スーパー洋子「私立桜台高校」④「全ては解放に向かって」最終回

4話完結でしたが、投稿してみると、1回が長すぎました。
これまで、読んでくださった皆様、ありがとうございました。
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スーパー洋子「私立桜台高校」④「全ては解放に向かって」最終回



洋子は、教室を出て、校長と理事長、副校長に、ことの一切を話した。
理事長は2代目で若く29歳だった。
温かな人格者であると同時に、大変な経営手腕の持ち主だった。
いつも、大変フランクな話し方をする。

理事長は言った。
「ま、お辞めになった5人の先生には、他の一流校に推薦して、
 なんとか、実害は最小限に食い止めたけどね。
あの3人には、辞めてもらおうよ。2クラスしかない3年生が、
 あの3人のために、1クラスがめちゃめちゃだ。
 Aクラスにいい生徒を集めてるんだからね。
 そっくりT大に行ってもらわないと困る。
 各教科の先生も大変な迷惑をしている。
 
3人には、罪の大きさも、わからせた方がいい。
 下手をすれば、来年の受験に、T大合格者ゼロ人になる。
 そうなったら、桜台のランクはガタ落ちだからね。
 早い所手を打とう。
 なあに、親が大学教授だろうがなんだろうが、娘がそんなワルでは、
 いさせるわけにはいかないよ。
 いいチャンスだ。倉田先生はよくやってくれた。」
校長は、
「理事長がそうおっしゃるなら、異存はありません。
 ただ、両親と娘共に、謝罪をされたらどうしますか。」と言った。
理事長は、
「それは、そのときの親の態度、娘の態度によるね。
 本気で心の底から反省しているなら、許す場合もあるかもね。」と言った。

このような、話になった。

3人は、荷物をまとめて、校長室に来るように放送があった。

3人は、校長室に来た。
そこで、校長はまず3人に退学希望の用紙に記入させ、提出させた。
「君達の退学希望は、受理されました。明日からこの学校へ来なくてもいいです。
 なお、今日の7時から保護者への説明をしますから、君達も来なさい。
 その場で、君達からはっきり退学の意向を述べなさい。」
校長はそう言った。
校長は、3人に、なんの弁明の余地も与えなかった。

3人は、どこかの段階で自分達は許されるのではないかと、願っていた。
しかし、退学が現実となり、真っ青な顔をしてうつむいた。
親にも弁明させないと、先生に言い切った。
退学は、決まった。
3人は、そのまま家に帰された。

帰宅への道で、夏子は考えていた。
もともと先生を辞めさせる目的でやったのだから、弁解の余地もない。
これまで3人で、5人もの先生を辞めさせた。
クラスの授業でも、先生の上げ足をとり、
授業を中断させたことは、数知れない。
クラスのみんなに、とりかえしのつかない罪なことをしてしまった。
みんなが、怒り、恨むのはあたりまえだ。
高校は義務教育ではない。退学はある。
私立校は、営利を考える。
自分のような行為をする生徒は、学校にとって、はなはだ迷惑だ。
夏子は、自業自得だと思い、同時に絶望した。
なんであんなことをして来たのだろうと、
それが、悔やまれてならなかった。


父啓介は在宅で、夏子は、家に帰って両親に事情をすべて話した。
父啓介は、
「じゃあ、しょうがないな。
父さんは、お前の卒業式の姿を見たかったが、あきらめるか。」
そう言った。
母信子は言った。
「夏子は、罪を償わないといけないわね。
 退学したって、なんの償いにもならないのよ。
 学校をお辞めになった先生方は、仕事を失い、苦しい生活をされていると思うわ。
 それを、どう償いますか。
 クラスのみんなの大切な授業を妨害した罪も大きい。
 みんなが、志望の大学へ行けなくなり、みんなの夢をつぶすかも知れない。
 過ぎた6ヶ月の授業は、帰って来ないわ。
 自分のした罪を本気になって考えなさい。そして、償う方法をね。
 あなたの罪は一生消えませんからね。
 母さんは、あなたをもう大学に行かせません。大検など受けさせません。
 明日から、外に出て働いてもらいます。この家にだけは住まわせてあげます。
 働いたお金で、償いをしなさい。」

夏子はうなだれたまま、一言も返せなかった。



「ところで、その先生は、夏子の書き間違えた式を見て即座に、答えたのか。」
父啓介は、言った。
「うん、そう。」
「X5と夏子が間違えた問題をか。」
「そう。」
「その先生の解を見せてくれ。」
夏子がそれを見せると、父啓介は、深く考え込んでしまった。
「なんという。全くの驚きだ。」
「そんなにすごいの。先生10秒くらいで解いたよ。」
「まさか…。」
「そんなに?」

「ああ、普通なら、解法の式が、80を越えるだろう。
 この先生は、4式で終わっている。しかも、正しそうだ。これは数学者の勘だがね。」
「父さんなら解ける?」と夏子。
「馬鹿を言え。X4で20年かかったんだぞ。死ぬまでがんばっても解けないよ。」
「じゃあ、なんで先生が解けたの?」
「だから、驚嘆に値するんだ。父さんは是非その先生にお会いして、お話を伺いたい。」
「じゃあ、あたしが正しく写していたら、あの先生解いたかなあ。」
「お前が渡した間違いの問題の方が、1000倍むずかしい。それが、答えだ。」
「じゃあ、写し間違えなくても、私の負けだったんだ。」
「ラッセル博士の疑問もご存知だったんだろう。世の中には、
我々の想像を絶するすごい天才が5万といるんだよ。
ただ残念なことに、それらの人は学者とはかぎらないんだ。」
啓介はそう言った。

「ラッセル博士といえば、倉田先生は、お父さんのこと、ラッセル博士と並んで、
 世界の5本の指に入る、偉大な数学者だって言ってた。」
啓介は笑った。
「はは、それはうれしいが、若くて優秀な数学者が、
 どっさり、父さんを抜いて行った。
 昔の偉大な数学者は、多くの人が独学だ。
 夏子も、夢をあきらめることはない。」
「うん。」
夏子は、父の言葉を聞き、少しほっとした。



大村夏子、木下朱実、加藤ユカの3人と、
その両親6名が校長室に集まった。
学校側は、理事長、校長、副校長、教務主任、3人の担任、そして洋子がいた。

娘の退学希望の説明を聞いて、どの親も、娘の退学は当然だと言った。
そして、深々と陳謝した。
過去、5人の担任を追い出し、他の教科の先生の上げ肢をとり、クラスに迷惑をかけたこと。
また、そのやり方が、普通の教師なら絶対解けない問題を、質問と偽り、解かせた巧妙さに、悪意を見出し、娘の退学希望にあっさりと同意した。

3人は、親が反論をしてくれると思い、最後の望みをかけていただけに、親のあまりにも簡単な同意に、絶望の色を隠せなかった。

大村も木下も、加藤も、学園生活にまだまだ大きな未練があった。
運動会や、学園祭も楽しみにしていた。卒業記念会もやりたかった。
何よりも、卒業式に出たかった。
また、他校への転学もありえるが、一人成績のいい自分達は、
きっと浮き上がり、いじめられると思った。
今のような、同学力の生徒と共に、勉強することはもう叶わない。

話がまとまり、最後の最後のときだった。
夏子の胸に、こらえきれない学校への思慕が募り、
どうしても我慢ができず、涙が泉のようにあふれてきた。

夏子は、座っているソファーを後ろにやり、
床に正座し、手をついた。
そして、涙ながらに訴えた。
「お願いです。私をこの学校に置いてください。
 お願いします。心の底から後悔し、反省しました。
 自分のしたことが、どれだけの罪であったかもわかりました。
 辞めてしまわれた先生方を訪ねて謝ります。
 クラスのみんなにも謝ります。
 私は、少し成績がよいことで、うぬぼれて増長していました。
 でも、倉田先生のように、私なんかが遥かに及ばない
 天才的な人が、星の数ほどいることがわかりました。
 それに、くらべれば、自分がいかに小さなものかがわかりました。
 これからは、もっと謙虚に、素直に、先生方の言うことをきき、
 決してクラスに迷惑をかけないようにします。
 そして、クラスのために働きます。
 クラスのみんなに、役に立つことなら何でもします。
 学校のために、尽くします。どんな仕事でもします。
 トイレ掃除も、私が一人でずっとやります。
 だから、この学校に通わせてください。
 倉田先生に、謝ったりしないと約束しましたが、
 私は、この学校が好きです。みんなに迷惑をかけた分、
 やり直しがしたいです。
 このままでは、償いもできません。
 私にチャンスをください。どうか、お願いします。」
そう言って、夏子はわあーと泣き出し、床に伏した。

すると、木下、加藤の二人も来て、
夏子の隣に手をついて、泣きながら、
必死であやまった。

親たちは、目を潤ませていた。

理事長は、校長や副校長、洋子と目で対談した。
そして、しばらく考え、やがて、うなずいた。

「もういいよ。3人ともソファにもどりなさい。」と理事長が優しく言った。

3人は、それでも、まだ床にいた。

理事長は言った。
「学校は教育の場でありますし、生徒を裁くところではありません。
 慢心することは、誰にも一度はあるでしょうし、私とて人のことは言えません。
 また、罪にしても、誰もが何らかの罪を背負っていることと思います。
 間違ったら、反省し正すことが大事かと思います。
 取り返しのつかないこともありますが、それは、未来に対し尽くせばよいと考えます。
 3人の反省の言葉を聞いて、真心と見ました。
 よってこの「退学願い」を学校は受理しません。」

理事長は、校長や、親達の顔を見て、
「じゃあ、こういうことにしませんか。」
と言って、3枚の退学願いを破り捨てた。
親達が、一同立ち上がって、理事長、校長、副校長、洋子に深く礼をし、
感謝の言葉を述べた。

床でうつむいている3人に、洋子は、
「退学は、取り消しよ。」と言った。
「え?ほんとですか。ありがとうございます。」
と3人は言った。
「先生、ごめんなさい。これからちゃんとやります。」
と3人は、洋子にしがみついて、再び泣き始めた。

「まずは、クラスのみんなに、どう尽くすかにかかっているわね。
 みんなが許してくれるまで、時間がかかると思うけど、
 3人でがんばれば、少しずつ、わかってくれるでしょう。」
洋子は言った。
「はい。トイレ掃除を毎日やります。
 教室に早く来て、教室をぴかぴかにします。
 みんなが、許してくれたら、勉強のヘルパーになります。
 自分の受験など、後回しにして、みんなのために尽くします。
 がんばります。なんでもします。」
と3人は言った。



皆は、笑顔で散り散りになっていった。

洋子のところへ、夏子と父の大村啓介と母が来た。
「倉田先生、もう、ほんとにこの度は。」と啓介。
「まあ、教授。お会いでき光栄ですわ。」と洋子。
4人は、靴箱に向かい歩きながら、
「ところで、倉田先生は、私の今回の解法をどうご覧になりますか。」と教授。
「それなんですが、オクスフォード大学のラッセル博士は、
 教授の、第8式の3項目のXは、ファジーじゃないか、
 だから、最終式は、ただ確率を表すに過ぎないと、疑問を提出されていますよね。」
「はい、それなんです。頭の痛い疑問です。」と教授。
洋子は言った。
「しかし、私は、もう一つ第7式の6項目のXにもファジーの可能性を感じるんです。
 そこで、ファジーな二つのXが互いに干渉し合うことによって、クリアとなり、
 教授の最終式は、『確率』ではなく、『確定』と断言できるのではないかと思うんです。」
教授の顔に、ぱっと花が咲いた。
「『干渉』ですか!おお、あああ、そうかあ、おおお、いけますな。おおおおお。」と教授は歓喜して、娘を抱いて、くるくる回った。
「いやあ、これは、ありがたい。感謝感激です。
 もう、一体倉田先生は、どんな方なのか、まさに奇跡です。
 私、家に飛んで帰って、倉田先生の今のご意見をすぐに検証したいと思います。
 夏子、倉田先生は、父さんの救いの女神になるかもしれないよ。
 では、いずれ、ゆっくりと。私、すぐにやりたがりなもんですから。」
と、教授は急ぎ足になった。
「先生、ありがとうございました。」と夏子に笑顔が戻っていた。いい顔をしていた。
夏子の母が、「お世話になりました。私、数学はゼロですの。」と笑いながら歩を進めた。



洋子は、先生たちと職員室に帰っていた。
ふと首をかしげた。
これで、使命は終わり、トイレに入り、洋次になって消えるのだろうか。
いやいや、まだ、使命は終わっていない。
心を入れ替えた3人の頑張りを見守らなくてはいけない。
クラスは、勉強が遅れている。
1日2時間の補習が必要で、それは、自分が診る。
3人をアシスタントにして、A,B両クラス診なくては不公平。
補習は、自方式でやる。
これで、Aクラスは、全員T大合格。Bクラスは、20人合格。
合わせて、60人合格だ。
「やったー!新記録だ!」
と洋子は、すごいガッツポーズをとった。
みんなが、洋子を見た。
「洋子先生。何が、やったーなの?」と理事長がにこにこして言った。
「えへへ。来年の受験をお楽しみに。」と洋子は、にまにまとして、
前髪を、ふーと、笑顔で吹き飛ばした。


<おわり>

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スーパー洋子「私立桜台高校」③「決着」 (前・後編)

スーパー洋子「私立桜台高校」③「決着」


「夏子さん、あたしの答えがあっているのかどうか、早く言ってください。
 HRの時間以内に、あたしを追い出すと、後ろで木下さんと加藤さんに話していたわ。
 あと、3分よ。」
洋子は優しく言った。

夏子は、口を開くことができなかった。
クラスのみんなは、息を潜めて、成り行きを見ていた。

3分の間、夏子はだまったままだった。
夏子にとっては、地獄のような時間であった。

「夏子さん、時間が来たわ。あ、でも、1時間目は、あたしの英語だから、伸びてもいいか。」
と洋子は言った。

とうとう、夏子は言った。
「問題を写し間違えました。」
「そんなことは、私の知ったことではありません。
 写し間違えだろが、なんだろうが、
 あなたが、私に解かせたのは、この紙の問題なの。
 あなたが、家庭学習で何をしようと、今は何の関係もありません。
 わかる?
 私は、あなたが出題した問題を一応解いたんです。
 私が解いたら、その答えが正しいか間違いか、答えるのが、
 あなたの義務です。これには、私の母の命がかかっているのよ。
 お遊びのつもりだったの?友達2人の退学もかかっているのよ。
 さあ、○なの×なの?言いなさい!」
洋子は、最後の言葉だけ、凄みを聞かせて言った。

木下朱実と加藤ユカは、生きた心地がしていなかった。
万事休すであることが目に見えていた。
今まで自分達がやって来たのは、答えだけを覚え、
難問を先生達に突きつけることだった。
夏子も同じ。答しか知らないことを、2人はよくわかっていた。

夏子はじっとだまっていた。やがて、じんわりと涙ぐんだ。
やっとのことで、
「すいません、わかりません。」と言い、涙をためて、うつむいて言った。
「あなた、さっき自分で解いて、説明もできると言ったわ。みんな聞いていたわよね。」
「はーい、聞きました。」と残り全員が大きな声で言った。

「それは、コピーの方の数式です。」夏子は言った。
「『コピー』?今そう言いましたか?
 さっきあなたは、自分で考えてワープロで打ったと言いましたよ。
 ねえ、みんな。大村さんは、そう言いましたよね。」洋子は聞いた。
「はーい、そう言いました。」みんながにこにこと答えた。

夏子は、絶体絶命であった。
木村朱里と加藤ユカは、すでに、机の上で泣き顔になっていた。

「じゃあ、100歩譲りましょう。コピーの数式でいいです。
 こっちなら、家庭学習して、自分で解を得たのですね。」洋子は言った。
「はい。」夏子は力なく言った。
「ほんとですね。もう言い直しは聞きませんよ!」
「はい。ほんとうです。」夏子は震える声で言った。

「では、聞きます。あなたは、オクスフォード大学のラッセル博士の『疑問』を、
 どう克服したのですか。」洋子は言った。
思わぬ質問に夏子は、はっとした顔をして、当惑した。
「意味がわかりません。」 
夏子には、他に言葉がなかった。

「お父様から、聞かなかったのですか。」
洋子は、そう言って、教卓から立ち、ゆっくり歩きながら言った。
「夏子さんが、昨夜家庭学習した問題は、
 これまで、何十年と解決不可能とされてきた数式です。
 それを、先月、T大の大村啓介教授が、
 ロンドンの学会で、問題を解き得たかも知れないと、発表されたものです。
 あなたのお父様は、世界の数学者に、その検証を願いました。

 そのとき、5人の博士から、疑問が提出され、
 教授は、そのうちの4つに答えましたが、
 ラッセル教授の疑問に対し、どうしても答えられず、
 今、そのことに日夜没頭されていることと思います。

 夏子さんのいう、X2-ABという解は、まだ、認められていないのです。
 だから、夏子さんに聞いているのです。あなたのお父様でさえ解き得ていないものを、
 どう克服して解き得たのか。その方法を一番聞きたいのは、
 あなたのお父様でしょうね。

 言っておきますが、あなたのお父様、大村啓介教授は、
 小学校時代に「神童」と呼ばれ、小学校を卒業すると同時に、
 オクスフォード大学の数学科に入学されました。
 そこで、わずか3年でドクターコースを修め、
 世界最年少の数学のドクターと言われ、数々の業績を残されています。
 あなたが、教授の娘なら、こんなことくらい知っていたでしょう。

 その大天才のお父様が、20年の歳月をかけて、未だ解き得ていない問題を、
 あなたは、一夜にして、解いたと言う。
 これは、自分が、お父様を超える大大天才だということです。
 あなたは、お父様の顔に、泥を塗るつもりですが。娘の方が上だと。

 さらには、この私なら解けると、『期待して持ってきた』とはっきり言いましたね。
 それは、お父様を、一介の英語教師である私以下の数学者だと言うに等しい。
 お父様は、20年以上をかけて考えていらした。それを、この私が、この場で解けると
 期待して持ってきた。
 これが、お父様をどれだけ侮辱する言葉であるか、あなたは、わかりますか!」
洋子は、ここだけは、すごい迫力で言い放った。
幼児語を使っていた洋子とは、まるで別人だった。

「何とか言いなさい!」洋子は怒鳴った。
「はい、わかります。」と夏子はとっさに言った。
「何がわかったの!」
「父を侮辱したことです。」夏子は言った。

夏子は、洋子の言葉に、縮み上がった。
そして、洋子の圧倒的な知識の前に、身がすくみ、体中が震えた。
こと数学に関して、生まれて初めて味わう完全敗北の思いであった。
まるで、自分はアリのようなもので、
そのアリが、巨大なライオンに向かっているような思いでいた。
そして、心の底から後悔していた。
自分には、退学の覚悟など、露ほどもなかったのだ。
それが、今、思ってもみない現実になりつつあることを認識し、怯えおののいていた。

「さあ、ラッセル博士の疑問です。」洋子は畳み込んだ。
「説明できません。」夏子は言った。
「また、いい直しをするのですか!今さっき、自分でやったと言ったばかりでしょう!」
洋子は、教卓を叩いて、夏子に迫った。

夏子は、身を震わせ、血の気を失っていた。
「すみません。嘘をつきました。父の数式の展開をコーピーして、
 答えだけ覚えていました。
 内容は、まったく理解していません。」
そこまで言って、夏子は、わっと泣き出した。

「あなたは、こうやって、今まで5人もの先生を辞めさせてきたのですね。
 自分が解けもしない問題を、答えだけ覚えて、先生に解かせた。どうなの!」
「はい、そうです。」夏子は泣きながら言った。
「木下さん、加藤さん、立ちなさい。あなたがたも、同じですか。」
「はい。答えだけ覚えて、先生をやりこめました。」
2人は立って、涙を流していた。

「では、夏子さん。あなたの負けでいいのかしら。」
「はい。」
「では、席に戻りなさい。」洋子は言った。

「木村さん。加藤さん。座りなさい。異存はないですね。」
「はい。」
二人は、泣きながら、うなずいた。
二人とも、洋子の迫力に、恐れおののいていた。

「では、私は、これから、3人の退学の意向を理事長、校長に伝えてきます。
 3人は、帰りの支度をして、呼ばれるまで、教室で待っていなさい。
 やがて、3人は、校長室に呼ばれます。
 校長にはっきり退学の意志を伝え、そこで退学願いを書きます。
 夜、3人の保護者の立会いの元で、正式に退学が決まります。
 3人は、親には謝罪させないと、私と約束しました。
 その約束は、守ってもらいます。だから、3人の退学は、決定も同然です。
 私は、その手続きがありますから、これで失礼します。」
洋子は教室を後にした。

夏子は、机につっぷして、泣くばかりだった。
あとの2人も、約束上、夏子を攻めることもできず、ただ泣くばかりだった。

クラスのみんなは、3人に対して冷たかった。

一人が、たまりかねて、自分の靴を夏子に投げた。それは頭にあたった。
投げた生徒は泣きながら言った。
「なによ、なんなのよ。泣けばいいと思ってるの?
 4月からあたし達は、あんた達のおかげで、
 ろくに授業をうけられなかった。
 あたしたちが、どれだけ迷惑だと思っていたかわかってるの。
 私達の6ヶ月の授業をどうしてくれるのよ。
 どう取り返してくれるのよ。
 私の好きだった先生を2人も辞めさせて、
 どうも思っているのよ。ふざけんじゃないわよ。
 自分達が負けて、終わりなの。
 退学したって、私達の失った月日はもどってこないのよ。
 それをどうしてくれるのよ。
 もう、絶対学校へ来るな。あんた達の顔も見たくないのよ。」

また、別の一人が泣きながら言った。
「そうよ、あんた達は、学年のトップ3で、いいかもしれないけど、
 あたしなんかは、先生の授業を必死で聞いて、
 それで、家に帰ってまた復習をして、やっとなのよ。
 その授業が、あんたたちのおかげで、
 今までろくに聞けなかった。もうT大へ行けない。死ぬまで恨んでやる。
 この学校を、早く出て行け!」

3人目の生徒が言った。
「あんた達を止められなかった私達もいけなかったのかも知れない。
 でも、あんた達は、学年のトップ3。
 その3人が組まれたら、あたしなんか恐くて何も言えないのよ。
 みんなもそうだったと思う。
 あたしは、T大に入るのが夢で、小学校のときから、必死でやってきた。
 みんなが遊んでいるとき、遊びたい気持ちを我慢して、全部勉強して来た。
 夢があるから、我慢して来た。
 それが、あんた達の授業妨害で、ほとんど勉強ができなかった。
 もう遅いのよ。今からじゃ、T大に受かりっこない。
 あたしは、家が貧しいから、浪人なんてさせてくれない。
 あんた達は、私の夢を奪った。」
その生徒は、号泣した。

クラス中の生徒が、靴やカバンを手当たり次第、3人に投げた。
そして、クラスのみんなは、悔し涙に泣き始めた。

3人は、ただ、頭をかばって、机の上で泣くばかりだった。
3人は、まさか、自分達が、これほどまでみんなに憎まれているとは、
思っていなかったのだった。
先生降ろしという劇を、痛快なものとして、
みんなが一緒に楽しんでいるものと思って来た。
授業妨害も、退屈な授業を中断させることで、
みんなは喜んでいると思って来た。
そんな自分達は、みんなの英雄だと思い、得意満面でいたのである。
今、みんなの言葉を聞いて、自分達の大きな思い違に気づいた。
そして、自分達の罪の大きさをやっと認識し、
それが、身に沁みてわかったのだった。

次回は、(「ことの成り行き」最終回です。)


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スーパー洋子「私立桜台高校」②「夏子痛恨のミス」


スーパー洋子「私立桜台高校」②「夏子痛恨のミス」


木下と加藤を席に着かせた。
大村が、問題を持ってきた。
それを、見せようとしたので、洋子は、

「ちょっと待って。あなたは、その問題の答えを完全に理解しているのね。
 つまり、何を聞かれても、答えられるんですね。」と言った。
洋子の言葉に、
「はい。」と大村夏子は言った。

「これは、私を辞めさせるためのものなの?
 それとも、私がその問題を解ける教師であることを期待してのものなの?」
「期待してのものです。」と夏子。
「じゃあ、私が解けるかも知れない問題なのね。」と、洋子。
「私が解けました。それが答えです。」大村は言った。

「じゃあ、あなたの期待はずれだったら、私はこの学校を辞めるのね。
 大村夏子さん。そういうことなの?」
「そうです。でも、先生がお解きになれば、問題はありません。」
と大村夏子は言った。
『上手いこと言うなあ。』と洋子は、変に感心した。

「これは、場合によって、私は、仕事を失うという大変なことなのです。
 私は、病気の母をかかえているのね。私の収入がないと、
母は病院にも行けず死んじゃうの。
 わかってくれる?
 だから、私は、これからそれだけの覚悟で、
大村さんの挑戦を受けようとしています。

 天下の桜台女子高校、成績ナンバー1の大村さんのね。
 いやだけどさ。できれば、逃げ出したいわよ。
 あたしって、お馬鹿だから、挑発に見事に乗ってるわけ。
 だから、大村さんも、それだけの覚悟をしてね。」
洋子は、言った。
「どういうことですか。」大村夏子は言った。

「大村さん。私があなたの問題を解いたら、この学校を辞めてください。
 退学願いを出してね。受理されなくても、学校に来なければいいの。
 あなたと私、勝った方が学校にいられます。
 イーブン・イーブンでないと、不公平でしょ。」
洋子の言葉に、クラスは、一瞬ざわざわとなった。

大村夏子は、先生が解けないという絶対の自信があった。

夏子は、数学の天才児と小学校のときから言われてきた。
小学生のとき、高校の微分積分などの数学を終了し、
中学を経て高校生となり、T大学の数学科の内容をほぼ理解していた。
数学に関しては、絶対的な自信を持っていた。
その夏子が、先生に突きつける問題に関し、さらに絶対を期した。

夏子の父は、T大の数学教授だった。
その問題は、父が最近やっと解きえた数式であるのだ。
世界ではじめて、夏子の父が解いたかもしれないと学会で発表した。
それを、英語教師がとけるはずもない。
ただ、式の説明をしろと言われると、まずい。
さすがの夏子でも、世界の数学のレベルには達していない。
父の数式は、夏子でさえ、チンプンカンプンである。

自分は、答えを知っているだけで、途中の展開など全くわからない。
だが、かまうもんか。
こんな中学生みたいな教師が答に到達できるはずがない。
必ず途中でギブ・アップだ。
多分、数式を見たとたんお手上げだろう。
だから、説明の必要はない。
朝から、早口で出席をとり、ふざけた幼児語を使う。
夏子はそれも気に入らないでいた。

「あたし、辞めます。先生が解けたら、きっぱり辞めます。」夏子は言った。
「あたしも、夏子の問題を先生が解いたら、一緒に辞めます。」木下朱実が言った。
「あたしもです。一緒にやめます。」加藤ユカが言った。

「ほんとに、いいの?
 あたしが、問題解いたらさ、後から、よくあるのよ。
 夏子さんのせいにしてね、
『夏子、先生じゃ絶対解けないって言ったじゃない。』
『どうしてくれんのよ。』なんてさ。」
洋子は言った。

「そんなことしません。」木下と加藤はきっぱり言い切った。
「ほんとね。人のせいには、しっこなしよ。」
「くどいです。」と木下と加藤は言った。

洋子はさらに言った。
「親がどれだけ謝って来ても、
 校長がどれだけ帳消しにしてくれても、
 私が解けたら、3人は自分の意志で必ず退学しますね。
 後で謝ったり親頼みで謝って来るなんてみっともないマネしませんね。
 私は、母の命をかけているんですからね。」

「後で謝ったりしません。親にも謝らせません。」と3人は胸を張った。

「ここをやめたら、あなた達を受け入れる学校なんてないわ。
 桜台で先生いびりをして退学した子を、どの高校が受け入れますか。
 もし、受け入れてくれる学校があっても、
 あなた達は、苦労するわよ。あなた達とは、ぜんぜんタイプの違う子達がいる。
 いじめられるかも知れない。
 あなた達は、中学卒業という学歴になって大学にはいけないわ。
 あ、でも、大検って方法があるか。司法試験という手もあるわ。
 あれは、学歴を問わないから。じゃあ、いいかもね。」
洋子は、最後を軽く言った。

「わかっています。覚悟の上です。」夏子は言った。
「木下さん、加藤さんは?」洋子は聞いた。
「何度も言わせないでください。」二人は言った。

「おーい、クラスのみんな聞いたあ?」と洋子はみんなに言った。
「はい、聞きました。」とみんなは、しっかりと言った。
やはり、クラスのみんなは、本心ではこの3人を嫌っている、というより恨んでいる。
洋子はそうにらんだ。

クラスのみんなは、このおもしろい対決に、内職をするものは誰もいなかった。
洋子の余裕に、何かを期待していた。

「では、見せてちょうだい。」
洋子は言った。
夏子は、洋子に問題の紙を渡し、そこに立っていた。
洋子は、問題を見て、露骨に、「げっ!」と言う顔をした。
夏子は、にやりとした。
クラスのみんなは、一瞬失望の色を見せた。

数式は、夏子の手書きのものだった。

洋子は、ふーと前髪を吹き上げた。
「なんとまあ。ここまで、やらせるの?」
などと言いながら、洋子は、鉛筆を走らせたのだった。
夏子は、「まさか。」と思った。一瞬、不安が胸をよぎった。

10秒も経たなかった。

「はい、できましたよ。」
と洋子は、にっこり夏子に見せた。
夏子は、その答えを見て、にんまりとした。

「先生、答えが違っています。」と夏子。
「あってるわよ。」と洋子。
「違っています。」と夏子。
「あなたに、それがわかるの?わかったら大変です。」と洋子。
「昨日自分で考えてワープロで打ったものがあります。」夏子は言った。
「じゃあ、見ちぇて。」と洋子は、再び幼児語になった。

夏子は、用紙を持ってきた。
ワープロで打ったなんていうのは、とんでもないウソで、
ある雑誌の1ページをそっくりコピーしたものだった。

「わかったわ。で、あなたが私にくれた問題の答えを言ってください。」
洋子はやさしく言った。
「X2-ABです。そこに書いてありませんか。」と夏子は誇らしげに言った。
「これには、そう書いてあるわ。
 私が言っているのは、あなたが、私にくれた問題の答えを聞いているのです。」
洋子は言った。
一瞬、夏子は、きょとんとした。

「問題の数式が違うのだから、同じ答えになるはずがないです。」洋子は言った。
夏子はまだわからなかった。
「2つの問題をよく比べてご覧なさい。」
洋子は言った。

夏子は、わずかな不安にかられ、問題を見比べた。
そして、自分の問題の写し間違いに気が付いた。
17番目の文字は、X4であるのに、自分は、X5としていた。
夏子は、真っ青になった。


つづく(次回は、「決着」です。)


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プロフィール

ラック

Author:ラック
上は若いときの写真です。ISなので、体は、かなり女子に近く発育しました。でも、胸はぺったんこです。戸籍は男子。性自認も男子、そして女装子です。アメリカの大学で2年女として過ごしました。私の最も幸せな2年でした。そのときの自叙伝を書いています。また、創作女装小説を書いています。毎日ネタが浮かばず、四苦八苦しています。ほぼ、毎日更新しています。
どうぞ、お出でください。

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