょっと説明いたします。
 実は、開明のトップ2が、そろって急病に倒れました。
 この大会は、トップ2を出すのが鉄則ですので、
 その倒れた2人に、他の学校でもいいから代理はいないかと聞きました。
 そこで、その代理のお二人が、開明を背負って
 戦ってもらうことになりました。
 開明は、この二人が負ければ、それは開明の負けと、
 そうはっきりと言っています。
 実は、その代理は女子なのです。
 そして、自分の学校には極秘で来ておりますので、
 身分がばれぬよう、少々、派手な格好をしております。

 では、開明代理のお二人どうぞ!」

司会者に言われて、ミユとリリが出ていくと、
会場が、おおおおおとどよめいた。
多分、全国の家庭が、おおおと見た。

赤と黄色の髪の毛だけで、十分目立つ。

チーフ・ディレクターの室では、ディレクターと助手で、
「あの二人の登場で、視聴率が、20から30に一気に跳ね上がりました。」
「おお、いいぞ。あの子達にがんばってほしいなあ。」とディレクター。

司会は、二人にマイクを向けて。
「えー学校は秘密ということで、でも、トップ2でいらっしゃるのですよね。」と聞いた。
リリがるんるん気分で、
「はい。女子部では、トップ2です。」と言った。
「女子部といいますと、男子部もあるんですね。」
「はい。」
「ちなみに、女子部は、何人…。」
「はい、あたしたち2人です。」
リリがそういったとき、会場のほとんどの応援の生徒が爆笑。
視聴している全国の家庭が吹き出した。

ここは、チーフ・ディレクターの部屋。
「おお、チーフ、今の発言で、視聴率が35%になりました。」
「そうか、いいぞ、いいぞ。やってくれるぜ、あの二人。」とチーフ。

司会は呆れて、
「あの、天下の開明が肩にかかっています。
 がんばってください。」
「はい、がんばります!」とリリとミユは、ぶりっ子をして言った。

ミユとリリが正直に言っていることを、開明の応援団だけが知っていた。
ミユと、リリは、正面の一番右のブースに座った。
分かればボタンをたたく。すると、赤い丸が飛び出す。

「では、第3回、全国高校生クイズ大会を始めます。
 では、問題Go!」

アナ「第一問、『怒り心頭に何?』
3つあがった。もちろんリユも押した。
司会「神戸女子」
神戸「達す」
司会「×、緑陰。
緑陰「発す」
司会「正解。」次。
アナ「『がんばるので、応援してください。』いい方のミスは。」
司会「はい、ラメール。」
ラメ「がんばりますので、応援してください。」
司会「正解。」

ミユが、「リリ、全部早く押してるのにさ。おかしいよ。」
リリ「ほんとだね。」

問題はどんどん進んで行った。
ミユたちはいくら早く押しても、名指してくれない。
自分達は、まだ0点である。

応援団の方々の学校から、嘲笑が湧いた。
「あんなチャラい女をよこすからよ。
 みて見ろ。あのバカ面をよう。開明は、これで、ドブンだな。」

江藤惇一は、気をもんでいた。
『ミユ、リリ、どうしたんだよ。あがっているのか。
 俺だって、これまでの全部できるよ。しっかりしてくれ。』
開明の応援団たちも、元気を失っていた。

全国の多くの視聴者も、開明を笑物にしていた。
「学力じゃだめだから、せめて、格好で勝負だったのか。
 格好だけはナンバー1だな。」
「あはははは・・・。」などと。

問題は、60問目に差しかかっていた。
その後、舞台では、大波乱が起きる。

61問目のとき、
「あのう。」とリリが手を上げた。
急いで、司会が来た。
「この台は、ボタンを押してからの反応が遅いのかも知れません。
 いくら、早く押しても、差してくれないんです。」
リリがそう言った。
司会「そんなことはありえないんですがね。ちゃんと押していますか。」
リリ「試しに、計っていただけませんか。」

「おお、今度はイチャモンかよ。」とどこからか声がした。

技術のスタッフが、すぐに測定器をもってきた。

そのとき、総合司会が、視聴者に事態の説明をした。

チーフ・ディレクターの部屋。
「おお、チーフ。今のもめごとで、さらに、40%突破です。大変な数字です。」と助手。
 おおそうか。こりゃ、最高だな。
 もし、機械のミスなら、さらに視聴率いくぞ!」とチーフ。

リリ、ミユの台を測定した技術は、顔面蒼白になった。
「0.2秒で赤丸があがるように設定されているのに、
 ここは、0.6秒です。これは、ハンデなんてもんじゃありませんよ。」
技術者はそういった。
そして、試しに残りの5台を全部しらべた。
残りは、0.2秒で異常なし。

これは、一大事だった。
総合アナウンサーが、この事態を告げると、視聴率が、45%を突破した。

苦情電話受付に、抗議が殺到した。
「局は、人を見かけで判断し、そんなからくりをして、彼女達を笑物にする気だったのか。」
「開明をおとしめるこれは、陰謀だ。
 もし、彼女が抗議しなかったらどうなっていたと思う。責任をとれ!」
「これは、只のクイズ大会ではないぞ。学校の名誉がかかっているんだ。
 わかってるのか!」
などなど。

ほとんどは、開明代理を養護する声だった。

「おお、もうすぐ視聴率50%を越える。ハプニングもドラマの内だな。」
チーフ・ディレクターはほくそ笑んだ。
「チーフ、我が局の失態ですから、自粛してください。」とサブ・チーフがいさめた。


つづく(次は、「『開明代理』の快進撃」です。)

全国高校生クイズ大会①「ミユ、リリ、試合出場決定」

「全国高校生クイズ大会」

7月の初め、開明学園校長室に、2人の訪問者があった。
一人は、TDS放送局のプロデューサーの押上。
もう一人は、企画部の森崎。

森崎が言うには、放送局毎年恒例の、「全国高校生クイズ大会」に、
今年も開明学園に出場してほしいとのこと。
全国生放送である。

条件は、高校2年生。学年でトップ2の2人。
この大会は、毎年開明が優勝している。

これまで、2つ返事でOKを出した校長は、
今年に限り迷った。
2年のトップ2と言えば、志村幸一、大野雅文だ。
しかし、あの二人は今、女子として通っている。
開明に女子がいることを知られるのはまずい。

また、あの二人は、GIDである。
それが、公になるのは、個人情報保護という点でまずい。
GIDが、知られなくても、あの二人は、美人で可愛い。
その二人が、開明のトップ2だと知れると、マスコミの引っ張りだこになるだろう。

校長は、一先ず話は聞いたとして、後ほど連絡すると言った。
TDSの二人は、いつも即OKなのに、今年は何かあるのか、と聞いてきた。
「ええ、まあ、本人の承諾を取らねばなりませんし。」と校長は答えた。

この「全国高校生クイズ大会」は、T大合格者数と同じくらい、学校の名を売るチャンスなのだ。



二人が帰った後、その日の放課後、
校長は、副校長、教務主任と相談した。
「3、4番を出したらどうですか。」と副校長が言った。
「だめです。3番の江藤は、期末テストの平均が、85点。
 比べて、あの二人は、98点ですからね。
 全国模擬試験でも、二人は、10番以内です。
 江藤らは、300番外ですからね。
 3、4番では、勝てません。」と教務主任は言った。
「志村と大野では、スクープ記者にねらわれて、フォーカスされるからな。
 あれだけの美貌だ。」と校長が言った。

そこで、3人は、志村と大野を呼んで、事情を話した。
そのうち、志村ミユが言った。
「開明の1、2番が、どうしても出場できなくなり、
 他の学校の女子だが、任せられる2人を代理として立てたと。
 この二人の学校名は、秘密ということにして、
 当日は、私服で、メイクを濃くして、素顔が分からないようにして出ます。
 そして、この2人が負ければ、そのまま開明の負けと考えてほしい。
 そういうのです。」
「開明より学力のある女子を頼んだと思われないかね。」と校長。
「大丈夫ですよ。全国女子高のトップ3も出るわけですよね。そのトップ2が出る。
 その6人は、全国女子のトップ6人ではありませんか。
 それ以上の女子を見つけることはできない道理ではないでしょうか。」
ミユは言った。
「じゃあ、全校生徒に口止めをせんといかんな。
 みんな母校のためだ。言わんだろう。」と校長。

「よし、その線で行くか。で、番組が終わる少し前に、2人は姿をくらます。
 その作戦も考えておこう。」校長。

TDSのプロデューサーに連絡をとった。
校長は、それ以外の方法では、出場できないと言った。
そして、代理の2人が、負けた場合は、開明の負けと考えてもらってけっこうと、それを強調した。

プロデューサーは、承諾した。
開明は、西の雄・灘川高と優勝を争ってきた。
出場高の中に、開明がなければ話にならない。
代理でも、開明を背負ってくる2人だ。
それで、行くしかないと思った。

「彼女達の素性が知れぬよう、私服で派手なメイクをして行くがいいか。」と校長は聞いた。
「かまいません。開明の実力を見せてくれればね。」とプロデューサーは言った。



大会は、7月25日(日曜日)。
学校の最終日の7月18日。
開明高校では、全クラス一斉の学級指導が行われた。
「出場の二人が、我が校の生徒であることを、絶対言ってはならない。
 もし、これがバレたら、あの二人は転校のはめになる。
 名前も言ってはならない。あくまでA子、B子と呼ぶこと。
 家族にもないしょだ。
 ここは、一切、開明の団結をもって、彼女達の守るのだ。」

各クラス、このように、二人の身分を全校一致で隠すことが、
何よりも大事だといい聞かせた。
生徒達の反応は、「ヨッシャー!」というものだった。

前日、二人は、黄色と赤の、ストレートのボブへヤーを見つけた。
そして、素顔が分からないほどの厚化粧を研究した。
目は、上下長い付け睫、アイライン、濃いシャドー。
赤い唇。濃い目のチーク。
「どう?」と二人顔を見合わせ、笑った。
「ケバイ、リリ、最高にケバイわ。」
「ミユだって、そのままクラブに出られそうよ。」

当日。自分達の部屋でメイクをした。
そして、花柄の少し膝上のワンピースをきた。
ミユはブルー系。黄色のかつら。
リリは、ピンク系。赤いかつら。

メイクを落としたときの着替えを一応紙袋に入れて行った。

5時に、
放送局のタクシーが来てくれていた。
そして、TDSへ。

会場には、ミユ、リリの同じクラスの生徒が応援として、
ちゃんと席が与えられていた。
出場の6校とこれは同じだった。
時間が来るまで、みな、廊下で待たされていた。

出場者は、簡単な機械の操作を教わり、
全員が見えるスクリーンの位置や、
イヤホーンの調子を確かめた。
全員、一端引き込んだ。

番組開始は、あと15分。
みんなは、控え室で待った。
女子の部屋は、全員が制服。
ミユとリリは、じろじろと見られた。
それは、無理もない。
派手な、ワンピース、赤いロングのボブ。黄色のボブ。
べっとりとした真っ赤な口紅。

「なによ、あいつら。」と声がする。
リリは、それを耳にして、
「みんな、今日はがんばろうね、女子力を見せちゃおう。おー。」
と気合をかけたが、だれも乗らなかった。


つづく(次は、「クイズ大会始まる」です。)

私立男子高「開明学園」のミユとリリ⑤「ミユの最後の言葉」最終回

えー、私の計算違いで、最終ページまで、普段の3倍の9ページもあることに気がつきました。でも、途中で切るところがなく、思い切って、一挙に投稿します。長い「最終回」ですが、読んでくださるとうれしいです。

===============================

次の日の放課後、ミユとリリは、担任のところに行き、
江藤と、友里のことについて、全てを話した。
そして、証拠となる、3枚のCDを聞かせた。

担任のN先生は、すぐに校長に話して、CDを聞かせた。
分かったと校長が言い、校長は女子学園園長に電話をし、
関係の全保護者と本人を開明学園に来てくれるよう要請した。
園長どうして、3枚のCDという証拠があることは、最後まで伏せて置くことにした。

集合の時間は、会議室、夜の7時だった。
校長は、保護者に、停・退学に関わる重要ことだと言ったらしく、
ミユとリリ以外の全ての親は、夫婦同伴で来ていた。
両校の副校長や教務主任も同席し、
総勢15人で、会議室は一杯になった。
女子学園園長は、少し太目の50歳代の女性であった。

ミユとリリの保護者は、地理的に遠く、欠席だった。

江藤と友里の親は、子供から何をどう聞いたのか、憤慨のようすだった。

校長は、挨拶をして、説明を始めた。
『えー、ここにいます、志村幸一さんと大野雅文さんですが、
 ご覧のように、性同一性障害(以下GID)があります。
 よって、戸籍上は男子ですが、学校としては、女子と見なしています。
 
 また、二人は、学業成績が大変優秀であり、1年生のときから、
 二人とも、学年で3位以下を取ったことがありません。
 大変な秀才です。
 
 このうちの志村さんに対して、
 学年で第3位をキープしています江藤淳一くんが、
 一昨日、女子学園高校で、成績が1番の女子ということで、
 立木友里さんを紹介しました。

 これより、志村さんから聞いたことを申しますが、
 会って二人は、カラオケにいき、
 志村さんは、友里さんから性的行為の誘惑を受け、
 「いやだ」と何度も拒んだにかかわらず、
 志村さんにとっては、体の最大の劣等感である、
 男子の証を露出され、そのまま性行為を受けたとのことでした。

 志村さんは、このことに不振なことが多く、
 もういちにち友里さんに会う約束をしました。
 そして、2日目も、カラオケに行きました。

 そこで、立木友里さんが告白したところによると、
 当学園の成績第3位の江藤淳一くんが、
 目の前のたんこぶである、志村さん、大野さんが仲たがいをすれば、
 成績ががた落ちし、自分が、第一位になれると企てたそうです。
 そして、立木友里さんを志村さんに誘拐させ、
 志村さんと大野さんの仲を引き裂くことを、考えたとのことです。
 以上です。
 では、友里さんからも、説明してください。

友里:
「私は、開明学園のトップの人に憧れていましたから、
 友達の江藤くんに頼んで、紹介してもらいました。
 そして、カラオケに行きましたが、
 そんなセッ・クスみたいなことは、何もしていません。
 二人で、おしゃべりして、歌って帰っただけです。
 そして、すごく気が合って、次の日も会いました。
 この日も楽しくさよならしました。
 そのどこがいけなかったのか、今、全然理解できません。」

校長「志村さんには、あなたを女子学園高校で成績ナンバー1と江藤君は紹介したそうですが、そんなことがありましたか。」
友里「いえ、成績のことなんて一切言っていません。」
校長「なるほど。何もなかったということですね。」
友里「はい。そうです。」

校長「では、江藤くんに説明してもらいましょう。」
江藤:
「ぼくは、志村君がいつも大野くんといっしょにいるので、
 少しは、友達の輪を広げた方がいいと思って、
 立木友里さんを紹介しました。
 それだけです。あとのことは何も知りません。」

校長「志村さんのGIDを知っていますね。どうして女子を紹介したんですか。」
江藤「それは、GIDの人は心は女子なので、女の子同士がいいかなと思いました。」
校長「江藤くんは、友里さんに、志村さんとのセッ・クスに成功したら、
   5万円のお礼をすることになっていると聞きましたが。」

このとき、江藤の父親が、怒鳴った。
「そんなことするわけないでしょう。なんの証拠があって言ってるんだ。」
校長「分かりました。ここは引きましょう。
  他に、お言葉のある方はいますか。」

立木友里の母親が手をあげた。
眼鏡をかけた、以下にもきつそうな人だ。
「なんですか、聞きますに、志村さんと大野さんは、
 休み時間も、口・づけをしているというじゃありませんか。
 そんなふしだらな生徒さんの言葉と、
 家の娘の言葉のどちらを信用なさるんですか。」

校長「では、立木さんは、カラオケにおいても、
   セッ・クスなどとんでもないというご意見ですね。」
立木「もちろんです。とんでもありません。」
校長「友里さん。カラオケでセッ・クスをしたことがありますか。」
友里「ありません。そんなこと一度も。」
校長「他に何かいい足りないことがありますか。」

一同、意見は出ず、シーンとなった。

校長。
「では、申し上げます。志村さん、大野さんは、
 性同一性障害という重篤な障害者であることは、
 ご承知いただきましたね。
 障害者は弱者と言えます。
 弱者である志村さんは、そのカラオケ店において、身を守るために、
 特別な道具を使わねばならなかったことも、ご理解願いたいのです。

 志村さんは、江藤くんから紹介したい子がいると言われたとき、
 大変な身の危険を感じたと言っています。
 何か大きな嫌がらせをされる。
 されたときの、自分の立場を守るものを携帯して行った。
 これは、障害者として、許されることです。
 これに、ご異存はありませんね。」

一同は黙ってうなずいた。

校長。
「志村さんは、友里さんに会うことになったとき、
 ある罠、あるいは陰謀を感じたと言っています。
 そこで、ボイスレコーダーを身につけて行ったのです。」

このとき、友里は、「ひー。」と顔を引きつらせ、
体を振るわせ始めた。
万事休すを悟ったのは、江藤より友里が先立った。

校長は続けた。
「そのボイスレコーダーの大事なところを、
 CDに焼いた物がここに3枚あります。
 ここに出てくる声の持ち主を否定されるなら、
 私達は、今から警察にいき、声紋の判定を受けながら行うことになります。
 いかがですか。このCDを信用されますか。」

警察に行くとは、だれも言わなかった。

このとき、江藤は、真っ青になりながらも、頭をフル回転させていた。
自分は、友里を紹介しただけだ。
友里が、カラオケで何をしたかは、俺の知らないところだ。
あくまで、しらを切ればいい。
友里が何と白状しようと、俺は、知らないを通せばいい。
俺の声は、ボイスレコーダーにはないのだから。
江藤は、そう思い、かすかな安心を得ていた。

校長は、しつこくいった。
「くどいようですが、あとから、この録音をしたこと自体が、
 罪にあたると言われるなら、
 私は、ただちに、すべてを警察に委ね、
 警察の判断で、録音の罪の可否を問います。
 そして、次に、録音の内容如何によって、
 お子さんは、警察に呼ばれ、刑法の罰をそれぞれ受けることになります。
 こうなれば、学校で内々に済ますことは不可能です。
 警察に呼ばれたら、その罪により、退学もあるでしょう。
 女子学園高校の園長先生、いかがですか。」

園長「はい、初めの志村さんのお言葉が真実なら、
   立木友里さんには、退学も考えられます。」

校長「さあ、警察に行きますか。それとも録音した罪は不問に伏しますか。」
校長は、畳みこんだ。

「ここで、聞きます。録音したことを、攻めたりしません。」江藤の父親は言った。
「はい、そうしてください。早く聞かせてください。」
との友里の母も言った。

CDのスイッチが押された。
友里は、すでに、涙目になっていた。
江藤は、「安心しろ。」と自分にいい聞かせていた。

第1のCDを、みんな静まりかえって聞いた。
その中の女の子の声が誰のものか、拒んでいるのが誰の声か。
火を見るより明らかだった。
友里の母親は、涙を流して聞いていた。父親は、うなだれていた。

続けて、全員は第2のCDを聞き始めた。

江藤と友里は、まさかと耳を疑った。
江藤の家で話している声だ。何で?どうやって録音された?
その疑問より、江藤は万事休すを悟るのに、5秒もかからなかった。
江藤は、目を見開き、恐怖に全身を振るわせた。

第2のCDは、こうだった。
**************************
「惇一、あたし、してやったよ。
 あいつヒーヒー声上げてさ、もっと、もっとって、
 もう、気が狂いそうだなんて、言いやがんの。
 もう、あたしの虜だってさ。」
「ほんとかよ。そりゃ上出来だ。」
「あいつ、男のくせに、あたしには、何もできないんでやんの。
 笑っちゃうよ。
 でさ、明日も会って欲しいって必死に頼みやがんのよ。
 結局、女を知らないオカマってとこね。
 一度、女の味、覚えたら、もうころりだよ。
 これで、あと3回くらいヒーヒー言わせりゃ、
 女から離れられなくなるってことね。」

「お前、あいつに惚れるなよ。」
「まさか。あんな女みたいなヤツ、キモイだけよ。
 あいつ、女物のショーツ履いてやがんだぜ。あたし、ぞっとしたよ。
 惇一、あいつを落としたから、約束の5万円ちょうだい。」

「まだだ。明日、もう一回やって、アイツを完全に落としてからだ。」
「いいよ。明日は、よがり泣きさせてやるよ。」
「あいつが、もう一人のオカマと喧嘩別れすりゃあよう、成績はがた落ち。
 学年3位の俺がトップの座に輝くってわけよ。」
「明日で、片がつくよ。この友里様の腕を信じてよ。」
******************************

3枚目を聞くまでもなかった。
2枚目を聞き終わり、江藤の父親は、惇一を平手で何度もひっぱたいた。
叩きながら、泣いていた。
友里の母親は、会議室のデスクに泣き崩れた。
友里はうつむき、体をぶるぶると震わせていた。
江藤は、叩かれた後、全てを観念したようにうつむいた。

校長は大声で言った。
「みなさん、席についてください。」
泣いているものも、一応静かになった。

校長「みなさんに、わかっていただきたいことがあります。
 2番目のCD中での、友里さんの言い様。
 全国でナンバー1の女子私立校の生徒である立木友里さんでさえ、
 あそこまで志村さんを蔑んだいい方をしているのです。
 この障害のある二人が、これまで、どれだけの蔑みの声を聞いて来たか、
 ご想像願いたい。

 だから、二人は、お互いに支え合い、励まし合って、ここまできたのです。
 そのかけがいのない二人の絆を、引き裂こうとすることは、
 どれだけ残酷で冷酷な行為であるかを、考えていただきたいのです。
 車椅子で下り坂を恐る恐る下っている人を、後ろから蹴り飛ばす行為に似ています。
 友里さん、江藤くんが、罠を仕掛けた相手は、
 世間のから差別的な見方をさんざんされてきた障害者だということも考えてください。
 性同一性障害というのを、みなさん、ご想像願いたい。
 どれほど重篤な障害であるかをです。」

校長。
「立木さん、二人が休み時間にキ・スをしていることと、
 あなたのお嬢さんと比べて、どちらが、恥ずべき行為をしていますか。」

立木の母は立った。
泣きながら語った。
「キ・スは誰にも迷惑をかけません。それは、風紀上の問題です。
 比べて、家の娘は、犯罪を犯しました。志村さんを誘惑したとありましたが、
 私から見て、誘惑を越えて、レイプです。
 誘惑は、相手もある程度のその気がある場合のことです。
 しかし、志村さんには全くその気がなかった。

 志村さんは女性です。そのご本人がもっとも恥ずかしいと思っているところを、
 無理矢理露出させ、性的暴力に至った。
 レイプは、国によっては、死罪や放火の次にランクされる重罪です。
 罪をつぐないきれません。
 せめては、娘を直ちに退学をさせ、一から倫理教育をしていきます。
 志村さん。両校長先生、誠に申しわけございませんでした。
 お詫びのし様もありません。」
友里の母は、深々と頭を下げすわった。
友里は母親がなんとか自分の弁護をしてくれるかも知れないと思っていただけに、
絶望感にうたれ、再び泣き始めた。

校長「江藤さん。事実をわかっていただくためには、
 やはり、証拠がなければだめでしたか。」
江藤の父は立って言った。
「お恥ずかしい限りです。我が子を盲信していました。
 これからは、そうはいたしません。
 子供の罪については、先ほどの立木さんと同意見です。
 しかも、息子は金を出して、他のお嬢さんに行為をさせようとしました。
 ここが、さらに罪が重いところです。なんの弁解の余地もありません。
 息子は、即、退学させ、明日から働かせます。
 息子のような人間は、この伝統ある開明学園に通う資格はありません。

 志村さん。今度のことは、本当に申し訳ありませんでした。
 また、両校長先生、誠に申し訳ありませんでした。」
江藤の父は涙を浮かべて座った。

校長。
「これで、ご両親のお言葉をいただいたのですが、
 最後の、被害の当人である、志村幸一さんの意見を聞きたいと思います。
 それを、聞いて、女子学園の校長先生とご相談の上、処分を決めたいと思います。
 では、志村さん。」

ミユは、立ち、デスクにそっと指を置いた。
リリは、ミユを見た。
不思議なくらい、平静な表情だった。
怒りも憎しみもなかった。
ミユの顔は惚れ惚れとするほど美しかった。
ミユは、静かに語り始めた。

「私は、『出来心』というものがあると思います。
 普段そんなことをしない人が、あるきっかけでやってしまう。
 今度の江藤くんも、友里さんも、その『出来心』だったのだろうと思ってます。

 江藤君は、普段クラスでは、私や隣の大野さんに、
 差別的言葉を使う人ではありません。
 ふつうに話し合って、冗談を言えるクラスメートです。
 それが、何かの『出来心』で、今回のようなことを考えてしまったのだと思います。

 立木友里さんも同じです。お母様がおっしゃるような、レイプなのではありません。
 そう、武道に例えるなら『試合』です。
 友里さんはGIDの私に女性のよさを分からせようと全力を尽くしました。
 一方、私は分かるものかと必死で抵抗しました。
 第1試合は、友里さんの勝ちでした。でも、第2試合もあり、そこでは、私の勝ちでした。
 二人は、引き分けだったのです。
 5万円がかかっていたようですが、
 試合の場で、二人は言わば真剣勝負をしたのです。
 そんな試合の最中、友里さんは、5万円のことなど心には微塵もなかったと思います。

 江藤君と二人のとき、友里さんは、私に差別的な言葉を使っていましたが、
 私は、友里さんの本心の言葉とは、思っていません。
 友里さんは、江藤君にうれしさを語りたいあまり、
 少し悪ぶり、普段使わないような表現を多発しただけだと思います。

 私は、私のクラスメートに、私が原因で停学や退学の人が出ることを望みません。
 友里さんにおいても、女子学園において、停学や退学になって欲しくありません。

 元は、『出来心』によるものです。
 失敗が許される学校時代であるなら、失敗すれば、正せばよく、
 それが、私達の心構えだと思います。

 そこで、私が被害者であるのなら、今回は、「不起訴」とし、
 二人には、なんのお咎めもないよう、お願いできれば、うれしいです。」

ミユはそう言って座った。

水を打ったように物音一つしなかった。

しばしの、沈黙のあと、女子学園園長が、大きな拍手を送った。
園長の目が潤んでいた。
開明の校長も同感だった。
『ありがたい。よくぞ言ってくれた。』と校長は思っていた。

校長は大声で言った。
「えー、女子学園園長先生の拍手は、志村さんの寛容な言葉に敬意を表するものと思います。
 私も、同感です。志村幸一さんの不起訴により、両者お咎め無しとしたいと思いますが、
 反対意見の方は、いらっしゃいますか。」

反対意見があるはずもなかった。

閉会となった。

副校長や教務主任がミユに固い握手をしていった。
そのうち、江藤惇一が来た。
惇一が床に手をつこうとするのを、ミユはやめさせた。
すると、惇一は、ミユの手を両手でとり、頭を下げながら、
涙をいっぱい浮かべていた。
「ありがとう。俺のしたことに対して、あんな優しいこと言ってくれて、
 俺、心から反省したし、感動した。俺もミユのような心の広い人間になりたい。ありがとう。」
惇一は、そう言った。
「次の期末、勉強で、がんばろう。」ミユは言った。

惇一の父親からも言われた。
「あなたは、すばらしい人です。このご恩忘れません。ほんとに、ありがとうございました。」
夫人といっしょに、深々と頭を下げた。

次に、友里が来た。
友里も目に一杯涙を貯めていた。
「あたしのやった悪いこと、あんな風に優しく言ってくれて、泣きながら、感動した。
 一生忘れない。あたしも、志村さんみたいに人を許せる人になりたい。」
友里の母も横に来て、
「志村さんって方は、何てすばらしい。心から感謝いたします。ありがとうございました。」
と言った。
お父さんも、涙ぐみながら、頭を下げて通っていかれた。

最後に、女子学園の学園長が残った。
横にいた校長に、
「うらやましいですわ。我が校のナンバー1は、志村さんに遠く及びません。」
そして、ミユに言った。
「もう、今日は、あたし、志村さんの最後の言葉で、
 地獄から一気に天国に来た思いでした。
 『不起訴にします。』とあのお言葉を聞いたとき、
 体中から感激が湧き立ちました。

 私にも、あの2人を許してやりたいという気持ちがあったのです。
 でも、どう許せばいいか分からなかった。
 うまい方弁が見つかりませんでした。
 それを、『出来心』と『不起訴』という2つの言葉、
 そして、立木友里の行為を『真剣勝負』と言って、許してくださった。
 本当にすばらしい。感動しました。」

校長が、言った。
「ほんとうに、そのとおり。許してやりたいが、釘はささんといけない。
 で、私は、脅し気味に釘を差しました。
 だか、差した釘をどう抜こうかと方法がわからなかった。
 それを、君は、見事許してくれた。感無量です。」

「それは、そうと校長先生。」と女子学園の園長は言った。
「これほど、女性である志村さんと大野さんに、男子の制服は、気の毒ですわ。
 開明は男子高校ですが、お二人には、女子の制服を着用させるべきです。
 そこで、我が校は女子高校なので、女子の制服のいいデザイナーがおります。
 この度のお礼と、今後のお付き合いということで、
 お二人に女子の制服をプレゼントさせてはくださいませんか。
 開明の男子服の形をある程度残すようにいたします。」
「そうですか。それは、ありがたい。私もどうにかせんといかんと思いながら、いままで…。」
校長は言った。

ミユとリリは、その話を聞いて、うきうきしていた。
「あの、私達、女子の制服を着られるんですか。」とリリが聞いた。
「そうですよ。けっこう優秀なデザイナーですのよ。
 この世に、2着だけの開明高校の女子制服です。」と園長。
わあ~い、と二人は抱き合って喜んだ。



それから、1ヶ月。季節は7月。
夏服になっていた。

白い丸えりの可愛い半袖のブラウスに、
膝上5cmの茶系のチェックのスカート。
胸元に、ぴっと決まった蝶のタイ。
紺のソックス。
ブラウスのポケットに、開明高校の刺繍が入っている。
受け取ったミユとリリは喜びに飛び上がった。

いよいよ、女子制服での初登校の日。
二人が、校門をくぐると、学校中の生徒に取り囲まれた。
「だれ?だれ?すげー可愛い。」
「女の子がどうしているの。今までいたか?」
「いねーよ。今日はなんだ?」
「え?2年A組?」
「A組かよ。すげー。」
「え?A組で、トップ2?!」
「え?なんだか、めちゃすごくねー。」
「なんで、女なの?」
「わかんねー。」

こうして、二人の周りには、いつも1年生~3年生までの取り巻きができるようになった。
だから、二人はできなくなったことがある。
それは、休み時間の木陰のキ・ッス。

「まあ、いいか。」教室からイチョウの木を眺め、ミユが言った。
「そうね。」とリリが言った。
「それより、ちやほやされて、うれしい。」リリが言った。
「うん。うれしいよね。」ミユが小さい声で言った。

下で取り巻きの声がする。
「早く、下りて来いよー。」
「今、行くねー。」と二人。

「ま、待てよ。お前らこのクラスだぜ。」2-Aの男子が言った。
「二人は、このクラスのもんだぜ。ここにいてくれよ。」とまた一人。
「ごめん、あたしたちすぐ飽きられちゃうから。今だけ。」

二人は校庭に手を振って、急いで階段を下りて行った。

気分はアイドル!


<おわり> 

(次回は、ミユ&リリの軽い続編「全日本高校生クイズ大会」を考えています。
 しばし、お時間を。)

私立男子高「開明学園」のミユとリリ④「友里、落とされる」

長々書きました。次回が最終回です。読んでくださるとうれしいです。

===============================

その頃、ミユとリリで、ミユが持っていたボイスレコーダーの音声を聞いていた。
「リリ、聞いてて。あの友里が完全にあたしを誘惑している声が聞こえるから。」
そこには、友里が求め、ミユが、拒絶を通している声がそのままに入っていた。
「これ、学校もって行ったら、この子、退学だね。」とリリは言った。
「まだ、足りない。友里がどうしてこんなことをしたか、目的があるはず。
 あした、友里に言わせるからね。」
ミユは、言った。



ミユは、午後5時に駅で会った。
時間的に二人とも制服だった。
二人は、近くのカラオケに行った。
友里は、今日こそは、と考えていた。
ミユは、友里の右側に座った。
友里が座る前に、ミユは、友里の上着をとって、
ハンガーにかけ、自分のもかけた。
「友里、バッグかけてあげる。」
「お願い。」と友里はミユにバッグを渡した。
昨日しかけたボイスレコーダーがちゃんとあった。
ミユは、さり気なく、ボイスレコーダーーを抜き取って、自分のバッグに入れた。

ミユは、昨日のように、もう一つのボイスレコーダーをかけONにして、自分のバッグに入れ、
バッグを目の前のテーブルに置いた。

「昨日してもらったから、お返しをするね。」とミユはいった。
「今日も、あたしがするよ。」と友里は内心あわてた。
自分がしなくては、相手をめろめろにできない。
「いいわよ。」ミユはそう言ってさっと友里のくち・びるを奪った。
友里ははっとした。
驚くほど上手な口・づけだった。
脳天から、電流が流れるようだった。
それだけで、下着をぬら・してしまった。
舌を絡ませた、のうこうな口・づけをした。
ミユは、それから、口・づけを頬に、耳たぶに、首筋にして、
友里のブラウスのボタンを二つ空けて、
胸に口・づけをしていった。

友里は驚いていた。
それだけで、すごいかい・かんが訪れる。
ミユは、ブラウスのボタンを全部開けて、ブラの周りを愛・ぶした。
友里はブラをはずされた。
ちぶ・さを下から、ゆっくりもまれ、
何度もくり返される。
『ああ、かん・じるたまらない。』
いつもしている江藤とは、比べ物にならない。
やっと、ミユの指が、ち・ぶさの先に来た。
はじめ吸われ、そのうち指で弾かれ、それから、指でくりくりともまれた。
「はあ………あ…。」と声がもれた。
もう、友里の下着は、透き通るくらいにぬれ・ていた。

体側や背中もあい・ぶを受けた。
そして、ミユの手は、友里のももの間に入った。
「あ………あ。」と友里はのけ反った。
『はじめて、はじめて、こんなステキなあい・ぶを受けたのは。』友里は心で言った。
ももをゆっくり、何べんもなでられ、
やがて、ミユの指は、もっとも感じる部分の周りに来た。
友里は、すでに、今日の自分の目的を忘れていた。

『あ…、何もかも惇一とちがう。惇一は、口・づけをして、
 ち・ぶさをもんて、そしてあそこに入れる。自分が終わったらおしまいだ。』

それに、くらべて、幸一は、女のされたいことを知り尽くしている。
こんな人と、毎日セッ・ク・スできたら、毎日がどれだけ楽しみだろう。

やがて、ミユの指が、とうとうスポットにかかった。
それだけで、友里は、悲鳴を上げ、のけ反った。
「すごい、すごい、すごい…。」と友里は感激していた。
ミユの指が少し動くたび、友里はのけぞり声をあげた。
あ…、あのか・い・か・んがやってくる。
「あ、あん、幸一さん、あたしだめ、イきそう、もうダメ。」
友里の体が、小刻みに振動してきた。
そのとき、ミユは、さっと手を引いて、友里に口・づけをした。
友里は、ショックだった。
あのまま、イきたかった。ああ、頭が狂いそう。
「お願い、イかせて、手を止めないで。」
「いいよ。」ミユはそう言って、また友里のスポットをあい・ぶした。
ミユが、また高まってくる。波が来るのがわかる。
ミユは、手をとめた。
「いやー、だめ、だめ、イかせて、気が狂う…。」
「じゃあ、正直に言ったら、イかせてあげる。」とミユ。
「どうして、あたしに近づいたの?」ミユの指はゆっくりポイントの周りをなでていた。
「それは…。」
「じゃあ、あたし、ここで帰るわよ。」
ミユは立ち上がろうとした。
「だめ。言う、言うわ。あたしが、あなたを誘惑して、あたしの虜にさせて、
 あなたと、リリっていう恋人を仲たがいさせるためよ。」
「それを、友里にさせたのは、だれ?」
「江藤よ。江藤は、学年3位だから、あなた達が、仲たがいすれば、成績も下がる。
 そうすれば、自分は1位になれるってわけ。」
「なるほど。で友里は、江藤の何?」
「一応、彼女。」
「この仕事で、いくらもらえるの。」
「5万円。」
「友里は、本当に女子学園の第1位なの?」
「それは、ウソ。300番くらいの下っ端よ。」
「わかった。約束通り、イかせてあげるね。」
ミユは、フィニッシュをかけて、友里を昇天させた。

友里が目を開けたころ、ミユは、制服を着ていた。
「まって、もう一度会って。幸一のことが忘れられない。
 お願い、これで、終わりにしないで。」
友里は、ミユの脚を抱きしめた。

「友里。君はわかってないね。ちょっと座って。」ミユはそう言った。
友里は上着を着けて座った。
ミユは言った。
「君は、まず、自分を偽り、私に近づいた。詐欺罪だよ。
 性同一性障害であるあたしを、誘惑した。
 あたしが、自分でみるのも嫌な、男の部分を、
 君はズボンからさらし、無理やり性的行為をした。
 あたしがずっと、やめて、やめてといい続けたのに。
 君は、障害者である私に、性的暴行をくわえたのね。
 わかった。」

「そんなの証拠がないじゃない。
 幸一が女の子とつきあいたいからって、
 江藤に女の子たのんだのかもしれないし。」
友里は、この期に及んでふてぶてしく言った。
「そうね。証拠は、ないかもね。
 じゃあ、警察か、校長室かで、そう言えば。」
ミユは、友里を残して外に出た。

『ふん、証拠がないっか。こっちには3つもあるのに。』ミユは心で言った。



家に帰って、リリといっしょに、2つのボイスレコーダーを聞いた。
リリは、とくに江藤の家での友里との会話に、完全に怒っていた。
「まあまあ、江藤に自慢したかっただけよ。」とミユは言った。

その日のうちに、二人で、ボイスレコーダの編集をした。
そして、重要な部分をとり出して、3枚のCDを作った。
1枚目は、友里がミユを誘惑していく過程。ミユはあくまで嫌だと言っている。
2枚目は、友里と江藤惇一の家での会話。(これが、決定的な証拠。)
3枚目は、友里が絶頂の最中、白状したもの。(これは、予備。)
     女子学園1位ではなく、300番くらいと言った内容も含む。


つづく(次は、「ミユの最後の言葉」最終回です。)

私立男子高「開明学園」のミユとリリ③「友里の攻撃」

カラオケのスクリーンをOFFにした。

「友里さんは、女子学園で、トップだって聞いたわ。
 すごいのね。」とミユ。
「幸一さんは、開明でトップなんでしょ。
 ものすごいと思う。」
「いつも、トップじゃないわ。友達といつも争っている。」
「すてき、いいなあ。」と友里が突然ミユの右手を抱いてきた。
友里のち・ぶさを感じた。
『あたしを、誘・惑する気かな。』とミユは思った。
「幸一さんは、女の子には、目もくれないって聞いた。」と友里。
「うん。まあね。恋人がいるから。」
「恋人って男の子。」
「そうよ。」
「ね、女の子も、悪くないわよ。試してみない。」
「だれと?」
「や~ん。あたしに決まっているじゃない。
 あたし、ずっと開明で1番の人に憧れてた。」
友里は、もう完全に胸を、ミユに預けて来た。
ここで、普通の男なら、即口・づけをして、抱き締めるところだ。
友里ほどの可愛い子はそうはいない。
「ね、女に恥じかかせないで。くち・びる頂戴。」
といって、友里は、身を乗り出してきた。
「困るのよ。あたし、オ△マよ。」
「いいの。」
そう言って、友里は、ミユの頬に手をかけて、
引き寄せ、口・づけをした。
くち・びるを離し、
「どうだった?」と言った。
『この友里という女は、自分に余程の自信を持っているな。』
とミユは思った。
『まあ、初回は、相手の好きにさせよう。』

友里は、口・づけのあと、ミユのジーンズのファスナーを開けた。
そして、手を入れてきた。
「何するの?」ミユは言った。
「いいじゃない。あたしのもいいわ。」友里はそう言い、
ミユの一方の手を、自分のスカ・ートの中に入れた。
「好きにさわってもいいわ。」友里はそう言った。
驚くことに、友里のショーツは、すでに湿っていた。

友里の手は、幸一の男の証を捕らえ、それをあい・ぶしはじめた。
ミユのそこは、ある程度大きくなっていた。
「友里さん、だめよ。あたしは、こういうの望まない。」
「そのうち、たまらなくなるわ。女もいいって思うわ。」
友里は甘い声を出し、服を抜いで、下・着姿になった。
そして、ミユにち・ぶさをさわらせた。
そして、ミユ自身が、どんどんぬ・れていった。
「だめよ。やめて。こういうの嫌なの。」ミユは言った。

ミユは、女の子がきらいではない。
ここまで、迫られると、感じ・てしまう。
友里は、すかさず、ミユのあそこをあい・ぶしてきた。
「友里さん、やめない?あたしその気ないったら。」

友里は、ミユのジーンズと女物のショ・ーツを下げた。
そして、口にミユのあそこをくわえた。
「ね、女に恥かかせちゃだめ。ここまでしてるの。
 おとなしく、私がするがままにされて。」
「だめよ、だめ!」ミユは、強く言った。
しかし、友里は止めない。

友里のこれだけのあいぶに、ミユは、とうとうイかされてしまった。
友里は、勝ち誇ったような笑顔を見せた。
友里の下・着は、ぬ・れていた。
自分からするだけで、友里は感じる子だ。
そうとう好きなんだろう。

友里の目的はなんだ。
ただ、自分と交わりたかっただけか。



ミユは、演技をした。
「女の子っていいね。
 あたし、完璧イかされちゃった。
 あした、また会ってくれない。
 なんだか、友里の虜になったみたい。」
ミユはそう言った。
「いいわよ。あした、何時に学校終わる?」
「5時には終わる。」
「じゃあ、5時に、幸一の駅の方で待ってる。」
「友里、学生証持ってる。」
「これ?」
友里は見せた。
女子学園の生徒であることは、まちがいなかった。
「もう帰ろう。目的果たしたでしょう。」とミユは言った。
「うん。あたしも用があるし。」友里は、そう言った。
「はい、バッグ。」ミユは友里に渡した。

そのとき、ミユは、友里のバッグのポケットに、
スイッチをONにした新たなボイスレコーダーを入れた。
友里は知らずに、バッグを持った。
友里は、上機嫌で手を振り、駅の中に消えた。



友里は、ボイスレコーダーに気づかぬまま、
アパート住まいの江藤惇一の所へ飛んで行った。
「惇一、あたししてやったよ。
 あいつヒー・ヒー・声上げてさ、もっとして、もっとって、
 もう、気が狂ってるみたいだったよ。
 もう、完全にあたしの虜だってさ。」
友里はそう言った。

「ほんとかよ。そりゃ上出来だ。」
江藤惇一は言った。

友里はさらに、
「あいつ、男のくせに、あたしには、何もできないんでやんの。
 笑っちゃうよ。
 でさ、明日も会って欲しいって必死に頼みやがんの。
 結局、女をしらないオ△マってとこね。
 一度、女の味、味わったら、もうころりよ。
 これで、あと3回くらいヒー・ヒー言わせりゃ、女から離れられなくなるね。」と言った。
「お前、あいつに惚れるなよ。」
「まさか。あんな女みたいなヤツ、キモイだけよ。
 あいつ、女物のショーツ履いてやがんだぜ。あたし、ぞっとしたよ。
 惇一、あいつを落としたから、約束の5万円ちょうだい。」
と友里。
「まだだ。あした、もう一回やって、完全に落としてからだ。」
と江藤。
「いいよ。明日は、よがり泣きさせてやるよ。」
と友里。
「あいつが、もう一人のオ△マと喧嘩別れすりゃあ、成績はがた落ち。
 学年3位の俺がトップの座に輝く。」
と江藤。
「明日で、片がつくよ。」友里は言った。

二人はそばの友里のバッグのポケットにボイスレコーダーがあることを知らずに、
じゃべり放題しゃべった。



つづく(次は、「友里、落とされる」です。)

私立男子高「開明学園」ミユとリリ②「ミユへの陰謀」

「たまに、なんて、ウソ。毎日考えているくせに。」リリは言った。
「あ…ん、リリさん、やめて。先生をいじめないで。」ミユが言う。
リリは、ミユのブラウスの胸のボタンをはずし、
ブラの中に手をいれている。そして、それをそっともん・でいる。
「先生。こんなことされるの好き?」
リリは、ミユの胸のふく・らみの先を、指でつまんだ。
「あ……ん、だめ。そんなことされたら、あたし…。」
「あたし…、なんなの?」
「言えないわ。」

「先生の綺麗な脚、さわっていい?」
「いいわ。」
リリは、椅子の位置を変えて、ミユの前にしゃがむ。
ミユは、きちんと固く膝をつけている。
リリは、ストッ・キングのミユの脚に頬ずりしたり、な・めたりする。
ミユのあそこは、もはや、タイトスカ・ートを持ち上げていた。
「ああ、先生のきれいな脚。あたし、うらやましい。」
リリはそういいながら、何度もミユの脚をなでる。
やがて、リリの手は、ミユのモモに入っていった。

「あ…ん。リリさん、だ・め。そこは、だ・め。」ミユは言う。
「いいじゃない?先生、いつもこうされたいって思っているんでしょう。」
リリの手は、とうとうミユの一番感じるところをとらえた。
「あ……あ。リリさん。よして。そこだけは、はずかしいわ。あたし女なのよ。」
「いいじゃない。女にこんな恥ずかしいものがあっても。」
リリは、ミユのそこをなでながら、ミユのス・カートを少しずつ開いていった。
ミユのミ・ニスカが横にピンと張る。
リリは、ミユの胸を吸いながら、ミユのあ・そこをそっと手であい・ぶして行く。

「あ…あ、いや、恥ずかしい、あたし、先生よ。」
「だって、先生可愛いから、こうしたいの。」
「あ…ん、リリちゃん、たまらない。先生に口・づけして。」
「いいわよ。先生感じてきたのね。」
「そう、たまらないの。」
リリは、ミユのくちびるにくちびるを重ねた。
キ・スのために、ルージュは、薄めに塗ってある。

リリのあいぶで、ミユの体が、小刻みに震えてきた。
「ああ、リリちゃん。先生だめ。あれが、きちゃう。ああ、だめ、だめ…。」
そういわれると、リリは、さっとミユのあいぶを止める。
「あ…ん、どうして?途中でやめられたら…。」
「もっとたっぷりやるの。」
リリは、ミユのち・ぶさの先をあいぶしはじめる。
ミユのあそこが落ち着いてくる。すると、またあいぶをはじめる。
「あ…ん。いやあ…あ。イやせて、イかせて、あ……あ、イっちゃう…。」
リリは、さっと手を離す。
「リリちゃん、だめ、やめないで、先生気が狂っちゃうわ。」
リリは、また、ちぶさをあいぶする。
ももをこすって、
3回目の、あそこのあいぶをする。
ミユは、もう半狂乱になっている。
リリは、ミユのブラウスを脱がせ、手を上に上げさせて、脇の下をなめた。
ミユが脇の下に弱いことを知っている。
ミユは、新たな刺激で、体をゆすって、かい・かんを訴えた。
リリは知っている。
じらすのは、3回だけ。
それを、過ぎると体力の消耗で、萎えてしまう。

「先生、もっと恥ずかしい格好になるの。」
リリは、ミユの脚を大きく開いた。
スカートが、上に上がってしまう。
「あ…、こんな格好恥ずかしい。あ…、いやあ…あ。」
「先生、言って。毎日こんなこと考えてるって。」リリが言う。
「ええ、ええ考えてるわ。」とミユ。
「リリが、欲しくて、たまらないのね。」
「そう、リリが欲しくて、毎晩自分で慰めてるの。」
「それ、エ・ッチじゃない。」
「そう、あたしは、エッチ。イン・ランなの。ああ、リリ、もう許して。」
そういうミユのあそこを、リリは口に含んだ。
「あ…、あ…、あ…。」とミユは、もだえる。
やがて、大きなけいれんが来て、ミユは下・半身を揺らして、
リリの口の中に、放・出した。



「リリったら、そんな可愛い顔して、3回もじらすんだもの。」
ミユは、洋服を脱ぎながら言った。
「今度は、リリよ。気が狂うほど、して上げる。」ミユは言った。

ミユは、ドレッサーのまえで、リリのお姫様のワンピースを脱がせ、
髪の飾りをとった。
二人とも、ブラをとった。
Cカップのあるち・ぶさが、少し下がった。
リリは、下がスカートになっているスリ・ップを着けていた。
ミユは、黒いスリ・ップ。

ミユは、リリをベ・ッドに連れていき、リリを寝かせた。
ミユのあい・ぶは、リリよりも濃厚だった。
スリ・ップをお互いにぬいだ。
スト・ッキングもぬいだ。
ホルモンを売っている二人は、はだかになっても、
女性体形だった。
抱き・しめると、脂肪がついた体は、どこも柔らかい。
これが、二人は、レズ・ビ・アンだという気持ちを高める。

「リリ、今日後ろやってほしい?」とミユが聞いた。
「うん。綺麗にして、クリームたっぷりぬってある。」とリリは言った。
リリの後ろから、ミユは重なって、
リリのある部分に、ミユの大きくなったものをそうにゅうした。
「あ……。」とリリは声をもらした。
リリをうつ伏せにして、そのうえにミユが重なっている。
ミユが体を動かすと、リリの体も動く。
それで、リリのあそこが、ベッ・ドのシーツに擦れる。

ミユは、これをされるのは、苦手だ。リリは好き。
リリは、女の子度が高いのだとミユは思っている。

やがて、普通のセッ・クスにもどって、ミユは、リリを3回じらし、
リリを半・狂・乱にして、イかせた。



6月の中ごろだった。
クラスで成績が3番目の江藤淳一という生徒が、ミユのところへ来た。
「あのさあ、俺の知っている女の子がさ、志村に会って話がしたいって言うんだ。
 開明の1番の生徒と話したいって。
 その子、女子学園のナンバー1なんだよ。」
「あの、女子の最難校の女子学園?」
「そう。頭もいいし、顔も可愛い。」
「あたし、女の子に興味ないわよ。」とミユ。
「お前がそういうヤツなこと話したんだけどさ、そんなの構わないって。」
ミユは、リリの顔を見た。
「おもしろいじゃない。会ってあげなよ。」そうリリは言った。
そこで、話がまとまった。

約束の日曜日。午後2時。
ミユは、男の格好をしていった。
リリと話したとき、これは、何かの罠かも知れないというので、
ボイスレコーダーをもって行った。
ミユは、ショルダーバッグにそれを忍ばせた。

駅につくと、すでに江藤が、可愛い女の子と待っていた。
髪の毛を背中まで伸ばした、美少女だ。
「幸一、この子だ。立木友里。」
「あたしは、志村幸一。江藤、この人にあたしのこと話してある。」ミユは聞いた。
「ああ、だいたいな。じゃあ、俺は行くから。」
江藤はそう言って、二人を残して行った。

休日なので、友里は私服だった。
赤いミニのスカートを履いて、白のサマーセーター。
そして、メッシュのベストを着ていた。
ミユは、ジーンズに、Tシャツを2枚重ねていた。
ブラを着けた胸の膨らみが、誰にも分かった。

「何処行く。」とミユは友里に聞いた。
「カラオケみたいなところで、二人だけで話したい。」と友里は言った。
「いいわよ。」とミユは、あえて女言葉を使った。

カラオケの2人用の部屋に入った。
友里は、ミユの右に座った。
ミユは、ここで、ボイスレコーダーをONにして、
バッグの中に入れ、さり気なくテーブルに置いた。


つづく(次は、「身を守るミユ」です。)

私立男子高・「開明学園」のミユとリリ①「男子高の生徒なの?」

休み中1作だけ書きました。5回くらいに分けて投稿します。
読んでくださると、うれしいです。

=============================

私立男子高・開明学園は、全国屈指の難関高で、
毎年T大学への合格者のトップを誇る高校である。
学内では、学業成績がよければそれでよく、
校風は極めて自由だった。
例えば、学園内で、男子同士で口・づけをしていても、
注意されることは、まずない。


志村幸一と大野雅文は、高校2年生。
昼休みになると、必ずイチョウの木の陰で、熱烈な口・づけをしている。
二人は、同じ中学から上がって来ていて、
中学時代からの仲である。
学校では、完全な女言葉を使い、
仕草や物腰、歩きからまで、完璧に女子であった。

この二人は、驚くことに、
開明学園2年400人の中のトップ2だった。
成績のよい順にAクラスから、Hクラスまである。
幸一と雅文は、そのAクラスのトップ2。
開明学園で、トップ2ということは、大変な秀才だった。

「あ・ん、ミユ、もっと強く抱・いて。」
雅文は、幸一のことをそう呼んでいる。
「ああん、リリ、可愛くてたまらない。」
ミユは、雅文のことを、リリと呼んでいる。
ミユとリナは、しっかりとだき・あった。

ミユは、前髪のあるセミショートの髪。
7:3に分けている。
身長168cm。
女の子のシャープな顔立ちだ。
美形である。
一方、リリは、162cm。
前髪のある肩まで伸びた内巻きボブヘアー。
おでこを少し覗かせている。
愛くるしいお姫様タイプの顔立ちで、
どう見ても、男子には見えない。

二人は、中学1年のときから、
性同一性障害の診断を受け、
女性・ホルモンを摂取して来た。
今、リリの胸は、Bカップを越え、
ミユは、Cカップあった。
二人は、制服の上着の上から見ても、
はっきりと胸のふくらみが見えた。
声も、変声期前にホルモンを売ったので、
女子の変声期後の声くらいであった。
おまけに、二人は、女声を出す練習をしてきたので、
二人の声を聞いて、男子だと思うものはいなかった。
体毛に関しても、声に同じ。

二人は、毎日ブラをつけ、
スリ・ップを被り、その上から男子の制服を着て通っている。
女性ホルモンで、ヒップに脂肪がついているため、
ズボンは、1サイズ大きいのを履いていた。
体育の時間は、ブラのまま、半袖のシャツとジャージを着る。
ジャージの上着を取ると、
ブラのラインと、ふくらみが完全に分かる。

初めの体育の授業のとき、A教諭は、
「君達二人は、完全に女子に見えるが…。」と言った。
「あの、あたし達は、性同一性障害で、ホルモン治療をしています。」
とミユが言った。
「なるほど、そうか。わかった。
 胸を打たないように、気をつけなさい。」
A教諭はそれだけ言って終わりだった。

授業が終わってトイレ休憩のとき、
ミユがリリのところへ来て、
「リリ、トイレ行こう。」
と誘う。
「うん。行こう。」
リリは言う。
二人は、両手をつないで、女子トイレに堂々と入る。
男子の学校なので、女子トイレは、誰もいない。
そこで、二人は、それぞれ個室に入る。
出てきたら、女子用の大きな鏡で、たっぷり髪型を整える。
その手つきも完全に女子であった。

二人が女子トイレに入ることに、誰も異議を唱えない。
二人は、男子の制服を着ているだけの、女子。
そんな感じがするのだ。

クラスでは、二人のことを、気持ちが悪いと思っているのが、
3分の1。
二人をなんとも思ってないのが、3分の1。
二人のことを、うらやましく思っているのが、3分の1。

この3分の1たちは、美少女そのものであるリリに対して、
だいたり、口・づけしたりしたいと思っているのだ。
この連中は、リリが近くに来ると、少し身構え、意識してしまうのだった。



5月の初めである。

やっと、7時間の授業が終わった。
「帰ろうリリ。」
「うん。疲れたね。」

二人は手に手を取って、校門を出る。
電車の中では、体を寄せて向かいあっている。
電車の揺れで、体がぶつかると、
「やん、ごめん。」
「ううん、平気。」などと言い合う。
その声も女の子だったので、
女の子が、男子の制服を着ているというのが、この二人の見られ方だった。

マンションのドアを開けると、二人の住まいだ。
二人は、地方に実家があるので、二人で3LDKのマンションを借りている。
開明高校には、そんな生徒が大勢いる。

ドアを閉めると、
「ああ、リリ。早く女の子になろう。」ミユが言う。
「うん。あたし待てなかった。
 男子の制服って、嫌よね。」とリリ。
「あたし、ピアノの先生になろうかな。」とミユ。
「わあ、萌えちゃう。じゃあ、あたしは、お嬢様風。」とリリ。

二人はシャワーにさっと入って、下着を身につける。
スリ・ップ姿で、二つ並んだドレッサーに向かって、メイクを始める。

ミユは、シャープな大人っぽいメイク。
美人系でセク・シーな女優のようになる。
リリは、可愛いお人形のようなメイク。
流行りのアイドルの中にいても、リリは、いちばん可愛いとミユは思う。

クラスのみんなは、ミユとリリをゲイだと思っている。
しかし、それは、違った。
二人は、女・装マニアでレズ・ビアンであった。
そういう意味では、典型的な性同一性障害とは違っていた。

ミユは、白いブラウスに、黒のタイトミニを履いた。
ももまでのストッ・キング。そして、黒のパンプス。
部屋の中でも履く。
リリは、バストの下が絞ってあり、そこからスカートになっている、
お姫様タイプのひらひらのミニドレスを着た。
脚は、膝上までの白いスト・ッキング。
ドレスのクリーム色に合わせて、頭に同じ色の花をつける。
オレンジの口紅。
可愛い先のまるまった靴。

「リリのその格好、クラスのみんなには見せたくないわ。
 何人か飛びついてきそう。」とミユが言う。
「ミユだって、黒のミニスカ、チョーセ・クシー。もうたまらない。」とリリが言う。

「ああん、待てないけど、紅茶だけ飲もう。」とリリ。
「そうね。」とミユ。

紅茶を飲んで、リビングのカーテンを引いた。

「ミユ、ショ・ーツをぬ・いで。」とリリが言う。
「いや・~ん。それだけでこう・ふんしちゃう。」とミユ。
ミユの男の証は、小指くらいに細く短い。
普段は、それをまた・に回してショーツを履く。
すると完全に女の子のショ・ーツ姿に見える。
しかし、こう・ふんすると、親指より太く長くなる。
一方、リリのそれは、親指くらいの太さだが、
長さが、1cmくらいしかない。
そこで、たま・たまを体内に入れて、ショーツを履くと、
ほとんど出っ張りがわからず、女の子の下・半身に見える。
ガードルを履くと、完全に膨らみは隠れる。

ミユは、リリに背を向けて、ショ・ーツをぬいだ。
親しいリリの前でも、これは恥ずかしい。
ミユの男の証は、すでに、この行・為で、親指より太く長くなっていた。

「ミユ、椅子にすわって。今日は、ミユは、あたしのピアノの先生。
 いいこと?」とリリがいう。
「あ…ん、思っただけで、興・ふんしちゃう。」
ミユは、キッチンのテーブル椅子に座った。
リリが、ミユの椅子の後ろに回って、
腕をミユの胸にかけてきた。
いい香りがする。
「リリ、香水つけた。」
「うん。」
「なんか、よく・じょうしちゃう。」

「先生。先生だって、エッ・チなこと考えたりする?」とリリ。
「そんなこと聞かないの。恥ずかしくて言えないわ。」ミユ。
「じゃあ、するのね。あたしから、こんなことされること。」
リリは、ミユのブラウスの上から、胸のふくらみを静かにも・む。
「ね、先生。言って。こんなことされること考える?」
「い、いえないわ。」
ミユのタ・イトミニは、座ると、もっと短くなり、
大きくなったあ・そ・こが見えてしまいそうだ。


つづく(次回は、『二人の時間』です。)
プロフィール

ラック

Author:ラック
上は若いときの写真です。ISなので、体は、かなり女子に近く発育しました。でも、胸はぺったんこです。戸籍は男子。性自認も男子、そして女装子です。アメリカの大学で2年女として過ごしました。私の最も幸せな2年でした。そのときの自叙伝を書いています。また、創作女装小説を書いています。毎日ネタが浮かばず、四苦八苦しています。ほぼ、毎日更新しています。
どうぞ、お出でください。

リンク
最新記事
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブロとも一覧

自己女性化愛好症

御中根 蕗菜 です

女装子動画 Japanese crossdresser porn

enma’s blog

瞳のセルフヌード

毎日が日曜日

女装子&ニューハーフのペニクリ&アナルマンコ

MadameM【秘密の手帳】

川*´v`*川し

復讐の芽 ***藤林長門守***

橙の電車
最新コメント
カテゴリ
月別アーカイブ
検索フォーム