ジュン帰国編③(番外 授業風景)

ジュンの仕事ぶりは、どうなの?と聞いてくださって方がいらっしゃいましたので、
1回だけ、授業風景を書きました。
私が女装しているというだけで、他には、なんの女装も出てきません。
内容は「授業」ですので、退屈されると思います。だから、1回だけの投稿に留めます。
読んでくだされば、もちろんうれしいです。
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塾に来て、早々の2日目。
私は、ピンク色のワンピースで来た。
先生としては、かなり派手な色。

理事長が私に言う。
「ジュンちゃん。今日、授業やってみない?」と。
「え、まだ新米で無理ですよ。」と言うと。
「Sクラスの授業。
 Sクラスは、開成、麻布、武蔵、女子は桜陰、女子学院なんか受ける一番学力のあるクラス。
 みんな、くそ生意気なやつらばっかのクラスなんだけど。やんない?」と言う。

(わあ、やだな、と思った。)

「それって、私の勤務評定ですか。」
「そうそう、うまいこと言うね。」と理事長はにこにこ顔。
「あいつらを、ぎゃふんと言わせる授業、どう?」

まいったなあ…と思ったけど、腹を決めた。
勤務評定ならしかたなし。

「やります。」と答えた。
「俺、見てていい?」
「いやですけど、『はい』です。」



理事長は、教室に入って、
「今日は、ステキな、ジュンちゃん先生が特別授業をしてくれます。
 みんな、楽しみでしょう。」
「女の先生?」と子供達。
「ジュン先生、頼りないから、女の先生がいい。」と子供達。

(どうやら、理事長は、子供に愛されているようだ。)

私は自分に気合を入れた。
今日は、子供達になめられてはいけないのだ。

私は、教壇に上がった。
「うわあ、賢そうな子ばっかり。いやだなあ。」と言った。
子供達は、笑った。
「あたしが、ドジったら、助けてくださいね。それが、Sクラスのみなさんでしょう?」
「いいよ。助けてあげる。安心して。」と子供達が言う。
「キャー、たのもしい。」私は言った。
子供達が少し笑う。(子供達は、全然生意気ではない。)

「今日は、算数の基本中の基本のお勉強をします。」
「ええ?」とマイナスな声がする。

私は、黒板に、1年玉を縦4つ、横5つに敷き詰めた20個の1円玉の絵を書いた。
「さて、ここにある一円玉で、何円か。それを求める式を言ってください。」
簡単すぎるのか、全員がバカにしたように手を上げた。一人を差した。
「4×5=20。20円です。」
「さすが、Sクラスのみなさんね。」と私。
バカにしないでよ、との声があがる。

「さて、式の各数字には、単位をつけることができますが、まず4の単位は?」
全員が、「円」です、と答えた。
じゃあ、5は?と聞くと、みんな「円です。」と言う。

「じゃあ、4円かける5円で、20、20の単位は?」
「円です。」とみんなが答える。
「ほんと?」と私は言って、「円×円=円なのですか?」とたたみ込んだ。

さすが、Sクラスだ。
だれかが、すぐ拒否反応をみせた。
「円×円なら、円の2乗にならないとおかしいよ。」
「ほんとだ。cm×cmは、cm2だもんな。」
「円の2乗ってなんだ?」
ここで、クラス中が、しーんとなった。
みんな、考えている。
(あはっ。Sクラスの子に考えさせた、と私はしめしめと思った。)

「先生、降参だ。教えてよ。」とある子が言った。
「みんなもギブ・アップですか。」と私は聞いた。
「くやしいけど、ギブ。」と多くの子が言った。

「じゃ、言います。」と私は言って。
「4円は、それでいいんです。縦に見て1列につき4円です。
 ×5の「5」の単位は、円ではなく、言うなれば「列」なのです。
 1列につき4円。それが5列で、4×5なのです。」
「なあるほど。」とう声が上がる。

「大事なことを言います。かけ算は、同質なもの同士は掛けられないのです。」

すぐに反応があった。
「先生。面積のときは、cm×cmだよ。」
「あれは、子供達に覚えやすいように、そうしたんです。
 ほんとは、横の長さ、1cmにつき縦に4cm2あるでしょう。それが、横5cmなら、
 5列あるだろうということです。
 だから、4cm2×5列というのが、小学生段階での正解です。
 ま、cm×cmとしておくと、後でとても便利であるということもあるんですけどね。」
「なあるほど。」という子供の反応あり。

「じゃあ、次は、もっと基本。たし算にいきましょう。」
私は、そう言って、黒板に、

半分のリンゴの絵 + 半分のみかんの絵をかいた。

そこで、聞いた。
「さあ、みなさん。答えはなんでしょう?」
子供達は、あっという顔をして、一瞬考えこんだ。
やがて、
「1/2 + 1/2 = 1。 答えは1です。」とある子が答えた。

「1の単位はなんですか?」と私は聞いた。
「えーと、『こ』かな?」とその子が言った。
すぐに反論の手が挙がった。(さすが、Sクラス。)
「リンゴ半分と、みかん半分を、合体してみろよ。それ1かよ。」
「そうよ。スイカ半分と、さくらんぼ半分を合わせて、1っていうのは、おかしいわよ。」

「半分同士なんだから、1+1=2 ってのも変だしなあ。」

「みなさん。」と私は言って、「エジソンの話知っているでしょう。発明王エジソンは、小学1年生のとき、先生に「どうして 1+1は2なんですか、と聞いて、みんなに笑われ、お医者様のところへ行かされたそうです。でも、私は、エジソンくんは、上のような場合を考えていたのではないかと思うのです。あるいは、地球1ことりんご1こを足して、2こと答えていいのだろうかと、考えたのかもしれません。天才ですよね。」

「先生、もう答え教えて。」と誰かが言った。

「はい、時間がないので、答えを言います。
 さっきかけ算は、同質なもの同士ではできないといいましたね。
 ところが、たし算は、同質のものでないとできないのです。
 だから、みなさんが、りんごとみかんを異質なものと見る限り、たし算はできないのです。
 4gと5mを足せますか?だめでしょう。
 でもですよ。リンゴがリンゴだということを忘れ、みかんがみかんということを忘れ、さらに2つとも半分だということまで忘れると、1かたまり+1かたまりという同質な「かたまり」という単位を与えることができますね。すると、1+1=2とう計算ができます。」私は言った。

「わり算はどうなんですか。」と誰か。

「わり算は、A×B=Cというとき、Cがわかっていて、A、Bどちらかがわからないときに使う式ですから、C÷Aもできるし、C÷Bもできます。A、Bは、もともと異質ですから、わり算は、同質でも異質でもできるんです。」と私。

「これね。みなさんには、失礼かもしれないけど、わり算以外は、小学校の1年と2年の教科書で習ったことなんですよ。だから、今日は基本中の基本の授業をしますと初めに言ったんです。
じゃあ、そろそろ、時間ですね。みなさん、さようなら。」

オーーと言って、子供達が拍手をしてくれた。
うれしかった。



理事長と教室の外に出た。
理事長は、「ジュンちゃん、すごいよ、すごい。俺、知らなかったよ。子供といっしょに考えちゃって、
あっという間に、時間が経った。いやあ、いい授業だったなあ…。ほんとに初めての授業?」
そう言ってくれた。
「あはっ。そう言ってくださると、うれしいです。でも、もうネタはありません。」
と私は言って、舌を出した。
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ジュン・帰国編(特別番外編 2)

この帰国編は、とりあえずこの第2話で、一区切りにします。
楽しいことが、たくさんありましたが、本ブログのテーマである「女装」ネタがあんまりないんです。
典子ママに会ったり、リナに会いますので、それはいつか1話書きたいと思っています。
読んでくだされば、うれしいです。
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指定の日に面接に行った。
私は、その日ばかりは、リクルートスーツで行かねばならないと思った。
そんなスーツは持っていなかったので、
姉の黒いスーツを借りて行った。
スーツのスカートを履くには、私にはピップが足りない。
私は、アメリカで買った、ピップパッド2枚を重ねて着け、
パンティーストッキングで抑え、スカートを履いた。
何とか、スカートがフィット。
ブラウスに上着。
そんな格好はしたことがなかったので、ちょっとうれしい気分だった。



事務室の応接間に案内された。
会ってくれたのは、私より少し年上のフランクな格好をした男性だった。
事務の人が、理事長と呼んでいた。
理事長は、なかなかステキな人だった。さも女性にモテそうなタイプ。

理事長は、私の履歴書を眺めながら、
「あれ?あなた男性なの?」と驚いて言った。
「あ、はい。」私は言った。
「どうして、女性の格好をしてるの?」と彼は聞く。
「この方が居心地いいんです。男の格好だと、男装をした女に見られて、それが嫌なんです。」と私。
理事長は、私をもう一度みて、
「うーん、わかるわかる。あなたは声も女性だし、女性で行った方がいいね。」
と理事長は、言った。

「うち(我が社)は、そういうの全然気にしないから。」理事長は軽くそう言った。
(うおっ。いいぞ、と思った。)

理事長は、
「英語の試験だけど…。」とそこまで言うと、急に表情をくずして、私の方に身を乗り出し、
「ピンク・フロイドだって、バレちゃった?」と少年のようないたずら顔で言った。
「ロックの歌詞かなとは、なんとなく思いました。」と私は笑顔を作って言った。

(理事長は、ものすごく好人物だと思った。)

「実は、俺、この塾の連中とバンド組んでんのね。
 英語の問題、ビートルズじゃ見え見えだからさ、ピンク・フロイドにしたんだけど、
 まさか、バレるとはなあ。見事に訳されちゃったよ。あんな風に訳したのあなた一人。」と彼は言う。



「職員には、どうする?あなたが女性ということでいく?
 それとも、カムアウトしちゃう?」
「カムアウトしてください。」と私は言った。

理事長は、しばらく考えていた。
「いや、女性でいこう?残念ながら、我が社の職員は完全に一枚岩とはなっていないんだよね。
 あなたに敵意を持つ職員が出るとも限らない。あなたのことを子供にリークされたら、お仕舞いでしょ。責任は俺が取るから。理事長の命令で、カムアウトは禁じられたということにしよう。」
(ありがたいと思った。)

「あなたのことを知るのは、俺と、弟の所長とオヤジである会長、そして、そこの事務長。この4人だけにする。弟の所長は、変な奴だけど、口は固い。

 それから、もちろんだけど、職員トイレは女性を使ってね。更衣室も。
 男子トイレにあなたみたいな美人が来たら、みんなビビっちゃうから。
 うちは、今のところ女性はあなた一人だから、ほとんど貸し切りだよ。
 子供には、当然、女先生で通すから。」理事長はそう言った。

「あ、それから、」と理事長は言って、「実は、俺も淳(ジュン)なのね。で、みんなから、ジュンさんって呼ばれてる。あなたと紛らわしいから、あなたは、ジュンちゃんでどう?」
「ジュンちゃんですか。わかりました。」私はそう言った。
「よし、決まり!」と理事長は手をたたいた。



なんて、うれしいところだろうと、私は、感激した。
それにしても、理事長は、変わった人だなあと、うれしくなった。
(弟の所長は、もっと変わってるの?)

「じゃあ、明日から来てね。
 2時にここに。職員にもそのとき紹介するから。」と理事長は言った。
そして、理事長は、
「服装だけど、明日からは、自由な格好で来てね。
 オシャレ、大歓迎。
 うちは、ネクタイ締めてる人3人しかいないから。」と言った。

私は、最高にうれしい気分で家に帰った。
あんな塾があるなんて。
しかも、お気に入りのワンピースで行ってもよさそうだ。
なんだか、長居をしてしまいそうなところだなあと思った。



翌日、2時に塾へいった。
私は、水色のワンピースを着て行った。
真珠のイミテーションのネックレス。
耳に、同じ真珠のイヤリングをつけて。靴は白。

「お、いいね。」と理事長は、私を見るなり言った。

理事長と、(学校では職員室にあたる)「教務室」に行った。
中に入る。
20人くらいの職員。
見れば、ネクタイの人はほとんどいない。
3人だけ、年配の偉そうな人がネクタイだった。
理事長が、一枚岩ではないと言ったのは、おそらくあの3人のことだと思った。

塾の9割は、小学生で、そこは、中学受験専門の進学塾だった。
毎週自作の日曜テストをやっていて、その受験生は毎回1000人ほどいる。
塾業界の中では、大手の方だった。

理事長は、みなさんに言った。
「純さんは、アメリカの大学を出たばかりですが、当面は、算数部に属してもらいます。
 えー、俺は「ジュンさん」と呼ばれているので、区別のために、彼女は「ジュンちゃん」とか呼んでください。」
(あはは、と笑い声があった。)
「なんか一言ある?」と理事長に聞かれた。
私は、挨拶した。
「加納純です。アメリカに2年いましたが、帰るその時まで、先生達の英語が分かりませんでした。
だから、算数部と聞いてほっとしています。よろしくご指導ください。」
(また、笑い声がした。)
新人として、正直な言葉だった。

職員のみなさんから拍手をされ、みなさん、にこにこしている気がした。
これは、居心地が良さそうだなあと思った。



私はデスクに案内された。
そこは、算数部の島だった。
となりは、眼鏡を掛けた、河童の印象のある人だった。
私が紹介される間も、ずっとマッチ棒で何かを作っていた。
私が座ると、
「俺、中井。ジュンちゃん、よろしくね。」と中井さんは、マッチ棒から目を離さず言った。
(私は、心で、「カッパ先生」と呼んだ。)
「ジュンちゃん、コーヒー飲むよね。」と前に座っている人に言われた。Yシャツに紺のカーデガン。真面目そうな人だと思った。沢村という名前。
「あ、自分で淹れます。」と私。
「明日からは、自分のカップを持ってきて。
 ここは、女性がみんなのお茶を入れるなんてのなしだから。
 飲みたい人が自分のだけ入れることになってるの。」

聞けば、この3人が算数部ということらしかった。

塾の性質上、勤務は、午後の2時から、10時まで。
子供達が来るのは、4時から9時まで。
4時からは、4年生と5年生。6時からは、6年の受験生達が来る。


こうして私は、また女の姿で、職場でも家でもフルタイムの女装ができるようになった。
夜は女物のパジャマで寝て、お肌の手入れもできる。
アメリカの2年を合わせて、まだ当分フルタイムの女装でいけそうだ。
私はこの幸運にうきうきとした。


いつの日かに、つづく。

「ジュン 帰国編」・特別番外編 1

ここで、ちょっと気分を変え、帰国してからのジュンのことを書きます。

胸が張り裂けそうだった、レレイやウォンとの別れ。アメリカの大学を卒業して、フィラデルフィアの出版社にもぐりこんだジュンは、そこで2ヶ月。しかし、ついにお金も尽き果て、やむなく日本に帰ります。
日本に帰ったら就職です。アメリカで2年も女性として暮らしてきた純は、一体どうなるのでしょう。
そんな純を雇ってくれる会社があるのでしょうか?

※今までの記事は、1回が長すぎて、読む方にご負担をかけました。そこで、短めに連載していきます。

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九月になった。
お金も尽きた。
いよいよ帰国だ。
アメリカで女性として暮らしてきた日々と、もうさよならなのか?
いや、もうそれはできない。急に男として暮らすことなどもうできない。
私はそう考えていた。
私は、24歳になっていた。
あと10年、いや5年。女として通る内は、女でいきたい。

私は子供のとき、女の子として家で過ごしたことがある。
それに、私の女装願望のことは、多分両親は知っている。
そして、心は女性でないことも知っている。
思いきって、女の姿のまま家に帰ってみようか。
土産にアメリカの大学の卒業証書がある。
これを持って胸を張って帰ればいいんだ。
さぞ、驚くと思うけど、それはわずか1日か2日のことだろう。

私は美容院へ行って、背中まであった髪を切り、
頬が隠れるほどの長さにした。そして、柔らかくウェーブをかけた。
前髪は7・3に分けて、眉が隠れる程度の長さにした。

貯めに貯めた女物の衣類は、すべて日本に送った。
私は、黒のセミロングのワンピースに、
黒のレースのボレロを重ね、黒の靴、金のネックレス、イアリング。
そんな姿で、ニューヨークのケネディー空港を発った。



長かった飛行機の旅。
いよいよ日本だ。

成田空港について、まずはじめにロビーの窓から町を眺めた。
すると、どの建物の看板も日本語だ。
全部読める。その感激。

空港からバスに乗って、ターミナルからは、タクシーを拾った。
カッコよくタクシーで家に帰りたかった。

家についたのは、夜の7時ごろだった。
タクシーを降りるとき、思わず運転手さんにチップを上げてしまった。

実家は、縦に長い小さなビルで、その4階と5階と6階だ。
私は5階まで上がって、
「ただいまー。」と元気よく言った。



出迎えてくれた家族は、あっと言って驚いた。
息子が娘の姿で帰って来た。

母が言った。
「純、お前まさか、女になる手術を受けて帰ってきたの?」
「中身は男だよ。でも、向こうでは女として暮らしてきた。」
私は、そう答えた。

家には、同居している姉夫婦と両親がいた。
兄は、既に結婚して、別のところにいた。

夕食の席で、家族にいろいろ説明した。
家族はやっと納得してくれた。
「お前は、子供のときから、女の子に間違われていたからねえ。」と母。
「いつか男にもどるのか。」と父に聞かれた。
「女として粘りたいけど、何時かは、男に戻るんだろうなと思う。でも急には戻れない。」
と私は言った。

姉が言った。姉は昔から、私の女装に理解があった。
「いいの着てるじゃないの。送ってきた荷物、みんな女物?」
「安物だよ。ぼくが着てるからいい物に見えるんじゃない?」
「また、このお。」と姉に頭をはたかれた。
「髪にさわらないで。女の命だから。」と私。
「バカ。」と姉は言った。

こうして、帰国第一日目が、家族の理解を得て、無事過ぎていった。


*   *   *

(真っ先に、典子ママやリナに会いにいきますが、それは、別の記事で書きます。)

2年間、アメリカにいたというのは、浦島太郎のようなものだ。
右も左もわからない。
きちんとした就職をする前に、とりあえず働こうと思った。
私は、日本では教育学部、アメリカでは心理学部だった。
その関係上、塾などいいのじゃないかと思った。

新聞の求人欄を見ると、塾の求人がとても多いことが分かった。
そこで、2,3の塾に行ってみた。
そこでは、どこも、男なら男の姿をしてくれないと困ると言われ、冷たく断られた。
そりゃそうだろうなあ。
さぞ、非常識な奴と思われたことだろうと我ながら思った。

そして、4つめの塾。
求人は1人だった。そこに60人ほどの応募者があった。
私は、少しも懲りずに、お気に入りのワンピースを着て来ていた。
(普通は、黒いリクルートスーツで行くべきだったのだろう。)

広い教室で、国語、算数、英語の試験があった。
国語、算数は、何とか合格点が取れたと思った。
問題は、英語だった。

英語の出題は詩だった。
それを、和訳せよと言う。
びっくりしたことに、その英詩は、どうみても一般的な英詩ではない。
おそらくはロックの歌詞のようだった。
(多分、ピンク・フロイドあたり。)
ふざけているのか、楽しんでいるのか。
こういう問題を出すところは、きっと変な塾に決まってる。
私みたいな変なのを雇ってくれるかもしれないと希望をもった。

私は、試験会場の人たちを眺めた。
みんな50歳を過ぎた人のようだった。
若いのは私一人。
私は、これはイケルかもと思った。

私は、ロックだから、ロック風な言葉で和訳を書いた。



2日後、期待どおり、見事、採用通知が来た。
わあ、60人中の1人だあと感激した。


つづく

1つの消しゴム(純・子供編 後編)

後半は、少し長くなってしまいました。読んでくださるとうれしいです。

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先生の声が聞こえた。

「島田さん、ごめんなさい。加納くんの言うとおりだったわ。
 授業が終わってから、あなた一人に言えばよかった。
 島田さん。ごめんなさい。そして、加納くん、ごめんなさい。
 先生が、いけなかった。二人ともごめんなさい。」

先生が少し泣いていた。

(※40年前。先生の権威は今よりずっとありました。その先生が子供に謝る姿など、クラスのみんなにとって、初めて見ることだったと思います。)

そのうち、授業終了のチャイムがなった。
すると、平さんが、飛ぶようにやってきた。

「島田さん。あたしの母さん、美容師だから、家にクリームいっぱいある。
 だから、今日一緒にあそぼ。あたしの家に来ない?」そう言った。
島田さんも、私も、やっと泣き止んでいた。
「行く。ありがとう。」と島田さんは、平さんに言った。
「ぼくも行っていい。」と私は言った。
「わあ、純も来てくれるの?」と平さんはうれしそうに言った。



平さんの家に、島田さんと3人で言った。
平さんの家に着くと、お母さんがいた。
平さんのお母さんは、背が高くて、すごく若くて、美人だった。
「あ、お母さん、いたの?」と平さん。
「うん、ちょっと用があってね、もどって来たの。」とお母さん。

「ちょうどよかった。島田さんの手を見て上げて。」と平さんは言った。

島田さんは、平さんのお母さんに、掌を見せた。
「これは、汚れじゃないわ。皮膚にひびが入って、血がにじみ出ているの。
 それが固まって、こげ茶色に見えるだけ。
 お湯でやわらかくして、ベビーオイルを塗っとくといいわ。
 大人にだったら、もっといいのがあるんだけど、まだ4年生だからベビーオイルの方が安全。
 手袋して寝るともっといいんだけど。ちょっとうっとうしいものね。」
そう言って、平さんのお母さんは、給湯器からお湯を出して、
島田さんの手を温め、ベビーオイルを塗った。

平さんのお母さんは、すごいなあと私は思って見ていた。

「お家にベビーオイルある?」と平さんのお母さんは聞いた。
「ないと思う。」と島田さんは、答えた。
「じゃあ、これあげるわ。あげたことがわかるように、
 お母さんに、お手紙を書いておきましょう。」とお母さんは言った。
「あたし、お母さんいません。」と島田さんは言った。
「お父さんは?」
「お父さんなら、います。」と島田さんは言った。
「そう。家は、お父さんがいないのよ。」と平さんのお母さんは言って、
島田さんのお父さん宛てに手紙を書いていた。



「お母さん。こちらの子、純。」と平さんは言った。
「あなたが、純くんなの?」とお母さんは、うれしそうな目をして言った。
「江津子から、毎日お話を聞いていたの。
 お会いできて、うれしいわ。
 ほんとだ。可愛いわ。」とお母さんは言った。



平さんのお母さんが出かけた後、
平さんが、島田さんに言った。
「島田さん。純ね、女の子の格好すると、すごく可愛くなるのよ。
 ね、純。今日も女の子になって?島田さんに見せちゃおう。」
「いいよ。」
と私は答えた。(内心すごくうれしかった。)
平さんは私に、可愛い黄色のワンピースを着せた。
そして、髪をとかして、私の耳を出した。
それに、カチューシャを私の髪につけた。

「はい、純子の出来上がり。」と平さんは、喜んだ。
島田さんも、笑いながら、
「ほんとだ。女の子にしか見えない。加納くん、可愛い。」と手をたたいて喜んだ。
「純子よ。女の子になったときは、純子って呼ぼう?」と平さんは島田さんに言った。
「うん。わかった。」と島田さんは、おかしそうに言う。

私たちは、3人の女の子になって、
外で石けりをしたり、ゴム段をしたり、
中で、トランプをしたり、おはじきをしたりした。
前に平さんと2人で遊んだときより、3人の方がずっと楽しかった。

島田さんは、生き生きとしていた。
たくさんしゃべり、たくさん笑った。



楽しい遊びの時間が過ぎて、帰る時間になった。
帰りは、島田さんと私の2人になった。

「加納くん。」と2人になると、島田さんは、私を苗字で呼んだ。
「加納くんは、私がクラスで嫌われていること、知っていたでしょう?」
と島田さんは、言った。
「みんな、私を、汚いって言って、離れて通ったり、机を離したり。」
「うん。知ってた。」
「私、席替えの度に嫌だった。音楽室でも席替えがあったときも、つらかった。」
「うん、わかる。」と私は言った。
「でも、私のとなりに加納くんが来た。
 また、離れて座られるのかなと思ってた。
 でも、加納くんは、そんなことしなかった。
 私のこと、汚いって思わなかった?」と島田さんは聞いた。
「よくわかんないけど、ぼくは、そういうこと、あんまり感じない。」と私は言った。
「あたし、加納くんが、普通に座ってくれて、
 あたしに普通に話しかけてくれて、すごくうれしかった。」
そう島田さんは言った。

「今日の音楽の時間は、ありがとう。」島田さんが言った。
「ぼくが、みんなに言ったこと?」
「あたし、ちゃんと石鹸で手を洗っているのに、
 先生から洗ってないみたいに言われて、悲しかった。
 そのとき、クラスの人みんなが笛を止めて聞いてて、
 恥ずかしかったし、聞かれたくなかった。
 みんなが、おもしろがって聞いてるような気がして、
 死ぬほど悲しかった。

 先生だって私のそんな気持ち分かってくれてなかった。
 この世に私の気持ちなんか分かってくれる人いないって思った。
 でも、加納君が分かってくれてた。
 そして、みんなに泣きながら言ってくれた。
 今まで、絶対怒らなかった加納君が言ってくれた。
 うれしかった。

 あたし、今までどんなにいじめられても泣かなかった。
 泣かないってがんばってきた。
 辛いのは、いくらだって我慢できた。
 でも、うれしい気持ちは、我慢できなかった。
 うれしくて、うれしくて、涙が出てきて、止まらなくなった…。
 加納君、ありがとう…。」
島田さんは、立ち止って、泣き出してしまった。

「今日は、ぼくも泣いちゃったし、二人で泣いちゃったね。」
私はそう言って、少し笑った。
「そうね。」と島田さんは私を見て、涙の目を拭いて笑顔を作った。
 



その日の夜、島田さんのお父さんが、島田さんを連れて、平さんの家へ挨拶に言ったそうだ。

(※以下は、平さんに聞いたお話を、想像を加えて書きます。)

「お手紙読みました。ありがとうございます。」とお父さんは言い、
 何しろ、男手で育てているものですから、娘のことに手が行き届かなくて…。」と言った。
「お困りなことは何でもおっしゃってください。
 家は、男親がいないものですから、ときに男の方の手が欲しくなることがあります。
 お互い様ということで。」と平さんのお母さん。

平さんのお母さんは、奥から、大きな風呂敷包みを持ってきて、
「あの、大変差し出がましいことなのですが、
 これ、去年まで、娘の江津子が着ていたものなのです。
 江津子は、4年生になって急に背が伸びて、全部着られなくなってしまいました。
 どうしようかと思っていたものなんです。
 古着屋に持って行っても二束三文ですし、かといって捨てるにはもったいないし、
島田さんのさち子さんは、小柄でいらっしゃるので、もしかしたら着られるかもしれないと思って、まとめました。着古したもので、大変失礼かと思いますが、もしよろしければ、お受け取り願いませんでしょうか。」
そう言った。
「それは、ありがたいことです。何しろ娘には、同じものばかり着させて、親として辛い思いをしていました。ぜひ、ありがたくちょうだいいたします。こんなにたくさん、申し訳ないことです。」
島田さんのお父さんは、そう言った。



次の日、島田さんは、違う洋服を着て学校に来た。
そばで、平さんがうれしそうにして、話しかけていた。

そのころ、島田さんを特にいじめていた5人グループが私のところへ来た。
その中の大将の田辺君が私に頭を下げて言う。
「純、俺達はこれから島田のところへいって謝るから、俺達を嫌わないでくれ。
 お前に嫌われたら、もうおしまいだ。」

「どういうこと?ぼくはボスでも大将でもないよ。」と私は言った。
「いや、お前みたいないい人間に嫌われる奴は、サイテーということだ。
 純は、俺が一人ぼっちのとき付き合ってくれたただ一人の奴だ。借りもある。
 だから、許してくれ。」田辺君はそう言って頭を下げる。
他のみんなも頭を下げている。
「ぼくは、いいよ。」私は笑って答えた。

それから、5人は、島田さんのところへ行って、一生懸命頭を下げていた。
私は、よかったなあと思って見ていた。
島田さんは、不思議な顔をして5人を見ながら、最後にはうなずいていた。
平さんが島田さんを抱きしめていた。

島田さんへの嫌がらせは、その日からなくなった。



島田さんと平さんは大の仲良しになった。
二人とも、もうさみしくはなくなった。



何週間が過ぎて、音楽の時間、
先生が、来週席替えをしましょうと言った。
みんな、わあーいと言って喜んだ。
島田さんと並んでいられるのは、あと2回になった。



音楽の時間。島田さんと並んでいられる、最後から2番目の日だった。
島田さんは、私の机の前に、綺麗な女の子用の新品の消しゴムを置いた。
「これ、加納くんにあげる。」
「ほんと?」と私は言った。

私は知っていた。
島田さんの筆箱の中には、短くなった鉛筆2本と、
小さくなって、使いづらくなった消しゴムしか入ってなかった。

「これ、島田さんの大切なものじゃないの?」と私は聞いた。
「うん。私のいちばん大切なもの。だから、加納くんにあげる。」
島田さんは、そう言った。
私は、島田さんの思いがわかり、胸の中からこみ上げてくるものを感じていた。

「ありがとう。もらうね。大事にする。
 もったいなくて、使えないかもしれない。」
そう言った。
島田さんは、にっこり笑った。



家に帰って、母に消しゴムを見せた。
そして、島田さんのことを話した。

「そう。じゃあ、純のいちばん大切なものをあげたら。」と母は言った。

その頃の私の一番大切な物は、「スーパーマン」のメンコだった。
4枚で一組になり、紫色の紙テープに巻かれ束になっている。
女の子の島田さんがメンコやるかなあと思ったけれど、私の一番の宝だった。

島田さんと並んで座れる最後の音楽の時間。
「これ、ぼくのいちばんの宝物。消しゴムのお礼。もらってくれる?」
と島田さんに言って、メンコを島田さんの前に置いた。
「いいの?」と島田さんは私を見て言った。
「うん。いい。」私は言った。
島田さんは、スーパーマンのメンコを受取って、
「ありがとう。」
そう言った。



それから、35年後、初めて小学校のクラス会が開かれた。
卒業から33年ぶりで、みんな、45歳になっていた。
島田さんは、出席していた。
とても、感じのいい優しそうな女性になっていた。
(平さんは、スナックをやっていて、夜の仕事で来れないとのことだった。)

私は島田さんと、話をした。
「音楽の時間に、島田さんがくれた消しゴム、覚えてる?」
「覚えてるわよ。」と島田さんは笑った。
「あれ、もったいなくて、とうとう使えなくて、ぼくの宝箱に今でもあるよ。」
と私は言った。
「ほんと?うれしいな。私も純がくれたスーパーマンのメンコ。
 封を切らずに宝箱にしまってある。見る度に、純を思い出す。」
「一生、持ってると思う。」と私。
「私も。」と島田さん。

二人とも、ビールのグラスを持っていた。
「じゃあ、消しゴムとメンコのために、乾杯!」
「乾杯!」

二人で微笑みながら、グラスを当てた。



後編 終わり

1この消しゴム(純・子供編 前編)

純の子供編を、また1つ書きました。舞台は小学4年生のときです。
前半では女装も何も出て来ないのですが、読んでくださるとうれしいです。
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4年生のとき。
それは、平さんが、私が男子達と遊べるよう、
身を引いてくれた頃だった。

音楽の時間に席替えがあった。
私は背が低い方だったので、真ん中の中央だった。
音楽室の机は2人掛けだった。
私のとなりは、島田さち子さんという女の子だった。
島田さんも小柄だったので前に来た。

島田さんは、クラスで一人ぼっちの子だった。
その原因ははっきりしていた。
着ているものがいつも同じワンピースで、
その服は色褪せていて、どこかうす汚れた感じのものだった。
そして、島田さんは、浅黒くて、
皮膚が荒れていた。
それは、一見汚れているようにも見えた。

クラスの男子は、島田さんの横を通るとき、
わざとらしく距離をおいて通って行くようなことをしていた。

教室で、島田さんのとなりになった男子は、
嘆くようなアクションをして、
机をわざと、島田さんの机から、20cmくらい離していた。
先生に注意されたときだけ机を戻し、すぐに机を離していた。

島田さんは、いつも大人しかった。
ほとんど、しゃべる相手がいなかった。



私は、クラスで席がとなりになった女の子と、
必ず仲良しになった。
そして、いつも楽しく盛り上がっていた。

音楽室の島田さんとも同じだった。
一日目に、すぐ仲良しになった。
島田さんは、大人しい子ではなかった。
普通におしゃべりができる子だった。

ところが、席替え1日目の音楽の時間が終わったとき、
私たちの前を通る男子の数人が、
「へん、純、可哀相。」と言ったり、島田さんに向かって、
「お前なんかに、純はもったいないんだよ。」
そんなことを言って通り過ぎて行った。

言われてうつむいている島田さんに、
私はなんと言っていいかわからなかった。
気の効いた言葉を言えるほど、私は大人ではなかった。



音楽は、1週間に2回あった。
私は相変わらず、島田さんと盛り上がって、
楽しく過ごしていた。

すると、また、授業の終わりに、数人の男子が来て、
「純、島田なんかと盛りあがんじゃねーよ。」
「だって、こいつ、島田だぜ。」
と言った。

普段、ほとんど怒ったことのない私だった。
でも、そのときばかりは、ひどいと思った。
「そんな言い方、島田さんに悪いよ。」私はそう言った。
「悪かねーよ。島田だぜ。」
そう言いながら、数人は行った。
「純、お前、いつから島田の味方になった?」
そうも言っていた。

島田さんは、うつむいてだまっていた。
私は、気の毒でならなかった。



ある、音楽の時間。
たて笛の練習があった。
音楽の先生は女の先生だった。

子供達の間を、回りながら、手に手を取って指導していた。
やがて、先生は、島田さんのところへ来た。
そして、教えようとした。
だが、教える前に、島田さんの掌を見て、
「まあ、こんなに荒れてるじゃないの。
 それに、手のひびに泥が入っているわ。
 手をよく洗ってないのね?
 ね、いいこと。必ず手を石鹸でよく洗いなさい。
 その後、クリームをしっかり塗りなさい。
 いい?わかった?。」
そう言った。

そのとき、クラスのみんなが、笛の練習をやめて、
島田さんが言われているのを聞いていた。

(みんな、何のために、聞いてるの?島田さんが注意されるのを聞きたいの?
 ひどいよ。それは、ひどいよ。
 先生は、そういうの、誰もいないところで、言って上げればいいのに…。)

私は心の中で、そうくり返していた。
そのうち、我慢のできない怒りが渦になって込み上げてきた。

私はいつの間にか、立ち上がっていた。
そして、後ろを向いて、クラス中を相手に言った。

「みんな、何を聞いてるの!島田さんが先生に何を言われてるのか聞きたいの!
 そんなこと、楽しいことじゃないよ!楽しいことじゃないに決まってるじゃないか!」

私は、そこまで言うと、感情が高ぶってしまい、涙が出てきた。
私は、後ろを振り返り、先生に言った。

「先生も、そんなことは、誰もいないところで言ってあげればいいのに!」

そう言ったときには、耐えられず、机に顔を伏せて泣いてしまった。

多分そのとき、島田さんは、先生から手を引っ込め、
たて笛をぎゅっと握ったまま、掌を隠していた。
そして、うつむいていた。

クラスは、水を打ったようにしーんとなった。

やがて、クラスの後ろの方からの声が聞こえた。

「純が怒った…。」
「純が本気で怒ったの初めて見たよ。」
「やべえ。俺ら、相当いけなかったのかな…。」

そのうち、島田さんが、くすんと泣き、そのうち声を震わせて、忍ぶように泣きはじめた。

今まで、どんなに嫌がらせをされても、一度も泣かなかった島田さんだった。
その島田さんが、泣くようすを、クラスのみんなは、初めて見た。


つづく

純は、新宿でこんな詩を売っていました

純は、新宿の街で、こんな詩を売っていました。
当時の詩集が出て来ましたので、その1つを投稿します。
読んでくださると、うれしいです。
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『もしもその子が』


もしも その子が パンを盗んだとしても
あんまり 叱らないでおくれ
その子は お腹がすいていた 死ぬほどすいていた

もしも その子が 道の花を 踏みつけたとしても
あんまり 叱らないでおくれ
その子は 大切なものを 失くしたばかり
自分より 好きだった犬が 死んでしまった

もしも その子が 公園の乗り物を
こわしたとしても 
あまり 叱らないでおくれ
その子は こわれそうだった
自分の 心が こわれそうだった

もしも その子が ゴミを拾って
道路のゴミかごに 入れたとしたら
ほめてあげておくれ
たくさん ほめてあげておくれ
その子は 人にほめられたことがない
まだ 誰も その子を ほめたことがない

もしも その子が 目の見えない人の手に
自分の腕を貸してあげたとしたら
思い切り 抱きしめてあげておくれ
その子は まだ 抱きしめられたことがない
誰も その子を 抱きしめたことがない

もしも その子が おもしろいことを言ったなら
思い切り 笑ってあげておくれ
その子は 人を笑わせたことがない
その子も 笑ったことがない

もしも その子が あなたの命を 助けてくれたとしたら
一生 その子を 忘れないでおくれ
そして その子の名前を 聞いてあげておくれ
その子は 名前を呼ばれたことがない
誰も その子の名前を知らない

その子は ここにも あそこにも 大勢いて 
自分がどうすればいいか わからないでいる
でも 何かをせずには いられないでいる

そんな子を見つけたら どうか 言っておくれ
“助けてくれ”と たのんでみておくれ
多分 その子は 命がけで 助けてくれる
だって 人を助けたことがないから
“ありがとう”と言われることが
どんなに うれしいことか
知らないでいるから

オコゲの圭さん(新宿編第二部9 1話完結)

昨日は、長いのを投稿してしまい、読んでくださった方、ありがとうございます。
今日は、1話完結の比較的短いのを投稿します。読んでくださると、うれしいです。
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水曜日。
お客の少ない日。
蒸し暑い曇りの日だった。

私は、水色のドレスを着ていた。
少しでも、涼しく見えるようにとのママの配慮かなと思った。
髪に水色の花。

その日は、9時の開店になっても、しばらくお客が来なかった。
その内、ぷらっと22、3歳くらいのお客が入って来た。
男女の区別がつかなかった。
ジーンズに白いだぶだぶのTシャツ。
中にもう1枚着ているようだった。

その人は、
「はじめまして、ママ、あたし圭(けい)。」と言って、
立ったまま、ママに握手の手を出した。
ママも手を出し握手をして、
「はじめまして。あたしは典子です。」と言った。

圭さんは、女性だ。あたしって言ったし、
体のラインが、ふくよかでやさしかった。
声は、ハスキーな少年のよう。

「ママ、あたし、オコゲ(女装の人を好きな女性)。
 ここに、すごい可愛い子がいるって聞いてきたの。」
「そう、じゃあ、あたしのことかしら。」とママが言ったら、
「あはははは。」と圭さんは、無邪気に笑った。

「なに?その笑いは。」とママ。
「ごめん、ママ。ママもすごい美人だけどさ、
 みんなが言ってたの、多分あっちの子。」と圭さんは、私を見た。
「ナナっていいます。どうぞよろしく。」と私は言った。
すると、圭さんは大きく反応して、
「ママ、何?この子。声まで、めちゃ、女の子じゃん。」と言った。
「12時までは、女の子ってことにしてあるから内緒よ。」とママが言った。
「OK。」とママに言い、「あたし、圭よ。あんた最高。」と圭さんは、わざわざ私のそばに来て、握手をして、また、ママのところへもどった。

「ママ、可愛いね、ナナ。」
「このお店の看板娘だから。」
「1日、デイトさせてくれない?」
「ダメ。あたしの宝物だから。」
「彼女、箱入りかあ。ウブそうだもんね。もう、たまんない。」
「絶対ダメよ。」
「ちぇ!じゃあ、ここに通うっきゃないか。」
「是非そうして。新しいお客様、大歓迎よ。」
「あたし、まともじゃないから。」
「あら、ここにまともな人なんて、今いないわよ。」
「今んとこ…、そうかあ。あはははは。」と圭さんは、笑う。

その笑い方は、屈託のない少年みたいで、私は好感をもった。

「ご注文は?」とやっとママが聞いた。
「カルピス。」
「あら、アルコールは召し上がらないの?」とママ。
「かっこ悪いんだけどさ。あたし、下戸なの。もう、一滴でもだめ。」

ママが作ろうとしたので、私が代わった。

「圭さんは、楽しい方ね。」とママ。
「あたし、他のお客さんくると、いっぺんで浮いちゃうの。
 で、お店に迷惑掛けるから、誰か来たらいつも帰ることにしてんの。
 けっこう、あたしって、健気でしょ。」

「そんな、平気よ。ずっと長くいらして。」とママが言った。
「そうですよ。長くいらしてください。」と私はなぜか言いたくなって言った。
「え?ナナちゃんまで、そう言ってくれるの?なんか、うれしいなあ。ちょっと泣ける…。」
冗談かと思ったら、圭さんの目が本当に潤んでいた。

ママは、知らん顔をして、
「圭さん。これ、柔らかスルメっていうの。
 イケるのよ。初回のサービスにしますから、食べてみて。」
「ほんと?」と言って、圭さんは、一つを口に入れた。
「わあ!ほんと、おいしい。これがあったら、カルピス何杯でもいけちゃう。」と言った。
ママは、少し笑ってた。なんだか可笑しい。


そのとき、2人ずれのお客がきた。江藤さんと小島さん。
お二人は、圭さんの隣に座った。
すると、圭さんは、とたんに黙ってしまい、小さくなってしまった。

ママは、ビールを出して、しばらくお二人と話していたが、やがて、
「こちら圭さん。今日、初めて来てくださったの。」と紹介した。
「あ、どうも、江藤です。」
「小島です。」とお二人は挨拶した。
「あたし、オコゲの圭です。」と圭さんは、小さい声で言って、握手の手を出した。

江藤さんが、
「オコゲって何?」と聞いた。圭さんは、小さい声で、
「あの、おこげってお釜の底にこびりついてますよね。
 だから、女装の人を好きな女のことを言います。」
「なあるほど。」とお二人は手を叩いて、うなずいた。

「圭さん。なんでわざわざ女装の人なの?」と小島さん。身を乗り出している。
「そうっすね。おなべの底よりましなんす。」と圭さん。
「ちょっと、圭さん。いろいろ聞かせてよ。俺達の間にお出でよ。」と小島さんが言った。
江藤さんが、圭さんと席を替わった。
それから、3人で、いろんな話がはずんでいった。
圭さんは、だんだんお店に来たときの声の大きさに戻って、楽しそうに話していた。

今日は水曜で、お客があまり来ない日なのに、
それから、3人お客が来て、奥に座った。
ほぼ満席だった。

みなさん、お酒が進み、圭さんはカルピスが進み、
圭さんを挟んでの3人のお話に、後から来た人たちが耳を傾けている。

「ねえ。おもしろそうだから、もっと大きな声で聞かせて。」
奥のお客さんが言った。
そのうち、圭さんは、みなさんの真ん中に座らされた。
こうして、6人のお客さんだけで、どんどん盛り上がって行った。
くすくす笑ったり、ゲラゲラ笑ったり。
たまに、圭さんの「あはははは。」という可愛い笑い声が聞けたり。

ビールと、水割りがどんどん出ていき、水曜日にしては、すごい売り上げになって行った。

お客さんだけで盛り上がってもらえる。
お店側としては、最高だ。

時間があっという間に過ぎていった。
11時を過ぎて、12時近くになっていた。

「あ、いけね。こんな時間だ。帰らなきゃ。」と圭さんが立ち上がった。
「え?もう帰るの?まだ、12時前だよ。」と誰か。
「乙女には、門限があるっす。」圭さんがそういうと、またみんなが笑った。

圭さんは、カルピス6杯分のお金を払った。

ママと私は、ドアのところまで、圭さんを見送った。
ドアの外で、ママが、
「圭さん。おかげさまで、今夜は、すごい売り上げだったわ。ありがとう。」
と言った。
「ほんとすか?」と圭さん。
「それで、これ、ほんのお礼なの。受取ってくださる。」
とママは、小さな四角い包みを渡した。
(ママは、こんなときのために、いつもお土産を用意している。)

圭さんは、それを受取ったとき、突然、うう…と泣き出し、腕を目に当てた。
「どうして?」とママはやさしく聞いた。
「あたし、こんなにお店で受け入れてもらったの初めてだから…。
 どこ行っても、嫌われてたから。うれしい…。」と圭さんは泣きながら言った。

「また、是非いらしてください。」とママは言った。
「圭さんのお話は、楽しいです。」と私も言った。
「はい。また来るっす。ありがとう。」
そう言って、圭さんは、何度もこちらを振り向きながら、走って行った。
私たちは、ずっと見送っていた。

「さあ、今日の売り上げ数えるの楽しみだわ。」とママが嬉々として言った。
「ああん、数えるまでいたい~。」と12時帰りの私は言った。

一度火がついたお客さんたちは、盛り上がり続けていて、
お店の中は、明るい笑い声がこだましていた。

リナ・最大の難題(新宿編 第二部8)

また、長いのを書いてしまいました。前後編に分けようと思いましたが、それにしては中途半端な長さなので、一挙に投稿することにしました。
重い課題なので、字が多くなりました。(すみません。)読んでくだされば、うれしいです。
あ、ハッピーエンドです。先にお知らせします。

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季節は七月に入った。
梅雨明け前の長雨の日だった。
日曜日。
午後になって、リナから電話があり、私に会いたいという。
リナの声は、沈んでいた。

高田馬場駅の近くの「白ゆり」という喫茶店で待ち合わせた。
そこは、何時間いても怒られない上に、プライバシーが保てる。
私は、ジーンズに黒いTシャツ。男の格好で傘を差して行った。
広い喫茶店の中を一回りして、リナを見つけた。

リナはクリーム色のワンピースを着て、
金色のネックレスをしていた。
髪がまた伸びて、よくブラッシングをされた髪を背中まで垂らしていた。
色白な肌にピンク色の唇。
前髪を真ん中から分けて、賢そうな額を覗かせていた。

また一段と綺麗になった。
私は思わず抱きしめたくなる気持ちを抑えていた。

リナはうつむき加減で、何かを悩んでいるようだった。

「純。あたし、好きな人ができちゃった。」
私の顔を見るなり、リナはそう言った。

「もちろん…、男の子だよね。」私は聞いた。
「うん。1年先輩。実習のとき知り合ったの。
 あたし、一目ぼれしちゃって、そしたら彼の方も同じで、
 それから、喫茶店なんかでいろいろお話して、
 好きだって気持ちがどんどん高まってしまった。
 もう、どうにもならなくなっちゃった…。」

「キスくらいしたの?」私は聞いた。
「うん。二人で夜道を歩いていたとき、突然抱きしめられて、キスされた。
 うれしくて、気絶しそうだった。」

リナくらいの可愛い子なら、こんなことが起こることは簡単に想像がつくことだった。
そして、リナの悩みは聞かずとも知れたことだった。

私は言葉を失くし、手を膝に置いたまま、うつむいてしまった。

「純。あたし、どうしよう。もう死んでしまいたい。」
リナはそういって、両手で顔を覆って泣き出してしまった。

私は、リナと会ってから、今までのことを振り返っていた。
私も泣きそうになって来る。

「リナ。これしかなかったよね。
 リナは、男の子としては、高校時代を過ごせなかったよね。」私は言った。
「あたし、編集長の所へ行ったとき、本当は、死ぬ気だったの。
 学校でいじめられてたし、家では父に竹刀で鍛えられてたし、地獄だった。
 でも、死ぬ前に一度でも女の子になりたくて、勇気だして編集長のところへ行った。
 そして、女装が出来たら、もう思い残すことがないと思ってた。

 でも、典子ママのところに、ナナがいた。
 ナナは綺麗で、優しくて、やっとあたしを分かってくれる人に会えたと思って感激した。
 ナナと話していて、ナナみたいに生きていけば、死なずにやって行けるかもしれないと思った。

 やがて、典子ママとナナが、私の家まで来て、父や家族を説得してくれた。
 それから、家で女の子でいられるようになった。
 学校で、どれだけいじめられても、家に帰れば女の子になれると思ったから、我慢できた。
 純やママがいなかったら、あたし、とっくに生きてなかった。」
リナはそう言って泣いた。

「そうだよね。大学へ女の子として通っていることも、後悔してないよね。」私は言った。
「してない。女の子として通えたから、大学が楽しかった。もう男には戻れない。」リナは言った。

「リナが、こんなに早く誰かを好きになるなんて思わなかった。」
「あたしも、思わなかった。誰かを好きになったら、どんなに困るかなんて考えなかった。
 でも、もう遅いの。好きになってしまったの。」リナは言った。

「彼に、リナの体のことを話すなんて、できないよね。」私は言った。
「絶対できない。絶対彼は離れていく。そしたらあたし、生きて行けない。」リナは言う。

「純。あたし、体も女になりたい。少しずつでもいいから、女になりたい。」とリナ。
「つまり、ホルモンを打って。最後は、典子ママみたいに?」
「はじめは、胸だけでもいい。本物が欲しい。そしたら、彼に胸までは、触らせてあげられる。」

リナのいじらしい言葉だった。

「ホルモン打つって、大変なことだよ。」と私は言った。
「少しは知ってるつもり。」
「お家の人、許してくれるかな。」
「許してくれっこない。」
「そうだよね。服や髪だけならまだしも、体をいじるのは絶対ダメだろうな…。」

「だから、困ってるの。家出も考えたけど、失うものが多すぎる。
 大学へ行かせてくれた両親にも感謝しているし、家族を愛している。
 そして、彼に会えなくなる。それに、あたしお金も何もない。」

私にとって、最大の難問だった。もちろん、リナにとってはもっと。

私は、リナはそのまま大学を卒業して、女性の姿で、女獣医さんとしてやっていけばいいと単純に考えていた。何歳になっても、リナは女性として通ると思っていたから。
恋愛のことまで、考えが及んでいなかった。こんな大事なことを。
なんていう悲劇だろう。私は、リナの運命を呪った。



「リナ。リナは一度死ぬ気でいたんだよね。
 だったら、死ぬ気で、彼に全部話したらどうかな。
 リナのことが、本気で好きなら、分かってくれるかも知れない。
 そこで、去って行く人なら、それは、人生を共に生きていく人じゃない。
 あきらめるしかないと思う。
 早い方がいい。時間が立てば立つほど、すべてを知ったとき彼は傷つく。」私は言った。

「彼が、離れていくことが、耐えられない。」とリナ。

「好きだと意思表示をしてくれないときなら、言う必要はないと思う。
 でも、キスをしてくれたんでしょう?
 それは、はっきりとした意思表示だから、そのときに言うべきだと思う。
 キスされたのは、何時?」
「3日前。」
「だったら、間に合うよ。3日くらいなら言えなくて迷うのは当然だもの。
 彼を欺いたことにならないよ。」
リナは、黙っていた。心の中で必死に闘っているのだと思った。

「もし、リナが完全な性転換手術ができたとしても、本物の女の子にはなれないよ。
 彼には、いつか話さなければならない。だったら、今しかないよ。
 彼が理解して、リナが性転換手術をするまで、応援をしてくれるかもしれない。
 リナを人間として愛しているなら、そうしてくれるよ。」

「あたし、怖い。彼が離れていくのが怖い。そのときの自分が怖い。
 純の言っていることは正しいと思う。でも、私の感情がついていかない。」リナは言った。

「彼が一時だけの人なのだったら、黙っていてもいいと思う。
 でも、彼も本気、リナも本気ならば、話すべきだと思う。」

リナは、ずっと考えていたが、やがてうなずいた。
「純の言う通りだと思う。あたし、彼に話す。」
リナはそう言った。
私はリナが可哀相で心が潰れそうだった。


前半 終わり

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※ここからは、後でリナから聞いたことです。それに、想像を加えて書きます。

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吉祥寺の、落ち着いた喫茶店の中で、リナとリナの彼・浩二さんは向かい合っていた。

リナはうつむいていた。
胸の中で必死に話す勇気を奮い立たせていた。

「浩二さん。あの、あたし、打ち明けることがあるの。」とリナ。
浩二さんは、黙っていた。
「あの、あの、あたしは、あたしは…、」
そう言ったリナは、目にいっぱい涙をためて、うつむいてしまった。

「待って!」と浩二さんは、リナの言葉を止めた。

「夏樹。俺は、夏樹が今どんな辛い思いでいるかがわかる。
 夏樹が言うには辛すぎることだから、俺が言う。
 夏樹、俺、知ってるよ。」と浩二さん。

「え?」とリナは顔を上げた。
「まさか、あたしの体のこと?」リナは言った。
「うん。先に言っておく。俺は、夏樹が好きだ。そのことに今も変わりはないよ。」

リナは、浩二さんを見つめた。

浩二さんは言った。
「1週間ほど前の実習のときだった。夏樹がバケツを持ちあげようとかがんだとき、
 夏樹の白衣の胸元から、胸の中が見えそうだった。
 俺、Hだから、チャンスと思って、夏樹の胸をのぞいてしまった。
 そのとき、夏樹に胸がなかった。
 片方だけだったら、何かの手術で切除ってこともあるかと思った。
 でも、夏樹には、左右の胸がなかった。
 服の上からは、ちゃんと胸があるのに。

 まさか、まさかって思った。
 だから、俺、夏樹の高校知っていたから、
 高校へ訪ねて行ったんだ。
 そして、夏樹の元担任だった先生にお会いして、聞いた。
 夏樹の性別。そして、夏樹の高校時代の様子。

 夏樹が、毎日どんな辛い思いで過ごして来たかも聞いた。
 先生は、夏樹に何もして上げられなかったって、泣いてた。
 だから、先生に言ったよ。
 夏樹は、今女の子として、大学で元気に過ごしていますって。
 先生喜んでた。

 俺は、そのときから、もちろん考えた。
 夏樹を失うことと、例え体は女の子でなくても今の夏樹といっしょにいられることと、
 自分にとって、どっちが幸せかって。
 答えはすぐに出た。俺は今の夏樹のままでいい、いっしょにいたい。

 この前、夏樹にキスしちゃったろう。体が震えるほどうれしかった。
 夏樹の体のことを知っていても、うれしかった。

 俺達は、まだ大学の1年生と2年生だ。まだ時間はたっぷりある。
 その間に、いろんなことを、二人で相談して、ゆっくり考えていこうよ。
 夏樹の苦しみを俺に半分背負わせてほしい。

 セックスとか、そういうのは、もう少し先に、ゆっくり相談しながら考えていけばいい。
 今は、がんばって勉強して、一人前の獣医になることを第一に考えよう。
 夏樹といっしょに獣医をやっていきたい。
 俺は、死ぬまで夏樹といっしょにいたい。
 俺は、夏樹が好きだ。この気持ちは、もう変えられない。」

それを聞いたリナは泣いた。さめざめと泣いた。
うれしさと、感激と、安心と、喜びと、たくさんの思いで泣いた。

「浩二さん、ありがとう。あたし、うれしい。
 死んじゃいたいくらい悩んだの。
 浩二さんから、そんな言葉を聞けるとは思っていなかった。
 浩二さんを信じてなかった。ごめんなさい。
 今、うれしくて、生きててよかったと思ってる。
 うれしくて、泣いてるの。涙がとまらない。」

浩二さんは、リナのそばに来て、リナを抱きしめた。
そして、二度目の口付けを交わした。


後編 終わり


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<終わりに>

浩二さんとリナは、無事に卒業して、獣医になりました。

リナは、胸だけに女性ホルモンを注射するという方法で、男性機能を損なうことなく、女性の胸を手に入れました。(そんな方法あるんですね。私は知りませんでした。)

二人は、法的な結婚はできませんでしたが、事実上夫婦と同じでした。

二人は、仙台に行って、家畜専門の獣医になりました。牛や馬です。(これは意外でした。都心で、犬や猫の獣医になるのだと、てっきり私は思っていましたから。)

リナは、30代になっても40代になっても綺麗でした。40歳を越えても、20代にしか見えませんでした。(浩二さん、いいなあ…。)

この度の震災で、二人は、ボランティア活動として、動物の治療に飛び回っているそうです。

自分達の子供は?とある日、リナは浩二さんに聞いたそうです。
浩二さんは、「動物たちは、みんなぼくらの子供みたいじゃないか。」と笑って答えたそうです。

リナは、年賀状を毎年くれます。それに、私は不精をして返事を書かないことがあります。(いけませんね。)

二人は、幸せです。それは、年賀状の写真の二人の顔を見れば、分かりました。

めでたし、めでたしです。

ママのサプライズ(新宿編第二部 7)

例の包丁事件から、3日後のよく晴れた日だった。
ママと私でカウンターの準備をしているとき、
「ごめんなさい。」といって緑のママが入って来た。
緑ママは、包丁の客のいたお店「緑」のママだ。

着流しで、髪は短髪、顔には化粧をしている。
身長は170cmを越す大柄な人だ。
体格もがっちりしている。

緑ママは手に何かを持っていた。
「ママ、ごめんなさい。
 その節は、ほんとにお世話になっちゃって、
 だのに、ちゃんとしたご挨拶にも来なくて、礼儀知らずと思われたでしょう?」

緑ママは、その仕草といい、「オネエタイプ」の人だ。

緑ママは、大きめのタッパウエアーに入ったものをママに見せながら、
「実は、お礼にこれ作ってたのよ。」
とタッパのふたをとって見せた。
「なんですかこれ?」って典子ママ。
私もそばに寄った。

「これ、大したものじゃないんだけど、うちのお店のヒット商品なの。
 ちょっと食べて見て?」と緑ママ。
ママと二人で食べて見た。
「わあ、ちょっと塩辛いけどおいしい。」と二人で言った。
「これ、『柔らかスルメ』ってうちじゃ呼んでるの。固いスルメだと噛み切れない方がいるじゃない。
 で、あたしが開発したのよ。評判いいの。これ塩辛いじゃない。だから、お酒がバカバカ売れて、売 り上げ倍増よ。これママにお礼として、進呈するわ。丸秘商品だけど、ここにレシピを書いといたの。
どうか、受取ってちょうだい。」と緑ママは言う。

「まあ、お店のこんな大事なもの、レシピ付きでいただけるの?」とママ。
「ナナちゃんに、あれだけのことしてもらったんだもの、このくらい当然よ。」と緑ママ。
「じゃあ、ありがたくちょうだいします。ママの発明をここで使ってもいいの?」とママ。
「そう思って持って来たんじゃない。ご自由よ。」と緑ママ。



緑ママは、言った。
「あたしね。あの時のナナちゃんがしてくれたことに、ほんと頭が下がってるの。
 あたし自衛隊上がりじゃない。たいていの武道やって来た。ナナちゃんは合気道だって見たの。」
「あ、はい。そうです。」と私は、答えた。

「あたしが感謝して感激してるのは、ここからよ。ママ、聞いて?」と緑ママは言い。
「合気道なら、相手を投げ飛ばすか、関節とって地面にねじ伏せかなのよ。
 ナナちゃんには、その方がよっぽど簡単だったはず。
 でもね。それやったら、あの巨漢のAさんだもの、プライド丸つぶれじゃない。
 可愛い女の子に、地面にねじ伏せられてる様考えてみて?耐えられないじゃない。
 だから、ナナちゃんは、Aさんを立たせたまま固めたの。もうそれは合気道じゃない。
 ナナちゃんが死にもの狂いでやってくれたことなの。
 そうしてくれたからこそ、
 私やBさんが話しができて、誤解を解くことができたわけじゃない。
 もし、Aさんのプライドが先に傷ついていたら、解決はなかったわ。
 ナナちゃんは、そこまで考えていてくれたのよ。
 もうほんと、あたし、ナナちゃんに女惚れしちゃったわ。ほんとに惚れ惚れ。
 もう、すっかりファンよ。」

「ナナ、そこまで、考えていたの?」ママに聞かれた。

「緑ママもママも、考えすぎですよ。夢中で何したのかも覚えてません。」と私。

「ほら、こうして謙虚じゃない。益々惚れちゃう。」緑ママは言った。

「あら、あたしったら、大事な準備の時間を。ごめんなさい。長話しちゃって。
 じゃあね。ナナちゃん、ありがと。」
緑ママは、私に投げキッスを1つくれて、去って行った。

「ナナ、ほんと?そこまで、考えてたの?」とママから、もう一度聞かれた。
私はお皿を拭きながら、
「なんとなくだけど、叫んでたママのお店のお客さんだと思ったから、投げちゃいけないと思ってました。」と言った。

「ナナったら…。」ママは、あきれたような、うれしそうな顔をした。

「でも、ナナの一番のお手柄は、これね。」とママはたタッパウエアーを持ち上げて、笑って言った。
「また、売り上げ倍増ですね。」と私も笑った。

*    *    *

その日、私には、ある一つの大仕事があった。
そのために、時計の針が12時を回るのを待っていた。

9時からの3時間がどれだけ長く思われたことだろうか。

緑ママ発案の、柔らかスルメは、大好評だった。
おつまみに出すと、
「お、これはいけるね。」とほとんどのお客様が言い、
水割りをたくさん飲んでくれた。

その度に、ママと私は顔を見合わせ、Good!のサインを出し合った。

11時を過ぎた頃から、常連のお客様が一人、二人、三人とやって来てくれて、
7つの席は満配になった。
みなさん、柔らかスルメがおいしいと言って、
どんどん飲んでくださった。

椅子が空いたことがなかった。

ママが、小声で、
「今日はどうしたのかしら。」と私に言った。
「スルメのおかげですよ。」と私は笑って言った。

12時まで、あと10分というとき、
ママが、
「ナナ、もう上がって。」と私に言った。
「あ、今日はもう少しいます。
 だって、こんなにお客様いらっしゃるし。」と私は言った。
「助かるわ。ありがとう。」とママが言った。

席が満杯なのに、またお客様が来た。
「まあ、Kさん。この通り、満席になってるんですよ。」とママがすまなそうに言った。
「あ、かまわないよ。俺、立って飲むから。」とKさんは言った。
それから、つぎつぎに常連さんが入ってきて、みなさん一同に、
「立って飲むからかまわないよ。」とおっしゃる。

ママが、驚いた顔をしている。
「ナナ、今日はどこかでお祭りでもあるのかしら?」
「多分そうですね。」と私は言った。

時計の針が12時を差そうというとき、
店の中は、15人以上のお客様がいた。

針が、12時を差した。

私は、隠していたクラッカーをパパーンと鳴らした。
すると、お客様が一声に、
「ハッピーバースデイ、典子ママ!」と叫んだ。
「え?まあ…。」と典子ママは、胸に手を当て、驚きの声を上げた。
「みまさん、じゃあ、そのために?」
「そうですよ。はい、プレゼント。」とHさん。

みなさんそれぞれプレゼントを渡していた。
私は、こっそり買ってあった、バースデーケーキを持って行った。

「オー!」と歓声が上がった。

ロウソクを立てて、「ハッピーバースデイ」の歌をみんなで歌った。

ママが、ロウソクを吹き消す。
ママは、幸せそうだった。

「一体、だれの仕業?」とママが言った。
常連のKさんが、
「ナナちゃんだよ。1週間くらい前から小さいカードに、『ママの誕生日の○月○日の12時に来られたら来てください』ってのを帰り際に渡されてね、みんなそれで来たんだよ。」と言った。

「それで、みまさまが。まあ、うれしい。あたしこんなの初めて…。
 自分の誕生日なんて、もう何年も忘れていたのに…。」
ママは、口に手を当てて涙ぐんでいた。
そして、私を見て、
「ナナ、ありがとう…。」
と私を抱きしめてくれた。

「じゃあ、今日は、立食パーティーになりますが、
 飲み物、食べ物すべて、只にいたします。」
とママが言った。

みなさんが、「おー、やったぜ!」と叫ぶ。

「ママ、今日はナナがカウンターをがんばります。
 ママは、あちらでどんどん飲んでください。」と私は言った。

「お言葉に甘えるわ。ナナ、ありがとう。」とママ。


ママの楽しそうな話し声、お客さん同士の賑やかな笑い声…。

ママの言葉を思い出した。
「どこかでお祭りでもあるのかしら?」

『ママ、お祭りは、ここですよ。』

私はうふっと笑って、腕まくりをした。

夢の国は赤い色(新宿編第二部 6)

ああ、これ。すぐに消される運命かなあ?いけないことは、何にも書いてないのに…。

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六月下旬、私は傘を差して、ママのマンションに向かっていた。
今日は、木曜日、お店の休みの日。
ママと二人だけで過ごせる一日。

私のママへの恋心は、日に日に募ってくる。
早くママに会いたい。そして、抱きしめたい。
その思いでいっぱいだった。

午前11時。
ママのマンションの呼び鈴を鳴らす。
ドアを開けてくれたママに、私は玄関を入るなり抱きしめた。
「ママ、好き。」そう言った。
「あたしもナナが好き。」ママはそう言って、私を抱きしめてくれた。



紅茶をご馳走になり、ドレスルームに入った。
ママが言う。
「あたし、今日可愛い格好したいの。ナナ、笑わないでくれる?」
「わあ、楽しみ。早く見たい。」私は言った。

ママはスリップ1枚になった。
そして、鏡に向かって、髪をウサギのように頭の両脇の高い所で束ねた。
髪の束の根元に赤いシュシュをつける。
メイクは、パッチリお目目のつけまつ毛。
そして、頬紅を濃くして、赤いリップを薄く塗った。

それから、ドレスへ。
それは、ノースリーブのショーツが見えそうな赤いミニのワンピース。
中にぺチコートが入っていて、スカート部が広がっている。
ママの真っ直ぐな脚に、白い太・股まであるストッキング。
赤いヒールの靴。

短いスカートから真っ直ぐに伸びたママの脚。
白くて細い腕。華奢な肩。
アニメに出てくる、可愛い少女のようだった。

私は見ているだけで、興奮してしまった。



「ナナも同じ格好をするの。」ママが言う。
「わあ、うれしい。」と私は言った。

ママと同じようなウサギの髪型。
私が来たのは、青いワンピース。
袖なしもママと同じ。
黒い靴。

すごくうれしかった。

「ママ、この衣装、お店で着たの?」と聞いた。
「昔ね。」とママ。

ママと二人で、ソファーに並んだ。

「ナナ、ハレ・ンチごっこにしない?」とママが言う。

「ハレ・ンチごっこ」とは、スカートの女の子が、ショ・ーツを履かずに過ごすこと。
これで、学校に行ったりする。何も履いてないというスリルを楽しむ遊び。
(永井豪の「ハレ・ンチ学園」が起源だと思う。)

「だめ、ママ。ナナもう興奮しちゃって、大きくなってる。」
「ペチコートがあるから平気よ。」
ママはそう言って、自分からショーツを取った。
「ああ、気持ちいい。」とママが言った。

私も、おずおずとショーツをとった。
あの部分が、上方向に向いてしまってる。
でも、ペチコートのおかげで、スカートの上からでは、なんとかわからない。

「恥かしいから、少し暗くするね。」
とママ言って、雨戸を閉め、カーテンを引いて、部屋の明かりを消したと同時に、
赤い照明を点けた。
もう最高のムード。

赤い照明の中で見るママは、20歳代にしか見えない。
私は、ローティーンに見えてるかもしれない。

「ナナ、私の特技を、笑わないで聞いてくれる?」とママは私の横で言った。
「なあに?笑わないわ。」と私。

「あたし、ナナお姉ちゃんのこと大好き。」
とアニメで聞くような幼い女の子の声が聞こえた。
私は思わず、あたりを見回したほどだ。
それは、ママの作り声だった。
ママは私を見て照れていた。
赤い照明の中で、ママがもっと幼く見えた。

「わあ、典子、かわいい。もっとしゃべって。」と私は言った。
「いいわ。お姉ちゃん。キ・スして。」とママ。

可愛い女の子の作り声は私もできる。
私は10歳くらいの女の子の声で言った。
「いいわ。典子は、いい子だから、キ・スしてあげる。」
「うれしい。」とママの可愛い声。

私はママの上にかぶさるようにして、キ・スをした。
(ママは、「ねこ」だ。)

何度もキ・スをした。
ママの吐息が少し荒くなってきた。

「あたしの体をたくさん・さわ・って。」とママ。
「いいわ。ここ?」
と言って、ママの太・ももに触れた。
「あ。」とママが言う。
私は、ママの太・もも、足、方々をさわった。

ハレンチごっこをやっていて、
もう少し奥まで、さわ・ろうと思えばさわ・れた。
でも、そこを避けて、お腹とか背中をさわ・った。
首、頬、腕、脇の下、ドレスで包まれている以外のところを、
みんな愛・撫した。
目も耳も頬も額も。
ママは、体全体の愛・撫に弱いから。

「ぬ・がせて。」と息を荒くしながら、ママが言う。
ママの声が大人の声に戻っていた。
私は、ドレスの背中ファスナーをおろして、
ママをスリ・ップ一枚にした。
ママは、ブラをしていなかった。

私は、ママの胸を愛・撫して、
その先端のママのいちばん感・じるところを、刺・激した。
「ああ…。」
とママが、声をもらした。
私はママの口・びるを奪いながら、
たっぷりと刺・激して、
最後にママのいちばん奥のところに指を伸ばした。
そこは、私が今まで一度も触ったことがないところ。
「典子、いい?」
ママは、うなずいた。

ゼリーのような潤いを感じた。
そこをやさしく愛・撫して、次第に速めていった。

ママが私にしが・みついてきた。
「ナナ、ナナ…。」とママはくり返す。
その口・びるを奪いながら、
私はまた、ママの体を撫でていく。
太・もも、体、肩、脇の下、乳・房、首、耳、あらゆるところを何度も何度も…。

やがて、「ああ…。」とかすかな叫び声を上げて、ママはエク・スタシーの中に溶けて行った。



私は、ショー・ツを履いた。
幸せそうに脱力して、ソファーに沈んでいるママを見た。
愛しさが込み上げてくる。
私は寝室にあったタオルケットを持ってきて、
壊れたお人形のように眠っているママに、そっと掛けた。

ママのかすかな寝息が聞こえる。

私は、ジュウタンに座り、ソファーに頭を預けて、
可愛くて、ステキだったママのことを思い出しながら、
いつの間にか、眠ってしまった。



「ナナ、ナナ。」
気がつくと、私の横で、ママが私を呼んでいる。

「ナナ、あたし2時間も夢の国にいたの。」とママが言う。
「え?もう2時間もたったの?」と私。
「ナナ、ありがとう。あたしが、めったに行けない夢の国。
 ナナが行かせてくれた。感激してるの。」
「ほんとう?」
「うん。今度はあたしが、ナナを行かせてあげる。」

ママは、そう言って、私に口・付けをした。
私のショ・ーツをそっとぬ・がせる。

痺れるような、電流が体を走る。


夢の国は、きっと赤い色。

「きゃ~!」とはまだ言えません(新宿編第二部 5)

今回は、私にとって少し悲しいことが前半。後半は、100%私の自慢話で、失礼します。

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6月も中旬になり、雨の日が多くなった。
でも、その日は、雲間から青空の見える晴れの日だった。

ママと私はお店の準備をしていた。
今日の私は、花柄の半袖のワンピースだった。
この頃、自分の髪の毛で店に出ている。
少しブラシを掛けると、とても自然な女の子へアーになったから。
その代わり、髪に、ドレスの色に合わせた花をつけたりしていた。

私はママに恋しているという気持ちが、だんだんはっきりしてきていた。
私は、女の子が好きだった。
完全整形を施したママは、女性と変わらなかった。
だからかなっと思っていた。



ふとみると、ママが、高い棚のものを取ろうとしている。
私はちょっとイタズラ心で、
ママの後ろから、すーと両手でお尻を撫でた。
「いや~ん。ナナったら何するの。」とママは言う。
「わあ、ママ、言葉がかわいい。」と私は言った。

私は、女言葉はぺらぺらに使えたが、
反射的な言葉で、「いや~ん。」とか「やだ。」とか「キャー!」とかの言葉がまだ使えなかった。
仕草の方はまし。両手で顔や鼻と口を覆うとか。両手を握りしめて、アゴに当てるとか。
両手を胸に当てるとか。ぶりっ子ポーズは、マスターしつつあった。
でも、言葉はどうしてもダメ。女としてのキャリアが足りない。
その点、ママの「いや~ん。」は女性を感じさせ、私の胸はキュンとなってしまうのだった。



お店が始まって、二人のサラリーマン風の人が入って来た。
ママが主に対応し、私が脇について、補佐をしていた。

しばらくして、小川さんが、女の子を連れて入って来た。
そして、奥の椅子に二人並んで座った。
私は二人の前に立って、おしぼりを渡した。
女の子は可愛いくて、女装の子だった。
私は少なからず、動揺した。
(あの小川さんが、2人づれで来るなんて。)
小川さんが、私のその表情を、意地悪くチラリと盗み見た気がした。

どうしてだろうと思った。
小川さんとの初めてのデートのとき、私は男性に恋愛感情を持てないことを打ち明けた。
新宿の西口公園で、キ・スをして、小川さんの手が私のス・カートに入って来たとき、
私は「恥かしい」と言って拒んだ。
あのときは、心が100%女性化していて、男の証に触られることが、耐えがたかったのだ。

でも、肉体関係を前提とした2度目のデイトがあったなら、
私は小川さんとのセ・ックスができたと思う。
恋愛感情を持てないにせよ、私は男性の強い力で抱かれることは、好きだ。
デートの終わり、小川さんは、今度は100%私を女の子にして見せると、
爽やかに、帰っていったはずだ。それなのに…。

「ナナさん。こちら、ユカさん。ナナさんと同じ女装の人。」
小川さんは、そうユカさんを紹介した。
ユカさんは、ちょっと立って私にお辞儀をした。
そのとき、前襟の隙間から、ユカさんの胸が見えた。
詰め物ではない、豊胸された胸。
「ナナと言います。よろしくお願いします。」と私はあいさつした。
「ナナさん、お綺麗ですね。」とユカさんは言った。ちょっとハスキーな、かろうじて女の子で通る声だった。
「いえ、ユカさんこそお綺麗です。」と私は言った。
その間、小川さんが、私の表情をずっと伺っている気がして、それがとても嫌だった。

私は小川さんを振った訳ではない。
男性に恋愛感情を持てないけれど、心の何パーセントかは、女の心があるから、その部分で男性を愛せると言った。小川さんは、そのパーセンテージを上げて見せると言って帰ったのだ。

もしかしたら、西口公園で私がキス以上のセックスを拒んだことが、小川さんのプライドを傷つけ、私への反感の情を秘かに募らせていたのだろうか。
お高く留まっている女装のホステスだと。

それなら、小川さんが、男性を素直に愛せる他の女装の人を好きになるのは、かまわない。
でも、その人をわざわざ私に見せに、このお店にやってくることはないだろうと思った。
あの爽やかだった小川さんはどこへ行ったのだ?
やさしく紳士的だった小川さんはどこへ行ったのだ?

私は、悲しかった。



私は、二人の前に立って、自分からは話しかけず、
ただ、飲み物のお代わりだけを聞いて、サーブしていた。
二人は、体を寄せていちゃいちゃしていた。
見ている方が、恥かしいくらいに。

男性に恋愛感情を持てなくても、私の心の3割くらいは女性だ。
その3割の部分が嫉妬しているのだろうか。
同じ女装者だということで、嫉妬しているのか。
胸のあるユカさんに嫉妬しているのか。

だが、そんなことを考えるのに、ややうんざりとしてきた。
もう、どうでもいい。そう思った。

やがて、二人は席を立ち、帰って行った。
「ナナ、塩巻いてやりなさい。」とママが言った。
ママは、分かってくれていた。
「ありがとう、ママ。でも、いい。ナナ、平気だから。」私はそう言った。

それから、30分ほどたったとき、
小川さんのことなど、吹き飛んでしまうような事が起きた。

*     *     *

「助けてー!だれか、止めてー!」という声が外でした。
どこかのママが叫んでいる。
私は、いの一番に飛んで行った。
店のドアを引いて、外へ出ると、巨漢の男性が、包丁を持って走って来ていて、
その包丁が私の眼前に迫って来ていた。
ここで、「きゃーっ!」と叫べば、女の子合格だ。
でも、私は叫ばなかった。合気道を8年もやって来た。

私は、その包丁をいなして、男の持っている包丁の手首をとって、
その手首を外側にひねった。
すると、男の上腕、前腕、手の3つがZの形になる。
Zの形になれば、手にはもう力が入らない。
素早く、包丁を払って、そのまま腕を後ろに運び、
もう片方の腕も取って、
がっちり羽交い絞めにした。
そして、しめている私の10本の指を組んで、立ち固めの体制に入った。

筋肉質の大きな人だ。
私は、ぶんぶんと振り回されそうだったけれど、
気を丹田(下腹部の中心)に集めて、両足を開いて耐えた。
全部、無意識にやったことだった。
この体制になるのに2秒とかかっていなかったと思う。

私は、男の「後ろ頭突き」が来ないように、頭を低くしていた。
必死で抑えた。

近所のお店のママもお客もみんな出てきて見ていた。

その内、ママが追い付いて来て、逃げていたサラリーマン風の人も戻って来た。

「Aさん(←巨漢の人)、Bさんはそんな意味で言ったんじゃないわよ。」とお店のママが言った。
「そうですよ。ぼくは、・・・・・という意味で言っただけですよ。」とBさんも言った。

二人の説明が、5分くらい続いたとき、巨漢のAさんの体の力が、ふっと抜けた。
私は、もういいと思って、立ち固めを解いた。

Aさんは、うなだれて、そのまま地面に座りこんだ。

「俺は、かぁーとなると、見境がなくなっちまう。
 このために、今まで何回過ちを犯してしまったか。
 女房にも子供にも、どれだけ辛い思いをさせたか。
 申し訳ねえ。この通りだ。」
そう言って、Aさんは、地面に手をついて、頭を下げた。」

「分かってくれれば、いいんですよ。もう手を上げてください。」
とBさんは言った。
「Aさん、そのかぁーとなるの。それが治ればいいわねえ。」とお店のママ。

Aさんは、素直な子供のように、うなずいた。



Aさんは、ふと気がついたように、
「ところで、俺を抑えてくれたのは、誰だ?」
Aさんは、周りを見回した。

「そこにいるナナちゃんよ。」とお店のママは言った。
Aさんは、私を見た。
「あんたか。こんな細い女の子が…。信じられねえ。俺は身動き一つできなかった。
 どうやったら、こんな俺を止められるんだ。」
私は、言った。
「火事場の馬鹿力だと思います。だって、包丁が目の前にやってきたんですもの。」
「俺は、包丁を持っていたのか?」とAさんは初めて気がついたようだった。
お店のママが、
「そうよ。このナナちゃんが、その包丁も取り上げてくれたのよ。見事だったわ。」
Aさんは、私を見て、
「ありがてえ。よく止めてくれた。俺は、また、過ちを犯すところだった。
 礼を言う。この通りだ。」
Aさんは、そう言って、また地面に手をついた。

お店のママとAさんBさんは、何度も頭を下げ、店にもどっていった。



みんなで、お店にもどった。
お客さん達は口々に、
「俺が出たときは、ナナちゃんは、もうがっちり抑えていた。」
「外へ出て行ったのも、ナナちゃんが真っ先だった。」
「ナナちゃんは、ほんと不思議少女だなあ。」
などと、言ってくれた。

ママが、
「ナナ、お願いだから、今度は逃げてね。ナナがこんなに命知らずだとは、思わなかった。」と言った。
私は、
「逃げましたとも。だって、私の顔面に包丁が来たんですよ。」
ママは、
「あんな怖い思いして、『キャー!』とも何とも言わないんだもの、
 まだまだ、女の子になってないわね。」と言った。
「キャー!、蜘蛛。いや~ん、怖い…。」と私は叫んだ。
「演技じゃだめよ。」

ママから、頭をポンとたたかれた。

新宿駅でのある一コマ

昨日は、私の少年時代の、長い長い記事を書いてしまい、読んでくださった方、ありがとうございました。私自身、ちょっと疲労してしまいまして、今日は、ほんのちょっとだけのを投稿します。ほとんどストーリーがありません。すみません。
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6月も終わりに近づいて、蒸し暑くなった。
私の詩を売るスタイルも変える必要があった。
下は黒のコットンパンツは同じ。
上は、Tシャツ。
しかし、このままでは、お尻の小ささで女の子に見えないので、
保育園の保母さんが着るような、
ワンピース型のエプロンを着るようにしていた。
ピンクの地に、赤いハートが模様がたくさんついたもの。
袖なしで、胸は丸く開いている。
背中の途中からファスナーがある。
これで、小さなヒップが隠れるので、ぱっと見女の子に見える。
靴は、スニーカー。
私のサイズは23.5cmだったので、女物を履いていた。

家を出るときは、エプロンを布バッグに入れておき、
新宿に着いたら、コインロッカーのあたりでエプロンを着る。

髪は肩すれすれ。
例の美容師さんに、男にも女にもなれる髪型にしてもらっていた。



4時ごろだった。
その日、ある高校生くらいの小柄な男の子が、
私を遠くから見ているようだった。
気にしないで、私は、金子光晴の詩を読んでいた。

やがて、その子は、少しずつ私のそばに寄って来て、
とうとう私に話しかけてきた。
「あのう。純さんですよね。」
その子はしゃがんで、小椅子に掛けている私を見上げる格好で言った。
「はい。純です。」
「ボクは、神崎透(とおる)っていいます。
 実は、純さんのファンなんです。」
「あ、それはうれしいです。たいしたの書いてないのに。」
(私は、本心を言ったつもり。)
「純さんの詩はよく分からないんだけど、童話がすごく好きです。」
「ありがとう。」私はにっこり笑った。

「ここにいたら、お客さんこないですね。
 横に行ってもいいですか。」
「ええ。どうぞ。」
透さんは、私の横に来て、壁にもたれ体育座りをした。
「ぼくは、純さんの童話が好きだけど、
 童話だけじゃなくって…。」
と、彼は口ごもってしまった。
「なあに?」と私は覗き込んで聞いた。
「あのう、ボクは、ここで童話を売っている純さんを好きになりました。」
彼はそういうと、赤くなって、うつむいてしまった。
「童話じゃなくて、私を…っていうこと?」と私は聞いた。
「はい。」透さんは、うつむいたまま返事をした。

透さんは、高2、私は、大3だけど、
一応、この頃は、17歳で通してた。
じゃあ、同い年だ。
ママとの設定だと、中学を出てから昼間は喫茶店でウエイトレスをしている。
夜は、ママのスナック。
正直に言おうか、ママとの設定にしようか。
でも、透さんとはそんな会えないだろうから、
ママとの設定で行くことにした。

「透さん。私はどうすればいいの?」と聞いてみた。
「どうすればって…。純さんにボクの気持ちを言いたかっただけ。
 それと、少しお話ができれば、それで満足…。」

私は座っていた小椅子を取って、透さんと同じようにして、そばに座った。
「あ、どうして?」と透さんは聞いた。
「この方が、目の高さが同じになって、話しやすいわ。」
「あ、ありがとう。」と透さんは言った。
「純さんの好きな童話とか、詩とか、何でも好きな人や作品を教えてくれる?
 ぼく、純さんの好きなもの、全部読んでみたいから。」
「いいわ。言っていい。」
「待って、メモ取るから。」透さんは、そう言って、大学ノートを出した。

「詩は、金子光晴。ほら、見て。いつもバッグに入れて持ってるの。
 詩や童話が売れないとき、読んでる。」
と、私は、薄い金子光晴の詩集を見せた。
「わあ、ちょっと意外。純さんは、サトウハチローとかまどみちおとか、工藤直子なんかの、優しい詩を読んでいるのかと思った。」
「今、透さんが言った人、みんな好きよ。」
「童話では、誰が好き。」
「アンデルセン。」
「どうして?」
「アンデルセンの童話は、幸福と不幸がどんどん変わっていくから。世の中ってそういうもんだと思う。」
「ほかになにかある?」
「唐十郎の劇が好き。」
「アングラ?」
「アングラの中の唐十郎だけが好き。他のは見ていないし。」
「ふうん。それも意外だなあ。」

「小説は?」と透さん。
「『罪と罰』。ドストエフスキーはみんな読んだ。」
「すごいね。」
「すごくない。トルストイは、全然読めなかった。」

「いつも、学校終わったら、ここに来るの?」
「私、学校行っていない。」
「え?高校生でしょ?」
「中学出て、働いてるの。昼は喫茶店でウエイトレスしてる。
 夜は、スナック。その間時間があるから、ここで詩や童話を売っているの。」
「ごめん。知らなかった。ボクと同じ高校生かと思ってた。」
「透さんと同い年。」
「17?」と透さん。
「うん。」

「純さんはえらいな。ぼくなんか、甘ちゃんもいいところだ。」
「そんなことないと思う。」
「純さんを見習って、ボクもがんばらなくちゃ。」
「何を?」
「勉強。せっかく勉強できる立場にあるんだから。」透さんは立ち上がって言った。



「ありがとう。純さん。純さんとお話してよかった。目が覚めた。ありがとう。」
透さんは、そう言って、何度も頭を下げて、行ってしまった。

ああ、また嘘ついちゃった。
ママが言う「商売上のウソ」か…。
いいのかな…?

透さんは、きっと何かに迷っていたんだと思う。
それが、すっきりしたみたいだ。
それだけでも、よかった。

私は、透さんの行ってしまった方向をしばらく眺めていた。

しゃべれるようになった純(少年時代編3 後編)

私の黙んまりは、次の日も続いていた。(私はこうと決めたことは、頑固だった。)

学校に行くと、私は、席に座って、黙っていた。

男子の数人が、すぐに気がついた。
純は、井口のお母さんから、ひどいこと言われたんだ、それで純は声を出さないんだ。
井口君が、真っ先に来た。
「純、ごめんよ。俺の母さんがあんなこといったからなんだな。
 俺、かあさんに代わってあやまるよ。純、ごめん。」
すると何人かが、
「井口は悪くねえよ。お前は、おかあさんに純のために怒って言ったんだろう。
 だから、井口が気にすることねえよ。」

私は、授業中いつもなら、ハイハイとうるさいほど手を上げていたが、
それを一切しなかった。
だれとも話をしなかった。
休み時間は、教室の中で、背中を真っ直ぐにして本を読んでいた。
私は、姿勢だけはよかった。
「担任の先生が、純をそっとしておくこと。」と言ったので、
みんなは、私をそっとしておいてくれた。

平さんが来て、「純。私は絶対純の味方だかね。早くしゃべってくれることを祈ってる。」
そう言ってくれた。うれしかった。

その日から、井口君のお母さんから、
毎日のように電話が掛かった。
「純君がしゃべらないようになったそうですが…。」と。そして、
「私、責任を感じて、辛くて、何も手につかないんです。
 息子の正雄は私に口を利いてくれないし。主人も冷たくて。」と言った。
母は、やさしい人だった。
「純がしゃべらないのは、今だけですよ。子供のことだから、すぐ立ち直ります。
 あまり、責任をお感じにならないでください。私の方こそ、辛くなります。」
そう言ったいた。



だんまりが続いて、三日目の夕食の団欒のときだった。
姉が、「そうだわ!」と手をたたいた。
「純は、男の子なのに、女の子みたいな声を出して叱られたことがショックだったのよね。
 だったら、純を女の子にするの。女の子なら、女の子のどんな声を出してもかまわないわけじゃない。」
母が、
「つまり、どういうこと?」と聞いた。姉は、
「純に女の子の服をきせて、髪型も女の子にして、女の子として学校へ通うの。
 そうしたら、だれにも後ろ指をさされないで女の子の声でしゃべれる。」

「なるほどなあ。」と父は腕組みして、「純、春子(←姉さん)の言ったことどうだ?」と聞いた。
ふつうの男の子なら、絶対イヤだというところである。
しかし、私は例外だった。
私は大きくうなずいて、イエスの意思表示をした。
(ほんとは、内心うれしかった。)



姉の昔の小さな服があった。
赤いワンピースだった。
実験をすることになった。
服を来て、姉が私の髪をとかし、髪の横から、7・3に分けた。
前髪が半分くらいになり、パラリとしている。
まだ私の髪はアゴ当たりだった。
姉は抑えたところを飾りについてピンで留め、すごく可愛いヘアスタイルにしてくれた。
姉は私の太目の眉に少しカミソリを当てた。

家族が、「おおー!」と叫んだ。
私はまるで女の子に見えた。
「かわいいわ。」とお母さんが拍手をした。
「純は、女の子に生まれてきてもよかったな。」と父が言った。

姉の服も少しあったが、
その日、母と姉とで私を洋装店に連れていき、
ワンピースを2着、キャミソール、ブラウス、スカート2着。
そして、女子の下着、上下セットのもを3つ。
女の子の下着だけでは、男の子の証が膨らむからと、
オーバーパンツ2着、それからブルマーとその上の体操着も買ってくれた。
そして、外用の靴。白と、黒の女の子の靴を買ってくれた。

私は、すごくうれしかった。
全部が、自分専用の服だと思うと、幸せでたまらなかった。

買って来たものを、家で母と姉とかが身に付けてくれた。

私は女の子に仕上がった。鏡をみたら、白いワンピースの一人の女の子が映っていた。
私は、感激した。そのとき、言葉が出た。

「おかあさん、おとうさん、おねえちゃん、おにいちゃん。みんな、ありがとう。」

私の喉に詰まっているものが取れたかのようだった。


「わあ、純がしゃべった!」と姉がいちばんに手をたたいて、喜んだ。
みんなで拍手をした。その中、母が目を潤ませていた。

父が言った。
「いいか。これから純は女の子だ。家の中ではもちろん。外でもだ。」
「わかった。」とみんなが言った。

不思議なことに、私から出てくる言葉は、すべて女言葉だった。
男言葉は、心理的に心の中でまだ封印されているようだった。

夕食のとき、私は、女言葉で、家族とぺらぺらしゃべった。
「あ、それ、あたしにちょうだい。」とか。
「それは、あたしが食べるわ。」とか。



次の日、朝少し早く、母と二人で、学校に行った。
姉の使い古した赤いランドセルをしょって行った。
そして、校長室へ行き、校長と担任の先生に、女の子の姿で学校に通わせたいとの意向を伝えた。
そして、担任の先生には、男言葉がまだ出ずに女言葉しか出ないことを伝えた。

みんなが待っている教室に、担任の先生と母と3人で言った。
みんながちゃんと席に座っているところへ、
担任の先生は、私を連れて入って行った。

すると、ウオー!という歓声が上がった。
「純、可愛い。」
「女の子だ…。で、可愛い…。」
などという声が飛び交った。

先生は、私が何で女の子の格好でいるのか、そのいきさつを簡単に説明し、
「これからは、当分の間、純のことを女の子と考えて接してください。
 心の働きで、純は今、男の子の言葉が出ません。
 女の子の言葉しか出ないのです。そこを分かってあげて、純の女言葉を、
 からかったりしては、いけません。いいですか?」と言った。

「先生、心配いらないよ。純のその格好で、『ぼく』なんて言われたら、ずっこけちゃうよ。」
と誰かが言った。
みんなは、そう、そうなどと言いながら、にこにこしていた。

「じゃあ、純、何か言う?」と先生に言われた。
「あのう、いろいろ心配かけちゃって、ごめんなさい。
 みんなが、かけてくれた言葉、すごくうれしかった。
 あたしは、女の子の格好をすることで、しゃべれるようになりました。
 もうだいじょうぶです。みんな、ありがとう。」

みんなが、すごい拍手をしてくれた。

母は、それを聞き、安心して帰って行ったようだった。



その日、私はみんなからちやほやしてもらった。
誰が純と遊ぶかで、いろいろもめたりして、
ジャンケンで決められて、私はいろんなグループへ行った。

男の子の遊びでは、私は見ているだけでいいそうだった。
そして、「すごい!」とか「かっこいい!」なんて言っていれば、
それだけで、みんなは盛り上がるのだそうだった。

女の子のグループで遊ぶのは楽しかった。
石けりとか、鉄棒とか、だるまさんがころんだよ、とか。

平さんの3人グループへ行ったとき、
平さんは、私を抱きしめてくれた。
「すごく心配したけど、純は、女の子になって、帰って来た。
 あたし、うれしくて、泣いちゃった。」
「ありがとう。4年生のとき、えつ子と女の子になって遊んだから、あたし、女の子になれたんだと思う。」
そう言った。



その日の夜、井口家の3人が訪ねてきた。
父は、3人を応接間に通して、母と二人で、向き会った。
井口君のお父さんが、切り出した。

「今日、純さんがしゃべれるようになったと息子から聞き、
 家族で大喜びをしました。
 ところがそれは、純さんが女の子の格好をして始めて話せたのだと聞きました。
 男の子の言葉は、使おうにも使えない。心の中にまだ閉じこもったままだと、
 私たちは思いました。それほどまでのことを私達はしたのだと、罪の大きさを思いました。
 男の子にとって女の子の格好をするのは、どれほどの屈辱であるか、我が子に照らして考えました。
 加納さんご一家が今どんなご胸中でいらっしゃるかと思い、今日また頭を下げに参った次第です。」
井口君のお父さんは、そう言った。

すると、父は、にこりとして、
「井口さん。ご丁寧なお言葉痛み入ります。しかし、どうぞ、顔をお上げください。」
父は、そう言って、私を呼んだ。
私は父のそばへ行った。
「井口さんは、初対面かと思います。これが純です。」
井口君のお父さんは目を見張った。
「こちらが、純さんなのですか?女のお子さんにしかみえませんが…。」
「物事は、人によりけりとは上手く言ったものです。
 純は、女の子の格好をすることを、少しも嫌がっておりません。
 けっこう、似合いますでしょう。本人は、気に入っているようなんですよ。
 純にとって女装は、屈辱でもなんでもないんですよ。

 純。今日学校は楽しかったかい。」と父に聞かれた。
「ええ。すごく楽しかった。」と私は答えた。
「純は、今日すごい人気で、みんなのひっぱりだこだったよ。」と正雄君は言った。

「ですから、井口さん。もう何もご心配になることはありません。
 純も、あと2,3ヶ月したら、女装に気が済んで、男の子の言葉を使うようになるでしょう。

それに、奥様は、毎日のように、純の様子を聞きにお電話をくださった。
ここ数日のお苦しみは、さぞ大きなものだったことでしょう。もうそれで十分です。

それに、ご子息の正雄君。すばらしい正義感の持ち主でいらっしゃる。
お母さんにくってかかるその言葉を、私は惚れ惚れと聞いていました。

ですから、すべては解決したと、どうかお考えください。」父は言葉は終えた。

井口君のおかあさんが、ソファーから降りて、膝立ちになって、私を呼んだ。
私が近づいて行くと、井口君のお母さんは、私を抱きしめた。

「純さん。ごめんなさい。おばさんが言ってしまったひどい言葉があなたをどれだけ傷つけてしまったか、やっとわかったの。それに、おばさんは、正直じゃなかった。許してもらえるとは思っていないけど、あやまりたいの。ごめんなさい。おばさんが、わるかったの。ごめんなさい…。」
井口君のお母さんは、涙声になっていた。

私は、自分も膝立ちになって、井口君のお母さんを見つめた。
「おばさん。あたしは、おばさんのこと、怒ってなんかいない。
 あたしの声が、おばさんの頭を変にして、気が狂いそうにした。そのことが、すごく
 ショックだったの。人に、すごい迷惑をかけてしまったって、つらかった。
 だからもう、あたしの声で気が狂いそうになる人、見たくないから、口が利けなくなった。
 男なのに女の声のあたしがいけないんだと思った。だから、声が出なくなった。
 でも、あたし今女の子だから、女の声出してもいいでしょう?
 おばさんが、出してもいいよって、そう言ってくれたら、うれしい。」私はそう言った。

井口君のお母さんは、目に一杯涙を浮かべて、私の言葉を聞いていた。そして、私をもう一度抱きしめた。
「いいわよ。男の子のときだって、女の子の声出していいの。おばさんが、人の心を考えなかったの。
ひどいことしたのは、おばさんなのに、あなたは、誰のせいにもしないで、みんな自分が悪かったって、自分を責めてる…。あなたのようないい子に、あんなひどいことを言ってしまったなんて、私ったら…私ったら…。」

井口君のおかあさんは、私を離し、両手で顔を覆い、うつむいて声に出して泣いた。

井口君もお父さんも泣いているようだった。
私の母も泣いていた。父も涙ぐんでいた。

父が言った。
「さあ、井口さん。これで終わりにしませんか。
2度も、ご家族で訪問してくださった、井口さんの誠意は十分いただきました。」

「救われます。」と井口君のお父さんは頭を下げ、
持って来た菓子箱を差し出した。
「前回は受取っていただけませんでしたが、また持ってまいりました。」
「今日はありがたくちょうだいいたします。」父はにっこり笑って頭を下げた。

帰っていかれる3人は、前よりも晴れやかにみえた。
お父さんが、お母さんの肩に手をかけ、何かを言っているようだった。

よかったな…と思いながら、父と母と私の3人で、見送った。


街頭の灯りがいつのまにか、点っていた。



後編 完

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<その後のことやらなになら>

・私の女の子の格好は、9月中ごろまで続きました。あるとき、自然に自分を「ぼく」と呼び始めまし た。

・夏の期間、プールもあったのですが、女子の水着を着させてもらいました。
 前がふくらむとはずかしいので、特別な方法を取りました。(ぴっちりした女子用のサポーターで、 股間にアレを回して留めました。)

・トイレですが、40年前の学校です。驚くことに男女の別がなかったんです。(ホントです。)

・放課後、私は週に4日、兄といっしょに近くの合気道場に通っていました。(クラスのみんなに内  緒で塾にいくと言っていた。)その空いた日は、みんなのジャンケンで決められたところへいきまし た。(本人の意志、無視ですよね。)

<余談>

ある日、柔道着を持って、2歳上の兄と合気道場へ行く途中、兄に聞いてみた。
「あたしみたいに女みたいな変な弟がいて、恥かしくない?」
「何言ってんだ。小学校のとき、お前のことクラスのほとんど奴ら、妹だと思ってたぜ。
 可愛いから紹介しろなんていう奴もいた。」
「で、お兄ちゃんは、なんて答えたの?」
「アイツには、好きな男がいるからあきらめろってね。」
「あははは。」
「ところで、今日はTシャツ着てきたか。」
「ちゃんと着てきたわよ。女の子は道着の下にTシャツです!」
「よし。じゃあ、今夜もがんばるか。」
「うん!」

しゃべれなくなった純(少年時代編3 前編)

すっかり小学生時代の純に愛着がわいてしまい、もう1話だけ書きます。(すいません。)

これは、純の6年生のとき。前編は悲しいお話です。女装は後編で出てきます。

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6年生になって、6月頃。
その頃、クラスで男女合わせて一番勉強の出来た、井口正雄という子がいた。

その日、井口君の誕生日ということで、
6,7人の男子が招待された。
井口君の家は、高級なマンションにあって、
4部屋くらいありそうだった。

私たち男子は、誕生会に招かれた事に、ややハイになっていて、
井口君の家の応接間の、ふかふかのクッションを投げ合ってはふざけていた。
私もその中にあって、完全にハイになっていた。

変声期前の少年少女でも、
男女の声の差はある。
私の声は、この時期も女の子声だった。

そんな声ではしゃいでいたので、
私の声のトーンが上がってしまっていたのだと思う。

このとき、私にとっても悲しいできごとが起きた。

井口君のお母さんが、顔色を変えてやって来た。
「この中で、女の子みたいな声出してるの誰?」

「ぼくです。」と私は自分だと思って名乗りでた。

井口君のお母さんは言った。

「あなたの女の子みたいな甘ったれた声を聞いてると、おばさん、もうたまらないの。
 あなた男の子しょう?だったら、BちゃんやCちゃんみたいな声で話たらどうなの?
 あなたの声聞いてると、おばさん、頭がおかしくなってくる。気が狂いそうよ。」

そう私に言葉を浴びせて、台所に行ってしまった。

みんな、しーんとしていた。

私には、脳天からカミナリを落とされたようなショックだった。

(ぼくの声を聞いて、頭がおかしくなって、気が狂いそうだと言われた…。)

今まで高揚していた気分は、ペッシャンコになった。

私が母から、いつも一番に言われていることがある。
それは、『人に迷惑をかけないこと。』

(ぼくは、ひどい迷惑をかけた。)

私はいたたまれない気持ちで、井口君の下駄箱に行き、
靴を履いて、家へ歩いて言った。

後から聞いた話では、その後、みんなも、
「俺、純がかわいそう。今日もう楽しめない。」
そう言って、一人ずついなくなり、みんな帰ってしまったそうだ。

だれもいなくなり、おかあさんがあわてたとき、
井口君は、火のように怒っていて、泣きながら言ったそうだ。

「おかあさん。ひどいじゃないか。あれが、純の声なんだよ。
 それをどうやったら、男らしい声を出せるんだよ。
 だったら、お母さん、今すぐ、お父さんみたいな声出してみろよ。
 無理だろうが。それを、純の声を聞くと、気が狂うなんて、
 ひどずぎるよ。みんなが帰っちゃうのあたりまえだ!」



私は、あふれ出てくる涙を何度もこすりながら、家に向かっていた。
もう、しゃべるまいと思った。
声に出さなければ、気か狂うなんてひどいことを、言われることもない。

家に帰るなり、私は、自分の机に向かって、貝のように口を閉ざしていた。
母に何を言われてもだまっていた。
食事を食べるときも、だまっていた。

夜になり、仲良しだった、矢野君が来て、
井口君の家での出来事をみんな母と父に話してくれた。

話を聞いた母は、私のところに来て、
私の頭を抱いてくれた。
「しゃべれば、誰かの気が狂うから、人に迷惑かけちゃうと思っているのね。かわいそうに。」
そう言って、母は、涙を流して私の頭に頬を置いた。
それでも、私は一言も声を出さなかった。
あのときの井口くんのおばさんの声や顔が目に浮かんで、もう声を出せなくなっていた。
それほどに、ショックなことだった。



その日、夜の9時ごろ、井口君と両親が、菓子箱を持って訪問して来た。
お母さんは、重々謝った後、言った。
「私は、男の子の中の誰かが、女の子の甲高い声を真似して、ふざけていると思ったのです。
 だから、それを止めさせようと思い、あんなことを言ってしまいました。」
すると、井口君が猛烈に怒って、
「おかあさん、ひきょうだぞ。そんな言い方しなかった。純を前にして、『あなたの声は…。』って言ったじゃないか。これは、来てたみんなが覚えてるぞ。ごまかそうなんて、最低だ!」と言った。
お父さんから、
「おまえ、俺にもごまかしたのか。なんてことだ。」と言われ、おかあさんは泣き崩れてしまった。

やがて、私の父が言った。
「今、家の純は、一言もしゃべらない状態にあります。私たち家族にもです。
 よほど、あの子にとって大きなショックだったのでしょう。
 井口さんのお母様が、正確にどうおっしゃったかなどは、
 今の我家には、どうでもいいことなのです。

 結果論だけで申します。
 お母様の言葉が、家の純の心を、傷つけた。
 結果、息子は、口を利かなくなった。それだけです。」

「では、私は何をすればいいのでしょう?」と井口君のお母さんが言った。

「何もありませんよ。自分を傷つけた人に治してもらおうとしますか?
 何かするのは、親である私たちです。
 悪いとするなら、女の子の声をもった男の子を産んだ、妻と私でしょう。
 純に罪はありません。純におっしゃった言葉は、私達に言って欲しかったです。」父は言った。

出された菓子箱を、父は拒否した。
井口家の三人は、肩を落とすように帰って行った。

「ちょっと、お気の毒だわ。」と母が言った。
「井口家の問題は井口家がやればいい。我家は、可愛い純の問題だ。」父はそう言った。


つづく。

平えつ子さんの思い出(番外少年の頃編)

なんだか、昨日子供の頃のことを書いたら、また今日も書きたくなってしまいました。

私にとって、忘れられない思い出です。(今日は、写真がありません。)

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小学3年生から4年生になるとき、
クラス替えがあった。
クラスで、席が決まって、私は1班。
一番廊下側の列の前から2番目だった。
みんなもそうだったが、私も班のメンバーの品定めをした。
私の前は、平江津子という子で、
着ている物のセンスがよくて、
色が白くて、いちばん美人でステキだと私は思った。

ところが、昼休みになると、
平さんと同じクラスだった男子数名が、
「こいつ、前はみんなからいじめられてたんだぜ。」
「こいつの言うことみんなウソだからな。」
と平さんの悪口を言っていった。
平さんは、泣いてしまった。
でも、すぐ泣き止んで、明るくふるまっていた。

社会の時間、班での作業となった。
そのとき、みんな自己紹介のようなものを始めた。
A子さんは、お父さんが社長だという。
そして、ピアノを習っているという。
すると、平さんも同じことを言った。
お父さんが社長でピアノを習っている。

平さんはお金持ち。
そして、美人。

クラスのマドンナになる要素を2つも持っている平らさんが、
どうしていじめられたりしたのか、私には分からなかった。

でも、やがてその原因の一つが分かった。
算数の時間、平さんは、すごく簡単な計算ができなかった。
国語の音読も、漢字がまるで読めなかった。

そうか。マドンナの要素、勉強ができること、
それを満たしていないんだなと思った。

そのうち、もう一つの原因が分かった。
平さんのお父さんが社長というのも、
ピアノを習っているというのも、
ウソだといううわさが流れた。
平さんは、そのときも泣いた。
でも、すぐ泣き止んで、明るくふるまっていた。



私は、班の中で、となりの女の子と仲よくなり、
二人でしょっちゅう盛り上がっていた。
すると、平さんが後ろを向いて、
私たちの話に入ってくる。
授業中もしょっちゅう後ろを向いて、
話しかけてくる。

担任の先生によく注意されていた。
先生は女の先生だった。

あるとき、平さんの後ろへの振り向きがあまりにも多いので、
先生が、厳しく注意をした。
そのときある男子が、
「先生、平は、純のことが好きなんだよ。だから、後ろ向くんだ。」
と言った。
すると、クラス中の男子が、「そうだ、そうだ…。」とはやし立てた。

先生はそれを制して、
「平さん。これ以上授業中に後ろを向くと、席を替えますよ。」と言った。
「いえ~い。平、せーきがえ!」などの声が起こり、
平さんは、また泣いてしまった。



そんな日の放課後。
平さんは、私のところへ来て、
「加納くん。(←私。)今日私の家に来て、一緒に遊んでくれない?」と言った。
「いいよ。」と私は応えた。
平さんは、「ほんと!」と驚いた顔をして、うれしそうだった。

ランドセルを家に置いて、平さんと約束したところへ行った。
平さんは、ランドセルをしょったまま待っていた。
平さんは、越境通学をしていて、家はすごく遠かった。
近くに誰もクラスの人がいないので、一人で遊ぶしかないとのことだった。

歩きながら、平さんは、
「どうして、『いいよ。』って言ってくれたの?」聞く。
「だって、さそってくれたじゃない。」私は言った。
「そうっか。さそったから、まっすぐに『いいよ。』って言ってくれたんだ…。」
平さんは、そんなことを言った。

やがて、平さんの家に着いた。中に案内された。
そこは、2DKのアパートだった。

「加納くん。ごめんね。お父さんが社長なんて、ウソ。
 私、お父さんいない。
 ピアノもウソ。家にピアノなんてない。
 お母さんは、美容師。ウソついてごめんなさい。」
平さんは、そう言った。

「そうだったんだ。」と私は言った。
「怒らないの?」と平さんが言う。
「腹が立たないもん。怒らない。」と私。
平さんは、私を見つめていた。
「加納くんは、他の男の子たちと違うね。」と平さん。
「わかんない。」と私は言った。



平さんは、一人っ子で、6畳の洋間をもらっていた。
はじめ私たちはトランプなんかで遊んでいたが、
やがて、平さんが言う。
「加納くん。女の子の格好したら、ぜったい似合うと思うんだけど。」
私はドキッとしてしまった。それは、私の念願だったから。
「これ着てみて。」
と、平さんは、自分の箪笥から、可愛いピンクの半袖のワンピースを出してきた。
私は胸がドキドキしてしまった。

上半身、ランニングシャツ1つになって、ワンピースを着た。

「ズボンを脱ぐの恥かしい。」私がそう言うと、
「じゃあ、ズボン脱いで、パンツの上からこれ履いて。」
と、平さんは、体育のブルマーをくれた。
(ああ、それ、もっとドキドキする。)
と思いながら、私はズボンをぬいで、ブルマーを履いた。

「加納くん。髪の毛から耳を出してみて?」
(私は知っていた。耳を出すと私は女の子に見えてしまうことを。)
でも、いう通りにした。

「わあ~。」と平さんは、すごく喜んだ。
「可愛い。加納くん。女の子にしか見えない。」
私も鏡を見た。目を塞ぎたくなるような女の子ぶりだった。

平さんは、ヘアピンで、私の耳の後ろを両側留めてくれた。

「わあ、可愛い。」そう言って、平さんは、私に抱きついて、何度も飛び上がった。

「加納くんのこと『純子』って呼んでいい?あたし、女の子の友達ほしかったから。」
「うん。いい。」
「私のことは、えつ子って呼んで?」
「いいよ。」



それから私たちは、外で「ゴム段」をした。
電信柱にゴムの端を巻いて、一人が持つ。
ゴム段のとき、女子はスカートが邪魔なので、ショーツの中に裾を巻きこむ。
平さんがそうするので、私もそうした。
なんか、すごく女の子になった気分でうれしかった。

それから、私たちは、「純子」「えつ子」と呼び合いながら、
部屋の中で、チェーン・リングをしたり、折り紙をして遊んだ。

遊んでいるとき、心の中が、すっかり女の子になってしまい、
うっかり女言葉が出そうになってしまった。
「やだぁ。」とか「や~ん、悲しい。」とか「あたし」とか。



夕方まであそび、服を着替えて、さよならをした。
「明日、また遊んでくれる?」と平さんは言う。
「いいよ。」と私は言って、
こうして、私たちは、毎日のように遊んでいた。



ある日の放課後、男子の数人が私のところへ来て、
「純。今日みんなで、駄菓子屋へ行こう。」と言った。
「ごめん。約束があるからダメ。」
「誰と?」
「平さんと昨日約束した。」
少し離れたところに、平さんがいた。
「平との約束なんて、どうでもいいだろう。」とB君は言う。
「よくない。先に約束した。」と私。
「けっ。信じらんねえ。女と遊んで楽しいのかよ。」
「そういうことじゃない。先に約束したから守るだけだよ。」と私は言った。

男子たちは、何か捨て台詞を残して、去っていった。



その日、平さんの部屋で、女の子2人(一人は私)、壁にもたれて、
膝を抱えて座っていた。

「純子。どうして私との約束を守ってくれたの?」
「だって、昨日からの約束じゃない。」
「男子から、嫌がらせされるかも知れないよ。」
「そのときは、えつ子を見習う。」
「どういうこと?」
「えつ子は、泣かされても、すぐ元気になって明るくしてた。
 ぼくは、いつも、えつ子のそういうところ、えらいなって思ってた。
 だから、えつ子を見習う。」
私の言葉を聞いた平さんは、目にいっぱい涙を溜めていた。
やがて、私の胸に顔をうずめて泣きはじめた。

「あたし…、そんなふうに言われたことなかった。
 えらい…なんて言われたことなかった。
 そんなふうに思ってくれた人は、純がはじめて。
 いじめられっ子の私が誘ったら、人気者の純は『いいよ。』ってすぐ言ってくれた。
 私のついたウソを、純は、全然おこらなかった。
 純は、いい人過ぎるよ。あたしのことなんてどうでもいいのに…。」平さんはそう言った。

「えつ子は、スタイルがよくて、美人だから、そのうち絶対人気出るよ。」
私は、そっとえつ子を抱いた。



その日、平さんは、明日の約束をしなかった。

次の日、私は男子の嫌がらせを覚悟していたけれど、
それは、なかった。
私が、「今日は、行く。」と言ったら、「おお、そうか。」と言ってみんなが「よし!」って言っていて、私は、拍子抜けしてしまった。



平さんは、その後、女の子2人と仲よしになり、3人でいつも楽しく過ごすようになった。



2年後、卒業式の日。
式が終わって、私が、学校の裏門を出ようとすると、平さんが駆けつけて来た。

「純。ありがとう。私は、3年間、ずっと純が好きだった。」
「それ、告白?」と私は聞いた。
「ずばり、告白。」と平さんはにっこりして、私の頬にキスをしてくれた。



それから、8年後。
平さんは、ファッション雑誌「anan」のファッションモデルになった。

昔の級友が、「anan」に出ているすばらしく綺麗になった平さんを見て、悔しがって言った。
「ちくしょー!こんなことなら、あいつのこと、いじめるんじゃなかった。」
その横で、私は、
「あはは。」と笑った。

レズビアン・クラブへ入る(新宿編第二部3 1話完結)

土曜日。
朝4時までの仕事を覚悟しなくてはならない。

ママと私は開店前の準備をしていた。

「ねえ、ママ。ママはレズビアンなんでしょう。」
「そうよ。」
「レズビアンでも、いろんなタイプがあるでしょう。」
「どういうこと?」
「ほら、男装の麗人がいい人とか、可愛い女の子がいいとか。ママは、どっち?」
「あたしは、可愛い女の子がいい。」
「それで、『リード役(たち)』とか『受身役(ねこ)』とかあるでしょう。
 ママは、どっち。」
「どっちに見える?」とママ。
「『たち』。」
「残念、あたし『ねこ』よ。」
「へーえ、そうなんだ。」と私。
「ナナは、女装の子が相手だと、『たち』でしょう。」
「ほんとうは、『ねこ』だと思う。」
「そうなの?」
「多分。リードされるのが好き。」
「リナをリードしたでしょう。」
「それは、私の方が経験があると思ったから。」
「ふーん。ナナは、『ねこ』なんだ…。」



その日は、12時までが、すごく忙しかった。
お店は、12時まではチャージが付かないという良心的なところだったからか、
12時までが、特に混んでいた。

12時を過ぎると、ぱらぱらとしかお客が来なかった。
そして、2時を過ぎると、ぱったりとお客が来なくなった。

ママが、
「ナナ、お客来ないから、店じまいして、レズビアン・クラブへ行ってみる?」
と言う。
なんか、そんなところでは、気後れしてしまいそうだったが、
「何でもみてやろう。」という言葉が、頭に浮かんだ。
「行きます。どんなところか、見てみたいです。」

店を2時半に畳んだ。
私は、お店の服装のまま、バッグを持って、ママに付いて行った。
なんだか、心臓がドキドキする。

そこは、伊勢丹百貨店の裏の2丁目に近いところだった。
くすんだビルの2階。
ビルに小さな看板が出ているだけで、ドアは何も看板のない暗いところだった。

ママは言った。
「中には、ウエイターやホステスがいるけど、全員女なの。
バーテンダーもね。」

ママがドアを開けてくぐる。
私は心臓をときめかせて付いて行った。

「いらっしゃいませ。」
と何人かに言われた。その声のトーンが、高い。
マネージャーみたいな黒服の人が来て、ママと何か打ち合わせをしている。
この人も女性なのだろうか。
どう見ても男性にか思えなかった。

私達は、4人掛けのボックスに案内された。
ホステスさんが入れるように、ママと私は対面のソファーに座った。

やがて、私と同じような商売用のドレスを着たホステスさんが2人来た。
二人ともすごく可愛い。

二人は、ママと私にそれぞれついて、
テーブルを挟んで座った。

「あら、ママ、こちら可愛いわ。ほんとに女装の方?」と私に付いているA子さんが言った。
「そうよ。私のお店の看板娘。」とママは言った。
「お名前聞いてもいいかしら?あたしは、ユキって言います。」とA子さんに聞かれた。
「ナナです。」と私。
「あら、声も可愛いわ。」とユキがさん。
対面のホステスさんは、サヤと言った。

私は、お店の中をぐるりと見た。
何人かいるウエイターは、みんな黒服で、蝶ネクタイをしめている。
中には、とても女性とは思えない人もいた。

ユキさんが、私の耳元で、
「ね、あの人なんか、絶対に女性に見えないでしょ。」と言った。
「あれで、乳・房に何も巻いたりしてないのよ。
 それでも、男に見せるっていうのが、彼らのプライドなの。」
「どうして?」と私は聞いた。
「うーん。わかんないわ。」



お料理が来て、ビールがきた。
ユキさんは、私に至れり尽くせりのサービスをしてくれる。
ママは、となりのサヤさんと話が弾んでいる。

「ナナさん。あたしは、女装の男の子が好きなの。
 ママに付いてるサヤは、女の人が好き。『たち』なのよ。」

「ユキさんは?」
「あたしも『たち』。だから、ナナが可愛くてたまらない。」

その内、ママのソファーで、あれだけかしずいていたサヤさんが、
ママの上位にかぶさり、濃厚なキ・スを始めた。
ママが、サヤさんの体に腕を回し、うっとりと脱力している。

(ママ、だめ。そんなママ見たくない。)
私は、なぜかそう思った。

そのとき、ユキさんが、
「ママより、あたしを見て。」
そう言って、私に顔を見させ、
あっという間に、私の唇をうば・った。
女の人からの口・づけは初めてだった。
すごく、上手な口・づけだった。

体がしび・れる。
ユキさんの胸のふく・らみが私の胸に当たった。

やがて、ユキさんの手が、私のスカ・ートに侵・入してきた。
太・股の辺りを何度もなでる。
その度に、電撃のようなものが、体を巡る。
ああ、感・じてしまう…。

ユキさんの手が、
やがて、私のシ・ョーツの中に入ってくる。

その頃、ママも同じことをされていた。
ママのミ・ニスカートに、サヤさんの手が入り、
何かをまさぐっている。
ママの太・股が開いている。

(ダメ。ママ。いやだよ。そんなママ見たくない。見たくないよ。)
私は心で、叫んでいた。
それは、私のどんな感情だったのだろう。

私は、ユキさんの手を振りほどいて、立ち上がった。
「ごめん。ユキさんのせいじゃないから。」
私は、ユキさんにそう言い、
「ママ。ぼく帰る。」
そう言って、お店の外に出た。

階段を降りて、道路に立ったまま、自分の感情を整理していた。
どうしてだろう…?どうして、あんな風に思ったんだろう…?

ママが、清算を終えて、やってきた。

「ナナ、どうしたの?これは、遊びじゃない?」
ママがそう言った。

「わかってるけど、ママが他の人にあんなことされてるの見たくなかった。
 ごめんなさい、ママ。ママが何をしようと自由なのに、ボク、やきもち焼いた。
 ママは、ボクだけのママでいて欲しかった。勝ってだってわかってる。
 ママは、ボクだけのものなんかじゃないのに。ごめんなさい、ママ。」
私は言いながら、目が潤んでしまった。

ママは、私の肩を抱いた。
「そうだったんだ。でも、うれしいわ。
 私のことで、やきもち焼いてくれる人がいるなんて。」
ママは、そう言った。

「今日は、このままあたしのマンションへ行こう。
 ナナの着替えは明日でいいでしょう。」
ママは、そう言って、タクシーを拾った。



ママのマンションのベッドで、ママも私もスリップ1枚になって、
毛布に包まった。

「『たち』だと思ってたナナは、『ねこ』だった。
 これから、ナナを『ねこ』にしてあげるね。」
ママはそう言って、私に熱いキスをした。

ママはキスが上手。
体中がしびれてしまう。
そのとき心の隅で思った。
今日の自分の行動といい、
多分だけれど、

私は、ママに恋をしている。

たった2ヶ月の恋(番外編 1話完結)

昨日、2つも記事を投稿してしまいました。以下は、今日の分です。
できれば、今日の夜、もう一つ投稿したいと思います。



新宿を離れて、大学での私の「たった2ヶ月の恋」について書きます。
新宿も、女装関係のことも一切出てきません。すみません。

長さが中途半端で、前・後編に分けることができませんでした。
そこで、一挙に投稿します。(長くてすみません。)

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それは、大学2年のときの夏。
夏休みを2週間後に控えたときだった。

私は教育学部、教育学科というところに属していたが、
30人くらいのクラスの中で、バリバリの体育会系の女の子がいた。
大学のバレーボール部の、エースアタッカーで、
一年中ジャージを着ているような子だった。

動作も言葉も、ガラッパチのようで、だれもその子を女の子と認めていなかった。
名前は、山田千香子さん。

私は講義を一番前で聞く派だったけれど、彼女もそうだった。
だから、二人で並んでいることが、けっこうあった。
「山田さん、どうして一番前で聞くの?」と聞いてみたことがある。
「だって、あたしはさあ、バカじゃない。前で聞かないとわかんないのよ。」と山田さんは言った。
本当は、バレー部のエースアタッカーとして、練習がきつくて、家で勉強するときがないからだと思った。

ある日、山田さんは、いつもジャージなのに、
その日は、ブラウスに黄色のつりスカートを履いてきた。
思ったよりずっと細いウエスト。狭い肩幅。長い足。
私は山田さんを見直した。

ある授業のとき、私は、講義よりも、山田さんに目が行ってしまって困っていた。
その内、山田さんは、ふらふらとして、貧血を起こしたみたいだ。
顔が真っ青になり、机に突っ伏してしまった。
私は、すぐに先生を呼び、医務室へ行けるようにした。
私が連れて行こうとしたが、もっと屈強の学生が連れて言った。

「貧血」。その言葉に、山田さんが普段見せない華奢な面を見るようで、心にぐっと来てしまった。
その時だった。「ぼくは、山田さんが好きだ。」そう思ったのは。



つり合いなど、まったく無視。
彼女は、身長175cmはあって、私は159cm。
彼女は、バリバリのスポーツ少女。私はスポーツにまるで縁のないタイプ。
でも、恋心には、身長差もタイプの差もなかった。

ある日、学園の芝生で、山田さんのことを考えながら、寝転がっていた。
「純。どうした。」と仲のよかった滝沢くんが、となりに座り、話しかけて来た。
滝沢君は、背が178cmと高い。
「恋をした。」と私。
「誰と?」
「山田さん。」
「え?」と滝沢君は驚きの声を上げた。
「純。いくら何でもお前。山田はないだろう。」
「そんなことない。」
「あいつ、まるで男だぞ。どこがいいんだ。」
「顔が好き。フランス人形みたいだ。」
 滝沢君は、ぷっと吹き出し、
「あいつのどこがフランス人形よ。」と言った。
「一日、つりスカート履いてきた。すごく可愛かった。そのとき恋に堕ちた。」
「まあ、いいや。人の好き好きだからな。で、どうするんだ。」
「ラブレター出す。」
「そうか、そうだな。それがいい。」滝沢君は賛成してくれた。

私は、その日、筆の限りを尽くし、ユーモアたっぷりのまるで物語のような、ラブレターを彼女に出した。私の全力投球だった。



ラブレターを出したのに、返事が中々来なかった。
大学は夏休みに入ってしまった。
7月が過ぎ、8月が過ぎようとしていた。

私は、ひょっとして、手紙が届かなかったことも考えて、
山田さんに、思い切って電話をした。

ベルが鳴る。私の胸はときめく。
「はい。」と声がした。
「あのう、加納純と言いますが、千香子さんいますか。」
そう言った。
「千香子、女の子から電話よ。加納さん。」と声が聞こえる。
(ああ、また女の子に間違えられた。)
「お母さん、男の子よ。」
「うそ。ほんと?あんたに男の子から電話がかかるの?」

親子のやりとりがまる聞こえだった。
(声の大きい家族だ。)

「もしもし。」とやっと山田さんがでた。
「純だけど。手紙届いた?」と聞いた。
「あ、あれね。届いたよ。」と山田さん。
「あれ、ラブレターだったんだけど。返事来ないから、電話してるわけ。」
「え?あれラブレターだったの?!
 ごめん。読んだら、あんまりおもしろいから、家族中で笑い転げちゃった。
 ごめん。あたし、ラブレターなんかもらったことないし、来るはずないって思い込んでたから。
 また、純ちゃんが、おもしろいことしてくれた…って思ってたの。ちょっと待ってね。」

受話器の向こうで声がする。
「お母さん、あの手紙ラブレターだったんだって。
 みんなで笑い転げちゃって、悪いことしちゃった。
 純を傷つけちゃったかもしれない。どうしよう…。」
「じゃあ、次の日曜日、家に招待して。昼ね。
 お前にラブレターくれる子って、ぜったい見たい。」
(声の大きい家族だ。みんな、丸聞こえ。)

「あ、純。ごめんね。
 申し分けなかったって、家族中謝ってる。
 で、次の日曜日、あたしの家来ない。
 散らし寿司作って、待ってるから。昼ね。」

「行く。」私は返事をした。

そうかあ…。ラブレターにユーモア混ぜちゃったのがいけなかったなあと、後悔しながらも、
山田さん家に行けることになった。まずは、よしかなっと思った。



次の日曜日。
私は、約束の時間に、錦糸町の駅前に立っていた。
やがて、ワンピースを来た、山田さんが来た。
肩のところが膨らんだ、可愛いワンピースで、
スカート部は膝すれすれ。そこから、綺麗な足が伸びていた。

「家、ややこしいから、タクシーで行こう。」と山田さんは言う。
私達はタクシーにのって、山田さんの家に行った。
2階立ての、和風の家だった。

中に入るなり、お母さんが迎えに出てきた。
「まあまあ、遠いところを、あなたが、純さん?」
「はい。はじめまして。」

(純の声を聞いても、女の子と思わないことと、山田さんから強く言われていたみたいだ。)

私はダイニングキッチンの椅子に座らされた。
左横に、ピアノがあった。
となりの和室に、モーツアルトやベートーベンの想像画があった。
いっけん、音楽一家だった。

散らし寿司の飯台がテーブルの真ん中に置かれてある。
やがて、お父さんも見えて、
そのうち、昼食になった。

お母さんが言う。
「純さんが、我家に着てくれた、千香子にとっての初めての男の子なの。」
「ボクがですか?」
「そう、だから、今日家中で緊張しちゃってね。」

お母さんは、真っ直ぐな髪を、額の半分から分けて、インテリっぽい。
お父さんは、背が高くて、日焼けしていて、体育の先生って感じ。

「オヤジは、中学校の体育教師で、オフクロは、小学校の音楽教師。」と山田さんは言った。



食事の最中、お父さんから、千香子のどこがいいのか、聞かれた。
「顔がフランス人形みたいで可愛いです。」というと、
みなさん、食べてるものを吹き出さんばかりに笑った。
肝心の千香子さんも大笑いしている。

「それから、華奢で、守ってあげたくなります。」
というと、また皆さんが大笑いをする。

「聡明な感じで、ステキです。」
みなさん、最後の大笑い。

お父さんは、笑いながら、
「純君。君が言ってくれたことは、
千香子が生まれてから一度も言われたことがなかったことだ。
これから先もないだろう。
いやあ、ありがとう。千香子の一生の思い出になるよ。」



「おい、千香子。純君の言葉に少しでも答えるように、ピアノでもお聞かせしろ。」
とお父さんが言った。

(わあ、山田さんは、ピアノが弾けるんだ、と私の恋心は募った。)

お母さんが、
「ほら、『野郎っ子の祈り』がいいわよ。」
「そんな曲あるんですか。」と私は聞いた。
「いえ、『乙女の祈り』のことなんですけどね、
 コイツが弾くと、まるで『野郎っ子』なんですよ。
 だから、家では、そう呼んでるの。」

千香子さんは、はじめ照れていたけど、
やがて楽譜を置いて、構えた。
息を吸って、やがて、10本指を広げて、すばらしい演奏を始めた。
野郎っ子どころか、力強いすばらしい演奏に思えた。

私はうっとりして千香子さんを見ていた。
それは、きっと恋する人への目をしていたと思う。

曲が終わったとき、私は盛大な拍手をした。
「大学で、千香子さんがピアノが弾けることなんて、誰も知らないと思います。」
と、私はご両親に言った。



そろそろ帰る時間になった。
帰りは、バスで送って行くと言われ、
私はご両親にお礼を言って、千香子さんと家を出た。

「ピアノうまいんだね。」
「雑でしょ?」
「ううん。力強くて、かっこよかった。」
「純はいいヤツだなあ。」と山田さんが、肘を私の肩に乗せてきた。

その他、いろいろ話ながら、気が付いたら、錦糸町の駅に着いていた。

切符を買い、私は後ろを向いて、山田さんに手を振った。
山田さんは、私が見えなくなるまで、立っていてくれた。

ホームへ降りる階段で、私は気が付いた。
山田さんは、私のラブレターについて、
何も言わなかった。

『そうか、ぼくは振られたんだ。』

だけど、少しも悲しい気持ちや嫌な気持ちがしなかった。
家に呼ばれ、ご家族で精一杯の歓待をしてもらった。

「ごめんね」と一言電話で謝ることで、済ますことも出来たのに。
山田さんご一家の温かさに感激して、
私は爽やかな気分のまま、階段を降りて行った。

不思議なパズル(新宿編第二部2 後編)

やがて、ラーメンが来て、水割りが来て、3人のおしゃべりは少し途絶えた。

私は小声でママに、
「リナ、きれいになったでしょう。」と言った。
「もてもてね。」とママは微笑んでいた。

2人のお客が入って来た。
背広を着たサラリーマン風の人。
早速、ママが対応する。


リナと2人は、ラーメンを食べ終わり、
水割りを飲みはじめた。

やがて、木村さんが、金井さんに、
「金井。俺達がどんな難問を考えてるか、ママやナナさんに見てもらえよ。」と言った。
「お、そうだな。」と金井さんは言って、バッグからあるカラーの写真を取り出した。



「ナナさん、これ見てくださいよ。不思議っしょ。」と金井さん。

「あ、すごい、これ不思議。」と私は言った。
どれどれとママが寄ってきた。
「あら、ほんとだ。不思議だわ。」

それは、コカコーラのビンに木でできた「矢」が貫いて、羽根の部分で止まっている写真だった。
コカコーラのビンには、あらかじめ穴が空けられている。
問題は、その穴を矢が貫いて、矢じり(矢の先)だけが突き出ていることだ。
その矢じりが、ビンの穴より大きい。
羽根の部分は、ビンの外にあって、ビンの穴より大きい。
木でできた矢は、切ったり折ったりして貼りつけたものではない。
矢の軸より大きい矢じりは、どうやってコカコーラのビンを突き抜けたのだろうか。

女装  遥かなる想い









ママが、うなっている。
3人は、大喜び。



金井さんが、
「ね、ママさん。俺達もアホな問題考えてるわけじゃないっしょ。」と言った。

ママが考えてると、2人のお客さんも、
「どれ、俺達にも見せてよ。」と言い、
ママは、写真を見せた。
すると、2人のお客さんも、考え始めた。

「う~ん、本当かよ、これ。」
「ほんとだ。この矢は切って貼ったりしてないんだよな。」
「それじゃあ、パズルにならないだろう。」

「答えは、わかってるの?」とママが聞いた。
「いえ、答え無しのパズルなんですよ。答えあったら、とっくに見てますよ。」と木村さん。
「とっくに見ちゃうの?」と私は突っ込んだ。
「だって、俺達、こらえ性ゼロですから。」と木村さん。

そのとき、ママの店の全員が、パズルの不思議に包まれてしまった。

「水割り、お代わりしましょうか?」と2人のサラリーマンの人に聞いても、上の空。
「あ、ああ。」と言うだけ。

なんだか、みんな固まっている中、私だけが動き回っていた。



リナと2人の学生さんは、考えながら、どんどん水割りを飲んでいた。

「ああ、ダメ。俺今夜眠れない。」とサラリーマンのお客が言った。
「俺も。」ともう一人の人も。
「後は、家で考えよう。」

みんながギブアップして、お店は、ふつうの状態に戻った。



気が付くと、木村さんと金井さんは、かなり水割りを飲んでいた。
「ああ、夏樹、君は我がサークルによく入ってくれた。」木村さん。酔っている。
「俺は、夏樹が好きだあ。」と金井さん。かなり酔っている。
「俺もだ。夏樹は俺の青春だ。」と木村さん。

二人の間に挟まれて、リナは困った顔。
「お姉さん、どうしよう。」とリナが小声で言った。
「もう、飲まさない方がいいわね。」と私。

二人に水をたくさん飲ませた。

「じゃあ、そろそろこの二人連れて帰ります。」とリナは言って、お勘定を払おうとした。
ママが、いいのいいのと、手を振って「入学祝いよ。」と小声で言った。
「すみません。今度はちゃんと払います。」そう言って、二人に声を掛けて、立ち上がらせた。
幸い、二人は、酔っていたが、なんとか歩けそうだった。
歩きながらも、「夏樹が好きだー!」をくり返していた。
ママと私は、ドアまで送った。
リナは、何度もこっちを向いて、さよならの挨拶をしていた。

2人のサラリーマンの人たちも帰った。



誰もいなくなり、急に静かになった店。

「ママ、夏樹、幸せそうでしたね。」
「そうね…。」
「ママ、ほっとしているでしょ?」私は言った。
「何で?」とママ。
「夏樹に責任感じてた…。」
「だって夏樹のお父さんに、あれだけのこと言ってしまったもの。」
「責任って、ずっと続くのかな…。」
「ずっと、続くのよ。夏樹には、これからいろんな困難が待ってるもの。」
「でも、みんなで夏樹の幸せを祈っていることには変わりませんね。」
「そうね。夏樹には、ご家族の他に、ナナと私という味方が増えた。そう考えればいいわね。」



「ところで、ナナ。さっきのパズルの謎が解けたんでしょ?」
「どうして、そう思うんですか。」
「あなただけ、余裕で動いてたじゃない。」
「早くギブ・アップしただけですよ。」
「ウソ、おっしゃい。わかったくせに。」
「だって、あんな傑作パズル、すぐに答え言ったら、もったいないでしょう。」
「今度、かわいーい女の子にして愛してあげるから、今教えて。」
「それうれしいけど、木曜までのお預けでしょ?」
「答え、それまで、待てない。」
「待つんです。」
「ダメ。」
「我慢。」
・・・・
・・

今日は、火曜日。これで明後日ママのマンションに行ける。


==============================

〈ナナの考えた答え〉

(答え無しのパズルでしたので、本当の正解は分かりませんが、
ナナの考えた答えを記します。)

木の枝の細いところに、穴の空いたコカコーラのビンを差しておく。
その内、枝は成長してコカコーラの穴より太くなる。
それを切り取って、木の部分を矢の形に加工する。

気の遠くなるやり方ですが、私はあれ以来40年、これ以上の
方法を思い付きません。

リナと男子2人がお店に来た(新宿編第二部 2 前編)

大学の臨床心理の講義。
先生は一方的に講義をし、学生のことなんかかまっていない。
しかし、私は一番前の席で、必死でノートを取る。
ノートだけを見ていたのでは、先生の講義が聞けないので、
先生を見たり、ノートを書いたり。

90分の授業が終わると、先生はさっそうと去って行く。
私は、がっくりと疲れる。
その頃、私の回りにいつも、5人くらいの学生が集まってくる。

「純、ノート、コピー取らせて。」とA子。
俺も、私も…とみんな同じことを言う。
「じゃあ、1部コピーとって、それをみんなにコピーしてくれる?」
と私。
「OK。すぐ取って来るね。」とA子。


「はい。」と言って戻ってきたA子。
「かー、いつもいつも、純のノートは、記号ばっかし。
 今度、もっと分かりやすく書いてよ。」とB君。
「だったら、わかりやすく書いてる子、探せば。」と私。
「純くらいなもんだからな。真面目に聞いてるの。」とC君。

「次の4限までに、これ覚えちゃうから、これでおしまい。
 ぼくに時間をくれる?」と私。
「OK。4限もよろしくね。」とみんなは去って行く。

私は、誰もいなくなった教室で、今習ったことを復習する。
次の時間まで、20分。それだけあれば、今習ったばかりのことなら、復習ができる。



私の大学から、駅までは、バスで7分。あるいて20分だ。
私はバス代がもったいないので、歩いていた。
それに、大学と駅の間に、リナのいる獣医大がある。
これは、すごい偶然だ。

リナは、この4月から大学生だ。念願の獣医大に入学が叶った。
獣医大の前では、必ず牛や馬や羊と戯れている学生達がいる。
みんな白衣を来て、長靴を履いている。
通りを挟んで、広い馬場がある。
そこでは、馬に乗っている学生もいる。

私は週に1度は、大学の中に入って行って、
リナの学んでいる教室に行く。
(リナは時間割をくれている。)

その日は、リナも4限まである日で、ちょうど時間が合う。
教室から出てきたリナを呼ぶ。
「夏樹!」
リナは後ろを振り向く。そして、
「純!」と言って、私のところへ走ってきて、私の首に飛びつく。

「夏樹、重いったら。もう大人なんだから。」と私。
「あはっ。そうね。純は、細いし。」

リナは、赤いスカートに、白いブラウスを着ていた。
リナは、奇跡的なことに、ヒップがあるので、スカートがばっちり決まっている。(うらやましい。)
髪は、肩まで伸びて、よく手入れをされたサラサラ髪だ。
いつもリンスのいい匂いがする。
前髪を額の半分から左右に分けている。

リナの学籍は男子だと思うが、リナは、完全な女性の姿で通っている。
リナの大学の誰もが、リナは女子学生だと信じていると思う。
幸いなことに、「夏樹」というのは、女子の名前としても通用する。
(私の「純」もそうだけど。)
薄く自然なメイクをしているリナは、大変な美人だ。色が透けるように白い。
声も可愛い女の子声だ。

私はこんな可愛いリナと、一度だけセックスしたことを、
今では、夢のように思っている。

「リナ、たまにはお店にお出でよ。ママも会いたがってるよ。」私は言った。
「そうねえ。じゃあ、今日行く。男の子2人といっしょに。9時に。」とリナ。
「ほんと、じゃあ、楽しみにしてる。」
そう約束して、リナと別れた。



「ママ、今日リナが来るって。」と私。
「まあ、リナが大学に合格して以来ね。」
「あれは、2月だったから、4ヶ月ぶりですね。」
「リナ、可愛くなってるでしょうね。」とママ。
「ええ、もう、近寄りがたい美人です。」と私。
「ご家族とは、うまくいってるのかしら。」とママ。
「お父さんとよく屋台のおでん屋さんへ、2人で行ったりしているそうですよ。」
「じゃあ、うまくいってるのね。」
「そう思います。」



そう言っている内に、9時になった。
「こんばんは。」とリナが顔を見せた。
続いて、2人の男の子が来た。
「夏樹、ほんとだったんだあ。ゴールデン街に知ってるお店があるって。」
「へえ、すげーや。」
と2人は驚いている。

3人は、奥の椅子に座った。
「あの、あちらは、ママの典子さん。」とリナが紹介した。
ママがにっこり会釈をした。
「金井です。」
「木村です。」と二人は立って挨拶した。
背の高い人が金井さん、ぽっちゃりしているのが木村さん、と私はインプット。
リナは、
「で、こちらは、あたしのお姉さんのナナ。」
リナはそんなことを言った。
「いつも妹が、お世話になっております。」と私もリナの遊びに付き合うことにした。
「そうか、お姉さんがいるから、ここを知ってたんだ。」と背の高い金井さんが言った。
「えへ。実はそうです。」とリナ。

私は、3人におしぼりを渡した。
3人は、ラーメンと水割りを頼んだ。

その日、私は真っ赤なワンピースを着ていた。
肩までの髪に、赤いリボンの付いたカチューシャ。



「夏樹も美人だけど、お姉さんも美人っすねえ。」
と木村さんは、私を見て言った。
「ありがとうございます。」と私は軽く礼をした。

リナは話し始めた。
「ナナ姉さんはね、あたしを大学に行かせるために、中学を出てから、昼はウエイトレスをして、そして、18になってからは、夜もここで働いて、私の学費を作ってくれたの。今も、私の生活費は、全部お姉さん。」

(リナ、言うなあと、私は内心困ってしまった。)

「うわあ、今時そんないいお姉さんいるんすか?」と木村さん。
「尊敬っすよ。感動っす。」と金井さん。

私は、苦笑。

「3人は、どういうご関係?」とママが聞いた。
「部員3人の『パズル研究会』です。」木村さん。
「全員1年生だから、先輩も後輩もいません。」と金井さん。

「まあまあ、大学の勉強で頭を使って、さらにパズルで頭を使うの?」とママ。
「パズルだと、頭を使う場所が違いますから。ほら、お腹だって『別腹』ってあるじゃないですか。」金井さん。
「なるほど、そうね。」とママは笑っていた。



「夏樹がいなかったら、俺達即解散です。」と金井さんが言う。
「どうして?」って私。
「だって、男二人でパズル考えたって、ちまちま面白くもなんともないっしょ。」金井さん。
「そうなの?」とママは笑っている。

「夏樹は、今や我が大学のアイドルですから。
 そのアイドルを、俺達みたいな何の取り得もない2人がゲットしたんすよ。
 これ、奇跡だと思いません?」と金井さん。

「もう、他のサークルの奴ら、『なんで?』って口ぽかんですよ。」木村さん。
「もう、俺達、他の奴ら、絶対サークルに入れないっす。
 二人で夏樹独占状態をキープです。」

「そんな。ふつう部員を増やしたいって思うものでしょう。」と私。
「ノーです。要りません。俺達は、永久に3人です。」と金井さん。

「一人が抜けて、夏樹と2人だけっていうのは?」私は意地悪く聞いてみた。

二人は、しばし考えて、

「ダメダメダメ。例えば、俺と夏樹の2人だけ…?あ、ダメ、俺、緊張して死んじゃう。」と金井さん。

「俺もダメ。だって、自分に自信ねえもん。夏樹と2人。ああ、ダメ、気絶する。」と木村さん。

「つまり、2人で1人前ってことでしょ?」とリナ。

「お。そうそう。夏樹、表現うまいな。」と木村さん。

「ねえ、ママ、お姉さん、聞いた?この2人、こんなにアホなの。」とリナが笑っている。

ママも私も笑ってしまった。



つづく

女の子の気持ち(新宿編第二部1 後編)

ママのマンションを出ると、外は明るい。
ああ、まいるなあ。こんなお日様の下で、
完全女装をして歩いたことがない。
緊張する。

成子坂を上って行くと、すれ違う男性達が私を見て行く。
今日は、自分の髪だし、女性の歩き方をしている自信はある。
男とは、ばれない自信がある。
だけど、男性の視線が気に成る。
ちょっと後ろを向いてみると、
私を振り返る男性がいた。

可愛い女の子だと思われているのならいいけど。
落ち着かない。

早く、小川さんに会いたいと思った。
アベックになってしまえば、あまり見られないですむから。

新宿通りを曲がり、西武新宿方面に歩いて行く。
そして、ミラノ座の前に来た。

あれは、小川さんだ。
ほっと安心して、小川さんの元へ小走りに寄って行った。
「お待たせしました。」私は言った。
小川さんは、スーツにネクタイをしめていた。
小川さんは、私を見ると、

「わあ、ナナさん。綺麗だ。お店とは全然違う。」と言った。
「どんな風に違うんですか。」と私。
「そのなんていうか、お店メイクでなくて、自然でステキだ。俺、まいっちゃうなあ。」と小川さん。
「うれしいです。」と私。
「あ、今日は、ていねい語は止めよう。俺のことは『進』って呼んで。」
「わかったわ。進さん。」
私は、進さんの腕に腕をからめた。

ミラノ座から、武蔵野館へ行った。ここは主に女性向きの映画をやっていて、
映画館の作りも女性を対象にしている。
そこを選んでくれたことがうれしい。

そこで、進さんと、ラブストーリーを見た。
その映画が、すごくよくて、私の心は、すっかり女の子になってしまった。
映画が終わったとき、なんだかうっとりしてしまって、
進さんの肩に、頭を預けてしまいそうだった。

映画の後は、お食事とお酒を飲みに行った。
東口のアルタの裏に、「イーグル」と言う店があって、そこの地下のお店がお勧めとのことだった。

中に入ると、新宿の騒音は一切聞こえなくて、落ち着いた雰囲気の店だった。
「ここは、カクテルも何でもOKだし、お料理が特別おいしいんだよ。」
小川さんが言った。
「私、こんなステキなお店に入ったの初めて。」と私は言った。
「俺だって、何度も入ったわけじゃないんだ。」と進さんは、笑った。

「俺は、ナナさんとなら、今日はカクテルを飲みたい気分だな。」と進さん。
「あたしも。」
二人で、カクテルメニューを見合った。
顔を寄せ合って。
ちょっと、胸がトキンと鳴った。
進さんが、ちらちらっと私を見る。
(どうして?)
「ずっと思ってたけど、今日のナナさん、いい香りがする。」
「香水つけたの。」
「俺のために?」
「ほかの誰のためにつけるの?」
進さんは、ちょっとうれしそうな顔をした。



私は、ピンクレディー、進さんは、マティニーを頼んだ。
運ばれてきた、肉料理、サラダ、みんな驚くほどおいしかった。
私は、面白そうなカクテルを、いくつか頼んだ。ミリオンダラー。ソルティードッグ。
進さんは、マンハッタンとか辛系のカクテルを頼んでいた。

飲むうち、私はお手洗いに行きたくなっていた。
それを、進さんにいうと。
「行ってきたら?あっちだよ。」と。
「だって、男子トイレには入れないし、女子トイレにも行けないもの。」と私。
「うそー。」と進さんは言った。
「ナナさんが、男子トイレに入ったら、大変なことになっちゃうよ。
 当然、女子トイレだよ。」と小川さん。
「男なのに、入っていいの?」
「いいさあ。だれも何にも言わないよ。ナナさん、どこからみても女性だもの。」
「じゃあ、行ってくる。」

幸い、3つある個室のトイレは、誰も使っていなかった。
私が終わるまで、だれも来なかった。

「ナナさん。詩を売っているときは、どうしてるの?」と進さん。
「近くの喫茶店に行くの。喫茶店のトイレは、男女共用だから。」と私。
「そんな苦労をしてるんだ。」
「うん。」と私は、うつ向いてしまった。
「ナナさんは、純情なんだね。道徳心があるというか。」
「そんなことないけど…。」と私。
「そういうナナさんが、俺は、すごく可愛いと思う。」
「女子トイレにいけないことが?」
「うん。そうだよ。こんなところで言うのはなんだけど、俺はナナさんが好きだ。」
私の胸はまたドキン。
「進さん。それ、まさか告白?」
進さんは、私を見つめて、うなずいた。

「進さんは、背が高いし、ハンサムだし、いくらでも女の子を選べるのに?」私は言った。
「女の子は、だめなんだ。」
「どうして?」
「子供の頃、中年の女の人に、変なことされて、それからダメになった。」
「そんなことってあるの?」と私。
「うん。一種のトラウマ。」と進さん。
「そうなんだ…。」私はうつむいた。
「辛いこと聞いてしまって、ごめんなさい。」と私は、進さんを見て言った。
「気にしないでね。トラウマってなかなか消えないから。」進さんはあえて明るく言った。

私は、顔を上げて、ゆっくりと言った。
「進さん。私、ウソが言えないから言うね。私は、男性に対して恋愛感情を持てない。」
「女性の姿をしていて、そんなに綺麗なのに?」と進さん。
「心は、やっぱり男だから、女の子が好き。
 女装の子にも、恋愛感情持てない。それは、恋愛っていうより友情。」
「男の俺にも?」
「ごめんなさい。多分、友情。
 でも、ママがいつか言った。私の心の7割は男だけど、3割は女だって。
 だから、その3割のところで、進さんを、男性として、好きになっている気がする。」
「3割でもいいよ。俺を好きでいてくれたら。」進さんは、そう言った。
「それで、いいの?」
「十分だよ。」



進さんは、明るい顔になった。
「今日、俺、ナナさんの3割を、5割にしてみせる。」
「もう、5割になってる。進さん、ずっと私を女の子として扱ってくれてるから。」
「うおーう、やったあ!」進さんは、無邪気に叫んだ。
私は、微笑んでうなずいた。



お店を出たときは、9時を過ぎていた。
私は進さんの腕をとり、身を預けて、熱々のカップルみたいに歩いていた。
カクテルが回って来ていたからかもしれない。

私達が、なんとなく歩いて行ったのは、
新宿の西口公園だった。
この公園は夜になると、ベンチの上で、
男女のアベックが、愛を交わしていることで有名だった。
キスだけの人もいれば、それ以上の人もいる。

私は、歩いているのが、西口公園だと気がつき、
急に胸がドキドキしていた。
暗がりの中に、濃厚なキスをしているアベックがいた。

「ここに座ろう。」と進さんに言われた。
私は、男性にキスをされるのは、初めてだった。
心臓が高鳴る。
私は、進さんの隣に座った。
「ナナさんの5割の心でいい。」
そう言って、進さんは、私の唇に、唇を重ねてきた。
私は、吸い寄せられるように、進さんと唇を重ねた。
(ああ、これが男の人とのキスなんだと、私は体が震えるのを感じた。)
そのうち、進さんは、力強く私をぐっと抱いて、キスに力を込めてきた。
私は、窒息しそうな感覚の中で、自分も進さんにしがみついた。
私の心は、今100%が、女になっていると感じた。
体が震え、甘い陶酔感におぼれそうだ。

そのとき、進さんの手が、私のスカートの中に入って来た。
私は、「あっ。」と思った。
今それはダメ、と思った。

「進さん。ダメ、お願い。それだけは、ダメ。」と私はスカートを押さえて言った。
「どうして。俺は、ナナさんのことをすべて知っているよ。」と進さんがいう。
「恥かしいの。絶対恥かしい。キスをしているとき、あたし、心の中は全部が女の子になってた。
 だから、スカートの中にあるものが、恥かしい。恥ずかしくて、死んじゃいたい。」
私はうつむいて、涙声になっていた。
本当の女の子だったら、どれだけいいかと、そのとき考えていた。

「ごめん。ナナさんの気持ちを考えなかった。もうしない。キスだけならいいよね。」
進さんは言った。

私はうなずいた。

そのあと、ロングキスを何度かして、私達は公園を出た。



着替えをするためのママの店の前まで、進さんは、私を送ってくれた。
「今日のことは、忘れない。心の中が全部女の子になったナナさんは、可愛くて、俺は気絶しそうだった。ありがとう。」
と進さんは言った。
「あたしの心の全部を女の子にしてくださって、ありがとう。私こそ気絶しそうだった。」
私はそう言って、進さんと今日最後のキスをして、さよならをした。

お店に入ると、お客さんは大勢いて、
「おや、ナナちゃん、今日は、なんか特別だなあ。」とお客さんにからかわれた。
「どうだったの?」とママに小声で聞かれた。
「ママから、いろいろお借りした分のことだけはありました。」
私は、くふっと笑って、着替えの小部屋に入って行った。

出てきた私は、詩を売るときの普段着だったから、
これは、お客さんにも、進さんにも、見せられないなあと思った。

私は逃げるように、お店を出た。

小川さんにデートを申し込まれた(新宿編第二部 1 前編)

〈はじめに〉
(札幌編)を書こうと思いましたが、やっぱり私は、新宿が好きで、新宿から離れられません。
 でも、新宿からときどきは遠征して、他の町でのことも書きたいと思います。

時は、あれから2年経ち、私は大学3年生。リナは、念願の獣医大に合格して、女の子として、大学に通っています。
 
学生運動は終わり、どこの大学も平和に授業を始めていました。
そのころ、アンアーグランドが全盛で、唐十郎は赤テンとでの公演で人気をはくし、寺山修司は、劇団「天井桟敷」で公演を行っていました。

私は相変わらず、典子ママのお店で働いています。

第一部で、私は、エネルギーを投入しましたので、どこまで書けるか分かりませんが、一応見切り発射で、第二部をはじめることにします。

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1971年。5月末。

ゴールデンウィークが終わり、
初夏の暑さが思われる日々が続いた。

一昨年あれほど盛んだった学生運動は終わり、
どの大学も、封鎖が解かれ、普通に講義が行われていた。

私は、大学の講義が終わったら、
新宿に行き、詩を売って、
時間になったら、家でシャワーを浴びて、典子ママの店に行くという生活を相変わらず続けていた。
ママの店には定休日の木曜日と日曜日以外、全部行くようになっていた。

典子ママの店で、もう3年目になる。
私はママに代わって、ラーメンを作れるくらいになっていた。
簡単なカクテルも作れる。

私は自分の髪を女の子に見えるようにしていたが、
かつらフェチなので、相変わらずウィッグを借りていた。
それにしても、ママはドレスを何着持っているのだろう。
私は、この2年。同じドレスを着た覚えがない気がしていた。



今日は、土曜日。明け方までの勤務の日だ。

「ママ、私がここに来て、もう3年目になりますね。」

今日のドレスに着替えた私は、ママにそう言った。
私はスカート部の広がった、白黒の大胆なストライプのドレスで、
髪は、外巻きのセミロングのものを着けていた。

「ナナは、もう大学3年生っか?」とママが言う。
ママは、ラーメンの用意をしていて、私はグラスをみがいていた。
「いつの間にか、そうです。」私は言った。
「でも、あなた、いつ勉強してるの?
 大学の後、詩を売って、その後ほぼ毎日ここでしょう?」

「あ、私は勉強する暇ないから、いちばん前に座って、誰よりも熱心に先生の講義聞いています。」
「えらいのねえ。」
「えらくないです。いろんなことしたいだけ。」
「アメリカ行くお金貯まった。」
「1年間なら行けるくらい。でも、2年間行きたいから、
 ママのお店で、卒業まで、働かせてください。」
「いいわよ。ナナが来てから、売り上げ2倍だから。」
「ほんとですか?じゃあ、もっとお給料上げてください。」
「だめよ。私だってお金持ちになりたいんだから。」

ママと二人で笑った。

グラス磨きが終わって、お店の前を、箒で掃いていた。
私は、ママのお店の前だけ出なく、必ず両隣のお店の前もついでに掃く。
今日も、そうしていた。
すると、隣の「エル」のママが来て、
「いつも、悪いわねぇ。ありがとう。」と言う。
「あ、全然かまいません。」と私。
「ナナちゃんは、ほんといい子ねぇ。」とエルのママ。

エルさんも、女装の人だ。
かなり太っていて、オネエ言葉で通している。
お店はけっこう流行っている。
エルさんのお店での笑い声が、ここまで聞こえるほどだ。



準備中の札を営業中に変えて、
カウンターに立ってお客さんを待っているときは、いつも緊張する。
今日は、だれが1番のお客様かなっていつも思う。

その内、「こんばんは。」と言って、小川さんが入って来た。
小川さんは、いつもお店の一番奥に座る。
小川さんは、私がお店に立って初めての日に、
小川さんも、学生で初めてこんな店に来た人だ。
二人とも初めてどうして、とてもうれしくて、
私のホステス第一日目を、無事に終えさせてくれた人だ。
あれから、小川さんは、週に一度は必ず来てくれる。

当時、学生だった小川さんは、背広にネクタイをしめて、社会人1年生になっていた。
「いつものでいいですか。」と私は聞いて、水割りと乾き物を出した。
「ナナさんも一杯どう?」
「じゃあ、あたしは、ジュースをいただきます。」そう言って、ジュースをつくった。



小川さんは、私が女装の子だと知っている。
小川さんは、女装の子が、初めから好きだと言っていた。

お店は、少し混んで来ていた。
ママとお客さんの声が大きく聞こえる。

「ナナさん。」と小川さんは、少し真面目な声で私に言った。
「俺も、今までの学生と違って、給料をもらうようになった。
 今までは、学生でナナさんを誘える身分じゃなかったけれど、やっと社会人になれた。
 ナナさん。俺といつか1日でいいからデートしてくれないかな。」

他でもない、小川さんの言葉だ。冗談で流すわけにいかない。
私には、店のお客さんと、店の外でデートしていいものかもわからなかった。
「ちょっと待ってね。」と私は言って、ママのところに行った。

「ママ、小川さんからデートに誘われた。そういうのいいんですか。」私。
「いいわよ。小川さんとなら、いいんじゃない?」
「でも、私、デートの服もないし、着替えるところもない。」
「私のマンションで着替えればいいじゃない。デート用の服は貸してあげるわ。」
「家に帰るのに、着替える場所がありません。」
「このお店に来て、着替えたら?」
「だって、男の服は、ママのマンションにあるんですよ。」と私。
「私が、運んであげるわよ。マンションのナナの服を、ここに持って来ておけばいいんでしょう?」

なるほど、と思った。
「じゃあ、お願いします。デートOKします。」
「一度くらい、デートしなさい。」とママ。

私は小川さんのところへ帰って、
「ママがいいって。あたし、デートできます。」と言った。
小川さんは、うれしそうに、
「じゃあ、明日の日曜日じゃ、だめ?」
「あ、はい。大丈夫です。」(明日…。心の準備がないけど…。)



ママのマンション。
小川さんとの約束は、歌舞伎町の映画館ミラノ座の前。
午後3時。
映画を見て、お食事ってコースかな。
(でも、それ以上はなし。)

私はママの部屋のドレッサーの前で、パンティーストッキングとスリップ一枚でお人形になっていた。
大人しめのメイク。
ママがいくつか、おしゃれな女の子服を選んでくれている。
「これかな。」とママが言って、淡いピンクの長袖のワンピースを出してくれた。
「なんだか、高そうなワンピース。」と私は言った。
「まあね。学生で着てるなら相等なお嬢様ね。」とママ。

ママはワンピースを着た私に、真珠のネックレスをつけてくれて、
それから、白いステキな靴と、白い可愛いバッグを貸してくれた。
そして、耳には、ネックレスに合わせて真珠のイアリング。
そして、耳たぶの後ろに、香水をつけてくれた。

「これで、小川さん、悩殺ね。」とママが笑いながら言う。
それから、髪をふんわりとした内巻きにしてくれた。
イアリングが、ときどき見えるように。

「う~ん、ナナ、かなりなお嬢様ぶりよ。」とママが言った。
お店の衣装とちがって、女の子の外出用の衣装はちがう。
やわらかくて、肌さわりがいい。
なんだか、女子大に通っているお嬢様の気分になる。
「OK、行ってらっしゃい。」とママが言った。


つづく

私の『王子様』(新宿編11 1話完結)

今日のブログは、今まで必ず登場していた典子ママが、出てきません。
新宿編も、気がつくと、20話くらいになっていました。
今日の記事をもって、一応(新宿編)の第一部 完としたいと思います。
ほぼ毎日書いて来ましたので、ちょっと休憩の意味もあり、少し、新宿を離れて、<番外編>をいくつか書き、次は、<札幌編>を書いてみたいなと思っています。
今日の、記事は、小さな出来事ですが、私の心に今も鮮やかに残っていることです。
読んでくださると、うれしいです。

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季節は2月に入っていた。

日曜日。
私は、新宿駅で風の当たらない場所に移って、詩を売っていた。
その頃、私は、童話も2作作り、詩の横に置いていた。

その日はとても寒かった。
私はオーバーのフードをかぶり、寒さに耐えていた。

午後の3時ごろだった。
詩や童話の一番売れない時間帯。

一人の高校生くらいの女の子が、立ったまま、
少し離れたところで、じっと私を見ていた。
すらりとした、ちょっとステキな女の子だった。
トレンチコートを着ている。

私の詩や童話を買ってくれる人の中には、
初め少し離れたところから、
「買おうかな、どうしようかな?」と私を眺めていることが多い。
私は、そういうとき、気軽に、
「どうぞ、見てやってください。」と声を掛ける。
すると、たいていはそばに来て、買ってくれる。

そのとき立っていた女の子は、ちょっと違っていた。
私を見て、少し目を潤ませている気がした。

私はその子を見た。目と目が合った。
私は、少し微笑んで、会釈をした。
すると、その女の子も会釈を返した。

あまりにも、その子が立ったままなので、
私の方が立って、その子のところへ行った。

私が声を掛ける前に、その子が言った。
「『純』さんですね。この童話をお書きになった。」
そう言って、その子は、肩から下げた大きめのバッグから、
私の2つの童話を取り出した。

私は、フードのかぶりを取って、
「あ、はい。私です。」と言った。
すると、彼女は一瞬私を見て、
「ああ、あたしったら…、『純』さんは、男性だとばかり想像していて、
 ちょっと今、戸惑っています。」と言った。

「あ、あたしは、春果(はるか)と言います。高校2年です。」と彼女は言った。

春果さんは、私より少し背が高かった。

私は、詩を売るときも、典子ママのところと同じ16歳で通していた。
そのくらいに見えるらしかったから。

「私は、高1です。」と私は言った。

「あのう、私をわざわざ訪ねてくださったんでしょう?
 なんだったら、喫茶店にでも行かない?」私はていねい語を止めた。

「いいの?詩を売ってらっしゃるのに。」と春果さん。

「気にしないで。今全然売れない時間だし。」と私はそう言ってお店をたたんだ。



喫茶店で、春果さんは、事情を話してくれた。

「あのね。あたし1月ごろ、すごく落ち込んでいたときがあったの。
 ちょっと、失恋もあったし、他の事もうまくいかなかった。
 そんなある日、机の中を見たら、この2つの童話が入っていたの。
 あたしの友達の誰かが、あたしのために入れてくれたんだと思った。
 あたし、落ち込んでること、誰にも知られないようにしていたのに…。

 あたし、童話を読んだ。そしたら、すごく心が温まるお話で、
 感激した。そして、2つの童話を書いた『純』っていう人にすごく会ってみたくなったの。
 そのうち、『純』って人が、いつのまにか、私の心の『王子様』になってた。
 あたし、東京へ出たとき、駅でこんな童話や詩を売っている人見たことあったから、
 きっとそんな人だと思って、いろんな駅に行ってみたの。」

「春果のお家はどこ?」私は聞いた。(「さん」付けは止めた。)

「埼玉県の○○市。」
「ええ!遠いじゃない。片道3時間はかかるわ?」
「うん。でも、どうしても会いたかったから、探した。
 渋谷、池袋、そして今日新宿で、やっと純に会えたの。」
「そんな遠くから、わざわざ来てくれたんだ…。」
「うん。」春果さんは、少しうつむいた。

私もうつむいてしまった。
純は、男だよ…とたまらなく言いたかった。
でも、私は、春果さんが心に描いた王子様のイメージからかけ離れていると思って言えなかった。

「ごめんね。純が男じゃなくて…。」私は言った。
「そんなことない。純が女の子でも、こうしてお話ししていると、
 あの童話の温かさが伝わってくる。とっても不思議。」と春果さんは言った。


私はしばらくうつむいていたが、やがて、顔を上げて言った。
「春果は、純が女なのに、男の子だと思ってた。
 春果は、春果の机の中に、私の童話を入れたのは、
 さっきお友達の誰かって言ったよね?」

「ええ。」春果さん。

「あのね。よく聞いてね。」と私は言って、
「その子は、新宿で私の童話を買ってくれた。
 そして、読んで、いい童話だと思ってくれた。
 その頃、春果が落ち込んでいるみたいだった。
 その子、自分が一度読んで手垢のついた童話を、春果の机の中に入れると思う?」と聞いた。

春果さんは、はっとしたような表情をした。

私は続けた。

「私の童話も詩もね、ほとんど女の子が買ってくれるの。
 でも、私の童話を2冊とも二度も来て買ってくれた男の子がいた。
 1月だった。
 一度目は、新宿に来た折りに買ってくれたんだと思う。
 でも、二度目はちがう。
 その男の子は、片道3時間もかけて、好きな女の子のために、
 私の童話を買いに来てくれた。そう思う。
 いつも春果のことを見守っていたから、落ち込んでいることに気がついてた…。」

春果さんは、私の目を見て、何度もうなずいた。

「王子様の心当たりある?」と私は聞いた。

春果さんは、涙ぐんでいた。そして、大きくうなずいた。

「純に会いにここまで来てよかった…。」春果さんは言った。



そのうち、
「そうだわ。」と春果さんは、目を輝かせて、
「純の詩を2部買って帰る。そして、1部に『ありがとう。』って書いて、
 彼の机の中に入れておく。」そう言った。

「それ、賛成!また、私の詩が売れる!」

二人で笑い合った。

青い鳥が一羽、
辺りを飛んでいるような気がした。



新宿編第一部 完

最高の贈り物(新宿編10 後編)

8時にお店に行って、早速ママに聞いた。
「ボク、詩人の白石かずこらしい人と会いました。
 その人『かずこ』としか言わなかったので、わかりません。
 それで、その人、喫茶店でボクの詩を見てくれました。
 そして、ボクのこと話したら、今日このお店にボクを見に来るって言ってました。」

「その人、典子ママのこと知ってるみたいでした。」
「かずこさん?うーん、分からないなあ。」とママ。
「あ、ここでは、洋子さんで通してるそうです。」
「ああ、洋子さんね。一度会えば忘れられない方よね。」とママは笑った。
「はい。すごいオーラの人でした。」



その日の私は、ピンクと白のストライプのワンピースに、太い白のベルト。
金属のイアリング。ウィッグは、ブラウンで、前髪のある、肩のあたりで外巻きになったもの。
髪には、ピンクのリボンがついたカチューシャ。靴は白いハイヒール。

今日は、午前4時までなので、私は心して働いていた。
「今日のナナちゃんは、なんか可愛いなあ。」とお客から言われた。
「今日のナナだけですか?」と私。
「いやいや、もちろんいつも可愛いよ。」とお客さん。
私は、お客さんに、このくらいの切り替えしができるようになっていた。

かずこさん、来るかなあと思って時計を見た。
12時を過ぎていた。

そのとき、ドアの外で気配がして、
かずこさんが、二人の女の子を連れて入って来た。
「あ、洋子さん。いらっしゃい。」とママが言った

「ママ、今日、ナナちゃんに付いてもらってもいい?」とかずこさんは言った。
「どうぞ、ちょうど奥の椅子が空いています。」とママ。
洋子さんは、一番奥に座った。その横に二人の女の子。

メイクをきちんとし直しているかずこさんは、シャープでとても綺麗な人に思えた。

かずこさんは、私を見て、
「へーえ、ナナちゃん。可愛いわ。思った以上よ。来てよかった。」とほめてくれた。
「うれしいです。」と私は、照れくさそうに言った。

私は、二人の女の子が気になっていた。
二人の女の子は、羽織っていた長いオーバーをとると、
なんと二人とも浴衣を着ていた。(冬なのに。)それも目にも鮮やかな斬新は浴衣。
髪を後ろでまとめ、アップにして、ステキなかんざしを差している。
二人ともとても可愛い。

私はおしぼりを三つ持って、
「いらっしゃいませ。どうぞ。」とおしぼりを洋子さんに渡した。
そして、次の女の子…。
「えーと、由香に加代よ。」と洋子さんは、言った。
由香さんと加代さんにおしぼりを渡した。

洋子さんは水割り。可愛いお二人は、ラーメンと水割りをたのんだ。

「どう?ナナちゃん、可愛いでしょ。」洋子さんは、二人に言った。
「ほんとっすね。すげー可愛い。」と由香さんが言った。

私は一瞬、耳を疑った。可愛い浴衣の少女から、野太い男声と男言葉が出てきたから。
「ほんと、めちゃ可愛いっす。」と言う加代さんも、男声で男言葉だ。
それに、二人とも、女らしい仕草をまるでしない。
せっかく浴衣を着ているのに、時々腕を組んだりしていた。

「この子達ね、あたしの家によく来て、女装だけするの。
 でも、女っ気ゼロなのよね。あり得る?
 だから、ナナちゃんの爪の垢でも飲まそうと思って連れてきたの。」と洋子さんは言った。


私は、由香さんと加代さんからいろいろ質問を受けて、それに答えていた。

そのうち、洋子さんが、「何か書ける紙ない?そこの紙ナプキンでいいわ。」と言った。
私は薄い4つ折りになっている紙ナプキンを渡した。
洋子さんは、ナプキンに何か書き始めた。



由香さんと加代さんと私は、けっこう話が盛り上がってしまった。
とにかく男丸出しの愉快な人たちだった。

「どうして、お二人ともそんなに可愛いのに、女らしくしないんですか。」と聞いた。
由香さんが、
「いやあ、遊びで化粧してみたら、女に見えたんで、うれしくなっただけかな。」と言う。
「俺もそうかな。なんか女に見えるって、うれしいじゃん。」加代さん。
「心の中に、女の部分があったりしないんですか。」と私。
「全然。ただ、女装のみ。」と由香さん。
「俺もかな。」と加代さん。
「ナナちゃんは、商売上女っぽくしているだけでしょ?」と加代さん。
「ちがいます。女でいたいんです。」と私。
「女でいるって、めんどくさくね?毎日のお手入れとか見てて大変そう。」と由香さん。
「そのめんどくさいことが、喜びなんです。」と私。(ちょっと、ウソ。)

由香さんと加代さんと話していて、
女装する人にも、いろいろあるなあと思った。

洋子さんは、そのうち書き物をやめて、
ずっと私達が話すのをおもしろそうに聞いていた。
ときどき、突っ込みを入れたりして。
私は、時を忘れて、みなさんと話してしまった。
何度も笑わされた。



時計は1時を回っていた。

洋子さんはママに、
「この子達、未成年だから、そろそろ帰るわ。お勘定。」と言った。

由香さん、加代さんは、オーバーを羽織り、
三人は、ドアに向かった。

私は、見送りにドアのところに行った。

「じゃあ、ね。」と言った洋子さんは、
「おっと、忘れるところ。」と言って、胸ポケットに入っていた紙ナプキンを私にくれた。
「ナナを見てたら、言葉が出てきたの。ナナ、これ、もらってくれる?」
私は、お礼を言って、紙を受取った。

3人が出て行った後、その紙を開いて見た。
詩が書いてあった。
ちょっとむずかしい表現の詩で、意味がほとんどわからなかったけれど、
がんばって読んで行った。
すると、最後に2文字、「白石」とサインがあった。

「わあ!やっぱり白石かずこだ!」と思った。
すごい、私のために詩を書いてくれた。
この詩は、家宝にしなくちゃ。
喜びが胸の奥から湧き上がってきた。
私は、急いでドアの外に出たけれど、3人の姿はなかった。

店に帰って、ママにこっそり見せた。小声で、
「ママ、見て。白石だって。私が聞いた名前は、かずこさん。」
「まあ、じゃあやっぱり?」ママもそっと喜んでくれた。

私は、急いで、その紙ナプキンを布バッグにしまった。
そうかあ、白石かずこさんは、ボクの詩をあんなに丁寧に見てくれたんだ。
そのことが思われて、
うれしさと感謝の気持ちでいっぱいになった。

お客さんに聞かれた。
「ナナちゃん。何かあったの。幸せそうな顔してるよ。」
「ええ、ステキな人に最高の贈り物をいただきましたから。」と言って、
「水割りのお代わりいかがですか。」とお客様に聞いた。



詩人白石かずこのような人(新宿編10 前編)

この頃、一回の投稿記事が、長くなり過ぎていることに気が付きました。

前の「アメリカ編」くらいの長さに戻そうと思います。そこで、今回も前・後編に分けました。

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土曜だったので、早めに新宿駅に行って、詩の店を出した。
このところ、ずっと女の子として売っている。
女の子が地べたに座るのは、あまりカッコよくないので、
小さな折りたたみ椅子を持っていき、
それに座っていた。

午後の2時くらいだったろうか、
背の高い30歳代後半くらいの女の人が来て、
「詩を見ていい?」と私に聞く。
足元まである長い白のコートを着ている。
「どうぞ。」と行ったら、
その人は、しゃがんで、私が積んである詩の1冊を取って読み始めた。

私はその人の顔を見た。
午後2時だというのに、起きたばかりようで、
しかも、昨夜のメイクも落とさずに寝たのか、
太く目元まで長く引かれたアイラインは、ヒビが入りところどころはげている。
髪は茶に染められていて、ライオンのように広がっている。
すごい迫力の人。



「あのさ。」とその人は言い、
「詩の中では、全部、ぼく、ぼくって書かれているんだけど、
 あなたは、いわゆる『ぼく少女』?」と聞いた。

「『ぼく少女』ってなんですか?」と私。
「ほら、女の子で、自分のこと「ぼく」って呼ぶ子いるじゃない。
 そういう女の子のことよ。」とその人。

私はなぜかその人には、本当のことを、言った方がいい気がしていた。
その人のオーラがすごくて、ごまかせない感じだった。
「ぼくは、男です。」そう言った。
すると、その人は、私の顔をじっと見て、それから、うれしそうな顔をした。
「女の子に見えたわ。ステキね。1冊買うわ。」と言った。
「100円です。」
「ああ、万札しかないわ。」ってその人は言う。
「あ、じゃあ、只でどうぞ。」と私は言った。
「そういうわけにはいかない。じゃあ、ちょっと喫茶店行かない?
 コーヒーおごる。私も詩が好きだから、感想も言いたいし。」
「はい。行きます。ちょうどコーヒー飲みたかったんです。」私は店を片付けた。
「あなたのペンネームは、苗字無しの『純』ね。」
「はい。」
「じゃあ、あたしは、それにならって『かずこ』。全部ひらがな。」その人は言った。

そのとき、私は、もしやと思った。
この人は、詩人の白石かずこ…。
自由奔放、踊りが好きな、異色の詩人。
私が持っている白石かずこの詩集に、小さく写真が出ていた。
似ていなくもない。
でも、まさか…と思った。
年齢が私よりずっと上なのに、全然えらぶったところがない。

相手が苗字を名乗らないのに、それ以上聞いてはいけない気がした。
違うかもしれないし。



かずこさんは、ある喫茶店のドアを開け、
「眩しすぎる。」と言って、3軒も回って、
4軒目に、やっと落ち着いた喫茶店に入った。

コーヒーを飲みながら、かずこさんは、私の詩をつぶさに見て、
「ほら、この詩は、この部分がいらないのよ。」と。
「はい。」と私。
「ここだけ、具体的過ぎるでしょ。せっかく広がったイメージが、ここで収束しちゃう。」
「はあ、なるほど。」

私は、自分の詩を、こんなに丁寧に見てくれる人は初めてだった。
親や友達だって読んでくれないのに。
だから、私は、感激して聞いていた。
そして、かずこさんの指摘はどれもうなずけるものだった。

8編の詩を全部見てくれた。(感激!)

それから、雑談をした。



「夜はどうしてるの?」と聞かれた。
「ゴールデン街のお店でアルバイトしてます。」
「裏方?」
「いえ、…ホステスです。」
それを聞くと、かずこさんは、手をたたいて喜んだ。
「やるわねえ。純。かわいい女の子になって立ってるんだ。」
「可愛いかどうかは…。」
「いや、純なら相当いけるわ。
 あたし、化粧した可愛い純を見に行きたくなった。今日行くわ。場所教えて。」

「ラーメン食べられるところなんですけど…。」
「あ、じゃあ、典子ママのところ?」
「わかるんですか?」
「ゴールデン街でラーメン食べられるところは2軒しかないの。
 で、女装バーは典子ママのところだけ。」
「典子ママを知ってるんですか。」
「知ってるわよ。変わってる人だから。」
「どうなふうにですか?」
「だって、ラーメンやってること自体、十分変わってるでしょう。」とかずこさんは笑った。
かずこさんは、さらに、
「私は、典子ママのところでは、洋子で通してる。」
 
「ボクは、お店では、ナナっていう名前です。」
「わかった。ナナちゃんね。可愛い名前。」


つづく

ママの説得(新宿編9 後編)

ママは簡単な自己紹介をして、典子と名乗った。
私は本名を言った。
お父さんは、憮然としている。
お母さんは、おろおろしている。

「単刀直入に申し上げます。」とママは切り出した。
「夏樹さんの心の大半は、女性かも知れないと私は見ています。
 心の大半が女性なのに、体は男性です。これは、生きて行く上で、大きな苦痛です。」

すると、お父さんは、
「だから私は、父親として夏樹を男子として鍛えてきたつもりです。」と言った。

「心の性別は、いくら鍛えたって、変わりません。
 例えば、お母様に申します。お母様は当然ご自分を女性だと思っていらっしゃる。
 でも、今、体が男性だったと思ってみてください。
 体が男だから、じゃあ明日から男装をして、男として暮らそうと思われますか。」
「それは…。」とお母さんは、言っただけだった。
「詭弁だ、それは。」とお父さん。

「違います。日本でも欧米でも、過去において、体と心の性が不一致の患者に、心を体の性に近づける試みが多くなされました。しかし、成功例は限りなくゼロに等しいものでした。」ママは言った。

お父さんは、
「第一、あなたは、夏樹とどれだけの付き合いがあるのですか?」と言った。
「3回お会いしました。」とママ。
「3回会っただけの人間が、夏樹のことをどれだけわかる。」とお父さん。
「時間や、回数の問題ではありません。
 それをおっしゃるのなら、お父様、お母様、生まれたときから夏樹さんと十数年も暮らしながら、
 夏樹さんの一番大切な心の中心を理解されておられないでしょう。」ママは言った。

「じゃあ、本人に聞いてみよう。夏樹、お前の心を一番理解しているのは誰だ。」とお父さん。

リナは、即答した。
「典子さんと純さんです。やっと私を分かってくれる人に出会えました。」
「何を!」とお父さんが、拳を上にあげた。
二人のお兄さんが、それを止めた。

ママは、言った。
「ご両親に申し上げます。大半いえそれ以上の女性の心を持ち、
 容姿も声も女の子にしか見えない夏樹さんが、
 小学校、中学校、高校と、一体どれだけ辛い思いで今まで来たことでしょうか。
 さんざんからかわれたことでしょう。いじめられたりもしたでしょう。
 一人ぼっちで、学校生活を耐えて来たのです。そして今も耐えているのです。
 それを、お考えではなかったのですか。夏樹さんの辛い心の内を分かってあげて、
 慰めや、ねぎらいの言葉は、なかったのでしょうか。
 何らかの相談を専門機関になさらなかったのでしょうか。
 なさったことは、男らしくしろと叱咤し鍛える、それだけだったのでしょうか。

 だから夏樹さんは、誰にも迷惑が掛からないように、部屋に一人のときは、
 辛い気持ちを、女の子として日記に綴り、心の中では女の子でいたのです。
 夏樹さんの唯一の心の支えであったその日記を破いて捨てるとは何事です。
 破く前に、日記をきちんと最後までお読みになったのですか。最後までお読みなら、
 とても破いて捨てることなどできなかったはずです。夏樹さんの真実の心が分かったはずです。
 お父様が、破いて捨てたのは、夏樹さんの『心』そのものです。」

毅然と座っているママの頬に涙が流れていた。

お父さんは、横を向いた。お母さんはうなだれていた。

リナは、涙ながらに言った。

「からかわれて、嫌がらせされて、辛いとき、お母さんに何度も言った。でも、お母さんは、『あなたが男らしくしないからよ。』って、そればっかりだったじゃない。ぼくは、精一杯男らしくしてきた。でも、できない。顔や声は、どうやって男らしくすればいいの?ボクをこういう風に産んだのは、お母さんやお父さんじゃない。顔や声もボクのせいなの?自分ではどうにもできないよ…。」

そう言って、リナは泣きじゃくった。

お母さんは、両手で顔を覆って、初めて泣き出した。

上のお兄さんが、がばと立った。
そして言った。
「オヤジィ。典子さんから、ここまで説明されて、分かんないのかよ。
 俺には十分過ぎるほどわかった。俺は、これから誰がなんと言おうと、
 夏樹は、俺の妹だと考える。」

リナがお兄さんを見た。

下のお兄さんも、お父さんに近づいた。
お兄さんは、目に涙をためていた。

「夏樹は、小学校のときも、中学校のときも、
 学校の校庭でいつも一人ぼっちだった。
 夏樹をからかう奴らを何人も見た。
 助けてやろうと思ったけど、兄きが出て行ったんじゃ、
 夏樹が後でもっとからかわれると思って、出ていかなかった。
 俺は、夏樹が可哀相でならなかった。
 だけど、どう助けていいか分からなかった。
 だから、俺も今から、夏樹は俺の妹だと思うことにする。
 夏樹、今まで何もしてやれなかった。許してくれ…。」

リナは、下のお兄さんを見て、うなずきながら、涙を流した。

やっと、お父さんが言った。
「じゃあ、典子さん。私達はどうすればいいんですか。」

ママは言った。
「家の中では、夏樹さんの女装を認めてあげてください。
 そして、女性として振舞うことを認めてください。
 外出も、支障のない限り、女装で行かせてあげてください。
 髪を長く伸ばすことを、認めてください。
 幸い、夏樹さんは、女性としての容姿と声に恵まれています。
 女装をした夏樹さんは、だれも男の子だとは思いません。
 そんな願いが叶えば、夏樹さんは、もう女装のことで悩むことはなく、
 その分、学校での勉強に打ち込めると思います。」

お父さんは、しばらくうつむいていた。やがて、リナを見て、
「お前の願いは叶える。しかし、勉強だけはしっかりやれよ。」
そう言った。お父さんの精一杯の言葉だと思った。

「お父さん…。」とリナはお父さんに言った。

「夏樹。」とお母さんが呼んだ。
リナはお母さんのところへ、行った。
お母さんは、目に涙をいっぱい浮かべながらリナを抱きしめた。そして言った。
「ごめんなさい…夏樹。長い間、辛い思いをさせたわ。お母さんが間違っていた。」
「お母さん。」
リナは言って泣いた。



玄関を出るママと私を、リナのご家族が見送ってくれた。
その中に、お父さんもいた。

ママと私が振り返ったとき、リナが追いかけてきた。
リナはママに抱き付き、
「ありがとう、ママ。一生忘れない。」
そう言って、涙を見せた。
ママは、にっこりうなずいて、リナを抱いた。

そして、私にもリナは抱き付いて、
「ありがとう、ナナ。ナナに出会えて本当によかった。」
そう言った。
「リナ、新しい日が始まるね。」
私は微笑みながら言った。
「うん。」とリナはうれしそうにうなずいた。

私達が、道の角を曲がるまで、リナはずっと見送っていた。



「ママ、今日のママは、最高にかっこよかったです。
 惚れ惚れしちゃった。」
と私は言った。

「ご家族がわかってくださって、よかったわ。」
とママは言った。

私は、リナがこれから女の子として、
家の中でうれしそうにしている光景を思い浮かべていた。
お母さんといっしょにお料理をしたり、
お兄さんに後ろから抱き付いて驚かせたり、
お父さんの肩を揉んだり。
女の子として、お母さんとショッピングに行く。

「いいなあ、リナ。」と私は言った。
「ナナもお家で女の子でいたい?」とママ。
「そりゃそうですよ。」と私。
「ナナは、だめ。心の7割は男の子だから。」
「残り3割じゃ、ダメ?」
「ダメです。」

ママと二人で笑い合った。

ママが、
「ナナ、そう言えばあなた、髪型、可愛いわ。美容院行ったの?」って。
「ママったら、今ごろ!バッグもコートも新しいんです!!」
私は、ママをバカバカ…とたたいた。

「ごめんなさい。今日はリナのことで頭いっぱいで。」
「許します。」と私。
「さあ、お腹がすいてるわ。レストラン、行きましょう。」
「賛成!リナのお祝い!」

私の機嫌は、いっぺんで直った。

リナの家出(新宿編9 前編)

日曜日。
私は、詩を売るとき、女の子に見られたいと思って、
美容院に言った。
私は長髪だったけれど、なにしろ、鳥の巣のようにぼさぼさ髪だったから。

椅子に座って、美容師さんに、
「男の子にも、女の子にもなれる髪型にして欲しいんです。」
と頼んだ。
「あの、失礼ですが、お客さまは、女性…?」
と言われた。
「男です。」
「まあ。そうですか。お声を聞いたものですから。失礼しました。」
と美容師さんは言った。

まだ若い、女性の美容師さんだ。

「難しいご注文ですけど、なんとかやってみます。」
と美容師さんは、ハサミを手にした。

美容師さんは、私の髪の長さを揃え全体の量を減らし、前髪を、額が見え隠れするよう梳いてくれた。眉を隠すすれすれの長さ。

私の髪は、すれすれ肩のあたりの長さになり、ぱらぱらっとした前髪。
膨れ上がっていた髪は、頬に沿ってストレートになった。

「今、誰が見ても女性だと思いますが、どうですか?」
「はい、女の子に見えます。」
「このまま髪を手でぐちゃぐちゃにして、前髪を斜めにして、太目の眉を見せます。
 どうですか、男の子になんとか見えませんか?」
「ほんとだ、男の子にかろうじて、見えます。」
(さすが、プロだと思った。)

「髪をブラシで整えて真っ直ぐにします。そして、前髪を下ろすと、女の子に見えます。
 ちょっと手で、ぐしゃぐしゃにすると男の子で何とか通ります。そのときは、眉を見せた方がいいです。お客様の眉は太目ですから。眉を細くしたら、もうどうやっても男の子に見えません。」
美容師さんは、そう言った。



美容院を出た私は、すごくいい気分だった。
理想の髪型になった。
詩を売るときは、女の子で行こう。
家に帰ったら、男じゃなくちゃいけないし。

私は、その日、女の子の髪型にして、フード付のキルティング・オーバー(安物)を買った。
もちろん女物。ウエストが細くなっていて、
長いので、私の小さなお尻を隠してくれる。
これを着てれば、女の子に見える。
中は、いつもの黒いとっくりのセーター。
黒のコットンパンツ。

それから、パッチワークの布バッグを買った。
前のより、少しグレードアップ。
それから、安いポシェットを買って、
その中に、簡単な100円化粧品を入れた。



午後の3時。
詩を売りに行くには、少し早い時刻だった。
私は、家に帰ってごろごろしていた。

その内、電話がかかった。
「○○リナさんって方からよ。」と母が言う。
え?と思ってすぐ電話に出た。
ママのマンションからの帰り電話番号を教えてから、3日しか経ってない。

「ナナ?」とリナはせっぱ詰まった声だ。
「どうしたの?」
「家を出てきちゃったの。今、公衆電話。ナナに会いたいの?」
「どこにいるの?」
「新宿。」



私達は、新宿の「滝沢」という談話室で会うことにした。
コーヒーが高いけど、プライバシーを保てる。

私は、新調の女の子ルックをしていた。

リナは、ジャンパーを着て、小さなボストンバッグを持っていた。
泣きはらしたみたいで、目が少し腫れている。

リナがいうには、リナが女の子として書いている日記を親に見られたという。
母親が見つけ、父親がそれを読んで、カンカンに怒られたという。

「男のくせに、何だこれは!」と父親は怒り、日記を破り捨てた。
「お前を鍛えなおしてやる。」と言って、竹刀を持たされ、庭で散々たたかれたという。
そのあと、「お前を坊主にしてやる。」と言って、ハサミを持ったが、
それだけは、母親がなんとか止めたという。

リナは、上に二人、男兄弟がいる。二人ともがっちりしたスポーツマン系だという。
どうして、リナだけが…という思いが、両親にはあったのだろう。

父親は、最後に、「勘当だ。出て行け!」と言ったという。

そこで、リナは、「出ていきます。」との置手紙をして、
親が見ていないときに、出てきたという。

「ボストンバッグには何が入っているの。」と私は聞いた。
「着替えとパジャマと、破れた日記と、少しのお金。」とリナは答えた。

私は、これは自分に手の負えることではないと判断して、ママに相談することにした。



ママに電話して、ママのマンションに行った。
幸いママは、まだ在宅だった。

ママは、すべての話を聞き、
「リナ、さぞ辛かったでしょうね。」と言って、リナを抱いた。

「まず、ご両親が捜索願いを出さないで済むように、電話をしておきましょう。」とママは言った。

リナの本名は、「夏樹」と言った。

ママは電話した。電話に出たのは、お母さんのようだった。
ママは、言った。

「私は、新宿でスナックを営む、典子というものですが、
 夏樹さんは、今、私の自宅で預かっています。
 勘当されたということで、夏樹さんをお返しできません。
 もし、夏樹さんを理解し、勘当を解きたいというお気持ちがおありなら、
 お電話をください。そのときは、夏樹さんをお返しします。
 但し、それは、夏樹さんの心を理解し、建設的な道を考えるということが条件です。」

ママは、そう言って、電話番号と名前を伝え、電話を切った。
そして、私に、
「ナナ、今日、お店はお休みにするわ。お店に行って、貼り紙をしてきて。」
そう言った。
リナは、
「私のために、そこまでしてくださって、すみません。」と言った。
「いいのよ。リナ。これは、リナの一生の問題だから。」そうママは言った。



電話はなかなか掛かって来なかった。
その間、ママは、簡単な夕食を作ってくれた。

電話は、夜の9時を過ぎた頃、掛かってきた。
お母さんが言うには、夏樹を連れて自宅に来てくれという。
「一人、夏樹さんの友人を連れて行きますが、いいですか。
 夏樹さんが、最初に頼っていった友です。」とママは言った。
「かまいません。」とお母さんは言った。



リナの家は、新宿から遠くないところにあった。
立派な家構えだった。

リナのお母さんが出てきて、私達は、応接間に通された。
そこには、大きなテーブルがあり、座布団が敷かれていた。
ママは真ん中に座り、私とリナは両脇に座った。

おかあさんは、一度引っ込み、お父さんと二人で来た。
それから、二人のお兄さんも来て、テーブルから少し離れたところに座った。


つづく。

リナと二人で(新宿編8 後編)

ベッドルームの毛布を足元に畳んで、リナをベッドの真ん中にねさ・せた。
部屋を少し暗くした。
(リナは、これから何が始まるか知っている。)
リナが荒・い呼吸をしていることがわかる。

「リナ、はじめて?」と私。
「キ・スも初めてだった…。」
「わあ、じゃあ、ナナがファースト・キ・スを奪ったの?」
「そう…。ナナが初めての人。うれしかった。」
「リナのくちび・る、すごく柔らかかった。」
「ナナのくちび・るも柔らかかった。」

「リナ。ナナが、お洋服をぬ・がせてあげる。いい?」
リナはうなずいた。

私は、リナのセーラー・服のリボンを取り、
前ファスナーの上着に手をかけた。
(ああ、手が震・るえる。リナが本当の女の子に思える。)

リナの白いスリ・ップが見えてくる。
(それだけで、私の胸は高鳴り、興・奮が押し寄せる。)

上着をぬ・がせた。リナの細くて白い腕。

同じ女・装の子だと知っているのに、手が震えてたまらない。



リナのスカートのファ・スナーに手を掛けた。
そして、スカートを下・ろす。

リナの白い太・モモがあらわになる。
女の子を思わせる脚。感激!

リナは、体をこわばらせて、緊張に耐えている。

「ナナも、今スリ・ップだ・けになるね。」
私はそう言って、自分でスリ・ップ姿になった。

そして、リナの元へいき、毛・布を二人の胸まで掛けた。
そして、だ・き合った。
「お姉・様…。」とリナは言った。
そう呼ばれたことがうれしかった。
「リナ…。」私は答えた。
「キ・スして。」リナが小声で言う。
くち・びるを合わせる。

キ・スをしながら、私はリナの体をな・でていった。
胸、背中、腰、そして、太・もも…。どこもかも柔らかい。

リナの呼吸がどんどん荒くなる。

私は、リナの薄い下・着に手をかけた。
「リナ、いい?」
リナは答える代わりに、うなずいた。

私は、それをそっとお・ろした。
「ああ…。」とリナが両手で顔を覆った。
私は、そばにあったテ・ィッシュを重ねて、リナの熱いぶ・ぶんに巻いた。
そして、そっとそれを動かした。



リナを愛・撫しながら、私はリナの上に重なり、
リナにくちび・るを重ねた。
くちび・るを離すたび、リナは、私の名を呼んで、
私にしがみつき、あ・えぎ、
女の子の声を上げた。


やがて、断・末・魔の声を上げて、リナは体を大きく痙・攣させて、果てていった。



リナは、ぐったりとして、幸せそうに目を閉じていた。



私は、リナの幸せそうな寝顔を見ているだけで、十分だと思った。
でも、リナは、その内、パチッと目を明けて、
「今度は、リナがお姉・様をなぐ・さめてあげる。」と言った。

「リナ、いいわ。」私は少し見栄をはった。
「ダメ。お姉・様も、幸せになるの。リナ、やり方覚えたから。」



その後、リナは、私がリナにしてあげたことをしてくれた。
可愛いリナがしてくれていると思うと、夢のような気がした。

そして、私は、いつの間にか、たくさんの女の子の声を上・げて、リナにしが・みつきながら、果・てた。



毛布の中で、リナと私は抱・き合って、心の波が静まるまで、時を過ごした。



ママが帰ってくるまでに、私達は、セーラー服に戻って、
メイクを直し、ベッドも元のように戻して、
何事もなかったように、二人で、ガールズ・トークをしていた。

ママは、1時ごろ帰って来た。
部屋の様子や、私達の様子を見て、
ママは、私の顔を見た。

(どうだったの?できたの?)という目での質問。

私は、目でママに答えた。
ママはにっこりし、私にウィンクした。



ママがおいしいイタリア料理を作ってくれた。

食べながら、私は言った。

「ママ、リナったら、ナナの二倍女の子。」

そういって、猫の写真集を見ていたときのリナのようすをママに言った。

「昨日、新宿のお散歩に行ったときも、リナの歩き方は、完璧に女の子歩きだった。」私。

「リナは、うんと女の子なのね。」とママはリナに優しい声で言った。

リナは、言った。
「リナは、女装ができなかったから、その分、一人のときは、女の子ごっこやってたの。
 心の中で、自分をリナって呼んでたし、心の中でしゃべる言葉は、全部女の子。
 それから、女の子の心で、日記を書いてたの。
 女の子の字で書いてた。女の子の描く女の子の絵や落書きも描いてた。
 もちろん、部屋では女の子座りしていたし、仕草や表情も女の子風にしてた。」

「それじゃあ、学校で、女の子が出ちゃったでしょう?」と私。

「うん、出ちゃった。何かあったとき、『キャー』なんて反応が出ちゃったし、
 『いや・~ん』なんて言葉も。」とリナ。

「ママ、どうしたらいいの。リナみたいな子に対して。」私。

「ナナはないの?そんなこと。」とママ。

「ないない。男のときは、見かけ女の子風でも、言葉や動作は男でいると思う。」と私。

「リナは、心が半分女の子なのよ。それを外では、男の子の演技してる。
 演技だから、ときどき気を抜いたとき、女の子が出ちゃう。」とママ。

「でも、リナは女・装したとき、興・奮しちゃうわよね。」と私はリナに。

「ええ。興・奮しちゃう。」とリナ。

「だからって、TVだけとは限らないわ。
 私みたいに、女性願・望でレ・ズだったなんて、ややこしいのがあるし。」とママは言った。

要するに、性のあり方は、人それぞれだという結論になった。



ママは、リナに言った。
「リナ。あたしのマンションに、毎週土曜日来てもいいわ。
 ここで、思い切り女装すれば、少しは気が済むでしょう。
 そして、後の日は、がんばって勉強するの。リナにも夢があるでしょう。」

「わあ、ナナも来ていいですか?」と私。

「もちろんよ。二人の方が賑やかでいいわ。
 ナナはアメリカ留学っていう夢があるの。リナは?」

「リナは、獣医になりたいんです。」とリナ。

わあ、知らなかったと、ママと私。



ママとさよならして、一応男姿のリナと私。
手をつなぎたいけど、男姿だから止めておいた。

駅に続く坂を夕日が照らしていた。

「リナ。これボクの、電話番号と本名。」
そう言って、メモを渡した。
「じゃあ、ボクも」と言って、リナは、紙に書いて、そのメモをくれた。
(あ、女の子文字。)

「リナの声は女の子にしか聞こえないから、女の子として掛けてきてね。」と私。
「ナナの声も女の子だから、女の子として、掛けてきてください。」とリナ。
「何か辛いとき、掛けてきて。」
「はい。」とリナ。

新宿駅が、もう目の前だった。

「リナ、あそこの男の人に、『新宿駅はどこですか?』って聞いてみる?」
「近過ぎますよ。」とリナ。

二人で笑った。

リナと二人で(新宿編8 後編)

ベッドルームの毛布を足元に畳んで、リナをベッドの真ん中に寝させた。
部屋を少し暗くした。
(リナは、これから何が始まるか知っている。)
リナが荒い呼吸をしていることがわかる。

「リナ、はじめて?」と私。
「キスも初めてだった…。」
「わあ、じゃあ、ナナがファースト・キスを奪ったの?」
「そう…。ナナが初めての人。うれしかった。」
「リナの唇、すごく柔らかかった。」
「ナナの唇も柔らかかった。」

「リナ。ナナが、お洋服を脱がせてあげる。いい?」
リナはうなずいた。

私は、リナのセーラー服のリボンを取り、
前ファスナーの上着に手をかけた。
(ああ、手が震るえる。リナが本当の女の子に思える。)

リナの白いスリップが見えてくる。
(それだけで、私の胸は高鳴り、興奮が押し寄せる。)

上着を脱がせた。リナの細くて白い腕。

同じ女装の子だと知っているのに、手が震えてたまらない。



リナのスカートのファスナーに手を掛けた。
そして、スカートを下ろす。

リナの白い太股があらわになる。
女の子を思わせる脚。感激!

リナは、体をこわばらせて、緊張に耐えている。

「ナナも、今スリップだけになるね。」
私はそう言って、自分でスリップ姿になった。

そして、リナの元へいき、毛布を二人の胸まで掛けた。
そして、抱き合った。
「お姉様…。」とリナは言った。
そう呼ばれたことがうれしかった。
「リナ…。」私は答えた。
「キスして。」リナが小声で言う。
唇を合わせる。

キスをしながら、私はリナの体を撫ででいった。
胸、背中、腰、そして、太股…。どこもかも柔らかい。

リナの呼吸がどんどん荒くなる。

私は、リナの薄い下着に手をかけた。
「リナ、いい?」
リナは答える代わりに、うなずいた。

私は、それをそっと降ろした。
「ああ…。」とリナが両手で顔を覆った。
私は、そばにあったティッシュを重ねて、リナの熱い部分に巻いた。
そして、そっとそれを動かした。



リナを愛撫しながら、私はリナの上に重なり、
リナに唇を重ねた。
唇を離すたび、リナは、私の名を呼んで、
私にしがみつき、あえぎ、
女の子の声を上げた。


やがて、断末魔の声を上げて、リナは体を大きく痙攣させて、果てていった。



リナは、ぐったりとして、幸せそうに目を閉じていた。



私は、リナの幸せそうな寝顔を見ているだけで、十分だと思った。
でも、リナは、その内、パチッと目を明けて、
「今度は、リナがお姉様を慰めてあげる。」と言った。

「リナ、いいわ。」私は少し見栄をはった。
「ダメ。お姉様も、幸せになるの。リナ、やり方覚えたから。」



その後、リナは、私がリナにしてあげたことをしてくれた。
可愛いリナがしてくれていると思うと、夢のような気がした。

そして、私は、いつの間にか、たくさんの女の子声を上げて、リナにしがみつきながら、果てた。



毛布の中で、リナと私は抱き合って、心の波が静まるまで、時を過ごした。



ママが帰ってくるまでに、私達は、セーラー服に戻って、
メイクを直し、ベッドも元のように戻して、
何事もなかったように、二人で、ガールズ・トークをしていた。

ママは、1時ごろ帰って来た。
部屋の様子や、私達の様子を見て、
ママは、私の顔を見た。

(どうだったの?できたの?)という目での質問。

私は、目でママに答えた。
ママはにっこりし、私にウィンクした。



ママがおいしいイタリア料理を作ってくれた。

食べながら、私は言った。

「ママ、リナったら、ナナの二倍女の子。」

そういって、猫の写真集を見ていたときのリナのようすをママに言った。

「昨日、新宿のお散歩に行ったときも、リナの歩き方は、完璧に女の子歩きだった。」私。

「リナは、うんと女の子なのね。」とママはリナに優しい声で言った。

リナは、言った。
「リナは、女装ができなかったから、その分、一人のときは、女の子ごっこやってたの。
 心の中で、自分をリナって呼んでたし、心の中でしゃべる言葉は、全部女の子。
 それから、女の子の心で、日記を書いてたの。
 女の子の字で書いてた。女の子の描く女の子の絵や落書きも描いてた。
 もちろん、部屋では女の子座りしていたし、仕草や表情も女の子風にしてた。」

「それじゃあ、学校で、女の子が出ちゃったでしょう?」と私。

「うん、出ちゃった。何かあったとき、『キャー』なんて反応が出ちゃったし、
 『いや~ん』なんて言葉も。」とリナ。

「ママ、どうしたらいいの。リナみたいな子に対して。」私。

「ナナはないの?そんなこと。」とママ。

「ないない。男のときは、見かけ女の子風でも、言葉や動作は男でいると思う。」と私。

「リナは、心が半分女の子なのよ。それを外では、男の子の演技してる。
 演技だから、ときどき気を抜いたとき、女の子が出ちゃう。」とママ。

「でも、リナは女装したとき、興奮しちゃうわよね。」と私はリナに。

「ええ。興奮しちゃう。」とリナ。

「だからって、TVだけとは限らないわ。
 私みたいに、女性願望でレズだったなんて、ややこしいのがあるし。」とママは言った。

要するに、性のあり方は、人それぞれだという結論になった。



ママは、リナに言った。
「リナ。あたしのマンションに、毎週土曜日来てもいいわ。
 ここで、思い切り女装すれば、少しは気が済むでしょう。
 そして、後の日は、がんばって勉強するの。リナにも夢があるでしょう。」

「わあ、ナナも来ていいですか?」と私。

「もちろんよ。二人の方が賑やかでいいわ。
 ナナはアメリカ留学っていう夢があるの。リナは?」

「リナは、獣医になりたいんです。」とリナ。

わあ、知らなかったと、ママと私。



ママとさよならして、一応男姿のリナと私。
手をつなぎたいけど、男姿だから止めておいた。

駅に続く坂を夕日が照らしていた。

「リナ。これボクの、電話番号と本名。」
そう言って、メモを渡した。
「じゃあ、ボクも」と言って、リナは、紙に書いて、そのメモをくれた。
(あ、女の子文字。)

「リナの声は女の子にしか聞こえないから、女の子として掛けてきてね。」と私。
「ナナの声も女の子だから、女の子として、掛けてきてください。」とリナ。
「何か辛いとき、掛けてきて。」
「はい。」とリナ。

新宿駅が、もう目の前だった。

「リナ、あそこの男の人に、『新宿駅はどこですか?』って聞いてみる?」
「近過ぎますよ。」とリナ。

二人で笑った。

リナの女の子度(新宿編8 前編)

これを、投稿しますと、苦労して投稿した映像が下に行っちゃうのですが、

まあ、いいか。第三の映像をと思ったら、また失敗しました。何事もうまくいった試しがありません。

==============================

次の日の木曜日。
お店はお休み。

ママは、私とリナをマンションに遊びに来てもいいと言ってくれた。
リナは、試験休み(昔は、そんなのがありました。)でちょうどよかった。

リナと9時半に新宿駅の西口で待ち合わせ、ママのマンションに向かった。
リナは昨日と比べて、ずっとリラックスしていた。

「リナいい?ママのマンションでは、ていねい語使っちゃいけないんだよ。」
「どうしてですか。」
「マンションはお店ではないから、みんな友達どうしだからだって。」
「わあ、ナナさんにだったら、できそうだけど、ママには難しいな。」
「すぐなれるよ。」

やがて、マンションについた。
4階に上がったら、ドアが開いていた。
「ママ、入ります。」と私。
「いいわ。どうぞ。」とママの声。

入ってみたら、ママが衣裳部屋で、椅子に乗って何か探してる。
「わあ、ママ、すごい衣装。みんなママの?」と私は聞いた。
「何、探しているんですか?」とリナ。
「リナ、ここでは、友達言葉で話すんだよ。」と私。
「はい。ママ、何探してるの?」とリナはいい直した。

「あ、あった。」とママは棚の上から、平たい箱を出した。
「2着、あるはずよ。」とママがうれしそうに言った。
ふたをあけると、そこに可愛いセーラー服があった。
夏服みたいで、スカートやセーラーの部分、胸のリボンがみんな水色だった。

「ママ、それ、リナとナナのため?」と私。
ママは、笑って、
「リナ、高校生だし、二人とも10歳代に見えるから、いいと思って。」とママ。
「憧れのセーラー服です!」とリナが感激している。
「ママ、これ、お店で着たの?」と私。
「むかーしね。『セーラー服の日』っていうのがあって、ホステスさんみんなで着たの。」
「へーえ、年配のお客さん、喜んだでしょう。」と私。
「バカ受けだったわ。」

ママはその箱を私に渡して、
「シャワーは?」「浴びてきました。」と二人。
「じゃ、早く着替えてらっしゃい。下着は白よ。出しておいたから。」と言った。



私はリナに、女の子に見えるショーツの履き方を教えてあげた。
「ほんとだ。女の子みたい。」とリナはえらく感心していた。

ブラをつけて、白いスリップ。
「リナ、今日は、自分でメイクやってごらんなさい。」と私は言った。
リナは、どうにかこうにかメイクを済ませた。
「リップが、濃いわ。ピンクの口紅を薄くでいいわ。」
「はい。」とリナ。

リナにウィッグをかぶせてあげた。
「ウィッグは、後ろから回してかぶるのよ。」
「はい。」
今日は前髪のあるボブで、髪が昨日のより長い。
「セーラー服だからかな。」と思った。

私もボブ。リナとほとんど同じだった。
(ママは、双子に見えるようにしてくれたんだ。)そう思った。
私もメイクを終え、スリップ姿になった。

「わあ、ナナさん、ロングだとまたステキです。」リナ。
「リナ、ナナのことは、『ナナ』の呼び捨てよ。それに友達言葉!」
「あ、ナナ、ロング、ステキだわ。」とリナは言い直した。

「さ、セーラー着てみましょう?」
「ええ。」
着ながら、リナが言う。
「リナね。中学のとき、体育で見学して一人教室にいたの。
 そのとき、みんな制服を机の上に置いていくでしょう?
 リナ、好きな女の子の制服が着たくて、その子の机のそばに行って、
 きちんと畳まれてあるその子のセーラー服ずっと見てた。
 ものすごく、着てみたかったけど、我慢した。」
「着ちゃえば、よかったのに。」と私は言った。
「ダメよ。そんなとこ人に見られたら、親呼び出されちゃう。」とリナ。

二人で服を着終わった。商売用のものらしく、スカートは、膝上のミニだった。
白い上着部分は、前ファスナーだったので、着やすかった。
最後の大きなリボンを、お互いに付けあった。

「可愛いわ、リナ。現役だものね。」
「ナナだって、最高に可愛い。ナナは、16歳くらいに見えるもの。」とリナ。
「それをいうなら、リナは中学生よ。」
二人で笑った。

ならんで、鏡を見た。同じヘアスタイル。
薄いメイク。
二人で手をつないで、ちょっと抱き合ったりしてみた。
「『二人のロッテ』ね。」
「ええ。」とリナはいった。

最後に白い長靴下をはいて、ママの所へ行った。
ママは、ソファーで新聞を読んでいた。
私達を見て、

「まあ、似たもの同士が二人、ロッテちゃんだわ。」とママはうれしそうに言った。



ママは、ソファーを立って、バッグとオーバーを持った。
「ちょっと昼の買い物に行ってくるわ。二人でお留守番していてくれる。」そう言う。

ママは出掛けに、私を呼び、耳元で言った。
「ベッドルーム、使っていいわよ。」

「わあ、ママ。」と私はママを見て言った。

ママは、ちょっとウインクをして、ドアの外に行った。



私はママの本棚から、子猫の写真集を見つけて、
リナのところへもって行った。
二人で、肩を寄せ合って、ページをめくった。

めくるうち、リナは、
「きゃーあ、これ可愛い。」と両手で握りこぶしを作ってアゴに当てている。

(ああ、リナは、心が女の子になってしまっている。)

「ね、ね、ナナ見て、この猫アクビしてる。リナ、我慢できな~い。」
そう言いながら、リナは胸に手を当て、足をバタつかせている。

(もう、リナは女の子度100パーセントになっている。)

「や~ん、これも、これも、これも、可愛い。もうたまらな~い。」

(リナは、もう完全に自分の女の子の世界に入っている。)

リナの女の子っ気に当てられて、私は、なんだか男の心が涌いてきそうだった。



私は、なんだかレズビアンのお姉様の気分になっていく。

「リナ。」
私はそう言って、リナの髪を撫でた。

リナは猫の本を見ている。
私はリナの背に腕を回して、リナを少し引き寄せた。
リナの視線が、やっと私に移る。

私はリナの鼻にキスをした。それから頬に。
「ナナ…。」と言おうとするリナの唇を、奪った。
リナの柔らかな唇に感激した。
リナが少し震えていた。

唇を離したとき、リナはうつむいていて、
「あの、リナ、感激…。」と言った。

「そう?じゃ、もっとしよう。」
私は言って、リナと何度もキスを重ねた。

リナの息が少しずつ荒くなっていく。

「リナ、ベッドルーム、行こう?」
私は、リナの耳元でささやいた。
リナが、ドキンと胸の鼓動を鳴らしているのがわかった。

「うん。」とリナは、うつむいて、恥かしそうに、私に手を引かれていった。


つづく。

リナと二人で夜の新宿を散歩(新宿編7 後編)

リナが落ち着くまで、
小部屋の中で、壁に寄りかかって、並んで座った。

「落ち着いた?」と聞いた。
「少し。」
「よかった。」
「ぼく…。」
「あ、リナは女の子だから、自分のこと、リナって呼ぶと可愛いわ。すぐに慣れるわ。」
「大丈夫です。ぼくは、心の中で、自分のことずっとリナって呼んでいたから。」
「そうなの。かわいいな。」
「リナね。さっき、ナナさんに抱いてもたったとき、心臓がドキドキしました。
 女の人に抱かれたの初めてだったから。」

(リナは、私のこと女の子だと思ってたんだ。リナには言おう。)

「ナナは、男よ。」
「え?」と言って、リナが私を見た。
「ほんとう?」
「ええ。」
「わあ、感激です。完全に女の人に思えました。」
「リナは、もっと女の子に見えるわ。」



「ママがね。こんなこと言うの。リナとナナは、『同じ人種』だって。」
私はちょっと笑った。
「でも、意味だかわかった。」
「どんな?」
「リナは女声。ナナも。リナは女顔。ナナも。リナは女の子の匂いがする。ナナもそうなんだって。」
「ほんとだ。すごく似てます。」

「普段でも女の子に間違われない?」
「間違われてばかり…。」
「苦労してる?」
「苦労してます。」
「トイレとか。」
「そうです!」リナが嬉しそうな顔をした。
「おっと、ここは男子だぞって、あれ?。」
「そうなんです!ナナさんも?」
「あれ、悲しいわよね。」
「だから、リナは、髪の毛をわざと短くしてるのに…。」
「それでも、言われるんだ。」
「はい。」



「リナ、学校でいじめられていない?」
「いじめられてはいないけど、一人ぼっち。」
「休み時間なんかどしているの?」
「一人で本を読んでいます。」
「それしかないわよね。」
「はい。」リナはちょっとうつむいた。
「今までで、よかった本は?」
「『二人のロッテ』。」
「あ、かわいい。あれ、ナナも大好きだった。」
「リナは、ロッテみたいに双子だったらいいなって、何度も思った。」
「ナナもよ。双子だったら、二人で女装して、話合えるのにって思った。」
「同じです。」と言って、リナが笑った。

「でも、もう私達、二人のロッテよ。」
「ナナさんとリナで?」
「そう。同じ人種だもん。字だって一文字ちがいよ。」
「あ、ほんとだ。」
二人で手を取って笑った。



リナのお化粧直しをして、ママと近藤さんへリナを見せに行った。
「はい、リナちゃんの誕生でーす!」

「おお、白雪姫じゃないか。」と近藤さんは、喜んだ。
「可愛いわ。ナナと姉妹みたい。」とママ。
「姉妹じゃないの。双子なの。二人のロッテなのよ。」と私は言った。



「遅くならないうちに、早くお散歩に行ってらっしゃい。」
とママに言われた。

ママが持って来てくれたオーバーコート。
リナには白いのを。私は黒いのを。
コートに合わせたバッグを肩から下げた。

バッグが軽くない。中を見ると、化粧品やハンカチまで入っている。

「わあ、ママ。ここまでしてくださったの。」と私。
「気が利くのよ、あたし。お金は入ってないから、自分で入れてってね。」をママが笑う。



リナと私は手に手をとって、お店を出た。
ゴールデン街をさっと抜け、新宿通りに出た。

夜の10時を過ぎているというのに、通りはまだまだ人がいる。

クリスマスが近くて、クリスマス飾りのお店が並んでいる。
店からのクリスマス・メロディーが、通りに流れている。

私達は、新宿駅を目指して歩いていった。

「リナ、幸せです。ナナさんみたいな人と、新宿の外を歩けるなんて、夢にも思わなかった。」
とリナが言う。

「リナ、ほらウインドウを見て?」
閉店したお店のショーウインドウに、二人の姿が映っている。
コートを着た、女の子が二人。私達は、しばらくそれを眺めた。
「だれも、男の子二人だとは思わないわ。」私は言った。
「そうですね。」リナも言う。

歩道の人々とすれ違う。

スーツを着た男性や、学生風の男の子。
たくさんの人の視線を感じる。

「女の子になるとわかるでしょう?
 男の人がどれだけ女の子を見ているか。」私。
「リナ、男とバレているのかと思いました。」
「多分逆よ。あたし達、可愛いなって見られていると思うわ。」
「なんだか、うれしい。」
「ときどき、振り返って見て?すれ違って、もう一度私達を見て行く人もいるわ。」

リナは、ちょっと振り返った。
「ほんとだ。さっきの人振り返って、私達を見てました。」



「リナ、あそこから来る男の人に、道を聞いてごらんなさい。
 新宿駅はどこですかって。」私。

「だって、目の前ですよ。」とリナ。

「いいの。声パスするか試すの。リナなら絶対だけど。」

男の人が近づいて来た。

「あの、新宿駅はどこですか?」とリナは聞いた。

男の人は、リナと私をまず見てから、
「あ、あの目の前のビルですよ。」
そう言い、ちょっと微笑んで通り過ぎていった。

「わ、リナ、初声パス!」と私。
「ジロっと一瞬見られました。」
「リナが可愛いからよ。」



新宿の駅構内に入った。
私が詩を売っているように、通りにしゃがんで手製のブローチを布に広げて売っている男の子がいた。
髪を伸ばしていて、少し可愛い。

「リナ、今日のフィナーレ。あの男の子とお話ししちゃいなさい。」
「はい。」とリナ。

リナはつつっと、男の子の方に行って、しゃがんでブローチを見始めた。
私は、少し離れたところで、見物。

「見ていい?」とリナ。
「うん、よく見て。」と男の子は言った。
リナが見ている間、男の子はリナばかり見ている。
(リナ、モテてると思った。)

「どうやって、作るの?」
男の子は、うれしそうに作り方を説明した。
「ふーん、大変なんだ。」とリナ。
「あのさ、可愛いね。」と男の子が言った。
「誰が?」とリナ。 (リナ、やるなあと思った。)
「君のことに決まってるじゃん。」
「あ、ありがとう。」リナは男の子を見て、ニコッと笑った。
「働いてるの?」
「うん。」
「何して。」
「喫茶店でウエイトレスしてる。」
「ふーん、えらいね。」
「ありがとう。これ、買います。」
リナは、ブローチを1つ買った。

リナが私のところへ来るまで、男の子はずっとリナを見ていた。

私のところへ来たリナは、
「ああ、男の子と話しちゃった!」とうれしそうにはしゃいだ。
「リナ、クールだったわよ。感心していたの。」私。
「なんか、心の中が、完全に女の子になっていました。」
「男の子の前では、自然に女の子なってしまうでしょう。」
「はい。そうでした。」



「そろそろ帰ろう。」と私は言った。
「はい。」とリナ。
 
帰り道で聞いた。
「今日のお散歩で、一番よかったことは、なあに?」
「もちろん、男の子と話したことです。」
「彼、リナがブローチ見ている間、ずーとリナのこと見てたのわかった。」
「はい。視線感じて、最高に幸せでした。
 今日は、生まれてから、一番いい日です。」リナが満足そうな顔でそう言う。
「リナの最高の日に立ち合えて、ナナも幸せ。」

二人で、また腕を組んで、ゴールデン街までの道を歩いた。
クリスマスの曲がまだ流れていて、夜の新宿が輝いて見えた。
プロフィール

ラック

Author:ラック
上は若いときの写真です。ISなので、体は、かなり女子に近く発育しました。でも、胸はぺったんこです。戸籍は男子。性自認も男子、そして女装子です。アメリカの大学で2年女として過ごしました。私の最も幸せな2年でした。そのときの自叙伝を書いています。また、創作女装小説を書いています。毎日ネタが浮かばず、四苦八苦しています。ほぼ、毎日更新しています。
どうぞ、お出でください。

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