小学校で好きだった女の子(純・小学5年生)②「純の告白」

その次の日も、その次の日も、
石炭倉庫うれで、小田原さんと会うことができた。
小田原さんが言う。
「純とこうやって、2人でいられるのも、あと少しだと思う。」
「そうだね。小田原さんは、あの二人とすぐ仲良くなるから。」
「純、今日が最後の日になるかもしれないから、
 今日、私の家に遊びに来てくれない。」
「あ、行く。今日ぼく塾(合気道)ないし。」



嬉しい約束だった。
私は学校から帰ったら、すぐに小田原さんの家に行った。
小田原さんは、家の外で待っていてくれた。
「純、入って。」と言われて、入った。
「お母さん、純ちゃん。」と小田原さんは、私を紹介した。
「純ちゃんは、可愛いね。」とお母さんに言われた。
お母さんは、私を女の子に間違えたように思った。

「純。私の女の子の服着て。」と小田原さんが言う。
「え?どうして…。」と私は言った。
「みんな知ってるよ。平さんの家で女の子になったでしょう。
 マドンナ達の家でもなったでしょう。
 だから、私の家でもなって。」と小田原さんは言う。
「うん、わかった。」
小田原さんは、赤いワンピースを出してくれた。
私はそれに着替えた。
小田原さんは、私を鏡の前に座らせて、髪から耳をだして、
首のところから、可愛いヘアバンドをして、上を蝶結びにしてくれた。

「ほんどだ。純は、誰が見ても女の子だね。」と小田原さんは言った。
私は、ヘアバンドが気にいって、心の中で喜んでしまった。



「おはじきしよう。」と小田原さんは行って、ルールを教えてくれた。
人ざし指は使わないで、親指だけでおはじきをはじく。
だんだん近づいて行って、最後にねらって当てる。
当てたおはじきが爪一つ分開いていれば、勝ち。
相手のおはじきがもらえる。
とってもおもしろい。

私はおはじきをしながら、ふいに言った。
「ぼく、4年生のとき小田原さんと席が隣になったでしょう。」
「うん覚えてる。楽しかった。」
「ぼく、そのときから、小田原さんが、一番好き。今も一番好き。」と私は言った。
小田原さんは、ふと、おはじきの手を止めた。

「ほんと?純は、マドンナの4人のうちの一人が好きじゃなかったの。
 1学期、毎日遊んでたよ。」と小田原さん。
「遊んでるのと、好きなのは別。ぼくは、ずうと小田原さんが好きだった。
 だから、石炭倉庫に小田原さんが来たとき、夢かと思った。」

「そうだったんだあ。」と小田原さんは、おはじきの手を休めて言った。
「私も、純のことが一番好きだった。だから、石炭倉庫に純が一人でいたとき、
 私も夢じゃないかと思った。」
「ほんと?」
「うん、ほんとだよ。」
「わあ、うれしいな。ぼく幸せだ。」
「純は、人気があって、あたしなんかは近づけなかった。だから、あきらめてた。
「ぼくも、小田原さんに言うきっかけがなかった。

「ああ、だったら、もっと純と遊んでおくんだった。」小田原さんは言った。
「どういうこと?まだ、6年生がのこってるよ。」
「あたし、2月に引越しちゃうの。」
「ええ?だったら、あと2週間しかないの?」
「うん。純と同じ学校にいられるの、2週間しかない。」
「それ、悲しい。」
「あたしも悲しい。」
「じゃあ、学校で、二人でずっとおはじきやって遊ぼう。」
「うん、そうしよう。」小田原さんは言った。



その日に、小田原さんの仲良し二人がやってきた。
「純、隠れてて。」と小田原さんは言った。

3人で、何か話していた。
そのうち、SさんとYさんが、小田原さんに頭を下げていた。
3人は仲直りをしたようだった。
Sさんも、Yさんも、小田原さんの部屋に上がってきた。
そして私を見つけた。

「あ、純ちゃんが、女の子になって、こんなところにいる。」とYさんが叫んだ。
「ほんとだ!」とSさんも。
「ナッチャン(小田原奈津子さん)すみに置けないんだから。」とYさん。
「ほんと、ほんと。」とSさん。

小田原さんとの二人だけの時間はそこまでだったけど、
私は3人が仲よしになれたことは、うれしかった。

その日、4人でおはじきに夢中になってしまった。
学校でも続きをやろうということになって、
私たち4人は、学校へおはじきを持っていった。
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小学校で好きだった女の子(純・小学5年生)①

私は、小学校の4年から6年まで、
いろんな女の子を好きになってきた。
でも、中で一人一番好きだった女の子がいる。
4年のときから、卒業まで、ずっとずっと好きだった。

私のクラスには、4人のマドンナがいて、その4人は、
勉強ができる、お金持ち、美人という3条件を満たしていた。

クラスのたいていの男子は、この4人の中の一人が好きだった。

4人のマドンナの次に、三人組の女の子がいた。
この3人は、3つの条件の内、1つだけ欠けていた。
勉強が普通だったり、特にお金持ちではなかったり。
でも、この3人は、3人とも美人だった。
中でも、S子さんは、美貌だけならクラスの1位だった。
クラスでとってもモテた男子、浜岡くんは、このS子さんが好きだった。

私の一番好きだった女の子は、4マドンナにはいなくて、
この三人組の一人、小田原さんだった。

私は小田原さんに、4年生のとき1度だけ席が隣になったことがあって、
そのときに、好きになってしまった。
小田原さんは、私の目から見て、クラスの誰よりも可愛いと思っていた。
性格もすごく優しい。
勉強はふつうくらい。家は普通くらいのお金持ち。



5年生の3学期。
私は、今までいちども味わわなかった気持ちを味わっていた。
中休みや、昼休み、どこにも遊びに入れなくなって、一人ぼっちになってしまった。

そのころ、男子の間では、「馬飛び」と言って、とても激しい遊びが流行っていた。
私は、その遊びに入れなかった。
今までも、激しい遊びが流行ったことはあった。
でも、私は、そばにいて、遊びには入らなくても、応援して参加していた。
でも、5年の3学期になって、自我が芽生えたのだろうか、応援だけの参加では、
自分が惨めに思えるようになってしまった。

その日の昼やすみも、男子が全員馬飛びをしに外にいった。
私は、それに付いていけず、教室の中にいた。
教室に一人いる私を見て、4人のマドンナは、声をかけてくれた。
「純、どうしたの?一人なの?だったっら私たちと遊ぼう。」

今までだったら、何の迷いも無く遊んでいた。
でも、私は「女の中に男が一人」とよく言われたからかい文句が心に浮かんで、
素直に「入れて。」と言えなかった。(今までは、気にしなかったのに。)

「うん、ありがとう。でもすることがあるからいいよ。」と断った。
こうして、教室で一人ぼっちになってしまった。
何か、しなくては。
私は、机の中から、図書で借りた本を出して、読み始めた。
早くチャイムがならないかな。
そればかり考えていた。
私は嫌われているのではなかった。
偶然一人ぼっちになってしまったのだった。



次の日も、同じような状況になって、
私は自分から先に教室を出た。
休み時間の間、一人ぼっちの自分を見られたくなかったので、
学校で、誰からも見られないところを探した。

そして、格好の場所をみつけた。
それは、石炭倉庫の裏。
誰もいない。
細い道になっていて、左右前後からも見えない。
コンクリートの側溝があってそこにしゃがんでいれば安心だった。
座りながら、回りの草を抜いたり、アリンコを眺めていたり、
時間を過ごすことができる。
誰からも見つかりそうもない、
その場所を私は好きだった。
私は、一人ぼっちだと同情されるのがイヤだった。

3日ほど、誰にも見つからなかった。
でも、女の子が一人、私のそばに来た。
「小田原さん。」
と思わず名を呼んだ。
私が一番好きでいる小田原さんが、一人で来た。

「純!」
と小田原さんも、驚いたようだった。
小田原さんは、私の横に来て、
スズメのようにしゃがんで、膝を抱いた。
小田原さんは、三人組みだった。
「あとの二人はどうしたの?」私は聞いた。
「ちょっと、気まずくなっちゃったの。」
「喧嘩したの?」
「うん、そんなもん。」
「仲良しの三人でも喧嘩するんだ。」
「うん。それで一人ぼっちになって、ここに来たら、純がいた。びっくりした。」
と小田原さんはいった。

「ぼくもいま一人ぼっち。男子の遊びに入れない。
 女子と遊ぶとからかわれる。前は平気だったけど、この頃気になる。」
「そうだったんだ。でも、ここに純がいてくれてよかった。
 あたし、今一人ぼっちじゃないから。」
「あ、それは、ぼくも同じ。小田原さんが来てくれて、一人ぼっちじゃなくなった。」

「あの二人と仲直りするまで、あたし毎日ここに来る。」と小田原さん。
「ぼくも、男子があの遊び、やらなくなるまで、ここに来る。」
「二人の秘密の場所にしようね。」
「うん、そういうの楽しい。」私は言った。

私はそのとき、一人ぼっちの淋しい時間が、
大好きな、小田原さんとの二人だけの時間になって、
夢のように、思っていた。


つづく

小林少年 (1970年 新宿)④「小林君との別れ」最終回

行方も分からず書いて来ました「小林少年」ですが、これで最終回です。

これまで読んでくださり、ありがとうございました。

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朝になって、喫茶店のモーニングサービスで、
トーストとコーヒーを飲んだ。
「じゃあ、あたしは、これから大学に行く。」と言った。
「え?純ちゃんは、大学生だったん?」と小林君が驚いていた。
「うん。あたし若く見えるから。」
「じゃあ、大学行って、詩を売って、ゴールデン街のホステスなん?
 すごいなあ。純ちゃんは。」
「アメリカへ行きたいから、お金貯めてるの。」
「ああ、そりゃええなあ。」と小林君は言った。

「ぼくも、がんばろう。純ちゃんに刺激された。」
「今夜の11時、新宿発でしょう?
 あたしの場所で、本を売ったらどうかな。この椅子使って。」私は折り畳み椅子を渡した。
「ありがとう。そうする。純ちゃん、大学終わったら来てくれる?」
「うん。行く。今日お店ないから。じゃあ、いくね。」
私は小林君に手を振って、喫茶店のドアをくぐった。



大学が4時に終わって、私は新宿に駆けつけた。
私がいつも詩を売っているところに行ってみて、
私は、「あれっ?」と声を上げた。
女の子がいる。もしかすると、小林君?
前髪があって、脇の髪が緩やかなウエーブでふわっとしている。
そして、毛の先が内巻きになっている。
こげ茶の長袖のワンピースに、長いメッシュのベージュのカーデガン。
その子は私を見て、
「やあ、純ちゃん。」と言った。
小林君だ。
「わあ、小林君、どうしたの?女の子になってる。」
「うん。純ちゃん言うたやろ。女の子になるには、前髪垂らしたらええて。
 今日、新宿の美容院行ったん。
 そして、前髪作って、うんと女の子に見えるヘアスタイルにしてて頼んだ。
 それから、服買って、下着もね、どう?純ちゃん。」
私はうきうきした。
「可愛い。抱きしめたくなる。もう小林君じゃないね。久美って呼ぶ。」
「女の子になって見ると、世の中違って見えるなあ。
 ぼく、男の子やおじさんから、ジロジロ見られよる。」
「可愛いからよ。女は見られる存在だからね。」
「悪ないなあ。」
「たまにイヤだけどね。」



それから、二人で詩を売った。
折り畳み椅子は、スカートの久美に貸した。
私は雑誌を座布団に。

若いサラリーマン風の人が、久美の本をしゃがんで見た。
「いい詩書くね。本も手作り?」と男の人が言った。
「はい。大変でした。」と久美。
「500円じゃ、安過ぎる。1000円出すよ。」と言って1冊買って行った。
「わあ、よかったね。」と私。
「初めて売れた。今までは、個人交渉だったから。」と久美は喜んでいた。

7時までに、久美の本は、3冊も売れた。
なんと、みんな男の人が1000円で買って行った。



私たちは、もう一度ハモニカ横丁で食べた。
「はい、お嬢さん、お待たせ!」と久美は言われていた。
「久美、おしとやかに食べるのよ。」と私は小さい声で言った。
「女は、不便やね。」と久美が言った。

今日は、ママのスナックの仕事が無い日だった。

久美と腕を組んで、新宿の街を歩いた。
「ぼく、この格好のまま、家に帰るつもり。」
「カムアウトするの?」
「うん。うちの家族、ぼくが女っぽいこと知っとるから。
 昨日、典子ママから、『完全な女装したくないの。』って聞かれたとき、
 やっと、隠していた気持ちに気が付いた。
 ぼくは、完全な女の子として振舞いたい。」
「あたしは、家族にはまだ言えてないけど、家族はもう知ってると思う。」
「学校でも、ぼくは、おカマキャラやから、髪型はこれで行く。」
「前髪を少し分けて、おでこ出すと、少し男っぽくなるよ。」
「うん。ありがとう。」



列車の時間まで、まだ時があった。
私達は、西口公園のベンチに座っていた。
「ここアベックが愛を語るので有名なの。」私は言った。
「聞いたことある。新宿西口公園。」と久美。
「のぞきでも有名なの。私たちのぞかれているかもしれない。」
「女同士に見えてるのかな。」
「だと、楽しいね。」と私は言った。

今日は私が男役の気分で、久美の肩に手を回していた。
「女の子になった気持ちや。」と久美が言った。
私は、久美にキスをした。
久美からも求めてきた。
久美の髪から、リンスのいい匂いがした。
久美が愛しくてたまらなかった。
「今日は、純ちゃんが男の子みたい。」
「うん、久美の方がうんと女の子。」
「純ちゃん。あたし、もう気持ちがたまらんようになった。」と久美が言った。
「楽にしてあげる。久美、ちょっとショーツを下げて。」と私。
「うん。」久美がスカートをつまんで、ショーツを下げた。

私は、もう一度、久美にキスをした。
久美が私に抱き付いてきた。
久美の心臓の音が聞こえた。
私はバッグから、小さなタオルを出して、久美のスカートの中に入れた。
そして、久美の熱くなったものを包んだ。
「あ。」と久美が小さく叫んだ。
私は、そっと手を動かした。

久美は私に抱きつき、頬を私の胸につけて、耐えていた。
私は動かす手を少しずつ速めていった。
久美は、抱きつく力を強めて、声を殺して、いやいやをした。
私は片方の手で、久美を抱きしめた。
「純ちゃん、もう、だめ…。」
「声を出さないで。」
「うん…でも…あ…あああん…。」
久美は、太ももを閉じて、体を硬直させた。
そして、体を激しく痙攣させ、果てていった。

タオルで綺麗にして、二人で身を整えた。

「純ちゃんの方はええの?」久美が聞いた。
「うん。久美が可愛かったから、それで十分。」と私は言った。
本当は、体が火のように熱くなっていた。



新宿駅11時10分発、大垣行き各駅停車。
紙袋とバッグを下げた久美が、列車の席に座り、
窓を開けた。
二人で、最後の時を惜しんでいた。
こんなときになって、いくらでも話したいことが浮かんでくる。
「純ちゃん、最高に楽しい2日間やった。」と久美。
「あたしも。久美、きっと有名になると思う。」
「一人でも二人でも、そう言うてくれる人がいたら、
 ぼく、幸せや。ありがとう。」
「あたしも、ありがとう。」

電車が、ゴトリとゆれ、ゆっくりと走り出した。

久美への愛しさがこみ上げてくる。
久美が、窓から身を乗り出している。
久美が泣いているようだった。
私も涙が出てくる。

久美が、行ってしまう…。

久美が手を振っている。
私も手を振った。

締め付けられるような胸を押さえて、
私は、小さくなっていく久美を見ていた。


<おわり>

小林少年(1970年 新宿)③「小林君との夜)

なんだか、だらだら書いてしまい、この③で終われませんでした。最終回は、明日にします。
読んでくださるとうれしいです。

===============================

店がオープンした。

いろんなお客さんが来て、ニューフェイスの久美に大喜びだった。
いろんな質問が飛び、
久美は、それなりに、なんとか答えていた。
ときどき、ぼくと言ったり、なまりが出るのがご愛嬌だった。
お店は、私たちの正面に鏡がある。
久美はその鏡を何度も見ていた。

お客さんが途絶えたとき私は言った。
「久美、今日私の部屋に泊まっていいよ。
 大垣に帰るの明日にすれば。」
「いいん?」
「お布団無いけど、寝袋があるから、それでいい?」と私。
「うん。そうする。ありがとう。」

久美はその夜、大人気だった。
若くて可愛い。
久美も楽しそうにやっていた。

11時半にママに合図をされて、
私たちは、小部屋に入った。
「ああ、もったいないなあ。せっかくの服を脱ぐんか。」と久美は言った。
「しょうがない、しょうがない。」と私は言った。



小林君は、ママに何度もお礼を言っていた。
ママは、バイト料として、小林君に2000円くれた。
「わあ、遊ばしてもろて、いただけるんですか。」と小林君は恐縮していた。
「ニューフェイスがいると、売り上げが伸びるのよ。」とママはウインクをした。
「今度きたとき、よかったら、今日のようにしていっていいからね。
 そのときは、ナナに連絡して。」ママは、そう言った。


外を歩きながら。
「純ちゃんが、男だなんて、夢にも思わんかった。」
「小林君も、ちょっと工夫すると女の子に見えるよ。」と私は言った。
「どんなふうに?」と小林君。
「例えば、あたしみたいに、前髪を下ろす。おでこって男女でちがうから。」と私。
「どんなふうに?」
「女の子はまるいけど、男の子は、角ばってて、絶壁。」
「はあ~、それ知らんかった。」
「顔に関して、小林君は、他は完璧。」と私。

「ぼく、今でも、純ちゃんが男やなんて信じられん。
 もう女の子やて頭に入ってしもうて、もう変えられん。」と小林君は言った。



私の部屋は、細長いビルの離れになっていた。
事務所跡なので小さい台所とトイレ、電話もあった。
母屋の方に家族がいる。
小林君は、家に電話をして、帰る日が一日伸びることを告げた。

小林君は、私の部屋をじろじろ見て、
「わあ、唐十郎と寺山修司が、全部そろうとるがね。」と言った。
「あたし、唐十郎にかぶれてるの。」
「純ちゃんの文体は、影響されてないね。」
「うん。まあね。」
「林静一とつげ義春もほとんど揃うとる。
 ぼくの絵、この二人に影響されとる。」
「うん、わかったよ。でも、小林君の文体は、だれにも影響されてない。」
「うん、詩だけわね。」

「純ちゃんの好きな詩人は、これじゃね。
 もう表紙がぼろぼろになっとる。金子光晴。」
「当たり。何度読んだかわからない。」
「ぼくもいろんな人の詩を読んで、結局金子光晴にもどった。」
「小林君も?それはうれしいな。」と私。
「ええよね。金子光晴は。」
「うん。最高。」

夜中の1時過ぎになっていて、
私は小林君に、寝袋を出した。
「こんなんでいい。」と私。
「ふつう、ぼく、駅で新聞紙敷いて寝るから、寝袋は、ありがたい。」
「パジャマ、あるよ。」
「いらんよ、このままで眠れる。」と小林君は言った。
小林君は、スーツの上と赤いネクタイをとって、寝袋に入った。

私は、さーとシャワーを浴びて、すぐに戻ってきた。
私はパジャマに着替えた。
ちょっと女っぽいパジャマ。



「じゃあ、お休み。」と言って、電気を消した。
この辺は、回りのビルの明かりで、部屋はうすら明るい。
私は小林君がいることで、すぐには寝つかれなかった。
でも、眠っている振りをしていた。

そのうち、気配がした。
小林君が、寝袋から出て、私の寝顔を見ていた。
私は完全に寝入っている振りをしていた。

小林君が、私の顔のそばに、顔を寄せてきた。
あ、もしかして、と思った。
「純ちゃん、かんにん。」と小林君の小さな声がした。
そのあと、私は唇に、小林君の唇を感じた。
そして、もう一回。今度は少し強めに。

私の胸はときめいた。
小林君の澄んだ心が伝わってくるようだった。
私は、ママのお店で可愛らしかった小林君や、
食堂で無邪気に喜んでいた小林君を思った。
小林君が限りなく愛しくなった。

「小林君。」と呼んだ。
「あ、ごめん。気がついとったん。ぼく卑怯なことしてしもた。」
「ベッドに来て。」と私は言った。
小林君が、恐る恐るベッドに来たとき、
私は、小林君を引き入れて、キスをした。
「小林君。抱いて。」そう言った。
「うん。」
小林君は、そう言って、私をそっと抱いた。
そして、今度は力強く。
「純ちゃん、柔らかい。ぼく女の子まだ知らんけど、純ちゃんみたいに柔らかいんかな。」
「小林君も柔らかい。女の子と同じ。」
「男同士だけど、いい?」私は聞いた。
「うん。男とか女とか関係ない。ぼく、純ちゃん好きや。」小林君は言った。

私は、起きてパジャマのボタンをはずした。
小林君も、Yシャツのボタンをはずした。
ズボンも脱いで、二人とも真っ裸になって、
毛布の中に包まった。
抱き合って、キスをして、二人の熱くなったものを、
お腹とお腹でこすり合わせた。

「純ちゃんのこと、愛しいてたまらん。」小林君は言った。
「あたしも、小林君が好き。」私も言った。
私たちは本能のままに、お腹をこすり合わせ、やがて、到達した。

お腹をきれいにして、下着をつけて、二人で抱き合った。
「ぼく、今感激しとる。純ちゃんと裸になって抱き合えるなんて。」と小林君は言った。
「あたしも。愛しいと思う小林君と、裸で抱き合えた。」
「幸せや。」
「あたしも。」
私たちは、抱き合いながら、いつしか眠りの中にいた。


つづく(明日、最終回です。)

小林少年(1970年 新宿) ② 「小林君の女装」 

私は、小林君と、小田急前を抜けて、
ハモニカ横丁へ入った。
小林君は、大感激。
「うわあ、ほんま、戦後の日本やね。闇市みたい。
 こんなところが、新宿に今もあるんか。」
「やすいわよ、なんでも。」
小林君は、きょろきょろと。私は行きつけのお店にまっすぐに。
その店に座った。
「わあ、天丼が200円やて。おばちゃん、天丼。」
「あたしは、玉子丼。」
「純ちゃんは、安いところで、さらに安いもん頼むんやね。」
「お金貯めてるから。」

2つの丼がきた。
「わあ、うまいがね。安うてうまい。こりゃたまらん。」
小林君は大喜びで食べた。

「ああ、ここ来ただけで、新宿来た甲斐があった。」と小林君がいった。
「ゴールデン街って知ってる?」
「知っとる、知っとる。そこも戦後の日本やろ。」
「うん。あたし、夜はそこでホステスやってるの。
 小林君、せっかく新宿見に来たのなら、
 あたしのお店来ない?」
「わあ、未成年が行ってもええの?」
「来年、18歳でしょ。いいよ。」
「それにしても、純ちゃんは驚くべき人じゃね。
 詩を売った次は、ホステスかいな。ステキやなあ。」



小林君と二人で、ゴールデン街の入り口にきた。
「ここから、ゴールデン街。」
「ほんまや。戦後の日本が残っとる。ぼく、こういうの憧れや。」
「まだ、時間早いから、案内するね。」
「うん。」
「ほら、あそこに人が立っているでしょ。
 あの人は男性。お客をとって、春を売るの。
 立ってる人は、全員男性と思ってまちがいなし。」

「わあ、あそこにもおるね。」
「夜になると、もっと増える。」
「怖い店ばかりじゃないのよ。
 この店は、文芸の好きな人が来る店。有名人も大勢来る。」
「そんな店もあるの?」

「うん。ここは、ミッキーの店。文化人が大勢来るよ。
 こっちは、ゲイバー。着流しのママがいる。ホモに近いかな。
 あっちのゲイバーは、女装の店。ママはすごく美人。
 ここは、純粋にお酒がのめるところ。
 一流のバーテンダーの人がやってる。

 あの店は、危険な店。ぼったくり。
 新宿でわざと家出娘みたいな格好した女の子が、
 ナンパされたふりして、連れてくるの。
 で、客をべろべろに酔わせて、女の子はトンズラ。
 10万円はとられる。女の子の分け前は、6万くらい。」

「女の子の分け前ええなあ。」
「そりゃ、警察も知って見張ってるから、体張ってる分多いの。」
「純ちゃん、よう知っとるね。」
「その家出娘みたいな子、うちの店にラーメンよく食べにくるから。
 ほんとにびっくりするよ。ど素人の雰囲気の子ばかり。」
「純ちゃん、これは、東京巡りよりすごいわ。
 ぼく、ほんと来た甲斐があった。」

「じゃあ、あたしのお店に入りましょう。
 うちのお店は、ラーメン酒場なの。
 ラーメンが食べられるのよ。」

扉を開けた。
「おはようございます。」と言った。
小林君を見て、
「いらっしゃい。」とママ。
「ママ、今日新宿で詩を売っている人連れてきたの。
 小林君。金の卵なの。」
「金の卵?」
「うん、すごい才能の持ち主。
 新宿を見に大垣から夜行で来た人なの。そして、今日夜行で大垣へ帰ってしまうの。」
「そう、じゃあ、ゴールデン街を見られたことは、いいわね。」とママは言った。

「小林君。あたし着替えなくちゃならないから、
 待っていてくれる。あたしここでは、ナナっていうの。」
そう言って、私は奥の部屋へ行った。
小林君はよく気の付く人で、ママに聞いて、お店の掃除や、
テーブル拭きをどんどんやっていた。

「小林君も、女装をするの?」とママが聞いている。
「いえ、ぼくは、ファッションとして、ちょっと女の子風に…。」
「完全に女装したいって思ったことないの。」とママ。
「それは…ええと…あります。」と小林君は少しうつむき加減で言った。
「新宿に遠くから見えたのだから、女装でもしていったら?」
「できるんですか?」と小林君。
「だって、ここは女装バーよ。」
「ええ?」と小林君は声を上げた。「誰がですか?」
「あたしもナナもよ。」とママ。
「え?ナナさんは、女性じゃないんですか?」
「ナナは、男の子よ。」
「うそー!!」と小林君の驚きの声。

そのころ、私は着替えを終えて出てきた。
今日は、ピンクのワンピース。襟やリボンが赤い色になっている。
私は、つけまつげを付けて、ちょっと厚めのメイクをしていた。

「純ちゃん、いえ、ナナさん。すごく綺麗や…。」と小林君が言った。

「ナナ、もう一つドレスあったでしょう。ウィッグも、下着も。
 小林君に女装させてあげて。」とママはいう。

「わあ、似合うと思う。小林君、可愛いし、小柄だし。」私はそう言った。



私は小林君に、上からしたまで、全部女性の下着を着せた。
小林君も私と同じ人種。すねの毛がほとんどない。
胸には、詰め物を。
そして、ストールに座らせ、顔にメイク。若く見えるよう薄めに。
でも、ピンクのルージュは、丁寧に。
小林君の自毛では、見飽きていてつまらないだろと思ったので、
前髪のある外巻きの茶のウィッグを被せた。

それに、下から上へと、ヘアバンドを回し。トップを蝶結びにした。
可愛い。私は、うきうきした。
ドレスは、黄色のワンピース。ペチコート入り。
それを着せて、立たせ、背中のファスナーを上げた。
白いヒールの靴を履かせた。
フランス人形のようだった。

小林君は、鏡に見とれていた。
「小林君。すごく可愛い。」と私は言った。
「びっくりした。これ、ぼく?信じられん。」
「小林君、女の子顔だから、簡単だった。」

小林君とカウンターにいったら、
ママが大喜びした。
「まあ、思った以上だわ。ナナより可愛いんじゃない。」
「ナナより若いんだもの。」と私。
「あ、名前考えなくちゃ。」とまた私。
「じゃあ、久美って呼んでください。初恋の女の子。」
「ぼく…いや、あたし、カウンターに立たせてくれるんですか。」と小林君。
ママが、
「その方がおもしろいでしょ。
 今日、久美は、ほとんど何もしないでいいから、立ってるだけでいいの。
 お客さんから、質問されたら、答えるだけでいい。」と言った。
私の初めもそうだった。

久美は、私とママの間に立った。


つづく

小林少年 (1970年 新宿)①「天才少年登場」

新宿に戻ります。今回はあまりストーリー性がありません。3回に分けて投稿する予定です。
読んでくださるとうれしいです。

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1970年。秋。学生運動も静まり、
新宿の小田急デパートの壁にはずらりと、
ネームプレート売りやブローチ売りの若者が並んでいた。
私は、そこにいては詩が売れないので、
駅構内の壁に小椅子を組み立てて座って売っていた。

黒のとっくりのセーター、黒のコットンパンツ。
そして、幼稚園の先生がかぶるエプロンをして。
エプロンは、ピンク地に赤いハートがたくさんちりばめられた模様。
それだけでも、女性に見えるのだが、
その日は、終わってすぐにママの店に行きたかったので、
ブラをして、詰め物を入れていた。

私のところから、少し体を動かすと、
ブローチ売りたちの様子がわかる。
私の詩と比べたら、女の子たちがいっぱい集まっていた。
ちょっとジェラシー。
私はいつも、一人ぽつんと売っている。

気が付くと、私の前に、お客がしゃがんでいる。
小柄で細い体にぴっちりとしたビロードのスーツをきて、
首に真紅の小さなネクタイをしている。
髪が私と同じように、ストレートに肩まで延ばしている。
違うところは、彼には前髪がない。
額が見えることで、彼はかろうじて男の子に見えた。
(前髪があったら、女の子だと思ったと思う。)
彼は、薄く白粉を塗っているようで、唇もうっすら赤くしていて、
水色のアイシャドウも、引いていた。
全体的に、女の子みたいで、顔立ちも可愛い。
彼は、カバーの無い肩からのバッグに本を10冊くらい入れていた。

「姉ちゃんは、なんで詩売っとるん?」と彼は少しなまりのある言葉で言った。
「そりゃ、自分で書いた詩、売れたらうれしいもん。」と私は答えた。
すると、彼は大きく反応した。
「そやろ、そやろ、それでええやろ。ぼくかてそうや。」
「そんな普通のことでどうかしたの?」と私は聞いた。

「ぼく、あそこのブローチ売りさんの一人にも、同じこと聞いたんや。
 そしたら、むずかしこと言うんよ。」
「例えば?」と私は聞いた。
「例えば、『現体制に迎合して生きるのいやだから。』とか。
 姉ちゃん、意味分かるか?」
「一応わかるけど。」
「続きがあるんや。そいつ、それを、コカコーラ飲みながら言うんや。
 コカコーラて、現体制の象徴やんか。それ飲みながら言うなよって。」
「言ったの?」と私はうきっとして言った。
「言わんかった。喧嘩になるもん。でも、あいつら、もう好かん。」
「でも、変なのはソイツだけで、他の人はちがうかもよ。」彼は少しはっとしたように、
「姉ちゃんおおらかやなあ。なるほどな。変なんは、そいつだけか。うん。わかった。」
と言った。

彼は、私の詩を見て、
「ちょっと見てええ?」と言った。
「あ、どうぞ。」と私。
彼は、私の詩集をいくつか読み、童話の序文を2つほど読んだ。
読んでいるときの彼は、すばらしく知的な顔をしていて、私は惚れ惚れして見ていた。
「純ちゃん、言うン?」と聞いた。
「うん。あなたは。」
「ぼく、小林少年。高校2年。」と言って笑った。
「少年探偵団?」と聞いた。
「あはっ。知っとるん?」
「もちろん。」
「純ちゃんの詩は、ええな。わかりやすい。
 ぼく、池袋の詩人さん達の見に行ったけど、
 何一つわからんかった。」と小林君は言う。

「うーん、あたし、仲間のことけなしたりできないから、
 なんとも答えられない。」と言った。
彼は、バッグから1冊の本を抜いた。
「これ、ぼくの作品を手作りの本にしたもんやけど、純ちゃんのNO.5の詩集と取り替えてくれへん。」
と小林君は言った。

「ちょっと待って、そんなに厚いのに。見ていい?」
私は1cmくらい厚みのある小林君の本を見た。
折り目が付かないように、丁寧に見た。
そして、目を見張った。詩と散文と絵があったが、
どの1つをとっても、ため息が出るほどにすばらしい。
天才だ…と思わず言葉がもれそうだった。
定価に500円とあった。

「小林君。定価に500円ってあるけど、
 あたし、10000円でも、買うかもしれない。
 小林君、普通の才能じゃないよ。」私は真顔でそう言った。
「純ちゃん、そないに言うてくれるんか。
 みんな、ぼくの本見ても見向きもせんかった。
 ぼく、悪ないか?」
「すごい。天才だと思うくらい。」
「やったー。ぼく、うれしい。」と小林君は、ジャンプして回った。
「あたしの詩集全部と、童話全部と、それに1000円出すから、
 交換しよう。」私は言った。
「プレミアつけてまで、買うてくれるんか。
 お言葉に甘えてええか。」
「うん。天才少年発見!」と私。続けて、
「せっかくのすばらしい本を、安売りしない方がいいと思う。
 せめて、500円を1000円にすべき。」と言った。
「うん、帰ったらそうする。」

「小林君は、ここの人じゃないの?」と私。
「うん、昨日大垣から夜行できた。
 そんで、今日11時の夜行で帰る。
 一回、新宿の空気吸いたかった。」小林君は言った。

「じゃあ、これから、ハモニカ横丁へ食べにいかない?」と私は言った。
「ハモニカ横丁…。なんかおもしろそうな名じゃね。」
「うん、戦後の日本を見るようだよ。」


つづく

エッセイ 『父の1枚の写真』

たまに、短いエッセイを書きます。読んでくださるとうれしいです。
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私は子供のころからの写真を、
見せてもたったことがありますが、
驚くことに、2歳くらいで、長髪でした。
で、そのころから、3歳、4歳、5歳と、
みんな長髪です。
我ながら、女の子にしか見えません。

親二人がよく許してくれたなあと思っていました。
当時、男子が長髪なんて、皆無に等しかったのです。
保育園のときも、先生同士が、
「あの子は、髪が長いですが、男の子ですからね。」
と言い合っているのを聞いたことがあります。
母が、保育園の職員室に相談に来ているのも見たことがあります。
きっと髪のことだなあと思っていました。

これでは、お店に行って「お嬢ちゃん」と言われるのは、当然でした。
顔がいくら男の子っぽかっても、髪が長ければ、
お嬢ちゃんと呼ばれて普通だった時代でした。
今で言う、スカートを履いていれば女の子、というのに似ています。

親は、私の髪を短くしようと何度も試みましたが、
私は、激しい抵抗をして、どうしても切らさせなかったそうです。
地域ナンバー1の不良中学へ入学するときも、長髪でした。

私のとくに父が、長髪や、私の女の子っぽい趣味に理解がありました。
あの時代、それは驚くべきことでした。

ところが、父に関する、そのヒントなるものを発見しました。
家にある、大昔のアルバムをみんなで見ていたときです。
白いワンピースを着て、白いつば広のハットの帽子をかぶり、
本を本でいる、父の写真を見つけました。
写真の下に父の名前が書いてあったので、わかりました。
それは、とても可憐な少女に見えました。

子供達はびっくり。
「お父さん、これ何?どうして、女の子の格好した写真があるの?」
父は、照れながら、
「う~ん、みんながおもしろいからといって、そんな格好をさせて撮ったんだよ。」
と言います。
しかし、姉は、
「でも、昔、写真って高かったんでしょう。お父さんのこんな姿に、
 よく1枚とったわね。
 それに、お父さん、この1枚を、大事にアルバムに貼って、
 今まで大切にしている。」
父。
「まあ、珍しいと思ってな。大事にとってある。」

私は、心で秘かに思いました。
お父さんも自分と同じだったのではないか。
女の子の姿をしたかった。
写真は、お父さんのその念願が叶った、何よりも大切な1枚だった。

だから、父は、私の気持ちを分かってくれる。
これからも、父は、ずっと私の味方をしてくれる。
それは、何よりもうれしい私の記憶でした。

水色のランドセル(純・小学3年生)③(完結編)

約束の8時ぴったりに先生が来た。
父は自営業でいつも家にいたので、父と母が会った。
私はその回りでうろうろしていた。

目黒先生は、深々と頭を下げ、
「この度は、純さんの性別を3ヶ月近く把握していなかったと言う、
担任として、あってはならないことをしてしまいました。
今日は、そのお詫びにあがりました。」と言った。

父は少しも怒ってはいなかった。母も同様。
「いや、先生。家の純の場合、間違って当然です。」と父は笑顔で言った。

「いえ、いただいた書類にちゃんと目を通していれば、回避できたことです。
 性別のところにちゃんと男子と書かれていました。
 純さんを見て、女の子と思い込み、その欄を見なかったことは、
 私の重大なミスです。誠に申し訳ありませんでした。」と先生は言った。

父は言った。
「いや、これは、全部先生の責任ではありません。
 男女共用である「純」という名前をつけたこと。
 水色のランドセルを持たせていたこと。
 息子の長髪を許していること。
 息子の容姿が女の子のようであること。
 これらは、親の責任ですから、先生の失態だけでは、ありませんよ。
 家の妻が、先生に、女の子に見えるけれど、男子ですと一言言えばよかったことです。
 こちらこそ、申し訳なく思っています。

 家の息子は、小さいときから、よく女の子に間違えられ、
 初めは、『ぼく男だよ』と言っていたんですが、そのときの相手の驚きの顔や、
 珍しいものでも見るような顔に、嫌気が差してきたんですね。
 それで、女の子に間違えられたら、女の子で通してしまう。
 その方が、奇異な目で見られずにすむ。
 だから、今度のクラスで、女の子たちから女の子として接しられたとき、『ぼく、男だよ』との一言が言えなかったんですね。」

「なるほど、それは、よくわかります。」と先生。
父はさらに言った。
「今度のことは、いろいろな条件が重なりましたよね。
 純という名前。
 水色のランドセル。
 黒赤なら、男女がすぐわかります。
 目黒先生のご方針が、男女に差別をされないこと。
 例えば、全員に『さん付け』をされること。
 朝礼の列を、男女混合にされていたこと。
 出欠簿を男女の配列にわけておられないこと。
 さらに、学校のトイレが男女共用であること。
 これらが、全部重なったのですね。
 これらのどの1つでも、欠けていたら、
 純は男の子だと分かったのでしょうね。
 珍しいくらいの偶然です。」と父はそう言った。

「は、それでも書類に目を通さなかったことは、完全に私のミスです。
 私は、日頃、思っております。
 学校で必要なことは、男女を分けるべきだと思います。
 しかし、必要もないことで、男女を分け過ぎていると思っています。
 出席簿にしても、男女を分ける必要があるでしょうか。
 朝礼に並ぶときも、男子列女子列を作る必要があるでしょうか。
 
 一つは、男女の差別をなくしたいという思いが私にあります。
 もう一つは、男女を不必要に分けることで、男子は男子、
 女子は女子との男女の意識を必要以上に募らせているような気がするのです。
 それを考えて、男女の垣根を少しでも低くしようとやってきました。
 しかし、そのために、今回のような、大失態をしてしまいました。
 今、自分の方針が間違っていたのかと、自信がややぐらついております。」
先生はそう言った。

父は、言った。
「私は、先生のご方針に全面的に賛成であり、支持していますが。
 先生のお考えは、10年も20年も先を行ってらして、
 こんな先生が、今いらっしゃるのかと、感激しておりました。
 体は男でも、心は女の子に近い子もいると思います。
 そういう子にとって、全員が「さん付け」で呼ばれることは、
 どれだけうれしいことでしょうか。

 普通の出席簿は、たいてい左側が男子で、右が女子です。
 そして、必ず、男子から呼ばれますね。
 あれも、男子尊重の名残ですよね。
 ですから、先生、純の出来事くらいで、
 先生のすばらしい方針を変えたりなさらないでください。

 職員室での風当たりもさぞ強かろうと思います。
 先生は、ご自分の信念で、常に闘っていらっしゃる。ご立派だと思っております。
 純の保護者が、全面的に先生に賛同し感謝していたと、校長先生にお伝えください。

 先生は、男子は男らしくしろとか、女子は女らしくしろなどと、
 決しておっしゃらなかった。それが、うれしかったと息子は言っていました。
 純、な、そうだろ。」と父に言われた。

「うん。3年3組は、男女いっしょにいつも遊ぶんだよ。
 女の子でも強い子は、男子をどんどんやっつける。弱くってもバカにされない。
 先生がそうしてくれたんだって、みんな言ってる。」私は言った。

先生は、頭を垂れて、ほろりと涙をこぼした。
「今日は、厳しいお叱りを覚悟で参りましたのに、
 逆に温かいお言葉をいただき、また、私を励ましてもくださいました。
 今、感激で胸がいっぱいです。
 ありがとうございました。」

そのあと、先生は父と、少しお話をして、意気投合し、
笑顔で帰って行った。

*   *   *

7月18日。
夏休みまであと2日という日。
クラスで、お楽しみ会が開かれた。
歌やゲームが終わって、班の出し物のときになった。
これは、有志で全部の班が出なくてもいい。
みんなは、机と椅子を後ろにやって、体育座りで見る。

私の班は、その頃流行っていた「キヨの大魔術」をやった。
いくつか小さな手品をやって、
いよいよ本番「人間空中大移動」というのをやった。
考えたのは、U子さん。
まず、クラス1のマドンナの石川さんと私が、5mくらい横に離れて立っている。
石川さんは、白い丸襟の青いワンピースを着ている。
頭に、ハットの帽子に赤いランドセル。
私は、半ズボンにTシャツ、頭に野球帽。
そして、水色のランドセル。

U子さんがいう。
「では、みなさん、これからこの二人が、空中で入れ替わります。
 よおくご覧ください。では、スタート!」

始めに、石川さんと私は、布団のシーツで幕のようにして隠される。

そして、黒子2人ずつの手伝いで、
私は急いでランドセルと服と帽子を脱いで、
ダンボールの箱に入れる。
石川さんも同じことをやっている。
そして、ダンボールの箱を黒子が取り替える。
やってきた石川さんの服と帽子、ランドセルを
黒子に手伝ってもらって素早く着ける。
(私は石川さんの洋服が着られてドキドキ。)

一方、石川さんは、私の服とランドセルと野球帽をかぶり、
私の姿になる。

U子さんは言う。
「では、二人は、空中で入れ替わりました。どうぞご覧ください。」
さっとシーツがとりはらわれる。

わあーとみんなの歓声が上がった。
ぱっと見二人が入れ替わったように見える。
笑い声とすごい拍手が起こった。

「純、かわいい。」「完全に女の子に見える。」「石川さんに似てる。」
「石川さんのこと、これから純って呼ぶ。」「石川さん、カッコイイ。」
いろんな言葉が飛び交った。
大魔術は大成功だった。
先生が大笑いしながら言った。
「いやあ、これには、まいった。だれが考えたの。」
「はーい、わたしでーす。」とU子さんが手を上げた。
先生は、
「多分、この魔術は、一生忘れられないな。おもしろすぎる。」
と拍手をした。
みんなも拍手をした。

私はリハーサルのとき、石川さんの姿になった自分を見た。
うれしくて、ずっと石川さんになっていたかった。

廊下で石川さんといっしょに着替えた。
「大成功で、よかったね。」と石川さんが言った。
「うん。ぼく、石川さんになれてうれしかった。」
「そうお、だったら、いつでも洋服着せてあげる。純、似合うから。」と石川さんは笑った。

お楽しみ会は、それから、みんなで歌を歌って終わった。
先生は、アコーデオンが上手だった。

あさってから夏休み。

私の転校初めの1学期は、楽しさいっぱいで終わっていった。



<おわり>

=================================

・先生が我家を訪問された日の夜、父は、校長先生宛てに手紙を書きました。
 私が女の子に間違えられたのは、我家にも責任があること。
 先生の、男女に差をつけない指導方針に、我家が全面的に賛同していること。
 女子に私が間違えられたことで、私はなんの屈辱も味わわなったこと。
 それは、先生の日頃の、男女を必要以上に区別しないという方針によることが、
 大であること。
 今回の件で、先生が今までの指導方針を変更などなさらないように。
そんなことが、書かれていたそうです。

先生の処分は、私の知るところではありませんが、きっと軽いものになったと思っています。

水色のランドセル(純・小学3年生)②

女の子に間違えられていると知りながら、
私は、「ぼく、男だよ。」と言えなかった。
そして、日と経つうち、
私が女の子だということが、どんどん定着してきた。
問題はトイレだったが、小学校のトイレは、男女共用だった。
しかし、私は女の子だと思われているので、
立ってするわけにいかなかった。
しかたなく私は、ちょっと遠い石炭倉庫のそばのトイレに行った。
そこはいつも誰もいなかった。
そこの個室に入ってした。
ちょっと面倒だなあと思いながら。

体育のある日がせまっていた。
私は、先生に前の学校の体育着でいいか聞いた。
先生は、かまわないと言った。
今度の学校は、女子はブルマー、男子は白の短パン。
私の前の学校のは、男女共ブルーの厚い生地の短パンだった。
正確には、短パンより少し長くて、ルーズ・フィット。
前のふくらみがあまり分からなかった。

私はそれを履いて体育をしたので、体育着に関しては問題がなかった。
着替えるときは、男子の下着が見えないように、
上着より先に半ズボンを脱いで、上着で隠しながら短パンをはき、
上は、シャツといっしょに脱ぎ、体育着を着るようにした。

そのうち身体検査があったが、今度の学校は、体育着のまま回るので、
少しも問題はなかった。



3年3組は、男女がいっしょに遊ぶクラスだった。
昼休みは、男女いっしょに、縄跳びとか、鬼ごっこをしたり、
ダルマサンガコロンダをしたり、
女子の強い子は、どんどん男子を負かしていた。
私はいいクラスだなあと思った。
これも、先生が男女を必要以上に区別しないからかなと思ったりした。



6月になった。
どうしても男女の別をはっきりしなければならない日が近づいていた。
それは、プール。
これだけは、女子の水着か、男子の海水パンツか、どちらかで男女がわかる。
私は、男子なので、特別の事情がない限り女子の水着を着るわけにはいかない。
女子の水着を着たいなんて言ったら、母に叱られる。
また、それは、みんなを欺くことになる。
私はそれまで、みんなを女だと欺く言動はしていないつもりだった。
言葉も男言葉を使っていたし。

水着の選択肢は、男子の海水パンツ1つだった。

プールのある日、私は覚悟をした。
海水パンツだ。
3時間目と4時間目がプール。
男女いっしょに教室で着替える。
2時間目が終わっての中休み。
とうとうその時間だ。

私は覚悟を決めて、海水パンツを履き、帽子をかぶった。
回りの子達が、あっと叫んだ。
となりのK君が、
「加納さん、どうして?」と叫んだ。
「だって、ぼく、男だから。」運命の言葉を言った。
クラス中の子が、「うそー!!」と声を上げた。

クラスで、かなりリーダーシップのあるU子さんが、
「そうよ。加納さん。自分で男か女か言ったことないもの。
 あたしたちが、かってに女の子だと思っただけなのよ。」
「そうだよ。俺達だって、加納に男か女かなんて、聞いたことないよ。
 聞かれないのに、ぼく男だよ、なんてふつう言わねえもんな。」
ガキ大将のK君が言った。
「自分のことちゃんと『ぼく』って言ってるし、男言葉使ってるし。」
「ランドセルは水色だし。」
「加納さんは、悪くない。あたしたちが、かってに間違えたのよ。」

そうかあー、とみんなは大きな納得をした。

先生が水泳着を来て、教室に入って来た。
U子さんがすぐ、
「先生、先生は、加納さんが男の子だって知ってた?」と聞いた。
「え?女の子だぞ。え?ちがうのか?」と先生は目を白黒した。
「先生、ほら、加納さん、男の子。」
U子さんに言われて、先生は、私を見てびっくり仰天した。
「純…、男の子だったのか…?」
「はい、男子です。」と私は言った。

そのときの先生の衝撃は気の毒なくらいだった。
先生は言った。
「純、先生は君に、男の子として、何か失礼なことを言わなかったか?」
「大丈夫です。先生は、男女の差別をしませんから、傷ついたりしませんでした。」
私は言った。
それでも、先生はかなりショックだったようで、ふらふらとしていた。



みんなで、さよならの後、先生に呼ばれた。
「純。俺は先生として、受け持った子の性別を3ヶ月も間違えるという、
 あってはならないことをしてしまった。純、本当に申し訳なかった。
 校長先生にも報告して謝るし、
 今日、純の家にも家庭訪問して、謝らないといけない。
 先生は、8時ごろ行くから、そのことをお家の人に言っておいてくれるかな。」
そう先生は言った。
私は、「はい。」と言って、先生にさよならをした。


つづく

水色のランドセル(純・小学3年生)①

少し、小さいときのことを書きます。あまり長くないのですが、3回に分けて投稿します。

読んでくださるとうれしいです。

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「水色のランドセル」

私が入学した杉並の小学校は、当時としては大変ユニークな学校で、
ランドセルが、赤、黒、黄色、水色の4色が選べるようになっていた。
母とランドセルを買いに来た私は、迷わず水色を選んだ。

私はその小学校を2年の終わりに転校し、
転居とともに、新宿の小学校に3年生として入学した。

始業式の日、母といっしょに校長室で待たされた。
私の担任の先生が挨拶に来た。
背が180cmくらいある若い男の先生だった。
先生は、歯切れよく、
「目黒幸一と申します。」と言った。
それから、母に、
「私は、男女に差を付けない方針で、
 男子も女子も、『さん』付けで呼びます。
 または、名前だけで、さん付けをせず呼びます。
 出席簿も、男女別にせず、男女合わせたあいうえお順にしております。
 そこのところを、どうかご諒承ください。」
そう言った。そして、私の頭をなでて、
「加納純さん。どうぞよろしく。」と言って部屋を出て言った。
気持ちのいい、ぱりぱりとした感じの先生だと思った。
しかし、
『加納純さん』と呼ばれて、私は、なんだか女の子みたいで変な気がした。

始業式で、自己紹介をさせられた。
私は、「3年3組 加納純です。」と言った。

3年3組の列に案内された。
列は、先生が言っていたように、
男子列、女子列がなかった。
2つの列とも、男女がばらばらだった。
私はとりあえず一番前に立たされた。

教室に先生といっしょに行った。
中に入って、もう一度私は挨拶をした。
「加納純です。よろしくお願いします。」と言った。
みんなが拍手をしてくれた。

クラスは持ち上がりなので、
子供同士、先生もお互いを知っていた。
私だけが、新入だった。

先生は、朝の出欠だけは、苗字にさんをつけて呼んだ。
しかし、授業が始まると、みんなのことを、
名前の呼び捨てで、どんどん呼んだ。
私は、「純」と呼ばれた。
「純さん」よりましだった。

1時間目が終わるまで、私はそうなることに気付きもしなかった。

1時間目が終わると、わーと、私の回りに女の子が集まって来た。
私はすぐに悟った。私は女の子に間違われている。
「ねえ。加納さん。加納さんのランドセル、水色なんだね。」
「いいなあ。あたしもほしいな。」
「家どこ?」
「線路沿い。」と私。
「じゃあ、旅館があるとこ?」
「ぼくの家そのとなり。」と私。
「あ、加納さん、自分のこと『ぼく』っていうんだ。」
「うん、『ぼく』っていう。」
「わあ、なんかかわいい。あたしも真似しようかな。」
みんなから、たくさん質問された。



私は、小さい頃から、女の子に間違えられ続けてきた。
「はい、おじょうちゃん、一つどうそ。」とか、
「おじょうちゃん、どれにしますか。」など。
私はその度に、「ぼく、男だよ。」と言ってきた。
すると、回りの人が驚く。
「あら、あんまり可愛いから間違えたわ。ごめんなさい。」
というのは、いい方。
「あら、男の子?」と怪訝な顔をされたり、
「え?男の子だったの!」とびっくりされたり。

どこかへいって、こういうのをあんまりされていると、
だんだんそれが苦痛になって来る。
私が男だとわかったときの人々の驚く顔、怪訝な顔。物珍しそうな顔。
そういうのが、次第に私のトラウマになってきた。

そこで、私はそれを回避するために、
間違われたまま、女の子のふりをするようになった。
その方がずっと嫌な思いをしないですんだ。
これが、5歳くらいのときのことだった。

女の子に間違われないために、
例えば、髪を坊主にでもすればそれですむ。
しかし、私は、この年のころから、自分の女装癖を自覚していた。
女の子の服を着て、女の子として振舞いたかった。
だから、そのためには、髪をいつも長くしておきたかった。
私は髪を頬が隠れるくらいにしていた。

女顔、女声、長い髪。
間違うなという方が無理だ。
だから、私は、私を女の子に間違う人が悪いなどと
一度も思っていなかった。
髪を切らない自分のわがままのせいだと思っていた。

かといって、女装をしているつもりではないときに、
間違われるのは、嫌だし怖い。
私は矛盾と複雑の塊だった。


つづく

思い出の女装サロン⑤『女らしいT子さんと』

また、女装サロンにもどります。今回は、サロン1女らしいT子さんとの思い出です。

読んでくださるとうれしいです。

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女装サロンの夜は、オーナーの豊富な武勇伝(=自慢話)を聞くことが多かった。
その日も、いつものように、ソファーの真ん中にオーナーが座り、
みんなで、オーナーを囲んでいた。
「俺が、30、40歳のときは、やたらモテたな。
 始めっから女装好きで、
 俺みたいな男っ気ぷんぷんのヤツは少なかった。
 新宿でな、25、6の和装のべっぴんが来た。
 誰が見たって女だ。
 しかし、俺は女装道一筋だったからな、わかった。
 で、すれ違いざま、親指出して、
「これかい?」と言ったんだ。
「はい。」と女は言う。
そのとき、俺は会議まで30分あったからな、
急いで、女をホテルに連れてって、やった。
終わったとき女は言う。
「男と見破られたの初めてです。」って。
「まそうだろうな。」と俺は答えたよ。」とオーナーは言った。

「30分で、しちゃうんですか。
 あたしなんか、それじゃ、気がせいてできませんよ。」と誰かが言った。
「ま、時間を有効に使ってたからな。」とオーナー。
「これかい?だけで、ひっかけたんですか?」とまた誰か。
「そりゃ、俺がモテたからだよ。」とオーナー。
みんなが笑った。



Ohさんが果物を持ってきた。
「じゃあ、あたしから、みなさんに『女度テスト』をしてみるわ。」と言った。
みなさんは、我こそはという行きごみだった。
Ohさんは、「これは、絶対というものではありませんからね。」と前置きをして、
「では、第一問。みなさん、空を見上げるポーズをしてください。」
みんな、首を見あげて、空をみた。
Ohさん。
「RさんとIさんが、正解だわ。正解がいるとは思わなかった。
 男はね、そのまま、頭を後ろに倒して、空を見る。
 女は、ちょっと首をかしげて、頭を後ろに倒す。この方が可愛いのよ。」
みんなが、まいったあなどといっていた。(私は不合格。)

Ohさん。
「今度は、ご自分のこと、人差し指で、『あたし?』って指差してごらんなさい。」
「あら、2人正解だわ。男は、まず自分の鼻を差すのね。女は、胸を指すの。
 でも、これ、最近では、女の子も鼻を指してるわね。」

Ohさん。
「じゃ、次ね。みなさん、ご自分の爪を見てみてください。」
みんな様々に見ていた。
「あら、3名が正解よ。すごいわ。男は、手の甲を自分に向けて、指をもみじにして見るでしょう。
 女は、掌を自分に向けて、指を自分の方へ曲げてみるの。」
「なるほど。この方が女らしいよ。」と誰かがいい、みんなで、納得した。

Ohさん。
「じゃあ、これ最後ね。みなさんは立って、ご自分の足の裏を見てください。」
みんなは、それぞれにやっていた。
「やっぱり、和装の方は、ほとんど正解。男は、膝を外に出して、がにまたを作って足の裏を見るでしょう。
女は、足を内股にして、肢のすねを後ろではね上げて、肩越しに見るの。」

「うあ~、知らなかった。確かに女の子は、こうやってる。」
「私も、これから、そうしよう。」などと皆さんが言った。

Ohさん。
「さあ、4問全部合格の人いるかしら?」
すると、いつもいちばん大人しいTさんが、手を上げた。
みんなで、わあ~っと拍手をした。
そういえば、Tさんは、物腰が、いつもとても女らしいのだ。
若手は、惨敗。

*   *   *

Ohさんの「女度テスト」が終わったら、
みなさんは、麻雀をしようということで、広い和室の方へ行ってしまった。
する人と、後ろで見ている人で、8人くらいいなくなってしまった。
ソファーのところに残ったのは、女度ナンバー1のTさんこと智子さんと私だった。
私はこれは、智子さんに接近する絶好のチャンスだと思った。

何しろ智子さんは、女度1番の方なので、仕草や物腰から、男を少しも感じさせない方だ。
今日は、ベージュのフォーマルの2ピースを着ていた。
年齢は40歳くらいだが、とても若く見える方。
私は、智子さんのそばに行き、マンションの回りでも散歩にいきませんかと誘った。
「いいですね。」と智子さんは言った。
「どうせなら、『ハレンチごっこ』でいきませんか?」と言ってみた。」
「あら、恥かしいけど、おもしろそうだわ。」と智子さんは言った。

化粧部屋で、私はショーツを、智子さんは、パンティーストッキングとショーツを抜いだ。
Ohさんに断って、私たちは出かけた。
マンションは、川べりにあって、川に沿って公園になっている。
ところどころベンチもある。
川に向かってベンチに座ると、誰からも見えない。

外に出ると、風がスカートの下からはいってくる。
「加奈ちゃん、スリリングね。」と智子さんは言った。
「あたしなんか、ワンピだからもっとです。」私はそう言って笑った。

しばらく歩いて、ベンチに座った。
私は、智子さんと腕を組んだ。
「なんだか、興奮するわ。『ハレンチごっこ』って、思ったより、ずっとステキね。」
「そうですね。」
「智子さん。キスしてくださいますか。」と私は言った。
「いいわ。」智子さんは、そういうと、両手を私の頬に当て、柔らかなキスをしてくれた。
私のあそこが、少し大きくなってしまった。
「ちょっと興奮してきちゃった。」と私は言った。
「あたしもよ。加奈ちゃん可愛いから。」

私はバッグを開けて、ゴムを取り出した。
前もって封を切ってあった。
それを取り出すと、
「智子さん、少し目をつぶっていてくださる?」と言った。
「はい。」と智子さん。
私は、智子さんのスカートに手を入れ、智子さんの自身に、ゴムをするっとはめた。
「まあ、加奈ちゃんったら。」智子さんは、少し赤くなったようだった。
私は、智子さんのスカートの中の手を入れて、そっとそっと動かしていった。
私は、左手を、智子さんの背中に回した。
手を動かしながら、
「智子さんは、女性そのもの。ずっと憧れていました。
 智子さんの何もかもが女性。智子さん好きです。」
そんなことを言いながら、私は、手を少しずつ早めていった。
智子さんは、うつむいて、両手で、胸を押さえたり、顔を隠したりして、
「ああ、どうしよう、恥かしいわ。」と言った。
その仕草が、女の人そのものだ。私は益々興奮。
「智子さん。女性そのものです。ステキ。あたし、今智子さんに触れてるのね。夢見たい。」
そう言った。

智子さんが、苦しげな吐息をもらし始めた。
だれも見ていない公園でも、大声はまずい。
智子さんは声をころして、
「ああ、加奈ちゃん、あたし、どうにかなりそう…。どうしたらいいの…。
 あん…ダメ…こんなとこで…外でなんか…あん…加奈ちゃん…イきそう…。」
「もっと、がまんなさって。」

私は何度もそうって、智子さんにがまんするよう言った。
そのうち、智子さんの体は、どんどん震えてきて、
我慢の限界が近づいていているのが、わかった。
「智子さん、もう少しがまんなさって。」と私。
「だめ…もうだめ…こんなところで…はずかしいわ…あ…ああ…あああ。」
私は智子さんの唇をうばった。
智子さんの体が激しく痙攣した。
ゴムの中に温かいものが充填された。

智子さんは、胸に手を当てて、息を整えていた。
「ああ、ああ、加奈ちゃんたら。こんなところで、思いもしなかったわ。」と智子さんは、恥かしそうに私を見た。
「だって、智子さんとチャンスだったんですもの。」と私は言った。
私はバックから、小さなハンカチをとって、
それを、智子さんのかの部分に当てながら、服がよごれないように、ゴムをとった。
ゴムをティッシュでつつみ、
智子さんのスカートのなかのものを、ハンカチで綺麗にした。

「ああ、まだドキドキする。外でするって刺激的だわ。」
智子さんは、私の肩を抱いた。
「感激してるの。あたし、女らしくすることに心がけているけど、
 その割りに誘ってくださる人いないの。
 加奈ちゃんが誘ってくれて、2年ぶりくらい。だから加奈ちゃん、ありがとう。」
「いえ。智子さんは、ステキだから、みなさんもったいなくて遠慮されてるんですよ。
 あたしが誘ったこと知ったら、みなさん、『じゃあ、俺だって。』ってなるんじゃないでしょうか。」
「だと、いいわ。なんだか、加奈ちゃんが天使に思える。」
そういって智子さんが、もう一度私を抱きしめてキスをしてくれた。
ああ、私のあそこが、また大きくなってしまう。

「加奈ちゃん。あたしからもお返しさせて。」
智子さんはそう言って、私のスカートをめくって、私の大きくなったものに、顔をうずめた。

「ああ…。」私の体に電撃が走った。
誰よりも女らしい智子さんがしてくれてる。そう思うと、
一気に興奮してしまい、ほどなく私は、断・末・魔の声を上げた。
「智子さん…あたし…もうだめ…イっちゃう…もうだめ…。」
私は、智子さんの口腔の中へ、イってしまった。

智子さんは、タオルでぬぐい、私のあそこをハンカチできれいに拭いてくれた。

二人で顔を見合わせて、微笑んだ。
しばらく抱き合っていた。

夜風がまた、スカートの中に入って来た。
「『ハレンチごっこ』っていいですね。」と私。
「そうね。」
と二人で笑った。


ぼくを見抜いた女の子 ③(完結編)

お父さんが、私たちをにらんだ。
「早苗、今何時だと思ってるんだ!高校生の娘が帰る時間か。
 それに、その派手な女は、なんだ。どこの女だ!」
「あたしの先輩よ。失礼なこと言わないで。」と早苗が言った。

「何を!」とお父さんが言い、
また物を投げようとした。
今度は、木のロウソク立てだった。
針が出ていてそれは危ない。
私は、素早くお父さんに歩み出て
お父さんの手首を外にひねり、ロウソク立てを取り上げた。
合気道の「小刀取り」。それから、もう一つ、合気道の技を使った。

お父さんの両手首をとって、私の手を絡ませ卍ような形を作る。
私はお父さんの正面に正座する。
そこで、組んだ手を下に下ろしていく。
そして、畳に押さえつけると、お父さんに激痛が走り、
どうやっても手を抜くことができない。
「痛ててて・・。なにすんだお前は?人の家上がって来て、痛てて・・・。」
お父さんは、言葉もろくに出せない。
足を出そうとすると、手首がねじれてもっと痛い。
お父さんは、痛みに負けて、少し静かになった。

「早苗、警察だよ。お母さん、いいですね。」と聞いた。
お母さんは、すでに考える気力を失っていた。

私は、
「お酒を飲んで、お父さんが危険なものを投げ初め、
 家族にどんな怪我をさせるかわからない。今すぐ来てください。
 そう言って。」と早苗に言った。
早苗は、警察に電話し、私が言った通りに言った。

10分もしない内にパトカーが来た。
保健所の人もいたようだ。
私は、お父さんと組んだ手を離した。
パトカーは2台できて、1台にはお父さんを、
もう1台には、お母さんと早苗と弟を乗せた。
私は家族ではないので、行かなかった。

パトカーは、行ってしまった。

とりあえず、今日のことは、これでいいか。
私はぽつんと言った。

うまくいけば、保健所の人が、いい病院を見つけてくれる。
明日になったらお父さんは正気にもどっているから、説得してくれる。
措置入院は無理でも、任意入院はできる。
そうしたら、お母さんも早苗も救われる。

私は家の中を片付けて、電気を消し、
早苗から預かった鍵で家を閉めた。
ご家族4人が救われますようにと祈った。

「この鍵を返しに来ないといけないな。」
そう言って、バックの中に鍵をしまい
ママの店に帰った。



翌日の木曜日、早苗の家に電話した。
留守だった。
きっと入院の手続きなんかで忙しいんだなと思った。

その次の金曜日に、早苗が私が詩を売っているところにやってきた。
「お父さんは。」とまず聞いた。
「入院してる。アルコール依存症の専門病院。」
「それは、よかった。お母さん、元気になった?」
「うん、たった2日お父さんのお酒がないだけで、すっかり元気になった。
 純のおかげだって言ってる。」
「ぼく、なんにもしてないよ。」
「お父さんを押さえてくれたじゃない。あんな大きなお父さんを。
 お母さん、ふつうの女の人のできることじゃない。何か武道をやっている人だって言ってた。
 お母さん、警察に電話することさえ、思いついてなかったの。
 それに、電話なんかしようものなら、お父さんが、線を引きちぎってただろうって。
 だから、純のおかげなの。」
早苗はそう言った。

「それでね。お母さん、純にお礼をしたいから、日曜日、お昼を食べに来てくれないかって。」と早苗。
「うん。日曜は大丈夫。お腹すかしていく。」
「じゃあ、待ってる。都電の早稲田の駅で。」
「うん。この格好で行っていい。」
「もちろん。」
「早苗の女の先輩ってことでいい?」
「うん。女の先輩ね。」早苗は、少し笑って、去って行った。



約束の日曜日。
私は普段の格好でいこうと思ったが、
やはりちょっとオシャレをしていこうという気になって、姉に頼んだ。
お出かけ用の一セットを。
そこで、草色のワンピースと、白の長いカーデガン。
バッグ、靴。そして、明るいメイクをして行った。
ついでにリングもつけて行った。
もちろん、ブラもつけて、胸を作って行った。
早苗の先輩なのだから、大人っぽく。

都電の早稲田駅に着いたら、早苗が待っていた。
「わあ、純ったら、普段着なんて言って、すごいおめかしじゃない。
 すごく綺麗。」と早苗は言った。
「これ、全部姉の借り物。」と私は笑った。

早苗の家に入ったら、お母さんが出迎えてくれた。
お母さんが、すっかりお元気そうなので、うれしかった。
弟の勉くんも紹介された。小学校の5年生くらいだった。

食卓に行ったら、お寿司と、フルーツと、オードブルが並んでいた。
「わあ~、すごいです。」と私は言った。



お食事がはじまって、私は女らしく食べる事に苦心していた。

お母さん。
「早苗がね、純さんのこと『王子様』って言ってるんですよ。
 女性なのに?って聞いても、『王子様』だって言い張るんです。」

「『王子様』に男女は関係ないの。」と早苗が言った。
お母さん。
「あたしは、純さんが赤い服着て来てくださったとき、
 天使に思えたの。あの大きなお父さんを押さえつけて、
 早苗に『電話を!』と指示してくださったとき、
 なんだか、ああ、これで助かる…って思いがして、涙が出ました。
 純さん、ほんとうにありがとうございました。」

「あのお父さんを、お姉さんは、どうやって押さえたの。」と勉君が言った。
「教えてあげるね。」と私は言って、勉君をお母さんの所へ連れて行った。
そして、お母さんの手に、勉君の手を絡ませた。
「このまま、両手を下に押してみて。」と私。
勉君は、両手を下げた。するとお母さんが悲鳴を上げた。
「痛い、勉、止めて。」とお母さんが叫んだ。

「ほんとだ、すごい。ぼくは全然痛くないのに。」と勉君。
「不思議だわ。痛いし、腕がぬけなかったわ。」とお母さん。
「あたし、昔合気道をやっていたんです。これは、技の1つなんですよ。
 相手がレスラーでも、多分、動けません。」と私は言った。
「それで、主人が、びくとも動けなかったんですね。」とお母さん。

楽しいひとときが過ぎて行った。

「お父様にとっては、これからが試練ですね。」と私は言った。
「はい。お酒を一生飲んではいけないそうです。」とお母さん。
「うっかり料理酒の入ったおかずを食べて、戻ってしまった人の話をききました。」と私。
「純さんは、ほんとにいろんなことをご存知なんですね。」とお母さん。



早苗の家に別れを告げた。
お母さんは何度も頭を下げていた。
都電の駅まで、早苗が付いて来てくれた。

「純にこんなにお世話になってしまうなんて思わなかった。」と早苗。
「たいしたことしてないよ。」私。
「あたし、てんかんのことより、父のお酒の方が10倍辛かったの。
 毎日地獄だった。解決するなんて不可能だと思ってたから、
 純にも言えなかった。でも、結局純のお店にまでいっちゃった。
 純は、あたしの家まで来てくれた。そして、解決してくれた。
 純はあたしの王子様だけど、その王子様から、十分過ぎるほどしてもらった。
 だから、あたし、もうこれ以上望まない。もう十分幸せ。
 純、ありがとう。」早苗はそう言った。早苗の瞳が潤んでいた。

「ぼく、まだ1年はアメリカにいかないから、
 また、新宿に遊びに来て。」と私は言った。
「そっか、純はまだ日本にいるんだね。」早苗がうれしそうな顔をした。
「また、詩を買いに来て。」
「うん、そうする。」早苗は笑った。

都電の音が聞こえてきた。この音はいつ聞いても好きだ。
「『面影橋』って駅知っているよね。」と私は言った。
「うん、知ってる。」
「ぼくこの駅を通るたび、いろんな人のことを思い出す。
 これからは、早苗のことを思い出す。」
「じゃあ、あたしは、純のこと。」
「うん。」

二人で手を振った。
都電は、発車した。
次の駅は、「面影橋」。


ぼくを見抜いた女の子 ②

早苗と別れて、
時間は、7時を回っていた。
私は、ハモニカ横丁で食事をして、ママの店に向かった。
水曜日の新宿は、比較的人が少なかった。
新宿通りをあるいて、ゴールデン街に向かう。
ママの店に入って、「おはようございます。」と夜なのに言った。

早苗への思いがあって、顔色が沈んでいた。
「ナナ、何かあったの。」とママに聞かれた。
「うん。好きなタイプの女の子に別れて来たところ。さよならのとき、切なくなっちゃって。」
「そういうときは、濃い目のメイクをするといいわよ。」とママから言われた。

ママに言われた通り、長めのつけまつ毛をつけて、
アイラインを引き、目を大きくして、
赤いリップを厚めに引いた。
ママが用意してくれたドレスは、真紅のドレスで、
メイクにぴったりだった。
久しぶりにウィッグをかぶった。
茶の外巻きのアメリカ人の女の子のような髪型だ。
私はそれに、赤いヘアバンドをした。
黒のヒールを履いた。

「まあ、50年代のアメリカの女の子ね。」とママが言った。
「プレスリーとかポール・アンカの時代ですよね。」と私は言った。
そして、お店の用意のとき、ポール・アンカの「マイホーム・タウン」を鼻歌で歌っていた。
「あら、さっきしょげてたのに。」とママから言われた。
「悲しいから、歌ってるんです。」と私は答えた。
早苗から離れて、このゴールデン街にいることが、一つの慰めでもあった。
ここにいれば、早苗は別の世界の人なんだと思えるような気がした。



店の用意ができて、いざ開店というとき、
「おい、ここは、高校生の女の子が来るところじゃないぞ。」
と酔った人が、大声で言っているのが聞こえた。
「すいません。」と謝っている声がする。
私はドキリとした。
まさか。ありえない。と思いながら、
店の扉を開けた。
「早苗!どうして!」と私は叫んだ。
そして、急いで早苗をお店に入れた。
早苗は、緊張でガチガチになっていた。

「ナナ、さっき言っていた人?」と察しのいいママが言った。
「すいません。あたしも今なんだかわからなくて。」と私は言った。
「小部屋に連れて行って。ナナはお店いいから、事情を聞いて?」とママが言ってくれた。

私は着替えの小部屋に早苗を連れて行き、そこにある座布団をすすめた。
「ごめんなさい。家にどうしても帰りたくなくて、純の跡をつけてきたの。
 まさか、ゴールデン街で純が働いてるなんて思わなかった。」
「怖かったでしょう。でも、無事でよかった。
 ふつう、驚くよね。ぼくここで、ホステスやってるの。
 ここは、ゲイバーとも呼ばれてる。知ってる?ゲイバーって。」私は言った。
「うん、知ってる。純、苦労してるんだ。」早苗が言った。
「ううん。このお店はママがいい人だから、全然苦労なんかしてないよ。
 もしかして、お腹すいてるんじゃない?」
「うん。」
「ここラーメンが食べられるんだよ。」

私は、ママにお願いして、ラーメンを作ってもらった。



「おいしい。」と言って、早苗はラーメンを食べた。

「ごちそうさま。おいしかった。」と言って早苗は幸せそうな顔をした。

「ぼく、今日ケバイでしょ。」と言った。
「ううん。とっても綺麗。」
「ここでは、ナナって名前なの。」
「こんなところまで来て、ナナに迷惑かけちゃた。」と早苗は言った。
「迷惑をかけてまでここに来る理由があったんでしょう?」と私は聞いた。
「うん。家の父さん、夜はお酒を飲むから帰りたくない。
 お酒を飲むと、人が変わってしまうから。」
「お母さんは?」
「今ごろ泣いてると思う。」
「ご兄弟は。」
「弟がいる。今自分の部屋へ逃げてると思う。」
「早苗の部屋は?」
「あるけど、お母さんが気の毒でいっしょにいる。」
「大変だね。たまには、逃げ出したくもなるよね。」と私は言った。
「辛いとき、純の詩や童話ををいつも読んでたの。
 そうすると、心が温まる。勇気が出たの。
 そうやって、いつも耐えてきたから、
 純は、私の王子様なの。」
「ありがとう。」
「母には王子様がいないから、母が可哀相。」早苗は言った。
「早苗、今すぐ、早苗を家まで送っていく。じゃないとお母さんが、辛すぎる。」

着替えようか、このままでいいか…。
時間も無いので、着替えないでいくことにした。

ママに事情を話して、時間休暇をもらった。

黒いバッグを借りて、中にお金などを入れて、早苗と店を出た。
新宿の街を駅まで歩いた。
早苗は何回も謝っていた。

「早苗、ぼく達どう見えてるだろう。」と私は言った。
「う~ん。お姉さんが水商売で働いて一家を支えてくれている家。あたしは妹。」と早苗は言った。
「ぼく、どう見たって水商売の女だよね。」
「うん。完璧にそう。」

「早苗の家にちょっとぼくを上げてね。様子を見たいから。」
「うん、分かった。
 純のことは、高校の元先輩っていうことにする。」
「ケバイけどね。」
「そうね。」
と二人で笑った。



早苗の家は、早稲田にあるマンションだった。
扉をあけると、とたんに、お父さんの罵倒する声が聞こえた。
中へ上がった。
すこし離れたところで、お母さんがぐったりしていた。

背の高いがっちりしたお父さんがいた。
部屋は、お父さんが投げたと思われる本類や小物が散乱していた。
お母さんが、やつれ果て、壁の柱にもたれて、無抵抗になっていた。
お父さんが、私たちをにらんだ。

「早苗、今何時だと思ってるんだ!高校生の娘が帰る時間か。
 それに、その派手な女は、なんだ。どこの女だ!」
「あたしの先輩よ。失礼なこと言わないで。」と早苗が言った。


つづく

私を見抜いた女の子 新宿編 ①

「KFサロン」のことは、少し休憩することにして、新宿の典子ママの時代に移ります。

時は、1973年、私は大学3年生で、相変わらず新宿の街で詩を売っていました。

このエピソードは、3話で掲載します。

==============================

大学3年になり、それは11月の水曜日のことだった。
私はとっくりの黒いセーターを着て、
その上に保母さん用のエプロンを来て詩を売っていた。
6時を過ぎた頃だろうか、高校の制服を来た女の子がやって来た。
その子は私の前にしゃがんで、

「純さんの童話も詩も全部読みました。」って言う。
「わあ、そんなに買ってくれてるのに、
 あなたのこと覚えてません。ごめんね。」と私は言った。

その子は、しゃがんだまま、私を見上げるようにして、
「いいの。私純さんは、すごくやさしい人だと思う。」と言った。
「ありがとう。そう言ってくれるとうれしい。」と私。

「純さんは、女の子に見えるけど、男の子でしょう?」とその子は言った。
私はドキッとしてしまった。そう言われたのは初めてだった。

「そ、そうなんだけど、男に見てくれたのあなたが初めて。
 どうしてそう思ったの?」と私は聞いた。
「詩の感じや、童話の感じから、男の人だと思った。」とその子は言った。
「わかる?」
「うん、わかった。」
彼女は美人じゃないけれど、ずばり私の好きなタイプの子だった。
背は私より低い。
並んで歩いたら、お似合いだろうなと思った。

「純さんは、あたしの王子様なの。」ってその子は言う。
「それ、告白。」と私は恐る恐る聞いた。
「うん。告白。」とその子は言って、
「少しでいいから、喫茶店でお話できますか。」と言われた。
「うん。いいよ。30分くらいなら。」
私はそう言って、お店を畳んで用意をした。

「すいません。」とその子は恐縮していた。



喫茶店で向かい合った。
向かい合ってみると、その子はますます私のタイプだと分かった。
胸が、ドキドキした。

その子は、小川早苗さんと言った。
私は、自分を「純」と呼んで欲しいと言った。そして、彼女を「早苗」と呼ぶことにした。
その方が友達になれた気がする。
「早苗は、ぼくの好きなタイプの人だけど、
 早苗の気持ちに、ぼく応えられない。」と私は言った。
「あたしも、純がすごく好きだけど、愛せないの。」早苗は言った。
「どういうこと?」と聞いた。
「あたし、てんかんなの。」
と早苗は、うつむいて言った。
(今から40年前、てんかんは3大精神病の1つでした。)
「去年、学校の音楽室で、大発作を起こして倒れたの。」と早苗。
「自分に合ったお薬さえ呑んでいれば、一生大丈夫だよ。
 今では、てんかんは精神病には入れられていないよ。」と私は言った。

「どうしてそんなに詳しいの。」と早苗は聞いた。
「ぼく大学で、臨床心理専攻してるから、少しは知ってる。」
「純は、学生さんだったの?高校生かと思った。」
「ぼく、若く見られるから17歳って言ってるの。でも本当は大学3年生。」
「少し、びっくりした。」と彼女。
「早苗は、いくつ?」
「高校2年生。」
「結婚できないなんて、大昔のことだと思うよ。」
「遺伝するでしょ。」
「うん。11%の確率だって習った。」
「その通りだわ。純は詳しいね。」と早苗は言った。
早苗のしゃべり方や仕草が、好きだなあと私は思った。

「11%のために結婚できないなんて、理不尽だと思うけど。」と私は言った。
「でも、世の中は、精神病って見るから、調査されたら断られる。」と彼女は言った。
「うん。その通りだね。それが現実だって、ぼく知ってる。」私は言った。
「うん。」早苗は、うつむいて涙をこぼした。
私も泣けてきてしまい、涙の目をぬぐった。

「ありがとう。あたしのために泣いてくれて。」と早苗は言った。
「だって…。」
「純さんは、やっぱりやさしい人。」と彼女は言った。



「ぼく、アメリカへ行きたいって夢を持ってるの。それで今お金貯めてる。」私はそう言った。
「それは、ステキだわ。」と早苗は言った。
「だから、今は誰かを好きになったりできない。」
「うん。そうね。」
「だから、早苗の気持ちを受けられない。」
「うん。わかった。」
「ごめんね。」
そのとき、私は限りなく悲しい気持ちになってしまっていた。
アメリカの夢がなかったら、すぐにでも早苗を好きになってしまっただろうと思った。

「ううん。あやまらないで。あたし遠くから、純のこと思っているだけでいい。」
「てんかんなんかに負けないで。結婚できないなんてことないから。」
「うん。同じてんかんの人と結婚すればいいし。」
「それも、一つの方法だね。」
「お互いに劣等感をもたずにすむ。」早苗は言った。
「そうだね。」私は言った。



「ぼくは、女の子みたいだって気にしてる。声も女の子でしょう。」
「うん。」早苗は否定しなかった。
「けっこう劣等感なんだよ。だから、それを逆にとって、女の子としてやってる。」
「辛いこともある?」
「男子の銭湯にいくのが辛い。男子トイレにいけない。かといって女子トイレにもいけない。」
「ほんとだ。トイレはどうするの?」
「こんな喫茶店に入って、男女共用トイレを使う。」
「そんな苦労があるなんて、想像できなかった。」
「みんな、何か劣等感もってると思う。だから、早苗。みんないっしょだよ。」
「うん。わかった。あたし、自分だけが悲劇の人みたいに思ってた。
 絶対結婚できないわけじゃないのに。
 だから、もういじけない。純とお話できてよかった。
 やっぱり、純はあたしの王子様。」早苗に笑顔がもどった。

私たちは、お互いの住所と電話番号を教え合った。

店を出た。

「何かあったら電話して。悲しくてたまらないとか、辛くてがまんできないとか。」
私はそう言った。(どうしてそんなことを言ったんだろう。)
「うん。そう思うだけで、勇気付けられる。」
早苗はそう言った。
「純はこれからどうするの?」と聞かれた。
「これから、女の子になって、夜の12時までスナックで働くんだ。」と私は言った。
「大変だね。」と早苗は言う。
「このくらい働かないと、アメリカに行けないから。」と私は言った。

そこで、さよならをした。
彼女の後ろ姿を見送るのは切なくて、涙が出そうだった。
どこか、さびしそうで、弱そうで、悲しそうだった。
私に耐えがたい思いが走った。
なんなのだろう…。

でも、電話番号をもらった。
私はそれをお守りの中に畳んで入れた。


つづく

思い出のサロン「KFサロン」 ④ 『ナース・プレイ』

今日はどうかなっと思って、サロンに電話してみた。
Ohさんが出て、
「あら、来てくれると助かるわ。
 今日も新幹線で見える方がいるの。
 加奈がいないとあたしがお相手するんだけど、
 あたしよりか加奈の方がいいもの。」と言う。
「はい。じゃあ、すぐいきます。」と答えた。

サロンに入ると、Ohさんからすぐに着替えるように言われた。
私はワンパターンのワンピース。髪は自毛。

Ohさんから、
「加奈。ナースプレイ知ってる。」と言われた。
「写真でみたことあります。」
「今日のDさんは、小さい女の子になって、
 ナースの加奈に甘えたいの。
 それで、オムツの中でオシッコして、
 できれば、イかせてあげて。」とのこと。
「あたし、ナースの服もってませんけど。」と私は言った。
「Dさんが必要なのも全部もってらっしゃるから。」とOhさん。

私が今まで見たことがあったのは、
大きな男性が、赤ちゃんの格好をして、
口に、オシャブリをくわえさせられて、
看護婦さんに甘えているものだった。
中には、ナースではなく、幼稚園の先生だったりもした。



「今どちらに?」と私。
「もう、部屋に入ってらっしゃるわ。」とOhさん。

私は、背の高いがっちりした人を想像した。
それは、前に見た写真がそうだったからかな。

私は、襖を開けて、中に入った。
すると、そこに、年は20歳代後半くらいのとっても綺麗な人が、正座をしていた。
『この方が?』と思って私はすっかりうれしくなってしまった。
細身で、栗色の柔らかいボブの髪を肩まで垂らし、若く見える。
可愛らしくて、それに知性美があった。

「まあ、可愛い方、うれしいわ。」とDさんは私を見て言った。
声も女性の声だった。


Dさんから、「これを。」と白いナースの服の一式を渡された。
白いワンピースは、前ボタン。それに胸まである前掛けを掛けるが、
肩のところにフリルがあって可愛い。
そして、看護婦さんの髪のかぶり物。
Dさんに教わりながらヘア・ピンでとめた。
そして、白い膝までのストッキングを履いた。

「まあ、似合うわ。何て可愛い看護婦さんかしら。」
Dさんはとても女性的で、ほめ上手。きっとステキな人だ。

私は、これからのプレイに心臓が高鳴ってしまった。



Dさんは、上布団をとって、敷き布団の上に横になった。

「看護婦さん。あたしすぐお漏らししてしまうの。
 だから、オムツをあてて。」Dさんの声が子供の声に変わった。
Dさんから、大人用のオムツを渡された。

私はそのまま、レズビアン・セックスをしてしまいたいくらいだった。


Dさんのスカートをめくった。
そして、ブルマ型のショーツを脱がせた。
そこに男性の証を見て、ドキッとしてしまった。
そして、美加には下半身の体毛がすべてなかった。
「そうか、少女なんだものね。」と納得した。
そして、それが私をさらに刺激した。

オムツの外のカバーを腰の下に敷いて、
そこにオムツの布を挟み、前に回して、男性自身を隠し、
外のカバーをかけてボタンを留めた。

「看護婦さん。ありがとう。」とDさんが言い、
「あたし淋しいの、看護婦さんの膝の上に抱いて。」とDさんは、言う。
私はDさんを膝に上に乗せて、上半身を抱いた。
Dさんは、私にすがって、乳房をさわってきた。
「子守唄を歌って。」と言われた。

私は考えて、♪ゆーりかごーのうーたはー・・・と体を揺らせながら歌った。
歌いながら、Dさんの背中をぽんぽんと叩いた。
Dさんは、気持ち良さそうに、目を閉じて、私に揺られていた。

「おかあさん、美加さみしい。」とDさんが言った。
Dさんが、ある世界に入ったのだと思った。
だから、それに合わせた。
「もうだいじょうぶよ。おかあさん、ここにいるわ。」
「ほんと、もうどこにも行かない?」
「やくそくよ。どこにもいかないわ。」
「うれしい。」
「美加は、なんにも心配はいらないの。
 お母さんの腕の中で、寝ていていいの。」と私は言った。

美加は眠ったようだ。急に重くなった。
困ったな、どうしようかと思った。
でも、美加はすぐに目を覚ました。そして、言った。
「おかあさん、どうしよう。おトイレにいきたくなった。」
「オシッコなら、オムツをしているから、そのまましていいのよ。」
「怒らない?」
「うん、怒らないわ。」

美加は、少しいきんでいるようだった。
「お母さん、でちゃう。お漏らししちゃう。」
「オムツの中なら、お漏らしじゃないわ。」
「ああ、でちゃう。いいの?」
「いいわよ。」
私は美加を抱く腕を強めた。
美加は、目を閉じて、「ああ…。」と声を出した。
「出ちゃった。」と美加は言った。
「よかったわね。」と私は言った。
そのまましばらく美加を抱いていた。

「お取替えしましょうか。」と私は言った。
「それはいいわ。あたしにショーツを履かせて。」と言われた。
私は美加を布団に寝かせて、
美加の持ち物からビニール袋を見つけて、
その中にオムツの布をいれた。
濡れタオルもあったので、
それで、美加の下半身をきれいに拭いた。
そして、ショーツを履かせた。

「他にしてほしいことありますか?」と私は言った。
「あたしの横に寝てください。」と美加はいう。
私は、美加の横に、寝た。

ああ、美加とセックスしたいな、と思った。

「加奈、あたしね、小さいとき、母親に恵まれなかったの。
 だから、今でも、こんな風にやさしくされたいんだと思う。
「わかる気がします。」
「加奈は、今日すごく優しくて、あたし感激したの。
 あたしの思い出の日になったわ。ありがとう。」
「美加はすごく美人でとっても魅力的。
 あたし何度も興奮しちゃった。」と私は言った。
「スリップだけになって、女同士のセックスをしませんか。」と美加がいう。
「わあ、それうれしい。」



私たちは、女同士のセックスをした。
年の近い美人の美加とできて、私は感激した。
美加は大人の女の声を上げて、何度も私の名を呼んだ。



夕方になっていたので、美加は、早々に帰って行った。
帰るときは、みなさん男の姿なので、私は、あんまり見送らないようにしている。

後で、Ohさんに言われた。
「Dさん、加奈がお相手してくれて、今までで最高の時だったって行っていたわ。
 加奈にくれぐれもよろしくって。加奈は不思議な力があるのねえ。」
「今日は私にとっても最高の日でした。ナース服も着られてうれしかったです。」と私は答えた。

今日は、A子や、P子が来ないようなので、
私も早く帰った。

ゆっくり新宿を散歩して、安いワンピースを買おうかなと思った。

ああ、何時までたっても、私は安物買いだなあと思いつつ

夕暮れの街を駅まで歩いた。

思い出の女装サロン「KFサロン」③ 『切腹マニア』ってなあに?

サロンの西川オーナーは、若いものは、元気だが、経済力に貧しいので、
男性会員から、若い子へのパトロンを付けることに心を砕いていた。

ナンバー1美女のA子は、まずオーナーが、可愛いP子は、Wさんへと。
こうカップルをつくって、そのパトロンにいろいろ服を買わせたりさせる。
その代わり、パトロンはデートの権利をもつ。
つまり、他の会員は、A子とP子には、手を出せないのだった。

私にも、Hさんという人をオーナーはあてがってくれたが、私は断固断った。
自分が、ネコではなく、タチであることを理由に、パトロンをことわった。
それより、私は、サロンの中で、だれからも自由な立場でいたかった。

友達のA子や、P子が、海の見える公園に行ったとか、浅草に行ったとか、
その帰りは、いいレストランで食事をして、ラブ・ホテルへ行ったとか、
そんな話を聞いてときどき羨ましく思ったが、私は何より自由がよかった。

私は女装の人の誰とでも、セッ・クスができる立場だった。
そこで、少しでも役に立ちたいから、管理人のOhさんに、お伺いを立てる。
すると、Ohさんが、
「今日は、Gさんが、新幹線で来てるの。何もなしじゃお気の毒だから、お相手して。」
という。そして、「Gさんは、ソフトS・Mが好きよ。」と聞く。

すると私は、それとなくGさんのそばに行って、お話をして、Gさんの手を誘って、
セッ・クス部屋へ誘う。
そして、Gさんのお好きなことを聞いて、簡単にロープでしば・って、言葉ではずかしめる。
Gさんがご自分を出せるまで、恥・辱を与え続けて、ゴムをあそこに被せて、マッ・サージをする。
Gさんが声をあげながら果てるとき、思い切り抱きしめて、キ・スをする。
後の始末も、私がやる。
きれいになって、私はそばに横たわる。
「Gさん、ステキでした。」と言う。
「加奈ちゃん。あたしもう6年間ここの会員だったけど、あたしをかまって、最後までイカ・せてくれたのあなただけ。今日は、うれしいわ。夢のようだったわ。加奈ちゃんありがとう。」とGさんは言った。
そんな言葉を聞くことが、私の喜びだった。



Sさんという人が、ソファーで、5、6人の人たちでお話をしていた。
Sさんは、40歳くらいだが、30歳代に見える綺麗な人だ。
乳・ぶさがある。真性のMの人。
私もそこにいて、お話をしていた。
そのとき、Sさんと目が合い、私はSさんが求めているような気がした。

私は、隣の部屋から、ロープのダンボールを持ってきて、Sさんの隣に座った。
Sさんは、平気でみなさんと話をしている。
私はSさんのブラウスを脱・がせ、スカ・ートを取る。
Sさんは、依然ふつうに話している。
私は、Sさんの胸にロープをかけ、後ろ手をとって結び、そのロープを背のロープと連結して、Sさんの上半身を動けなくした。
そして、Sさんのショ・ーツをとった。
Sさんは、スリ・ップ1枚。
Sさんは、まだ平気な顔でお話をしている。
次に私はSさんの肢をソファーにのせ、M座りをさせると、両肢をそれぞれ縛って、余った紐を背に回して連結した。

Sさんは、それでも、平気な顔で話していたが、
回りの人たちがやっと腰をあげ、Sさんを構いに来た。
乳・ぶさを触ったり、お腹を触ったり、5人の手が伸びて、Sさんを触り続けた。
Sさんは、それでも、平気な顔をしていたが、Sさんの男性自身があきらかに大きくなっていた。

Sさんは、めったに、その場所を大きくする人ではなかった。
みんなもそれを知っていたのか、そのことを上手にからかっていた。
それが、Sさんを、ますます興・奮へ導いていく。
やがて、Sさんは、美しい顔を少しゆがめた。
そして、興・奮を表す声をわずかにもらした。
気位高くいつもすましているSさんのうめき声をみんな聞いたことがない。

Sさんは、大勢に見られることに弱い。
そして、Sさんの姿は、回りの鏡から丸見えだ。
明るい光の中で、恥か・しい姿でいることは、もっと恥かしい。
だれかが、バ・イ・ブを2つもってきた。
それで、Sさんの感じ易いところを攻めた。

Sさんとプレイをする人は、だれでもSさんに根負けする。
それほど、Sさんは、燃え上がらない。

けれども、そのときのSさんは、びっくりするほどの身・震いをして、
少女のような拒絶の声を上げ、体を痙・攣させた。
あ、これはほんとうにSさんイっ・ちゃう、まさかと思ったとき、
Sさんは、勢いよく宙に発・射をした。



縄が解かれ、息がととのったとき、Sさんは、
「ああ、あたし、こんなところでイっちゃいけないと思ったの。
 そう思ったら逆に興・奮してきちゃって、イっちゃったわ。」
そう言って、ふかい呼吸をした。

私は、汚れた所を、ぬれタオルで拭いて、
Sさんの部分にティッシュを当てた。

見ていた人たちの2人は、美人のSさんの様子に、すっかり
刺・激をされて、万年床の部屋に入って行ってしまった。



Sさんが、
「加奈。なんでわかったの。
 あたし、あんな普通にお話している場所で、何気なく縛られたら最高って、ふと思ったの。
 加奈ったら、それが分かるんだもの。」
「女の勘です。」と言った。
「ここで、イか・されたの、何年ぶりかなのよ。」
Sさんは、そう言って、私を抱きしめてくれた。



『切腹マニア』とは何か?

夜になると、デイト組が帰ってきて、勉強会が始まった。
オーナーが、今日は「切腹マニア」について話すという。
これは、奇譚倶楽部や風俗奇譚にも載っていたらしい。

オーナーは、
「世の中には、切腹の真似事をして、性的興奮を覚える人たちがいるんだな。
 俗に『切腹マニア』と言うんだけど、実に信じられない。
 彼らは、白装束に身をまとい、白い裃も来て、切腹の儀式をやる。
 普通は、刃の無い小刀を使い、腹をかっさばいて、小刀で、切る真似をする。
 それだけで、性的に興奮するらしい。
 
 で、それではだんだんもの足りなくなると、小刀の刃に赤マジックで色をつける。
 それで、ぐっとやると、赤い色がつくな。これで切った気分が出る。

 で、それで、エスカレートしてくると、ちょっと切らずにはおれなくなる。
 そこで、1cmくらい切ってみるんだよ。」
とオーナーは言った。

誰かが聞いた。
「それでも、我慢できなくなると?」
オーナーは、
「切っちゃうんだよ。マニアが高じると腹を15センチも切ったりする。
 もちろん救急車だ。
 だけど、本人は極めて満足。
 一生に、5回は病院へいっても、大丈夫なんて豪語するものもいる。」

「リストカットとはちがうんですか。」と私。

「全然違う。リストカットは、性的興奮を伴わないだろう。
 切腹マニアは、病院に運び込まれる間も、あそこがだなあ、・・・なんだよ。」
とオーナー。
「ひえ~。そんなのありなんだ。」とある人が言った。

オーナーは、
「まあ、人間の性の趣向は、実にさまざま。
 婦人の靴が好きなフェティッシュがいるだろう。
 彼らに、どんな靴が好きかを問うと、実にいろいろだ。
 パンプスは1番と言う人。
 ピンヒールのハイヒールという人。」

「わかった。次は皮のブーツでしょう?」と誰か。
オーナーは、
「うん。多分そう。大体ここまでだと思うだろう?
 それが、ゴムの子供が履く長靴がいいというのもある。
 それを、大人が履くのがいいというわけ。

 サンダルがいいなんてものあるんだ。
 忘れちゃいけないのが、ズック(スニーカー)。ズック・マニアも多いんだよ。
 和装では、草履、足袋がいいという人もいる。

「いやあ、まいるなあ。」と誰かが言った。

オーナー。
「じゃあ、今日の勉強会はこの辺にしよう。」



つづく

思い出の女装サロン『KFサロン』 ②

思い出の女装サロン「KFサロン」②

「KFサロン」は、主に中年以上の人が会員だった。
そこへ、私のような若いのが入ってきたのは、
とても珍しいことだった。

ところが、私が来たことと偶然に、
A子とY子という2人の学生が来た。
A子は、163cmくらいで、スタイルが抜群によく、
顔立ちはハーフのように現代的だった。
誰がみても、サロンナンバー1だった。
Y子は、背が170cmあり高かったが、
顔がキュートで、コケティシュで人気があった。

この2人と私を加え、3人の若手がそろってから、
毎日の訪問者が、一気に増えた。
特に男性会員と言われる女装をしない人たちもいて、
男性会員の訪問も増えた。

私たち若手3人は、とても気が合ったが、3人で固まって盛り上がるなんてことはしなかった。
ほとんどオールド会員の人たちの中に入って、
いろいろなお話を聞いた。それがおもしろかった。

ある日、オーナーから3人が呼ばれ言われた。
「3人は会費だけ払い、毎回の費用は入らないことにする。
 その代わり、よく来て、オールド会員の気分を盛り上げて欲しい。」と。
こうして、金銭的にフリーになった3人は、毎日のように出かけた。
世話人のOhさんの手伝いもよくしたので、
3人とも、Ohさんに気にいられていた。



ある日、SMクラブを外部で開いているBさんという人が来た。
珍しいので、Bさんを囲って来ていた人みんなで話を聞いた。
私は、本当に純女の女王様や奴隷役の人がいることが信じられなかったので、
真っ先に質問した。
Bさんは、
「いるいる。すごい美人がいるよ。美人ほど、Mになって辱められることを求めるんだね。」
へーえ、と私は是非そういうのに、立ちあいたいと思った。
Bさんはさらに、
「SMには、『ドンデン』というのがあるんだよ。
 これ知っておいた方がいい。
 これは、「どんでん返し」のことでね、
 Sの方が、M女を攻めていて、相手のM女が美人で自分より格が上だと思ったとき、
 相手を崇め、責める手を止めて、相手に、SMの交代を頼むんだね。
 で、「ドンデン宣言をする。」こうなると、今までのSとMが交代するの。
 今まで、M女だった人に、Sになってもらうわけ。
 これを『ドンデン』というのね。
 Sだった男性が、急に女の声をだして、M女に許しをこい、交代する。
 「ドンデン」というのは、された方にとって名誉なことなのね。
 だから、誇りに思って役割交代をする。

 これ知らないと大変失礼なことを相手にしてしまう。
 ある女の子はね、これ知らなくて、Sの人が急に女の声をだして、
 ネコになっちゃった。それを、そのM女は「どんでん」を知らなかったから、
 なんと、「えー?うそみたい。」って笑っちゃったの。もっともやっちゃいけないことしちゃった。
 もちろん、お客は怒って帰っちゃった。その子は、私から、ひどくしかられた。

 この「ドンデン」は、普通の「タチ」「ネコ」のセックスのときもあるから、
 まちがっても、笑ったりしたらだめなんだよ。若い人はよく覚えておいてね。」

みんな、いいこと聞いたという顔をしていた。
私は、オーナーに「これ、SM界の常識なんですか?」と聞いた。
「ああ、俺の世代の人間なら、だれでも知ってるよ。」との言。
Ohさんにも聞いた。
Ohさんも、もちろんよ、と言っていた。



それから、Bさんは、基本的なことを教えてくれた。
「上半身を縛って、そのまま肢を縛るときは、縛られた人は、
 そのまま倒れちゃう。身を支える腕や脚が動かないから、
 すごい勢いで倒れちゃって危ない。だから、一回寝かせてから、
 肢を縛ること。」

そして、Bさんは、もっとも初歩的な上半身の縛り方を教えてくれた。
痛くなく、動けないということが、上手な縛り方。

それから、サロンで、M度の高い、50歳くらいのLさんを、
実際、全身に縄で縛って、見せてくれた。
「Mさん。どう、いたくないでしょ。」とBさん。
「ほんと、身動きできないのに、痛くないわ。」とLさん。

私はちょっとSMに興味ありだったので、真剣に見た。



その日は、勉強会のようになったので、
次にOhさんが、話し始めた。

「みなさん、ここで男女になって外出するのもいいけれど、
 気をつけてね。刑事は2人組でしょう。
 売春をつかまえるとき、2人の刑事が一人ずつ男女を離して、尋問するの、
 まず、相手の名前を知っているか。
 なぜ2人でいるのか。目的地はどこか。
 それを聞いてから、2人の言ったことを照合する。
 名前が違ってたらアウト。
 罪になるのは、女の方だから、男性側は、全部正直に言って、
 早く逃がしてもらおうとするのね。男性側は罪に問われないから。
 (今は買い春の方も罰せられると思います。)
 で、女の方は、警察に連れて行かれる。
 罪なんて軽いの、
 でも、女達は、罰金よりも、警察に行くこと事態が、イヤなの。
 だから、ここの男性もデイトするなら、その辺しっかり
 話を合わせて、行ってちょうだいね。
 男性側が、しっかりしていれば、女性の方は逃れられるから。
 もし、警察に連れて行かれたら、
 身元を全部聞かれるから、家にバレてしまうのよ。」

なるほど、なるほど、とみんなはうなずいた。

女装サロンでは、こんな風な勉強会がたまにあって、
私はそれが大好きだった。

思い出の女装サロン『KFクラブ』 ①

女装サロン「KFクラブ」のこと

このサロンは、もう無くなってしまいました。昔こんなところもあったんだなあと、そんな気持ちで読んでくださるとうれしいです。
このシリーズは、物語風ではなく、ルポ風に書きたく思います。

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私が18歳のとき、本屋で2つの変わった雑誌を見かけた。
表紙は、2つとも大正時代の本を彷彿とさせ、
何か秘密めき、そして背徳的な雰囲気を醸し出しているものだった。
1つは、「奇譚倶楽部」。もう一つは、「風俗奇譚」という題名だった。

私は雑誌をめくり、今までにない興奮を覚えた。
奇譚倶楽部は、主にSM関係の雑誌。
女性が裸で縛られて、顔を布のマスクに覆われて、額に「豚」などと描かれた絵があった。
風俗奇譚は、SMに加えて「女装のページ」があった。
私は、風俗奇譚の女装のページを見て、
胸が躍るような興奮を覚えた。

私はそれまで、女装を趣味としている人が大勢いるとは思っていなかった。
こんなことに性的な興奮を覚えているのは、世界に自分だけだと思っていた。
それが、その女装のコーナーをみると、
みんな同じ思いで、女装への憧れが面面と綴られていた。
感動したし、うれしかった。
私は、その雑誌を、恥かしさを我慢して買った。



「女装のページ」の末に、「KF女装サロン」という広告が出ていた。
『あなたも女装を楽しみましょう。ここは、アマチュアの営利を目的としないサロンです。』
そう説明されていた。

18歳の私は、警戒心でいっぱいだった。
罠かも知れない。法外のお金を取られるかもしれない。
女装者ということがばれて揺すられるかもしれない。
そんな心配で、なかなか申し込めなかった。

なぜなら、「風俗奇譚」という雑誌が、
平凡や明星のような明るいイメージのものではなく、
暗く秘密めいた香りに満ちていたものだったからだ。



しかし、私のどうしても女装がしたいという気持ち。
女装する人たちと会いたいという気持ちは、理性に勝つことができず、
ある日、私は、とうとう申し込みの封筒を出した。
申し込み書には、かなり自分の個人情報を書かなくてはならなかった。
でも、これは、会員資格を吟味する上で必要なことだと思い、
かえって信用できるものだと思った。

返事が来るまで、胸がドキドキする毎日だった。
そして、5日後に、とうとう返事が来た。

返事は、作家の使うような太いペンで書いてあり、すばらしい達筆で、
『貴女の入会を、心より歓迎します。』
と書かれ、私と落ち合う場所が記されてあった。
私は、『貴女』とかかれていることに、とても興奮し、そして満足した。
きっと信用できると、私は確信に近いものを感じた。



約束の日、その駅の改札を降りて行くと、
背が高く躯体のいい老齢の男性が立っていた。70歳くらい。
私は、待っているのは女装の人だとばかり思っていたので、
そこに立っていたのが男性であったことに、少なからず驚いた。

しかし、その男性からは、私が一目でわかったようで、声をかけられた。
「純さんですね。オーナーの西川です。
 あなたの名前は、私しか知りませんからね。」

「よろしくお願いします。」と私は言った。
そして、二人で歩き出した。
「名前を考えておきましょう。何がいいかな。」
「『加奈』がいいです。」と言った。
「では、そうしよう。」とオーナーはいった。

「えー、月会費は1500円。1回遊びに来るたびに700円。
 洋服や下着、かつらを借りると、プラス800円です。
 だから、全部借りると、1回に1500円かかる。
 これでは、若い加奈は、頻繁にはこれないかもしれないね。
 そこで、若い人が安く来られるように、
 少しシステムを変えようと思っているんだよ。」
とオーナーはそう言った。



いよいよオーナーと私は、ある大きなマンションに入って行った。
そして、ある鉄の扉を開けた。
「いらっしゃい。」
といかにも女性のしなのある50歳くらいの男性に迎えられた。
彼は、ここの世話人のOhさんだった。
私は中に入った。

わあ~と私は驚いた。
暗い部屋のイメージしかなかったのに、
すばらしいサロンだった。
3LDK。
化粧部屋に2台のドレッサー。そこの押入れに自分の女装道具をただで入れさせてくれる。
マージャンなどで遊べる8畳の部屋。
セックスができる万年布団の和室の部屋。ドレッサーと、移動のできる姿身がある。

そして、居間は、ソファーがぐるりとあって、鏡がぐるりと張り巡らされている。
ソファーのどこに座っても自分が見える。
すばらしい。

もちろん、お風呂もシャワーも完備。
洗濯も可能。

あの風俗奇譚からは想像もできない、明るいところだった。
私はうれしくなってしまった。

居間のソファーに座って、化粧部屋を見ると、
一人の人が、下着姿になって、鏡に向かっていた。
ドレッサーの両脇に明るいライトがついていて、
至れりつくせりだった。

本棚もあった。
そこに「Female Mimic」というフランスの女装の雑誌があって、
それを見ていると、信じられないくらいレベルの高いフランスの女装者の写真があった。
名前だけは知っていたコッシネールもいた。
私は感激した。



つづく

今日は、連載をお休みします。

今日は、連載をお休みします。
ある一つの話を完結できなくて、暗礁に乗り上げてしまいました。
このお話は、よく考えてから書くことにします。

明日からは、私が生まれて初めていった、「女装サロン」のことを、
書いていきたく思います。これはときどき書きました「女装クラブ」とはちがうんです。
いりんな人がやって来ました。
当時の女装事情のことを盛り込めたらなあと思っています。
物語性はあまりないと思います。

明日、また読みに来てくださると、うれしいです。

合気道の女の子 ③(最終回)

最終回ですが、エピソードを加えましたので、少し長くなりました。
読んでくださると、うれしいです。

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天野家の車が夜の10時ごろ我家の前に止まった。
ご両親と沙希がいた。

沙希は、ピンク色の女の子の服を着て、かつらをかぶっていた。
お父さんはがっちりした人で、お母さんはスタイルのいい綺麗な人だった。
応接間で、父と私が話をした。
お父さんは、険しい顔をしていた。そして、切り出した。

「昨日、沙希は男の子として、純さんと
 駄菓子屋に行き、チャンバラごっこをしたのがあまりに楽しかったらしいのです。
 それで、もう女でいるのは嫌だと、激しいダダをこねまして、
 今日は学校を休ませ、自宅で謹慎させておった次第です。」
お母さんが言った。
「それで、お宅の純さんと家の沙希とはもう遊ばせない方がいいと思いまして、
 今日お願いに上がったような訳なのです。」

父は考えていて、おもむろにいった。
「お宅の沙希さんと家の純を遊ばせないことは、簡単です。
 しかし、それでは、何も解決しないのではありませんか。
 沙希さんは、ご自分は「男子」だという認識をもっておられると聞きました。
 私も家の息子のために、少し学習しましたが、
 自分の性別への認識は、生涯変わらないというのが、今の医学的な見解のはずです。」
お父さん。
「そんなバカなことがありますか。娘にはピアノ、いけばな、琴と習わせております。
 こういうことを通じて、女子の心が育つと思いますが。」
父。
「どうでしょうか。ピアノ、生花、琴とどの道にも、男性の大家がいると思いますが。」

お父さん。
「他に方法がないじゃありませんか。」
父。
「ないのですよ。性の自認を変えることはできません。私が言ったのでは、誤りがあるかもしれません。小児科や思春期外来、児童精神科あるいは産婦人科に行かれるといいと思います。」
お父さん。
「じゃあ、加納さんは、どうしろとおっしゃるんです。」
父。
「もしその子の心が男なら、男の子として育てます。」
お母さん。
「そんな、人の子のことだから、簡単におっしゃるんです。」
父。
「ここにいる我が子は男女どちらに見えますか。
お母さん。
「女の子さんでしょう。」
父。
「この子は男の子です。しかし、心の全部が女の子ではないので、その時々に男の子として育てたりしいます。
 とにかく私のような素人ではなくて、専門の医師に見てもらってください。
 沙希さんと家の純と遊ばせるなというなら、その通りにしましょう。
 あとのことは、ご家庭の問題です。」

そのとき、沙希が大声で泣き出した。
「やだあー。もう女になるのやだー。いやだよー。女になるのいやだー。」
お父さんは、沙希の頬に平手打ちを一発放った。
沙希は泣きやんだが、父と私のいる椅子の陰に逃げた。

沙希のお父さんは、「帰るぞ。」と言って、沙希を残し、お母さんを連れて、出て言った。
お母さんは未練を残して沙希を見たが、お父さんに従って、出て言った。



沙希は私の家に一人残った。
「沙希くん、仕方がないから、おじさんの家で過ごしなさい。」
と父が言った。
「純、2階に寝るところまだあるだろう。」

その日、沙希は、兄の小さくなったパジャマで、私と布団を並べて寝た。
沙希は学校へ行くわけにいかなかったので、家で、母と留守番をした。
服や下着は、兄のお古を着た。
沙希はよく働き、母の仕事をたくさん手伝った。
「沙希くんはいい子ねえ。」と母は何度も言ったそうだ。
夜は、兄の小さくなった柔道着があったので、それを着て、合気道場へ通った。
沙希はずっと男言葉を使い、生き生きとしていた。

その二日後の夜に、沙希のお母さんが訪ねてきた。
男の子の洋服を着た沙希を見ると、目に涙を溜めていた。
お母さんは、沙希の柔道着と、生活費として封筒を置いて行った。
母は、生活費の方は受取らなかった。

母が、「いかがですか?」と聞いた。
沙希のお母さんは、
「今、いろんな専門医の意見を尋ねております。私の覚悟はもうできております。
 でも、主人の方が、頭で分かっても心が納得しないのでしょう。
 一人娘として大切に育てて来ました。美しい娘に育つ夢を持っておりました。
 それが…。」
お母さんは目に涙を浮かべた。

「大変申し訳ございませんが、沙希をもうしばらくお預かり願えませんでしょうか。」
とお母さんは言った。
「重大なことですもの。ゆっくりご決心をなさってください。
 沙希さんはよく手伝ってくれますし、どうぞ家の方はご心配なく。」と母は言った。



沙希のご両親がそろって我家に来たのは、それから5日目だった。

父の両脇に私と沙希が座り、向かいに天野夫妻が座った。
沙希のお父さんは、深々と頭をさげた。
「この度は、沙希をこちらに置き去りにするような形で、
出て行ってしまい、さぞ無責任な親とお思いのことと思います。
弁解の余地もありません。平にお詫びいたします。
またその間、沙希の生活を見てくださり、ありがとうございました。

あのときより、加納さんのおっしゃいますように、
児童精神科、思春期外来等、あらゆるところへ相談にいきました。
各医者は、本人がいないので断定はできないが、
恐らくは、沙希の心は男子であろうという見解でした。
そして、加納さんがおっしゃいましたように、
自分の性への認識は、生涯変わるものではないという学説をききました。
そこで、沙希を男子として育てるのが賢明であるとの意見をどの医者からももらいました。

女子の体をもって、生涯男子として生きていくために
どんな困難があるかも、聞きました。
そして、その困難の大きさを思い知りました。
沙希は男子なのに体は女子であるという重大な障害を抱えた男の子なのだという認識をようやく受け入れることができました。

沙希が不憫でなりませんでした。
夜眠れずに涙に暮れることが何度もありました。
(お父さんは、涙を頬に流した。)

ただ、今は、これだけは思うようになりました。
一番困難を抱えているのは、沙希自身であり、
親である私たちが、その沙希を苦しくしてどうするものかと。
親は、一番苦しんでいる沙希を支えて、勇気付けてこそ、親ではないかと。
恥ずかしながら、ここまで考えがいたりますのに、長い時間がかかりました。
そこで、今ごろになってお伺いしました次第、お許しください。

これからは、沙希の願いを叶え、沙希を男の子として育てます。
世間の風当たりは、
私たち妻と私で、できるだけ受けて立つつもりでおります。
そんなことで、どうか、7日間もお預かり願った沙希を、お返しいただきたく、
お願いにあがりました。」
お父さんの両目から、涙が幾筋も流れていた。

お母さんが言った。
「沙希。これから、あなたを男の子だとお母さん達思うことにしたの。
 家では、男の子の服を着ていいし、男の子の言葉を使っていいし、
 学校も、男の子として通えるようにお願いする。
 学校が終わったら、男の子の遊びをしていいの。
 お稽古事もしたくないものはしなくていい。
 沙希、お父さんとおかあさんで決心したの。
 だから、お家に戻って来てくれる?沙希。」

お母さんは、目に涙をいっぱい溜めていた。
沙希は、夢のようは顔をして聞いていた。
やがて、それが、夢でないと気がついて、顔中涙でいっぱいにした。
「お母さん、ほんと…。」沙希は言った。
お母さんは、何度もうなずいた。
「お父さん、ほんとう…。」
「沙希、全部ほんとうだ。」お父さんが言った。
「お父さん、お母さん。」と沙希は、
お父さんとお母さんの間に飛び込んでいった。
三人は抱きあって、泣いた。



運転手付きの車があるのに、お父さんとお母さんは歩いてきていた。
二人の間を、喜びながら、スキップして歩く沙希を見た。
大きな覚悟と決意をかみ締めながら、
ご両親は歩を踏みしめていたにちがいない、そう思った。


<おわり>


●次の日、沙希と沙希のお母さんが来て、運転士さんが大きな箱を思ってきた。
 中に入っていたのは、沙希が着ていた衣類の数々。お嬢様の高級服。
「沙希は、もう着ませんので。純さんならばと。」というお母さんの言葉だった。
「沙希ありがとう。」と言って、私は飛び上がってしまった。
 それから、円筒の入れ物。中には、沙希が使っていたかつら。多分高級かつら。
「これは、いざと言うとき、お使いになるのではないですか。」と母が言った。
「いらない。もう絶対かぶらない。」と沙希は言った。
私はまた、飛びあがって喜んだ。

家からは、兄の使い古したランドセルをさしあげた。
ぴかぴかの黒のランドセルでは、6年生として恥かしいでしょうからということで。
沙希はすごく喜んでいた。
それから、母は、兄の着古しの服を差し出した。
「沙希さんは、もっと高級なのをお召しになるのでしょうが、
 当座のものとして、いかがですか?」
すると、沙希がよろこんだ。
「新しい服は、カッコわりーよ。お母さん、もらって。」と沙希が言った。

沙希のお母さんが、お世話になった生活費として封筒を置こうとしたが、
母は、それだけは受取らなかった。
「沙希さんがいて、家も楽しかったからのですから。」と母はそう言った。


<エピソード1>

沙希の学校では、沙希の登校する日までに、全職員、全学年の児童に十分な説明を行った。
沙希のクラスには、マドンナ沙希が、男になったということで、ショックを受けている男子がいたが、
おおむね、歓迎の雰囲気だった。
朝、先生と来たベリーショートの沙希を見て、みんなは歓声を上げた。
沙希は、みんなの前に立って、開口一番、
「よ。みんな。」と言ったらしい。
それで、みんなが笑った。
「俺、いままで、女の振りしてみんなを騙していて、ごめん。
 心は男だったからさ、俺も辛かったんだ。
 だからよ。男子ー!俺と遊んでくれー!
 女子ー!俺を好きになってもいいぞー!」
すごい歓声と拍手が起きた。
マドンナが、自分達の仲間になって、男子は大喜び。
マドンナがステキな王子様になって、女子は大喜び

めでたしめでたし。


<エピソード2>

日曜日。
沙希と二人で、遊園地へデイトに行った。
私はラブラブな気分を楽しむため、沙希の腕を抱いて女言葉を使った。
沙希からもらったドレスの中の、小さめな赤いワンピースを着て行った。
「俺達、健全な男女なんだよな。」と沙希が言った。
「ほんとね。なんかおもしろいね。」と私。

ジェットコースターに乗ったとき、
私は怖くなかったけれど、一応女の子として、
「キャー、助けてー。」と叫んで、沙希に抱きついた。
沙希は平気な顔をして乗っていた。
やっぱり沙希は男の子の心をもってるんだと思った。

二人で氷を食べながら。
「純はさ、我家じゃ、俺の命の恩人ってことになってる。」と沙希が言う。
「どうして?何もしてないよ。」
「全ては、合気道場でさ。純が『ぼくは男だから。』って言った言葉から始まってる。
 純が、そう言わなかったら、俺は自分のこと告白しなかった。」
「そうなんだ。うん、そうかあ…。」と私は妙にうなずいてしまった。

「純の心が完全に女の子だったらな。それが残念だ。
 でも、俺、必ず見つける。女の心をもった男の子。
 その子と結婚して子供を作る。
 父と母は、俺を男の子として育てると決めたとき、
 きっと、俺の結婚とか子供をあきらめたと思う。
 どれだけすごい決心をしてくれたか、だんだん分かってきた。
 だから、俺、父母をびっくりさせるんだ。子供産む。
 それが、今俺が考えてる夢。」沙希は言った。

「きっと会えるよ。沙希とぼくが会えたように。
 奇跡って何回も起きる気がする。」と私は言った。
「そうだな。きっとそうだ。」と沙希は空を見上げた。
「空がきれい。」私は言った。

高い空にすじ雲が遠く長く走っていた。



合気道の女の子 ②

そのうち、ドアのノックする音がして、
お手伝いさんが、ジュースとモモを持って来た。
沙希は、胡坐の足をさっとととのえて、
「ありがとう、そこに置いといていいわ。」と言った。
おしとやかなときの沙希は声が少し違う。女の子のように可愛い。

「分かるよ。沙希の気持ち。」と私は言った。そして、
「ぼくの場合と男女をひっくり返せばいいんだよね。
 ぼくは、男だけど、女の子にみられたい。
 女の子の遊びがすき。
 女言葉を使うのがすき。」と言った。

「そうそうそう。」と沙希が言った。
「でも、ちょっと違う。
 ぼくは、心は男だから、女の子を好きになる。
 沙希はどうなの?」と私は言った。

「俺かあ。俺は男だから、とうぜん好きになるのは女だ。」
「クラスに好きな女の子がいる?」
「クラスにはいないけど、純が好きだ。
 昨日純に見事に技かけられて、なんか好きになった。」
「なんか、変だね。ぼく達男女だから、結婚できるよ。
 で、ぼくがママになって沙希がパパになる。」
私はそう言って笑った。

そのとき、沙希が真剣な顔になった。
「待てよ。俺は純みたいな女の子と結婚すればいいのか…。
 子供は俺が産む。でも育てるときは、俺がパパ、純みたいな子がママ。
 そうか。希望が涌いてきた。パパもママも、喜ぶ。
 やったー!俺、結婚できる!」沙希は喜んだ。
私はそのころ、男女の間に子供ができる仕組みを知らなかった。
沙希は、知っていたのだろう。

「ぼく、おしとやかな沙希なら、好きになれるけど、
 男の子の沙希は、友達としか思えない。」と私は言った。
「それが、悲しいとこなんだ。
 おしとやかな俺のこと好きらしい男子がいる。
 いっぱいいる。だって俺、クラスのマドンナだもん。
 学校じゃ完璧女の子やってるから。
 でもそれ、俺には全然うれしくない。」

「ね、今からぼくの家行こうか。
 兄ちゃんのズボンとシャツ借りてさ。
 二人で駄菓子屋いこうよ。」と私は言った。
「うん。それうれしい。すぐ行こう。」沙希は言った。



沙希を連れて、家に言った。
「お母さん、この子、沙希。女の子だけど心は男の子なんだ。」
と母にいった。
「まあ、こんなに可愛いのに。」と母は言った。
「兄ちゃんの男の服貸してくれない。
 沙希の願い叶えてあげたい。」
そういうと母はすぐにわかってくれた。

「なんで、お前ん家、あれだけで通じるの?」と沙希が言った。
「うん、いろいろぼくのことで苦労してるから。」と言った。
「いいなあ。」と沙希がぽつんと言った。

私の机があるところで、沙希は、かつらをとった。
きれいなワンピースをとるとき、沙希は言った。
「純、俺一応女だから、下着姿見られるのはずかしい。」
「あ、ごめん。」と私は後ろを向いた。
「いいよ。」と言われて振り向くと、
Tシャツに半ズボンの沙希がいた。
ちょっと胸が膨らんでいる。
「胸がわかるから、もう1枚Tシャツ着た方がいいよ。」
と私は言った。

こうして、沙希は男の子になって、女の子の私と二人で駄菓子屋に出かけた。
沙希は駄菓子屋が初めてだった。

沙希は憧れの駄菓子屋に目を輝かせていた。
酢イカとかソースせんべい、ニッキー、トコロテン、くじ引き…片っ端からたのんでいく。
そして、みんな、「うめー、うめーと食べていた。」

「ぼくちゃん、景気がいいねえ。」と店のおばちゃんが言った。
沙希は「ぼくちゃん」と言われたことがうれしいらしく、上機嫌だった。

店にガキ大将っぽい子と仲間がいて、ガキ大将が言った。
「俺達に10円ずつおごってくれよ。
 そしたら、おもしろいチャンバラごっこ連れてってやる。」と言った。
「OK。何人。」と沙希は二つ返事で言った。
向こうは5人だった。
沙希は、みんなに10円ずつ配った。



おもしろいチャンバラごっこというのは、ほんとうだった。
他地区の子と、ガキ大将の仲間と、大決戦をやると言うのだ。
両方基地を持っていて、そこで、チャンバラの木の棒と、
手裏剣なんかを木の端っこで作って、作戦を練ってせめていく。
私は女の子のだったがちゃんといれてくれた。
手裏剣を投げたり、どんどん作ったり、
体一つで敵陣に乗り込んだり、味方を助けたり。
これまでやったチャンバラごっことは、比べられないおもしろさだった。

沙希はもう夢中になってやっていた。
あんなに生き生きした沙希を見るのは初めてだった。



やがて、日が暮れて、チャンバラを終えるときになった。
沙希と私に、ガキ大将は別れるとき言った。
「沙希は、なかなかやるな。たいしたもんだ。
 純も、女にしては上出来だ。」
「楽しかったよ。これ毎日やってるの?」と沙希は聞いた。
「月1だな。また来いよ。」とガキ大将。
「じゃあな。」と言って別れた。

帰り、沙希が完全に満足しているのが分かった。
例えれば、私が、パーティードレスを着せてもらい、
完全メイクをしてもらったような気持ちかなと思った。

帰り道の階段で、沙希は座りこんでしまった。
私も横に座った。
「純、ありがとう。俺、こんなに楽しかったの初めてだ。
 みんな俺のこと男だって見てた。
 俺、ずっとこのまま男でいたい。家に帰りたくない。」
私なら、メイクを落としたくない、と淋しく思っているのと同じだ。

「沙希、また、あそぼうよ。今日で最後じゃないから。」
そう言って、沙希を慰めた。



私の家に戻って、沙希はステキなワンピースを着て、かつらをかぶり、
可愛い女の子にもどった。
「あああ、また、『女』やるのか…。」と沙希はうなだれた。

私は沙希の家まで沙希を送った。
歩いて行っても遠い距離ではなかった。

「明日、合気道だな。」と沙希は言った。
「うん。男になれるよ。」
「そうだな。」沙希はそう言って、家の門をくぐった。



その次の日、沙希は合気道場へ来なかった。
せっかく男になれる日なのに。
家でなにかあったに違いない。
昨日のチャンバラがいけなかったのか。
駄菓子屋がいけなかったのか。
それがバレて、家でひどく怒られたのか。
私は気になってしかたがなかった。

兄と二人で、合気道から家に帰り、遅い夕飯になった。
両親は心なしか沈んでいる。
円善を囲んで、食事をとる。

父が、「天野沙希という子知ってるか。」と言った。
私「知ってる。今日合気道来なかった。
  女の子だけど、自分は男だと思ってる子。」
父「今日、家にご両親と来るというんだ。」
私「なんで。」
父「昨日純たちと遊んだのが、あんまり楽しかったので、
  もう女には戻りたくないと言い出したらしんだ。」
私「それで、合気道に行かせてもらえなかったのかあ。」
 私は思った。


つづく

合気道の女の子 ①

一つ思い出しました。第3話で書きます。読んでくださるとうれしいです。

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私が6年生のときの九月。
私はそれまで、ある友達のお母さんの言葉がショックで、
男言葉が出なくなっていた。
そこで、女の子の姿をして、女言葉を話していた。
これは、8月のあいだ、きっちゃんという子と遊んだことで、
男言葉が出るようになっていた。
でも、私はもう少し女の子でいたかったので、
九月になっても、女の子の格好をして、女言葉を使っていた。



その頃、合気道を週に3日通っていた。
学校から帰ったら、お結びを1つ食べ、
兄といっしょに都電に乗って、道場前に行った。
道場は、合気道の創始者植芝盛平翁のいる本部道場だった。

道場は、木造の1階建てで、ものすごく広くて、
いつも2百人くらいの人が来ていた。
受付で名前と時刻を書いて、自分の札を返して、
道場の回りの板の間で着替える。
更衣室もあったが、それは、有段者のもの。
白帯は、廊下だった。

私は女の子に見えるということで、ある師範の言葉で、
道着の中にTシャツを着るように言われていた。
Tシャツ無しだと、相手が遠慮をしてしまいやりにくいということだった。
Tシャツに、道着は胸の襟に付いたヒモを結ぶ。
私は、髪が多かったので、どうせ女の子にみえるならと、
髪を左右に束ねて、黒ゴムで結んでいた。
これで、だれが見ても女の子だった。

道場には、女の子が集まって着替えをするようなところが自然にできて、
男子の視線を互いにさえぎっていた。
だから、なんとなく稽古は、女同士でやることが多かった。

稽古は、拍子木がコーンとなると、道場生は、畳の道場の回りへ広がる。
そこで、師範が次の技を見せる。
「はい。」と言われて、みんなはその技をやる。
2人組みになって、たいてい交代で投げる。
私はとなりにいた、髪がベリー・ショートの子と組んだ。
背が私よりずいぶんと高い。ベリーショートが似合うかなりな美人だった。
「何年?」と聞くので、
「6年。」と答えた。
「小せいな。」とその子は、男の子のような口を聞く。
その子は技をかけてきた。
私は、すんなり技にかかって、畳で受身をとった。

次は、私が掛ける番。
その子が来ると、私はあっというまに、技をかけて、その子を畳にねじ伏せた。
「つ、つええなあ、お前。」とその子は言った。
2シリースが終わって、少しの休憩になった。
「お前、名前なんての。」
「加納純だよ。」
「俺は、天野沙希。」
沙希は板の間にあぐらをかいていた。
「純はつえーなあ。体ちっこいのに。」
「ぼく、男だからね。」
「え、お前男?Tシャツ着てるし、髪結んでるじゃん。声だってよ。」
「女に見えるから、Tシャツ着ろって師範に言われてる。」
「胸、ペッたんこか?」
と沙希は、私の胸をなでた。
「やめてよ。」と私。
「沙希は、あるの?」と私が触ろうとすると、
沙希は、「や、止めろよ。」と言って体をねじって、触らせないようにした。
「自分はやっといて。」と私は言った。
「俺、女だから、男の純に触られるのやだ。」
「どうして、男言葉遣うの。」
「俺、男になりてえ。」沙希は少しうつむいていった。そんなに可愛いのにと私は思った。
「本気?」と私。
「ああ。これ言ったのは、純が始めてだ。
 純も変なヤツだから言えた。俺本気。」
「一日中男でいるの?」
「合気道やってるときだけ。」
「学校では。」
「おしとやかな女やってる。」
「家では?」
「もっとおしとやかにやってる。」

「次の日曜会えないか?」と沙希は言った。
「いいよ。」
「じゃあ、午後の2時。西小の玄関で待っててくれないか。
 俺の生活が、どんなに悲惨か、純見てくれよ。」と沙希は言った。



日曜日。
私は約束の時間に西小学校の玄関で待っていた。
西小は、ここらの小学校で、一番いい学校だった。
みんな越境入学でこの学校へくる。

私が沙希を待っていたら、代わりに1台の車が来た。
黒いとても大きな車だった。
「加納純様ですね。沙希様のお使いで参りました。
 どうぞお乗りください。」と運転手の人に言われた。
わあ、VIP待遇だと思った。
沙希は相当なお金持ちらしい。

車はすぐ沙希の家に着いた。
うわあ~と思えるくらい大きな屋敷だった。
運転手さんに玄関に案内されると、
すぐに和服姿の、お手伝いさんが来て、
きちんと座って礼をされた。

「お嬢様は、ピアノの練習が少し伸びておりますので、
申し訳ありませんが、そこの椅子でお待ちいただけませんか?」
と言われた。
わあ、沙希はピアノを習っている。
しかも、先生の方がやって来るんだ。
私は姉のお古の少し見すぼらしいワンピースで来たことを少し後悔した。
といって、これ以上綺麗な服はないし。

やがて、ピアノの先生と、沙希のお母さんらしき人と、
もう一人、光沢のあるベージュのワンピースに、
長いふんわりとしたロングの髪の毛の女の子が来た。
お手伝いさんが、手際よく、先生の靴をそろえていた。
ロングの髪の子は沙希だと思ったけど、自信がなかった。
先生にさよならを言っている。

先生が帰ると、長い髪の子が、
「純さん。こちら母。お母様、こちら加納純さん。合気道のお友達。とっても強いのよ。」
沙希はにっこりしてそう紹介した。
「まあ、可愛い方ね。沙希のお友達になってくださいね。」とお母さんは言った。

「じゃあ、純、上がって。」沙希はそう言った。
そして、お手伝いさんに、ジュースと果物をもって来てくれるように言った。

沙希が部屋に案内してくれた。
そこは、8畳間はあると思われる洋風の部屋だった。
ベッド、机、ピアノ、当時憧れのものが、みんなそろってた。

部屋の中に入って、沙希と二人でベッドに座って並んだ。
沙希は、ベッドの上で、胡坐をかいていた。
「純、これが、俺の日常。男になれる環境だと思う?」と沙希が言った。
「髪の長い子みたとき、沙希じゃないと思った。」

「俺さ、女でいるのがいやで、気が狂っちゃったんだ。
 そのとき、自分の長い髪の毛、ハサミでめちゃめちゃに切っちゃった。」
「そこまで、思い詰めてたの?」と私は聞いた。
「半分坊主になった俺を見て、父と母は腰抜かした。そして、俺を美容院に連れてった。
 そして、ショートヘヤーの一番短いのにした。
 それでも、虎刈りが少し残ってた。
 そこで、美容院で長い毛のかつらをかぶらされた。
 家にいるときと、学校では、このかつらをかぶってる。
 このかつらをとっていいのは、合気道のときだけ。
 俺、合気道のときだけ男になれる。」
「沙希、長い髪のとき、すごく可愛かった。もったいないよ。」
「俺にとっちゃ、女として可愛いなんて気持ちわりーだけだよ。」


つづく

純・中学3年生の恋 (最終回)

これで、最終回です。だらだらと長く書きましたものを読んでくださり、ありがとうございました。

==============================

<感謝の手紙>つづき

加納君は、私が男子を怖がっていることを
知っているんだと思いました。
だから、女の子の格好で来てくれたのです。
ふつう、そんなことをしてくれる男の子がいるでしょうか。
私は、感激しました。
だから、私は、女の子のジュンとリラックスして話せました。

そんなやさしいジュンの心に打たれて、
私は、ジュンに、つらかった前の学校のことを話せました。
一生黙っていようと思っていたことなのに、
ジュンには話せたのです。

それを、聞いてジュンは、泣いてくれました。
たくさん泣いてくれました。
そして、慰めの言葉をくれました。
無理しちゃだめだよ。
心の傷は、ゆっくり治さなければだめだよ。
その言葉は、私の胸の奥にとどきました。
男の子は怖いと思っていたのに、
ジュンのようなやさしい人がいることを知って、
感激しました。

(ご家族が、泣いていた。)

次の日、もっと驚くことがありました。
加納君は、セーラー服で学校へきたのです。
加納君は、自分のために着てきたんだと言いましたが、
私は、私のためにそうしてくれたのだと思いました。

私がお話をしやすくなるように、そのためかなと思いましたが、
それだけでは、ありませんでした。
加納君は、手をつないで、いっしょに校庭に行こう、
女同士だから恥かしくないよって、
私を誘ってくれました。
毎日、毎日さそってくれました。
そして、いつの間にか、
私は、みんなのドッジボールの中で遊べるようになっていました。
ジュンがいると、心強くて、
私はいつのまにか、大きな声で話し、
友達への怖さを少しずつ忘れていきました。

やがて、男子もドッジボールの中に来るようになり、
私は男子にも、気軽に話すことができるようになっていきました。
クラスの男の子たちは、みんないい人ばかりでした。

ジュンは言いました。
心の傷を治すには、
みんなから、たくさんたくさん優しくされないとだめだよ。
楽しい思いをたくさん重ねないとだめだよって。

私は、毎日加納君から、いっぱいやさしさをもらいました。
ドッジボールをして、楽しい思いもたくさんしました。

ある日、私は、心の傷が治ったと感じました。
男子も女子も怖くありませんでした。
そして、女子のとってもいい人達のグループに入れました。
このグループにいれば、絶対安心だと思えました。

その次の日、加納君は、男子の制服で学校に来ました。
加納君は、私がもう大丈夫だと思ったからです。
やっぱり加納君は、私のためにセーラー服を着て、学校へ来てくれたのだと確信しました。
感激しました。泣いてしまいそうでした。

加納君は、合気道をやっていて、
その稽古のために、家では勉強する時間が全くないことを知りました。
だから、学校で、5分でも時間があれば、勉強をしていたのです。
そんな大事な休みの時間を、
加納君は、私のためにどれだけ使ってくれたでしょうか。
思うとありがたくて、涙が出てしまいました。

(麻衣が泣き出してしまった。ご家族も。)

お父さん、お母さん、由紀。
私の心の傷は、多分だけど、治りました。
今まで、心配をかけて、ごめんなさい。
私は、もう大丈夫です。

加納君、ありがとう。
何回言っても、いい足りないくらい感謝しています。

最後に、加納君が私に何度も言ってくれた言葉をいいます。

私も加納君が好きです。
私が生まれて初めてする告白です。
          近藤麻衣
*   *   *

読み終えて、麻衣はその手紙を私にくれて、座った。
麻衣は涙の目をハンカチでぬぐった。
私と目が合った。
私は微笑んだ。
麻衣も微笑んだ。

お父さんも、お母さんも、由紀ちゃんも涙に暮れていた。

そのうち、お父さんが、言った。
「私たち家族は、麻衣の心の傷は、もう治らないと思っていました。
 最悪の場合、不登校になることも覚悟しました。
 ところが、この世に加納君のような人がいてくれたとは、
 麻衣にとって、語り尽くせないほどの幸せなことでした。
 麻衣のために、学校へセーラー服を着て行ってくれるなんて。
 その勇気と思いやりに、涙が出ました。
 そして、麻衣を実際みんなの中に入れるようにしてくれました。
 いくらお礼を言っても足りません。
 ありがとう。加納君。君によって、麻衣は助かりました。

お父さんは、そう言って、泣きながら深々と頭を下げた。

「麻衣よかったわね。加納君、ありがとう。」
とお母さんが涙を浮かべて、麻衣を抱いた。

由紀ちゃんも涙ながらに言った。
「あたし、お姉ちゃんが心配だったから、それとなく見ていたの。
 あるときから、おねえちゃんが、校庭に来なくなって、
 やっぱりだめかなあと思ってた。
 そしたら、家に来てくれた、ジュンさんが、お姉ちゃんのそばにいて、
 二人で外にいた。
 きっとジュンさんが、誘ってくれたんだと思った。
 お姉ちゃん、だんだんみんなの中でドッジボールやるようになった。
 お姉ちゃんのそばに、必ずジュンさんがいて、見守ってた。
 まさか、男の純さんが、セーラー服来て、そばにいてくれたなんて思わなかった。
 そんなことしてくれる人、この世にいないと思う。
 お姉ちゃんは、去年辛い思いをしたけど、
 今年、それよりもっとたくさんジュンさんのやさしさをもらったと思う。
 ジュンさん、ありがとう。お姉ちゃん、よかったね。」
由紀ちゃんは、目にハンカチを当てた。

私は言った。
「あのう、幸せなのは、ぼくでした。
 麻衣さんを見たとき、一目で好きになりました。
 その麻衣さんが、ぼくが休み時間一人で勉強しているとき、
 いっしょに教室に残ってくれていました。
 とてもうれしかったです。
 席替えで隣になったときは、天にも昇る思いでした。
 ぼくがセーラー服を着て学校へ行ったのも、
 これなら、麻衣さんと手をつないで、外にいけると思ったからです。
 麻衣さんにぼくがしたことなんて、ありません。
 全部、ぼくが自分の幸せのためにしたことです。
 だから、お礼を言いたいのはぼくの方です。
 麻衣さん、いっしょに手をつないでくれて、ありがとう。
 ぼくは、幸せでした。」

麻衣は泣いていた。
ご家族が拍手をしてくれた。



さあ、ケーキを食べましょうとお母さんが言った。
みんなでわあーいと言った。

ケーキを食べながら、お父さんが言った。
「しかし、加納君ほど、女装が似合う男子もいないね。」
「そう、あたし、女の先輩だって、ぜんぜん疑わなかったもの。」と由紀ちゃん。
「あのとき、知っていたのは、麻衣だけなのよね。」とお母さん。
「うん、女の加納純さんなんていないもの。おもしろいからだまってた。」と麻衣。
「ぼくの、最大の特技なんですよ。困ることもありますけどね。」と私。
「どんな?」とみなさん。
「学校でぼくを初めて見る人は、たいてい、ぼくのことを、
 学制服を着た女子だって見るようです。
 で、そばにきて、君、何か訳があるの?って聞かれます。」
 訳なんて、ありませんってば!」と私は言った。
みなさんが笑った。

そんな風に、後は笑いながら、近藤家での一日が過ぎて行った。
私はみなさんが見送ってくれるなか、
大きく手を振って、さよならをした。
心が、ぽかぽかと温まっていた。

道を曲がるとき、麻衣が追いかけてきた。
「ジュン、待って。」と息を切らす麻衣。
「なあに。」と私。
「最後に、感謝の印。」と麻衣は言って、
私の頬に、キスをちょっとしてくれた。
ああ、天にも昇る気持ち。
「うれしい、ありがとう。」
私は、赤くなりながら言った。
麻衣もほんの少し赤くなっていた。
「じゃあ。」と言って、私は走った。

私の中学生活で、いちばんうれしい瞬間だった。

夕刻前。
空に入道雲が、西日を受けて輝いていた。


<おわり>

純・中学3年生の恋 ⑤

「次、第1位。これは、もうわかってるだろう。」と先生が言った。
「え、わからないっすよ。」と誰か。
「ガリ勉の純かな。」とまた誰かが言った。
先生。
「そう、加納純だ。」
「そうかあ…。」などとみんなは言っていた。
麻衣が驚いて私の顔を見た。
私は、麻衣に、「にー。」と笑って見せた。
麻衣はうれしそうな顔をした。
先生は。
「お、みんな、加納にも拍手してやれ。トップだぞ。」と言った。
「ガリガリ勉強してるんだから、当然かなって。」と誰かが言った。

「なんだ、お前たちは、知らなかったのか。」と先生は言って、
「加納は、お稽古事をやってるんだよ。
 その早朝稽古が2時間。学校が終わったら、4時から9時までお稽古をしているんだ。
 一日7時間もやっている。
 つまり、加納は家では一切勉強をしていない。
 宿題も予習復習も全部学校でやっとるんだよ。
 5分休みも、昼休みも勉強しているのは、そのためだ。
 それを、みんなは、えらいと思わんのか。」と言った。

「ええ!知らなかった…。それは、すげー!」と誰かが言った。
「めちゃすげーよ。」と誰か。
そして、やっとみんなが拍手をしてくれた。
私は、立って、にこにこと挨拶をした。
麻衣が、
「そうだったんだ。知らなかった。大切な休み時間を…。」と独り言のように言っていた。

ホームルームが終わったとき、何人かが、私のところへ来た。
「純、純のお稽古事って何?」
「お琴とか、日本舞踊とか?」と言われた。
「やっぱり、そのへんに見える?」と私は答えた。
「うん、お稽古だもん。純、女の子っぽいし。」とみんな。
「今度、見せてよ。」と誰か。
「あんまり、見せるもんじゃないから。」
私はそう言って逃げた。
私のイメージからして、合気道はなんとなく恥かしかった。

麻衣のところにも大勢来て、第2位を誉めていた。
「麻衣、すごーい!」と抱きしめる子もいた。
「このー、美形で才女なんだから。」そんなことを言っていた。
このクラスには、誰かのいい成績をやっかむ人はいなかった。
担任の岡田先生がいいからかな。



私が男子服になっても、麻衣は、いっしょに帰ることを嫌とは言わなかった。
麻衣の心は、そこまで回復していた。

その日、いっしょに帰りながら、麻衣は、
「ジュンが、そんなに成績いいなんて、知らなかった。
 ジュンが、ガリガリ学校で勉強してたわけを知って、感動した。」と言った。
「好きなことをたくさんやりたいから。」と私は言った。
「ジュンのお稽古事ってなあに。」
「ぼくのイメージじゃないから恥かしい。」
「笑ったりしないから。」
「合気道。」
「武道だったの?先生、『お稽古事』なんていうから、お琴とか三味線かと思った。」
「そうだよね。」と私は笑った。
「ジュン、強いの?」と麻衣が聞く。
「弱いよ。だから、がんばってる。」と私は答えた。


「ジュン。ジュンには、たくさん感謝してるから、お礼をしたいの。
 次の日曜日、私の家に来れる?」
「うん、日曜日は、休みだから行ける。」
「じゃあ、12時に昼食べないで来てくれる?」
「うん。OK。」
「男の子の純を紹介したいから、男子の制服で来て。」
「Yシャツとズボンでいいの?」
「うん。それでいい。」と麻衣は言った。



約束の日曜日、今度は男子の制服で、近藤さんの家に行った。
ちょっと男に見えるように、前髪を分けて、
少し太目の眉が見えるようにした。

近藤さんの家のインターフォンを押した。
出てきたお母さんは、今度は男の純だったので、驚かなかった。
「いらっしゃい。どうぞ。」とお母さんはにこにこしていた。
「失礼します。」と私。
中へ入って、居間へ案内されると、テーブルに豪華なお料理が並んでいた。
「わあ~。」と私は言った。
家族の人みんながそろっていた。
みんな、にこにこしている。
私は、(お父さんが言っていたように)興味津々に見られているようだ。
私は中央の椅子に座った。
由紀ちゃんと目が合った。
由紀ちゃんは、にこっと笑って、会釈をした。
私もにこっと笑顔を送った。
由紀ちゃんが、私は女のジュンと従姉なので似ていると言ったためか、
私がこの前の女のジュンだとは、思われていないようだった。

麻衣の学校での表情と家での表情が、やっと同じになった。
私は感慨を深くして、お料理をいただいた。
いただきながら、地が出てしまい、たくさんしゃべった。
「純君は、女ジュンさんと同じくらいおもしろいね。」とお父さんから言われた。



お料理が片付いたとき、お父さんが言った。
「今日は、麻衣が加納君に感謝の手紙を書いたというんですよ。
 聞いてやってください。」

麻衣がある紙をもって立ち上がった。
「これは、お父さんやお母さんや由紀が知らないこともあるので、
 みんなで聞いてね。」と言った。
麻衣は読み始めた。


<感謝の手紙 加納純くんへ>

私は前の学校で、辛い思いをして、
友達が怖くて、心を開けませんでした。
そんな心のまま、今の学校へ転校して来ました。
クラスのいろんな人たちが、私に声をかけて、
友達になろうとしてくれたのに、
私は、やっぱり人が怖くて、話すことができませんでした。
みんな私をあきらめて、
休み時間、私はまた一人ぼっちになり、
教室に残っていました。
そのとき、もう一人、加納君が教室にいました。

ああ、私一人じゃないと思って、
心が救われました。
加納君は、いつも勉強していました。
そんな加納君を見ているのが好きでした。
そのうち席替えになり、加納君ととなり同士に
なることができました。
男子の中で、一番となりに来て欲しいと思っていた人でした。
休み時間になると、並んだ二人だけ教室にいて、
お話もしなかったけれど、
一人ぼっちじゃなかったことが、
とてもうれしかったのです。

その加納君が、あるとき、
びっくりするほど自然に、
私の家に遊びに行きたい、
なぜなら、君が好きだからだと
言ってくれました。

加納君は回りのことなんか見ていない人だと思っていました。
まして、私のことなんか。
だから、とてもびっくりしました。

でも、もっと驚くことに、
約束の日曜日に来てくれた加納君は、
セーラー服を着ていました。

(このとき、お父さん、お母さん、由紀ちゃんは、
驚きの表情で、私を見ました。
 私は微笑み返しました。)


つづく(次回は完結編です。)

純・中学3年生の恋 ④

昼休みになった。
私は思いきって麻衣に言った。
「ぼく、麻衣と手をつないで、外を散歩したい。
 女同士に見えるからいいかなって思って。」
麻衣はしばらく考えていて、
「うん。行く。連れて行って。」と言った。

私は麻衣と手をつないで、校庭に出た。
手をつなげて、すごくうれしかった。

外は快晴の空だった。
「外もいいね。」と私は言った。
「うん。ジュンがいるから、平気。」
と麻衣は、外の空気を胸いっぱいに吸いながら言った。



私たちは、手をつないで、校庭の花壇や、
飼育の小鳥達を見に行った。
それから、ドッジボールをやっているクラスの女子達のそばに行った。
しばらく見ていたら、
「ジュンと近藤さんも入りなよ。」とみんなが声をかけてくれた。
「麻衣どうする?」と聞いた。
「やってみる。」麻衣はそう言った。
そこで、2人わかれて、コートに入った。
「ジュンは、男の子だから、本気出しちゃだめよ。」と言われた。
「うん、じゃあ、左手でやる。」そう言った。

麻衣は楽しそうにやっていた。
私はそれがうれしかった。



学校からの帰り道は、麻衣と途中までいっしょだった。
もちろんいっしょに帰った。手をつないで。
「この学校の先生も、生徒も変わってるね。」と麻衣が言った。
「どうして?」と私。
「だって、ジュンがセーラー服着て学校へ来たって、すごいことなのに、
 ほとんどみんなびっくりしない。
 ジュンの言葉を聞いて、あっさり理解してた。」と麻衣。
「それは、去年、ひとみって子が、男子だったんだけど、
 心は女の子だったのね。そこで、学校は、ひとみを女子として扱うことをOKしたの。
 そのとき、先生も生徒も、そういうのみんな理解した。
 だから、ぼくのときも、すぐわかってくれた。」と私。

「今日、外でドッジボールしたとき、
 あたしだけなら怖かったけど、
 ジュンもいてくれたから、すごく安心できた。
 ジュンありがとう。」と麻衣。
「ぼくは、麻衣と手をつないで歩けて、
 最高に幸せだった。手をつないでくれて、ありがとう。」

私たちは、そう言い合って別れた。



六月の中旬になって、生徒は夏服に変わった。
私はリーダーに夏服ももらっていたので、大丈夫だった。
夏服は、スカートも薄手だった。
麻衣の夏服姿は、眩しいくらいステキで、私はため息が出てしまった。

私は毎日毎日夏のセーラー服で登校した。
中休みや昼休みは、かならず麻衣をさそって校庭に行った。
そして、ドッジボールに入って遊んだ。

麻衣の言葉は日に日に増えて、とても楽しそうにしていてうれしかった。

ドッジボールにそのうち男子が入るようになった。
男子は聞き手と逆の手を使うルールで。
私のクラスは、男女の中がかなりよいクラスだった。

麻衣は、男の子にボールを当てられたとき、
「あーん、やられた。」などど、男子に向かって言えるようになってきた。

こうして、ドッジボールをしながら、
麻衣は、ある女子グループと行動を共にするようになった。
それは、真面目で、性格もやさしい人達のグループだった。
私から見て、最適なグループに麻衣は入った。
あのグループにいれば、もう安心だと思った。

麻衣は、前の麻衣ではなかった。
明るくおしゃべりな麻衣になっていた。
男子とも、気軽に話せるようになっていた。

そのうち、私がそばにいなくても、麻衣は平気になってきた。
麻衣は、もう大丈夫。
それが、うれしくてたまらなかった。

私はまた、休み時間は、教室でガリガリ勉強するようになった。
麻衣が外に行けるようになったから、私は一人になった。
少し淋しかった。
でも、合気道の稽古で、家ではほとんど勉強をする時間がなかったから、
休み時間は、貴重な勉強の時間だった。



そんなある日、私は男子の夏の制服に戻って、登校した。
「ジュン、心が男に戻ってきたのか。」とみんなに言われた。
「うん、晴れ時々男。」と答えた。

麻衣が来た。
私の男子服の姿を見て、私を見つめていた。
気のせいか、麻衣の目が潤んでいる気がした。
麻衣は、私の隣に座って、ややうつむき加減だった。
どうしてかな…私は思っていた。



次の日、昼休み、私は一人で勉強していた。
教室の入り口に、何人かの低学年の女の子がいた。
私は、その中の一人がすぐ誰だかわかった。
麻衣の妹の由紀ちゃんだ。
「入ってもいいですか。」と由紀ちゃんは言った。
「どうぞ。」と私は急いで髪を真ん中から分けて、太目の眉を見せた。
こうすると、かろうじて男子に見える。
「加納純先輩ですよね。」
「うん。そうだよ。」
「わあ、やっぱり実在したんだ。」と由紀ちゃんは感激していた。
「そんなお化けみたいに。」と私は笑った。
「いえ、加納純っていう男子の先輩がいるって聞いて、
 一目会いたいって思ってたんです。
 先輩は、女のジュンさんとよく似ています。」
「女のジュンとぼくは、従姉だから、ちょっと似てるかな。」と私。
「純先輩は、近藤って先輩に告白とかされました?」と由紀ちゃん。
「うん。したよ。ぼくは、近藤さんが、大好きだから。」と私。
「そうですか。お会いできただけでうれしいです。」
と由紀ちゃんは、頭を下げて教室を出て行った。

教室を出たあと、「わあ~、いたー。告白もほんとだー。」なんて友達に叫んでいた。



期末テストが終わり、成績が出た。
朝、担任の岡田先生が、成績簿を持って来た。
「えー、3年6クラスあるなか、我がC組は、優秀です。
 学年のトップと2番が我がクラスにいる。」

みんなが、「うおー。」などと言っていた。
先生は、
「発表しよう。320人中、第2位は、近藤麻衣。」

みんなが、わあ~と歓声を上げた。
「近藤、えれえぞ!」などと意外に男子から声が上がった。
男女みんなが盛大に拍手をした。
麻衣は、うつむいて少し赤くなっていた。

よかった。麻衣はもう100点のテストを隠したりしなくてすむ。
みんなが、麻衣を認めたから。


つづく


純・中学3年生の恋 ③

やがて、麻衣が顔をあげた。
「今度の学校へ来てよかった。
 ジュンみたいな男の子がいるってわかったから。
 あたし、永久に男の子とおしゃべりができないと思ってた。」と麻衣が言った。

「ぼく、変な男子だからね。」と私。

「変じゃない。セーラー服で来てくれたことも、
 ジュンのやさしさだと思った。
 あたしが緊張してるだろうと思って、
 セーラー服を着てきてくれた。
 あたしが気楽にしゃべれるように、
 女の子になって来てくれた。
 全部、ジュンのやさしさだと思う。」と麻衣は言った。

「麻衣は、苦労してるから、
 人の心がわかるんだね。」私。

「ジュンも、苦労してきた人に思える。
 それとも、生まれつき天使のような人。
 その両方かな。」麻衣は言った。

「あたし、学校の休み時間に
 脇目もふらず、勉強しているジュンがすごいと思ってる。」麻衣。

「ガリ勉って呼ばれているみたいだよ。」私。

「でも、ジュンは、そんなこと気にしてない。
 人がどう見ようと関係ない。自分のすべきことをしてる。
 そういうジュンを毎日見ていて、ステキだなと思った。
 あたしも、そんな風になれたらいいなと思ってる。
 今は回りの人の目ばっかり気にしてるから。」と麻衣は言う。

「麻衣は、心の傷があるから、仕方がないよ。
 無理しちゃだめだよ。傷はゆっくりしか治らない。
 麻衣は、学校で、みんなからたくさん優しくされて、
 たくさん楽しい思いをして、
 それで、ゆっくり治っていく。」私は言った。

「今日、ジュンからやさしい思いをもらった。
 100回分くらいのやさしさをもらった。
 だから、心の傷が、少し治った。
 ジュンありがとう。」と麻衣は言った。

「ううん。ぼくは、麻衣が好きだから、
 麻衣の楽しそうな顔見るだけで、うれしい。」と私。

「明日学校へ行ったら、またガチガチになると思うけど、
 ジュンがとなりにいてくれると思うと、うれしい。」と麻衣。

「うれしいのは、ぼくだよ。
 昼休みだって、麻衣は外に行かないから、
 ぼく達、ずーといっしょだよ。夢みたい。」と私。

「そうね。ずーといっしょね。」と麻衣は笑った。



その日の晩、私は一大決心をしたことを家族に話した。
夕飯のとき、
「ぼくは、明日から、セーラー服を着て、学校に行く。」と言った。
「どうして?」とみんなから言われた。
「セーラー服を着て学校へ行くことがぼくの夢だったから。
 中学時代の残りの1年、自分の夢を叶えたい。」と私。
「ジュン、他に何か考えてない?」と姉が言った。
「何もないよ。」とぼく。
「いいんじゃないの。ジュンの願い叶えてやりなよ。」と兄が言った。
「自分で、全部やるのよ。お母さん達、学校に行かないからね。」と母。
「うん。自分のことは、自分でやる。」と私はきっぱりと言った。
父がおもしろそうに、一人で、おかずをつついていた。



兄との朝の合気道の稽古をした。
「ジュン、俺にだけは話せ。」と兄が言う。
「うん。ある女の子と女友達になりたい。」と私。
「好きなのかその子が。」
「うん。好きでたまらない。」と私。
「俺はお前が何しようが、もう驚かないけどな。」と兄は笑った。



月曜日の朝、クラスメートが、教室に来て、みんな驚いた。
私がセーラー服を来て座っている。
私は何を言われても、「うふふ。」と言ってはぐらかしていた。
やがて、麻衣が来た。
麻衣もびっくりしていたけれど、
麻衣は、学校ではやっぱり無口だった。
麻衣が、私の隣に座って、私達は女子二人に見えた。

やがて、先生が朝のホームルームに来た。
で、私を見るなり、
「加納、その格好はどうしたんだ。」と聞いた。
「自分にはこの方が似合うと思って、着て来ました。」と答えた。
私は、すぐ先生に、教室の外のホールへ呼ばれた。
「加納、もしや近藤のためか。そこまでやってくれとは、言ってないぞ。」と先生。
「自分の夢のためです。ぼくは、この格好の方が自分に合ってると思います。
 最後の1年くらい、夢を叶えたいです。」そう言った。
「校長の許可を取るから、校長室へ来い。」
先生に言われて、校長室に言った。
学校では、去年、立原ひとみの件があり、
男子の女子制服の着用を認めている。

校長先生は、後ほど職員の理解を求めることにして、
とりあえず、女子制服の着用を認めると言われた。
しかし、女子トイレの使用は許可になっておらず、男子を使う。
体育は、男子の服装で行う。
それでよいなら、しばらくセーラーを着てよいことになった。

教室に帰ったら、1時間目の国語の授業が始まっていた。
老齢の榎先生は、私のセーラーを見ても、さほど驚かなかった。
そして、「加納くんは、そういう格好も似合うな。」と言った。
クラスのみんなが、笑った。

1時間目の終わりに、先生方へ召集の放送が入った。
私は、自分のことかなと思った。

その後、どの時間の先生も、私の女子制服を驚かなかった。
トイレは、男子トイレに宣言をして入った。
「3年C組、加納純男子、今からトイレに入ります!」と大きな声で言って、
中の個室を利用して済ませた。

20分の中休みになって、みんなが寄ってきた。
「ジュン、どうして?」と女の子に聞かれた。
「昨日気がついたんだ。ぼくは心が女だって。
 だから、自分に正直になろうと思って着てきた。」と私は答えた。
「立原ひとみみたいに?」
「ひとみは、完全に女の子なんだけど、ぼくの心は、男ときどき女。揺れるんだ。
 今は、女。」
「セーラーの服は、どうしたの?」と誰か。
「1年生のとき、3年だった女番グループのリーダー覚えてる?」
「ああ、覚えてる。」とみんな。
「あのリーダーからもらったの。」と私。
「じゃあ、その服、リーダーの?」
「うん、そう。」
「ひえ~!」とみんな、様々に声をあげた。

みんなは、外へ遊びに行った。

麻衣が、前を向いたまま小声で、
「ジュン、もしかしたら、私のため?」と言った。
「違うよ。全部ぼく自身のため。
 ぼくは、女の子みたいだから、この方が落ち着く。」
「そうならいいけど。」と麻衣は言った。


つづく

純・中学3年生の恋 ②

近藤さんの家は、2階立ての新築の家だった。
近藤さんが驚く顔を期待しながら、チャイムを鳴らした。
近藤さんのお母さんらしい人の声がした。
「加納純です。」と言った。
やがて、ドアが開いて、お母さんが顔を見せた。
近藤さんに似て、お母さんも美人だった。
お母さんは、私を見て、あれっと驚いた顔を一瞬した。
(男の子が来るはずだったからかな。)
「どうぞ。」と言われ、玄関に入った。
「こんにちは。」と言った。

「こんにちは。」とお母さんは言って、あわてて奥に引っ込んだ。
奥で話している声が聞こえる。
「麻衣、男の子じゃなくて、女の子よ。」とお母さん。
「そんなはずないわ。加納君でしょ。」と近藤さんの声。
やがて、暖簾を上げて、近藤さんが顔を見せた。
私を見て、「あっ。」と声を上げた。
私は、にーっと笑って見せた。
近藤さんにみるみるうれしそうな表情が浮かんで、
「お母さん。あたしの間違え。女の子の方の加納さんだった。」と奥の家族の人たちに言った。
「加納さん、上がって。」と近藤さんは言った。目が笑ってる。
「お邪魔します。」と私は言って、女の子らしく靴をそろえた。

近藤さんに部屋まで案内してもらった。
私が部屋に入って、近藤さんはドアを閉めるなり、
「あはははは…。」と男の子のように笑った。私を見て、
「加納君ったら、あはははは…。」とまた笑った。
「ね、受けた?」って聞いた。
近藤さんは、笑いながら、お腹を押さえて、何度もうなずいた。
その様子は、学校での近藤さんとは、まるで違っていた。
のびのびしていて、明るかった。

「加納君がセーラー服で着てくれるなんて、夢にも思わなかった。」
「女装は、ぼくの特技だから、近藤さんに見てもらいたくて。」と私。
「うん。特技だけのことあるわ。完全に女の子に見える。
 加納君は、声も可愛いから絶対わからない。」
「ほんと。うれしい。」と私は言った。

「近藤さん。ぼく今日女だから、近藤さんのこと『麻衣』って呼んでいい?
 ぼくのことは、ジュンって呼んで。」と言った。
「うん。そうする。麻衣って呼んで。加納君のことジュンって呼ぶ。」と麻衣は言った。



麻衣の部屋は、とってもステキだった。
新築の部屋の香りがして、ベッドやカーテン、何もかも明るくて、憧れてしまった。
「いい部屋だね。」と言った。
「うん。部屋にいるときが、一番幸せ。次は、リビングかな。」
そうやって考えたり、笑ったりしたときの麻衣は、惚れ惚れするくらい可愛くて、知的で、
私はため息が出そうだった。

部屋にあるものをいろいろ見せてもらっているうち、
階下から声がかかった。
ケーキがあるから、降りてくるようにとのことだった。

麻衣と降りて行くと、ご家族がテーブルに揃っていた。
お父さん、お母さん、妹さん。
お父さんは、若くて、背が高く、長髪で、とってもステキだった。
妹の由紀さんは、お姉さんに負けないほどの美人だった。
仲のいい温かいご家庭だなと思った。

「加納純です。どうぞよろしく。麻衣さんのファンクラブ会員ナンバー1です。」と言ったら、
ご家族が笑った。
お父さんが、
「いやあ、昨日麻衣が男の子から告白されたって言うんですよ。
 そして、その男の子が、今日見えるということで、
 もう家族中で、興味津津でいたんです。
 そしたら、女の子のお友達で、みんなで、ずっこけちゃって、
 いやあ、そんな音が聞こえたかも知れません。失礼しました。」
と言った。お父さんは、青年っぽいところがあって、すごくいい感じだった。
麻衣が言った。
「いえ、告白されたのは本当なの。
 でも、今日着てくれたのは、女の子の加納純さんなの。
 加納君って子と、同性同名。クラスに2人いるから。ね、ジュン。」
と聞かれた。
私は、
「もう、間違えられて困ってます。いい迷惑なんですよ。
 男の加納純は、麻衣と席が隣で、もう麻衣にメロメロです。
 変なヤツなんですよぉ。誰かを好きだと思ったら、すぐ口に出しちゃうんです。
 まあ、ある意味、素直なんでしょうね。」と言ったら、みなさんが、笑った。
お父さん。
「じゃあ、麻衣が告白されたってのも、ありえるのですね。」
私。
「ありえます、ありえます。男加納純は、自分の気持ちをしまっておくヤツじゃありません。
 思ったら人の迷惑もかえりみずに、ぺろっと言うヤツです。」
麻衣がくすくす笑っていた。
お母さん。
「それは、もう一人の純君にもお会いしたいわね。
 女の子のジュンさんは、今日来てくださってるし。」
妹さん。
「ジュンさん、すごく可愛い。おもしろいし絶対モテてると思う。」
麻衣。
「モテてる、モテてる。男の子の一番人気。
 女の子からもすごくモテてるの。あたし、うらやましい。」
私。
「いえ、それほどでもないんです。
 麻衣ちゃんは、とにかく美形です。そして、知性的。
 あたし、麻衣ちゃんを初めて見たとき、0.1秒でコロリと来ましたもの。」
みなさんが笑った。
麻衣も楽しそうだった。



紅茶とケーキをいただいて、麻衣の部屋にもどった。

麻衣がベッドを背に、膝を抱えてジュウタンに座った。
「ジュン、となりに来て。」と麻衣が言った。
私は、麻衣のとなりに同じようにして座った。
少し、胸がどきどきした。
麻衣は、私が女の子だと錯覚してるなっと思った。

麻衣が言う。
「ジュン、ありがとう。あたしが学校で楽しくやっているみたいに言ってくれて。」
「ほんとのことしか言わないよ。男の純も麻衣が好きだし。」
「ジュンが楽しくお話してくれて、父も母も安心したと思う。」と麻衣。
「心配をかけたことあるの?」
「うん。あたし前の学校で、いじめられてたから。」麻衣はうつむいて話し始めた。

「あたし、色が黒いでしょう。それで、クロンボ、クロンボって男子に呼ばれた。
 そのくらいならいいの。でも、
 理由がぜんぜん分からないのに、たくさん嫌がらせされて、ひどいことされた。
 女子は初め、あたしをかばってくれていたけど、そのうち男子側について、
 もう、あたしをかばってくれなくなった。
 で、クラス中から、嫌がらせされた。」

「どのくらい続いたの?」と聞いた。
「1年つづいた。」と麻衣は言った。

なんてことだろう。
1年も、クラス中からいじめられるなんて。
なんで、麻衣みたいないい子がいじめられなければならないのだろう。
麻衣が心にうけた傷はどれほど大きいものだろう。
麻衣は、だから、人と接するのが怖くなっている。
当然だ。

私の目から涙が出てきた。

そのうち、涙が止まらなくなって、抱えた膝に顔をうずめて泣いた。

「泣いてくれてるの?」と涙声で麻衣が言った。
「ひどずぎる。麻衣がかわいそう過ぎる。」私は顔をうずめたまま言った。
麻衣も泣いているのがわかった。
「思い切り泣かなきゃだめだよ。
 泣くしかほかにないもの。」私は涙声で、やっとの思いで言った。
「うん。」そう言って麻衣は、私の肩に両手をかけ、
声を忍ばせて泣いた。


つづく

純・中学3年生の恋 ①

もうしばらく休んでいるつもりでしたが、
なんとなく書いていると、1つの短編ができました。
ずるずる長いので、6回に分けて投稿することにしました。
長いのですが、読んでくださったらうれしいです。

===================================
中学の3年生になったとき、
私には、ガールフレンドがいなかった。
私はその頃も髪を長く伸ばしていて、
身長も低かったので、女の子には、もてそうもなかった。


中学2年のときの立原ひとみは、
はじめ私のガールフレンドだったが、
憧れの浜岡くんに接近してカップルになってしまった。


私は週4日合気道に行っていたので、
学校にいるときは、休み時間もガツガツ勉強していた。


そんな中3の5月に転入生が来た。
彼女が先生に連れられて教室にきたとき、
私は、いっぺんで恋に堕ちてしまった。
髪は、頬くらいまでの、ショート。
天然のやわらかいウエーブの髪。

可愛い。知的。
そして、少し浅黒い。
でも、スポーツをやっている感じではなかった。
名前は、近藤麻衣さん。


近藤さんは、はっきりとみんなに挨拶をした。
頭のよさそうな印象をもった。
席はとりあえず、後ろの空いている席に座った。



クラスの流行系女子グループが、真っ先に可愛い近藤さんを
ブループに引きこんだ。
彼女達は、可愛い子同士でグループになりたかったから。
しかし、近藤さんは、極めて無口で、
自分から話すことは一切しなかった。
流行系グループは、1週間で、近藤さんをあきらめた。
それから、次々に、いろんなグループが近藤さんを引き入れたが、
近藤さんは、同じ無口のままで、どのグループも
近藤さんをあきらめた。

そのうち近藤さんは、休み時間は、一人で教室にいるようになった。
(正確には、ガツガツ勉強をしている私と二人。)

私は、近藤さんをいつも見つめていた。



六月の初め、担任の岡田先生(男)は、席替えをすると言った。
席決めは、いつもくじ引きだった。
先生がもっている番号札を1枚とる。そこに番号があって、
番号の席に座る。
男女が必ず並ぶようになっていた。
その結果、近藤さんと私は、なんとクラスのど真ん中に、
二人並んで座ることになった。


しかし、偶然ではなかった。
先生の手品だった。
先生は、私に近藤さんの隣の番号札を引かせた。
私も手品が好きだったので、トリックがすぐにわかった。
でも、なぜ先生は私を近藤さんのとなりにしてくれたのだろう。

いずれにしても、私はうれしかった。



その日の午後の休み時間、
私は先生に呼ばれた。

「俺の手品を見抜いただろう。」と先生。
「はい。何かあるのだろうと思って、
 先生の意のままに札をとりました。」と私は言った。
「近藤は、前の学校で少し辛い思いをしてきてるんだ。
 そのため、みんなに心を開けずにいる。
 とくに、男子に。
 そこで、となりは加納がいいだろうと思った。
 加納は、男男してないからな。」

「先生、それどういう意味ですか?」と私は笑いながら聞いた。
「まあ、悪くとらんでくれ。
 ま、そういうわけでよろしくたのむ。」
「何をですか?」
「男でも、加納のようなヤツがいることをわからせてほしい。」
「ほめられてるんでしょうか?」
「うん、ほめてる。」先生は爽やかに言った。


近藤さんの辛い思いとは、いじめだと思った。



先生に言われなくても、私は近藤さんと仲良くなりたくてたまらなかった。
昼休み、私はガリ勉、近藤さんは、ノートに絵を描いていた。
驚くほど上手だった。
いわゆる、女の子のマンガではなく、
カブトムシや、カマキリの詳細な絵を、
薄い鉛筆で、リアルに描いていた。
「近藤さん、絵が上手だね。絵が好き?」
「うん。」と近藤さんは少し笑って、一言言った。


私から話しかけても、近藤さんから話しかけてくることはなかった。


テストが返ってくると、近藤さんは、点数も見ずに、
2つに折って、机の中にさっと入れてしまう。
でも、私は、素早く見ていた。
近藤さんのテストは、ほとんど満点だった。
私は思った。
近藤さんは、目立つことを怖がっている。
成績がいいことでいじめられたのかなあ。
女子ならありそうだ。
でも、先生の話では、いじめたのは男子だ。
男子が成績でいじめるかなあ。
そうは思えなかった。


男子には、好きな女の子を逆にいじめてしまうというのがある。
それは、あると思った。
でも、大勢ではいじめないと思った。
私は近藤さんがいじめられた理由がどうしてもわからなかった。



昼休み。教室に残っているのは、
近藤さんと私だけだった。
席替えの前は、離れたところに座って残っていた二人だが、
今は並んで外に出ないでいる。

ある土曜日の休み時間に、私は、思いきり言ってみた。
「近藤さんの家に、遊びに行っちゃだめ?」
「どうして?」と近藤さんは戸惑っていた。
「ぼく、近藤さんが好きだから。」私はさらっと言った。
近藤さんは、私の言葉に少なからず、ショックを受けていた。
うつむいて考えていた。
しばらくして、うつむいたまま、
「いいわよ。」と言った。
「ほんと!」と私は言って、「明日だめ?」と聞いた。
「いい。じゃあ、午後の2時。」
「うん、うれしい。」
内心やったーと思った。
近藤さんは、住所と地図を紙に描いてくれた。



翌日、私は初めから考えていたことだが、
2年前、女番のリーダーからもらったセーラー服を着て行くことにした。

近藤さんは男子が苦手だから、私は女の格好で行こう。
ひょっとしたら、受けるかも知れない。
セーラー服を着て、白い靴下にスニーカー(新しくてよかった。)。
勉強用のリュックを背負って行った。

「ジュン、そんな格好して、どうしたの?」と母が言った。
「うん、女の子の家に遊びに行く。女の子が来ることになってるから。」
と母にいい訳をした。
「女の子に見える?」と聞いた。
「見えるわ。」と母。
「よかった。」と言って、私は家を出た。



つづく


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明日から連載

1話だけ短編を書きました。


明日から、少しずつ連載して行きたいと思います。


ジュンの中3時代を書きました。


淡い恋の物語です。


読んでくださるとうれしいです。

プロフィール

ラック

Author:ラック
上は若いときの写真です。ISなので、体は、かなり女子に近く発育しました。でも、胸はぺったんこです。戸籍は男子。性自認も男子、そして女装子です。アメリカの大学で2年女として過ごしました。私の最も幸せな2年でした。そのときの自叙伝を書いています。また、創作女装小説を書いています。毎日ネタが浮かばず、四苦八苦しています。ほぼ、毎日更新しています。
どうぞ、お出でください。

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