高校のとき好きだった女の子 ③

高野さんは、部活のない日曜日に漫画を借りに行くと言った。
高野さんが、私の家に来る。
それは、私にとって、夢のような大きな喜びだった。

どうしようかな。
私には、自分の部屋がなかった。
ベッドで仕切られた部屋で、兄とベッドを挟んで、机があった。
全然プライバシーがない。



日曜日、私は朝から緊張していた。
高野さんは、午後の2時に来ると言った。
その時刻が来るまで、心臓が高鳴りっぱなしだった。

いよいよ、チャイムが鳴った。
私は、袋に入れた「ハリスの旋風」を持って、玄関に言った。
高野さんがいる。でも、もう一人、高野さんは妹と二人だった。
高野さんの妹は、中学のとき可愛いので有名だった。
そんな可愛い妹のお姉さんである高野さんは、顔立ちが悪いはずがない。
ただ、パッチリ目の妹さんより、目が細くて、少し下がり気味だった。
私は、二人を見比べた。でも、お姉さんの方がやっぱり好きであることに変わりはなかった。

「はい、これ。」と漫画の袋を渡した。
「ありがとう。できるだけ早く読むね。」
と高野さんは言って、すぐ帰ろうとする。
「ちょっと、ボクの家でゆっくりしていけばいいのに。」
と私は、あわてて言った。
「悪いからいい。妹もいっしょだし。」と高野さん。
「じゃあ、少し送るよ。」と私は言った。
「いいよ。純は勉強して。私も漫画読みながら、がんばるから。」
「そうお?」と私。
「じゃあ、ありがとう。また、返しに来るから。」
そう言って、高野さんは、妹と行ってしまった。

私は、がっくりと来てしまった。
私は高野さんは、一人で来て、
私の家で二人だけで話をしてくれるものとばっかり思っていたから。

「あれ、高野さんはもう帰っちゃったの。果物用意していたのに。」と母が言った。
「うん。帰っちゃった。」と私。

私は思った。高野さんは、男子の家に一人で行くようなことに慣れていない。
おてんばで、男の子のようなところがあるけど、すごく恥かしがり屋なんだ。
だから、妹さんを連れてきた。
残念だったけど、高野さんの純情な一面を見た気がした。

もう一度チャンスがある。それは、高野さんが漫画を返しに来るとき。
その日に期待することにした。



二回目の期待の日は、あっけなく終わった。
高野さんは、私が合気道へ行っている夜の7時ごろに、
一人で、漫画を返しに来て、母が受取った。

私は、合気道から、9時ごろ帰ってきて、
そのことを知り、がっくりと気が抜けてしまった。
紙袋に、メッセージが入っていた。

純。漫画ありがとう。
おもしろかった。
勉強する元気が出た。
純も勉強がんばって。

話ができなかったことは残念だったけど、
高野さんのメッセージがあったことは、うれしかった。
でも、メッセージが用意されていたことは、
初めから私のいないときに、返しに来るつもりだったんだ。
なんで?と思い、理由が分からなかった。
高野さんは、私を嫌ってはいないけれど、
私のことを特に好きではないのだと思った。
高野さんは、大勢の男子とよくしゃべって、ふざけている。
私は、その中の一人であるに過ぎないのだと思った。
期待した自分がバカで、惨めに思えた。
私は失恋を確信した。



振られたら、もうその人のことは、すっぱり忘れようと思った。
私は、がむしゃらに勉強だと思った。



私は授業を完璧に集中して聞いた。
そして、次の授業までの10分休みに、習ったことを復習した。
中休みや昼休みも、がむしゃらに勉強した。
放課後も、合気道に間に合うギリギリまで勉強した。
合気道から帰ってから寝るまでも、ガリガリと勉強した。
食事のときも、テキストを見ていた。
5分でも時間があったら勉強した。
それは、もしかしたら、高野さんへの思いを忘れるためであったかもしれない。

小峰さんが来た。(高野さんも、山岡さんも当然いっしょに。)
「純ちゃん、そんなにガリガリやらなくてもいいんじゃない?」
と小峰さんは言った。
「ごめんね。ぼく、勉強するって心に決めたんだ。」
「そんな純ちゃんは、楽しくない。前の純ちゃんに戻って。」と小峰さんは言う。
「ぼくは、今度いい成績とらないと、この学校にいられないんだ。
 だから、分かってくれないかな。」と私は言った。

その休み時間が終わったとき、
小峰さんが泣いていた。
山岡さんと、高野さんが慰めていた。

お弁当が終わって昼休み、教室は誰もいなかった。
そこへ高野さんが一人で私のところへ来た。
「純。峰(小峰さんのこと)の気持ち分かってるでしょう。
 純は、峰のことどう思ってるの?」と高野さんは言う。

「いい人だと思ってる。話をしていると楽しい。
 でも、それ以上の気持ちはもっていない。」と私。
「だれか、他に好きな人いるの?」と高野さん。
「片思いだけどいるよ。振られた。でも、好きなことは変わらない。」
「だれ?」教えて。
「絶対教えられない。
 小峰さんには、高野さんから、上手く言っておいてね。」私は言った。


高野さんが去って行った後、私は、泣けてきそうだった。
心の中で言っていた。
『高野さん、君は鈍感なのか。ぼくの気持ちがわからないのか。
 いっしょに期末まで、全力で勉強しようと言ったじゃないか。
 小峰さんが、ガリガリやるなって言ったとき、
 事情の知っている君は、どうして、何も言ってくれなかったんだ。』

せっかく、ガリガリ勉強していたのに、私の心は乱れた。



放課後、高野さんが、大川くんのところへ行っていた。
何か相談があると、高野さんは大川くんのところへいく。
きっと小峰さんと私のことだろう。

その内、大川君が大声を出した。

この育美のバカヤロウ!
人の気持ちがわからないのも、いい加減にしろ!
自分で考えろ!

そう言って、大川君は、かばんを持って教室を出た。
大川君は、私の高野さんへの気持ちを私の態度からわかっていた。


つづく
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高校のとき好きだった女の子 ②

私は昼休みや中休み、外には出ないで、
教室で読書をしたり、大学ノートに童話や詩、戯曲なんかを書いていた。
外では、あまり遊ぶ気がしなかった。
教室に一人だった。

その静かな時間を私は、愛していた。
本は、ドストエフスキーを主に読んでいた。
「罪と罰」、それから、「カラマーゾフの兄弟」など。

ときどき、窓から、高野さんが遊んでないかと見ることもあった。
彼女が見つかったことはほとんどなかった。



高野さんは、その頃仲良し三人組が出来ていた。
そのうちの一人の小峰さんという子が、
宝塚歌劇団が大好きで、童話や戯曲にも興味を持っていた。

ある昼に、小峰さんが、高野さんらを引き連れて、
私の書いている物に興味を示し、そばに来た。
それから、私の書いた物を見て感想を述べてくれるようになった。
小峰さんは小柄な人だった。
童話の話などすると、とても話しが合い、何時までも話していたい気がした。
高野さんともう一人の山岡さんは、そういうのはあまり興味がないようだった。
残念だなと思った。



小峰さんの私への接近は、日ごとに増して、
小峰さんから、「純ちゃん大好きのオーラ」が感じられた。
これだけ話しの合う小峰さんが嫌いなわけがなかったが、
私は、あくまで高野さんが好きだった。

3人は仲良しだ。
困ったな。
これでは、小峰さんに悪くて、高野さんへの大好きアピールができない。
高野さんだって、(もし私が好きであってくれるなら)小峰さんに悪くて、
私へのアピールができない。

高野さんが、私なんかよりもっと背が高くて、男らしい正義感の強い男子生徒が好きであっても、私も私なりに、アピールくらいはしたかった。

そんな日々がずるずる続いて、クラスでは、私と小峰さんが好き同士だというように見られるようになった。でも、私はどれだけ小峰さんから、大好きアピールをもらっても、それに反応することはしなかった。私の好きなのは、あくまで高野育美さんだったから。

*   *   *

高野さんは、バレーボール部だった。
いつも、校舎近くの中庭がバレボール部の練習場所だった。
教室の窓辺からよく見える。
私は、練習している高野さんを見るのが、放課後の楽しみだった。



5月の中旬に中間テストがあった。
私はまるで勉強をしなかった。
夜は、合気道。学校では創作や読書。
授業中もよく本を読んでいた。
これでいい成績が取れるはずがなかった。

その結果、なんと学年450名の中、下から、11番目。
クラスでは、ビリから2番目という成績を取ってしまった。

母が担任に呼ばれ、期末もこの成績だと、
この高校には付いていけない。
どこかの私立を紹介するから、そこへ行ってもらうと言われた。

家でそれを母に言われ、私は落ち込んでしまった。



次の日の放課後、私はぼんやり成績のことを考えながら、
中庭のバレーボール部の練習を見ていた。
高野さんがいない。
まあ、いいかと、成績の対策を練っていた。
教室には誰もいなかった。

そこへ、入ってきたのが、まだ制服姿の高野さんだった。
高野さんは、スリムだ。スタイルがいい。
「おう、純、どうした。しけた面してるぜ。」
と、高野さんはこうして男言葉をよく使った。

私はうれしかった。教室で彼女と二人きりになれるなんて、
めったにないことだった。

「うん、ひどい成績とっちゃったんだ。」と言った。
「悪いの?」と彼女。
「学年で、ビリから11番。クラスでビリから2番。」と私は言った。
「ビリから2番なら、ビリから1番もいるってことじゃない。」と高野さんは淡々と言う。
「そうだね。」と私。
「あたし、だれがビリだか知ってるよ。」と高野さん。
「え、だれ?」と小声で言った。
「あ・た・し。」と高野さんは笑う。
「ほんと?」と私。
「そう。だから、しょぼくれんなよな。」と高野さんは、私の肩をたたいた。

大好きな高野さんと、クラスのビリから1、2を占めるなんて。
なんだか元気が出てきた。

「そうか。高野さんが、ビリか。これは励みになるなあ。」と私は胸を張った。
「大きな声で言っちゃだめよ。」とまた彼女から肩をはたかれた。
「今日、練習は?」と聞いた。
「私は休み。だからみんなの洗濯してるの。」

「ぼくは、がむしゃら勉強して、担任の先生をぎゃふんと言わせる。
 合気道も休まないで、兄キとの朝練もサボらないで、成績あげるんだ。」私は言った。
「あたしは、どうしようかな。家帰ったら、男兄弟6人もいるんだよ。
 当然母さんの食事を手伝うし、洗濯もする。部活は休めないし。」と高野さん。

「ぼくは、漫画をがまんする。」と私。
「何読んでるの。」高野さん。
「ちばてつやの『ハリスの旋風』。」
「あ、それ読みたい。純ちゃんみたいなむずかしいのは読まないけど、漫画なら好き。」
「じゃあ、貸したげる。もって行こうか。」と私。
「わるいよ。あたしが取りに行く。」と高野さん。
中学が同じだったから、当然家も近かった。

(わあ、高野さんと共通点が見つかった。)

高野さんと、初めて二人だけで話せたひとときだった。
このまま時間が止まって欲しいと、本気で思った。
高野さんは、『ハリスの旋風』のヒロイン「おチャラ」にそっくりだった。


つづく

高校で好きだった女の子のこと ①

高校で好きだった女の子のことを、3回くらいに分けて書きます。
残念ながら、女装関係は出てきません。ただ書きたくて書きます。
だから、ノーコメントにいたします。

===============================

高校生のとき、私は、斜め前に座っている、高野育美さんとう子が好きだった。
セミショートの髪で、美人ではないけれど、笑うととても可愛かった。
背が私より3cmくらい高い。
私は、今まで好きな子が出来たら、何も考えず真っ直ぐに近づいて、話しかけるタイプだった。

しかし、高校になると自我がもっと発達したのか、
そんなことができなくなっていた。

私には、劣等感があった。
自分が、背が低いこと。
自分が女顔であること。
自分が女声であること。
男らしくできないこと。

私の中学のときの親友大川君がクラスにいた。
彼は、高野さんと中学3年のとき同じクラスで、仲良しだった。
高野さんと大川君はよくふざけあっていた。大川君は背が高い。
二人はお似合いだった。
私は、ジェラシーを覚えて辛かった。



大川君は、あるときクラスのみんなが、真面目に掃除をやってなかったので、
帰りの会で、クラス全員に対して、怒った。
大川君の迫力に、クラスのみんなが、うなだれてしまった。
大川君には、そういう正義感があり、勇気もあった。
そのとき、高野さんは、
「大川、かっこいいね。」と近くの子に言ったのが私に聞こえた。

そのとき、私は、高野さんは、正義感があり勇気もあるタイプが好きなんだろうなと思った。

私には、あんなこととてもできないと思ったので、私は落ち込んだ。
自分は高野さんの好きなタイプじゃないと思った。告白なんてとてもできない。



そんなある日。お弁当の時間、私を惨めにするできごとが起こった。
私が、お弁当のふたを開け、弁当を持って、机に近づこうと思って、ちょっと腰を上げたときだった。
クラスの平塚くんという躯体のいい生徒が、私の椅子を後ろに引いた。
そのため、私はそのまま後ろへ転倒して、お弁当の中身は散乱した。
平塚くんは、ほんの冗談のつもりだったらしく、へらへらと笑っていた。

「ひでえ。」とクラスの半分の生徒は立ち上がって、平塚くんを攻めた。
「冗談じゃ、すまねーよ。」
「こんなこと、普通するかよ。」と声が上がった。
「純、怒っていいよ。」
「思い切りなぐってやれ。」
平塚くんは、へらへら笑いながらだが、「ごめん。」と私に言った。

私は、何も言わずに、床に落ちたお弁当の中身を、弁当箱の中に移した。
ご飯一粒も残さず、無言で弁当箱の中に入れた。
教室の床はかなり汚れていて、埃がたくさんご飯にこびりついていた。
母が作ってくれたお弁当だ。
私は、身を正し、埃のついたご飯を食べ始めた。
みんなが、見ていた。
平塚くんを怒る気持ちには、なぜかなれなかった。
それより母の作ってくれたお弁当が台無しになったことが、悲しかった。
食べながら、不覚にも涙が幾筋も頬を伝わってきた。
私は、それでも平然として、お弁当を食べ終えた。

「純、なんで怒んねんだ。」
「怒るときには、怒るのが男だろう。」
そんなことをいいに来る生徒もいた。

斜め前の高野さんは、見ているだろうなと思った。
怒れないでいる私をどう思っているだろう。
正義感の強い高野さんのことだ、
弱虫。意気地なし。怒れない男子…。
と、思っているだろう。
それが、悲しかった。

「純、見損なったぜ。」
「なんで、一言も怒らないんだ。」
後で、また言われた。

そのあと、昼休み、5、6時間目。
私のそばに、だれも寄ってこなかった。



帰りの会の時間、大川君が手を挙げた。

「今日の加納君のお弁当のことだけど、
 純の名誉のために言っておく。
 純は、弱虫でも怒れないんでもないんだ。
 純は、自分がされたことには、怒らないだけなんだ。

 その代わり、人が何かされているときは、怒るんだ。
 中学のとき、一人の子が、5人の腕白にズボンとパンツを脱がされてた。
 クラスの誰も、助けようとしなくて見ていた。
 そのとき、純だけが一人で助けに行って、
 5人を全員投げ飛ばした。
 そして、クラス中に叫んだ。
 『同じことをする奴は、男でも女でも許さない!』って。
 今でも、忘れられない。
 そのときの純は、ものすごく怖かった。

 今日、純がもし平塚に本気で怒っていたら、
 平塚は、今ごろ救急車だったよ。
 純が怒ったら、おしまいだから。
 だから、みんなも純に怒れなんて、
 簡単に言わないでほしい。」

クラス中がしーんとなった。



さよならの会が終わった。

早速何人かの男子が、
「加納、ごめんな。怒っていいぞなんていって。加納は日頃あんまり怒んないからさ。
 悪気で言ったんじゃないんだ。」
「うん、わかってる。」と私は言った。
そう言って、何人かが帰って行った。

一人、高野さんが、帰らないで、私のそばにいた。
普段お茶らけている高野さんなのに、真面目な顔をしていた。

「純くん。ごめんなさい。あたし、怒らない純を見て、弱虫だって思ってしまった。
 でも、埃のついたご飯を黙々と食べる純を見ていて、
 なんだか、胸が引き裂かれるように辛かった。私にはできないことを、純はしていた。
 お弁当を作ってくれたお母さんのことを考えていたんだよね。平塚くんに怒るより、お弁当を食べる 方が、純には大切だった。それなのに私は純が弱虫だなんて…。」

高野さんは、目を潤ませていた。

「今日、大川君がもし言わなかったら、純は、弱虫と思われたまま、我慢する気だったんだ。
 それこそ、勇気なのに。
 あたし近くにいながら、見ていただけだった。今まで、何かがあって、見ているだけのヤツみてて腹を立ててたのに、今日は、自分が見ていただけだった。純が散らばったご飯をあつめているとき、惨めだったと思う。そのときこそ手伝うべきだった。なんでそうしなかったんだろう。自分が許せない。」
高野さんは、少し泣いていた。

「ありがとう。高野さんは、自分を責めすぎだよ。優しすぎるよ。
 ふつう、そこまで考えてくれないよ。だから、ありがとう。高野さんの言葉がうれしい。」
と私は言った。

大好きな高野さんが、わざわざ残ってくれて、そこまでのことを言ってくれて、
私は、とても感激していた。

そばに大川君がいた。
「大川君、ありがとう。名誉を挽回してくれて。」と私。
「俺は、みんなと逆の思いでいたよ。
 純、頼むから怒らないでくれって祈ってた。じゃないと、平塚がどうなったかわかんない。」

「それでも、汚れた飯、よく食べられたな。」と大川君。
「だって、母さんが作ってくれたものだから。一粒もムダにできない。」と私は言った。 


つづく

『高架下の幽霊』=高校生活最高の日=③完結

学園祭、第二日目。
私たちの劇が、あと三番目というとき、
私たちは、楽屋へ入った。
私の衣装は、池内さん提供のもの。
白のブラウスにジャンパースカート。
透明のレインコートに透明な傘。

池内さんは、私の髪を、ホットーカーラーで、外巻きにしてくれた。
ちょっとアイシャドウをつけ、ピンクの口紅を薄く。前髪を真ん中で少し分ける。
すごく可愛くなった。

水原君は、学制服をそのまま。

3人で舞台の袖で観客を見に行った。
「どう?純ちゃん。1500人っていう人数は?」と池内さんが言う。
「ボクね、観客が大勢いるほど、やる気が出る。」と私。
「そうなの。得な性格ね。」と池内さんが言った。

舞台装置なし。音響効果に池内さんがつく。
ライトはつけっ放し。



ブザーが鳴り、劇は始まった。
幕が上がっていく。
ライトが集中する光の舞台に私は歩を進めた。

笑いどころは、全部成功して、お客さんが笑ってくれた。

「雨に歩けば」に音楽に合わせ、2人で傘を持って踊る場面も無事通過。

私が歌う「山のロザリア」も終わって、

劇は終局へ。

「パンドラの箱」のセリフのところが終わり、
そして、最後のパラグラフ。

=======================

礼子「でも、私を1つだけ苦しくさせるものがある。
   それは、『思い出』。
   思い出だけが、消えない。
   あきらめても、あきらめても、思い出だけは消せない…。」
進 「もっていれば、いいじゃないか。
   忘れる必要なんてないよ。」
礼子「思い出は、私に希望をよみがえらせる。
   思い出は、私を愛してくれた人たちの顔を思い出させる。
   あきらめができなくなる。
   だれかのために何かをしたくなる…。」
進 「だれかのために、何かをすればいいじゃないか…。
   (はっとして。)
   そうか…君は、俺のために…何かをしてくれに来た…?」

礼子「(ただ、うつむいている。)」

進 「ああ…俺は…今…思い出して来た。
   俺のために、何かをしてくれた大勢の人の顔。
   家族の顔…友達の顔…先生の顔…。
   そして、今、君の顔…。」

礼子「あたしにこれ以上、思い出を与えないで。」

進 「いや、君を忘れない。
   俺は、まだ何かができる…。
   俺を愛してくれた、多くの人。
   俺がまだ何かができるとしたら、それは…今…死なないこと…。」
       (間)
礼子「(進の最後の言葉で顔を上げる)そう思うの…?」
   (間)
進 「(ゆっくり、静かに言う)うん。そう思う。俺は、生きていく。」
礼子「(少し離れて、小さな声で、心の底から)よかった…。」
   スットプモーションで、進、静止。
   その間、礼子は傘を差して、何度も進に振り返りながら、舞台袖に退場。
   時間が戻る。
進 「礼子さん、ありがとう…(礼子がいない。辺りをさがす。そして、)
   礼子さん…。(つぶやくように言う。)」

     -幕-

======================  

劇が終わった。すごい拍手の音がする。
音響を終わった池内さんが、舞台の袖で待っていた。
「やったね!もう、200点!」と池内さんが言った。
「ほんと!」と私は安堵と感激で、池内さんに抱きついてしまった。
水原くんが来て、
「大勢泣いてくれてたよ。純、うまかったなあ。大成功だよ。」と言った。

拍手がずっと続いていたので、3人で、カーテンコールに行った。
私がマイクを借りて、創作、演出、音響効果の池内さんを紹介した。そして、進役の水原君を紹介した。
次に、池内さんがマイクをとり、私を掌で差して、
「礼子こと加納純ちゃんです。実は、純ちゃんは、男子生徒です!」と言った。
「うそー!!」という1500人の声がして、大勢の人が立ち上がった。
こうなると後ろは見えないので、1500人全員が立ち上がることになった。
そして、すごい拍手をもらった。
一回袖に入ったけれど、まだ、拍手がやまない。
「みんな、純ちゃんを見たいのよ。純ちゃん、行って。」と池内さんに言われ、
私は、再登場した。拍手と歓声がもう一度沸き上がった。
私は、胸の奥から湧き上がる喜びをかみ締めた。

*   *   *

演劇部は、芥川龍之介の「鼻」をやった。会場を大爆笑の渦に巻き込み、大成功だった。
三人でお祝いに行った。
「みなさん、さすが演劇部。それに神崎君は天才!」と池内さん。
神崎君は、私と同じくらいの小柄な生徒だった。すごく賢そう。
「いえ、池内先輩の、『実は、男子生徒です!』には、完敗です。」と神崎君。
「あれは、ラッキーポイントだからね。」と池内さん。

*   *   *

池内さんと三人で、そのあと甘味喫茶で、劇の成功を祝った。
ファンタ・オレンジで乾杯。
「純ちゃん、明日大変よ。学校一の有名人になってるから。」と池内さん。
「ほんと?」と私。
「俺の存在なんて、もうゼロ。」と水原くんが言ったので、三人で笑い合った。

そして、みんなで後夜祭が行われる学校へ戻った。

後夜祭は、火を焚いて、その周りで、みんなでフォークダンスを踊った。(素朴な時代でした。)


<エピソード>

翌朝、教室に行こうとすると、3年B組の前の廊下に50人くらいの人だかりができている。
「あ、加納先輩だ!」
「ほんとだ!」
「わ~ん、女の子みたい。可愛い。」
「ぼく、先輩に恋をしました!」
とか言って、みんなが押し寄せてくる。男子も女子もいた。
「先輩、サインください。」
「ここに、してください。」
など言われ、ノートの1面を出されて、私は面食らってしまった。

必死で、サインした。
50人くらいやっと終わって、教室に入って席についた。
クラスのみんなが、笑っていた。
そして、そのみんなが、私のところへ集まってくる。
そして、誰かが、
「純ちゃん。お疲れのところだけど、はい!」
みんなが声をそろえて、
「サインちょうだい!」とそれぞれノートを出した。
「本気?」と私。
「うん、本気。」とみんな。

ちょっと遠くで、池内さんが笑っていた。


<おわり>

『高架下の幽霊』=高校生活最高の日=②

ちびちび書くつもりが、少し長くなりました。ダメだなあ。初志貫徹できません。

=================================

ビートルズが流行って5年目。高校の男子はみんな長髪だった。
私はそれよりもっと髪を長くしていて、肩にかかるくらい伸ばしていた。

3年B組の教室は、夜の7時くらいまで明かりがついていた。
そこで、たった3人だけの劇の練習をしていた。
学園祭の当日まで、あと2週間だった。

相手役の水原くんは、池内さんと同じ演劇部だったので、
何をやっても文句なし。私より、ずっと背が高くて、ハンサムだ。

私が学制服だと、私も水原くんも気分が出ないだろうと、
池内さんは、ジャンパースカートを持って着てくれていた。
私がそれを着たとき、水原君が、
「純は、ほんと、女の子だなあ。」と言った。
「そう見える?」と私。
「うん。髪も長いし、かなり可愛いよ。」と水原くん。
「池内さん、何で普通の女の子じゃなくて、ボクを誘ってくれたの?」と私は聞いた。

「う~ん。純は、不思議な雰囲気あるからね。純ちゃんを思って台本書いたの。
 初めはコミカルなんだけど、瞬間、幽霊としての悲しそうな表情見せなきゃなんないでしょ。
 純ちゃんは普段コミカルだけど、考え事してるとき、すごくステキなんだわ。」と池内さん
「ほんと?ぼく、ステキなの?」私。
「この劇、純ちゃんの魅力を最大に引き出すように書かれてるから。モテモテよ。」と池内さん。
「ほんと?じゃあ、がんばる。」と私は言った。
「うん。でも楽しくやろうね。」と池内さん。

池内さんは、絶対の安心感を与える人だと思った。
とっても美人なのに、役には絶対出なかった。



1週間が過ぎ、当日まであと1週間になった。

池内「純、男出てるよ、そこ。」
私 「こうかな。」
池内「そうそう。」



池内「そこで、一瞬、悲しさを見せる。」
私 「こんな感じ。」
池内「そう。筋がいいね。」



池内「次は礼子のいちばん大切なところ、行ってみよう。」

進 「俺には希望なんてないよ。
   それがなくなったから、もうおしまいなんだ。」
礼子「私の世界では、『希望』なんて、いちばんいらない。
   いちばん、私を辛くさせる。
   私のパンドラの箱には、最後に『あきらめ』がいてくれた。

   だから、私はやっていけるの。
   今日をあきらめ。明日をあきらめ。
   あさっても、未来もあきらめる。
   楽しいことも、うれしいことも、
   好きだったことも。みんなあきらめる…。
   あきらめは、私の中のいちばん大切なもの。」

進 「それって、さみしすぎないか。
   俺は希望を持てないで苦しんでる。だけど、希望が欲しいって思ってる。
   明日が辛いけど、楽しい明日を待っている。
   俺は、希望がほしい。『あきらめ』なんていらない。」


「うん、OK。OK。いいと思うよ。」と池内さん。

こんな感じで、練習しているところへ、
そろりと、10人くらいの生徒が入ってきた。
それは、演劇部の人たち。

「ええ?池内先輩。今度劇やるんですか。」とA子さん。
「ずるいっすよ、俺達にないしょで。」Bくん。
「水原先輩も、いっしょ?」Cさん。
「えへぇ。2人劇なのよ。」池内さん。
「いいなあ。じゃあ、先輩が演出しての、2人劇なんだ。」D子さん。

「こちらの先輩は、誰ですか?」とA子さん。
「同じクラスの、加納純ちゃん。今回のヒロイン。」と池内さん。
私は、「よろしく。」とちょっと礼をした。
「あ、どうも。可愛い先輩ですね。」D子さん。
「でしょ。実は、純ちゃんは男子生徒なの。」と池内さん。
「うそー!?」と全員の声。
「声だって、女の子だった…。」E子さん。

「わあ、池内先輩には、負けちゃう。そんなカラクリ仕かけるなんて。」E子さん。
「なんか、先輩の劇に負けそう。あんまりいいのやらないでくださいね。」A子。
「あなた達には、天才神崎くんがいるじゃない。」池内さん。
「でも、先輩には負けそう。」
「これ、危ない。必死でやろう。」
「うん。あせってきた。」

なんて、口々に言って、彼らは、自分達の練習教室に帰っていった。

「あはは。みんあ純ちゃんに驚いてたね。」と池内さん。
「純が、この格好で男だと思う方が変だよ。」と水原くん。
「誉められてるのかなあ…。」と私は、首をかしげた。


つづく

『高架下の幽霊』=高校生活最高の日=①

体が弱ってますので、あまり無理をせず、ちょびちょび小出しに連載しようと思います。

ちょびちょび読んでくださると、うれしいです。

============================

私の高校生活最高の日は、3年生のときの学園祭です。
この日私は、女生徒の役で、たった2人の2人劇をやりました。

高校の学園祭は、2日間あり、1日目は学内での展示。
二日目は、近くの大学の大ホールでの出し物です。
その頃生徒数は1000人を越えていて、
保護者の参観もあったので、1500席は万杯になりました。
だから、この学園祭で、舞台に立つことは、とても名誉なことでした。

出し物の多くは、当時流行っていたフォーク・ソング。
それから、エレキバンド、ジャズなどの音楽。そして劇でした。
どれも、クラス参加あり、有志のグループありと自由でした。

劇は演劇部が東京都の大会で優勝するほどの実力を持っていたので、
ラストを飾って、30分もらえていました。

それ以外は、1人当たり5分。
5人で組めば25分時間がもらえます。



私の3年B組に、池内さんという女の子がいて、
彼女は演劇部の演出をずっとやってきていて、
演劇部を都大会の優勝に導いた凄腕の演出家でした。

3年B組は、覇気がなく、池内さんがいくらクラスで劇をやろうと言っても、
みんな乗りませんでした。
その内、池内さんが、私のところへ着て、
「加納くん、私と、水原くんと3人で組んで劇をやろう。」
と言うのです。
私は劇は大好きだったので、うれしいなあと思っていたら、
「加納君には、女生徒の役やってもらうから。
 あなたなら、声も見かけもバッチリだから。
 これは、水原君と加納君の2人でやる2人劇なの。」
と池内さんは言う。
「池内さんは?」と聞いた。
「私は演出のみ。2人で20分の劇やるの。1500人の前で。最高よ。」

池内さんは、3年生になり、部は引退していた。
池内さんの演出で、女生徒の役をやらせてもらえる。出ずっぱりの20分。
これは燃えます。私は、2つ返事で、OKしました。

池内さんは、一人人数をうまくやって、
20分の時間をもらってきました。

劇は「高架下の幽霊」という題で、
池内さんの創作でした。
私は、その高架の道路で交通事故にあった女生徒の役でした。
高校生活に絶望し、自殺をしようと高架下にやって来た男生徒に
幽霊になった女生徒が現れます。そして、説得し、
自殺を思い留まらせるまでの20分の劇でした。
歌あり、踊りありだそうで、
もう、どこまでも私を嬉しくさせてくれるのでした。


つづく

Let Me Die a Woman (女として死なせて)

$女装  遥かなる想い

ニューオーリンズにいたとき、
書店でぱっと目を引く本がありました。
「Let Me Die a Woman(女として死なせて)」。

表紙のイラストは、筋肉質の男性の殻を破って、
女性が誕生してくるものでした。
それが、性転換願望(←当時の言い方)の人たちの心情をすごく表していて、
私は、胸がドキンとしました。

私はすぐにその本を買いました。
英語でしたが、興味のある本だから読めました。
私は夢中で読みました。
中は、性転換を望む人々の真面目な内容が書かれていました。

その後、夏の間、ロサンゼルスにいたときでした。
通りを歩いていると、同じタイトルの映画をやっています。
その通りは、あまり風紀がよくなくて、
早く通り抜けてしまいたい通りでした。

見たい映画は成人映画です。
中はもっと風紀が悪いでしょう。
どうしようか迷いました。
私はジーンズに茶のサマーセーター、
そして、野球帽をかぶっていました。

どうしても、その映画を見たかったので、
野球帽を深くかぶって、映画館に入りました。

映画の初めに、ダブルベッドに寝ている綺麗な女性が出てきました。
その女性が目を覚まして、ベッドから起きます。
彼女は、薄いネグリジェを着ています。
ネグリジェを脱いで、ブラをつけ、スリップをかぶって、
スカートとセーターを着て、洗面をします。そして、メイク。
それから、朝食を済ませ、ティーを持ってソファーに腰を下ろす。
そこまでは、全く普通の独身女性の朝の風景なのですが、
ソファーに座った彼女は、カメラに向かって一言いいます。
『去年まで、あたしは男だったの。』

また、あるシーンでは、
ベッドに全裸になったブロンドの可愛い女の子が寝ています。
彼女のボーイフレンドが来て、彼も裸になり、
彼女とキスをかわし、抱き合います。
しばらくして、彼は、彼女の股間に手を入れ、
ある物を、導き出します。
それは、彼女が実は男性だと示すものでした。
私は、それまでのセックスシーンが、余りにも自然だったため、
その場面を見て胸がドキドキしてしまいました。

映画はこのようなシーンのオムニバスでした。
他の内容は割愛します。

※この本は今も入手可能なようです。
 映像は、You Tubeに少しだけありました。

会議室にて(中学生編 4 完結編)

ご愛読ありがとうございました
完結編をやっとの思いで投稿しました。
ここのところ、ほぼ毎日、連載を続けてきましたが、さすがに疲れてしまい、
この完結編をもって、ジュンにまつわる自叙伝は、ひとまず終了にしたいと思います。
書き残しがたくさんあるのですが、ちょっと休憩を致します。
また、元気になったら、書いていきたいと思います。
その時は、また読んでくださると、うれしいです。
長いこと読んでくださり、ありがとうございました。

===============================

瞳が、やっと泣き止んで、会場は冷静をとりもどした。

父。
「いく年か前の東京都教育委員会の資料に、ある性科学の教授の論文が出ています。
 そこに、大体こう書いてあります。

 人の性というものは、様々であり、
「男」と「女」という2つに分けることは、土台無理なことであると。
 男らしい子もいれば、男らしくな子もいる。女子もこれに同じです。
 男を愛する男子もいれば、女同士で愛し合う人もいる。
 これら、性の自認や性の指向、性の趣向は一生変えられないものであり、
 様々な性のあり様は、広く認められるべきである。
 よって、「男らしくしろ」、「女らしくしろ」などという言葉は、
 教育の現場において、教師たるもの、厳に慎むべしと。」

学校に配られた資料だったらしいが、先生達の誰もが読んでいなかった。

父。
「去年の、我が校の状態を思いますと、お読みになる暇などなかったことは、
 十分に察せられます。先生方は、休憩を取る暇もなく、
 昼の食事も、十分に取る暇もない。夜は遅くなるまで、お仕事をされ、
 朝は、一番に学校へ来られていました。
 その先生方のご努力のおかげで、今年は平和な学校になりました。
 深く感謝しています。
 
 もし、今年余裕が生まれましたら、こんな論文にも目を通していただきたい。
 先生方が、こういう論文に触れ、
 認識を新たにされ、生徒に指導をしてくだされば、
 今回のような、ことは起こらなくなると思います。
 
 最後に、教育委員の方と校長先生から、
 ひとみさんのような重度の障害をもった生徒が、
 安心して学校生活ができるよう、
 どう対処されるのか、それをお聞きしたいです。」

教育委員会の人。
「はい。まず、ひとみさんに、カウンセラーによる面談を受けてもらいます。
 そして、心が女生と判断されれば、万全の学習環境を整えます。
 まず、立原ひとみさんに女生徒の制服の着用を認めること。
 水泳指導においては、女子の水着の着用を認めること。
 体育は女子として授業を受けられるようにすること。
 トイレ、更衣室は、女子用の使用を認めること。
 トイレ、更衣室に関し、ひとみさんに抵抗があるなら、
 男女共用のトイレや更衣室を設置すること。
 今のところ以上のようなことです。」

校長。
「児童名簿で、ひとみさんを、女子の中に位置づけます。
 ひとみさんがご希望なら、例えば、『瞳』という、より女性がイメージされる仮名を認めます。
 2階の男子トイレの1つを、男女共用のトイレとします。
 もちろん、ひとみさんが、女子トイレを使うのは可能です。
 また、ひとみさんが、生徒たちの偏見で辛い思いをしないように、
 全学級において、生活指導を行い、ひとみさんのプラーバシーを厳守しながら、
 全生徒の理解を図るよう、くり返し指導します。
 また、学校便りにおいて、全保護者に、学校の対策への理解を求めます。
 今思い付くのは、以上です。」

最後に校長は言った。
「何かご意見がありますでしょうか。」

すると、Aくんのお父さんが手を挙げ、発言した。

「はじめは、私も、たかが男子同士のふざけ合いのように思い、
 こんな夜に大げさなと思っていました。
 しかし、立原ひとみさんを見たときに、驚きました。
 こんなお嬢さんに、息子があんなことをしたのかと、信じ難い気持ちになりました。
 また、加納さんのお話を聞くうち、息子のしたことの罪深さが分かりました。
 とくに、ひとみさんが、男子の体を持つ重篤な障害の女子だというお言葉を聞いたとき、
 心の目が開かれる思いでした。
 息子のしたことは、障害のある人をムチ打つ行為だと気がつきました。
 ひとみさんが泣いて、ご家族も泣いてらっしゃる姿を見て、
 胸が張り裂けそうでした。

 息子をいくら叱り飛ばしても気が済みません。
 今はただ、立原さんに申し訳がなく、いくら謝っても済むことではないと思いますが、
 両手をついて、お許しを乞いたい思いです。

 今日の会があって、本当によかったと思っています。
 加納純くんの抗議で、実現したと聞きました。
 加納君の勇気と、事態を重大と見たその判断力に感謝と敬意でいっぱいです。」


A君のお父さんの言葉の後、閉会となった。



Aくんとご両親は、立花さんのところへ来て、手を付いて謝った。
他の4人も、両親と共に、手を付いて謝った。

立原くんとご両親は、「もう、いいんです。お手をお上げください。」としきりに言っていた。

大野先生は、瞳のところへ、来て、頭を下げた。
「立原、先生が間違っていた。申し訳ない、この通りだ。」と。
そして大野先生は、私のところへきて、
「加納、先生の考えが足りなかった。君に言われて、反省したんだ。立原を守ってくれてありがとう。」
と言った。
校長も、私たちと、立原君のところへ来て、謝っていた。

校長がすまなそうに私に言った。
「新聞社への手紙は、もう出したのかな。」
「まだです。」と私は言った。
「よかった。新聞社が何時来ても恥かしくないように、学校を整えるから、
 それまで、待ってくれないか。」と校長。
「わかりました。」と私は答えた。

一件は落着した。



私は瞳のところへ言った。
瞳が私に抱き付いてきた。
「ありがとう。純はあたしのことほんとに守ってくれた。
 あたし感激で泣いちゃいそう…。」
瞳が涙を流していた。
「明日から、セーラー服で学校に行けるんだよ。
 瞳がセーラー服買ってもらうまで、
 今のセーラー服着ててもいいからね。」と私は言った。

「純どうして、セーラー服持ってたの?」と瞳。
「もらったんだ。」
「誰から?」
「聞いたら驚くよ。」
「教えて。」
私は瞳の耳にささやいた。
「うそー!」と瞳は驚いて、セーラー服をさわって、まじまじと見ていた。
「だから、瞳、次のリーダーになれるよ。」と私は言った。
「なっちゃおうかな?」と瞳は笑って、私のほっぺにキスをした。



瞳がご両親といっしょに父のところへ来た。
お父さんが、
「なんと言ってお礼を言ってよいかわかりません。
 ありがとうございました。
 これほどまで、人実のような子のことをわかってくださっている方がおられるとは、
 夢にも思いませんでした。」と言った。
父は、
「いや、うちの純も小学校のとき3ヶ月女の子だったんですよ。
 そのとき、親としていろいろ研究しましたので。」
瞳のお母さん。
「この度は、ひとみを助けていただいた上、セーラー服まで貸していただきました。
 ありがとうございます。」
父が、
「今日それを着て、お見えになったのは、効果的でしたね。」
と小さな声で言った。
瞳のお父さん。
「おかげさまで。」
私。
「あのう、セーラー服お買いになるまで、使ってください。」
瞳のお母さん。
「明日買いにいきますので、そうしたら、お返しに上がります。
 お礼はそのとき、また改めまして。」

なんだか、瞳のお家と、家族のお付き合いになりそうだと思った。




============================ 

<エピローグ>

翌朝学校に行って、教室に入ると、
瞳は、完全な女の子の姿で来ていて、
回りを大勢の女の子に囲まれていた。

私が近づくと、D子さんが、
「加納君。昨日はごめんなさい。
 あたし達、瞳がひどいことされてるのに、何にもしなかった。
 先生を呼びにも行かなかった。
 すごく反省してる。
 今日立原くん…じゃない瞳の本当の姿を見て思った。
 この瞳があんなことされてたのに、知らんふりできた自分が信じられない。」
B子さんが、
「これから、瞳のこと、私たちで絶対守るから。
 みんなで守るから。だから、安心して。」

私は、
「うん。じゃあ、よろしくね。」
と言って、女の子の中で見えない瞳をのぞいた。

瞳は姿勢よく、きちんと座っていた。
そして、うれしそうだった。
私と目が合って、瞳は、笑顔を作った。


私が安心して席に着くと、今度は男子がみんな来た。
K君が、
「俺達も同じだ。昨日のことは許してくれ。
 立原を助けなかった。
 立原が女だって今わかった。
 立原のことは、絶対いじめたりしない。
 ちゃんと女の子扱いする。
 だから、許してくれ。」
みんな同じことを言った。


「いいよ。わかった。
 でも、瞳は、ぼくの彼女だからね。
 手を出さないこと。」

H「え、純は、女、好きだったの?」
私「じゃあ、どう思われてたわけ?」
P「みんな、純はほんとうは、女の子なんだと思ってるよ。」
私「いつから。」
Y「だって、小学校のとき、純女の子だったじゃねえ。あのときから。」
R「口に出しちゃいけねえと思ってたけど、純は、体は女だけど、心の半分は男だってみんな思ってる。」
私「だって、トイレだっていっしょに行ったじゃん。」
P「純は立ってやってるふりだけして、後からこっそり個室入ってるんだと思ってた。」

私「プールだってあったじゃない。」
K「だって、去年のプールは、工事でなかったろう。
  純は、6年生のとき、女子の水着着てたぜ。
私「体育で着替えるときは?」
E「純は女の子だから、純のこと見ちゃいけねえと思って、みんな見なかった。」
M「だから、俺達、瞳の心が女だっていうの、すんなり理解できるんだ。」
私「全部、ほんとう?」
みんな「うん。」

女子達が、向こうでくすくす笑っていた。

私は、みんなから、からかわれていることに、
いつまでも気が付かなかった。



=全シリーズ終了=

会議室にて(中学校編3 その3)

会議室で、謝罪のため行われた会ようすの(その1)です。純は、ほとんど話しません。

その代わり、純の父親が話します。内容が重いので、短めの投稿にしました。読んでくださると、うれしいです。

==============================

その日の夕方、保護者同伴で、
学校へ夜の9時に来てくれるよう担任から電話があった。
私は、家族に今日あったことを話した。
「じゃあ、父さんが行こう。こういうのは父親が言った方がいいんだ。」
と父は言った。

私は、それからリーダーからもらった大事な服だったけど、
セーラー服を持って、瞳くんの家に持って行った。
「今日は、瞳くんに、この服を来て、ヘアピースをつけて、
 完全な女子の姿で出席した方がいいと思います。
 瞳くんの本当の心の姿を見せた方がいいと思います。
 その方が、相手もしたことの罪がわかります。」と言った。
ご両親は、
「どうもありがとうございます。」と頭を下げられた。



夜9時に、学校の会議室に一同が集まった。
5人は、ほとんど保護者2人が同席していた。
校長、教頭、生活指導の大野先生、担任の玉井先生、
それから、知らない男性が一人来ていた。(教育委員会からの人だった。)
私は父と。

瞳は、ご両親と最後にきた。
瞳がセーラー服を着て、髪を長くして来たことに、一同は、目を見張った。
先生達、あの5人は、あっと驚いたようだった。
セーラー服を着た瞳は、清楚な女の子に見えた。それが、瞳の心の姿だと私は思った。
瞳は背を伸ばし、始終打つ向き加減でいた。



校長が挨拶し、学校側の職員と、教育委員会指導室の大山という人を紹介した。
その後、大野先生が、経過を報告し、学校側が対処したことの内容を説明した。

最後に校長が付け加えた。

「実は、加納純くんから、抗議がありました。
 私達は5人に注意を与えただけで、5人に謝罪もさせなかたことに対してです。
 加納くんから保護者同伴で謝罪すべきだと言われました。
 そこで職員を集め諮りました。
 その結果、加納くんの意見は、正論であるとの声が圧倒的でした。
 そこで、今日お集まり願った次第です。

 全く私の不徳のいたすところです。申し訳ありませんでした。
 大野教諭と玉井教諭も同席していましたが、
 加納くんから、言われるまで、誰一人としてそう考えず、
 事態を軽く考えていたことに、恥じ入るばかりです。」
校長が着席した。



父が発言した。
「質問です。
 今日は、5人が立原さんに、この場で集まって謝罪する。
 そして、和解して終わりというおつもりですか。」

校長が答えた。「そう願えればと思っています。」と答えた。

父が、続けた。
「それで終わっては何もなりませんよ。
 今日は、『罪』と『人の性』について、
 私たちが、認識を深める場でなくてはなりません。」

 我が国は、まだその認識が遅れていますが、
 欧米の多くの国では、例えば、身体は男子でも、
 心の性が女子の場合、性自認障害とでも言いましょうか、
 扱いは女子とされます。
 それは、心の性は、生涯変わらず、
 また変えることができないという過去の経験に立ってのことです。

 今日同席されている立原ひとみさんをご覧になっておわかりと思います。
 これが立原さんの心の姿なのです。

 間違って欲しくない。
 立原ひとみさんは、『心が女性である男子』ではなく、
 『体が男性という深刻な障害を抱えた女子』なのです。

 教育委員会の見解を伺いたい。」

教育委員会の人が言った。
「過去に表に上がった事例はなく、資料がありませんが、
 専門医やカウンセラーとの面談を経て、
 心が女性との判断がなされれば、
 立原ひとみさんを女性として見なせると思います。」

父が言った。
「ひとみさんを女性と見なした場合、
 今回の5人のした罪をどう判断されますか。」

教育委員会
「大人であれば、婦女暴行罪として、最大30年の懲役です。
 これは、死罪、無期懲役に次ぐ3番目の重罪です。
 婦女暴行は、受けた女性をそのショックにより廃人に導くこともあり、
 心の殺人とも呼ばれています。
 今回は、未成年の生徒の犯行であり、法的に同等の罪は問われませんが、
 罪の重さとしては、大人も子供変わるものではないと認識しています。」

会場は、物音一つなく、ほぼ全員がうなだれていた。
とくに、5人の家族は、うなだれていた。




しばらくして、父が挙手をして、発言した。

「私だって、子供の頃、男同士でパンツの脱がせ合いくらいふざけてしました。
 しかし、それと今回のこととの決定的な違いは、
 立原ひとみさんが、自分は女子なのだと、
 何度も宣言したにも関わらず、行われたことです。
 もう一つ、被害を受けたのは、
 体が男であるという重篤な障害を抱えた女子だったということです。

 多分、5人の生徒さんは、心と体の性がちがうなどということなど、
 初耳であり、あるはずもない、そんなことはウソに決まっていると思い、
 あくまで男同士のからかいとしてやったのでしょう。
 大野先生や校長先生も同様の意識で、5人の罪を軽く見られたのでしょう。

 それはそれで、理解ができるのです。『無知が故の犯罪』です。
 しかし、分かっていただきたいのは、
 それが、無知が故の犯罪であろうがなかろうが、
 それとは、関わりなく、
 ひとみさんが受けた心の傷の深さは、同じだということです。

 どうか、想像を働かせていただきたい。
 自分が女だと思っているひとみさんにとって、
 自分の下半身にある男の証が、どれだけのコンプレックスになっているかです。
 みなさん、どうかご自分に照らし合わせてお考えください。

 今日、ひとみさんのことを聞いて、家内は可哀相にと言って泣きました。
 家内は言いました。
 体が女であれば、無理矢理下半身を露呈されても、耐えうるかもしれない。
 しかし、自分の下半身に、もし男の証があったなら、
 それは、絶対人に見られたくないものであり、
 もしも、無理矢理に下着まで脱がされ、笑い者にされでもたら、
 それは、死に価する屈辱であり、生きていけないかもしれないと。

 今日、ひとみさんが受けた心の傷の深さを、どうかご理解ください。」

父は、最後には涙声になっていた。


そのとき、今までずっとうつむいていた瞳が、涙を流し始め、
その内、声をあげて泣き始めた。
やがて、慟哭とも言える様子で泣きはらしながら、机の上に顔を伏せた。

会場は静まりかえり、誰もが瞳を見ていた。
そのうち、みんなは、うつむき始めた。

瞳のお母さんが耐えかね、瞳をかばうようにその背を抱いて泣いた。
お父さんも、涙を流し、親子3人が抱き合って泣き続けた。

5人のお母さんたちが、次々に泣き始めた。
お父さんたちも、目にハンカチを当てていた。

担任の玉井先生が泣いた。
やがて、校長が泣いた。
大野先生も、男泣きに泣き始めた。


つづく
 

純の抗議(中学編 3 その2)再投稿

中学編 3(その2)を投稿しましたが、削除されました。私としては、二人の中学生が性に目覚める大切なシーンであったのですが、当局に理解されませんでした。悲しいです。そこで、前半の部分を省略し、代わりに少し先までを加えて投稿することにしました。改めて読んでくだされば、うれしいです。
===============================

二人とも満足して、私たちは、長い間ベッドの中で抱き合っていた。
キ・スをしたり、顔をなであったりして。
瞳くんが本当に可愛いと思った。何度も何度も抱きしめたかった。
学校の人実とは全然ちがう。かわいくて、ちょっとセクシーで、ステキな女の子だった。



二人でベッドから起きて、そろぞれの服を着た。
居間の壁に二人並んでもたれていた。

そのうち瞳くんが、ぽつんと言った。
「あたし、明日から、学校で女の子デビューしようと思ってるの。」
「どういうこと?」
「もう、男としての演技止めるの。小学校からずっと演技してきた。
 でも、もう嫌になっちゃった。
 女の子の言葉使って、女の子として振舞いたい。
 あたし、ほんとは、もっとおとなしい、静かな子なんだ。
 ベッドの上では、ちがっちゃったけどね。
(瞳くんは、私を見てちょっと赤くなった。)
 学校で、三枚目やったり変な子やるのに疲れちゃった。
 あれは、本当の私じゃないから。
 自分に正直にいきたいの。」瞳くんは、そう言った。

「瞳の気持ち、よく分かる。
 でも、ちょっと待って。それ、急には無茶じゃないかな?
 男子にからかわれるよ。嫌がらせされるかも知れない。
 女子からも嫌われる。」私は、心配で止めた。

「覚悟してる。ダメだったら、学校辞めてゲイバーに行く。」と瞳くん。
「ゲイバーには、ぼくも何度も憧れたけど、実際は厳しい世界だと思う。」私は言った。
「あたしは、男でいてもからかわれてる。だったら女としてからかわれた方がまし。」
そう言う瞳くんが、たまらなくいじらしく感じた。

「瞳、もう一度抱いていい。」と私は言った。
「うん、抱いて。」と瞳くんは抱き付いてきた。
私は思いきり抱きしめた。
「ぼく、瞳を守る。たいしたことできないけど、全力で守るから。」
「ありがとう。純の言葉がうれしい。」
瞳くんは、泣いているようだった。



次の日の人実くんが心配だった。
だのに、学校にいくのが遅くなった。
しまったと思いながら、学校へ走って行って、教室に飛び込んで行った。
心配した通りのことが起こっていた。

「いやーん、やめて、助けて、いや、いや、やめてー。」という叫び声が教室の後ろの方でした。
見ると、数人の男子が、人実くんの上半身を抑え、ズボンとパンツを脱がせにかかっている。
「やめろー、何すんだ!」と私は飛び込んでいった。
人実くんの下半身は、膝の所まで脱がされていた。
私は、自分の学制服を脱いで、人実くんの下半身を隠した。

「何するんだ!」と私は人実くんをかばいながら言った。
怒りがむらむらと湧き上がっていた。

「立原がよ。あたしは今日から女よ、なんて言うからよ。じゃあ証見せろって言ったら、嫌がるからよ。みんなで確かめてただけだよ。」と一番柄の大きなAが言った。他の連中が笑っている。
「自分は女だって言ったんだったら、女だろう。」私は怒気をはいた。
「だって、立原は男だろう。」とB。
「だったら、確かめることないだろう。」私は言った。
「おい、純、お前だからといってな、へんに立原をかばい立てすると、許さねーぞ。」とA。
「どう、許さないんだ。」と私。
「こう許さねんだよ。」と、Aが私の胸倉をつかみ、私を立たせて私の顔面を本気で殴りかかってきた。
Aのパンチが飛んできたとき、その1秒後に、Aは私に関節を取られ、机の間に飛ばされていた。私の合気道は、5年目に入り少しは強くなっていた。
それから、次々に奴らがやってきて、私は、全員同じように関節を取りAの上へと投げた。
5人は、投げられたショックと関節の痛みで、戦意を消失させていた。

「これから、立原をからかう奴は、みんな同じ目に合わせる。男も女もだ!」
私はありったけの声で、クラス中に言った。
私は人実くんを立たせ、埃を払って、席につかせた。
「純、ありがとう。」と人実くんは言った。クラス全員が驚きの眼差しで私を見ていた。
私は中2になり、少し男っぽくなっていたが、依然女の子のような弱そうな少年だったから。



人実くんのズボンを脱がせた5人と私と人実くんは、中休みに校長室に呼ばれた。
担任の玉井先生と、生活指導の大野先生もいた。

Aが初めに説明をした。
次に人実くんが説明をした。
最後に私が説明をした。

生活指導の大野先生が、5人に、
「もう、お前らはああいうことをするんじゃないぞ。」と言った。
私には、
「何の武術を使ったか知らんが、やりすぎはいかん。」と言った。
私は、「え?」と思った。まさか、叱られるとは思っていなかった。
5人を相手に、じゃあどう戦えばいいのだ。私は、くやしくて涙が出そうだった。

最後に大野先生は、人実君に、
「君も、自分は女だなどどいうな。男らしくしすれば、今日みたいなことにならん。」

「これで、終わりにするが、いいか。」と大野先生が言った。

私はまさかと思った。人実くんに対し、5人に謝らせもしていない。
先生達は何を考えているんだ。たかが男子同士のふざけ合いとでも思っているのか。
人実くんは、女子なのだ。それなのに…。
猛然と腹が立ってきた。

「全然よくありません。」と私は言った。
「なにぃ?」と大野先生が私をにらんだ。
学校で一番怖い先生だが、そのときは少しも怖くなかった。



「先生方は、女の子が、男子5人にスカートとパンツを脱がされて、笑い者にされても、たったこれだけの注意で終わらせるのですか。
ぼくは、立原くんから、昨日、自分の心は女の子なのだと告白を受けました。立原くんは、体は男子でも、心は女子なんです。それなのに、心は女子だと思っている立原くんの一番見られたくないところを、この5人は無理矢理に見たのです。見た5人に対して、『もうするな』で終わりですか。納得がいきません。」

「じゃあ、どうすればお前の気が済むというのだ。」と大野先生がすごんで私をにらみつけた。

「保護者に報告をして、学校に集め最低謝るべきです。
そのときに、立原君の心は、女の子であり、女の子の下半身を見たことと同罪であることを、先生方から、説明してほしいです。その説明がないと、罪の重さがわかりません。立原くんは、自分は女だと何度も言い張ったのに、無理矢理されたのです。

それから、教育委員会と相談し、立原くんのような生徒に対して、学校側がどう守っていくかを考えてほしいです。ぼくが、小学生のとき一時女子でいたときがありますが、学校は配慮をしてくれました。

それから、大野先生の立原くんへの最後の言葉が、納得できません。
立原くんは、女の心をもって生まれてきたんです。
体が男だから、ずっと今まで男の演技をしてきたんです。
でも、自分の心に正直に生きようと思って、今日勇気を振り絞ってきたんです。
その立原くんに対して、男らしくしろというのは、残酷です。
先生は、女の子に対して、男らしくしろと言っているのと同じです。

学校が、今日中に何もしてくれなければ、ぼく一人でも、教育委員へ聞きにいきます。人権上どう思うか、聞きます。
また、以上のこととは別に、さっきの先生方のやり方について、新聞社にも手紙を出します。3つの新聞社に書きます。それは、今日の先生方のやり方は、あまりにもひどいと思ったからです。だって、先生方は、5人に立原君に謝ることもさせていません。」

「それは、お前がやっつけたんだからそれでいいだろう。」と大野先生が言う。

「勘違いしないでください。ぼくは、5人がぼくをなぐりに来たから、投げ返しただけです。全部向こうが先です。別に立原くんのためにやったことではありません。
そうだよね、安藤君(A)。」と私は言った。
「はい、ぼくが、最初に加納君の胸倉をつかみ、立たせて、思い切りなぐろうとしました。」
安藤君が言った。

「では、失礼します。」
と私は、人実くんを誘って、校長室を出た。
何もかも腹立たしかった。

後から、5人がぞろぞろ付いてきた。

人実くんとしばらくいくと、5人が近づいて来て、床に手をつき始めた。

Aくんが、
「加納、すまなかった。俺達が謝る。だから、大番長に言わないでくれ。お前が大番長に認められてること忘れてた。」と言う。
私は、
「大番長が怖いから謝るわけだ?それなら、話しにならない。」と言った。

「ちがう、ちがう。反省してるんだ。立原、許してくれ。もうあんなこと絶対しねえ。
 これから、お前を女だと考える。お前をいじめる奴がいたら、守る。絶対そうする。だから、許して くれ。」とAくん。
「あたしは、謝ってくれたら、それでいいけど。」と人実くんが言った。

「瞳、そんな簡単に許しちゃだめだよ。
 相手が強けりゃ謝る。弱けりゃいじめる。そういうのは一番嫌いだ。
 この5人のやったことは、瞳が思っているよりずっと罪が重いんだ。
 5人もわかってないし、学校もわかってない。
 ぼくは、5人も学校も、簡単には許さない。」

私は、ぷりぷりして、瞳といっしょに教室に帰った。
だれから何を言われても、ぶすっとしていた。

先生を招集する校内放送が入った。きっと、さっきのことか。

私は、空いた時間をかけて、大学ノートに新聞社への手紙を書いていた。
誰に対して怒っていたのだろう。もうあの5人にではない。学校でもない。
多分、瞳や私なんかに対する世間の目に対してだったのかも知れない。


つづく

人実くんのカムアウト(中学生編 2 その2)

書いてみたら、ちょっと長くなりそうなんです。だから、〈その2〉としました。
読んでくださると、うれしいです。

===============================

「ああ、ステキ…。」
その声は、完全に甘い女の子の声で、私はたまらなくなっていた。

「あたしの名を呼んで。」と瞳くんは言った。
「瞳。」
「もう一度。」
「瞳。」
「純、キ・スして。」
ドキンと胸が鳴った。
女の子とキ・スなんてしたことない。
瞳は女の子と何も変わらない。
私は少し震えながら、瞳くんの口びるに口びるを重ねた。
「もっと、強くキ・スして。」
私は瞳くんを抱く力を強めた。

「純、あたしを丘して。」と瞳くんが言う。
「丘すってどうするの?」私は聞いた。
私は当時奥手で、そういうことをほとんど知らなかった。

「じゃあ、あたしが純を丘してあげる。」
瞳くんは、私の上になった。
私のシャツを脱がせ、私の体中にキ・スをし始めた。
瞳くんの詰め物をしてふくらんだ乳・房が柔らかく私の体にあたって、
感じてしまう。

私は何だか未知の世界へ連れて行かれてしまうようだった。

そのうち瞳くんは、私のパンツを脱がせて、私の大きくなっているものを触った。
「恥かしいよ。」と言った。
「そんなこと、ないわ。」と瞳くんは言って、
私の大きくなったものを、柔かいハンカチのようなもので包み、そっと愛・撫をはじめた。
そして、私の口びるを奪った。
目くるめくような快・感が私の体を走った。
だんだん頭がどうにかなりそうで、いろんないん乱な情景が頭に浮かんだ。

口付けをしている瞳くんの舌が、私の中に入ってきた。
びっくりしたけれど、それを受け入れて喜んでいる私がいた。
ああ、頭が変になってくる。夢の国にいくみたいだ…。
やがて、電撃のようなものが私を貫いて、私はううっと声を上げた。
瞳くんがハンカチで覆っているものの中に、私の体の中から、何かが発・射した。
生まれて初めて体験する快・感だった。



瞳くんは、私のあそこをきれいにふき取ってくれて、
私の横に再び来た。私の胸に腕と頬を乗せて、
「純、気持ちよかった?」と聞く。
「うん。天国に行くみたいだった。」と私は言った。
「純、オ△ニー、知らなかったんだ。」と瞳くん。
「名前だけ知ってた。」
「今みたいなの、自分でやることをいうの。
 ときどきたまらなくなったときにするの。」
「瞳もするの?」
「うん。誰かにキスして、抱いてほしくてたまらなくなったときとか。」
「教えてくれてありがとう。」
「どういたしまして。」



「瞳の方は、いいの?」と私。
「いい。純が満足してくれたから。」
「そんな、悪いよ。」と私は言って、瞳くんにも同じことをやってあげた。

瞳くんは、私のマッサージにすごく反応して、
「いや、いや、」とか「あ、あん、ああん、」と言いながら首を振ったり、身・もだえをした。
女の子って、こんなようなんだろうかと思った。
「純、キ・スして、そして、抱いて、お願い…。」
瞳くんは、荒い息をして、せがんだ。
私は片手を瞳くんの背中に入れて、持ち上げながら、瞳くんの口びるを強く吸った。
そのうち、瞳くんは、
手で、シーツをぎゅっとつかんで、私の口をほどき、
「だめ、だめ、もうだめ、イカ・セテ、お願い…」と幼い女の子のような声をたくさん出し、
やがて、「ああ…。」と叫んで体を大きく痙攣させた。
激しい光景だった。
それを、見ているだけで、私はまた興奮に耐えられなくなりそうだった。


二人とも満足して、私たちは、長い間ベッドの中で抱き合っていた。
キ・スをしたり、顔をなであったりして。
瞳くんが本当に可愛いと思った。何度も何度も抱きしめたかった。
学校の人実とは全然ちがう。かわいくて、ちょっとセクシーで、ステキな女の子だった。



二人でベッドから起きて、そろぞれの服を着た。
居間の壁に二人並んでもたれていた。

そのうち瞳くんが、ぽつんと言った。
「あたし、明日から、学校で女の子デビューしようと思ってるの。」
「どういうこと?」
「もう、男としての演技止めるの。小学校からずっと演技してきた。
 でも、もう嫌になっちゃった。
 女の子の言葉使って、女の子として振舞いたい。
 あたし、ほんとは、もっとおとなしい、静かな子なんだ。
 ベッドの上では、ちがっちゃったけどね。
(瞳くんは、私を見てちょっと赤くなった。)
 学校で、三枚目やったり変な子やるのに疲れちゃった。
 あれは、本当の私じゃないから。
 自分に正直にいきたいの。」瞳くんは、そう言った。

私はあわてた。

「瞳の気持ち、よく分かる。
 でも、ちょっと待って。それ、急には無茶じゃないかな?
 男子にからかわれるよ。嫌がらせされるかも知れない。
 女子からも嫌われる。」私は、心配で止めた。

「覚悟してる。ダメだったら、学校辞めてゲイバーに行く。」と瞳くん。
「ゲイバーには、ぼくも何度も憧れたけど、実際は厳しい世界だと思う。」私は言った。
「あたしは、男でいてもからかわれてる。だったら女としてからかわれた方がまし。」
そう言う瞳くんが、たまらなくいじらしく感じた。

「瞳、もう一度抱いていい。」と私は言った。
「うん、抱いて。」と瞳くんは抱き付いてきた。
私は思いきり抱きしめた。
「ぼく、瞳を守る。たいしたことできないけど、全力で守るから。」
「ありがとう。純の言葉がうれしい。」
瞳くんは、泣いているようだった。



次の日の人実くんが心配だった。
だのに、学校にいくのが遅くなった。
しまったと思いながら、学校へ走って行って、教室に飛び込んで行った。
心配した通りのことが起こっていた。

「いやーん、やめて、助けて、いや、いや、やめてー。」という叫び声が教室の後ろの方でした。
見ると、数人の男子が、人実くんの上半身を抑え、ズボンとパンツを脱がせにかかっている。
「やめろー、何すんだ!」と私は飛び込んでいった。
人実くんの下半身は、膝の所まで脱がされていた。
私は、自分の学制服を脱いで、人実くんの下半身を隠した。

「何するんだ!」と私は人実くんをかばいながら言った。
怒りが火のように燃え上がった。

「立原がよ。あたしは今日から女よ、なんて言うからよ。じゃあ証見せろって言ったら、嫌がるからよ。みんなで確かめてただけだよ。」と一番柄の大きなAが言った。他の連中が笑っている。
「自分は女だって言ったんだったら、女だろう。」私は怒気をはいた。
「だって、立原は男だろう。」とB。
「だったら、確かめることないだろう。」私は言った。

「おい、純、いくらお前だからといってな、へんに立原をかばい立てすると、許さねーぞ。」とA。
「どう、許さないんだ。」と私。
「こう許さねんだよ。」と、Aが私の胸倉をつかみ、私を立たせて私の顔面に本気で殴りかかってきた。
Aのパンチが飛んできたとき、その1秒後に、Aは私に関節を取られ、机の間に飛ばされていた。私の合気道は、5年目に入り少しは強くなっていた。
それから、次々に奴らがやってきて、私は、全員同じように関節を取りAの上へと投げた。
5人は、投げられたショックと関節の痛みで、戦意を消失させていた。

「これから、立原をからかう奴は、みんな同じ目に合わせる。男も女もだ!」
私はありったけの声で、クラス中に言った。
私は人実くんを立たせ、埃を払って、席につかせた。
「純、ありがとう。」と人実くんは言った。クラス全員が驚きの眼差しで私を見ていた。
私は中2になり、少し男っぽくなっていたが、依然女の子のような弱そうな少年だったから。



人実くんのズボンを脱がせた5人と私と人実くんは、中休みに校長室に呼ばれた。
担任の玉井先生と、生活指導の大野先生がいた。

Aが初めに説明をした。
次に人実くんが説明をした。
最後に私が説明をした。

生活指導の大野先生が、5人に、
「もう、お前らはああいうことをするんじゃないぞ。」と言った。
私には、
「何の武術を使ったか知らんが、やりすぎはいかん。」と言った。
私は、「え?」と思った。まさか、叱られるとは思っていなかった。
5人を相手に、じゃあどう戦えばいいのだ。私は、くやしくて涙が出そうだった。

最後に大野先生は、人実君に、
「君も、自分は女だなどどいうな。男らしくしすれば、今日みたいなことにならん。」

「これで、終わりにするが、いいか。」と大野先生が言った。

私はまさかと思った。人実くんに対し、5人に謝らせもしていない。
先生達は何を考えているんだ。たかが男子同士のふざけ合いとでも思っているのか。
人実くんは、女子なのだ。それなのに…。
猛然と腹が立ってきた。

「全然よくありません。」と私は言った。
「なにぃ?」と大野先生が私をにらんだ。
学校で一番怖い先生だが、そのときは少しも怖くなかった。


つづく

人実くんのこと(中学2年編1 前編)

せっかく中学へ入学しましたので、今度は2年生編を書きたく思います。
前、中、後編になるかもしれません。一回を短めにしました。
学校は、3年生が卒業して、平和な学校になっていました。

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中学の2年生になってクラス替えがあった。
6クラスもあったので、1年からいっしょの男子は、ばらばらになった。
私は、身長が伸び、もうすぐ150センチに届くくらいになっていた。
朝礼の列に並ぶとき、今までほとんど前から2番目だったが、
2年になり、前から7番目になった。

新しいクラスでの席が決まった。
私の前にいたのは、私より少し背の低い、立原人実くんという子だった。
とても可愛い顔立ちで、髪は少年ヘアーにしていた。
「人実」という名は、漢字を見ると男だと思える名前だったが、
発音すると「ひとみ」であり、「瞳」という漢字を連想し、それは女の子の名前にもなった。

人実くんは、クラス替えのあったその日に、私を遊びにさそった。
その頃、私は男子といっしょに野球がしたかったので、
人実くんと遊ぶのは、週に2度くらいにしていた。

人実くんは、私と二人だけで遊ぶのが好きだった。
たいていは、人実くんの家の中で遊んだ。
人実くんは、一人っ子で、両親は共働きのため、いわゆる「鍵っ子」だった。
人実くんは、学校では、三枚目で、ちょっとH(いやらしい)で、
よく男子に誰かれと頬にキスをしたりして、変な子扱いされていた。



五月の終わり頃、人実くんの家で遊んでいるとき、人実くんはこう言った。
「純、ぼく女になっていい?」
「どういうこと?」と私は聞いた。
「こういうこと。」
人実くんは、そう言って、急に女の子の仕草になり、
私に抱き付いてきた。
「純、あたし…純が好き。」
とちょっと鼻にかかった、
まるで女の子そのものであるような甘えた声で言った。
よく学校でやる「変な子」をやっているのだと思いながらも、
私は困ってしまい、うつむいてしまった。

私も小学生のころ、女の子だった時期がある。
でも、そのときの私の女の子ぶりとはまるで違って、
声も仕草も、いかにも女の子女の子したものだった。



「純、学校でのあたしは、本当じゃないの。
 これから、本当のあたしになるから、見ていてくれる?」
人実くんはそう言って、私を居間に連れていき、
私を椅子に座らせた。
そして、自分は、その正面にあるドレッサーに座った。

人実くんは、居間に山に摘んである洗濯物から、
お母さんのものらしい女性の下着を取り出した。
そして、裸になり、女性の白いショーツを履いた。
そして、お母さんの白いブラをとり、両腕を通して、
手を後ろに回し、ブラのホックをはめようとした。

「そんなことして、お母さんに怒られないの?」と聞いた。
「お父さんも、お母さんも知ってる。」人実くんは言った。

「ねえ、純、お願い、留めて。」とブラを留めかねて、人実くんは言った。
私は椅子から立って、人実くんのブラのホックを留めた。
「ありがとう。」
そういう人実くんの動作や声のすべてにシナがあって、女の子を感じさせた。
人実くんは、それから、白いスリップをかぶり、
太ももまでのストッキングを履いた。

私は、なんだかぞくぞくするものを感じてしまい、
体の一部を熱くさせてしまった。
私は、自分が女装をしても感じてしまうし、人が女装をするのを見ても感じた。

人実くんは、ドレッサーの引き出しから、ヘアピースを取り出して、
それを上手に、少年ヘアーに連結して、
ストレートの髪の可愛い女の子に変身した。
すると、とたんに、人実くんの下着姿が、なまめかしいものに変わった。
そして、唇に赤い口紅を薄く引いた。
ティッシュを噛んで、余分な口紅を取った。
その仕草一つ一つが女の子そのものだった。

そして、お母さんの洋ダンスから、花柄のワンピースを取り出し、
それを着た。
そして、私の方に振り返り、
「純、これが本当のあたし。」と言った。

びっくりするほど可愛かった。
とくに赤い口紅が、ぞくっとするくらい、女の子のオーラをかもし出していた。



人実くんは、私の椅子のそばに来て、
自分はジュウタンに座り、私の膝に腕と頭を乗せた。
「純、あたしのことどう思う?」と人実くんは、聞いた。

「とっても可愛い。男の子には絶対見えない。」
「ありがとう。でも、そうことじゃなくって、あたしのこと変態だと思う?」
「思わない。ぼく、女の子の格好するのが、好きだもの。
 見ていて、興奮しちゃった。」
「ここ?」と人実くんは、私の股間を触ってきた。
「やめて。大きくなってるのが、恥ずかしい。」と私。
「ごめん。あたしの悪いクセ。」

「純、あたしが女でいるとき、あたしのこと「瞳」って呼んで。
 漢字で、目偏の『瞳』。ひとみ。」
「うん、いいよ。」と私は言った。

「あたし、純とは、ちょっとちがうと思ってる。
 純は女の子の格好がしたいだけでしょう?
 だから、女装をみると興奮する。」

「瞳は違うの?」と聞いた。
「うん、はっきり違う。
 あたしは、女装しても興奮しない。
 あたしは、女だから、それにふさわしい女の格好をするだけ。
 純は、女の子を好きになるでしょう。
 あたしは、男の子を好きになる。」
「だれか、好きな人いるの。」
「うん、浜岡くん。」

浜岡君は、スポーツも勉強もできて、女の子達にもてもての子だった。

「でも、純も好き。純は、私の憧れかな。
 1年のとき、女の先輩と二人で、学校中を歩いてたでしょう。
 あのときの可愛い純が忘れられない。可愛くって、輝いて見えた。」

「瞳は、自分が女の子だと思っているんだね。
 いつから?」と聞いた。
「生まれたときから。」と瞳くんは答えた。
「ぼくも、生まれたときから、女装したいって思ってた。」
 瞳とぼくは、違うけど、似ているところもあるよ。
 ぼくだって心のどこかは、女だって思ってる。
 だから、瞳のこと、少しわかってあげられる。」

「ほんと?」と瞳は喜んだ。
「うん、ぼくと二人でいるときは、いくらでも女の子になってもいいよ。」と私。



「純、あたしのベッドにいこう。」瞳くんは言った。
「いいけど…。」と私は言った。

二人で、ベッドに並んですわった。
「純、あたしのワンピース脱がせて。」と言って、瞳くんは私に背中を向けた。
私は、瞳くんのファスナーを降ろした。
「あ~ん、この感じ好き。」と人実くんはうっとりと言った。
隙間からのぞく白いスリップと人実くんの甘い声で、私はまた興奮してしまった。

瞳くんは、スリップ姿で、私の隣に座った。
「純も、裸になって。」
「どうして?」
「ベッドでは、二人とも裸になるの。」
「わかった。」そう言って、私は上着とYシャツを脱いで、シャツだけになった。
「ズボンも脱いで。」と瞳くん。
「今、恥かしい。あそこが大きくなってるから。」と私は言った。
「すぐ毛布に入るから、わからないわ。」
「うん、わかった。」私は、ズボンと靴下をぬいで、瞳くんの毛布をかぶりベッドに横たわった。
スリップ姿の瞳くんが、私のそばに寝て、私を見つめた。
瞳くんが男の子だということを忘れる。
まるで、女の子だった。私の胸は高鳴った。

「抱いて。」と瞳くんが言った。
私はうなずいた。
「これで、いい?」
「もっと強く。」
「こう?」
「ああ、ステキ…。」
その声は、甘ったるい女の子の声で、私はたまらなくなっていた。


つづく

大番長との対面(中学入学編1 完結編)

メルヘンが目標の私の自叙伝でしたが、今回は、ちょっと怖い話になってしまい、途中で、しまったなあと思いながら、書いていました。今回で最終です。
今度は、もう少し乙女チックはエピソードを書きたいと思っています。では、完結編にお付き合いくださいませ。
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入学の日から4日目。
帰ろうとすると、校門のこちら側に生徒が群がっている。
群がっているわりには、静かだった。
なんだろうと思ってそばに寄ると、みんなが、怖い怖いと言っている。

三角公園のベンチに、一人の筋肉の塊のような人がいた。
学制服を羽織るという感じで両肩にかけていた。
中学生なのか?

みんな、その人が怖くて、校門をくぐれないらしかった。
こんな状態になっているのに、先生が一人も来ていない。
みんなが、静かだったからだろうか。

「誰がいるの?」と私はそばの人に聞いた。
「大番長だよ。」とそばの人が言った。
「え?」と私は言った。

大番長は、ぼくを守ってくれている恩人だ。
挨拶に行かなければ。
それに、誰だか知りたい。

そう思って、みんなをかきわけ、
校門をくぐろうとした。

「おい、やめとけ。」と何人かに言われたが、
私は、真っ直ぐ大番長のところへ行った。

そして、帽子を取って、礼をして、
「加納純です。大番長ですか?」と聞いた。
「おう。」と大番長は野太い声で言って私をにやにやと見た。
「もうちょっと近くへ来い。」と言われた。
私が近くに寄ると、
座ったままの大番長から、すごいジャブが飛んできた。
校門の後ろから、「キャー。」という叫び声が聞こえた。
私は、とっさに体を少し傾けて、
大番長のジャブを、すれすれにかわした。

大番長は、にやりとした。
「寸の見切りか…。」そう言った。
「俺は、けっこう本気で出したぜ。それをかわすたあ、大したもんだ。
 奴がほめるのも無理はねえ。」大番長はそう言った。

「あのう、大番長は、ぼくを守ってくださっていると聞きました。
 ありがとうございます。」と言った。

「無事でいるか。」と大番長。
「はい。」と私。
「しかし、お前は、俺が守ってることを知らねーで、
 その髪で入学してきたんだろう。
 大バカか、クソ度胸だな。」
「髪切るのが、死ぬほどいやだっただけです。」
「ははは、そうか。」と大番長は笑った。

「俺がわからねーか。」と大番長が言った。
どこかで、会ってる人だと思った。
「お前、いいこと言ったぞ。あのときにお前が気に入った。
 『住んでる家を、そんな風に言ったらバチが当たるよ。』」大番長が言った。

「ああ!」と私は叫んだ。「きっちゃんのお兄ちゃん!」
「やっとわかったか。」大番長はにやりと笑った。
「きっちゃん、元気ですか?」
「おお、友達もたくさんできてな。うれしそうにしてたよ。
 引っ越してったからな。
 吉には、可哀相なことをした。
 俺がこんな不良だからよ。俺が怖くて、吉の回りにはだれも来やしねー。
 だが、ジュン。お前だけが、吉に付き合ってくれた。
 吉がお前を、家に連れてきた。初めてのことだ。
 お前なら、どんなおんぼろの家でも、人を見下したりしねえと思ったんだろうなあ。
 ところが、お前は、見下すどころか、吉に説教してくれた。バチが当たるぞってな。
 正直うれしかったぜ。」

「きっちゃんは、ぼくに野球を教えてくれました。
 それに、男言葉が出なかったぼくを、治してくれました。」私は言った。
「あの夏は、吉からお前の話を何回聞かせれたかわからねえ。
 今日は、純がボールを捕れるようになったとか、純は寸の見切りができるとか、
 よっぽど、お前と遊べて、うれしかったんだろうな。」
「ぼくも、うれしかったです。
 きっちゃんは、ぼくがどんなに野球が下手でも、一言も文句を言わずに教えてくれました。」
「ありがとよ、そう言ってくれて。
 吉がな。お前がT中行くってんで、たのみやがる。
 純を守ってくれってな。
 お前は、吉の一番大事な友達だ。
 ま、そんなわけよ。

 それにしても、お前の兄ちゃんの健(けん)といい、お前といい。
 おかしな兄弟だ。」

「兄ちゃんのこと知ってるんですか。」
「ああ。俺のことをな、『山本。』と呼び捨てにする、俺の只一人のダチだよ。」
「もっと聞かせてください。兄ちゃんのこと。」
「吉と同じよ。6年とき俺は乱暴者で、恐がって誰も俺と遊ぶ奴なんかいなかった。
 俺は、一人ぼっちだったさ。もちろん寂しかった。
 そんとき、俺に声かけてくれたのが、お前の兄キよ。
 俺のことを微塵も怖がってねえ。涼しい顔してな、
 キャッチボールやろうぜと言って、俺にブローブを渡した。
 それから1年間、健は俺にずっとつき合ってくれた。
 ずいぶん説教もされたがな。」と大番長は少し笑った。

「へえ、兄ちゃんが…。知りませんでした。」と私は言った。
 

「ああ、そうだ。リーダーの佐伯がな。グループ解散して、
 もう抜けてえと言って、土下座して頼みに来た。指の1本や2本、覚悟してよ。
 ジュン。お前に助けられて、もうワルやんのが嫌になったんだとよ。
 お前があそこまでして助けた女だ。仕置きするわけにはいかねえ。
 天使の心で、許してやったよ。

 じゃ、俺は行くぜ。校門の奴ら、出てこれねえからな。じゃあよ。」

と大番長は、私の頭を一撫でして、学校とは反対の方へ歩いて行った。

大番長が行った後で、気が付いた。
大番長は、私に会いに来たのだと。

遠ざかる大番長の広い背に、きっちゃんの顔が浮かんだ。

「きっちゃん、ありがとう。」
私は、そうつぶやいた。



〈中学入学編〉 完

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<エピローグ1>

大番長と会った次に日、
昼食の終わったとき、クラスにリーダーが訪ねてきて、私を呼んだ。
「ジュン、あたしは、ワルを止めたよ。」とリーダー。
「知ってる。大番長から聞いた。」
「ジュンのおかげで、仕置きなしで許された。
 2回もジュンに命助けられた。
 だから、ジュンへのお礼を持ってきた。」
「え、お礼なんていいのに。」と私は言った。
「そうはいかない。何がいいか考えて、
 あたしが、人に絶対あげたくないものを持ってきた。」
「え?何?」
「これだ。」リーダーは紙袋を私に見せた。
「着古しで悪いんだけどさ、あたしの1年のときのセーラー服。夏用と2着入ってる。」
そう言って、リーダーは、紙袋をくれた。
「わあ、すごい。最高にうれしい。リーダーが着たままの?」
「まさか。クリーニングに出したさ。」
「着たままのでよかったのに。」
「バカ。変態。」とリーダーは、笑いながら言った。
「うれしくて、今日眠れない。ぼくの宝物。
 リーダー、ありがとう。」
「喜んでくれて、うれしいよ。」

「あ、あたしはもうリーダーじゃないから、佐伯って呼んでね。」
リーダーは、そう言って、笑顔で、去って行った。

<エピローグ2>

大番長に会ったその日の晩。
夕食のとき、私は兄に聞いた。
「兄ちゃん、大番長の友達だったの。」
「山本は、俺の親友だよ。6年のとき毎日遊んでた。
 あいつが不良にならないようにさんざん言ったんだけど、
 止められなかった。」と兄。
「兄ちゃん、すごいよそれ。」と私。
母が、
「健はそんなすごい子と親友なの?」
「うん。」と兄。
「じゃあ、兄ちゃんは、ぼくが長い髪で学校行ったとき、
 始めから守ってくれる気だったんだ。
 だから、反対しなかった。」と私。
「そんな気は、なかったさ。
 純が自分で身を守るしかない。そう思ってた。
 でもなあ、山本と純が知り合いだったとは思わなかった。
 どうやって、知り合ったんだ。」と兄。
「だって、大番長は、きっちゃんのお兄ちゃんだったんだ。」私。

「お前がよく言ってたきっちゃんか。
 なるほど。それでわかった。」と兄。
母が言った。
「きっちゃんと遊んで欲しくないなんて言ったこと、
 お母さん、すごく反省してる。純の方がしっかりしてた。」

父と姉は、話しがわからず、ぽかんとしていた。


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《おわりに》

リーダーこと佐伯先輩は、リーダーを辞めた後、猛勉強して、都立の上位の高校へ入りました。
その後、大学へ行って、専門職に就きました。

私は、自分の長髪のために、いろいろ騒動を起こしてしまったことを反省して、髪を切りました。
といっても、少し長めでしたが。

私は、自分の髪を切る前に、リーダーに、もらったセーラー服姿を見せるため、リーダーの家に遊びに行きました。リーダーの家はとても大きな家でした。

リーダーにもらったセーラー服は、ナフタリンで保存し、長い間宝物として持っていました。こっそりと何度も着ました。その度に、美人のリーダーのことを思い出し、うっとりとしてしまいました。

髪を切った私は、その後主に男子と野球をやって過ごしました。きっちゃんに教わったおかげで、
けっこういいプレーができるようになっていました。

中学校は、3年生が卒業してしまうと、一気に落ち着いた学校になりました。それから私たちが卒業するまで、平和で明るい学校であり続けました。

大番長は、中学を出て土木の方で働き、自分の会社を作って社長になりました。そこは、不良少年の更正の場として、社会に貢献し、今も健在だそうです。

リーダーを助ける(中学入学編1 中篇)

「だめよ。大番長は、学校に来ないけど、何人か見張りを送って、あんたの安全を確かめてる。
 あたし達のしたことは、もう報告が行ってるよ。
 もう終わりだよ。怖いよー。加納君助けて。怖いよー。」とリーダーは、さめざめと泣き始めた。


私は思案した。やがて、
「あ、わかった!」と私は叫んだ。
「何?」とリーダー。
「今ここで、リーダーのセーラー服と、ぼくの学制服を取り替えます。
 リーダーがぼくの服を着る。ぼくはリーダーの服を着る。
 それで、昼休みに、二人で腕組んで、学校中をねり歩くんですよ。
 それなら、さっきのことは、遊びってことになるでしょう?
 番長の見張りも、二人で仲よく歩いていたら、考え変えますよ。」と私は言った。

「そうか。あたしもあんたと同じ恥をかけばいいのか!」とリーダーは言った。
「遊びなら、さっきぼく見て笑ったことも、遊びの内に入ります。」ぼくは言った。
「いけるかもしれない。」
「ぼくだけセーラー服なら、いじめられているみたいだけど、
 リーダーもぼくの服着てれば、いじめにはならない。」
「わかった、やろう。この際、ワラでもつかみたい。」とリーダーは飛び起きた。
「ぼく、女の格好するの好きですから、美人のリーダーのセーラー服着れるなんて、最高にうれしい。」
「バカ。お前、変態か?」
「そうです。」

こんな非常事態に二人で笑った。

「リーダー。名前教えてください。」と私。
「3年C組。佐伯洋子。」
「ぼくは、1年A組、加納純。昼休みは、ぼくから3年C組みに行きますね。」
「OK。」



保健室で、服を交換し着替えをした。
「わあ、うれしいな。先輩のいい匂いがする。」
と私は袖とかをくんくんかいで言った。
「ジュンのバカ。」と言われた。
「ああ、ジュン、おチビだから、つんつるてん。かっこわりー。」とリーダーは言った。
「ほんとだ。あははは。」と私は笑った。
「ジュン、あんた、ほんとに女の服よく似合うね。」とリーダーが言う。

リーダーのスカートは、少しミニにしていたので、丈がぴったりだった。
(当時の我が校のスケ番グループは、ロングではなく、ミニだった。)
「すごく、うれしい。」と私はうきうきとして言った。



教室は3時間目がとっくに始まっていた。
私は教室にそろっと入って行った。
小学校から私を知っている子達が、「わあ~。」とか、「おー。」とかと声を上げて、おもしろそうに見ていた。
授業は、理科だった。
先生はあんまり怖くなさそうな感じ。

「あん。誰だ?今来たの。」と理科の先生。
「はい、加納純です。」
「なんで遅れた?」
「はい。制服が濡れちゃったところ、先輩が服を貸してくれました。
 着替えていて遅れました。」と私。

(昔、ジャージ登校なんてありませんでした。)

「じゃあ、その先輩は、今何を着てるんだ。」
「ぼくの服を着てくれています。自分は、濡れているの平気だからって。」
「ぼく?君は、女生徒だろう?」
「いえ、男子です。」
「はあ~?」と先生は混乱してしまったようだ。

「じゃあ、君が今着ている女生徒の服は、誰の服だ。」
「はい、3年C組の佐伯洋子先輩です。」

このとき、一番驚いたのは、学校の生徒をよく知っている先生だったと思う。
「なにい?佐伯が、君に服を貸したあ~?!」
「はい。」
「あの佐伯洋子がか?!」
「はい。」
「で、あの佐伯が、君の学生服を今着とるのか?!」
「はい。そうです。」
「信じられん。それはなかろう…。」と先生が言った。

その頃、リーダーのいる3年C組みでは、同じ会話がなされているだろうと、
私は、すごく愉快になった。

先生はしばらく、頭の中を整理していた。
「で、君は、女生徒なのか、男子生徒なのか、もうわからん。」
と先生が言ったので、クラス中のみんなが大笑いした。



入学式以来、初日だ。
4つの小学校の生徒が集まって、F組まであった。
先生も1年生を知らないし、生徒同士もよく知らなかった。

4時間目の数学の先生は、普通に出席を取り、何事もなく終わった。



お弁当の時間となり、私は超特急で食べ、3年C組に飛んで行った。

リーダーも食べ終わって、何人かに囲まれていた。

「せんぱーい!」と呼んだ。

リーダーが立ちあがり、
クラスの全員が私を見た。

私はリーダーのそばに行った。
リーダーは、私の肩を抱いて、
「おーい、みんな。俺の彼女を紹介するよ。加納純ってんだ。可愛いだろう!」
と大声で言った。

クラスで笑声とすごい拍手が起こった。
リーダーは、短髪の髪をリーゼント風にしていた。

私は、リーダーの腕を抱いて、3階から順に二人で声を上げながら歩いた。
「おーい、可愛いだろう。俺の彼女だー。見てくれー。」
「あたしの彼でーす。見てー。」
リーダーと私は、そう言いながら歩いた。

昼食の時間であり、どの教室からも、みんなが顔を出し、
鈴なりになっている。先回りして、待っている一群もいた。
通るたびに、すごい拍手と声援が起こった。
「何年の誰だー、名前教えろー。」と私のことを聞く声も方々からした。
「1年A組みのジュンでーす。」と何度も答えた。

1年の教室を通るときは、私が男だと知っている子が大勢いて、そのことが伝わり、
私の方が、バカ受けした。

先生達は、みんな職員室で食べる。
それが、幸いした。
リーダーと私は、職員室だけ避けて通り、学校中を湧かせた。



リーダーと二人で、笑いながら、保健室に戻ってきた。
幸い保健の先生は、まだ不在だった。

私たちは、服を取り替えた。
リーダーは、リーゼントの髪を元に戻した。
「ああ、おもしろかったなあ。」とリーダーが笑いながら言った。
「最高でしたよ。だって、ぼくまだ中学校第一日目ですよ。すごいスタート。」

セーラーに戻ったリーダーは、やはりステキだった。

「先輩のセーラー着られたなんて、ぼくの一生の記念です。」
「こら、変態ジュン。」とリーダーは言った。
そして、3時間目の先生とのやりとりを語り合って、
二人で大笑いをした。



その後、リーダーは、ちょっと真面目な声になった。
「今日さ、あんたと学校中ねり歩いてたとき、
 あたし、なんだかもう怖くなくたってきたんだ。
 あたし達が、ジュンにあんなひどいことしたのに、
 ジュンは、あたしを助けるためにここまでしてくれた。
 大番長が、ジュンを守る気持ちがわかってきた。
 
 大番長といっしょに、あんたを守ってやりたいと思った。
 大番長と同じ気持ちでいるんだから、
 もう、怖くない。そう思った。
 
 呼び出されるなら、今日の内だと思う。
 明日の朝、あたしが校門のところで、無事に立ってたらさ、
 何もされなかったってことだ。
 きっと、無事に立ってるよ。

 ジュンが、してくれたことを、大番長が無駄にするわけない。
 ジュン、ありがとう。」
リーダーは、涙声で言いながら、私を抱きしめた。



その夜、私は神様に何度もお願いしながら寝た。
リーダーがどうか無事ですようにと。

朝起きたとき、心臓がドキドキした。
朝食を取り、家を出た。
学校へ祈りながら行った。

交差点を渡り、小さな三角公園の向こうに校門がある。

校門には週番の生徒が腕章を着けて何人か立っている。
大勢の生徒が、信号から一斉に公園を突き切っていく。

三角公園に来た。
私はリーダーを探した。
どうかリーダーが元気に立っていますように…。

「ジュン!」
声がして振り向くと、リーダーが笑顔で立っていた。
「無事だったの!」私は叫んだ。

リーダーが何度もうなずいた。
「よかったー!」と私はリーダーに抱きついた。

「昨日、ずっと電話の前で待ってたんだよ。
 やっぱり怖くてさ。震えながら待ってた。
 電話がかかってきた。
 もう命がないと思ったの。
 電話は、大番長から直々だった。そして、
 『ジュンに礼を言っとけ。』って一言言われた。
 ジュン、ありがとう…。命の恩人だ。」

リーダーは私を強く抱いた。

「じゃあ、リーダー。ぼくのほっぺたにキスして。」と私は言った。
「いいわよ。」そう言って、
リーダーは、私のほっぺたにキスをしてくれた。
そして、ちょっとおまけに唇にもキスをしてくれた。


リーダーは、いつも甘い薔薇の香りがした。




つづく(次回は完結編「大番長との対面」です。)

女番長・リーダーとの出会い(中学入学編1 前編)

中学入学編は、少し長くなりますので、前、中、後編で書きます。
ちょっとウソのような話ですが、実際にあったことなんですよ。
==============================

私が行くことになっているT中学は、
近隣一の不良中学だった。

このため、クラスのお金持ちの子は、
この学校を避けて、近くの学校へ越境入学した。
クラスのマドンナ4人もそろって越境入学。
勉強のできた男子の数人も越境入学。
一番勉強のできた井口君は私立。
惨憺たるものだった。

「ジュン、お前だけは、T中へ行くだろう?」
とガキ大将の加藤君が聞きに来た。
「行くよ。」と私が言うと、みんな安心した顔をした。
「よかった。ジュンくらいが来てくんねーと、盛り上がんねー。」
と加藤君が言った。

T中学へ行く子は、みんな入学を怖がっていた。

私は、家で、T中2年の兄に聞いてみた。
「T中ってそんなにこわいの?」
「毎日、血だらけになったのが、5人は、保健室に運ばれてるな。」と兄。
「わあ、それ、怖いんじゃない?」
「いや、ちゃんとしていれば、何も怖くないよ。」と兄は涼しい顔で言った。



春休み。母は、私の長髪を切ろうとした。
私の髪は、肩の辺まで伸びていた。
「こんな髪で、T中行ってごらんなさい。
 いっぺんで目をつけられて、殴られるわよ。」と母は言う。
私は抵抗した。殴られてもいいから、髪は切りたくないと言った。
姉が来たので、
「ね、お姉ちゃん、髪は女の命だよね。」と言った。
「あんた、男じゃないの。」と姉はつれない返事だった。
「かあさん。純のことはほっときなよ。殴られたっていいって言ってんだからさ。」
と兄が援護射撃してくれた。

母は、根負けし、私は詰め襟の学制服、長髪に学生帽。
その姿で、登校することになった。
クラスの男子の多くは、髪で何も言われないように、みんな坊主にしてしまった。
女子はスカートの丈を、長くなく短くもなくと細心の気を使っていたらしい。
髪飾りなども一切無しにしていたらしい。

入学式のとき、私の友達は、私の髪を見て、こぞってビビッてしまい、
「純、お前、それ、自殺行為だぜ。」と言った。

入学式は、先生方が総出で見張っていたせいか、何事も起こらなかった。



登校、第2日目。
私が校門を過ぎて、廊下に出ると、早速先輩がいる。
この場合、1年生は、廊下の脇に気をつけをして、
「おはようございます!」と頭を下げなければならない。
昼は、気を付けをして礼。
これは、女子も同じ。(女子の方がもっと厳しかった。)

先輩が来るのを見ながら、私は気を付けをして、
ああ、これで、長髪ともさよならか…と覚悟を決めていた。

3年生の怖そうな5、6人が来て、もちろん私の長髪を見た。
中でリーダーらしいリーゼントの人が、私を見つけ、
にまっと笑い、おもしろそうに来て、私の前髪や、頬の髪をさわる。
「お前は、バカか、それとも命知らずか。」と言う。
私は、ただ黙って前を見ていた。

「ちょっと、体育館の裏に来るか。」と言って、その先輩は、私の髪をわしづかみにした。
「女みてえな、顔しやがって…。」
そう言ったとき、その先輩は、自分の言葉に、ふと反応した。
女みてえな顔…
ぱっと私の髪を離した。そして、真っ青になった。
そして、乱れた私の髪を手櫛で直して、
「わりい。このことは、忘れてくれ。たのむ。勘弁してくれ…。」
そう言って、皆で逃げるように行ってしまった。

私も、回りの連中も、ぽかんと口を開けて、
「なんで?」と同じことを口にした。



20分の中休み。
スケ番ふうの7,8にんが、廊下を向こうから来た。
先頭を切っているのがリーダーだろう。
ウエーブのあるショートの髪にイアリングをつけていた。
かなり美人だった。

グループは、そばで気を付けしている私のところで止まった。
リーダーが、私を見て、
「うふっ。」と笑った。回りの女先輩達も、にやにやしている。
「この子、女?」と言った。
回りが笑っている。
「ちょっと、だれかセーラー脱いで、こいつに着せてやって?」
「はい。」と言って、一番小柄で下っ端と思われる女の子が、
自分のセーラー服をその場で脱ぎはじめた。
下っ端は、そこまでのことを平気でするのかと思った。
可哀相にその子は、スリップ姿になっている。
他の連中が、目隠しになってスリップの子を隠してやっていた。
「はやく、着替えろよ。」とリーダーが言った。

私はしかたなく、制服とYシャツ、ズボンを脱いで、
そのセーラー服を着た。
私の学制服は、取り上げられてしまった。

死ぬほど怖かったのに、セーラー服を着られたという喜びが心のどこかでして、
自分でも呆れてしまった。

女の子のセーラー服は、私にジャストサイズで、
すごく似合ったらしく、グループは、ゲラゲラ笑った。
「お前、女じゃん。
 明日から、女で来な。可愛がってあげるから。」
リーダーが言い、またみんなでゲラゲラと笑った。
「お嬢ちゃん、お名前は。」とリーダーは私のアゴをつかみ茶化した声で言う。
「加納純です。」と答えた。

「加納…。」とリーダーはつぶやき、そのうち目を見開き、顔色を変えた。
真っ青になり、ガタガタと恐怖で震え出した。
「すいません。すいません。」と言いながら廊下に這いつくばってしまった。
他の連中がぽかんとしていた。
「お前ら、何やってんだ!」とリーダーが言った。
「どうしたの?」と一人が横の子に聞いた。
「ばか、加納純だよ。」と横の子が小さい声で言った。
聞いた子は、ヒーッと引きつって、廊下に張り付いてしまった。

「おい、早く、服をお返ししろ。ぐずぐずするな。」とリーダーが言った。
私は服を返してもらい、着替えて、スリップの子の元へ、セーラー服を置いた。
その子は、服を着ないまま、這いつくばっていた。

リーダーは、
「どうしよう…。どうしよう…。女の服まで着せちゃった…それをみんなで笑い者にした…。」
とつぶやきながら、頭を抱え、一人事ごとを言い、血迷って、廊下を這い回った。
やがて、速い呼吸となり、廊下に仰向けになって苦しみ始めた。

私は、過呼吸だと思った。姉がよくなっていた。

「そのスリップの人に、早く服を着せてあげて。」と私は言った。

そして、みんなでリーダーを保健室に運んだ。
あいにく、保健の先生は出張だった。
私は、グループの連中を教室に返した。(みんな、飛ぶように、言うことを聞いた。)
すでに授業中だった。

私は、姉の過呼吸をよく見ていたので知識があった。
私は、保健室に紙袋を見つけて、それをリーダーの口に当てた。

ずっと袋を押さえていた。
10分くらいで、リーダーの呼吸が整ってきた。
やがて、リーダーは目を明け、私を見た。

「お前が助けてくれたのか…。」とリーダーはぼんやりと言った。
「助けたってほどじゃないです。」と私は言った。
そのうち、リーダーは、恐怖を思い出したのか、
「失礼しました!」と再び青くなり、また土下座をしようとした。
私はそれを止めさせて、ベッドに寝かせた。

リーダーは、
「加納君。あたし達を助けて。何でもします。何でもしますから。」と私にしがみついてきた。

「訳を教えてください。」と私は言った。

「はい。ここいら一帯を支配してる大番長が、この学校にいます。
 怖いなんてもんじゃありません。さからったら、命があるかわかりません。
 その番長から、加納純に手を出すなって言われています。
 女の子みたいに可愛い顔した子だって聞きました。
 だのに、あたしはあなたを見たとき、思い出しませんでした。
 で、あなたに女の服まで着させ、みんなで笑い者にしました。」
とそう言ってリーダーは腕を交差させて震える肩を抱いた。

それを聞いて、やっと謎が解けた。
私は大番長という人に守られている。
誰だろう…。3年生の兄さんの関係かな…。

「先輩。」と私は言った。
「はい!」とリーダー。
「ぼくに敬語使うの止めてください。ぼくに手を出さなきゃいいんでしょう?
 何も、敬語を使えって言われてないんでしょう。だったら、先輩らしく話してください。
 ぼくが先輩に敬語なんか使われたら、ぼくを怖がって、友達ができません。」と言った。
「はい。うん。そうだね…。わかった。」とリーダーは言った。

「ばれなきゃいいんでしょう?
 ぼく、大番長を知らないし、言いつけたりしません。」と私は言った。
「だめよ。大番長は、学校に来ないけど、何人か見張りを送って、あんたの安全を確かめてる。
 あたし達のしたことは、もう報告が行ってるよ。
 もう終わりだよ。怖いよー。加納君助けて。怖いよー。」とリーダーは、さめざめと泣き始めた。



つづく 

きっちゃんのこと(少年時代編 4 後編)

「ジュン、よけろ!」きっちゃんが叫んだ。
たまたま、ボールはバットの芯にあたったのか、
私が気がついたとき、かなりなスピードで、私の眼前に来ていた。

グローブが間に合わない。
私は、とっさに首を傾けて、ボールを交わした。
ボールが、私の耳をかすめて後ろへ抜けた。

「大丈夫か、ジュン。」ときっちゃんが寄ってきた。
「うん。耳をかすっただけ。」と私は答えた。
「ジュン、すげーよ。お前『寸の見切り』をやったよ。」
「何?それ。」
「俺、漫画で、読んだんだ。宮本武蔵の寸の見切り。
 剣をよけるのに、無駄なくギリギリに交わすんだ。
 ジュンは今それやった。」
「偶然よお。」と私は言った。「怖くて、首しか動かなかっただけ。」
「待ってろ。」きっちゃんは言って、私を真向かいに立たせた。」

「これから、ジュンの顔にパンチ出してみるから、寸の見切りやってみ。」
きっちゃんは、初め、スローなジャブを出した。
私はなんなくよけた。
きっちゃのジャブがだんだん速くなる。
私は、それもこれも、全部、ぎりぎりのところで交わした。」

「すげえ。ジュン。お前すごい、すごい動体視力もってる。」
ときっちゃんは、私の両手を取って、
「すげえ、すげえ。」と私の両手をぶんぶんさせた。

「動体視力ってなあに。」と私は聞いた。
「動いているものを見る力だよ。ジュンはきっと野球上手くなれる。」
きっちゃんはそう言ってくれた。

私はうれしかった。
運動には、ずっと劣等感を持ってきたから。
合気道を始めたのも、その劣等感を克服するためだった。

それから、私は、バッティングも、キャッチも、投げもみんなうまくなった。
みんなの私へのイメージからは、信じられないプレーができるようになった。

「きっちゃん、ありがとう。あたし、自信がついた。」
と私は、きっちゃんに抱きついた。

きっちゃんが赤くなっていた。
「女の子に抱きしめられたの初めてだからさ。ちょっと照れちゃった。」
「あ、ぼくもごめん。うれしかったから。」

そのとき、きっちゃんが、私の顔を見た。

「ジュン、今じぶんのこと、『ぼく』って言ったぞ。」

「あ、言ったね。ぼく、自分のこと、ぼくって言えた。」

「ジュン、治ったのか?」

「うん、治ったみたい。」

「よかったなあ。」と今度はきっちゃんが私を抱きしめてくれた。
「ありがとう、きっちゃん。」私は言った。

辺りは、暗くなってきていて、
高台の下を走る電車の灯りが眩しく見えた。



私の言葉は治った。
男言葉が使えるようになった。
しかし、家では内緒にしておいた。
もう少し、女の子でいたかったから。



8月の29日。
夏休みがあと2日というとき。
その日も、野球をした。
いよいよさよならをするとき、
きっちゃんは、真面目な顔をして、私に言った。

「俺、明日引っ越すんだ。母さんと妹といっしょに、父さんと別れるから。」
「ほんと…。」
「ああ。この学校で最後の夏休みだから、
 最後の休みくらい友達と遊んだ思い出が欲しかった。
 だから、俺、勇気出して、ジュンのところへ遊びに行った。

 ジュンの家はお金持ちだし、ジュンは人気あったし、
 俺なんかとは、遊んでくれねえと思った。
 でも、勇気出して、ジュンの家に行った。
 そしたら、ジュンはすんなり遊んでくれた。
 夏休み、全部付き合って遊んでくれた。
 うれしかった。ジュン、ありがとう。
 ジュンのことは、絶対忘れない。」 きっちゃんはそう言った。

「ぼくもだよ。きっちゃんと遊べて、楽しかった。
 きっちゃんは、ぼくに野球を教えてくれた。
 下手なぼくに、文句も言わずに、ずっと教えてくれた。
 おかげで、ぼくは、自分のことを『ぼく』ってよべるようになった。
 男言葉が使えるようになった。
 ぼくこそ、きっちゃんにお礼を言うね。
 きっちゃん、ありがとう。
 きっちゃんのことは、忘れない。」私は言った。

きっちゃんは、涙ぐんでいた。私も。

「最後に、ジュンのこと、もう一回抱きしめていいか。」ときっちゃんは言った。
「いいよ。」

きっちゃんは、私を抱きしめた。
きっちゃんの涙が、私の頬に伝わってきた。

「じゃあ、行くな。ジュン、ありがとう。」きっちゃんは、言った。
「きっちゃん、元気でね。」

私の言葉を振り切るように、きっちゃんは、走って行った。

夕暮れの中、きっちゃんの姿は、だんだん見えなくなる。
私は、ずっときっちゃんを見送っていた。



後編 完 (中学入学編につづきます。)

「きっちゃんのこと」(少年時代編4)

小学6年生から、中学への入学までを書こうと思います。前・中・後編にする予定です。
読んでくださると、うれしいです。

===============================

6年生の夏休みに入った。
私はその頃、男子としては、声が出なくなり、
女の子の姿で、一日を過ごしていた。
学校でもそれを許され、体育も、プールも女子の扱いを許されていた。



休みに入って、3日目の午後の1時ごろ、
家に山本君が遊びに来た。
取り次いだのは、母だった。
「山本君って子、純は知ってる?」と母に言われ、
だれかなと思って、
玄関を出て見ると、となりの2組の山本吉(きち)君だった。
となりのクラスの子が遊びにくるなんて、めったにないことだった。

私が出て行くと、山本君は、
「今日、遊べる?」と言う。
「塾があるけど、それまでだったら遊べる。」と私は言った。
(「塾」というのは、私がみんなに隠していた、合気道場へ行くことだった。)
山本君はうれしそうな顔をした。

山本君は、(俗に言う)身なりのあまりよくない子だった。
しかし、私はそういうことは、ほとんど気にならなかった。
私は、ワンピースを着て、女の子の格好のまま出て行った。



二人で、公園でブランコをしたり、シーソーをしたり、
ジャングルジムで遊んだりしていた。

山本君は、昼を過ぎると、毎日遊びに来た。
学校プールがある日は、いっしょに行き、
それが終わったら、まだ遊んだ。

私は、彼のことを、名前が吉だから、「きっちゃん」と呼んだ。
きっちゃんは私のことを、「ジュン」と呼んだ。

毎日きっちゃんと遊び始めたとき、母が意外なことを言った。
「母さんは、山本くんとは、純にあまり遊んで欲しくないな。」
母らしくない言葉だった。
母はいつも、友達をわけへだてするなと、私や兄に行っていた。
「どうしてお母さん?
 お母さん、いつも友達をわけへだてするなって言ってるじゃない。」と私は言った。
母は、しばらく考えていた。そして、うなずいた。
「うん。ジュンが正しい。お母さんの言葉は、忘れて?」と母は言った。



同じことを、友達にも言われた。
プールのとき、クラスの餓鬼大将の加藤君が、
「純、このごろ、2組の山本と遊んでるだろ?
 悪いこと言わねえから、やめとけ。」という。
「どうして?」と私は聞いた。
「それは、俺にもわからねえけど、2組の奴は、アイツと遊ぶねえ。
 アイツと遊ぶのは、ヤバイって言ってる。」
「そんな、理由もわからないのに、なっとくできない。」私は言った。



昼になったら、山本君と別れ、お昼を食べてまた遊んだ。
合気道のない日は、夕方まで遊んだ。

あるとき、公園の石山に登っていたとき、山本君が言う。
「ジュンは、どうして俺と遊んでくれるんだ。」
「だって、きっちゃんが遊びに来てくれるじゃない。」
「学校の奴ら全員、俺と遊ばない。
 俺、学年でジュンだけは遊んでくれそうな気がして、ジュンの家に行った。
 そしたら、ジュンは、少しも迷わないで、遊んでくれた。」ときっちゃん。
「みんな、どうして、きっちゃんと遊ばないの?」
「わかんねえ。兄貴が不良だからかな。」きっちゃんは、そう言った。

「ジュンは、ほんとは、男なんだよな。」ときっちゃんが言った。
「うん。ほんとはね。」
「俺は、ジュンが男だとは、どうしても思えない。
 女の子と遊んでいる気分だ。
 俺、女と口利いたことないから、
 女の子と遊んでるなんて、今自分が信じられねえ。夢みてーだ。」
「あたし、ほんとは、男だから…。」私はそう言った。



「ジュンが男なら、野球が出来なきゃだめだ。
 俺、ジュンに教えてやる。」
「ほんと?あたし、いつも野球見てるだけだから、うれしい。」

山本くんは、バットとボールとブローブが家にあるから、
いっしょに取りに行こうと言う。

「俺ん家、ひでえから、びっくりしないでくれな。」
そう言った。

山本君の家は、私の家の近くだった。
高台にあって、電車の線路が見える。

きっちゃんの家はブリキや廃材で出来ていた。

「ここだ。ひでえ家だろう。」ときっちゃんが言った。
「きっちゃん。住んでる家をそんな風に言ったら、バチがあたるよ。」と私は言った。
きっちゃんは、はっとした表情を見せて、
「そうだな。ジュンの言う通りだ。」
きっちゃんは、そう言って家の中に入って行った。

家の前で、金だらいに水を張って、小さい女の子が赤い水着で遊んでいた。
きっちゃんの妹だと思った。
その横の、垣根に乗って、トランクス1枚で涼んでいた人がいた。
すごく体格のいい人で、きっちゃんのお兄さんみたいだった。

私は、「こんにちは。」と挨拶をした。
「よ!」とお兄さんはいって、「吉にいいこと言ってくれるじゃないか。吉が家まで友達を連れてきたの、お前が初めてだ。しかも、女の子たぁなあ…。」と言った。

きっちゃんがバットやグローブを持って出てきた。
お兄さんが、
「お、吉、紹介しろ。」と言った。
「加納純。わけがあって女の子の格好をしてるけど、男の子なんだ。」ときっちゃんは言った。
「ほう、男か。それは、おもしれーや。」とお兄さんが言った。

きっちゃんは、逃げるようにして、私を引っ張って行った。



近所の広い公園は、餓鬼大将ブループが使っているので、
私たちは、団地の壁の狭いところで野球をした。
まず、キャッチボールから。
私の投げ方は、完全に女の子投げだった。
高いフライで、やっときっちゃんに届く。
グローブは一つしかなかったので、きっちゃんは、素手でボールを取ってくれた。
きっちゃんは、辛抱強く、ずっとキャッチボールをしてくれた。

「こうやってな、肘を出して、一歩踏み込んで、投げるんだよ。」
ときっちゃんは、投げ方を教えてくれた。
きっちゃんの言う通りにしていくと、だんだんスピードボールを投げられるようになった。
スカートを履いた女の子が、ぴゅーんとスピードボールを投げている。

「ジュン。もうお前のボール、素手で取れねーよ。」ときっちゃんは喜んで言った。

次は、ブローブをつけて、球を取る練習。
きっちゃんは、一球一球手で投げてくれた。
私は、かなりなボールを捕れるようになった。

その後は、きっちゃんがノックして、それを私がとる練習。
投げたボールと、打ったボールはまるで違う。
球を取りそこねて、後ろへ行くといけないので、
私は、アパートの壁を背にしてやった。

バットのボールは、速かった。
でも、どんどん取れるようになった。

あるとき、私は、ブローブをもって、ふと、他所見をしてしまった。
「行くぞ!」というきっちゃんの声を聞かなかった。
きっちゃんは、ボールを打った後、「あ、いけね!」と叫んだ。
「ジュン、よけろ!」
たまたま、ボールはバットの芯にあたったのか、
私が気がついたとき、かなりなスピードで、私の眼前に来ていた。


つづく

白鳥さんの運動会 (日本就職編 9 1話完結)

時は、少し前後します。ジュンちゃん先生の時代。
白鳥貴子さんは、ご両親の努力で、学校では、女子として扱われることになっていました。
==============================

11月のある日、白鳥さんが言う。
「ジュンちゃん先生、あたしの運動会に見に来て。」
「いつ?」
「次の日曜日。」
「日曜日は、日曜テストがあるもの。」
「最後の男女混合紅白リレーだけでいいんだ。
 2時半ごろになる予定だから、先生、テストが終わったら来れるでしょう?」
「そうっか。2時半なら行けるわ。」
「わあ~。あたし、紅白リレーのアンカーなの。」
「紅白リレーで、速い人だけのリレーでしょう。」
「あたし、それのアンカー。」
「すごいじゃない。じゃあ、白鳥さん、速いのね?」
「うん、速い。だから、先生に見て欲しいの。」
「わかったわ。行く。」
「わあ~!」白鳥さんは喜んだ。
私は小さい声で、
「前がふくらまないショーツの履き方、やってる。」
「うん。一度教わったことは忘れない。」と白鳥さんは、笑った。



そのことを、理事長に話した。
「え?白鳥、速いの?」
「らしいです。」と私。
「俺も見にいこうかな?」
「あとのこと、いいんですか?」
「俺がいなくたって同じよ。
 俺、ああいうの大好きだからさ。」



2時を過ぎた。
理事長と、私は、2時10分ごろに、学校の校門に着いた。
すると、白鳥さんが、校門のところで待っていた。
「わあ、理事長先生も着てくださったんですか。」
と白鳥さんは喜んだ。

白鳥さんは、女子のブルマーをきちんと履いて、
白い半袖の体操着を中に入れていた。(当時は、上着INが普通でした。)
足が長くて、カモシカのようだった。
そして、耳を出し、水色のハチマキをちょうどカチューシャのように巻いていた。
健康的ですごくステキだった。

「貴子、もうすぐだよ。」
と友達が呼びに来た。
「そう、ありがとう。」
貴子って呼名が、すっかり自然に聞こえる。
よかったなあと思った。

「次は、いよいよ、今日の運動会、最後の種目、男女混合紅白リレーです。
 4年生から6年生の選抜の選手が走ります。
 みなさん、大きなご声援お願いします。」
そういう校内放送が流れた。

校庭中に大きな歓声が響き渡った。

理事長は、来賓用テントの隙間の穴場を見つけ、私を呼んだ。
「ここ、ゴールが見えるよ。いいだろう。」
「いいんですか。もぐりこんで。」
「しー。」と理事長が言った。

音楽が鳴って、選手が出場してくる。
応援団が、懸命の応援を始めた。

チームは、赤、白、黄色、水色の4チーム。
白鳥さんが、アンカーゼッケンをつけて水色チームの最後にいる。
白鳥さんは背が高い方だが、他の男子はもっと背が高く中学生並だ。
学校よりすぐりの4人だ。
その中で一番スリムで、カモシカのような白鳥さん。
私の部屋で、女の子になった妖精のような白鳥さんとは別人のよう。
健康美そのもの。
胸が少しふくらんでいる。
『あ、何か入れてるな?』と私は、微笑ましく思った。
白鳥さんの身長なら、胸がふくらんでいて当たり前だ。



やがて、スターとのピストルが、パーンと鳴った。
スタートは4年生。
4年生と言えど、さすが選抜の子たち。ものすごく速い。

1学年4人。
4年が終わり、5年が過ぎ、
いよいよ6年になったとき、
私の胸は興奮に耐えられない気がした。

そのとき、白鳥さんのいる水色が先頭。
次に白。次が、赤。最後が黄色だった。

ところが、6年の水色の子が2番手にバトンを渡すとき、バトンを落とした。
そこで、先頭だった水色は、一気にビリになってしまった。
残り、あと2人。
水色の最後から2番目の男の子は、かなり速く、
大きく引き離されていた赤と黄色にかなりせまった。
白だけが15mくらい飛び出ている。

いよいよアンカーだ。
白鳥さんがラインに立った。
コーナートップで、一番外側にいる。
やってくる最後からの2番手。

白がバトンをもらい先に行く。
青の子が速い。
赤と黄色にほとんど迫っている。

そして、バトンは、白鳥さんへ。

このとき、白鳥さんは、小学生としては信じ難いことをやった。
普通は、バトンをもらうために、片手を後方に伸ばして、前に少しずつ走って行く。
それを、白鳥さんは、後ろの子が、後方3mくらいのところへ来たとき、
後ろを見ず、前を向いて、両手を振りながら猛烈にダッシュした。
そして、白鳥さんのスピードが乗ったとき、後ろの子が、大きな声で、「ハイ!」と叫んだ。
そのとき白鳥さんが、ぱっと片手を後方に出し、見事にバトンをキャッチ!

「うわ~。ジュンちゃん、今の見た?」と理事長。
「見ました!信じらんない!」と私。

このパスワークで、黄色を一気に抜いた。
そして、前にいた赤にもせまり、第一コーナーですぐに抜いた。
残るは、約15m前方の白だけ。

「おお、白鳥、すげえ。」と理事長が言った。
「もう、あたし、ドキドキして死にそう。」と私は言った。

先頭は速い。さすがアンカー。
しかし、白鳥さんは、もっと速い。
直線コースで、ジリジリと差を詰めて行く。
校庭は、興奮の坩堝で、応援団の子達は応援を忘れて見入っている。

そして、カーブに入ったとき、二人は並んだ。
白鳥さんは、アウトコースを走っていたが、
先頭のすぐ横をキープしていた。
そして、いよいよゴールまでの直線コース。
二人は並んでいる。

校庭中の応援が最高潮に達した。

二人は並んだまま、ゴールテープに向かった。
だが、かすかに、白鳥さんが、前に出た。

そこで、すごい歓声。

そして、最後のほんの3mで、白鳥さんが体一つリードして、ゴールを切った。

わあーと盛り上がるすごい歓声。校庭中が響き渡った。
青チームの子が、みんな白鳥さんに寄ってきて、
彼女をもみくちゃにした。



「うへー。白鳥、かっこよすぎだよ。俺、感動。」と理事長が言った。
「学校の姿と塾の姿では違いますね。」と私は言った。
「ほんとな。たまには俺達も学校来て、子供のすがた見なきゃなんねーな。」と理事長が言った。

学校の門で、白鳥さんが来るかと待っていた。

すると向こうから、白鳥さんが走ってきた。
私は両手を出して、白鳥さんを向かえ、
抱きしめて、空中を一回転した。
「貴子すごーい!もう最高にかっこよかった!感動!」と私は言った。

「白鳥。お前塾ではすましてるけど、運動会じゃすげーな。」と理事長が言った。
白鳥さんが笑った。

「ね。あのバトンパス。練習したの?」と聞いた。
「はい。あの3番目の男の子と、猛特訓やったんです。見てくれたんですか?」と白鳥さん。
「うん。バッチリ見た。かっこよかったわ。」と私は言った。

白鳥さんは、うれしそうにはにかんで、
「じゃあ、もういかなくちゃ。
 見に来てくださって、ありがとうございます。」

そう頭を下げて、走って言った。

帰り道、
「ああ、塾でも運動会やりてー。」と理事長が言った。
「塾は、塾でしかできないことがありますよ。」と私は理事長を慰めた。
「塾には、音楽がない。」と理事長。
「音楽かけたら、だれも勉強しませんよ。」
「ほんとな。」
二人で笑った。

金子光晴に会った (新宿編第二部 8 一話完結)

これは、私が一番尊敬していた詩人金子光晴に会ったというお話です。

新宿がちょっとしか出てこないし、女装も出てきません。私の自己満足的記事です。すいません。

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7月の中旬だった。
新宿駅の中で詩を売っていると、
目の前に、大きな皮のボストンバッグがドンと置かれた。
「あ、弦(げん)さん。」と私は言った。
彼は、池袋で詩を売っている人だ。
いつも丸メガネを掛けて、登山帽をかぶっている。
骨格のいいがっちりした人。

私はそのとき、金子光晴の詩集を読んでいた。
「なんだ、純は、金子光晴が好きなのか。」と弦さんは言う。
「いちばん好き。」と私。
「それにしては、純の詩は、文体が影響されてないな。」
「文体を真似ようったって、できないよ。」と私。
「そうだ、金子光晴なら、吉祥寺を毎日散歩してるよ。」
「え?ほんと?」と私は目を輝かせた。
「吉祥寺のアーケードがあるだろ。
 そこに『金子書店』っていう古本屋がある。
 そこは、金子光晴の詩を専門に売ってる店なんだ。
 金子光晴は、散歩の途中、必ずその本屋へ寄る。
 午後の3時から5時くらいの間かな。
 だから、その本屋のそばで待っていれば、きっと会えるよ。」

弦さんは、そう言い残して去って行った。

金子光晴に会えるかもしれない。
その頃、私は、詩人金子光晴に、心酔していて、
一目でいい、会いたいと思っていた。
金子光晴は、私にとっての巨星だった。



その日から、私は、吉祥寺の「金子書店」に行った。
3時から5時と聞いたので、2時半に行った。
大学は休みに入っていて、幸いだった。

私は金子書店の店の横で、壁にもたれて待った。
まだ会ってもいないのに、心臓がドキドキした。
詩を売りながら待つのは、何か失礼な気がした。
だから、私は、立ったまま、待ち続けた。
いつも詩を売る格好で行ったので、女の子に見えるかもしれない。

一日目は、それらしい人は、来なかった。
二日目、三日目、… …。
1週間経っても会えなかった。
散歩のコースが変わったのかな…、そう思いながら、
通りの彼方を見た。

すると、着流しに、杖をつきながら、ゆっくり歩いてくる人が見えた。
「あ、きっとそうだ。あの人だ。」
年は75歳を越えているはずた。
その人が近づいてくる。
老齢でも眼光の鋭い人。
間違いない。

私は、持たれた壁を離れ、やって来る人の正面に立った。

ああ、金子光晴だ。会えるなんて思わなかった。
胸の奥から、大きな感動が涌いてきた。
胸が熱くなり、感激が涙に変わって、
幾筋も頬を伝わって流れてくる。

金子光晴が、いよいよそばまで来たとき、
私は、立ったまま、声に出して泣いていた。
腕で涙を拭いても、止まることなく涙が出てくる。

「お嬢さん。なんで泣いていなさる。」
そう声が聞こえる。
「だって、だって、あなたは…。」私は声にならずそこまで言った。
「ここで、私を待っていたの?」
「はい。」私は手で涙を拭いて、やっと金子光晴を見た。
「いつから?」
「1週間前からです。」
「それは、すまないことをしたね。
 ちょうど風邪を引いて、このところ寝込んでいたんだよ。」金子光晴は言った。

「1週間も待たせたお詫びだ。ちょっと店の中に来なさい。」
金子光晴は、そう言って、「金子書店」の中に入って行った。
私は、ついて言った。

店主は、金子光晴に、
「その人は、店の横で、毎日3時間くらい待っていましたよ。」と言った。
「毎日3時間も待ってくれたの。それは、ますます申し訳ないことをした。」
金子光晴は、そう言って、店主に、「あの本、あるかね。」と聞いた。
店主が、本を渡す。「あの本」でわかるみたいだった。

金子光晴は、
「これ、出たばかりの私の本だから、あなた持っていないでしょう。」
そう言って、本の表の見開きに、サインをした。
そして、それを私にくれようとする。
「待たせたお詫びだ。つまらない本だが、どうぞ。」
私はびっくりした。本をくれるなんて。
「いいのでしょうか。」と私は聞いた。
「ああ、ああ。」と首を振りながら、私に本を渡し、
「じゃあ、私は帰ることにしよう。」
そう言って、金子光晴は去って行った。

「よかったね、お嬢さん。」と店主は、にこにこしていた。
「はい。」と言って、私は本を見た。
『どくろ杯』という本だった。
帯に、「金子光晴の自伝」と書かれてあった。

私は本を胸に抱いて、店を見た。
わあ、すごい、すごい、すごいと、心の中で叫んだ。
ついに会えた!本まで、もらった!



本は、40年後の今も私の目の前にある。
せっかくの本のサインの一部に水が落ち、インクがぼやけている。
その水は、私の涙だ。


金子光晴は、その4年後に亡くなった。

$女装  遥かなる想い

「白い部屋」 くららさんの思い出 (新宿編第二部 1話完結)

1971年。純(ナナ) 21歳。9月 

土曜日。
お店の準備をしながら、ママが言う。
「ナナ、ゲイバー(←当時の呼び方)行ったことある?」
「ないです。ものすごく高いんでしょう?」
「うちだって、ゲイバーだけど、ボックス席のあるゲイバーは高いわね。」
「どのくらいするんですか?」
「ここのそばの『白い部屋』だと、上手に飲めば一人8000円くらいかな?
 もちろん1万円越えちゃう飲み方もあるけど。」

「1万円ですか。ナナには手が届きません。」
「連れてって、あげようか?」
「ママのおごりで?」
「そりゃそうよ。」
「わあ、絶対行きたい。社会勉強だし、とにかく行きたい!」と私ははしゃいだ。
「じゃあ、4時過ぎたら、1時間くらいだけ行こう。向こうも5時くらいまでやってると思うから。」



その日の仕事がなんと長く感じたことだろうか。
「ゲイバー」に初めて行ける。
この前の「レズビアン・バー」は、自分が台無しにしてしまった。
でも、ゲイバーは陽気だというし、きっと大丈夫だと思った。



やっと、午前3時になり、お客の足がとだえた。
「閉店にしようか。」とママが言った。
「わあ、ゲイバーへ行ける。」と私は飛びあがった。

「ナナは、男の服に戻るのよ。」
「はい。」
「一応、建前同業者お断りだから、お店の服では行けないわ。私はこのまま行くけど。」

私はすぐに着替えた。
「髪の毛は、女の子でいって、例のエプロンするといいわ。」とママが言う。
「エプロン、ダサくないですか?」とママに聞いた。
「かわいいわよ。ゲイバーで女の子に見てくれたら、大したものよ。」とママ。



ママといっしょに、靖国通りを歩いた。
そこに白い看板の「白い部屋」があった。
中に入ると、大変なにぎわいだった。
一人、少し太目のホステスさんが来て、
「あら、珍しい。典子さん。1つボックス空いてるわ。」と言われ、そこに座った。
「ママ、ぼくの名前ナナでいいんですか。」と聞いた。
「いいわよ。」とママは言った。

「コンタです。どうぞよろしく。」とそのホステスさんは言った。
そして、ボーイさんに水割りを2つ頼んだ。
コンタさんは、
「あら、こちら、可愛いわ。お名前は?」
「あ、ナナっていいます。」
「まあ、お声も可愛いわ。」
「ありがとうございます。」
と私は答えながら、一つボックスを越えたところに、
私から横向きに座っているホステスさんに、目が釘付けになっていた。

年は15,6歳に見えた。細身。髪はセミ・ショートで、耳のリングがステキだった。
何よりも、可愛い。そして、目が何というか、輝いている。
私は、その人の余りの可愛らしさに、しばらく、我を忘れていた。

「ナナちゃん。」とコンタさんに膝をゆすられて、我に返った。
「くららちゃんを見てたの?」とコンタさん。
「あの人、くららさんっていうんですか。」
「そうよ。可愛いでしょう?」とコンタさん。
「はい。可愛いです。あんなステキな人見たことありません。」と私は言った。
「あとで、彼女に言っておくわね。」とコンタさんは言った。

そのうちショータイムになって、ホステスさんは、別の場に集合した。
そして、いろいろおもしろいことをやってくれた。
レズビアン・クラブとは、雰囲気がまるで違った。

ショーには、くららさんも出ていて、彼女は何をしても、どの角度から見ても可愛かった。
ショータイムは、20分ほどで終わった。



コンタさんが、いろいろ場を盛り上げてくれて、
ママと私は、たくさん笑わせてもらった。
ママもお酒がまわり、
「ねえ、コンタちゃん、この子、家の看板娘だけど、どうお?」と言った。
「看板娘って、あら、じゃあ、こちらもしや、男の子?」とコンタさん。
「一応そうなの。」とママ。
「まあ、やだわ。あたし、てっきり素人の女の子かと思ったわよ。
 声だってそうだしさあ。だって、素人の格好してるんだもの。
 ほんとに、これ?」とコンタさんは親指を出した。」
「そうよ。」とママ。
「うそよ。じゃあ、触らせて。」とコンタさんが私の股間に手を伸ばしてきた。
「やだ、やめて。」と私は逃げた。(いや~ん、やめて…と言うべきだったかな?)
「冗談よ。」とコンタさんは、オホホと笑った。

時間があっという間に過ぎた。
私は、時間の半分は、くららさんを見ていた気がする。



帰り道。
「ママ、ごちそうさまでした。」と言った。
「どういたしまして。ナナは、くららちゃんばっかり見ていたわね。」
「だって、あんな可愛い人、見たことなかったんです。」
「ほんとね。彼女きっと有名になると思うわ。」とママが言った。
「私もそう思います。私は一目ぼれ惚れです。」
「あら、ナナはあたしを愛してくれてるんじゃないの?」
「それとは、別です。歌手が好きとか俳優が好きっていうのと似てます。」
「よかったわね。好きな人ができて。」
「はい。一生追っかけます。」

東の空が白んで来た。

「わあ、綺麗な色。」と私は立ち止まって空を見た。
「今日は、少し夜更かししたわね。」とママ。
「こういうの夜更かしって言います?」と私。
「言わないわね。」とママが言ったので、二人で笑った。


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私は、その後もずっと、本木くららさんのファンであり続け、
くららさんが、このアメブロにいらっしゃることを知り、
やっと念願の「ラブレター」を書くことができました。

本木くららさんは、今もお忙しくご活躍です。

白鳥貴子さん・誕生(日本就職編4 後編)

いよいよ、貴志くんのご両親と話し合うときがきた。

理事長室に、白鳥ご夫妻と、貴志くん。
そして、会長、理事長、私との6人が揃った。
(貴志くんは、一人っ子だった。)

貴志くんのお父さんは、背広にネクタイ、眼鏡をかけ、いかにも聡明で、そして厳しそうな感じの人だった。貴志くんが、絶対分かってくれないと言ったのもうなずけるようなお父さんだった。
お母さんはクリーム色のスーツ姿で、貴志くん似の綺麗な人だった。やさしそうな印象を受けた。

理事長はいつもと違い、スーツにネクタイをキリッと決めていた。
知的でステキな男性振りだった。
会長も背広姿でいた。私も、うすいピンクのスーツ姿でいた。

こちらは理事長を真ん中にして、となりに私。
会長はサイドのソファーにいた。
白鳥家は、お父さんとお母さんが並び、お母さんの横に貴志くんが座った。



理事長は自己紹介し、会長と私を紹介した。
そして、切り出した。
「うちの加納が、貴志くんから、9月の下旬に相談を受けました。
 貴志くんにとって、とても重要なことだと私たちは判断し、
 今日、ご足労願った次第です。
 詳しいことを、加納よりご報告いたします。」

私は、前もって、貴志くんと、どこまで言っていいか打ち合わせてあった。
貴志くんは、私の部屋で女装したことも、5千円で女の子の服を買って欲しいと頼んだことも、全部話していいと言った。貴志くんも、今日の話し合いの重要性がわかっているようだった。

私は、ご両親に、貴志くんから相談を受けた一切をそのままに伝え、私の部屋で女装をさせたことも伝えた。(貴志くんが、男の子を好きであることは、言わなかった。必要があれば、言うつもりだった。)
私は最後に言った。

「貴志さんの問題は、受験前の心の混乱の心配だけではなく、
一生に関わる問題ではないかと、私は思いました。」と私はそう言って、言葉を終えた。



貴志くんのお父さんが、お母さんに言った。
「雪絵、君から、質問なり、思うところがあるなら、言いなさい。」

お母さんは、口を開いた。
「貴志は、今、受験前の大切なときです。こんなときに、女の子の服が着たいだの、女の子になりたいだの、そんなことで迷うのはどうかと思います。今は、勉強に集中して欲しいと思っています。」

すると、お父さんが言った。
「雪絵。私は君の考えを聞きたいんだ。雪絵は私の考えを推し量って、私に合わせて考えを述べているのじゃないかな。君自身の考えを、聞きたいんだ。」

お母さんは、お父さんの言葉が少なからず意外だったようだった。

お母さんは、しばらく、考えていた。やがて、
「貴志、あなたは、女の子になりたいの。それとも、女の子の服が着たいだけなの。」そう聞いた。
貴志くんは、答えに迷っていた。

「貴志さん、ありのままに答えて。」と私は言った。
貴志くんは、
「それは、わからない。多分両方。女の子の格好をさせてもたったときは、このままずっと女の子でいたいと思った。クラスの女の子を見て、うらやましくてたまらなくなる。自分が女の子だったらなといつも思ってた。」
「家の中にいるとき、女の子の格好でいたいの?」
「うん。学校でも女の子の格好でいたい。」
「恥かしくないの。友達に恥かしくないの?」
すると、貴志くんは、お母さんに向き直って言った。

「お母さん。ぼくが女の子に見えること知っているでしょう?
 ぼく、今の格好で、みんなからもう女だって見られてるよ。
 みんな、ぼくを貴子って呼んだりする。
 男扱いなんかされてない。女の子からも同じだよ。
 
 だったら、きちんと女の子の格好をしたいよ。
 ぼくが、女扱いされてるの、お母さんは分かってたはずなのに、
 なんにもしてくれなかった。
 今さら、恥かしいもなにもないよ!」

そう言う貴志くんの目が潤んでいた。

お父さんが言った。
「雪絵。君の考えを聞かせて欲しい。君はまだ、自分の考えを言っていない。」

お母さんは、うつむいていた。
しばらく、ずっと考えていた。
やがて、お母さんは、目に涙を浮かべ、
「貴志がみんなから女の子扱いされていることは、知っていました。
 貴志が、不憫でなりませんでした。
 でも、こんなこと、あなたの耳に入れたくありませんでした。
 あなたが、それを知ったら、学校へ怒鳴りこんで行くだろうと思ったからです。
 そんなことで、解決するとは思えなかったのです。
 あたしなりに悩んで悩み通しました。

 あたしの本心を言います。
 あたしは、貴志に女の子の格好をさせてあげたいと思います。
 家でも、できるなら学校でも。
 これから行く中学校でも、高校でも…。貴志が望むなら、ずっと一生でも…。」
最後は消え入りそうな声になり、お母さんは、目にハンカチを当てた。

貴志くんは、お母さんを見た。
「お母さん、ほんとう?」
「うん。貴志の気持ち、ずっと前からわかっていたの。
 いつか、お母さんの服をこっそり着たでしょう。
 たたみ方が違って戻されていたからわかったの。
 そんなことが、何度かあったから。
 どうしようかと思ったけど、誰にも相談できなかった。
 お父さんに相談したら、貴志がひどく叱られると思って、
 黙っていたの。ごめんね、貴志、知っていたのに…。」

お母さんは、お父さんに、
「あなた。これがあたしの思いです。」と決意を込めたように言った。

そのとき、お父さんが、怒りに爆発するのではないかと、多分誰もが思っていた。
しかし、それを聞いたお父さんの反応に、全員がもっと驚いた。

お父さんは、目から、ぽろぽろと涙を流した。
そして、言った。
「雪絵。ほんとうの気持ちを言ってくれて、ありがとう。
 謝るのは、私だ。
 貴志のことを気付いていながら、勇気が出ず、言えなかった。
 貴志、許してくれ。

 貴志、お父さんは、多分、お前の気持ちが誰よりもよくわかる。
 なぜなら、なぜなら…。」とお父さんは、涙に声を詰まらせた。

「なぜなら…お父さんは子供のとき、
 貴志と同じように、女の子になりたいと思っていたんだ。」とお父さんは言った。

「お父さん。ほんと?」と貴志くんは叫んだ。お母さんが目を見張った。

「ほんとうだ、貴志。お父さんは、女の子の服が着たくてたまらなかった。
 女の子がスカートを履いて、オシャレをしているのが、うらやましくてならなかった。
 女の子になって、女の子の言葉を使い、女の子の遊びをしたくてたまらなかった。
 だが、お父さんの時代は、今よりもっと、そんなことは許されなかった。
 だから、その気持ちを胸の奥にずっとしまって、我慢した。
 それが、どんなに切なかったか。どんなに悲しかったか…。

 だから、もし、自分が結婚して男の子ができて、その子が同じ気持ちでいたなら、
 その子の願いを好きなだけ叶えてやりたいと思っていた。
 雪絵。そんな気持ちをずっと隠してきた俺を許してくれ。
 だが、雪絵を愛した気持ちに偽りはない。
 雪絵を愛する気持ちは、これからもずっと変わらない。
 俺はもう女の格好をしたいとは、言わない。
 だが、貴志の願いは叶えてやりたい。
 そのためになら、何でもしてやりたい。
 雪絵が同じことを言ってくれたとき、俺はうれしかった。救われる思いだった。
 ありがとう…。」お父さんは、眼鏡をはずして、涙の目を覆った。

「お父さん。」と言って貴志くんが近づいた。
お父さんは、貴志くんを抱きしめた。
お母さんが言った。
「あたしが、あなたに男らしい父親を求めたのだわ。
 あなたの心の奥の苦しみを見ようとしなかった。
 あたしこそいけなかった。あなた、許して。ごめんなさい。」

三人は抱きあって、泣いた。

私は、目にハンカチをあて、あふれる涙を抑えていた。
会長も理事長も、目にいっぱいの涙を溜めていた。



お父さんは、身を改めて言った。
「塾は、勉強を教えてくれるだけのところと思っていました。
 ところが、貴志が学校にも、誰にも相談できなかったことを、打ち明けることのできる加納先生のような方がいらした。加納先生は、それが貴志の一生に関わる問題として捉えてくださった。そして、そのことを真剣に受け止めてくださった会長先生、理事長先生がいらして、このような場を設けてくださいました。
 お蔭様で、私たち家族は、今、本音を語り合える温かい家族になろうとしています。
 この感謝の気持ちは、言葉で語り尽くせません。ただ、ありがたく、お礼申し上げます。
 ありがとうございました。」
お父さんは、深々と頭を下げた。お母さんも、貴志くんも。

理事長が言った。
「過分なお言葉に、私たちは今、ただただ感激しています。
 一私塾の言葉に、耳を傾けてくださり、わざわざお出でくださいましたこと、こちらこそ感謝でいっぱいです。ありがとうございました。」



ご家族を、皆で塾の玄関まで送った。
ご家族は、何度も振り向き、礼をして帰って行った。

塾の階段を上りながら、会長が言った。
「いやあ、めでたい。ジュンちゃん先生。よくやってくれた。」
「私は、ただうれしいです。」と私は言った。
理事長が、
「会長、こういうの好きでしょ。」と言った。
「もう大好き。うれしくてたまらん。
 今夜は、社員一同、パーと飲みに行くか。」と会長。
「うち、経営苦しいんだから、会長のポケットマネーですよ。」と理事長。
「わかってるって。」と会長は笑った。



〈エピローグ〉

話し合いがあった2日後。
白鳥さんは、ワンピースを着て、耳を出し、頭にカチューシャをして、
完全な女の子の格好で、塾の教室にきちんと座っていた。

やって来た子達が、次々にびっくりした。
白鳥さんは、何を言われても、みんなに、ただ「うふん。」と言って笑っていた。
男の子たちが集まってきてみんなで言った。
「白鳥、お前…。」
白鳥さんは、やがて、みんなに聞こえるように言った。
「今まで、みんなを騙しててごめん。あたし、実は女だったの。」
「ええ?」とか「やっぱり!」とかみんなは言い、
「だと思ったよ。お前、バレバレだったぜ。
 お前が男のはずねえもん。」と誰かが言った。
女の子たちも言った。
「わあ、うれしい。これで、白鳥ちゃんは、あたし達のもの。」
「可愛いー!」と言って、誰かが抱きついた。

私は、その日から、出席をとることにした。一人、二人、やがて、
「白鳥貴子さん。」と呼んだ。
「はい。」と白鳥さんは手を挙げて、私に、笑顔でウインクをした。


第4話 完

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<あとがき>

白鳥さんのお父さんは、担任、校長、教育委員会までかけあい、貴志くんが、女子の扱いで学校にかよえるようにしました。呼び名は、「貴子」。女子トイレの使用可。体育も女子。(私は女の子に見えるショーツの履き方を教えてあげていました。)朝礼も女子列。

進学は、白鳥さんのような子に特別理解のある私立に行き、中学、高校と女子として通いました。(そういう学校、ちゃんとあったのです。)そこは、制服がないので、白鳥さんは、毎日オシャレを満喫しました。

その後は、リナと同じような人生をたどり、愛する男性と幸せに暮らしています。

あ、それから、白鳥さんの女装のために買った用品のすべてをまとめ、後で白鳥さんにプレゼントしました。カードを入れて、こんなことを書きました。

『白鳥貴子さんへ お誕生日おめでとう! ジュンちゃん先生より
=10月10日=』

白鳥さんと二人で(ジュン帰国編4 中篇)

3話に分けました。これは、中篇です。明日、後編を投稿します。

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その日の内に、私は、理事長室に行った。

ソファを勧められて、理事長と座った。

私は、
「S2クラスの、白鳥貴志くん、知っていますか。」と言った。
「ああ、知ってるよ。おれ、あの子のことずっと女の子だと思っててさ。
 毎回白鳥さんって呼んじゃって、ずいぶん傷つけちゃったよ。」と理事長は言った。
「女の子に見えますよね。」
「ああ、見える。」
「その白鳥貴志くんから、今日相談を受けました。」
と私は言い、その内容を全部伝えた。



「そうだったのかあ。」と理事長は言って、
「どうにかしてやりたいよな。」と言った。

「でも、ジュンちゃんが服を買ってやるのは、塾として買ったのと同じだから、何かあったときまずいよな。
 例えば、親にさ、『どうしてこんなもの買ってやったのか。』ってどなり込まれたら、お手挙げじゃん。」
と理事長。
「そこなんです。いくらあの子のお金で、あの子に頼まれたからといっても、それは、私じゃなく、塾がしたことになりますよね。」と私。
「その通り。でもなあ、今のままじゃ、アイツ勉強に身が入らないよ。悶々とした気持ちを、どうにもできなくてさ。」
理事長は、うーんと言って、考え込んでしまった。

「勉強の問題もありますが、多分、白鳥くんの一生の問題だと思います。」
と私は言った。

「俺もそう思う。普通の塾なら放っておくんだろうけどさ、
 おやじの会長がさ、『うちは、全人教育です』なんて散々言ってるじゃん。
 俺だって、そういう塾を目指してる。だから、知らん顔はできないよ。

 それに、白鳥がジュンちゃんにどれだけの勇気を出して相談したか。
 それを思うと、女の子の格好をさせてあげました。はい、終わりじゃないよな。
 ジュンちゃんが相談を受けたってことは、この塾が相談を聞いたってことだよ。
 今、この塾に何ができるかを問われているってことだよね。」
と理事長は遠くを見ていた。

私は、そういうときの、誠実で温かい理事長がとても好きだった。

そのうち、
「あ、一つ解決。」と理事長が手を打った。
「ジュンちゃん、家で個室もらってる?」
「はい。」
「じゃあ、貴志の奴が、ジュンちゃん家に勉強を教わりに行くってのどう?」
「あ、わかった。それで、あたしの部屋で女の子にしてあげる。」
「そうよ。勉強の合い間にちょっと息抜きしたってことでさ。」
「そうすれば、心行くまで、女装ができる。」私。
「貴志が遊びに行くのは、私的なことだしさ。何も息抜きの内容まで言う必要ないし。どう?」
と理事長。
「名案です。これで第一ハードル突破ですね。」と私はうれしくて言った。

「問題の第二ハードルだけど、これは、親と合うしかないね。
 そのときは、会長も同席させる。年寄りがいた方がいいんだって。
 もちろん、貴志の諒解を取ってからだけどね。
 貴志はだめって思っても、会って話してみなきゃわかんないよ。
 それまで、貴志の心をもう少し整理してやってくんない?
 ジュンちゃんがいちばん気持ち分かってやれるだろう?」

「わかりました。貴志くんとは、日曜はテストでだめだから、10月10日の祝日に誘ってみます。」
「よし!決定。」と理事長は手を打った。

私は理事長のその仕草が大好きだ。



白鳥さんが私の家に来る計画は上手くいった。

私は、その日のために、白鳥さんに着せるいくつかのものを買っておいた。
私の物を着せてもいいと思ったが、一組は、ぴったりサイズのものを着せたかった。

彼の背は、153cm。6年生の女の子としては、高い方。
靴のサイズは、23cm、
それを元に、洋装店で、まず下着。
シャツは、スリップ型の、スカートがあってフリルになったもの。
全体に赤いドッドがちりばめられ、周囲に縁飾りがあるもの。
胸のところが分厚くなっていて、薄いパッドが取り付けられている。
ショーツは、スリップと対になったもの。2枚買った。
そして、靴。白い可愛いものを1足。
ワンピースは、なんといってもピンク。
光沢のある、七分袖。スカートにたっぷりのフリルがあって、回りは、レースで縁取られているもの。
胸は真っ直ぐ横一に切れて、肩に膨らみのあるもの。
女の子の150cmのものを買った。
これを来た白鳥さんのかわいらしさを想像して、私の胸は躍った。



私は塾のある私鉄の終着駅の改札まで行って、
約束の10時に待っていた。
白鳥さんは、時間を守ってぴったりに来た。

「あ、勉強道具も持って来たの?」と聞いた。
「はい。だって勉強しにいくって言って来たもの。」と白鳥さん。
「じゃあ、勉強もちょっとしようね。」と私は笑った。



私の部屋は、自宅ビルの離れの部屋で、8畳くらいの板の間だ。
この一年がんばって、無味乾燥な部屋を、女性的なファンシーな部屋に変えてきた。
「さあどうぞ。」と白鳥さんを、招きいれた。
「わあ、きれいな部屋ですね。」と彼はキョロキョロしていた。
「ベッドに座っていいわよ。」と言った。

私は、彼にまずジュースをご馳走した。

二人でそれを飲み終わったとき、
「さあ、女の子になりましょう。」と言った。
白鳥さんは、私を見て、だまってうなずいた。

私は、姿見の前に彼を立たせた。

「じゃあ、立って、上の洋服を全部脱いで。」
「はい。」白鳥さんは、上半身裸になった。
「はじめに、女の子のスリップを着るわ。」
「え?下着も?」
「もちろん。外も中も全部女の子になるの。」
「わあ。」と彼は、うれしそうな声を上げた。

スリップを上から着せた。
胸のあたりがかすかに膨らんでいる。
彼は、そこを何回か触っていた。

「ズボンを脱いで、これを履いて。」
とショーツを渡した。
「先生、後ろを向いててあげるね。」

「はきました。」と彼の声。
私は彼の後ろへいって、
「ちょっとごめんね。こうして履くと、女の子みたいに前が膨らまないですむの。」
と、ショーツの履き方を教えた。
(女の先生がどうしてそんなこと知ってるの…と我ながら心で苦笑した。)

彼は、下着のスカート部をめくって、
「ほんとだ、女の子みたい。」と言った。

「先生、ぼくドキドキしてきた。どうしよう。」
彼の言っている意味がわかった。
「もう一枚、ショーツを重ねてはいて。」と2枚買ってあったものを渡した。

「落ち着いた?」
「はい。」と白鳥さんは、笑顔を見せた。



「靴下を履くわね。」と私。
白い丈の短い靴下。口を折って、女の子履きにする。

「じゃあ、ワンピースを着ましょう。」
私はそう言って、白鳥さんを立たせた。
背中のファスナーを開いて、その中に彼を立たせる。
七分袖に腕を通す。
肩を入れて、ファスナーをあげる。
ジャスト・サイズだった。
「可愛いわ。」私は言った。
白鳥さんは、鏡に見とれていた。

「もう一つ、おまけがあるの。」
私はそう言って、彼をもう一度ストールに座らせた。
鏡を見せないようにした。

私は、ウィッグを取り出して、
そっと彼の頭にかぶせた。
前髪のあるストレート。
肩まである髪の先が少し外巻きになっている。
ブラシでとかし、ピンク色のカチューシャ。斜めのところに一つリボンがついている。
それから、私は、白鳥さんの唇に、薄く薄くピンクのリップを引いた。
出来上がり。
私は、白鳥さんの可愛らしさにため息が出た。
白鳥さんの女の子オーラに包まれる。

「いいわ。立って鏡を見てみて。」私は言った。
白鳥さんは、怖いものでも見るように、そっと立ち、
そして、姿身をのぞいた。
「あ。」と叫んで、うつむいてしまった。
「可愛い女の子がいたでしょう。」と私は言った。
「はい。」
「その可愛い女の子、あなたよ。」
「はい。」
「もう一度、よく見て。」
彼は、もう一度顔を上げて、鏡を見ながら、目を潤ませた。
そして、私に抱きついてきた。
「先生。ありがとう。ずっとずっと夢だったんです。
 ぼく、うれしい。先生ありがとう。」



白鳥さんと私は、ベッドに並んで座った。
白鳥さんには、いつも自分が見えるように、
姿身を、少し離れたところの正面に置いた。

「今日は、あなたのこと、貴子って呼ぼうかな。」
「はい。」
「あなたは、今女の子だから、自分のこと『あたし』って言うのよ。」
「はい。あたし、そうします。」
「そう、その調子。」

「貴子のこと、ちょっと聞いていい?」
「はい。」
「貴子は、クラスに好きな子いる?」
「はい、います。」
「それは、女の子?男の子?」
「あー、えーと、あたしの好きな子は、女の子と男の子二人です。」
「ちがいがある?」
「女の子の方は、可愛くって、オシャレで、あたしの憧れ。その子見てるのが好き。
 男の子は、やさしくて、かっこよくて、そばにいると胸がドキドキする。
 あたしは男の子だから、その子平気で、あたしの頬触ったり、肩に腕かけたりしてくるけど、
 ほんとはあたしの好きな男の子だから、あたしたまらなくなっちゃう。心臓がドキドキして、死にそうになる。」白鳥さんはそう言った。

(白鳥さんは、女装だけで気が済む子じゃない。多分、リナのタイプ。)



白鳥さんと、それから、外にお昼を食べに出た。
用意してあった白い靴を履いて。
肩からは、小さなバッグを下げて。
白鳥さんは、最高に幸せそうだった。

お昼の後は、二人で、パフェを食べに行って、
そして、帰ってきた。



家に帰る時間になり、服を脱ぐとき、
白鳥さんは、悲しいと言って泣いた。
でも、また遊びに来る約束をして、なだめた。

落ち合った駅までいっしょに行った。
別れるとき、彼は再び泣いた。

何度も振り向きながら、歩いていく。

彼のいじらしさ、背負っているものの重さ。
私も、涙が出てならなかった。



後編につづく。

6年生・白鳥さんの願い(ジュン帰国編4 前編)

5年間の塾時代にあった、たった一つの女装関係の出来事です。
せっかく塾時代を書いてきましたので、続けてここに書くことにします。
多分ですが、前、中、後編の3回に分けて書きます。読んでくださると、うれしいです。

============================

塾に入ってから1年が過ぎ、
9月に入った。
私は、ずいぶん塾にも慣れてきた。

ある日、理事長から、6年生の2教科の特別クラスの算数を教えるように言われた。
中学受験は、国、算、社、理の4科目のところと、
国、算の2科目のところがあった。
そのクラスは、2科目受験のSクラスで、2科目では一番学力のあるクラスだった。
S2クラスと呼ばれていた。

学級に行くと、すでに前の先生が作った座席表があった、
座席表には、苗字しか書いてなかった。
私はクラス名簿を持っていたが、座席表を見て、欠席者だけ印をつけていた。
(だから、気がつくのが遅れました。)



クラスを見渡して見ると、さすがにSクラスだけあって、できそうな子ばかり。
その中で、ひときわ目だった女の子がいた。
背筋をピンと伸ばして、真っ直ぐ私を見ていた。
聡明な感じで、可愛い。
髪は、耳が隠れるくらいのセミ・ショートにしていた。
私は思わす、座席表で名前を見た。
「白鳥」。ステキな名前だなあと思った。

私は第一番に言った。
「私は、ジュンちゃん先生と呼ばれています。そう呼んでくださるとうれしいです。」
ちょっとみんなが笑う。
白鳥さんは、笑うと、さらに可愛い。私は、
「もう一つ、私は、男女に限らず、全員『さん』付けで呼びます。
 はじめ、男子はくすぐったいかも、知れませんが、すぐになれると思います。」

こうして日が経ち、授業が何回か進んで言った。
白鳥さんは、抜群にできる子で、いつも真っ直ぐに手を挙げた。

白鳥さんは、いつも、授業後に、男子数名と教務室に遊びに来る。
そして、みんなで、どうでもでもいいような質問をする。
結局、遊びに来ているのだ。
白鳥さんは、男子の中の紅一点。きっと話のわかるマドンナなのだろうと思った。



ところが、ある日、びっくりすることがわかった。
私は、他の先生がやった算数のテストを返していた。
つぎつぎ、名前を呼んで、取りに来させる。
そして、白鳥さんのテストを返そうとしたとき、
私は、初めて白鳥さんの、苗字と名前を見た。
「白鳥貴志。」
あ、男の子だったんだ…、と思った。
この驚きを表情に出してはならない。
私は、さりげなく、白鳥さんにテストを渡した。

男の子だったのかあ。だから、男の子といつもいっしょにいたんだ。
やっと合点がいった。



日曜テストのとき。
支部の姉妹教室からも大勢子供達がくる。
私が監督をしている教室は、まだまばらに2人掛けの片方の席が空いていた。
空いた席の隣は、ほとんど男子が先に座っていた。
ちょうど白鳥さんの横も空いていた。

一人女の子が、遅れて入って来て、
どこに座ろうかと教室を見渡していた。
女子は女子と座りたがる。
その子は、白鳥さんの席を見つけると、迷わずそのとなりに座った。
(白鳥さんを女の子と間違えている。)

テストで名前を書くとき、ふとその女の子は、白鳥さんが記入している名前を見た。
「貴志」という男名前に気がついたのだろう。
びっくりした表情を見せて、何度も白鳥さんを見ていた。



その日から、2週間くらいたった月曜日。
その日の授業が全部終わり、みんなが帰った後、
白鳥さんが一人残っていた。
白鳥さんは、自分で教室の鉄扉を両方閉めて、私のところに来た。

「ジュンちゃん先生にお願いがあるんです。」と彼はそういう。
「簡単なことじゃない見たいだから、机の方に行こう?」
と私は言って、白鳥さんと長椅子を共有して座った。

「先生、先生は、ぼくのこと初め女の子だと思っていたでしょう?」と白鳥さん。
「ごめんね。そう思ってた。」私は正直に言った。
「ぼく、どこへ行っても女の子に間違えられます。
 もうそれうんざりなので、先生がみんなを「さん付け」で呼んでくれたときうれしかった。

 でも、心の中の正直な気持ちを先生に言います。ぼくは、女の子に間違えられる度、いやな顔をしてたけど、ほんとは、そのたび、心の奥の方で、喜んでいるんです。
 先生、笑わないで聞いてくれますか。
 ぼく、ほんとは、女の子に生まれたかった。女の子になって、先生みたいにオシャレしたいんです。
 先生。ぼくみたいなの、変態でしょうか。世の中に、こんな風に思ってるの、自分だけだと思って、ときどきすごく落ち込みます。

 だれにも相談できませんでした。でも、この塾に、初めてジュンちゃん先生が来てくれました。初めて女の先生。

先生は、いつもステキなワンピースを着て、オシャレで、綺麗で、優しくて、ぼくの憧れです。
だから、先生にだけは、ぼく、相談できる気がしたんです。」
白鳥さんは、そう言った。

白鳥さんは、リナやアメリカのクリスと同じものをもっていた。
女の子のオーラ。それがあった。
女の子だと思っているときは、当たり前なので、何も思わなかった。でも、こうして男の子として対峙してみると、それが分かった。白鳥さんは、女の子の匂いがする。

私は、アメリカのクリスのこと、そして、リナのことと比べていた。
だけど、目の前にいるのは、まだ12歳の少年だ。
高校生だったリナやクリスのようにはいかない。
下手な言葉で、共感すると、彼に暗示を掛けてしまうかも知れない。
私は、言葉を選びながら話した。

「まず、あなたは、変態なんかじゃないわ。
 この世に、あなたと同じ悩みをもって生活している人は、大勢いるの。
(私も、同じよ、とよっぽど言ってあげたい気がした。)
 だから、そのことを思って、自分のことを責めないでね。」私は、そう言った。

(※当時、女装の人を、お茶の間のテレビで見ることなど、めったにありませんでした。)

白鳥さんは、かばんの中から、ある封筒を取り出した。
それを、私の前に置いた。

「先生、お願いがあるんです。
 ぼく、可愛い女の子の服が着たいんです。
 毎日、そのことばかり考えて、勉強ができません。
 この封筒に、ぼくが貯めたお金が、5千円あるんです。
 先生。ぼくのために、このお金で、女の子の服を買ってください。
 こんなこと、先生にしかお願いできません。」
白鳥さんは、少し真っ赤くなって、うつむきがちにたのんだ。

(この一言をいうために、彼はどれだけの勇気をふるったことだろう。)

白鳥さんの思いが痛いほどわかった。

(さあ、どうしよう。彼の願いを叶えてあげたい。しかし、)

「私が、もし学校の先生だったら、ご両親にそのお話をして、お母さんに女の子の服を買ってもらうようにすると思うけど。」と私。
「親には、絶対頼めません。絶対だめです。家の親は、そういう親です。」と白鳥さん。
「話してみなければ、わからないのに。」と私。
「ダメです。お父さんなんか絶対だめです。お母さんもだめです。」
白鳥さんは、頭を振った。

「学校の先生は?」と聞いた。
「担任の先生もダメです。怖い男の先生で、とても相談なんかできません。
 男は男らしく、女は女らしく、なんてことを毎日口にする先生です。」

(※当時、こんな差別的言葉が、平気でまかり通っていました。)

「保健室の先生は?」と私。
「だめです。いつも忙しそうで、怪我で来た子が怒られことがあるくらいです。」
「それは、悲しいわね。」と私。

「服を買っても、あなたが着られるところはある?」と私は聞いた。
「ぼく、自分の部屋があって、鍵がかかるから、部屋で着られると思います。
 服を着て、鏡を見て、満足したら、すぐに脱いで隠しておきます。」と白鳥さんは言う。



「ちょっと来て。」と私は言って、白鳥さんを、ドアの横の鏡の前に連れて行った。
白鳥さんを映して、私はそのうしろから、白鳥さんの髪をなでで、
両耳を出してみた。そして、私のバッグに入っていたカチューシャを、白鳥さんの髪に差した。
すると、白鳥さんは、一気にほぼ完璧な女の子の顔になった。

それを見た白鳥さんは、「あっ。」と小さく叫んで、私の方に振り向き、
私にしがみついてきた。
「自分の顔に驚いたの?」
「はい。」
「完璧に女の子に見えたから?」
「はい。」白鳥さんは私にしがみついたまま、うなずいた。

私は、白鳥さんを少し離して、言った。
「白鳥さん。たったこれだけで、あなたは女の子になれるわ。
 あたしのカチューシャは安物だから、今ここであげるね。
 お洋服のことは、理事長先生に相談しないと、買ってあげられない。
 理事長先生にあなたのことを話していい?」と聞いた。
「ジュン先生のことですか?
 だったら、かまいません。ぼく、ジュン先生好きだから。」と白鳥さんは言った。

「じゃあ、それまでは、髪型を今みたいにして、カチューシャをして女の子になることで、
 我慢して。これだけなら、もしご家族が来ても、すぐに隠せるわ。どう?」
「はい。わかりました。ありがとうございます。」
と彼は言った。すこし、すっきりした声だった。
「お金は、しまっておいてね。」と私は言った。



「やっぱりジュンちゃん先生に相談してよかったです。
 わかってくれる先生がいると思うだけで、励まされました。」
白鳥さんはそう言って、笑顔を見せ帰って行った。


残った私。
さて難題だと、頭を抱えた。


つづく。
プロフィール

ラック

Author:ラック
上は若いときの写真です。ISなので、体は、かなり女子に近く発育しました。でも、胸はぺったんこです。戸籍は男子。性自認も男子、そして女装子です。アメリカの大学で2年女として過ごしました。私の最も幸せな2年でした。そのときの自叙伝を書いています。また、創作女装小説を書いています。毎日ネタが浮かばず、四苦八苦しています。ほぼ、毎日更新しています。
どうぞ、お出でください。

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