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ウルトラ美容師・高杉修 ⑥ 「高杉・入魂のウエディング・ドレス」最終回

ウルトラ美容師・高杉修 ⑥ 「高杉・入魂のウエディング・ドレス」最終回


これで、仕事ができる。
修は、依頼者をはっきりさせ、依頼者の願いをしっかりと確かめたかったのだ。

帰り道、有香が言った。
「修さんは、どんな服を作るのかな。」
「ステキなステキな、ウェディングドレスさ。」
「何か、特別な?」
「うん。特別も特別。命がけで作る。」修は言った。

修は、ウェディングドレスと新郎の正装を、その日のうちに作った。
針金だけのマネキンがドレスを着ていた。
有香は、そのウェディングドレスを見て、あまりにステキで、ため息をついた。
修は有香に言った。
「ぼくは、これから、3日3晩、断食の業に入るから、
 そっとしておいてくれる?」
「うん。わかる。あたしの声を治してくれたようなことでしょう。」
「その通り。」修は、にこっと笑った。

外で、遠藤は、首を傾げていた。
『何のための断食の業だ。ドレスはできているのに。
あんなに素晴らしいドレスなのに・・。』

修は、作業台にドレスと男子の正装を置いて、
それを前に、禅を組むようにして、断食の業に入った。

3日が経ち、結婚式の当日である。
今まで、目をつぶっていた修は、パチリと目を開けた。
顔を洗って、白衣を来た。
有香がやって来た。
「ああ、有香、助かる。有香は、ドレスを頼む。ぼく男だから。
 淑江さんへの着せ方を、タクシーの中で言うからね。」
「わあ、あたし、役に立ってる?」
「何言ってるんだよ。有香がいないとやっていけないよ。」
「わあ~。」と有香は、修に抱き付いた。

教会の新婦の更衣室に、新婦淑江が、ベッドに寝ていた。
有香がやって来た。
「さあ、これから、ウエディング・ドレスを着ますよ。」
有香は、修に言われた通り、寝ている淑子の服の上から、ドレスをかけた。
そして、3分待つ。
(即席ラーメンみたいにね。と修は言った。)

3分が近づいてくると、淑江にみるみる変化が訪れた。
曲がっていた体が伸び、指が伸び、脚が伸び、
そして、淑江の顔がどんどん若返り、頬に赤みが差して行った。
そばにいた2人の係りの女性は、目を見張っていた。
「あの、係りの方、あたし、すごく元気になった気がします。
 起き上がれます。」
と淑江は言った。その声が、若かった。

「お鏡を見てください。」と有香は、淑江に鏡を見せた。
淑江は鏡を見た。
「まあ、これは、夢なの。きっと夢だわ。」淑江は言った。
「夢でも、いいじゃないですか。」
と修が顔を出して、淑江の髪とメイクを素早くやって消えた。
淑江の長い黒髪が復活していた。

一方、修に正装をしてもらった洋二も、驚いていた。
「昔の私です。妻に出会った頃の私です。こんな奇跡が起こるのですか。」
洋二は言った。
「はい、たまには、奇跡だって起こります。」修はにこりとした。

式の準備は進んだ。
教会には、数少ない親戚がいた。
神父が登場し、その横に、洋二がいた。
やがて、新婦が来る。

「新婦のご入場です。」と声がかかった。
同時に、ウェディングの音楽がなった。
バージンロードにブーケを持った淑江が姿を見せた。

「淑江・・。」洋二は目を見張った。
初めて会ったときの美しい淑江のままに、その淑江が自分で歩いて来る。
美しい姿だった。
そして、最高のウエディング・ドレスだった。

呼ばれた親族も、みんな感激して涙を流していた。
淑江は、二人の子供に、ウェディングベールの端をもたれ、
ゆっくり歩いてくる。
洋二は、顔中涙でいっぱいにしていた。

淑江は、洋二を見て、にっこり笑った。
やがて、二人は、牧師の誓いの言葉を聞き、
「はい。」と一人ずつ答えた。
指輪の交換をした。
口づけのためにベールを上げ、見つめ合ったとき、
淑江は、ほほ笑みながら、頬に幾筋もの涙を流した。
やがて、口づけが交わされた。

外から窓越しに見ていた遠藤は、感涙にまみれていた。
『よかった、よかった、よかった。』
と心でくり返し、その内、声を上げて泣いた。

修と有香は、教会の入り口で見守っていた。
「お二人とも、若くなった分、長く生きられないの?」と有香が聞いた。
「うん。寿命は変えられない。でも、寿命の終わる最後まで、
 二人は、若い姿でいられるよ。健康な体で、1泊の旅行ができる。」
「よかった。」有香が言った。



5日が過ぎた。
有香がいるときに、修のところへ大倉洋二が訪ねて来た。
「淑江は、3日前に亡くなり、葬儀も無事終わりました。
 そこで、お礼に参りました。
 淑江と私は、あの結婚式と、1泊の旅行で、
 結婚生活のフィナーレを、若いまま、この上なく幸せな気持ちで、
 終えることができました。
 二人で、初めての愛を交わすこともできました。
 最後が幸せなら、その一生が全て幸せなものに思えると聞きました。
 ありがとうございました。
 淑江は、喜びいっぱいに他界しました。」

「ほんの少しでも、お役に立てたのなら、こんなにうれしいことはありません。」
修は言った。
「神様の贈り物と等しい贈り物をいただきました。」と洋二は言った。

「それで、あの、衣装とメイクその他の経費をご請求ください。
 おいくらであっても、お支払いたします。」
「それでは、3万円いただきます。」修は言った。
洋二は大金を用意していた。
「それは、桁が2つ違います。本当の経費をおっしゃってください。」
「奥様のウエディング・ドレスについては、奥様のご依頼です。
 他界された方へは、請求することができません。
 ですから、私が請求できるのは、新郎の服だけです。
 ウエディング・ドレスが主役でしたので、新郎の服は、
 実は、やや手抜きをさせていただきました。
 ですから、3万円は、正直な値段です。」

洋二は、惚れ惚れと修を見た。
「あなたは、なんと欲のない。
 わざわざ、私の家に見えて、淑江から「お願いします。」の言葉を
 聞かれたのは、ドレスの代金を無くするためだったのですね。」
「いえ違います。あれは、ご本人が本当にドレスを希望されているかを、
 確かめるためでした。
 奥様の強い願いがなければ、あのドレスは、作れなかったのです。」

「わかりました。では、3万円をお支払いいたします。
 あなたのご厚意は、一生忘れません。
 では、高杉様と、そちらのお嬢様と、本当にありがとうございました。」
洋二は、深々と頭を下げて、出て行った。

「そうだったんだ。だから、淑江さんの『お願いします。』を、
 聞きに行ったんですね。修さん、ステキ。」と有香が来って言った。
「違うよ。淑江さんのドレスを着たいという強い気持ちがあって初めて、
 ぼくの念が完成したんだ。淑江さんは、洋二さんに、ウエディングドレスを、
 どんなことがあっても見せたいと、強く強く思ってらしたんだよ。」
「そうか、愛があの奇跡を起こしたのね。」
「そういうこと。じゃあ、ぼく達も、上に行って、ニャンニャンしよう。」
「わあ、男性と!ちゃんと指圧してくださいね。」
「何倍も、強力なのしてあげるよ。」
「キャー!」

遠藤は、美容室の外壁にもたれながら、考えた。
「これで、美しい一つの物語のおわり。
 大杉修は、美容の考え方が違うと、あの大畠賢三は言った。
 その通りだよ。次元が全く違う。
 金儲け主義なんて、とんでもない。自分が損してるよ。
 どうしよう。大森ディレクターには。
 あんなディレクターには、もったいなくて聞かせたくない話だ。
 まあ、いいか。適当に言っておこう。」

遠藤は、立って、ヤキトリでも食べに行こうと、
駅への道を歩いて行った。


<おわり>


■次回予告■
このお話の続編があるのですが、掲載しようか、迷っています。
今日一日考えます。



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ウルトラ美容師・高杉修⑤「ウエディング・ドレスをあなたに」<前編>

ウルトラ美容師・高杉修 ⑤ 「ウエディング・ドレスをあなたに」<前編>


テレビ放送局TTBのディレクター森本敦が、
助手の遠藤勉を連れて、赤坂のある美容室を訪れた。
そこは、世界に誇るカリスマ美容師、大畠賢三の美容室だ。
忙しそうな店内であったが、奥の間に通された。

やがて、大畠賢三が現れた。
背は、175cm位で、年は40歳代後半だが、
若々しく、30歳代にも見える。
黒いズボン、黒いシャツの上に、光沢のあるオシャレなベストを着ていた。
森本と遠藤は立った。
「どうも、大畠先生、お忙しいところすみません。
 TTBの森本です。」
そう言って、森本は名刺を出した。
一同座ったところに、茶が出た。

森本が言うには、こうである。
この度、日本のカリスマ美容師6人を集め、「全国カリスマ美容師チャンピオン大会」を開き、全国放映したい。
北九州、大阪、名古屋、東京、仙台から、ナンバー1の美容師を集める。

大畠は、うなずきながら聞いていた。
まんざら悪い顔をしていない。
「で、一人足りませんな。さっき6人とおっしゃった。街は、5つですね。」
大畠は聞いた。

「もう一人、ある人物に来てもらうつもりです。
 その美容師は、世にカリスマを越える『ウルトラ美容師』などと呼ばれていまして、
 しかし、どうもいかがわしい。薄汚い美容室で何をしているかわからない。
 客をその気にさせる術が巧みで、大金を稼いでいるらしいのです。
 我々は、日本はおろか、世界五指に入るといわれている大畠先生に、
 ウルトラなんとやらの化けの皮をはがしてもらいたいというのが、
 番組のもう一つのねらいのなんです。
 大きなホールの舞台で、6人の美容師が並んで、腕を振るっていただく。
 ごまかし様がありません。そんな、企画でおります。」
森本は、そう言って、大畠の顔色をうかがった。

「結果は、目に見えていますな。」大畠は言った。
大森は、やった!という表情で、
「そうですとも。先生にかかっては、ひとたまりもありません。」
と、目を輝かせた。
「勘違いされておられますな。」
と、大畠は、大森を見た。
「私を入れた5人の美容師たちは、己の未熟を嫌と言うほど見せつけられ、
 もう立ち直れず、自滅をしますよ。
 自分が恥ずかしくて、最後まで、競技に参加できず、
途中でハサミの手が動かなくなるでしょう。
 
 私を世界の五指に入ると言ってくださったが、高杉修さんの右に出る人は、
 世界にいない。世界どころが、100年に一人出るか、出ないかの、
 不世出の天才です。
 技能はもちろんのこと、美容に対する考えが、まるで違う。
 その真似は、私達には到底できない。
 私が、憧れ、尊敬して止まない方を、
 よく調べもしないで、放送局ともあろうものが、何を考えているのです。
 それとも、5人の美容師が、圧倒され、己を恥じ、
再起不能になるのを、見たいのですか!」
大畠は、怒り、テーブルをドンと激しくたたいた。

森本敦と助手の遠藤勉は、けんもほろろに追い返された。
外に出た二人。
「大畠先生がああまで、おっしゃるからには、ほんとにすごい人なんでしょうかね。」
遠藤が言った。
「大阪の佐伯忠は、そうは言わなかったぞ。
 売名の上手い怪しい奴だと言っていたじゃないか。」
と森本。
「そうですね。」遠藤は腕を組んだ。
「遠藤君。ウルトラ美容師高杉修に1週間、張り付いてくれないか。
 奴のイカサマを暴き、裏をとってくれ。
 写真は撮らんでいい。もし、ウルトラがほんとに大天才なら、
 局は、大やけどをするからな。」
「はい。わかりました。」



その日の、7時ごろ、有香は、修の美容室に入り、2階に上がって行った。
すると、白衣の修が狭いところでラーメンを食べている。
有香は、修を見るのが初めてであった。
「あ、あ、あ、あ。」と有香は指を差し、「修さんですか。」と言った。
「ああ、びっくりした。今、即席ラーメンに全神経を集中してたんだよ。
 なんで、有香が、ここにいるの?」修は言った。
『あたしのこと知っていてくれてる。やっぱり、修さんだ。』
「わあ~、超イケメン。ああん。あたし一目惚れー。」
「もうすぐ、お客がくるからね。うがいして、歯を磨かないと。
 ああ、後半、ラーメンに集中できなかった。」
「ごめんなさい。あたしが洗うわ。」有香は言った。

しばらくして、ドアのベルが鳴った。
「あたしもついて行っていい。」と有香。
「いっしょに聞いて。相棒だから。」
相棒と呼ばれ、有香は、キャーと喜んだ。
遠藤勉は、ビルの壁に、ピタリと耳を付けていた。

入って来たのは、78歳くらいの白髪の男性だった。
修は、丸椅子を勧めた。
自分は、作業台の椅子を出してすわり、有香は、靴コーナーの椅子に座った。

「高倉洋二といいます。」
「私は、高杉修といいます。あそこにいますのが、相棒の白金有香です。」
「丸椅子におかけください。」
修は、勧めた。

高倉氏は語った。
「私の妻は、難病で、出会ったとき、妻はすでに車椅子でした。
 しかし、私は、妻の淑江に恋をし、周囲の反対を押し切って結婚しました。
 美しい妻でした。
 結婚式を挙げたかったのですが、計画をした日、妻の容体が悪くなり、
 私はとうとう、妻のウェディングドレスを見ることが出来ませんでした。

 妻は、結婚後も、ずっと車椅子でしたが、この45年幸せでした。
 しかし、2か月ほど前から、妻の容体が悪化し、あと5日ほどの命と言われました。
 そこで、私は、妻の最後に、ウエディングドレスを着せてやりたいのです。
 病気のせいで、妻の体のあちこちが曲がっています。
 話もろくにできません。
 もちろん昔のように美しくありません。
 しかし、そんな妻に似合うウェディングドレスを着せてやりたいのです。
 そして、少しでも、綺麗に見えるメイクと、ヘアーをお願いします。
 そして、車椅子でもいい、バージンロードを歩かせてやりたいのです。

 式が終わったら、1泊の旅行をし、妻の最期を看取ってやりたいと思います。
 妻でも着られる、ウエディングドレスと、
私の正装を作ってくださいますでしょうか。」

「わかりました。お引き受けいたします。
 一つ。お相手を見ないと、私は服が作れません。
 そして、奥様から、直接ご依頼を受けたく思います。」
「それなら、明日、我が家に来てくだされば、叶います。」
「では、夜の7時に参ります。」

高倉が帰っていった。
有香が泣いていた。
「どうして、泣いてるの?」修は聞いた。
「だって、おじいちゃんの心が、優しくて。」
「そうだね。だから、最高の結婚式にするんだ。」
修は、上を見上げた。

美容室の外で、遠藤も泣いていた。
そして、自分の張り込みの目的の反対のことを願っていた。
『ウルトラ美容師さん。どうか、その名に劣らず、
 素晴らしい美容をしてください。』

次の日、有香と一緒に、修は、高倉淑江に会いに行った。
斜めになった介護ベッドに、淑江はいた。
昔、美しかったという面影はあった。
「淑江さん。私にウエディングドレスを作って欲しいと願われますか。」
修は言った。
淑江は、うなずきながら、やっとの声で『お願いします。』と言った。
そして、修の方へ、手を差し伸べた。
修は、その手を両手で取り、しっかりと淑江を見た。


■次回予告■

「高杉修、入魂のウエディング・ドレス」後編です。



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ウルトラ美容師・高杉修④「プロフィールの写真」1話完結

ウルトラ美容師・高杉修④「プロフィールの写真」1話完結


有香の来ない平日の5時だった。
ちょうど約束の時刻だ。
男姿の修は、階下へ降りて行った。
次のお客は、50歳くらいの小柄な男性だった。
背広にネクタイを締めている。

立っていた。
「どうぞ、丸椅子におかけください。」
「はい。私は白井幹夫と申します。」
「私は、高杉修です。どうぞよろしく。」
と修は言い、自分は、ミシンの椅子を持って来て座った。
「あのう、美容室とは思えない内装ですね。」
幹夫は、興味津々で訪ねた。
「はい。こういう職人部屋みたいなところが好きなんですよ。」
と修は、にっこりと言った。

「さて、いただいたメールによりますと、
 今日、ブログのオフ会があり、
 ブログのプロフィールに貼ってある写真の女性にしてほしいということですね。」
修は聞いた。
「はい。私は、5年前に、精神的な病に倒れました。
 そして、その辛い気持ちを、毎日綴ろうと思い、
 ブログをはじめました。
 そのとき、プロフィールに自分の素顔を載せるのは、
 なにぶん、精神的な病であるし、
 知人にばれたときまずいと思いまして、
 私が若い頃女装をした時の写真を貼りました。

 その若い25歳の女性に「聡美」という名をつけまして、
 私は、聡美になりきって、ブログを書きました。
 そのうち、私の記事を読んでくださる方が多くなり、
 ぜひ、オフ会を開いて、会いたい、直接お話が聞きたいと、
 何人かの方が、企画をしてくださいました。

 しかし、現実の私は、50歳を過ぎたオヤジです。
 「聡美」という若い女性ではありません。
 だから、出席は、できません。
 私は、企画を立ててくださる度に断わってきました。
 欠席の理由を聞かれても、はっきりと言えませんでした。

 そのうち、「聡美」などという女性はいないのではないか。
 誰かの成り切りではないかとのうわさがたちました。
 それは、違うと、私を信じてくれる人も多くいて、
 私は、心の痛い思いをしました。
 そして、私は、今日のオフ会には出ると言ってしまいました。
 中には、北海道から飛行機で来るという方もいると聞いたからです。

 ドタキャンするか、
 それとも、私の真実をカムアウトするかです。
 しかし、私を若い女性だと思って、がんばって来られた方もいることでしょう。
 そんな方への、カムアウトは辛いことです。
 裏切られたと、傷つけてしまいます。

 そこで、美容の魔術師と言われる、高杉修さんにお願いに来ました。
 私を若い頃の「聡美」にしていただけないでしょうか。

 本来の自分のプロフィールを偽り、
 昔の女装した自分の写真を出したことが罪であるとおっしゃるなら、
 それに、従いあきらめます。」
幹夫は、そう言った。

「聡美さんも、幹夫さんも、同一人物ではありませんか。」
修は言った。
「いえ、年を偽っています。女性と偽っています。」幹夫は言った。

「聡美さんのブログを、過去5年分、拝見しました。
 辛い病気を抱えながら、必死に働き、生きている姿が描かれ、感銘を受けました。
 そして、同じ病の方々の、どれだけの励み、勇気の元となっているか、
 それも、よくわかりました。
 お写真の聡美さんは、空を仰いで、何かを願っているようでした。
 その姿が美しく、聡美さんを心の支えにしている人のお気持ちがわかります。
 そして、聡美さんは、実に魅力的な方です。
 許されない偽りもあれば、許される偽りもあると思います。」修は言った。

「では、私を『聡美』にしてくださいますか。」と幹夫。
「はい。全力を尽くします。」修は言った。

「では、あのプロフィールの写真と同じ服を作りましょう。」と修は言った。
「え?服からですか?」
「はい、その方がみなさん、聡美さんと信じますでしょう。」
修はそう言って、厚手の紺の生地を取り、ジャケットを縫い始めた。
「寸法が分かるのですか?」
「はい。今の幹夫さんと背が同じ、160cm。
 あとは、あのお写真を見ればわかります。」

修は、見る見るうちに、ジャケットを縫い上げた。
幹夫は、魔法を見るように、見とれていた。

「中は、エンジ色のブラウス。下は、ベージュのタイトスカートに見えるキュロット。
 厚めの記事で作ります。」
幹夫は驚いていた。写真は、上半身で、キュロットまではわからないのに。
「どうして、キュロットだとおわかりなのですか?」幹夫は聞いた。
「小さな全身写真がありましたよ。お忘れですか。」
「ああ、そうです。記事の中に1度載せました。」

「黒のロングソックス、黒のショートブーツですね。」
幹夫は、修が、靴を作り始めたことに、さらに驚いた。
「はい。できましたよ。こんなブーツではありませんでしたか。」
「そうです!裏皮の黒いブーツです。」

「では、体形はほとんど変わっておられないですが、
 少しだけ。そして、25歳になりましょう。
 上着を脱いでくださいませんか。」

修は、後ろから幹夫のウエストに腕を回し、
「気」を入れた。
「息を吐いてください。」
幹夫は息を吐いた。
すると、幹夫のおへその5センチ上あたりに女性のウエストができた。
「幹夫さんは、女装をなさっていたそうですから、着られますね。
 あのカーテンの中に下着を用意してあります。
 下着と今できた服と靴を履いてきてください。
 ブラには、詰め物をしてあります。
 またヒップは、ジャケットのウエストが締まっていますので、
 カバーできると思います。」

幹夫は自分の体を見た。ラインが女性の体になっている。
服を着た。懐かしい。当時の服と同じだ。
黒いソックスを履き、ブーツを履いた。
ああ、懐かしい。女装を楽しんだ日々が蘇る。

「なかなかお似合いですね。」
と幹夫を見た修は、にっこりした。
「仕上げです。髪とお顔です。」

幹夫はもう一度、丸椅子に座った。
修は、「気」を入れて、幹夫の顔を何度か撫でた。
すると、顔の皮膚に張りと柔らかさが出て、どんどん若くなっていくのだった。
足も腕も、出ているところは何度も撫でた。
撫でられたところが、みるみる若返って行く。

「次は、かつらです。当時のさとみさんの髪型に作っておきました。
 このかつらは軽くて、ぴったりとフィットして、寝ても大丈夫ですよ。」
修はかつらを被せた。
手で、少し型を整えた。
「最後に、メイクです。」
修は、薄い円筒のケースを開けて桃色を指につけ、
目蓋の上に薄くつけた。そして、頬紅。
小さなハサミで、マユを整えた。
最後に、ベージュとピンクの口紅を、ゴム版の上で調合し、
それを、唇に指で叩くように紅をつけた。
「できました。25歳の聡美さんです。」
修はそう言って、姿見を近づけた。

幹夫は、夢かと思った。
当時の自分が鏡の前にいる。若い。

「そうだ。」と修は言った。

「声を忘れていました。」
修は、後ろから、幹夫の喉仏のところに2本指を当てた。
「あたしは聡美、あたしは聡美・・と言い続けて、
 自分で好きだなという声になったら、止めてください。」

幹夫は、「あたしは聡美」とくり返し言った。
声が女性の声になっていく。ああ、不思議だ。
あ、ここ、イメージの中の少し知的な聡美の声だ。
幹夫は声を止めた。

「あーあーあー、声まで変えていただけるなんて。」
幹夫は、感激の瞳で、修を見た。
修の目に映っているのは、もはや幹夫ではなく聡美だった。
「最後に、こんなバッグを、聡美さんはかけていましたよ。」
修は、馬皮の大き目なショルダーバッグを、聡美(以後・聡美)の肩にかけた。

聡美は目を潤ませて、修を見つめた。
「なんとお礼を申し上げてよいか。
 ありがとうございます。
 今からなら、オフ会に間に合います。
 動いて話す聡美を見てもらえます。」
女性の声になっている。
「すべて、24時間長持ちするようにしておきました。
 かつらや服の一式は、差し上げます。」

「お礼をしなければなりません。
 おいくらでもお支払い致します。」聡美は言った。
「もういただいています。」と修は言った。
「え?それは・・。」と聡美は聞いた。
「実は、私も精神的な病を持っています。
 この5年間、聡美さんのブログを毎日拝見してきました。
 どれだけの勇気と励ましをいただいたことでしょう。」
「ほんとうですか!」聡美は明るい声で言った。
「はい。オフ会には、行けませんが、聡美さんにお会いできて、光栄です。
 それから、聡美さんのブログに、
 『即席ラーメン』というハンドル名でコメントをしていたのが私です。」
「え、あ、あの『ラーメンちゃん』ですよね。
 みなさん、女の子だと思っていますよ。」
「はい。内緒にしてくださいね。」
「はい。」
二人で、くすくすと笑った。

聡美は、何度も振り返り、頭を下げながら、歩いて行った。

修は、うつむき、オフ会での様子を思い描きながら、にこりとして、
そっとドアを閉めた。


<おわり>


■次回予告■

「ウエディングドレスをあなたに」です。
このシリーズ、<第1部>最後の作品です。



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プロフィール

ラック

Author:ラック
上は若いときの写真です。ISなので、体は、かなり女子に近く発育しました。でも、胸はぺったんこです。戸籍は男子。性自認も男子、そして女装子です。アメリカの大学で2年女として過ごしました。私の最も幸せな2年でした。そのときの自叙伝を書いています。また、創作女装小説を書いています。毎日ネタが浮かばず、四苦八苦しています。ほぼ、毎日更新しています。
どうぞ、お出でください。

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