FC2ブログ

自叙伝・新宿編「ママのサプライズ」(1話完結)

これは、自叙伝時代の「新宿編」から、私の好きな小品です。
ちょっと私の自慢話的なところも出てきますが、お許しくださいませ。
================================  

自叙伝・新宿編「ママのサプライズ」


例の包丁事件から、3日後のよく晴れた日だった。
ママと私でカウンターの準備をしているとき、
「ごめんなさい。」といって緑のママが入って来た。
緑ママは、包丁の客のいたお店「緑」のママだ。

着流しで、髪は短髪、顔には化粧をしている。
身長は170cmを越す大柄な人だ。
体格もがっちりしている。

緑ママは手に何かを持っていた。
「ママ、ごめんなさい。
 その節は、ほんとにお世話になっちゃって、
 だのに、ちゃんとしたご挨拶にも来なくて、礼儀知らずと思われたでしょう?」

緑ママは、その仕草といい、「オネエタイプ」の人だ。

緑ママは、大きめのタッパウエアーに入ったものをママに見せながら、
「実は、お礼にこれ作ってたのよ。」
とタッパのふたをとって見せた。
「なんですかこれ?」って典子ママ。
私もそばに寄った。

「これ、大したものじゃないんだけど、うちのお店のヒット商品なの。
 ちょっと食べて見て?」と緑ママ。
ママと二人で食べて見た。
「わあ、ちょっと塩辛いけどおいしい。」と二人で言った。
「これ、『柔らかスルメ』ってうちじゃ呼んでるの。固いスルメだと噛み切れない方がいるじゃない。
 で、あたしが開発したのよ。評判いいの。これ塩辛いじゃない。
 だから、お酒がバカバカ売れて、売り上げ倍増よ。
 これママにお礼として、進呈するわ。丸秘商品だけど、ここにレシピを書いといたの。
 どうか、受取ってちょうだい。」と緑ママは言う。

「まあ、お店のこんな大事なもの、レシピ付きでいただけるの?」とママ。
「ナナちゃんに、あれだけのことしてもらったんだもの、このくらい当然よ。」と緑ママ。
「じゃあ、ありがたくちょうだいします。ママの発明をここで使ってもいいの?」とママ。
「そう思って持って来たんじゃない。ご自由よ。」と緑ママ。



緑ママは、言った。
「あたしね。あの時のナナちゃんがしてくれたことに、ほんと頭が下がってるの。
 あたし自衛隊上がりじゃない。たいていの武道やって来た。ナナちゃんは合気道だって見たの。」
「あ、はい。そうです。」と私は、答えた。

「あたしが感謝して感激してるのは、ここからよ。ママ、聞いて?」と緑ママは言い。
「合気道なら、相手を投げ飛ばすか、関節とって地面にねじ伏せかなのよ。
 ナナちゃんには、その方がよっぽど簡単だったはず。
 でもね。それやったら、あの巨漢のAさんだもの、プライド丸つぶれじゃない。
 可愛い女の子に、地面にねじ伏せられてる様考えてみて?耐えられないじゃない。
 だから、ナナちゃんは、Aさんを立たせたまま固めたの。もうそれは合気道じゃない。
 ナナちゃんが死にもの狂いでやってくれたことなの。
 そうしてくれたからこそ、
 私やBさんが話しができて、誤解を解くことができたわけじゃない。
 もし、Aさんのプライドが先に傷ついていたら、解決はなかったわ。
 ナナちゃんは、そこまで考えていてくれたのよ。
 もうほんと、あたし、ナナちゃんに女惚れしちゃったわ。ほんとに惚れ惚れ。
 もう、すっかりファンよ。」

「ナナ、そこまで、考えていたの?」ママに聞かれた。

「緑ママもママも、考えすぎですよ。夢中で何したのかも覚えてません。」と私。

「ほら、こうして謙虚じゃない。益々惚れちゃう。」緑ママは言った。

「あら、あたしったら、大事な準備の時間を。ごめんなさい。長話しちゃって。
 じゃあね。ナナちゃん、ありがと。」
緑ママは、私に投げキッスを1つくれて、去って行った。

「ナナ、ほんと?そこまで、考えてたの?」とママから、もう一度聞かれた。
私はお皿を拭きながら、
「なんとなくだけど、叫んでたママのお店のお客さんだと思ったから、投げちゃいけないと思ってました。」と言った。

「ナナったら…。」ママは、あきれたような、うれしそうな顔をした。

「でも、ナナの一番のお手柄は、これね。」とママはたタッパウエアーを持ち上げて、笑って言った。
「また、売り上げ倍増ですね。」と私も笑った。

*    *    *

その日、私には、ある一つの大仕事があった。
そのために、時計の針が12時を回るのを待っていた。

9時からの3時間がどれだけ長く思われたことだろうか。

緑ママ発案の、柔らかスルメは、大好評だった。
おつまみに出すと、
「お、これはいけるね。」とほとんどのお客様が言い、
水割りをたくさん飲んでくれた。

その度に、ママと私は顔を見合わせ、Good!のサインを出し合った。

11時を過ぎた頃から、常連のお客様が一人、二人、三人とやって来てくれて、
7つの席は満配になった。
みなさん、柔らかスルメがおいしいと言って、
どんどん飲んでくださった。

椅子が空いたことがなかった。

ママが、小声で、
「今日はどうしたのかしら。」と私に言った。
「スルメのおかげですよ。」と私は笑って言った。

12時まで、あと10分というとき、
ママが、
「ナナ、もう上がって。」と私に言った。
「あ、今日はもう少しいます。
 だって、こんなにお客様いらっしゃるし。」と私は言った。
「助かるわ。ありがとう。」とママが言った。

席が満杯なのに、またお客様が来た。
「まあ、Kさん。この通り、満席になってるんですよ。」とママがすまなそうに言った。
「あ、かまわないよ。俺、立って飲むから。」とKさんは言った。
それから、つぎつぎに常連さんが入ってきて、みなさん一同に、
「立って飲むからかまわないよ。」とおっしゃる。

ママが、驚いた顔をしている。
「ナナ、今日はどこかでお祭りでもあるのかしら?」
「多分そうですね。」と私は言った。

時計の針が12時を差そうというとき、
店の中は、15人以上のお客様がいた。

針が、12時を差した。

私は、隠していたクラッカーをパパーンと鳴らした。
すると、お客様が一声に、
「ハッピーバースデイ、典子ママ!」と叫んだ。
「え?まあ…。」と典子ママは、胸に手を当て、驚きの声を上げた。
「みまさま、じゃあ、そのために?」
「そうですよ。はい、プレゼント。」とHさん。

みなさんそれぞれプレゼントを渡していた。
私は、こっそり買ってあった、バースデーケーキを持って来た。

「オー!」と歓声が上がった。

ロウソクを立てて、「ハッピーバースデイ」の歌をみんなで歌った。

ママが、ロウソクを吹き消す。
ママは、幸せそうだった。

「一体、だれの仕業?」とママが言った。
常連のKさんが、
「ナナちゃんだよ。1週間くらい前から小さいカードに、
 『ママの誕生日の○月○日の12時に来られたら来てください』ってのを帰り際に渡されてね、
 みんなそれで来たんだよ。」と言った。

「それで、みまさまが。まあ、うれしい。あたしこんなの初めて…。
 自分の誕生日なんて、もう何年も忘れていたのに…。」
ママは、口に手を当てて涙ぐんでいた。
そして、私を見て、
「ナナ、ありがとう…。」
と私を抱きしめてくれた。

「じゃあ、今日は、立食パーティーになりますが、
 飲み物、食べ物すべて、只にいたします。」
とママが言った。

みなさんが、「おー、やったぜ!」と叫ぶ。

「ママ、今日はナナがカウンターをがんばります。
 ママは、あちらでどんどん飲んでください。」と私は言った。

「お言葉に甘えるわ。ナナ、ありがとう。」とママ。


ママの楽しそうな話し声、お客さん同士の賑やかな笑い声…。

ママの言葉を思い出した。
「どこかでお祭りでもあるのかしら?」

『ママ、お祭りは、ここですよ。』

私はうふっと笑って、腕まくりをした。


<おわり>



※もし、ポチをくださる方。
アメブロの方で押してくださると、幸いです。



スポンサーサイト

自叙伝・新宿編④ 『小野さんのアパートへ行った』(1話完結)

自叙伝・新宿編④『小野さんのアパートへ行った』(1話完結)


土曜日。
明け方までの勤務だ。

今日の衣装は、赤と黒のストライプが斜めに入った、すごくステキなドレス。
七部袖。胸が開いているので、ママはペンダントを貸してくれた。
ウィッグは、最近お気に入りのショート。

私は、銀のトレーを見つけたので、
ママにちょっと曲芸を見せた。

「ほら、ママ。ナナ上手でしょう。」
そういいながら、銀盆の上に水の入ったコップを乗せて、
それを自由自在に動かした。
コップの水は一滴もこぼさない。

「ナナ、喫茶店のウエイトレスの仕事は、本当だったの?」とママ。
「喫茶店じゃないです。キャバレーのボーイです。」と私。
「キャバレー?どこの?」とママは少し驚き顔。
「歌舞伎町の、恵○観光ビルの二階です。すごく広いところでした。」
「ああ、あそこね。あそこでボーイしていたの?」
「3ヶ月やりました。ホステスさん。毎日50人くらいいましたよ。」
「でしょうね。」
「知らなかったわ。ナナは、何でもやったのね。」
「夜の世界を知りたかったんです。」
「で、どうだった?」
「お店が終わったとき、毎日3人ぐらいのホステスさんが泣いてました。」
「私の六本木時代と同じだわ。毎日誰かが泣いていた。」
「それを、黒服のマネージャさんが、慰めていました。」
「それも同じだわ。」
「ママも泣いた?」
「そりゃね。ショーの踊りの練習が厳しかったし、
 ヘルパーさん、やらせてくれなかったり。」
「あ、わかります。ヘルパーさんて、人気のホステスさんの応援隊ですよね。」
「そう。その人に嫌われると、もう付けてもらえなかった。」
「そういうとき、どうしたんですか。」
「お店に早く行くの。ご指名のないお客さんが来たときは、
 早く来た順で、お客さんに付けてもらえたから。」
「ああ、だから2時間も早く来ていたホステスさんがいたんですね。」
「どこも同じだと思うけど。」



「ナナは、どうしてそこを辞めたの?」
「だって、1日6時間毎日働いて、月給は2万円ちょっとだったんですよ。」
「それは、あんまりね。ホステスさんの方がいいと思った?」
「いいえ。給料が安くてもボーイの方が気楽だと思いました。
 ホステスさんは、大変です。」
「ナナ、今そのホステスさんなのよ。」ママが笑いながら言った。

そうかあ…っと思って、不思議な感慨があった。
いつの間にか、私は、ゴールデン街のホステスだった。
そのことを、はっきり意識したことがなかった。
「女」として、男性客の気を惹く立場にいる。
まだ、ピンと来ないなあと思った。



お店の看板に火を点すために、ドアの外に出た。
そのとき、私を呼ぶ声を聞いた。

「ナナさん。」

女性の可愛い声。
驚いて振り向くと、小野さんが立っていた。
びっくりした。

「小野さん!どうしてここに?」
「ナナさんともう一度お話がしたくて。」
「お店で?」
「ううん。ナナさんの時間が空いているとき、ゆっくりと。」
「でも、こんな時間に、女の子が一人でここにいては、ダメです。
 今、ゴールデン街の外まで、送ります。」

私はママに事情を話して、小野さんを、大通りまで送ることにした。

私は、小道の酔っぱらいや、立ちん坊の女性(?)から小野さんを守りながら歩いた。

「どうしてナナと?」そう聞いた。
「私、自分がわからなくなったの。ナナさんとお話すれば、はっきりする気がして。」
小野さんは、そう言った。

小野さんは、早稲田のアパートに来て欲しいという。
私は、喫茶店が月曜日は休みということにして、
月曜日の昼の2時に、高田馬場駅で待ち合わせることにした。



約束の月曜日。
小野さんと約束したものの、さて困った。
私は、家族と暮らしている。家から女装で出るわけに行かなかった。
それに、外出用の女物があまりない。
バッグ、靴。

しかたがないので、いつもの詩を売っている格好で行くことにした。
黒いとっくりのセーター。上着はコールテンのロングコート。元々女物だ。
下着だけは、女物を身に付けて行った。
どこかで、胸に詰め物を入れる。髪は1本に結ぶ。両頬に1房ずつ髪を垂らす。
すだれの前髪、ピンクの口紅を薄く引く。
一応、これで女の子に見えるかなと思った。
(ほんとは、スカートにしたかったけど妥協した。)



駅で、小野さんは私を見るなり、
「わ!ナナさんの素顔もステキだわ。」
と言ってくれた。
(小野さんこそ可愛い。)

小野さんのアパートは、4畳半で、真ん中に小さなコタツがあった。
回りは、本棚で、本がたくさんある。

小野さんは、あの日のママと同じことを言った。
敬語を使わないで。私のことを「久美」って呼んで。
だから、私も言った。ナナって呼んでって。



「ナナ、コーヒーを淹れるわ。」
そう言って小野さんは、半畳ほどの台所に立った。

「久美。本を見せてもらっていい?」
「どうぞ。」

難しそうな本ばかり並んでいた。

コーヒーを淹れてもらい、コタツに小野さんと向かい合って座った。

「久美は、これらの本、全部読んだの?」私。
「まさか。飾っているだけ。」と小野さん。(でも、読んでるんだろうなと思った。)
「ナナが、久美のお役に立つの?」と聞いた。
「あたし、こうしてナナといっしょにいたかっただけかも知れない。」
小野さんはそう言う。
「どういうこと?」私は聞いた。
「ナナが、『水子』って知っていたでしょう。
 あのときから、ナナに惹かれてしまった。
 女同士なのに、ナナにちょっと恋をしてしまった。」

(どうしよう…と私は思った。私が可愛いと思っている人に、
すごいこと言われてしまった。)

「隣にいってもいい?」と小野さん。
「え、ええ。もちろん。」私。(ほんとに、どうしよう…。)

小野さんは、小さなコタツの私の隣に来て、私にもたれた。
小野さんの髪のリンスのいい匂いがした。
「女の子にこんな感情持ったの初めて。」
「……。」
「女の子同士だからかな、こんなに素直になれるの。」

「お店に立ってるナナは、すごく素敵だった。
 でも、こうして素顔でいるナナもすごく素敵。」

私は、可愛い小野さんを抱きしめたくなったけれど、それを懸命に我慢していた。

小野さんは、目をつぶっているみたいだった。

小野さんの柔らかそうな唇。キスをしたくなる。



そのうち、小野さんは、パチッと目をあけて身を立て直した。

「ごめんね、ナナ。ナナにちょっと甘えたかったの。」
「ううん。うれしかった。」と私は正直に言った。
「コーヒのお替わりいれるね。」

小野さんは立って、コーヒーをもって、今度は私の正面に座った。



私は、小野さんの本棚から、1冊の詩集を抜いた。
「見ていい?」と私。
「金子光晴、好きなの?」私の取り出した本を見て、小野さんが言った。
「一番好き。久美の本棚にあったからうれしかった。」
「そう。ナナは不思議少女だから、もう驚かない。」

私は、詩の一節を、口に出して読んだ。

『忘れろ。忘れろ。人間のすることなど
 忘れればきれいなものだ。蚤虱ものこらない。
 おおかたのことは、大小となく
 世界が忘れてきたように。』

「あたしは、辛いことがあると、この言葉を唱えて、忘れてきたの。」私は言った。

小野さんは、じっと私を見つめていた。

「私、その詩集まだ読んでいなかったの。
 ナナは、私のために、わざわざそこを探して、聞かせてくれたのね。
 今のフレーズを聞いて、私、何か自分を吹っ切れそうな気がする。ありがとう、ナナ。」



高田馬場駅で、小野さんと別れた。
駅の改札は込んでいた。
人並みに見えなくなる小野さんへ、私は大きく手を振った。

<おわり>



※もし、ポチをくださる方。
アメブロの方で押してくださると、幸いです。



自叙伝・新宿編③『商売上の嘘』

自叙伝・新宿編③『商売上の嘘』


水曜日。
大学は、学生運動で門は閉鎖され、授業は全く行われていなかった。
私は時間を持て余していた。
夕方になり典子ママのお店に出たくなって、お店に電話をしてみた。
「あ、ナナです。」
「どうしたの。」
「今日、お店に出させていただけませんか。
 お金は要りません。」
「払うわよ。女の子になりたいのね。」
「え、まあ。12時まででいいですか。」
「いいわよ。水曜は、けっこう暇よ。いい?」
「はい。」

私は、8時にお店に行った。
ちゃんと下着だけは着けていった。

「今日は、自分でできるわね。」とママに言われ、
「はい。」と返事をした。
「あ、今日は黄色いドレスにしておいたから、リップはオレンジがいいわ。」
ママに言われて、小部屋に入った。
吊るされている黄色いドレスを見て、心がときめいてしまった。

姿見の前の棚に、化粧品が並んでいる。
付けまつげを何とか自分でつけて、リップを引き、
ウィッグをかぶった。
そして、黄色いドレス。
ドレスを着るとき、いつも興奮で手が震える。
今日のドレスは、ウエストが白い幅広の帯になっていて後ろで結ぶ。
背中に大きなリボンが出来て、すごく乙女チックでうれしかった。

女装が終わり出て行ったとき、
「あら、いいわ。うんと可愛いわ。でもね、」
と言って、ママは、櫛をとり、
「覚えておくといいわ。
 女の子は、後頭部が高いの。だから、後頭部の髪をふんわり高くすると、
 より女の子のヘアーになるのよ。」
そう言って、ママは、後頭部の髪を膨らませてくれた。
ほんとだ。昔の絵本の少女のようになったと思った。



ママが言うように、水曜日のお店は、お客が少なかった。
ママと、いろんなお話ができた。

「ナナには、何か夢があるの?」とママに聞かれた。
「あたしは、アメリカに行きたいんです。だから、お金貯めてます。」
「そうだったの。あたしは、てっきり手術して完全な女の子になりたいんだと思ってた。」

そのとき、店のドアの外で、数人の声がした。
「ここか?」
「そうだよ。ほら紙にラーメンって書いてあるだろ。」
「ラーメンだけ食べられるのかしら」(女性もいる。)
「ま、入ってみようぜ。」

入って来たのは、学生風の3人だった。
「あの、ラーメンだけ食べて帰ってもいいんすか。」と一人が言った。
「そうですよ。ノーチャージです。12時からは、チャージをいただくけど。」とママさん。

おお、やっぱりほんとだ。よかったなあ。
と学生さんは、言い合っている。

3人は丸椅子に座った。
一人がママさんに聞いた。
「俺達、女装のバーへ行ってみたいんですが、それ、どうやって探せばいいんすか。」
「そうねえ、緑色の看板出しているところは、だいたい女装バーね。」とママ。
「へーえ、全然知らなかったっす。」
「ここ、緑の看板じゃなかった?」と女の学生さん。
「お、そうだった。じゃママさん、ここはどうなんですか。」
「例外じゃないわ。女装バーよ。」とママ。
「12時からですか。」と一人。
「今もよ。」とママさんは、おかしそうに。
「じゃあ、ママさん、その…元男性?」
「そうよ。」とママ。
「こっちの人は?」
私が指差された。
「あ、この子は、女の子。12時までしかいないの。」ママ。
私は、え?と思ってママを見た。どうしてそんなこと言うんだろう…。

「だろうと思った。こんな人が女装の人だったら、俺、気絶しますよ。」と一人が言った。
「こいつ、女装の人が好きなんですよ。」ともう一人の人。

「ナナと言います。よろしくお願いします。」
私は挨拶した。なんだか心がぽかぽかっと温まる。

あ、どうも、と言って、3人は名前を名乗った。
安藤さん、井上さん、小野さん(女性)。
しっかりお顔とお名前をインプット。
(お客様の名前は一度で覚えること。ママの教え。)

ラーメンができた。
三人はとてもおいしそうに食べていた。

食べ終わって。
「いやあ、ゴールデン街でラーメンが食べられるなんて、感激っすよ。」
「友達に、ここのこと、滅茶苦茶宣伝しちゃいますから。」
「よろしくね。」と笑顔のママさん。

3人が帰った後、ママが言った。
「ナナ。ナナのプロフィール決めておこうか。」
そして、
「ナナは16歳。中学を出て、働き口を探しに、新宿に来た。
 実家は、とても貧しくて、ナナは仕送りをしている。
 昼は、喫茶店でウエイトレスやっている。
 成子坂の安アパートに一人で暮らしてる。
 12時までのお客様には、女の子。
 土曜日の12時からは、女装の子にしよう。
 いわば、薄幸で健気な女の子または、女装の子。」
そうママが言った。

「そんな、ウソのプロフィールでいいんですか?」と私は聞いた。
「いいの。お客様は、ここの辺で働く子に、そんなイメージを持っているから。
 お客様は、そんなイメージの子を可愛いって思うわ。
 ここは、虚構の世界だから、お客様は、それを承知で楽しみ来るの。」
そう、ママは言った。
私は、なんとかわかった気がした。



数日後、あの3人の学生さんが、再び来た。

私はおしぼりを、
安藤さん、井上さん、小野さん(女性)の名前を呼びながら渡した。
「おお、ナナさん。名前覚えていてくれたの?」と安藤さんが言った。
「ええ。」と私は笑顔で。

みなさんの注文は、全部ラーメンだった。
(ママ、大変だ。)

「ナナさん、可愛いなあ。」と安藤さん。
「ナナさん。ショートにしたの?すごく似合ってる。」と井上さん。
「あ、これ、かつらです。」と私。
「あ、そうかあ。」と井上さん。
私は、私の正面の小野さんが、可愛いなあと思っていた。
(話しかけてくれないかな?)
安藤さんが、私の紹介をした。
「ナナさんはね。昼間は、喫茶店で働いてるの。
 昼も夜も働いて、俺達学生より、ずっとえらいんだからな。」

「ナナさん。お幾つ?」小野さんが聞いてくれた。(やったあ!)
「16歳です。」と答えた。
「じゃあ、高校へ行かずに働いてらっしゃるの?」と小野さん。
「はい。中学を出てから働いています。」
「何か目標があって、働いてらっしゃるの?」
「いえ。実家がちょっと苦しいから、私が働かないと…。」

小野さんの視線が、少しうつむき加減になった。

私は、答えた後で、真剣に聞いてくれている小野さんに対して、ものすごく気が咎めた。
ママは、ああ言っていたけど…。

小野さんは、また私を見た。
「一人で暮らしてらっしゃるのね?」
「ええ。アパートに…。」(ああ、辛い。)
「大変でしょう?夜のお仕事って。」と小野さん。
「いえ。ここはいいお店ですから…。」私。
「じゃあ、よかった。がんばってね。」と小野さん。
「ありがとうございます。」と私は頭を下げた。

中年や熟年のお客にならともかく、
学生である純粋な小野さんの、真っ直ぐな視線が、何度も胸に突き刺さった。
本当にこれでいいのかな…。私は大きな良心の呵責に苛まれていた。



ラーメンを一つずつ運んだ。
学生さん達は、しばらくはお話を止めて、ラーメンを食べていた。

ママが、私の横に来た。
学生さん達に、
「今日は、ごゆっくりなさってね。」そう言った。
そして、私に。
「ナナはこちらについてね。一人で出来るわね。」と言った。



ラーメンを食べ終わったみなさんは、お話で盛り上がっていった。
私は飲みもののお代わりだけを聞いて、後は、黙って立っていた。
みなさんが、水割りを何倍かお代わりをしたとき、お話は映画のことになっていった。
そして、「新宿泥棒日記」のお話になったとき、私はうれしくて心が躍った。

さらに、話題が唐十郎の話になったとき、
私は、思わず身を乗り出してしまいそうだった。
(出しゃばっちゃダメ!)自分に言い聞かせた。

お一人が、唐十郎の劇中歌を口にした。(チムチムチェリーの替え歌。)

♪朝は海の中、昼は丘、夜は川の中 それは誰?
 ベロベロベ ベロベロベ 子供さん ここはアリババ謎の町

最後は、みなさんで合唱していた。



「これは、スフィンクスのパロディよね。」と小野さんが言った。
「朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足…ってやつ?」井上さん。
「あれ、答えは、確か『人間』だよね。」安藤さん。
みなさんが、そうそうと言う。

「じゃあ、唐十郎の歌の答えは何?」安藤さん。

♪朝は海の中 昼は丘 夜は川の中…それは誰?

う~ん。とみなさん考えていた。
みなさん、真剣に考えている。
ひとときの静寂が訪れた。

「あの、それは、『水子』です。」私は、言ってしまった。

みなさんが、一斉に私を見た。
私は、言ってしまった口を両手で塞いで、思わず下がった。
(出しゃばってしまった。)

「ナナさん。水子って、堕胎児のことだよね。」井上さん。
「ナナさん。どうして、水子なの?教えて?」小野さんが言った。
私は困って、ママを見た。ママはうなずいて、OKサインをしている。

「あの、朝の海はお母さんの羊水のことで、
 昼の丘は、取り出された外界。
 そして、その夜には、川に捨てられる。」
そう言った。

「ナナさん。すごい!きっとその通りだわ。どうしてわかったの?」小野さん。
みなさんも、そうかあという顔をしていた。

「すごくないです。戯曲「アリババ」を読んでいただけです。」と私。
「戯曲「アリババ」を読んでいたあ?!」とみなさんは驚いたように一声に言った。

そのとき、ママがにこにこしながらやって来て、私の肩に手を掛けた。

「えへん、みなさん。」とママは言って、
「ナナは、不思議な子だから、驚かないでくださいね。
 それよりもっと驚いて欲しいことがあるわ。」
「何です?!」とみなさん。
「先日、唐十郎さんと鈴木忠志さんが、お店に来て、2時間半も話していかれました。」
と、ママ。
「ええ?!」とみなさん一声に言った。
「唐十郎が!鈴木忠志も!」
「そうでーす!」ママは得意そう。

「この店は、一体何なんですか!
 ラーメン食べられるし、ナナさんみたいな不思議な人がいるし、
 あんなすごい人達も来るし。」安藤さんが言った。

「ただの、ラーメン酒場よ。」とママは言って笑った。



その後、みなさんは、また話に盛り上がっていった。
小野さんだけが、少し落ち込んでいるように、静かだった。
みなさんは、11時に腰を上げた。
私は、玄関まで見送った。

そのとき、小野さんが、私の手を取って言った。
「ナナさん。私あなたに失礼なこと言ったわ。ごめんなさい。」
「何のことだか、わかりません。」と私は正直に言った。

小野さんは、
「中学を出て働いているあなたを立派だと思いながら、
 同時に私、あなたを憐れんでしまったの。
 だから、上からの目線で、励ましたりしてしまった。
 不遜だったと思う。反省してるの。ごめんなさい。」
と言った。

(小野さん。謝るのはぼくの方だよ。ウソを言ってしまってごめんなさい。)

「小野さんが励ましてくださって、うれしかったです。
 謝っていただくことなんて、何もないです。」

私は心で謝りながら、そう言った。



みなさんは、ドアの向こうに行ってしまった。
ドアの前で立ちすくんでいる私のそばに、ママが来て、私の肩に手を添えた。
「ナナ、あの子が反省したことは、正しいわ。いい子ね。
 今日も言ったけど、ナナのウソは商売上の作戦だから、罪じゃないわ。」ママは言った。
私は、少し安心した。でも、小野さんの方が、ずっと自分に正直だと思った。

お店の中は、祭りの後の淋しさが残っていた。


(つづく「小野さんの部屋に招かれる」)



※もし、ポチをくださる方。
アメブロの方で押してくださると、幸いです。






プロフィール

ラック

Author:ラック
上は若いときの写真です。ISなので、体は、かなり女子に近く発育しました。でも、胸はぺったんこです。戸籍は男子。性自認も男子、そして女装子です。アメリカの大学で2年女として過ごしました。私の最も幸せな2年でした。そのときの自叙伝を書いています。また、創作女装小説を書いています。毎日ネタが浮かばず、四苦八苦しています。ほぼ、毎日更新しています。
どうぞ、お出でください。

リンク
最新記事
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブロとも一覧

御中根 蕗菜 です

女装子動画 Japanese crossdresser porn

蕗の葉陰にフキノトウ

毎日が日曜日

女装子&ニューハーフのペニクリ&アナルマンコ

MadameM【秘密の手帳】

川*´v`*川し

復讐の芽 ***藤林長門守***

橙の電車
最新コメント
カテゴリ
月別アーカイブ
検索フォーム